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このバトルロワイアルの会場の島ではたくさんの参加者の人間ドラマが繰り広げられようとしていた。 今回はそのドラマを【D-6】にだけ絞って見ていこう。 【START】 「はぁ?」 「……キョンさん?」 「ちょっ、俺をそんな可哀想な目で見るなっ!」 仲間。 戦うつもりがないらしい、普通の女子高生の姫萩咲実さんとエンジェロイドだが未確認生物かは知らんがハルヒが喜びそうな存在ニンフ。 それがこのバトルロワイアルが始まって運良く見つけた仲間。 「あんた脳みそ浮いてんじゃない?」 「…………」 いや、こいつは要らなかったな。 姫萩さんだけで充分だったな。 そんな姫萩さんからも、今は怪しまれているんだがな……。 こうニンフはハルヒ、姫萩さんは朝比奈さん的な雰囲気があるよな。 このまま行くと長門的な無口キャラか読書キャラが出てくるのではないかと思ったり。 むかつく男キャラとかも入れての偽SOS団とか誰か言い出すかもしれないな。 今、2人から怪しまれているのはそのSOS団のせいだったりする。 「宇宙人?未来人?超能力者?世界を実現化させる神の様な存在?しかも主催者の進行役の朝倉涼子も宇宙人ですって? 信じられないわよっ!」 「キョンさん……人死んだショックでおかしくなったりしません?」 「だからないっての!これ、マジだし! 大体ニンフがそういう存在否定すんの!?」 羽根生えた未確認生物なんてのもバリバリのイレギュラーな存在であるじゃないか。 自分の異常は信じるが、見てない異常は信じないってか!? 「とりあえず涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹がそれに該当すんの!朝倉涼子に至っては殺されかけたんだからな!」 「……わかったわよ、信じるわよ」 それでも半信半疑なニンフと姫萩さん。 俺もそういう風に疑う側に居たかったよ。 ◆◇◆◇◆◇ 先程自分と同じくらいの女子学生を襲った少女―長門有希―はナイフを構えながら森を抜け出した。 いつも親友達の集まりであるSOS団に居る時の様に無表情。 どんな心境であるのか、外からではわからないであろう。 「情報統合思念体にこの件についてコンタクト開始」 バトルロワイアル開始から何度も試した情報統合思念体のコンタクト。 何度もめげずに彼女は頑張っていた。 それは戦闘を終えてからも続いていたのだった。 「――失敗」 だが結果は変わらず。 いや、長門はもう成功する事に期待はしてはいなかった。 もはや、意地や0.1%以下の可能性に賭けるといった感じであった。 「もしかしたら涼宮ハルヒがこの殺人ゲームを望んでいる?」 考えられる可能性は低い。 むしろ望むはずがないと涼宮ハルヒを観察していた長門が判断をする。 しかし、どうしても彼女の存在だけがわからない。 「――朝倉涼子」 自分自身のバックアップ的存在。 長門と同じ組織『情報統合思念体』という宇宙組織のメンバーである宇宙人。 長門と同じく涼宮ハルヒを観察する者。 「彼女の事は重要だけど置いておいて……」 朝倉涼子が何かに干渉した形跡がない。 つまり泳がせても良いと判断した。 「涼宮ハルヒを生かしておかなければならない」 涼宮ハルヒの無意識の力。 願望を実現化させる神にも匹敵する力。 彼女が生きていて、こんな殺し合いなんか起きなければ良いと思い込ませるだけで良い。 元の平和な日常に戻りたいと思わせるだけで良い。 重要なのは涼宮ハルヒを生かす事。 「そして涼宮ハルヒが誰より興味を持ち、彼女の暴走を食い止めるブレーキ役の彼を死なせてはいけない」 涼宮ハルヒのSOS団に所属する唯一の普通の少年のキョンはハルヒの心を動かす大きな存在だ。 彼女の方針は決まった。 涼宮ハルヒ及びキョンを生かす事であった。 それ以外の参加者を殺す。 「大丈夫、涼宮ハルヒの力があればこの出来事すら無かった事にし、103人にまた平和な日常が戻る」 それが全ての人々にとってのハッピーエンド。 全員が望む結果であろう。 「その為なら私は……SOS団とも敵対する」 ナイフを強く握り締める。 一時とはいえ、他の人全員を殺さなくてはいけない事に戸惑いはあった。 決意と戸惑い。 揺れ動く思考での中、彼女は無謀な参加者3人を見つけた。 しかも1人は長門が護るべき相手と判断したキョンも混ざっている。 彼女は近付かないわけがなかった。 ◆◇◆◇◆◇ 「キョンさん、ニンフさん、誰か女の人がこっちに向かっていますよ?」 キョンとニンフが隣同士、咲実がそれに向かい合う位置になっていた。 そして咲実に見えたその参加者はキョンとニンフの後ろから向かってきていたので2人は気付いていなかった。 「首輪も付いています。おそらく参加者で、制服も着ています」 「何!?」 キョンとニンフが後ろを振り向く。 「あ、」 キョンの瞳には見覚えのある少女の姿があった。 ショートカットで無表情な顔。 ほとんど毎日顔を合わせては色々な事件に巻き込まれて助けてくれた少女。 同じSOS団の宇宙人の少女。 「長門!」 嬉しさが広がった。 昨日も会ったというのにひどく懐かしい親友を目にした気分であった。 「えっと……長門ってどれだっけ?宇宙人?未来人?」 「宇宙人の奴」 「それにしては普通の人じゃない」 「お前(ニンフ)が言うな……」 キョンとニンフが漫才まがいな事をしているとやがて3人の目の前に長門有希が現れた。 「長門!探していたぞ」 キョンが前に出て長門の肩を叩く。 嬉しさの現れだった。 「私もあなたの事を探していた」 と、あまりにも自然な反応の為、キョンは気付かなかった。 キョンから素早く離れ握ったナイフを2人の少女に向かい斬りつけた。 「キャッ!?」 「ァン!?」 2人とも服が破れた一直線の傷が出来た。 キョンの親友という事で、襲う事はないと思っていた為、警戒心も0であった。 「何してんだ、バカっ!」 キョンが長門を背中から抑えつけ、ナイフを持った右腕を動かせなくした。 「彼女達は悪くないんだ!だから襲わなくても良いんだっ!」 冗談だと言ってほしかった。 親友がゲームに乗っているなんて信じたくなかった。 でも、彼女は冗談を言う様な人ではないのはキョンは知っていた。 「なぁ、嘘だよな長門?」 「大丈夫、あなたは殺さないわ」 「そんな話はしてない!」 長門の目は本気だった。 見た事もない長門の本気にキョンは背中からぞくりとした悪寒が稲妻の如く走った。 「邪魔」 と強い力で左腕でキョンの胴体に叩きつける。 「ぐぅ!?」 朝倉涼子と戦いにった時に思い切り蹴られたシーンがキョンの頭に再生されながら地面に倒れ込んだ。 「まずは1人」 ナイフを握った右手が、怯えた咲実に襲う。 咲実は動揺していて動けない。 ただナイフを待つ形になっていた。 「させるか長門!」 倒れたまま長門の両足に抱きつく。 これで全体を歩けなくする。 「はぁ!」 そして、力を出しながら立ち上がる。 キョンには問いただしたい事がたくさんあった。 どうして殺し合いをする? こんな事をして何になる? 意味なんかないだろ! 日常にお前は戻れなくなるぞ! ふざけんなよ長門! 殺し合いに乗るな! 言いたい事は万を越える程ある。 だが何を訪ねれば良いかわからない。 「これは全員にとって必要な事」 長門が訪ねる前に口を開いた。 いつもと同じ口調なのにキョンは悲しみという名のナイフで心が刺されていくのを感じた。 「涼宮ハルヒが居ればこのゲームは無かった事に出来る。私があなたを生かすのは涼宮ハルヒを動揺させない為だけ」 「っ……!?」 泣きそうになった。 長門から言われた拒絶に近い言葉。 自分はハルヒの為の道具として生かされる対象になった。 情や親友の為だという意味ではなかった。 「やめてくれ長門……。そんな事、お前はしなくて良いんだ……」 「……涼宮ハルヒが暴走してしまったのなら私の責任にもなる。だからあなたのお願いでも今回だけは……」 最後まで話そうとはしなかった。 そこで長門は話を終わらせた。 「お前のせいでもハルヒのせいでもない!シャルルや朝倉涼子達の仕業なんだよ!」 キョンは立ち上がった。 あんな長門をこんなにまで決意させる主催者に怒りが込み上げてくる。 「そんな主催者なんて役者、いくらでも準備出来る」 抑えていたキョンが手を離していた為長門は自由になっていた。 自分と話していれば危険がないと思った甘い考えのキョンの考えを裏切った。 長門はナイフを持ったまま次はニンフに向き合う。 羽根の付いた人間の姿を見て目が少し驚きに変わる。 だがただのイレギャラーな人間と判断しその胸に突き刺す様にナイフを差し込む。 「がぁぁぁぁぁ……」 だがナイフが差し込まれた体はニンフの小さい体ではなく、キョンの左腕であった。 「ぐぅ……。ナイフで刺されたのは2度目だからって……耐久がつくわけじゃ……ないんだな……」 ハルヒが居ない寂しいつまらない世界。 SOS団がバラバラだった世界。 そこでもナイフを刺された事があったなと今更思い出した。 「あ、あなたは死んではダメ……。涼宮ハルヒが……」 「ハルヒの為だけかよ……」 キョンは涙を流していた。 もう自我は止められなかった。 長門は止められないともうわかっているのに……。 「お前は……、お前は俺が死んでほしくないって思わないのかよ!……チクショウ……」 長門は何も言わない。 ただ、刺さったナイフを無言で抜いた。 「がぁっ!?」 細胞に、血管に傷付けるナイフ。 削られていく様な感触。 「私は……」 長門から答えを出される。 だが聞きたくなかった。 聞いたら最後、彼女との関係は崩れてしまいそうで……。 「退いてくれ……。長門……。でないと俺がお前を許せなくなる……。……俺達は仲間だ。次会う時は……そんな考えやめてくれよな……」 前を向けない。 血の出血が口を動かせてくれない。 キョンは地面に足を着いた。 「……ごめんなさい……」 長門はキョンの目の前に救急箱を置いた。 これが長門がキョンにかける情けだと言う様に。 「……ありがとうな長門……。だから俺はお前が殺し合いに乗っている事が不思議なんだ……。俺……が大好きな親友だから……」 長門はもう目の前に居ない。 敵対してしまった長門。 殺されかけては助けてくれる長門。 何回も救われている。 「今、こうして居られるのも長門のおかげじゃないか……。許せないわけないだろぅ長門……。頼むからさ……、殺し合いなんかせず、またいつもみたいに俺とハルヒと朝比奈さんと古泉を助けてくれよ……」 長門の置いていった救急箱に懇願する様に無様に叫んでは心から祈った。 「またあのSOS団に戻りてぇよ……」 キョンの言葉は無残にただ流されていくのであった……。 [[To be continued>かみのおとされもの(中編)]]
このバトルロワイアルの会場の島ではたくさんの参加者の人間ドラマが繰り広げられようとしていた。 今回はそのドラマを【D-6】にだけ絞って見ていこう。 【START】 「はぁ?」 「……キョンさん?」 「ちょっ、俺をそんな可哀想な目で見るなっ!」 仲間。 戦うつもりがないらしい、普通の女子高生の姫萩咲実さんとエンジェロイドだが未確認生物かは知らんがハルヒが喜びそうな存在ニンフ。 それがこのバトルロワイアルが始まって運良く見つけた仲間。 「あんた脳みそ浮いてんじゃない?」 「…………」 いや、こいつは要らなかったな。 姫萩さんだけで充分だったな。 そんな姫萩さんからも、今は怪しまれているんだがな……。 こうニンフはハルヒ、姫萩さんは朝比奈さん的な雰囲気があるよな。 このまま行くと長門的な無口キャラか読書キャラが出てくるのではないかと思ったり。 むかつく男キャラとかも入れての偽SOS団とか誰か言い出すかもしれないな。 今、2人から怪しまれているのはそのSOS団のせいだったりする。 「宇宙人?未来人?超能力者?世界を実現化させる神の様な存在?しかも主催者の進行役の朝倉涼子も宇宙人ですって? 信じられないわよっ!」 「キョンさん……人死んだショックでおかしくなったりしません?」 「だからないっての!これ、マジだし! 大体ニンフがそういう存在否定すんの!?」 羽根生えた未確認生物なんてのもバリバリのイレギュラーな存在であるじゃないか。 自分の異常は信じるが、見てない異常は信じないってか!? 「とりあえず涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹がそれに該当すんの!朝倉涼子に至っては殺されかけたんだからな!」 「……わかったわよ、信じるわよ」 それでも半信半疑なニンフと姫萩さん。 俺もそういう風に疑う側に居たかったよ。 ◆◇◆◇◆◇ 先程自分と同じくらいの女子学生を襲った少女―長門有希―はナイフを構えながら森を抜け出した。 いつも親友達の集まりであるSOS団に居る時の様に無表情。 どんな心境であるのか、外からではわからないであろう。 「情報統合思念体にこの件についてコンタクト開始」 バトルロワイアル開始から何度も試した情報統合思念体のコンタクト。 何度もめげずに彼女は頑張っていた。 それは戦闘を終えてからも続いていたのだった。 「――失敗」 だが結果は変わらず。 いや、長門はもう成功する事に期待はしてはいなかった。 もはや、意地や0.1%以下の可能性に賭けるといった感じであった。 「もしかしたら涼宮ハルヒがこの殺人ゲームを望んでいる?」 考えられる可能性は低い。 むしろ望むはずがないと涼宮ハルヒを観察していた長門が判断をする。 しかし、どうしても彼女の存在だけがわからない。 「――朝倉涼子」 自分自身のバックアップ的存在。 長門と同じ組織『情報統合思念体』という宇宙組織のメンバーである宇宙人。 長門と同じく涼宮ハルヒを観察する者。 「彼女の事は重要だけど置いておいて……」 朝倉涼子が何かに干渉した形跡がない。 つまり泳がせても良いと判断した。 「涼宮ハルヒを生かしておかなければならない」 涼宮ハルヒの無意識の力。 願望を実現化させる神にも匹敵する力。 彼女が生きていて、こんな殺し合いなんか起きなければ良いと思い込ませるだけで良い。 元の平和な日常に戻りたいと思わせるだけで良い。 重要なのは涼宮ハルヒを生かす事。 「そして涼宮ハルヒが誰より興味を持ち、彼女の暴走を食い止めるブレーキ役の彼を死なせてはいけない」 涼宮ハルヒのSOS団に所属する唯一の普通の少年のキョンはハルヒの心を動かす大きな存在だ。 彼女の方針は決まった。 涼宮ハルヒ及びキョンを生かす事であった。 それ以外の参加者を殺す。 「大丈夫、涼宮ハルヒの力があればこの出来事すら無かった事にし、103人にまた平和な日常が戻る」 それが全ての人々にとってのハッピーエンド。 全員が望む結果であろう。 「その為なら私は……SOS団とも敵対する」 ナイフを強く握り締める。 一時とはいえ、他の人全員を殺さなくてはいけない事に戸惑いはあった。 決意と戸惑い。 揺れ動く思考での中、彼女は無謀な参加者3人を見つけた。 しかも1人は長門が護るべき相手と判断したキョンも混ざっている。 彼女は近付かないわけがなかった。 ◆◇◆◇◆◇ 「キョンさん、ニンフさん、誰か女の人がこっちに向かっていますよ?」 キョンとニンフが隣同士、咲実がそれに向かい合う位置になっていた。 そして咲実に見えたその参加者はキョンとニンフの後ろから向かってきていたので2人は気付いていなかった。 「首輪も付いています。おそらく参加者で、制服も着ています」 「何!?」 キョンとニンフが後ろを振り向く。 「あ、」 キョンの瞳には見覚えのある少女の姿があった。 ショートカットで無表情な顔。 ほとんど毎日顔を合わせては色々な事件に巻き込まれて助けてくれた少女。 同じSOS団の宇宙人の少女。 「長門!」 嬉しさが広がった。 昨日も会ったというのにひどく懐かしい親友を目にした気分であった。 「えっと……長門ってどれだっけ?宇宙人?未来人?」 「宇宙人の奴」 「それにしては普通の人じゃない」 「お前(ニンフ)が言うな……」 キョンとニンフが漫才まがいな事をしているとやがて3人の目の前に長門有希が現れた。 「長門!探していたぞ」 キョンが前に出て長門の肩を叩く。 嬉しさの現れだった。 「私もあなたの事を探していた」 と、あまりにも自然な反応の為、キョンは気付かなかった。 キョンから素早く離れ握ったナイフを2人の少女に向かい斬りつけた。 「キャッ!?」 「ァン!?」 2人とも服が破れた一直線の傷が出来た。 キョンの親友という事で、襲う事はないと思っていた為、警戒心も0であった。 「何してんだ、バカっ!」 キョンが長門を背中から抑えつけ、ナイフを持った右腕を動かせなくした。 「彼女達は悪くないんだ!だから襲わなくても良いんだっ!」 冗談だと言ってほしかった。 親友がゲームに乗っているなんて信じたくなかった。 でも、彼女は冗談を言う様な人ではないのはキョンは知っていた。 「なぁ、嘘だよな長門?」 「大丈夫、あなたは殺さないわ」 「そんな話はしてない!」 長門の目は本気だった。 見た事もない長門の本気にキョンは背中からぞくりとした悪寒が稲妻の如く走った。 「邪魔」 と強い力で左腕でキョンの胴体に叩きつける。 「ぐぅ!?」 朝倉涼子と戦いにった時に思い切り蹴られたシーンがキョンの頭に再生されながら地面に倒れ込んだ。 「まずは1人」 ナイフを握った右手が、怯えた咲実に襲う。 咲実は動揺していて動けない。 ただナイフを待つ形になっていた。 「させるか長門!」 倒れたまま長門の両足に抱きつく。 これで全体を歩けなくする。 「はぁ!」 そして、力を出しながら立ち上がる。 キョンには問いただしたい事がたくさんあった。 どうして殺し合いをする? こんな事をして何になる? 意味なんかないだろ! 日常にお前は戻れなくなるぞ! ふざけんなよ長門! 殺し合いに乗るな! 言いたい事は万を越える程ある。 だが何を訪ねれば良いかわからない。 「これは全員にとって必要な事」 長門が訪ねる前に口を開いた。 いつもと同じ口調なのにキョンは悲しみという名のナイフで心が刺されていくのを感じた。 「涼宮ハルヒが居ればこのゲームは無かった事に出来る。私があなたを生かすのは涼宮ハルヒを動揺させない為だけ」 「っ……!?」 泣きそうになった。 長門から言われた拒絶に近い言葉。 自分はハルヒの為の道具として生かされる対象になった。 情や親友の為だという意味ではなかった。 「やめてくれ長門……。そんな事、お前はしなくて良いんだ……」 「……涼宮ハルヒが暴走してしまったのなら私の責任にもなる。だからあなたのお願いでも今回だけは……」 最後まで話そうとはしなかった。 そこで長門は話を終わらせた。 「お前のせいでもハルヒのせいでもない!シャルルや朝倉涼子達の仕業なんだよ!」 キョンは立ち上がった。 あんな長門をこんなにまで決意させる主催者に怒りが込み上げてくる。 「そんな主催者なんて役者、いくらでも準備出来る」 抑えていたキョンが手を離していた為長門は自由になっていた。 自分と話していれば危険がないと思った甘い考えのキョンの考えを裏切った。 長門はナイフを持ったまま次はニンフに向き合う。 羽根の付いた人間の姿を見て目が少し驚きに変わる。 だがただのイレギャラーな人間と判断しその胸に突き刺す様にナイフを差し込む。 「がぁぁぁぁぁ……」 だがナイフが差し込まれた体はニンフの小さい体ではなく、キョンの左腕であった。 「ぐぅ……。ナイフで刺されたのは2度目だからって……耐久がつくわけじゃ……ないんだな……」 ハルヒが居ない寂しいつまらない世界。 SOS団がバラバラだった世界。 そこでもナイフを刺された事があったなと今更思い出した。 「あ、あなたは死んではダメ……。涼宮ハルヒが……」 「ハルヒの為だけかよ……」 キョンは涙を流していた。 もう自我は止められなかった。 長門は止められないともうわかっているのに……。 「お前は……、お前は俺が死んでほしくないって思わないのかよ!……チクショウ……」 長門は何も言わない。 ただ、刺さったナイフを無言で抜いた。 「がぁっ!?」 細胞に、血管に傷付けるナイフ。 削られていく様な感触。 「私は……」 長門から答えを出される。 だが聞きたくなかった。 聞いたら最後、彼女との関係は崩れてしまいそうで……。 「退いてくれ……。長門……。でないと俺がお前を許せなくなる……。……俺達は仲間だ。次会う時は……そんな考えやめてくれよな……」 前を向けない。 血の出血が口を動かせてくれない。 キョンは地面に足を着いた。 「……ごめんなさい……」 長門はキョンの目の前に救急箱を置いた。 これが長門がキョンにかける情けだと言う様に。 「……ありがとうな長門……。だから俺はお前が殺し合いに乗っている事が不思議なんだ……。俺……が大好きな親友だから……」 長門はもう目の前に居ない。 敵対してしまった長門。 殺されかけては助けてくれる長門。 何回も救われている。 「今、こうして居られるのも長門のおかげじゃないか……。許せないわけないだろぅ長門……。頼むからさ……、殺し合いなんかせず、またいつもみたいに俺とハルヒと朝比奈さんと古泉を助けてくれよ……」 長門の置いていった救急箱に懇願する様に無様に叫んでは心から祈った。 「またあのSOS団に戻りてぇよ……」 キョンの言葉は無残にただ流されていくのであった……。 ◆◇◆◇◆◇ 「私は……あなたに死んでほしくない」 意外だった。 そんな感情が自分にあった事に驚く長門。 でも、もう戻れない。 彼は絶対に私を許してはくれないだろう。 「涼宮ハルヒを優勝させる為、……参加者を皆殺しにする」 だって、彼女はもう戦う道を選んでしまったのだから……。 ◆◇◆◇◆◇ 「キョンさん……」 「キョン……」 泣き崩れるキョンをただ眺める事しか出来ない咲実とニンフ。 正直声を駆け辛い。 たった数分前まで面倒くさそうにする元気な少年というイメージをガラリと変えられてしまったのだから。 親友で命の恩人とまで言っていた長門有希と敵対し、落ち込み、悲しんでしまったから。 だがここはバトルロワイアルを強制させる為の舞台。 休める場所などない。 「殺しやすそうな3人が残った……。あれなら楽に完殺出来る」 暗闇からずっと少女とのいざこざを一部始終はっきりと見ていた鷹が傍観していた事は誰も気付いていない。 鷹は武器を持ち、3人を殺そうと立ち上がる。 ◆◇◆◇◆◇ 「キョンさん、まずは手当てをしましょう」 救急箱を開け様と手を伸ばす咲実。 だが――、 「ちょっと、何よあんた!?」 休む間もなく、三節棍という棒の様な武器を持った少女―川澄舞―の登場であった。 「佐祐理と祐一の為、私は戦う!」 素早く走り込み持っていた三節棍でニンフを叩き込む。 「キャッ!?」 横腹が叩かれる。 中の機械やら何かに大きなショックが走り込む。 「……」 無言での二撃目。 一撃目より重そうな攻撃がまたニンフを襲う。 「あぁ!?」 軽い体のニンフは跳ばされてしまう。 だが運良く、その目の前に咲実が看病をしようと降ろしたデイパックがあるところに飛ばされた。 自分が掛けてあるデイパックは取り出しにくい為、そのまま武器を取り出す。 「木彫りの星?メダルの束?違う、こっち!」 竹刀。 ごく普通に、剣道で使われる武器。 「ここより近付いたらこの竹刀で叩くんだからね!」 怯えた声で、目の前の少女に竹刀を向ける。 だが誰が見ても今、彼女は戦える様な精神力は持っていない。 「はぁぁっ!」 弱々しい掛け声、全然使いきれていない弱々しい武器の振るい方。 毎夜、見えなく素早く強い魔物と戦っている彼女にとってもはや弱い以前の話であった。 「竹刀……。そんなんじゃ勝てない」 「ぇ……?」 一撃を手に払われる。 ツボを抑えられた様に手が使えなくなりそのまま竹刀を地面に落とされてしまった。 ただコロコロと竹刀が転がる。 ニンフが取りに行きたくても時間がかかる場所へ飛ばされた。 絶望。 しかも、追い討ちするかの様に不幸が永遠と続く。 「何やってんだ、舞。早く決着を付けろ」 「……え?」 キョンの看病をしようとしていた少女、姫萩咲実の胸に穴が飽き、血が出ていた。 「ど……して、どう……て」 いや、出ないで。 溢れないで。 なんで、今に限ってこんなに見た事がないくらい血が滝の様に溢れるの? どうして手で抑えても、その隙間を縫う様に血が溢れるの? 「どうしてって、お前はこれから死ぬからさ」 乱入者、川澄舞の協力者国崎往人の登場は放たれた弾丸の様な登場だった。 「じゃあな、お前はゲームオーバーだ」 ニューナンブの引き金を咲実に押し付けて発射。 結果は言うまでもない。 既に胸からは血が流れ続け、頭からは弾丸が貫通。 脳みその欠片らしきものがこびりつく様に広がる。 100人中、100人が死んだと口を揃えるほど、彼女はもう既に動かない。 [[To be continued>かみのおとされもの(後編)]]

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