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太陽がようやく暖かな光を地表に届け始めたころのことだ。 商店街を歩いていた雪子は、不意にその場に立ち止まった。 「クシュン!」 一拍置いて、くしゃみを一つ。 雪子は、髪をよく乾かさなかったことを後悔した。 シャワーを浴びてから一時間は経っているが、髪はまだしっとりとしている。 「タオルか何か、あれば良かったのに……」 水も滴るいい男、という表現があるが、それは女性にも適用される。 湿った髪をかき上げる仕草、そして僅かに窺える白いうなじ。 太陽の光も相まって、その姿は傍目から見ればかなり色っぽいものだった。 「はぁ……」 だが、それは飽く迄、傍目から見た場合の感想である。 本人からしてみれば、濡れた髪は外気に当たって冷たくなる上に、肌に纏わり付くため、非常に寒く感じるのだ。 ただただ不快なだけ、である。 急いでいたため乾かす間がなかったのも事実だが、それでも後悔せずにはいられなかった。 「それにしても、ここ、どこなんだろう」 気を取り直して辺りを見回す。 デバイスと地図によれば、ここは【G-7】エリア。全域が街のエリアのようだ。 街といっても大都会ではなく、かといって八十稲葉市のように田舎でもない。 多少の開発はされているが、まだまだ発展途上の街といったところか。 「あれ、日本語だよね……『○○銀行』とか『レストラン□□』とかあるし」 商店街のところどころにある看板は、日本語で書かれている。 よって常識的に考えれば、ここは日本で間違いない。 「でも、この日本で殺し合いなんて……」 しかし、その日本で殺し合いが行われているなどとは到底信じられない。 日本は、少なくとも反乱や紛争が日々引き起こされるような危険な国ではない。 むしろ平和と言えるだろう。 その国で、いきなり「殺し合いをしろ」などと言われるだろうか。 「戦争をするわけじゃあるまいし、やっぱり変よね……」 戦争に備えて、竹槍を突く練習をさせられているのとはわけが違うのだ。 人間を集めて殺し合わせる、なんてことが許されるわけがない。 シャルル・ジ・ブリタニアという人物がどれほどの力を有しているのかは分からない。 だが、殺し合いの事実が発覚したら、すぐにでも警察組織が飛んできて、この殺し合いは中止になるはずだ。 「――なに考えているんだろう、私」 そんな、脳裏に浮かんだ考えを、必死に振り払う。 桜井智樹を殺して、もう数十分が経った。 もう既に、とっくに天城雪子という女は血も涙もない殺人犯なのだ。 そんな甘い望みを、今更抱いても遅すぎる。 雪子はそう結論付けて、思考回路を無理やりストップさせた。 「そうよ、私は人殺し……」 殺人犯。人殺し。 その単語が出た瞬間、雪子の頭の中で完二の死体がフラッシュバックした。 血みどろの身体。苦痛に歪んだ顔。 お腹の辺りに見え隠れした、ぐちゃぐちゃの臓腑。 忘れようにも忘れられない映像が、鮮明に浮かんできた。 「うっ……」 雪子は強烈な吐き気に襲われて、口を押さえた。 なにしろ、人間の死体を――かつてヒトだったものを見たのは初めてなのだ。 ましてそれが親しい人物なのだから、ショックは何倍にもなる。 そんなものを見てしまったら吐き気を催すのは普通で、むしろ正常な人間である証だろう。 だが雪子は、吐きたいという感情を必死に抑えた。 「人を殺しておいて、自分だけ助かろうなんて……むしが良すぎ、だよね」 ここで全て吐いてしまえば楽になれるだろう。 警察が来てくれると思えば、気は楽でいられるだろう。 だけど、そんなことを考えるのは許されない。 「それは、逃げ……だから」 警察が来てくれるという望みも、吐いて楽になろうという思いも同じ。 今この状況から逃げているだけだ。 身勝手な理由で他人を殺した人間は、罪から逃避することは許されない。 そしてそれは、誰であろう雪子自身なのだ。 「そう……逃げられない……逃げない」 口に出して言うことで、雪子は自身をきつく戒めた。 きつく、きつく――自分の身体を縛り付けるかのように。 そしてもう一言、今度は戒めではなく、決意を口にする。 「私は、絶対にあの場所に帰る――っ!」 なにより重い罪を背負い、どれほど厳しい罰を受けてでも。 必ず、自称特別捜査隊のみんながいる八十稲葉市に帰る。 この両手を血に染めても、いくつもの死体を踏み越えてでも。 罪も、罰も、全てを背負って――最後には必ず元の世界に帰る。 その決意を言葉にした。 「だから、これを……」 雪子はデイパックから、ゼロの仮面と服、それにマントを取り出す。 例え誰が相手でも、仮面越しなら迷わないと考えたのだ。 それに、ボイスチェンジャーの付いているこの仮面なら、正体も分からない。 殺し合いに乗った人間には丁度いい。 長髪を纏めるのには苦労したが、フルフェイスの仮面に、小さな頭はするりと入った。 服の着替えは、手近な民家で行った。 「ふう……」 ピッタリとした服に着替え終えて。 慣れない仮面の中で、雪子は深呼吸をした。 もう二度と決意は揺らがせない。 そう考えながら、雪子は再び歩き出した。 ■ 日が昇ってきたが、街は閑散としている。 そんな寂しい街頭を、一方通行は返り血にまみれた姿のまま歩いていた。 狂気じみた笑いをし、悦に浸っていた数十分前とは正反対の、渋い顔をしていたが。 (……ったく、どうなってやがンだ) その原因はもちろん、一方通行の置かれた現状のせいだ。 “絶対能力進化実験”と同系列の実験かと思いきや、そうとも言い切れない。 胡散臭い主催者からして、なんらかの“裏”があることは予想できた。 だが、考えてみればそもそもの前提が間違っているのかもしれない。 これが実験である、という前提が。 そう考え始めたのは、そう考えざるをえない理由が幾つかあったからだ。 まず一つ目は、一方通行が最初に邂逅した少年のことだ。 少年が手のひらから出した光球は、超能力とみて間違いない。 発火能力者かそれに近い系統の能力者だろう。 そして能力者であれば、何らかの経緯で実験に参加させられていても不思議ではない。 しかし、少年は実験の参加者であるとは思えなかった。 少年は出会い頭にこう言ったのだ。 『――なんですか、あなた……?――』 これは“絶対能力進化実験”の実験動物としては不自然だ。 もしこの島で行われているのが“絶対能力進化実験”であるならば、少年は一方通行の顔を知っていて然るべきなのだ。 だが、少年の言葉はそれを否定している。 つまり、被験者の顔を実験動物に教えていないということ。 “超電磁砲”のクローンを用いた実験を経験している一方通行からしてみれば、それは違和感以外の何物でもない。 『――僕の邪魔をしないで、いただきたい――』 同様にこの言葉もまた不自然といえる。 あたかも、実験以外に優先すべきことがあるかのような物言いだった。 これが実験であれば、実験動物の優先順位はなによりも実験が上だろう。 少なくとも、目の前に被験者がいる状況で言う台詞ではない。 (どう考えても実験の内容を知って参加しているとは思えねェ……) 少年の行動原理は、言葉の中に出てきた『涼宮』という人物ありきだ。 “絶対能力進化実験”など、まったくもって眼中にないかのようだ。 ――あるいは、本当に見たことも聞いたこともないのか。 (それでも、コイツ一人だけだったら例外ってことで片づけられるンだが……) 一方通行にとっては頭の痛いことに、理由はまだあった。 それが二つ目。ついさっき一方通行が殺害した少年のことだ。 最強の能力者に向かって、日本刀やバットを振りかざして、全て破壊された少年。 挙げ句の果てに全身の血液を逆流させられ、一瞬で殺害された少年。 その愚かな少年が、一方通行に新たな疑問を投げかけた。 (これが本当に実験なら、無能力者がいる理由が無ェ) 学園都市には、念動力や発火能力、空間移動など様々な能力を操る能力者が存在する。 この実験はそういった能力者を集めて戦わせ、その結果、一方通行をレベル6に進化させるものだと考えていた。 とはいえ、集める能力者は誰でもいい訳ではない。 実験の為には“一方通行と対峙するに相応しい能力を持った人間”を集めるべきなのだ。 そして少年がその条件に当てはまるかといえば――否だ。 少年の攻撃方法は、一方通行にとってはおよそ面白みのないものだった。 日本刀やバットといった凶器を、やたらめったら振り回すだけ。 猪突猛進――否、単なる無謀という言葉が相応しい。 凶器が通用しないと分かると、何やら薬品らしきものを注射せんと向かってきたが、結局はそれだけ。 終ぞ能力を行使しようとはしなかったのだ。 (俺と対峙して能力を使わずに勝とうなンざ、普通の能力者なら考えねェ。これが実験なら尚更だ。 となると残った可能性は……そもそもこれは実験じゃねェ、ってか?) 逆転の発想だ。 能力者の少年と無能力者の少年。 そのどちらも実験動物とは思えない行動をしている。 ――そもそも、彼らは実験動物ではないのではないか。 ――これは実験でもなんでもないのではないか。 (……まァ、想像の範疇を超えねェンだがな) 一方通行がしたことは、推察に過ぎない。 今考えたように、これは実験とも一方通行とも関係のない、単純な殺し合いかもしれない。 とはいえ例外的な実験で、最終的には一方通行を進化させることが目的であるという可能性も充分にある。 しかし、より深く考察し判断をするには、情報が圧倒的に足りていなかった。 (クソったれが……) 全ての元凶である主催者たちに、心中で悪態をつく。 ――これは本当に“絶対能力進化実験”なのか? そう問いたくとも問えない状況。 首輪を嵌められ、言いなりになるしかない実状。 そして、得体の知れない相手に対して自身が後手に回っているという事実が、何より一方通行を苛立たせていた。 「クソがっ!」 苛立ち紛れに石の壁を殴る。 能力を使わなかったせいで痛みが右手を襲ったが、おかげで頭は冷えた。 「兎にも角にも、動くしかねェだろォな……」 冷静に考えれば、すべきことは明白だった。 今の一方通行には、明らかに情報が足りていない。 これが“絶対能力進化実験”であるか否か、判断しかねているのもそのせいである。 となれば誰かと遭遇し、情報交換をすることは必要不可欠だ。 「まずはそォだな、地図に載ってる手近な場所にでも行くか――ったく、めンどくせェ」 白髪をくしゃくしゃと掻きながら呟く。 考えなしに歩いてきたせいで通り過ぎていたようだが、今いる【G-8】の隣のエリアには商店街があるようだ。 商店街。様々な店が混在する場所。 参加者が行動の拠点にするとは考えにくいが、人がいる可能性は充分にある。 「さァて、とっとと行くか」 まるでコーヒーを買いに行くかのような気軽さでそうひとりごちると、一方通行は早足で歩き出した。 ■ 重い身体を引き摺るようにして、北川潤は歩いていた。 全身に受けた傷は決して浅いものではなかった。 だが、北川は必死に動いていた。 足取りはふらついているが、眼光はしっかりと前を向いている。 一体何が北川を支えているのか。 それは、生きるという強い執念。 今の北川にあるのは、ライダーに救われた命を無駄にはできないという思いだけだった。 ライダーこと征服王イスカンダル。 初めて見たときから、その大きさに圧倒されていた。 豪放磊落という四字熟語を体現するかのような、どこまでも大きな人物だった。 頼もしく光る双眸や力強い剛腕、がっしりとした体躯。 身には強大な覇気を纏っており、それでいて親近感を与える雰囲気もある。 外見、内面共に、王に相応しく豪快な人物だった。 元は『英雄』だった――そんな眉唾物の話も、今ならすんなりと信じることが出来る。 かくして短時間の間に、北川はライダーに対して憧れの眼を向けるまでになった。 だが、そのライダーは死んだ。 数分前に流れた第一回目の放送でも、その名前は確かに呼ばれた。 疑う余地はなかった。北川は、ライダーの死ぬ瞬間を、この目で見ていたのだ。 真アサシンの奇妙な技によって、征服王は死んで、消えていった。 北川からすれば、死の瞬間はあまりに呆気なかった。呆気にとられた。 信じたくなかったし、嘘であって欲しいと願った。 放送を聞くまでは“ライダーが死ぬわけがない”とどこかで思っていた。 いわゆる現実逃避というものなのだろう。 しかし、幾ら願ってもライダーは既にこの世にはおらず、北川自身は傷だらけだ。 それは紛れもない真実で、どうしようもない現実だった。 「俺は……」 現実を思い知らされた北川は、精神にも大きな傷が出来ていた。 殺し合いという舞台に放り出された自身が、心の拠り所とした王の姿。 その王の頼りがいのある巨躯は、永久に自身の目の前に現れることはない。 もう全ておしまいだ。 この島から脱出することなんてできない。 あとは無様に殺されるだけだ。 ならばいっそのこと――死んでしまおうか。 磨り減らされた精神は、北川自身も驚くほど弱くなっていた。 「いや、だめだ……死ぬわけにはいかない」 だが、その弱い心を、北川は自分の言葉で否定する。 ここで死んだら、ライダーの死が無駄になってしまう。 征服王イスカンダルを、犬死にさせることになってしまう。 そんな最悪の結末を回避する為にも、自殺なんて愚かな真似はできない。 王に助けられた身として、ここで死ぬわけにはいかない。 絶対に、この島から脱出しなければならない。 それがライダーの遺志を受け継いだ、北川潤の意志だった。 「死ぬわけにはいかない……」 強い意志を言葉にする北川の顔からは、しかし段々と血の気が無くなっていく。 北川には血液が足りていなかった。 真アサシンにはナイフで全身を傷つけられ、長沢勇治にはバットで頭部を殴られた。 結果として“鼻血も出ない”という表現が冗談にならないほどに、北川は血を失っていた。 それでも、北川は無理を押して歩き続けた。 ライダーの死を無駄にしない、という意志を、一歩一歩踏み締めながら心に刻みつけていくかのように。 「死ねない……絶対に……」 しかし、その一歩一歩も時間につれて弱々しくなっていった。 四肢の動作は少しずつ緩慢になっていき、呟く声は段々と途切れて聞こえるようになった。 これは仕方がないことだ。 北川は怪我の処置に必要な道具を何一つ、絆創膏一枚さえ持っていなかった。 つまり、応急処置さえ施さずに、今まで歩いてきたのだ。 そのせいで塞がりかけていた傷は開き、僅かながらも血が流れ出ていた。 誰が見ても危険な状態だ。 倒れずに歩いてきたことが、奇跡と言えるかもしれない。 「死ね、ない……」 夢を食べても腹は膨れない、というが、北川の今の状況はまさしくそれだった。 強い決意も、深い執念も、肉体的な疲労には敵わない。 次第に手足の感覚は麻痺していき、脳のはたらきは鈍くなっていく。 意識が朦朧とし、言葉を発することさえ困難になる。 「死ね、ないん、だ……」 そして、ついに限界が訪れた。 両脚は自身の体重を支えることが出来なくなり、その場に膝を着いた。 一拍置いた後、上体は重力に従って、地面に鈍い音を立てて倒れ込んだ。 傷だらけでうつ伏せになったその姿は、まるで死体であるかのようだった。 もしかしたら、本当に死んでいるのかも知れない。 見た者がそんな最悪の想像をしてしまうほどに、北川は虫の息だった。 それでも、かすかに聞こえる呼吸音が、北川が生き延びていることを――死に損ねていることを示していた。 「…………」 殺し合いの最中に気絶し、あまつさえ無防備な姿を曝す北川。 完全に復活し目覚めるまでには、相応の時間がかかることだろう。 ■ 今の竜宮レナの心情を、まともに推し量れる人間は恐らくいないだろう。 殺し合いに呼ばれた。 大の親友を殺された。 言葉にすれば僅か数文字だが、受け止めるには負担が大きすぎる現実。 その現実は、確かにレナの心を蝕んでいた。 「…………」 それに加えて、疲労がレナを襲う。 自然が豊かな雛見沢で過ごしているために体力はあるレナだが、それでもまだ中学生。 五時間近く休みなしで歩き続けていれば、当然のように足は棒のようになる。 「…………」 無言で歩き続けるレナ。 目的地は定まっていない様子だ。 近くにある施設を覚えているようにも思えない。 自身が今どこを歩いているのかさえ分からないかのようだ。 『ご機嫌いかがですか皆さん? では今から放送が始まります』 死者を告げる放送が流れる。 からかうように喋る郷田真弓の声が島中に響く。 「…………」 無言で辺りを見回すレナ。 放送に耳を傾けることもしない。 地図を開き禁止エリアを確認する気もない。 ただただ園崎魅音の仇を探す。 「…………」 手元のデイパックを見る。 底の部分は、変色した血で黒く染まっていた。 既に、頭部から流れていた血は止まっているらしい。 視線を前に戻して、無表情のまま、レナは再び歩き始めた。 ■ 古泉一樹はとある民家の居間にいた。 つい先程、肩の傷を処置し終えたところだ。 傷の処置のために脱いでいたブレザーを着直して、デイパックの荷物を整理する。 中身は基本支給品一式に加えて、ランダム支給品が二つ。 そして、学校から調達した医薬品だ。 消毒薬や包帯といった、どこの家庭にも常備してあるであろう物だが、持っていて損はない。 なにより、傷の手当てができる、という安心感を得ることができるのが大きい。 「少々勿体なかったという気もしますが、仕方ないですね」 しかし、それらの消毒薬や包帯は、その半分ほどを使ってしまっていた。 自分自身の傷に薬を塗り、包帯を巻くという動作に慣れていなかったため、無駄にしてしまったのだ。 古泉はそのことを少し残念に思ったが、かといって引き摺ることはなかった。 「さて、とりあえず外に出るとしましょう」 デイパックを肩に担いだ古泉は、民家の玄関へと向かった。 小奇麗に整った玄関は、新築の家を思わせる。 昇ってきたばかりの太陽、その光が玄関越しに靴を照らしていた。 「……太陽を懐かしく感じるときが来るとは、予想もしていませんでしたよ」 古泉は呟きながら靴を履くと、玄関のドアを開けて外に出た。 途端にドア越しの比ではない量の光が古泉を照らす。 しかし、目を眇めたのも一瞬、古泉は後ろ手にドアを閉めてから、すぐに歩き始めた。 「さて、僥倖と言うべきでしょうか、涼宮さんを含めたSOS団のメンバーは全員が生きているようですね。  とはいえ死亡者は十四人も出ています。いつ誰が危険な目に遭い、そして死ぬかは予想できない。  となると、涼宮さんたちの安否に関しては希望的観測を持たない方が賢明でしょうね」 ぶつぶつと独り言をいいながら、古泉はデバイスを取り出して考察を開始した。 現在地はG-7、時刻は六時を十分ほど過ぎていた。 中学校から逃走したのが四時前なので、かれこれ二時間を無駄にしていることになる。 しかし古泉は、それを理解しても焦ったり嘆いたりはしなかった。 ただ微笑を浮かべただけであった。 「もうこんなに時間が過ぎているとは、少々ゆっくりし過ぎたのでしょうか……ん?」 デバイスを見ながら歩く古泉は、地面にあるものを見つけて立ち止まった。 屈み込んで確認したそれは、弾痕だった。 更に周囲を捜索すると、弾痕が三つ、離れた場所に銃弾が一つ、そして数十本の針らしきものがあった。 どれも、この場所で戦闘が行われていた証拠だ。 そのことを理解した古泉は、処置した肩の傷にそっと触れた。 数時間前に暗い校舎内で味わわされた、焼けるような痛みが、鮮明に思い出される。 頭か、あるいは心臓に銃弾を喰らっていたならば、確実に死んでいただろう。 「やはり……涼宮さんたちが死ななかったのは、運が良かっただけなのでしょうね」 穏和な超能力者は、いつになく厳しい顔で呟いた。 その呟きは、楽観的になってはいけないという古泉自身への戒めである。 とはいえ、いつまでも真剣な表情という訳ではなかった。 すぐに穏和な微笑を浮かべて、普段通りに戻る。 そして立ち上がると、注意深く辺りを見回した。 周囲に人の気配がないことを確認した後、そのまま独り言を始めた。 「死亡した参加者は十四人。百分の十四と考えると、そう多くはありません。 かくいう僕のスコアボードは真っ白――いやはや、試合終了(ゲームセット)までどれだけかかるのでしょうね」 そう言って、大仰に肩をすくめる。 バトルロワイアルの開始からかれこれ六時間が経ったが、古泉は誰一人殺害していない。 “ゲームに乗る”という決意をしたのは早かったのにも関わらず、である。 「ふう……」 古泉は俯いて溜息をついた。 今までに出会った参加者、そして自分の行動を省みる。 暗い校舎内という条件があったとはいえ、油断をしなければあのとき一人殺害できた“かもしれない”。 肩を負傷した状態だったとはいえ、逃走しなければ相手の超能力を知ることができた“かもしれない”。 ついつい“かもしれない”という可能性を考えてしまう。 それは思考の悪循環であることに気付いていながらも、古泉は唇を噛んでいた。 古泉が今までとってきた手は、最悪ではないにしても最良からは程遠かった。 その結果が、今の古泉の状況なのだ。 「肩に銃創、そしてスタングレネードという有用な支給品の無駄遣い……」 声に出して確認すると、改めて散々な結果だとわかる。 生き延びるために払った代償と考えるならば、これは少ない方なのだろう。 だが、生憎と古泉は“生き残る”ことを目標にしている訳ではない。 あくまで“涼宮ハルヒを優勝させる”ために行動しているのだ。 そう考えたとき、六時間で何の成果も挙げずにこの消耗具合というのはどうか。 非常によろしくない、といっていい。 「ふう」 古泉は再び、しかし今度は気を引き締めるように息を吐いた。 既に自身を戒めることは終えた。 涼宮ハルヒは死んでいないし、SOS団も崩壊していない。 ならば今まで通り、行動の全てを“涼宮ハルヒを優勝させる”ために費やすだけだ。 そう区切りをつけて、長いこと止めていた足を動かし始めた。 「足りなかったものは、勝利への貪欲さ、でしょうか」 最後にそう呟いてから、古泉は先を急ぐことに専念する。 その胸に、より強い意志を抱え――しかし顔には、相変わらず微笑を張り付けて。 ■ そして――少年少女は出会う。 ■ 「あれって……?」 黒髪の少女が、倒れた金髪の少年を見つけた。 まず見たのは首元。そこには確かに参加者の証があった。 少女は少年の元に駆け寄ると、息があるかどうかを確認する。 もしも生きているのなら――頭の片隅では、そんな思考をしながら。 「おっ、丁度イイじゃねェか」 白髪の少年は、二人の人間を視界に入れた。 そして、一瞬も躊躇わずに、二人の元へとゆっくり歩いて行く。 二人までの距離は、凡そ百メートル。 どうやって情報を引き出そうか――脳内にあるのは、そのことだけだ。 「……うぅん……」 金髪の少年は、周囲の状況に気付かない。 僅かに声を漏らすが、未だに目覚める気配はない。 ただただ夢を見ているかのように眠るだけ。 ライダー、俺はどうすればいい――散って行った王の名を、呼ぶ。 「……魅ぃちゃんの、仇……」 茶髪の少女は、ぽつりと呟いた。 少年が倒れている場所から少し離れた場所で、三人の少年少女をじっと見つめる。 あの中に仇がいるか否か、見定めているのだ。 …………――その心中が穏やかでないということは、いかに鈍い輩でも分かる。 「ほう……これはまた、面倒な状況ですね」 そして、それら全員を把握するのは超能力者。 茶髪の少女を発見し、後をつけてきた結果がこれだ。 目に見えて危険な人物は二人。返り血を浴びた白髪の少年に、仮面を被った人物。 さて、どうしましょうか――状況から目を離さず、より良い選択肢を探す。 ■ 時刻は午前七時半。 殺し合いに召喚されるまでは、何一つ接点のなかった五人。 彼らの物語は、彼らが出会うことにより加速していく。 【G-7 街/朝】 【天城雪子@ペルソナ4】 【装備:干将・莫耶@Fate/stay night、ゼロの仮面&服@コードギアス 反逆のルルーシュ】 【道具:支給品一式×2、9のPDA@シークレットゲーム-KILLER QUEEN-、ランダム支給品×1】 【状態:疲労(中)】 【思考・行動】 0:どうしよう…… 1:PDAの首輪解除条件に従って行動する=皆殺し。 2:人は殺したくないけど殺さなきゃいけない。 【備考】 ※足立戦終了後からの参戦です。 ※桜井智樹を殺したと思っています。 ※ペルソナはコノハナサクヤで、スキルは威力の大きいものほど体力を消費します。 ※桜井智樹をペルソナ使いと認識しました。 ※仲間と足立以外にもペルソナ使いが居ると推測をたてました。 【一方通行@とある魔術の禁書目録】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、ランダム支給品×3】 【状態:健康、返り血(中)】 【思考・行動】 0:どう話しかけるかねェ 1:不本意だがこの実験に付き合う 2:何を隠してやがる……舐めやがって 【備考】 ※このバトルロワイアルを絶対能力進化実験だと思い込んでおります。 ※能力は制限されています。反射はデフォルトでは出来ません。 ※反射の威力に関しては普通通りですが、建物を投げつける、気流操作で会場全体に攻撃する、などは出来ません。 ※この『実験』の裏には何かあると気付きました。 【北川潤@Kanon】 【装備:ステゴサオルスのTシャツ@AIR】 【所持品:支給品一式、蛇のお札@物語シリーズ】 【状態:疲労(大)、傷(多)、精神的大ダメージ、雛見沢症候群、気絶】 【思考・行動】 0:―――― 1:おっさんの意思を受け継ぎ生きる。 2:みんなと脱出する。 3:真アサシンと長沢は危険。 【備考】 ※共通ルートからの参戦。 ※聖杯戦争の事についてたくさんの説明を受けました。 ※雛見沢症候群が発症しました。症状の進行は後の書き手さんにお任せします。 【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】 【装備:蛇尾丸@BLEACH】 【支給品:支給品一式、ランダム支給品×5】 【状態:疲労(中)、精神不安定、喉元に掻き毟った痕、雛見沢症候群L4】 【思考・行動】 0:????? 1:魅ぃちゃんを殺した犯人を、形見の目の前で残酷に殺す。 2:魅ぃちゃん、沙都子ちゃんの仇を討つためにこのゲームを潰す。 3:圭一くんたちを探す。 ※『皆殺し編』、綿流し祭開始直後からの参加です。 ※魅音のデイパックを受け継ぎました。 ※雛見沢症候群が悪化するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。 【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2、医薬品@現実】 【状態:左肩に銃創(処置済)】 【思考・行動】 0:この状況、どう動きましょうか。 1:涼宮さんを優勝させる。 2:対主催思想持ちの強者は上手く利用していきたい。 【備考】 ※『涼宮ハルヒの暴走』終了後からの参加です。 ※超能力は使えますが、威力が抑えられています。 【医薬品@現実】 古泉一樹がG-5学校で調達。包帯や傷薬など。数量はそう多くない。 【ゼロの服@コードギアス 反逆のルルーシュ】 テロリスト・ゼロが常に着ている服とマントのセット。 これと仮面を身に着けることで、ゼロは正体を隠している。天城雪子に支給。 |102:[[翼ある銃]]|時系列|[[]]| |108:[[Big mouth]]|投下順|[[]]| |092:[[輝きのトモキ]]|天城雪子|[[]]| |083:[[白色 の 最強]]|一方通行|[[]]| |057:[[中二病でも殺したい!]]|北川潤|[[]]| |029:[[Island Days]]|竜宮レナ|[[]]| |063:[[とある最強の一方通行]]|古泉一樹|[[]]|
太陽がようやく暖かな光を地表に届け始めたころのことだ。 商店街を歩いていた雪子は、不意にその場に立ち止まった。 「クシュン!」 一拍置いて、くしゃみを一つ。 雪子は、髪をよく乾かさなかったことを後悔した。 シャワーを浴びてから一時間は経っているが、髪はまだしっとりとしている。 「タオルか何か、あれば良かったのに……」 水も滴るいい男、という表現があるが、それは女性にも適用される。 湿った髪をかき上げる仕草、そして僅かに窺える白いうなじ。 太陽の光も相まって、その姿は傍目から見ればかなり色っぽいものだった。 「はぁ……」 だが、それは飽く迄、傍目から見た場合の感想である。 本人からしてみれば、濡れた髪は外気に当たって冷たくなる上に、肌に纏わり付くため、非常に寒く感じるのだ。 ただただ不快なだけ、である。 急いでいたため乾かす間がなかったのも事実だが、それでも後悔せずにはいられなかった。 「それにしても、ここ、どこなんだろう」 気を取り直して辺りを見回す。 デバイスと地図によれば、ここは【G-7】エリア。全域が街のエリアのようだ。 街といっても大都会ではなく、かといって八十稲葉市のように田舎でもない。 多少の開発はされているが、まだまだ発展途上の街といったところか。 「あれ、日本語だよね……『○○銀行』とか『レストラン□□』とかあるし」 商店街のところどころにある看板は、日本語で書かれている。 よって常識的に考えれば、ここは日本で間違いない。 「でも、この日本で殺し合いなんて……」 しかし、その日本で殺し合いが行われているなどとは到底信じられない。 日本は、少なくとも反乱や紛争が日々引き起こされるような危険な国ではない。 むしろ平和と言えるだろう。 その国で、いきなり「殺し合いをしろ」などと言われるだろうか。 「戦争をするわけじゃあるまいし、やっぱり変よね……」 戦争に備えて、竹槍を突く練習をさせられているのとはわけが違うのだ。 人間を集めて殺し合わせる、なんてことが許されるわけがない。 シャルル・ジ・ブリタニアという人物がどれほどの力を有しているのかは分からない。 だが、殺し合いの事実が発覚したら、すぐにでも警察組織が飛んできて、この殺し合いは中止になるはずだ。 「――なに考えているんだろう、私」 そんな、脳裏に浮かんだ考えを、必死に振り払う。 桜井智樹を殺して、もう数十分が経った。 もう既に、とっくに天城雪子という女は血も涙もない殺人犯なのだ。 そんな甘い望みを、今更抱いても遅すぎる。 雪子はそう結論付けて、思考回路を無理やりストップさせた。 「そうよ、私は人殺し……」 殺人犯。人殺し。 その単語が出た瞬間、雪子の頭の中で完二の死体がフラッシュバックした。 血みどろの身体。苦痛に歪んだ顔。 お腹の辺りに見え隠れした、ぐちゃぐちゃの臓腑。 忘れようにも忘れられない映像が、鮮明に浮かんできた。 「うっ……」 雪子は強烈な吐き気に襲われて、口を押さえた。 なにしろ、人間の死体を――かつてヒトだったものを見たのは初めてなのだ。 ましてそれが親しい人物なのだから、ショックは何倍にもなる。 そんなものを見てしまったら吐き気を催すのは普通で、むしろ正常な人間である証だろう。 だが雪子は、吐きたいという感情を必死に抑えた。 「人を殺しておいて、自分だけ助かろうなんて……むしが良すぎ、だよね」 ここで全て吐いてしまえば楽になれるだろう。 警察が来てくれると思えば、気は楽でいられるだろう。 だけど、そんなことを考えるのは許されない。 「それは、逃げ……だから」 警察が来てくれるという望みも、吐いて楽になろうという思いも同じ。 今この状況から逃げているだけだ。 身勝手な理由で他人を殺した人間は、罪から逃避することは許されない。 そしてそれは、誰であろう雪子自身なのだ。 「そう……逃げられない……逃げない」 口に出して言うことで、雪子は自身をきつく戒めた。 きつく、きつく――自分の身体を縛り付けるかのように。 そしてもう一言、今度は戒めではなく、決意を口にする。 「私は、絶対にあの場所に帰る――っ!」 なにより重い罪を背負い、どれほど厳しい罰を受けてでも。 必ず、自称特別捜査隊のみんながいる八十稲葉市に帰る。 この両手を血に染めても、いくつもの死体を踏み越えてでも。 罪も、罰も、全てを背負って――最後には必ず元の世界に帰る。 その決意を言葉にした。 「だから、これを……」 雪子はデイパックから、ゼロの仮面と服、それにマントを取り出す。 例え誰が相手でも、仮面越しなら迷わないと考えたのだ。 それに、ボイスチェンジャーの付いているこの仮面なら、正体も分からない。 殺し合いに乗った人間には丁度いい。 長髪を纏めるのには苦労したが、フルフェイスの仮面に、小さな頭はするりと入った。 服の着替えは、手近な民家で行った。 「ふう……」 ピッタリとした服に着替え終えて。 慣れない仮面の中で、雪子は深呼吸をした。 もう二度と決意は揺らがせない。 そう考えながら、雪子は再び歩き出した。 ■ 日が昇ってきたが、街は閑散としている。 そんな寂しい街頭を、一方通行は返り血にまみれた姿のまま歩いていた。 狂気じみた笑いをし、悦に浸っていた数十分前とは正反対の、渋い顔をしていたが。 (……ったく、どうなってやがンだ) その原因はもちろん、一方通行の置かれた現状のせいだ。 “絶対能力進化実験”と同系列の実験かと思いきや、そうとも言い切れない。 胡散臭い主催者からして、なんらかの“裏”があることは予想できた。 だが、考えてみればそもそもの前提が間違っているのかもしれない。 これが実験である、という前提が。 そう考え始めたのは、そう考えざるをえない理由が幾つかあったからだ。 まず一つ目は、一方通行が最初に邂逅した少年のことだ。 少年が手のひらから出した光球は、超能力とみて間違いない。 発火能力者かそれに近い系統の能力者だろう。 そして能力者であれば、何らかの経緯で実験に参加させられていても不思議ではない。 しかし、少年は実験の参加者であるとは思えなかった。 少年は出会い頭にこう言ったのだ。 『――なんですか、あなた……?――』 これは“絶対能力進化実験”の実験動物としては不自然だ。 もしこの島で行われているのが“絶対能力進化実験”であるならば、少年は一方通行の顔を知っていて然るべきなのだ。 だが、少年の言葉はそれを否定している。 つまり、被験者の顔を実験動物に教えていないということ。 “超電磁砲”のクローンを用いた実験を経験している一方通行からしてみれば、それは違和感以外の何物でもない。 『――僕の邪魔をしないで、いただきたい――』 同様にこの言葉もまた不自然といえる。 あたかも、実験以外に優先すべきことがあるかのような物言いだった。 これが実験であれば、実験動物の優先順位はなによりも実験が上だろう。 少なくとも、目の前に被験者がいる状況で言う台詞ではない。 (どう考えても実験の内容を知って参加しているとは思えねェ……) 少年の行動原理は、言葉の中に出てきた『涼宮』という人物ありきだ。 “絶対能力進化実験”など、まったくもって眼中にないかのようだ。 ――あるいは、本当に見たことも聞いたこともないのか。 (それでも、コイツ一人だけだったら例外ってことで片づけられるンだが……) 一方通行にとっては頭の痛いことに、理由はまだあった。 それが二つ目。ついさっき一方通行が殺害した少年のことだ。 最強の能力者に向かって、日本刀やバットを振りかざして、全て破壊された少年。 挙げ句の果てに全身の血液を逆流させられ、一瞬で殺害された少年。 その愚かな少年が、一方通行に新たな疑問を投げかけた。 (これが本当に実験なら、無能力者がいる理由が無ェ) 学園都市には、念動力や発火能力、空間移動など様々な能力を操る能力者が存在する。 この実験はそういった能力者を集めて戦わせ、その結果、一方通行をレベル6に進化させるものだと考えていた。 とはいえ、集める能力者は誰でもいい訳ではない。 実験の為には“一方通行と対峙するに相応しい能力を持った人間”を集めるべきなのだ。 そして少年がその条件に当てはまるかといえば――否だ。 少年の攻撃方法は、一方通行にとってはおよそ面白みのないものだった。 日本刀やバットといった凶器を、やたらめったら振り回すだけ。 猪突猛進――否、単なる無謀という言葉が相応しい。 凶器が通用しないと分かると、何やら薬品らしきものを注射せんと向かってきたが、結局はそれだけ。 終ぞ能力を行使しようとはしなかったのだ。 (俺と対峙して能力を使わずに勝とうなンざ、普通の能力者なら考えねェ。これが実験なら尚更だ。 となると残った可能性は……そもそもこれは実験じゃねェ、ってか?) 逆転の発想だ。 能力者の少年と無能力者の少年。 そのどちらも実験動物とは思えない行動をしている。 ――そもそも、彼らは実験動物ではないのではないか。 ――これは実験でもなんでもないのではないか。 (……まァ、想像の範疇を超えねェンだがな) 一方通行がしたことは、推察に過ぎない。 今考えたように、これは実験とも一方通行とも関係のない、単純な殺し合いかもしれない。 とはいえ例外的な実験で、最終的には一方通行を進化させることが目的であるという可能性も充分にある。 しかし、より深く考察し判断をするには、情報が圧倒的に足りていなかった。 (クソったれが……) 全ての元凶である主催者たちに、心中で悪態をつく。 ――これは本当に“絶対能力進化実験”なのか? そう問いたくとも問えない状況。 首輪を嵌められ、言いなりになるしかない実状。 そして、得体の知れない相手に対して自身が後手に回っているという事実が、何より一方通行を苛立たせていた。 「クソがっ!」 苛立ち紛れに石の壁を殴る。 能力を使わなかったせいで痛みが右手を襲ったが、おかげで頭は冷えた。 「兎にも角にも、動くしかねェだろォな……」 冷静に考えれば、すべきことは明白だった。 今の一方通行には、明らかに情報が足りていない。 これが“絶対能力進化実験”であるか否か、判断しかねているのもそのせいである。 となれば誰かと遭遇し、情報交換をすることは必要不可欠だ。 「まずはそォだな、地図に載ってる手近な場所にでも行くか――ったく、めンどくせェ」 白髪をくしゃくしゃと掻きながら呟く。 考えなしに歩いてきたせいで通り過ぎていたようだが、今いる【G-8】の隣のエリアには商店街があるようだ。 商店街。様々な店が混在する場所。 参加者が行動の拠点にするとは考えにくいが、人がいる可能性は充分にある。 「さァて、とっとと行くか」 まるでコーヒーを買いに行くかのような気軽さでそうひとりごちると、一方通行は早足で歩き出した。 ■ 重い身体を引き摺るようにして、北川潤は歩いていた。 全身に受けた傷は決して浅いものではなかった。 だが、北川は必死に動いていた。 足取りはふらついているが、眼光はしっかりと前を向いている。 一体何が北川を支えているのか。 それは、生きるという強い執念。 今の北川にあるのは、ライダーに救われた命を無駄にはできないという思いだけだった。 ライダーこと征服王イスカンダル。 初めて見たときから、その大きさに圧倒されていた。 豪放磊落という四字熟語を体現するかのような、どこまでも大きな人物だった。 頼もしく光る双眸や力強い剛腕、がっしりとした体躯。 身には強大な覇気を纏っており、それでいて親近感を与える雰囲気もある。 外見、内面共に、王に相応しく豪快な人物だった。 元は『英雄』だった――そんな眉唾物の話も、今ならすんなりと信じることが出来る。 かくして短時間の間に、北川はライダーに対して憧れの眼を向けるまでになった。 だが、そのライダーは死んだ。 数分前に流れた第一回目の放送でも、その名前は確かに呼ばれた。 疑う余地はなかった。北川は、ライダーの死ぬ瞬間を、この目で見ていたのだ。 真アサシンの奇妙な技によって、征服王は死んで、消えていった。 北川からすれば、死の瞬間はあまりに呆気なかった。呆気にとられた。 信じたくなかったし、嘘であって欲しいと願った。 放送を聞くまでは“ライダーが死ぬわけがない”とどこかで思っていた。 いわゆる現実逃避というものなのだろう。 しかし、幾ら願ってもライダーは既にこの世にはおらず、北川自身は傷だらけだ。 それは紛れもない真実で、どうしようもない現実だった。 「俺は……」 現実を思い知らされた北川は、精神にも大きな傷が出来ていた。 殺し合いという舞台に放り出された自身が、心の拠り所とした王の姿。 その王の頼りがいのある巨躯は、永久に自身の目の前に現れることはない。 もう全ておしまいだ。 この島から脱出することなんてできない。 あとは無様に殺されるだけだ。 ならばいっそのこと――死んでしまおうか。 磨り減らされた精神は、北川自身も驚くほど弱くなっていた。 「いや、だめだ……死ぬわけにはいかない」 だが、その弱い心を、北川は自分の言葉で否定する。 ここで死んだら、ライダーの死が無駄になってしまう。 征服王イスカンダルを、犬死にさせることになってしまう。 そんな最悪の結末を回避する為にも、自殺なんて愚かな真似はできない。 王に助けられた身として、ここで死ぬわけにはいかない。 絶対に、この島から脱出しなければならない。 それがライダーの遺志を受け継いだ、北川潤の意志だった。 「死ぬわけにはいかない……」 強い意志を言葉にする北川の顔からは、しかし段々と血の気が無くなっていく。 北川には血液が足りていなかった。 真アサシンにはナイフで全身を傷つけられ、長沢勇治にはバットで頭部を殴られた。 結果として“鼻血も出ない”という表現が冗談にならないほどに、北川は血を失っていた。 それでも、北川は無理を押して歩き続けた。 ライダーの死を無駄にしない、という意志を、一歩一歩踏み締めながら心に刻みつけていくかのように。 「死ねない……絶対に……」 しかし、その一歩一歩も時間につれて弱々しくなっていった。 四肢の動作は少しずつ緩慢になっていき、呟く声は段々と途切れて聞こえるようになった。 これは仕方がないことだ。 北川は怪我の処置に必要な道具を何一つ、絆創膏一枚さえ持っていなかった。 つまり、応急処置さえ施さずに、今まで歩いてきたのだ。 そのせいで塞がりかけていた傷は開き、僅かながらも血が流れ出ていた。 誰が見ても危険な状態だ。 倒れずに歩いてきたことが、奇跡と言えるかもしれない。 「死ね、ない……」 夢を食べても腹は膨れない、というが、北川の今の状況はまさしくそれだった。 強い決意も、深い執念も、肉体的な疲労には敵わない。 次第に手足の感覚は麻痺していき、脳のはたらきは鈍くなっていく。 意識が朦朧とし、言葉を発することさえ困難になる。 「死ね、ないん、だ……」 そして、ついに限界が訪れた。 両脚は自身の体重を支えることが出来なくなり、その場に膝を着いた。 一拍置いた後、上体は重力に従って、地面に鈍い音を立てて倒れ込んだ。 傷だらけでうつ伏せになったその姿は、まるで死体であるかのようだった。 もしかしたら、本当に死んでいるのかも知れない。 見た者がそんな最悪の想像をしてしまうほどに、北川は虫の息だった。 それでも、かすかに聞こえる呼吸音が、北川が生き延びていることを――死に損ねていることを示していた。 「…………」 殺し合いの最中に気絶し、あまつさえ無防備な姿を曝す北川。 完全に復活し目覚めるまでには、相応の時間がかかることだろう。 ■ 今の竜宮レナの心情を、まともに推し量れる人間は恐らくいないだろう。 殺し合いに呼ばれた。 大の親友を殺された。 言葉にすれば僅か数文字だが、受け止めるには負担が大きすぎる現実。 その現実は、確かにレナの心を蝕んでいた。 「…………」 それに加えて、疲労がレナを襲う。 自然が豊かな雛見沢で過ごしているために体力はあるレナだが、それでもまだ中学生。 五時間近く休みなしで歩き続けていれば、当然のように足は棒のようになる。 「…………」 無言で歩き続けるレナ。 目的地は定まっていない様子だ。 近くにある施設を覚えているようにも思えない。 自身が今どこを歩いているのかさえ分からないかのようだ。 『ご機嫌いかがですか皆さん? では今から放送が始まります』 死者を告げる放送が流れる。 からかうように喋る郷田真弓の声が島中に響く。 「…………」 無言で辺りを見回すレナ。 放送に耳を傾けることもしない。 地図を開き禁止エリアを確認する気もない。 ただただ園崎魅音の仇を探す。 「…………」 手元のデイパックを見る。 底の部分は、変色した血で黒く染まっていた。 既に、頭部から流れていた血は止まっているらしい。 視線を前に戻して、無表情のまま、レナは再び歩き始めた。 ■ 古泉一樹はとある民家の居間にいた。 つい先程、肩の傷を処置し終えたところだ。 傷の処置のために脱いでいたブレザーを着直して、デイパックの荷物を整理する。 中身は基本支給品一式に加えて、ランダム支給品が二つ。 そして、学校から調達した医薬品だ。 消毒薬や包帯といった、どこの家庭にも常備してあるであろう物だが、持っていて損はない。 なにより、傷の手当てができる、という安心感を得ることができるのが大きい。 「少々勿体なかったという気もしますが、仕方ないですね」 しかし、それらの消毒薬や包帯は、その半分ほどを使ってしまっていた。 自分自身の傷に薬を塗り、包帯を巻くという動作に慣れていなかったため、無駄にしてしまったのだ。 古泉はそのことを少し残念に思ったが、かといって引き摺ることはなかった。 「さて、とりあえず外に出るとしましょう」 デイパックを肩に担いだ古泉は、民家の玄関へと向かった。 小奇麗に整った玄関は、新築の家を思わせる。 昇ってきたばかりの太陽、その光が玄関越しに靴を照らしていた。 「……太陽を懐かしく感じるときが来るとは、予想もしていませんでしたよ」 古泉は呟きながら靴を履くと、玄関のドアを開けて外に出た。 途端にドア越しの比ではない量の光が古泉を照らす。 しかし、目を眇めたのも一瞬、古泉は後ろ手にドアを閉めてから、すぐに歩き始めた。 「さて、僥倖と言うべきでしょうか、涼宮さんを含めたSOS団のメンバーは全員が生きているようですね。  とはいえ死亡者は十四人も出ています。いつ誰が危険な目に遭い、そして死ぬかは予想できない。  となると、涼宮さんたちの安否に関しては希望的観測を持たない方が賢明でしょうね」 ぶつぶつと独り言をいいながら、古泉はデバイスを取り出して考察を開始した。 現在地はG-7、時刻は六時を十分ほど過ぎていた。 中学校から逃走したのが四時前なので、かれこれ二時間を無駄にしていることになる。 しかし古泉は、それを理解しても焦ったり嘆いたりはしなかった。 ただ微笑を浮かべただけであった。 「もうこんなに時間が過ぎているとは、少々ゆっくりし過ぎたのでしょうか……ん?」 デバイスを見ながら歩く古泉は、地面にあるものを見つけて立ち止まった。 屈み込んで確認したそれは、弾痕だった。 更に周囲を捜索すると、弾痕が三つ、離れた場所に銃弾が一つ、そして数十本の針らしきものがあった。 どれも、この場所で戦闘が行われていた証拠だ。 そのことを理解した古泉は、処置した肩の傷にそっと触れた。 数時間前に暗い校舎内で味わわされた、焼けるような痛みが、鮮明に思い出される。 頭か、あるいは心臓に銃弾を喰らっていたならば、確実に死んでいただろう。 「やはり……涼宮さんたちが死ななかったのは、運が良かっただけなのでしょうね」 穏和な超能力者は、いつになく厳しい顔で呟いた。 その呟きは、楽観的になってはいけないという古泉自身への戒めである。 とはいえ、いつまでも真剣な表情という訳ではなかった。 すぐに穏和な微笑を浮かべて、普段通りに戻る。 そして立ち上がると、注意深く辺りを見回した。 周囲に人の気配がないことを確認した後、そのまま独り言を始めた。 「死亡した参加者は十四人。百分の十四と考えると、そう多くはありません。 かくいう僕のスコアボードは真っ白――いやはや、試合終了(ゲームセット)までどれだけかかるのでしょうね」 そう言って、大仰に肩をすくめる。 バトルロワイアルの開始からかれこれ六時間が経ったが、古泉は誰一人殺害していない。 “ゲームに乗る”という決意をしたのは早かったのにも関わらず、である。 「ふう……」 古泉は俯いて溜息をついた。 今までに出会った参加者、そして自分の行動を省みる。 暗い校舎内という条件があったとはいえ、油断をしなければあのとき一人殺害できた“かもしれない”。 肩を負傷した状態だったとはいえ、逃走しなければ相手の超能力を知ることができた“かもしれない”。 ついつい“かもしれない”という可能性を考えてしまう。 それは思考の悪循環であることに気付いていながらも、古泉は唇を噛んでいた。 古泉が今までとってきた手は、最悪ではないにしても最良からは程遠かった。 その結果が、今の古泉の状況なのだ。 「肩に銃創、そしてスタングレネードという有用な支給品の無駄遣い……」 声に出して確認すると、改めて散々な結果だとわかる。 生き延びるために払った代償と考えるならば、これは少ない方なのだろう。 だが、生憎と古泉は“生き残る”ことを目標にしている訳ではない。 あくまで“涼宮ハルヒを優勝させる”ために行動しているのだ。 そう考えたとき、六時間で何の成果も挙げずにこの消耗具合というのはどうか。 非常によろしくない、といっていい。 「ふう」 古泉は再び、しかし今度は気を引き締めるように息を吐いた。 既に自身を戒めることは終えた。 涼宮ハルヒは死んでいないし、SOS団も崩壊していない。 ならば今まで通り、行動の全てを“涼宮ハルヒを優勝させる”ために費やすだけだ。 そう区切りをつけて、長いこと止めていた足を動かし始めた。 「足りなかったものは、勝利への貪欲さ、でしょうか」 最後にそう呟いてから、古泉は先を急ぐことに専念する。 その胸に、より強い意志を抱え――しかし顔には、相変わらず微笑を張り付けて。 ■ そして――少年少女は出会う。 ■ 「あれって……?」 黒髪の少女が、倒れた金髪の少年を見つけた。 まず見たのは首元。そこには確かに参加者の証があった。 少女は少年の元に駆け寄ると、息があるかどうかを確認する。 もしも生きているのなら――頭の片隅では、そんな思考をしながら。 「おっ、丁度イイじゃねェか」 白髪の少年は、二人の人間を視界に入れた。 そして、一瞬も躊躇わずに、二人の元へとゆっくり歩いて行く。 二人までの距離は、凡そ百メートル。 どうやって情報を引き出そうか――脳内にあるのは、そのことだけだ。 「……うぅん……」 金髪の少年は、周囲の状況に気付かない。 僅かに声を漏らすが、未だに目覚める気配はない。 ただただ夢を見ているかのように眠るだけ。 ライダー、俺はどうすればいい――散って行った王の名を、呼ぶ。 「……魅ぃちゃんの、仇……」 茶髪の少女は、ぽつりと呟いた。 少年が倒れている場所から少し離れた場所で、三人の少年少女をじっと見つめる。 あの中に仇がいるか否か、見定めているのだ。 …………――その心中が穏やかでないということは、いかに鈍い輩でも分かる。 「ほう……これはまた、面倒な状況ですね」 そして、それら全員を把握するのは超能力者。 茶髪の少女を発見し、後をつけてきた結果がこれだ。 目に見えて危険な人物は二人。返り血を浴びた白髪の少年に、仮面を被った人物。 さて、どうしましょうか――状況から目を離さず、より良い選択肢を探す。 ■ 時刻は午前七時半。 殺し合いに召喚されるまでは、何一つ接点のなかった五人。 彼らの物語は、彼らが出会うことにより加速していく。 【G-7 街/朝】 【天城雪子@ペルソナ4】 【装備:干将・莫耶@Fate/stay night、ゼロの仮面&服@コードギアス 反逆のルルーシュ】 【道具:支給品一式×2、9のPDA@シークレットゲーム-KILLER QUEEN-、ランダム支給品×1】 【状態:疲労(中)】 【思考・行動】 0:どうしよう…… 1:PDAの首輪解除条件に従って行動する=皆殺し。 2:人は殺したくないけど殺さなきゃいけない。 【備考】 ※足立戦終了後からの参戦です。 ※桜井智樹を殺したと思っています。 ※ペルソナはコノハナサクヤで、スキルは威力の大きいものほど体力を消費します。 ※桜井智樹をペルソナ使いと認識しました。 ※仲間と足立以外にもペルソナ使いが居ると推測をたてました。 【一方通行@とある魔術の禁書目録】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、ランダム支給品×3】 【状態:健康、返り血(中)】 【思考・行動】 0:どう話しかけるかねェ 1:不本意だがこの実験に付き合う 2:何を隠してやがる……舐めやがって 【備考】 ※このバトルロワイアルを絶対能力進化実験だと思い込んでおります。 ※能力は制限されています。反射はデフォルトでは出来ません。 ※反射の威力に関しては普通通りですが、建物を投げつける、気流操作で会場全体に攻撃する、などは出来ません。 ※この『実験』の裏には何かあると気付きました。 【北川潤@Kanon】 【装備:ステゴサオルスのTシャツ@AIR】 【所持品:支給品一式、蛇のお札@物語シリーズ】 【状態:疲労(大)、傷(多)、精神的大ダメージ、雛見沢症候群、気絶】 【思考・行動】 0:―――― 1:おっさんの意思を受け継ぎ生きる。 2:みんなと脱出する。 3:真アサシンと長沢は危険。 【備考】 ※共通ルートからの参戦。 ※聖杯戦争の事についてたくさんの説明を受けました。 ※雛見沢症候群が発症しました。症状の進行は後の書き手さんにお任せします。 【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】 【装備:蛇尾丸@BLEACH】 【支給品:支給品一式、ランダム支給品×5】 【状態:疲労(中)、精神不安定、喉元に掻き毟った痕、雛見沢症候群L4】 【思考・行動】 0:????? 1:魅ぃちゃんを殺した犯人を、形見の目の前で残酷に殺す。 2:魅ぃちゃん、沙都子ちゃんの仇を討つためにこのゲームを潰す。 3:圭一くんたちを探す。 ※『皆殺し編』、綿流し祭開始直後からの参加です。 ※魅音のデイパックを受け継ぎました。 ※雛見沢症候群が悪化するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。 【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】 【装備:なし】 【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2、医薬品@現実】 【状態:左肩に銃創(処置済)】 【思考・行動】 0:この状況、どう動きましょうか。 1:涼宮さんを優勝させる。 2:対主催思想持ちの強者は上手く利用していきたい。 【備考】 ※『涼宮ハルヒの暴走』終了後からの参加です。 ※超能力は使えますが、威力が抑えられています。 【医薬品@現実】 古泉一樹がG-5学校で調達。包帯や傷薬など。数量はそう多くない。 【ゼロの服@コードギアス 反逆のルルーシュ】 テロリスト・ゼロが常に着ている服とマントのセット。 これと仮面を身に着けることで、ゼロは正体を隠している。天城雪子に支給。 |102:[[翼ある銃]]|時系列|[[]]| |108:[[Big mouth]]|投下順|110:[[circulation]]| |092:[[輝きのトモキ]]|天城雪子|[[]]| |083:[[白色 の 最強]]|一方通行|[[]]| |057:[[中二病でも殺したい!]]|北川潤|[[]]| |029:[[Island Days]]|竜宮レナ|[[]]| |063:[[とある最強の一方通行]]|古泉一樹|[[]]|

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