少女。
髪が長い。
友達を大事にする。
声がとてもよく似ている。
――そして心が優しい。
そんな共通点を持つ2人はバトルロワイアルが始まって一番最初に出会った人物なのであった。
◆ ◆ ◆
「うわ、びっくりした」
「あははーっ、すいませんびっくりさせてしまいました」
金髪の長い髪をポニーテールにしている少女の神尾観鈴は急に現れた髪が長くてリボンが目立つ少女である倉田佐祐理に驚きの声を上げた。
事前に観鈴を見えていた佐祐理と、佐祐理が見えていなかった観鈴。
落ち着き具合を見れば当然のごとく佐祐理の方が落ち着いていた。
「はじめまして、倉田佐祐理です」
バトルロワイアルという場には相応しくないくらい笑顔が輝いていた佐祐理。
「……私は神尾観鈴です。よろしくお願いします佐祐理さん」
観鈴はその笑顔に往人の顔が思い浮かんだ。
普段は無愛想であまり笑わないけど、本当は優しい。
佐祐理の笑顔は似ていないながらも往人に似ていた気がした。
「あははーっ」
「にはは」
お互いで笑いあった。
どちらも初対面であったが2人には関係なかった。
2人共気にしていないからであった。
◆ ◆ ◆
「観鈴さんも大変でしたね」
「はい。昨日までは夏休みでいっぱいしたい事がありました……にはは」
「夏休みだったんですか?佐祐理のところは雪の降る冬でした」
「冬も楽しいですね」
お母さん、往人さんで雪合戦や雪だるまを作ったりもしてみたいな。
夏じゃなくても秋、冬、春とくる。
それぞれの季節に応じて色々な遊びが出来る。
「観鈴ちん、怖かった……」
首輪の爆発で亡くなった可愛い女の子達。
勇敢に誰よりも素早く立ち向かった男の人。
みんな友達になれるかもしれなかった。
そんな人達が意味なく散っていく姿が怖かった。
笑顔で人殺しが出来る3人が怖かった。
「佐祐理も怖かったです。こんな殺し合いなんか無かったら楽しく過ごせたのに」
「佐祐理さんの知り合いも来てたりするんですか?」
さっき名簿を見た時に往人さんとクラスメートの遠野さんの名前があり、参加させられている事を知った。
だから佐祐理さんの知り合いが居る可能性も高い。
そして、今の佐祐理さんの表情。
――大事な人が居るのではないかと、私は思った。
「舞と祐一さんです。佐祐理の大事な親友です」
先程の笑顔と悲しい表情。
顔に出さない様に努力していたのがわかる。
「まだ死んでいないのに……、巻き込まれただけなのに……、なんで涙が止まらないんだろう……。観鈴さんと会えて安心出来たと思ったのに、ぐすっ……」
無理した仮面が剥がれていた。
佐祐理さんの目は涙いっぱいに溢れていた。
「その、……舞さんと祐一さんを探しましょう」
私は駆け寄った。
同情もするし、共感もする。
私も泣きたいぐらい悲しい。
(……ん?)
あれ?
駆け寄ったらなんでこんな物が目に入るの?
佐祐理さんのポケットから変な形の金属が見えるよ?
見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ、見たらダメ。
――見たらダメ!
あれって……銃?
鉄砲?拳銃?マシンガン?
わからない。
どうして佐祐理さんはこんな物をポケットに忍ばせているの?
私を油断させて殺す為?
ただの護身用?
なんで、なんで、なんで?
私は佐祐理さんに――……。
「さ、佐祐理さん……、その銃は何に使うんですか……?」
自分でも声が臆病風に吹かれているのがよくわかる。
不安定なトーンの、動揺の声。
「……これですか?」
佐祐理さんは涙を拭き、何事もなかったかの様に笑う。
「あははーっ、これはですね脅し用ですよ♪」
笑顔で銃を私に向ける。
今のは嘘泣き。
私を殺す為の演技。
私の中で全てが崩れ始めた。
佐祐理さんの人間像が崩れた。
この場は本当にバトルロワイアルなんだ……。
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ、はぁ……」
女性の人間が倒れている。
いや、既に大量の血を流して死んでいる。
そして、殺害者の人間がすぐ隣に立っていた。
こちらも女性。
――それは一瞬の出来事であった。
女の額に一発。
呆気なく人間が死んだ。
彼女にとってはどんな映画よりも、リアルで嘘くさい現実であった。
「さ、佐祐理…………さん?」
恐怖のあまりに無意識にデイパックの中に収められていた鎌を抜き取り、近付き、振り下ろしていた。
観鈴が我に帰った時には額に鎌の刺さった佐祐理の死体が転がっていた。
自分で殺しを行い、自分で心配をする。
矛盾した行為に気付かない。
「観鈴ちんが……やった……?」
そして、ようやく記憶が追い付く。
まるで徒競走をしていて差が離れすぎたランナーの様に遅いゴールであった。
「あ……?」
そして恐怖の触媒になった銃を彼女は回収しようとする。
本当は触りたくもない物。
でも勇気を振り絞った。
銃を拾う。
「え……?」
そして彼女は気付かなければ楽になれる事があった。
気付いてしまったから、それは自分が悪者で悪人という事がわかってしまった。
「どうして?……弾入ってない……よ?」
観鈴の手に握られた銃には弾が入っていなかった。
どういう事だ?
彼女の頭に何回も何回もそれが襲ってくる。
「佐祐理さんは……私を殺すつもりがなかった?」
彼女は脅し用に使うと言った。
観鈴は自分に当てられた言葉だと思った。
だが、それは襲ってくる参加者に対しての脅しという事であり、――。
「ああ、ぁぁ……」
完全に佐祐理は善人であったのだ。
よき仲間で親友としてこのバトルロワイアルで生きていけたのだ。
そんな彼女を殺してしまった。
彼女の手や体や服には、佐祐理の殺した罪という赤い血がこびり付いていた。
もう二度と取れる事のない赦されない罪。
【倉田佐祐理@Kanon 死亡】
【B-1 街/黎明】
【神尾観鈴@AIR】
【装備:トカレフTT-33 0/8@現実】
【所持品:支給品一式 トカレフの弾丸24/24 ランダム支給品×4】
【状態:動揺、不安定】
【思考・行動】
1:佐祐理さんを殺してしまった……。
2:……。
【備考】
※観鈴ルート確定寸前からの参戦。
※無意識に佐祐理のデイパックを取りましたが、まだ動揺していて精神的に動けません。
※佐祐理の死体には頭に鎌が刺さっています。
【トカレフTT-33@現実】
装弾数8発のソ連軍制式拳銃として第二次世界大戦〜1950年代まで広く用いられた。
【鎌@現実】
尖った鎌。ステンレス製。
最終更新:2015年03月15日 16:51