街路灯も無い道を、直井君と二人で並んで歩いている。

「それでその時、音無さんは……」

直井君は自分の話はせず、歩きながら延々と『音無さん』の話をしている。
『音無さん』への尊敬の念がありありとわかる話し方だが、何分も聞いていると流石に飽きてしまう。
適当な相槌を打ちながら、デバイスを取り出して時間を確認する。
[02:07]という表示を見て、思わず立ち止まり溜息をついた。

「どうした?白鐘」

数歩前の直井君も、立ち止まって話しかけてくる。
時計を見てもう2時間が経っていることを伝える。

「ふむ、2時間も経つのにまだ音無さんと遭遇できていない。これは不味いな」

また『音無さん』か。言いたかったのはそういったことではない。
2時間近く、二人でA-2の街中を細かく捜索したものの、誰一人見つからなかった。
その間に犠牲者はどれほど出ているだろうか、ということだ。

「犠牲者?確かに、もう争いが起きていてもおかしくはないな」

直井君の口から出た言葉に、素直に驚く。
意外とまともなことも考えて――

「まあ、音無さんが死んでいなければ僕はそれでいいのですが」

――いなかった。
あくまで『音無さん』が中心ということか。
名簿にあった『音無結弦』という人によっぽど心酔しているのだろう。
それとも、死後の世界から来たせいで感覚がずれているのかな、と考えていると。


「手を上げろ!」


後ろから、鋭い声が聞こえた。
振り向くと、一人の少年がこちらに銃を構えていた。
しまった、と舌打ちをしたくなる。完全に油断していた。
今自分たちが持っている、武器と呼べるものは、せいぜい螺子ぐらいのものだ。
直井君のデイパックに至っては、確認すらしていない。
此方は既に相手の銃の射程距離に入っている。
ここはひとまず従っておくべきか、それとも抵抗すべきか。
自分にはペルソナ能力がある。不意を突けば形勢逆転も可能だろう。
現に少年には、銃を持つ安心感からか顔に少々の油断が見られる。
今なら行ける、そう確信して行動に移す。

「ペ「動かないで」」

叫ぼうとした矢先、少女の声が聞こえて、同時に喉元に鋭い刃があてがわれていた。
目の前には少女が居る。タイミングを考えて、少年の仲間なのだろう。
刃をあてがう少女の眼には哀れみや蔑みといった感情はまったく感じられない。
職業柄、人間を観察する機会の多い僕ですら見たことのない眼だった。
無感情。
少女を表すには、その三文字で事足りた。
ともあれこれで、ペルソナの召喚は封じられてしまった。
諦めて、デイパックを少年の方向へ投げる。直井君もそれに従った。

「驚かせて済まない。俺はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

少年はそれを確認すると、銃を構えた手を下ろした。
僕と直井君に近付きながら、自己紹介をする少年。
相手の警戒を解こうとしているのか、先程の様な鋭い声では無く、優しい声だ。
それに、近づいてきたお陰で見えた、整った顔立ちと、細身の体。
総合して見れば、かなりの美少年だ。
そして気づく。この少年は、シャルル・ジ・ブリタニアに食って掛かったあの少年だ、と。

「そしてその少女は立華奏。君なら知っているんじゃないか?…直井文人君」
「……ええ、知っていますよ……生徒会長」

直井君は悔しげだった。ルルーシュの上から目線が気に入らないのだろう。
それより本当に関係者だったとは驚いた。
広い島の中でこうも早く知り合いと会えるというのは、どういう気持ちなのか。
しかし立華と紹介された少女が言葉を発することはなかった。
そう親しい間柄ではなかったのだろうか、推測ならいくらでもできる。
が、それよりも僕が気になったのは。
『ルルーシュが少女を手駒のように扱っている』ことだ。
勿論これも気になっただけに過ぎない。少女は良心からルルーシュに協力しているかもしれない。
だが殺し合いに巻き込まれた少女を利用している、という可能性も捨てきれない。
疑念の混じった視線をルルーシュに向ける。
気づいていない筈はないのだが、ルルーシュは変わらず続ける。

「だったら話は早い。俺たちは殺し合いに乗るつもりは無い。ぜひ協力をしてほしいのだが……」

直井君を見るが、我関せずと言った様子だ。
数時間行動を共にして理解したのは、直井君はこういった上からの物言いを嫌う。
対してルルーシュはそんな直井君の様子は意に介していないようだ。
とりあえず了解の意を伝えると、ようやく『生徒会長』とやらが離れて行った。
刃が一瞬で消えたように見えたが、一体どういう仕組みになっているのだろうか。
ペルソナの様な異質な力なのかもしれない。

「感謝する。立ち話もなんだから、あの喫茶店で話そう」

ルルーシュは言うが早いか、僕たちのデイパックを拾い、喫茶店へと向かっている。
生徒会長とやらは、店内に入るつもりは無いらしい。見張りというわけか。
逃げるべきか。いや、デイパックが無いのに動くことは危険。
ここは素直に従うしかない。
直井君に目配せをして、喫茶店へと入った。



◆◇◆◇◆◇◆



そして、喫茶店の店内で、一つの声が響く。

“――――枢木スザクを守れ――――”

誰が発した言葉なのか、知る者は一人だけ。



◆◇◆◇◆◇◆



私が外の見張りをしていると、喫茶店のドアが開いて二人が出てきた。
直井文人と白鐘直斗は、彼らが来た道へと歩き去って行く。
私たちを振り返ることもなく、ゆっくりと、さながら操り人形の様に。

私は喫茶店の中に入ると、ルルーシュは丸テーブルの近くに立っていた。
満足そうな笑みを浮かべているルルーシュに近寄り、先程のことを尋ねる。

「……彼らに何をしたの?」
勿論、先程の二人のことだ。
「島を探索しながら枢木スザクを捜すことを『頼んだ』だけだ」
平然と言うルルーシュ。
枢木スザク。先程その名前を見つけた時は動揺していたようだが、よほど大切な人なのだろうか。
そんなことも考えたが、それとはまた別の、湧いてくる疑問を優先させた。


「素直に言うことを聞いてくれたの?」
白鐘直斗は知り合いではないので、性格は知らない。
だが、少なくとも直井文人はそんな人物では無かったはずだ。
彼は結弦君たちと行動しているが、結弦君以外へ向ける態度は決して良いものではない。
そんな彼が、この島で会ったばかりのルルーシュの言葉を信じ、それに従うことなどあるのか。
「ああ、俺が主催者に対抗することを言ったら、快く承諾してくれたよ」
再び口元に僅かな笑みを作り、ルルーシュは答える。
疑問が更に湧いてくる。本当に?絶対に?


「……そう」
だが、私はそこで追及を緩める。これ以上は無意味だ。
彼らが操られているとしても、それを証明する術は無い。
いや、そもそもルルーシュの言っていることが本当か嘘か、判断する術も私には無い。
疑う必要など無いのだ。
それに、どうにも眠い。
「ガードスキル」の使用には、普段よりも僅かだが負担がかかるらしい。
ルルーシュの言動に、能力の使用。注意すべきことが多い、と考えながら、私はソファに腰掛けて目を閉じた。



◆◇◆◇◆◇◆



会話を終えた白鐘に促されて、喫茶店から出る。
白鐘が、歩きながら会話の内容を教えてきた。
と言っても、情報交換は殆どせず、スタンスとこれからの行動を確認し合っただけのようだ。
ちなみに僕は、ずっとルルーシュの眼を見ていた。
あの眼は自分に自信を持っている人間の眼だった。
白鐘がルルーシュから頼まれたのは、以下のようなことだったらしい。

  • 島の東側のエリアを探索する。
  • 枢木スザクを最優先に捜索する。
  • 24:00ごろに島の南側の街で合流する。


大雑把だなと思ったが、ルルーシュ曰く『行動方針を細かく決めすぎるのは危険』なのだそうだ。
確かにこれならば、自由な時間も多く取れる。
だが、一つ気にかかるのは、枢木スザク――名簿にもあった、あの男の知り合いらしい男。
この男は騎士で、戦闘能力も高いらしい。味方につければ百人力と言っても過言ではないとか。
白鐘はルルーシュに、スザクとやらの容姿や特徴をこと細かに教えられたそうだ。
どうやら是が非でも捜させたいらしい。
本来ならば、『神』である僕は生意気な発言など聞いてやる必要もないのだが。
認めたくはないが、ルルーシュの頭脳は中々のようだ。
主催者のシャルル・ジ・ブリタニアとも関係があるようだし、ルルーシュが居れば脱出も可能かも知れない。
今はどうあれ、その内に利用してやるさ。
そう考えて、『神』である僕はルルーシュの頼みを聞いてやることにした。
デバイスを見ると、[03:41]の表示。
1時間半近く潰してしまったが、これからの行動も決まった。
とにかく早く、音無さんを捜しに行こう。


絶対遵守に縛られた二人は、されどその事実を知ることなく道を進んでいく。


【A-2 喫茶店付近/黎明】


【直井文人@Angel Beats!】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×3(未確認)】
【状態:健康、ギアス】
【思考・行動】
1:音無さんと合流したい。
2:音無さん以外の世界戦線メンバー、直斗の仲間。
3:島からの脱出。この島に不吉を感じている。
4:気にくわないが、ルルーシュに言われた通りに行動してやる。
【備考】
※ユイが消える少し前からの参戦です。
※現在『枢木スザクを守れ』のギアスにかかっています。
ギアスの効果は、枢木スザクを見つけたときに発動します。


【白鐘直斗@ペルソナ4】
【装備:球磨川禊の螺子@めだかボックス】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2(確認済み、武器と認識出来るものはない)】
【状態:健康、ギアス】
【思考・行動】
1:先輩方または戦線メンバーとの合流。
2:打倒主催者、多くの人を集めて島からの脱出。
3:直井と共に地図を端から探索していく。
4:疑念はあるものの、ルルーシュに言われた通りに行動する。
【備考】
※自称特別捜査隊に加わった後からの参戦です。
※枢木スザクの容姿を教えられました。
※現在『枢木スザクを守れ』のギアスにかかっています。
ギアスの効果は、枢木スザクを見つけたときに発動します。



◆◇◆◇◆◇◆



「……ふぅ」
あの二人が喫茶店から見えない位置まで離れたことを確認して、ソファに戻る。
銀髪の少女が椅子に座って、目をとろんとさせている。
実に不思議な印象を受ける少女だ。
シャーリーのような純粋さ、カレンのような強さ、C.C.のような妖しさ、そのどれでもない印象。
あえて言えば『無』だろうか。
表情が少ないというか、ほぼ無い。口数も少ない。まるで作られたロボットのようだ。
全く持って、この物静かな少女が『天使』だというのは信じがたい。

「疲れたのか?無理もないな、少し休むといい」
そう声をかけながら、近くにあった布を天使の小さな体に被せる。
大丈夫、寝ないわ、と口では言いながらも、そのまぶたは徐々に徐々に閉じられていく。
やがて天使の目は完全に閉じた。
細く寝息を立てる少女を見ると、今この状況を一瞬忘れることが出来る。
だが、俺にはそれよりも心配なことがある。

「あの二人への細工は上手くいったが……」
二人には、最初に『枢木スザクを守れ』というギアスを掛けた。
その後に、もう一度島の探索と、スザクの捜索を頼んだ。
白鐘とかいう男にスザクの特徴を細かく教えておいたから、見逃すことはないはずだ。
絶対遵守の力を持ってすれば、あの二人は必ずスザクを守ろうとするだろう。
そうすれば、スザクの生存率は格段に高くなるといえる。
しかし、と俺自身も椅子に腰掛けて考える。一抹の不安も残っている。


「……お前は、ユフィを救おうとするのだろうな」
ユーフェミア・リ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国第三皇女で、俺とは異母兄弟の女性。
俺の初恋で、俺が原因で日本人の大量虐殺を起こした上に、最後は俺が殺した女性だ。
そんな彼女が生きていて、この殺し合いに参加させられているのだ。
彼女の騎士だったスザクなら、十中八九、否、確実に彼女を守ろうとするだろう。
それだけならば問題は無い。そう、守ろうとするのみならば。

「ユフィを優勝させようなどと、考えていないだろうな……」
ユフィを守りながら対主催を目指すのならまだしも、俺と同じように、他人と自らを犠牲にする道を行ってほしくはない。
スザクらしいと言えばそれまでだが、殺そうとして逆に殺されては困る。
元の世界に戻り、ナナリーを守って貰わなければいけないのだから。
そう、ナナリーとスザクと、また――。
そこまで考えて、自分が甘い考えを抱いていたことに気付く。


「フッ……俺は何処かで、ナナリーにまた会えると思っていたらしい」
例えこの場がバトルロワイアルとはいえ、死した自分がここに生き返ったという事実。
そのことに、気付かなかいほど僅かに、だが確実に浮かれていたらしい。
そのため、甘い考えを捨てきれずにいた。
『スザクを生き返らせる』だけでなく、『生き返ってナナリーと会う』ことを無意識に考えていた。
故に、まだ迷っていたのだろう。


「……スザク、お前は当然理解しているのだろうな……撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだと……」
懐から出した銃を握って呟く。
騎士であり、軍人であるために死と隣り合わせであるスザクは、覚悟などとうに出来ているだろう。
ならば俺も、それ相応の覚悟を決めておくべきだ。
どうせ俺はゼロレクイエムで死んだ人間だ。また死のうが構わない。
だが、スザクを生還させる為、利用できる人物は利用する。無用な人物は――殺す。
たとえ俺が死のうが、スザクだけは――。
ふぅ、と息を付き、椅子から立ち上がる。そして、

「我が名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!
 スザク、俺はお前の為、そしてナナリーの為ならば、この銃を撃つことも辞さない!」

高らかにそう宣言し、覚悟を決めた。



【A-2 喫茶店店内/黎明】


【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
【装備:デリンジャー2/2@現実】
【所持品:支給品一式、デリンジャーの残弾10/10ランダム支給品×2】
【状態:健康、覚悟】
【思考・行動】
1:スザクを優勝させる。
2:1のため利用できる人物は利用し、無用な人物は殺害も辞さない。
3:天使と行動する。
4:島の西側を探索し、24:00ごろに南側の街であの二人と合流する。
【備考】
※死後からの参戦です。
※ギアス制限あり。人の目を見て3メートル以内。『死ね』や『自殺しろ』の命令は無効です。
※白鐘直斗の知り合いの名前を記憶しましたが、今のところ探す気はないようです。


【立華奏@Angel Beats!】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×3】
【状態:疲労(小)、睡眠中】
【思考・行動】
0:……
1:結弦を探す。
2:ルルーシュと行動する。
3:ルルーシュの言動に注意。
【備考】
※最終話直前からの参戦。
※ハーモニクス(コピー能力)のみ制限。


【デリンジャー@現実】
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに支給。
装弾数2発、手に収めることが出来るほどの小型の拳銃。

【球磨川禊の螺子@めだかボックス】
白鐘直斗に支給。
大きな螺子で、球磨川禊が武器としてよく使用する物。


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最終更新:2012年11月24日 21:23