008



人吉善吉という人間を説明するとする。

人吉瞳の一人息子で、
箱庭学園1年1組所属で、
箱庭学園第98・99代生徒会執行部庶務で、
格闘技・サバットの使い手で、
欲視力(パラサイトシーイング)の持ち主で、
並外れた服装センスの持ち主で、
「デビル」「カッ!」が口癖で、
普通(ノーマル)の人間で、
口調はぶっきらぼうで、
でも実は真面目で、
かなりの努力家で、
友情に厚くて、
実際は臆病で、
母想いの男。

たった一人の人間にも、これだけの情報がある。
だいぶ主観が入っているが、そのことを抜きにしても、一人の人間を説明するには事足りる情報量だ。

だがやはり、人吉善吉という人間を語るには、黒神めだかの存在は欠かせない。
二歳の頃から、めだかと常に一緒に過ごしてきた。
めだかに生きる意味を与え、また、めだかから傍に居る価値を与えられ。
少々歪とはいえ、二人は支え合いながら生きてきた。
そんな使い古した上に青臭い表現にも、なんら違和感がない関係。

善吉は、めだかの一番の理解者としてめだかの傍にいる。
目安箱の案件を解決するときも。
フラスコ計画を破壊するときも。
生徒会戦挙戦で決闘するときも。

そして、今このときも。
意図してか否かは関係なく。
善吉はめだかの傍に居続けるために、無謀ともいえる闘いに挑む。



009



絶対に倒す。
ただそれだけの思いを胸に、俺は眼帯野郎と対峙していた。

「うおおおおおっ!」

試合開始のゴングも待たずに、俺は眼帯野郎に向かって駆けだした。
先手必勝、攻撃は最大の防御だ。
一気に距離を詰めて、間合いを測ることもせずに踏み込む。

「おらぁっ!」

先制の一撃は、首を狙った蹴り。
だが、それは眼帯野郎が少し体を逸らしただけで、いとも容易く避けられた。
俺の右脚が風を切る音だけが、空しく聞こえた。
歯をむき出して笑った顔が見える。
脚を戻し、体勢を整えてから舌打ち。
こうも当然のように回避されるとは予想外だ。
実力差ってやつを見せつけられたようで気分が悪い。
鍛練は人並みに積んでいるつもりだが、どうやらまだ足らないらしい。

「おらあっ!」

勿論、先制攻撃を外したからといって諦めはしない。
眼帯野郎は、まだ蹴りが届く間合いにいる。
脚を素早く切り替えて、左脚でハイキック。
そこから続けざまに五本。
左右交互に、全て人に当たれば脳震盪を起こせるくらいの威力で蹴りを見舞う。
だが、しかし。

「へっ」

俺の蹴りは、一撃たりとも、掠りもしなかった。
如何に強力な攻撃だったとしても、当たらなければどうということはない。
そう言いたげな、眼帯野郎の余裕な表情が視界に入る。

「く……」

焦燥感が俺を支配する。
少女の前であれだけカッコつけておいて、傷一つ付けられないのか。
そんな囁きが、どこかから聞こえた気がした。

「くそっ!」

俺は次の手を考えるよりも速く、眼帯野郎へと足を繰り出した。
馬鹿正直に連撃したところで、全て避けられる。
ならどうする。
俺が考えたのは、月並みで申し訳ないがフェイントだ。
眼帯野郎の立っている位置と体勢から、攻撃が可能な箇所を探す。
そして先程と変わらない強力な蹴り――と見せかけて、身体を横にずらす。
見定めておいた、刀の防御が追いつかないであろう背中の一点に、蹴りを叩き込んだ――。

「がっ……は!」

――刹那の後。
肺が圧迫される感覚と同時に、俺は数メートルほど地面を転がっていた。
二転三転どころか七転八倒だ。
なんて、詰まらないボケをかましている余裕もない。
土が擦れる音で、眼帯野郎が近付いてきたと分かった。

「猛襲が通じねえなら奇襲。状況に応じて戦い方を変えるのは初歩の初歩だ。
 上手くできてるとは思うが――それだけじゃあ俺は倒せねえ」

そうして、俺を見下ろしながら指南めいたものを垂れた。
ご丁寧にどうも、と言いたいところだったが、胸の痛みがそれを拒否した。
ただ、黙って殺されるわけにはいかない。
俺はまだ満足に呼吸のできない身体を無理やり立ち上がらせると、落ち着くために呼吸を整えた。
ふと気づくと、手の平に汗が滲んでいた。動揺の表れだ。

「……読まれたってのかよ……」

口に出して確認するまでもなく、俺の攻撃は相手に予測されていたらしい。
蹴りが眼帯野郎に当たるか当たらないか、その一瞬の間に、俺は眼帯野郎に刀の柄で一撃を貰ったというわけだ。
初めて闘った相手に、フェイントを見破られた。
とても信じられないし、信じたくもなかったが、胸の痛みが証拠となっている。

「へっへっ……」

笑う眼帯野郎を見ると、手にした刀を未だに構えていない。
あからさまに舐められている。

「どうした?まだ終わりじゃあねえだろう?」

その眼帯野郎が、ふてぶてしい声で話しかけてきた。
闘いを催促するかのように、持ち前の鋭い眼光で俺を射竦めた。
そのとき俺は、自分の脚が、身体が、震えていることに気付いた。
それは肉体の痛みから来る震えではない――認めたくはないが、眼帯野郎の強さに怯えているということだろう。
まるで伝説上の鬼か、悪魔か、死神か、と思うくらいに。
鬼にも悪魔にも、もちろん死神にも出遭ったことはないけどな。

「カッ……俺は確かに普段からデビルとか好んで言ってはいるが、本物に会いたいとかそういう願望はないぜ」

俺は、目の前の眼帯野郎への絶望感と、自嘲を含めて呟いた。
実際問題、この眼帯野郎の戦闘力は、めだかちゃんにも引けを取らないかもしれない。
めだかちゃんレベルの相手を、俺がどうこうできるとは思えない。
それが今の俺の、正直な気持ちだった。

「おいおい、まだ始まったばかりだろうが」

そんな俺の弱気な心を読んだかのように、眼帯野郎が乱暴に言い放った。
低くドスの利いた、かつ僅かに落胆を含んだ声。
笑顔は消えて、鋭い眼光が残る。
俺には眼帯野郎が、失望させるなよ、と暗に言っている気がした。

「言われなくても、っ!」

身体の痛みを振り切るように、俺は叫んだ。
血と泥で汚れた制服の上着を脱いで、後ろに放り投げる。
シャツ一枚の姿になった俺は、ズボンのポケットをまさぐった。

「……ああ?」

眼帯野郎が怪訝な顔つきをするが、構ってはいられない。
ポケットから取り出した小瓶を開けて、錠剤を取り出す。
『死ぬ気丸』。
俺のランダム支給品として入っていたそれは、文字通り、死ぬ気になれる薬らしい。
仕組みはよく分からないが、使うべきなのは今だと確信していた。

「なにしてる、人吉!敵が目の前にいるんだぞ!?」

後ろから坂上先輩の声がした。
だが、目の前にいる眼帯野郎は、先程から微塵も動いていない。
油断しているのか、余裕で構えているのか。
なんにせよ、薬を使うチャンスは――死ぬ気で闘うべきなのは――今だ。
そう考えた俺は、錠剤を一粒、口に含んだ。



010



調子が良い。
最初に抱いた感想はそれだった。
次に抱いたのは、頭が熱い、という小学生並みの感想だ。
額に掌を近付けると、炎らしきものの揺らめきが感じられた。
それは直接触っても熱くはなかった。
本当に熱いのは――そう、心の中に熱く燃え盛る炎。
死ぬ気の炎という未知の領域に踏み込んだ俺は、けれど困惑することなく、再び眼帯野郎に向かって行った。

さっきよりも速さと威力の増した蹴りを、眼帯野郎の胴に叩き込む。
その瞬間、眼帯野郎は「ぐうっ」と呻いた。
綺麗に蹴りが入った。この戦闘が始まって初めて。
そう思うと、高揚せずにはいられなかった。
この機を逃すわけはない。
頭へ、腰へ、再び胴へ。
俺は立て続けに蹴りを入れた。

全てがジャストミートした感触を得たとき、俺は思った。
倒せるのではないかと。
勝てるのではないかと。
眼帯野郎を打ち破る、一筋の光明が見えた気がした。








――しかし。
――現実は甘くない。
――死ぬ気の炎も、圧倒的な実力差の前には、大した意味を為さない。








「が、はっ……」

数分後、片膝を着いていたのは俺だった。
眼帯野郎への蹴りは、入ることは入る。
だが、そこからのカウンターの一撃の重さが、俺の蹴りの比ではない。
一撃を決めたところで、更に強い一撃で返されるのでは、どちらが先に力尽きるかは明白だ。

それに、眼帯野郎は、何故か刀で斬るという動作をしてこない。
攻撃方法は柄で撲る、刀の峰で打つなどに限定している。
何故かと考えれば、それは実力差があるからに他ならない。
俺は未だに、眼帯野郎に舐められているのだ。

(――足りないっていうのか)

死ぬ気で挑んでも、勝ちが見えない。
俺は再び、絶望感に押し潰されていた。
精神的な面か、肉体的な面か。どちらかは分からないが、もう、立つことも難しい。
いつの間にか熱さを失った身体は、すっかり重くなっていた。

(もう、駄目、なのか……?)
「……終わりか」

顔を上げることができない俺に、眼帯野郎はそう言った。
その声に含まれた明らかな失望も、今の俺にはなんの効果もなかった。
反駁する気力もない。

――死ぬ気の炎は、目的を果たしていない場合、五分で消失する。
――そして、このとき、死ぬ気丸の効果は切れていた。
――そうとも知らずに意気消沈する善吉に、悪鬼はゆっくりと近づき、刀を大上段に振り上げる。
――死神の鎌よろしく、命を奪わんとする鋭い刃。
――しかし、その手は振り下ろされずに止まった。



011



「待てっ!タイムだ、タイム!」
「……ああん?」

割り込んできた声。それは相沢のものだった。
俺が顔を上げると、相沢は俺と眼帯野郎の間に身体を割り込ませていた。
その身体は僅かだが震えており、相沢が必死であることが分かった。

「これからこの人吉善吉が、もっと強くなって、お前を倒す。だけどそれには準備が要る。だから時間をくれ」
「……五分だ」
「せめて五分くらい――って、は?」
「さっさとしろ。俺の興が醒める前にな」

相沢の説得に対して、横柄な態度でそう言ってから、眼帯野郎は俺と相沢に背を向けた。
それを確認した相沢は、悪鬼があまりに簡単に刀を収めたことに拍子抜けしたような顔をしていた。
だが、すぐさま我に返ったように真顔になると、即座に俺の胸倉を掴んだ。
そして一瞬の後、力任せに殴った。
ひどく痛かった。
どうやら口の中が切れたらしく、血の味がした。

「お前、あれだけ大見得切っておいて諦めちまうのか?」
「……だけど、そう言ったってよ……奴には敵う気がしない」

掛けられた言葉は、予想していたものだった。
俺は予定調和のように、弱気な心を曝け出す。
先程の闘いは、圧倒的な実力差は、死ぬ気になろうと埋められない、と教えられたようなものだ。
――お前じゃ俺には勝てない――そう言われただけだった。
今さらどう励まされたところで、この実力差は埋められないのだ。
だが、次の相沢の言葉に、俺は顔を上げた。

「確かに俺は、お前のことをよくは知らない。
 でもな、お前がここで挫けるような奴には見えないんだ」

沈み切っていた俺は、相沢のまっすぐな瞳に、言葉を失った。
まったく予想外の方面からの発破だった。

「俺自身、満足に戦えないから、こんなことを言うのは筋違いというか、完全に第三者としての言葉になっちまう」

そういえば、相沢自身、肉体的にも精神的にも、余裕があるわけではないはずだ。
だというのに、身の危険を冒して、俺を立ち直らせようとしてくれている。
真摯な眼差しを向けてくれている。
何故だろうか。

「けど、お前は女の子を守るために立ち上がれるようなやつだ!
 一度立ち上がったんだ、そう簡単に諦めるのは……なんかこう、違うだろ!」

答えは単純だった。
相沢も、俺と同じ思いなのだ。
もしかしたら、それ以上に、俺と相沢は似ているのかもしれない。
眼帯野郎が女の子を襲おうとしたときも、俺が庇わなければ、相沢が庇っていたに違いない。
きっと相沢も、俺と同じで困っている人は条件反射で助けてしまう、そんな人間なんだ。
少しの親近感を覚えて、同時にあることに気付くことができた。

「そうだな、大事なのは彼我の実力差うんぬんじゃない」

それ以前の問題だった。

「思い出したよ、俺のすべきことを」

如何な内容でも。
如何な条件でも。
如何な困難でも。
如何な理不尽でも。

「全てを享受する、それが、箱庭学園生徒会執行部だ」

そしてそれが、俺の大事な居場所だ。
今の今まで忘れていたことを、相沢のお陰で思い出せた。
自分の中にある原点に、立ち返ったようなものだ。
そうだ、俺は負けるわけにはいかない。
どんなに強大な敵でも、必ず打ち破るのだ。
思いを再確認することで、心に立ち込めていた絶望感は晴れてきた。

「……大丈夫みたいだな」
「ん、何がだ?」
「人吉、お前の瞳はまだ死んでない」

正直この言い回しはいささかクサいように思えた。
喜界島あたりが聞いたら、ドン引きだろうな。
でも、俺は口角が吊り上がることを抑えられなかった。
そして、ニヤリとした表情のまま言った。

「……その台詞、デビルかっけえな」

相沢は少し不思議そうな顔をして、無視して話を続けた。
抱えていたデイパックから、装飾のされた靴と、その説明書を取り出して俺に手渡す。
「モーセの奇跡」と銘打たれたこの武器は、どうやら攻撃力やクリティカル率が上がるらしい。なんのこっちゃ。
わけが分からないと思いつつ、俺の履いていた靴よりは強そうだとも思った。

「これを履け。俺の支給品だが、足が武器のお前が使った方がいい」
「小さくないか?これ」

少し笑って「俺に文句を言うのは筋違いだ」と言う相沢。
俺もつられて、口もとが緩んだ。
そろそろ、五分が経つだろう。
靴を履きかえた俺は、膝に手を着いて、ゆっくりと立ち上がった。
そして、再び死ぬ気丸を口に含む。

「……じゃあ、行ってくる」

身体が熱くなるのを、冷えた頭で認識しながら、俺は相沢にそう言った。
ついでに、邪魔になると思ったから、死ぬ気丸の入った瓶を渡しておく。
受け取った相沢は、俺にゲンコツを向けた。
俺もゲンコツを作り、それに応じる。
すると少し笑って、相沢は言った。

「行って来い」

そのまま、坂上先輩の方へと戻っていく相沢。
俺が意識を入れ替えて前を向くと、悪鬼がゆっくりと振り向いた。
そのいかつい顔には、待っていたぞと言わんばかりに、満面の笑みを湛えている。
俺は、ふっと息を吐いて、覚悟を決めた。
覚悟を言葉に、強く刻み込むように宣言する。

「俺はっ!お前に勝つ!!」



012



「うっ……」

宣言した直後に、死ぬ気丸の効果が現れる。
身体が芯から熱くなるような感覚。
心の底から湧き上がる、ある強い気持ち。
それは、ついさっき薬を飲んだときよりも、なお強くなっていた。
戦いに挑む覚悟が、今度こそ完了したからだろう。

「見える」

目を閉じる。感覚が最大まで研ぎ澄まされているのを感じる。
鮮明に見えるのは、たくさんの顔。
阿久根先輩の不敵な笑みが。
喜界島の心配そうにする顔が。
不知火の無邪気で残酷な笑顔が。

「俺は……」

見えてくる。
宗像の無表情に応援してくる顔が。
名瀬師匠の心底呆れたような顔が。
江迎の人を殺してしまいそうな顔が。
真黒さんの落ち着き払った優しい顔が。

「俺は、いろんな人に支えられていた……」

更に目を凝らす。
日向の顔が、鍋島先輩の顔が、雲仙先輩の顔が、母さんの顔が。
都城王土の顔が、日之影先輩の顔が、安心院さんの顔が。
俺が箱庭学園で関わって来た、およそ考えうる限り全員の姿が。
みんなが俺を見ている姿が、見える。
ここで死ねば、俺は必ず後悔する。

「失いたくない……!」

そして、めだかちゃんの凛とした立ち姿が、はっきりと見えた。
めだかちゃんは、俺を見てはいない。
ただ、何も心配をすることはないとでも言うように、どっしりと構えている。
その姿に、何故だか俺は安心した。
ゆっくりと、目を開ける。
目の前にあるのは、死神の姿。
俺は、圧倒的な強さを持つそいつに言い放つ。

「俺は、死ぬ気でお前を倒す!!
 倒さなきゃ……死んでも死にきれねえっ!!!」

後悔を力に変える。
それが、死ぬ気の力――これが、死ぬ気の炎。

「生徒会を執行するぜ!」

これが、俺の居場所――そして、俺の誇り。



013



唐突ですが、再び撫子視点で進みます。

「な……?」
「……へっ」

ポタポタと、地面を緋色に染める鮮血。
それは、悪鬼のものであり、人吉さんのものでした。
二人が血を流している一番の原因は、言うまでもなく撫子です。
撫子がしたことは単純明快です。
持っていた武器、すごい長さに伸びる神鎗という刀を、伸ばしただけのことなのです。
撫子が最初に悪鬼を見たときにしたのと、同じことをしただけです。

違うのは、故意にやったか否か。
意図してやったか否か。
意識してやったか否か。
もっと言えば、殺意があったか否かです。

「な……」

人吉さんが、ゆっくりと後ろを振り向きます。
苦悶の表情を浮かべており、口の端からは血がたらたらと流れ出ています。
撫子が刺したことに気付いた人吉さんは、目を見開いて、すぐに力が抜けたような顔になりました。
それは少し寂しそうにも見えました。
人吉さんの寂しそうな顔を見るのは些か心が痛みます。
しかし、撫子が人吉さんを刺すことになった原因は、人吉さんの言葉です。

“――俺がアイツを倒すから、心配するな――”

こんな優しい言葉をかけてくれる人は、暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。
自分の体を、命を張って、年下の少女を守ってくれる存在など、暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。
完全無欠でパーフェクト、文句の付けようのない完璧人間であるところの暦お兄ちゃんの他にはいませんでした。

いえ、いてはいけないのです。

人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ていると、わずかでも感じてしまった撫子を消し去りたいです。
でもそれは自殺なので、そんなことをしたら暦お兄ちゃんは悲しむでしょうし、怒りもするでしょう。
それよりなにより、撫子が暦お兄ちゃんに会うことができなくなってしまいます。
だから、認めるわけにはいかないのです。
人吉さんは少しも暦お兄ちゃんに似ていません。
決して、絶対に、似ていません。
それを確定事項にするために、人吉さんには死んでもらうしかありませんでした。
人吉さんを殺し、人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ていると感じた、という事実を消してしまえばいいのです。
我ながら完璧なアイデアだと思います。

「はは、っ……デビル、かっこ、わりー……」

人吉さんは、両膝を地面につけると、そう独白しました。
そしてそのまま、力なく前のめりに倒れていきます。
死ぬときは前のめり。立派な男ですね。
もちろん、暦お兄ちゃんには遠く及びませんよ。



【人吉善吉@めだかボックス 死亡】



これでオッケー。
もう撫子が人吉さんのことを暦お兄ちゃんに似ているなどと考えることはなくなりました。
一件落着、いえ、まだでしたね。

「人吉いぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

男の人の叫び声が聞こえましたが、無視します。
もっと面倒な悪鬼が、人吉さんの後ろに控えているのですから。

「ははははは!これだから殺し合いはおもしれえんだ……!」

悪鬼は、ふらつきながらも倒れることなく笑っています。
やっぱり怖いです。狂気の沙汰としか思えません。殺しておきましょう。
暦お兄ちゃんが殺されでもしたら困りますからね。

心臓を狙って伸ばした刀は、狙いは外れました。
ですが、撫子が最初に悪鬼に刀を刺したときとは比べ物にならない量の血が出ています。
独特な模様の羽織は、赤くない箇所の方が少なくなっています。
心臓ではなくとも、うまく内臓を突き刺せたのかもしれません。
現に、悪鬼の動きはかなり鈍くなっています。
鈍重です。それはもう、牧場の牛さんかと思うくらいに。
それでもなお、刀を振りかざそうとする悪鬼に、撫子は再び刀を刺しました。
一回では不安だったので、もう一度。
出血量は凄いけど、でもやっぱり不安なのでもう一度。
手ごたえが今までと違って、かなり重たかったけど、念のためもう一度。

もう一度。
もう一度。もう一度。
もう一度。もう一度。もう一度。
もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。
もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。
もういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちどもういちど。



【更木剣八@BLEACH 死亡】



「ふう……」

今度こそ、悪鬼は動かなくなりました。立ち往生です。
確実に死んだでしょう。
なんといっても、余すところなく、全身くまなく刺されたのですから。
まだ原型を留めているのが、不思議なくらいです。
まあ死んだからいいんですけど。
結果オーライというやつです。
さてと。
はた、と後ろを振り向くと、ぽかんと口を開ける男女がいました。
まるで自分たちの目にしたことが、夢であるかのような表情です。
撫子は、そんな二人を尻目に、血の付いた刀を持って、走り出しました。
たたたた、と。小走りで。
返り血を浴びない武器でよかった、なんて、他愛ないことを考えながら。



014



凶暴な悪鬼と勇敢な青年は、横槍によって死にました。
そんなことに関係なく、撫子の物語はまだまだ続きます。
ただ進むのではなく、加速していきます。
そんな中で、撫子はどう行動したらいいのでしょうか。
混乱した状況。
どこともわからぬ森の中に一人。
まずはこの状況において撫子がどう動くか、それを決めないといけません。

可能性は無限大――クチナワさんの言ったとおりです。
物語はあらゆる可能性を秘めています。
ヒーロー参上勧善懲悪の熱血王道展開にも。
主催者登場謎が謎呼ぶミステリー展開にも。
血みどろドロドロ残酷描写のグロ展開にも。
行動ひとつで、どんな展開にも成り得ます。

でも、やっぱり。
純真無垢な少女が望むのは、ベタなラブストーリーです。
結局のところ撫子は、すぐにでも暦お兄ちゃんと会いたいのです。
撫子を心配して、かけつけてきた暦お兄ちゃんに、これでもかと抱き着く。
そんな展開に、物語を傾けていくためにも。

『ごめんなさいね参加者の皆さん。改めて進行役の郷田真弓です。』

なにやら臨時の放送があるようです。
良い契機になるかもしれませんね。
ゆっくりと息を吐いて、体内の血液を循環させて、呼吸を整えます。
さあ、それではいきましょう。
しんどいけれど、やるしかないのですから。

運命を決める、と言っては大袈裟ですかね?
なにはともあれ、シンキングタイム、スタート。




【E-4 森/午前(番外放送直後)】

【千石撫子@物語シリーズ】
【装備:神鎗@BLEACH】
【所持品:支給品一式、ランダム支給品×2】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(大)】
【思考・行動】
0:しんどいけど、どうしようか考える。
1:クチナワさんの体を探す。
2:暦お兄ちゃんは死んでほしくない。
【備考】
※囮物語の暦の家で寝泊まりした直後からの参戦です。
※彼女は右腕にある白いシュシュをクチナワという神になっているという妄想に取り憑かれています。
しかし、人前ではこの妄想は発生しません。
※クチナワの体は蛇のお札で、撫子がお札を食べてしまうと神様になり同時に怪異になります。


【坂上智代@CLANNAD】
【装備:薙刀@現実】
【所持品:支給品一式、巨大な十字架@物語シリーズ、タマ@ハヤテのごとく!、ランダム支給品×1】
【状態:健康、呆然自失】
【思考・行動】
0:……。
1:朋也たちと合流
2:ゲームをぶっ壊す
【備考】
※智代ルート、卒業式直前からの参戦です


【相沢祐一@Kanon】
【装備:木刀正宗@ハヤテのごとく!、死ぬ気丸×8@家庭教師ヒットマンREBORN!】
【所持品:支給品一式×2、レインボーパン@CLANNAD、ランダム支給品×2】
【状態:疲労(大)、傷(大)、呆然自失】
【思考・行動】
0:……。
1:智代さんと協力する
2:殺し合うつもりはなく主催者に怒りを感じている。
3:音無と仲間を探す。
4:佐々木小次郎を屈伏させたい。
【備考】
※舞ルート確定直前からの参戦。


【備考】
※モーセの奇跡@ペルソナ4は、人吉善吉の遺体に装備されています。
※人吉善吉の所持品は、相沢祐一が回収しました。
※更木剣八のデイパック、10年後山本武の刀@家庭教師ヒットマンREBORN!は付近に落ちています。
※ちょうど番外放送が始まりました。


【死ぬ気丸×10@家庭教師ヒットマンREBORN!】
服用することで死ぬ気モードになれる錠剤。
超(ハイパー)死ぬ気モードになるには二錠服用する必要がある。
作中ではバジルが最初に使用し、その後沢田綱吉も使用している。
人吉善吉に支給。

【モーセの奇跡@ペルソナ4】
里中千枝専用の最強の装備武器。ゲーム中ではクリティカル率が大幅に上がる。
女子の装備なのでサイズは男子には小さめ。相沢祐一に支給。



099:ある日 森の中 球磨川さんに出会った 時系列 101:零れたカケラ達
109:acceleration 投下順 111:[[]]
087:撫子の唄 坂上智代 [[]]
人吉善吉 DEAD END
更木剣八 DEAD END
相沢祐一 [[]]
千石撫子 [[]]

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最終更新:2014年08月03日 02:23