小話09

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[[BACK>http://www18.atwiki.jp/5010/pages/22.html]] ---- 魔物は、悪しきもの。 人食いの化物。 そう信じられていた時代に、 それに真っ向から異を唱える文書が作成された。 魔物。彼らは、人とは違った進化の過程を経ているが、 人と同じ生き物を起源としている。 彼らに食人性は無い。 我々人間が彼らの存在を脅かし、一方的に排他しようとしているだけである。 以上の主張が、確かな研究成果をもって裏付けられていた。 著者は、若き研究者ウェルデリック。 彼は今、自宅にて、この文書を初めて人に読ませている。 読者は、魔物狩りの少女騎士、イシリア。  素晴らしいわ。素晴らしい研究よ。  魔物のことをとてもよく調べてある・・・ ようやく顔をあげた恋人の感想を聞き、ウェルデリックは安堵した。    ありがとう、イシリア。  君にそう言ってもらえると心強い。  僕はこれをもとにして、教会や国と戦っていくつもりだ。  是非、君にも協力を頼みたい! ウェルデリックは、力強くイシリアに語った。 イシリアは、そっと溜め息をつくと、いつものように笑う。  ・・・悪いけど、一人でやってくれる? イシリアは文書を床にぽいと投げ捨てると、それを足で踏みにじった。  い、いったい、どうして。そんなことを言うんだい! 狼狽するウェルデリックをあざ笑うかのように、イシリアは言葉を続ける。  ・・・こんな学説を発表したら、世界にどんな混乱が起きると思って?  学説自体はよくできてるわね。 だからこそ問題なのよ。  疫病、貧窮、殺人、この世の諸悪をすべて魔物に背負わせてきたニンゲンが、  各々どういった反応で、”事実”を受け入れるのかしら。  興味はあるけど、見たいとは、とうてい思わない。 ウェルデリックは、半ば激昂して叫んだ。  じゃあ、君は、人間と魔物の関係が、今のままでいいっていうのか?  僕は、断じて認められない。   だって僕は、君のことを・・・ その先を、イシリアは言わせなかった。彼女は、このときばかりは笑うのをやめ、 感情の籠らない声で喋り出す。  そもそも文書には、ひとつ大きな間違いがあるわ。 ウェルデリックは、ずいと近付いてきたイシリアの表情を見て、途端に身体が震えるのを感じた。  魔物はね、 どうしても、堪えきれなくなったときは、  喰らうんだよ。  人を。 彼女の口元から鋭利な歯が覗くのが分かり、ウェルデリックはある想いを確信に変えた。  ・・・そうか。やはり、僕が君を追い詰めていたのか・・・ イシリアは、好きだった男の喉を喰い破り、痙攣して倒れる彼を見下ろしながら、 すでに次のシナリオを練っていた。  (魔物擁護派の若手研究者、魔物によって殺される、か) 果たして、このときのイシリアはどんな表情をしていたのか。 それは彼女にも、分かってはいなかった。 ---- [[BACK>http://www18.atwiki.jp/5010/pages/22.html]]
[[BACK>http://www18.atwiki.jp/5010/pages/22.html]] ---- 魔物は、悪しきもの。 人食いの化物。 そう信じられていた時代に、 それに真っ向から異を唱える文書が作成された。 魔物。彼らは、人とは違った進化の過程を経ているが、 人と同じ生き物を起源としている。 彼らに食人性は無い。 我々人間が彼らの存在を脅かし、一方的に排他しようとしているだけである。 以上の主張が、確かな研究成果をもって裏付けられていた。 著者は、若き研究者ウェルデリック。 彼は今、自宅にて、この文書を初めて人に読ませている。 読者は、魔物狩りの少女騎士、イシリア。  素晴らしいわ。素晴らしい研究よ。  魔物のことをとてもよく調べてある・・・ ようやく顔をあげた恋人の感想を聞き、ウェルデリックは安堵した。    ありがとう、イシリア。  君にそう言ってもらえると心強い。  僕はこれをもとにして、教会や国と戦っていくつもりだ。  是非、君にも協力を頼みたい! ウェルデリックは、力強くイシリアに語った。 イシリアは、そっと溜め息をつくと、いつものように笑う。  ・・・悪いけど、一人でやってくれる? イシリアは文書を床にぽいと投げ捨てると、それを足で踏みにじった。  い、いったい、どうして。そんなことを言うんだい! 狼狽するウェルデリックをあざ笑うかのように、イシリアは言葉を続ける。  ・・・こんな学説を発表したら、世界にどんな混乱が起きると思って?  学説自体はよくできてるわね。 だからこそ問題なのよ。  疫病、貧窮、殺人、この世の諸悪をすべて魔物に背負わせてきたニンゲンが、  各々どういった反応で、”事実”を受け入れるのかしら。  興味はあるけど、見たいとは、とうてい思わない。 ウェルデリックは、半ば激昂して叫んだ。  じゃあ、君は、人間と魔物の関係が、今のままでいいっていうのか?  僕は、断じて認められない。   だって僕は、君のことを・・・ その先を、イシリアは言わせなかった。彼女は、このときばかりは笑うのをやめ、 感情の籠らない声で喋り出す。  そもそも文書には、ひとつ大きな間違いがあるわ。 ウェルデリックは、ずいと近付いてきたイシリアの表情を見て、途端に身体が震えるのを感じた。  魔物はね、 どうしても、堪えきれなくなったときは、  喰らうんだよ。  人を。 彼女の口元から鋭利な歯が覗くのが分かり、ウェルデリックはある想いを確信に変えた。  ・・・そうか。やはり、僕が君を追い詰めていたのか・・・ イシリアは、好きだった男の喉を喰い破り、痙攣して倒れる彼を見下ろしながら、 すでに次のシナリオを練っていた。  (魔物擁護派の若手研究者、魔物によって殺される、か) たっぷりと広がる鉄の味と肉片を噛み締めながら、 果たして、このときのイシリアはどんな表情をしていたのか。 それは彼女にも、分かってはいなかった。 ---- [[BACK>http://www18.atwiki.jp/5010/pages/22.html]]

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