第五話


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  第五LV <嵐の前の大暴動>  

 聖暦3353年 -霜月 十ニ日-

 重会議室での会合より三日後。
 その日はすっきりした快晴だった。
 青空はわずかな雲に虫喰われるも、ますます清純さを増している。
 一方の地上はどうだろうか。
 両脇に整然とそびえ立つ木々を従え、延々とまっすぐに続く長い林道を、いま一台の大型馬車が猛然と駆け抜けてゆく。
 ところどころに咲く美しい花々は見向きもされず、馬車が目指すのはラングフルク北にある大草原。
 その速度たるや、特急列車といった輸送機関にもひけをとるまい。
 一体どれほど強靭な馬を使用しているのかと疑えば、あるいはそれが教会議員専用の機械馬である事に気付けるかも知れない。
 外見こそ馬そのものだが、その足裁きは生きた歯車の如し。機械人時代特有のオートモビルである。
 自動車と馬車を融合させたようなその外観は、マードック議員の手によるもの。
 本来は、このようなものに議員が乗っているだけで問題になるが、向かう先が人気の無い大草原だから問題ない。
 早朝に教会本部を出発し、馬車で走ること三時間。ようやく昼過ぎになったという頃だ。

「二人とも、あと三十分ほどで大草原に着きますよ。タイピングプログラムの準備は大丈夫ですか?」
 馬車の操り手は、ランディ。運転席で手綱型の制御機を握っている。
「はァい。どうにかね……」
 車内の後部座席で、両手の指を高速で動かしているのは、エリザとヒトミ。馬車には計三名が乗っている。
 今しがた、情けない声を発したのはエリザのほうである。
 エリザとヒトミ現在、ヴァーチャルタイピングの真っ最中だ。
 二人は、浮かび上がった無数の薄く透明なディスプレイ(情報)と格闘している。
 エリザの作るディスプレイは、浮かんでは消えてしまう。
「あぁ〜、駄目だ、苛々する!」
 隣で同じ作業を行いながら、ヒトミのほうはずいぶんと余裕があるらしく、笑ってエリザをなだめている。
「ダウンロードを待機状態のまま留めておく作業は、気の短いお子様には難しいからねぇ」
 否、挑発しているのか。
「な、なんだとッ?」
「ほぅら。わたしは、二十個目の定着が出来ちゃったよ」
 ヒトミはタイピングを中断すると、得意げに周囲のディスプレイを指差してみせた。
「……!」 
 ヒトミの実力を見せつけられたエリザ。
 手前と奥とで、八人は座ることの出来る広い後部座席である。
 彼女は不貞腐れて、そこでごろりと寝転んでしまった。
 両手は組んで頭の後ろへやり、足も組む。完全に作業放棄の姿勢である。
「……はいはい!どぉーせアタシのタイピング技術なんて、この程度ですよ〜だ」
 ランディの居る運転席へも、間に仕切りなど無いから、二人のやり取りがそのまま聞こえてくる。
 ランディは前方を向いたまま、後ろのエリザに対して言った。
「せっかくだから、ヒトミ先輩に色々と教えてもらったら?」
「嫌だ」
 彼女の表情が目に浮かぶようだ。ランディは独りで微笑んだ。 
 エリザはあくまでランディに付き従っているのであって、ヒトミと親交を深めたいわけではないのである。
 ヒトミもまた、エメラルドのような眼を細めて笑った。ランディとエリザの仲良さが、羨ましいようだ。
「——————それにしても、ランディ。よくわたしなんかと同行する気になったわね。……わたしは一人でも、大丈夫なのに」
 ランディは即答する。
「そんなこと言わないで下さい。……オレは、ヒトミ先輩のこと信じてるんですから。可能な限りお手伝いさせて頂きますよ」
「……わ、わたしには、恋人が居るんだから……!」
「分かってますよ。でもいま、教会に、“彼”は居ないでしょう?
 ……時期が来れば、また教会を抜け出せばいい。それまでは、オレが出来ることはオレにやらせてください」

 不意にヒトミの周囲に浮かんでいたディスプレイの一つが消えてしまった。
 見れば、ヒトミの顔が少しだけ赤くなっている。
 どうやら、心ある言葉によって操作を失敗したのが原因らしい。
 その光景を見たエリザの頭に血がのぼったようだ。
「…………あァもう!全部消えちまえよ鬱陶しいッ!」
 片っ端から、実体のないディスプレイを叩き割ろうとする。
 情報を素手でどうこう出来る筈は無いのだが。
「きゃあっ?」
「と、っと、と!」
 エリザが暴れるので、馬車が大きく揺れてしまった。ランディが必死に馬車の体勢を立て直している。
 結果的に、集中力を切らしたヒトミのディスプレイは全消滅した。

「……ちょっと、エリザさん!せっかく半分は出来てた“空港”のデータが台無しじゃない!」
 エリザは、それはもう得意顔だ。
「へへぇ〜ん。最初っから、現地着いてからガンバりゃいいんだよ、そんなもんは」
「……あなた、何しについて来たのよ!」
「決まってるだろ、ランディに変な害虫が付かないようにだ」
「……虫!それはきっとわたしの微細なエウレカを例えてる?許せないわ」
 このままでは女性二人が乱闘を起こしかねないので、
「はいはい。二人とも、喧嘩はやめる!」
 馬車の運転を自動に切り替えると、ランディは後部座席まで割って入り、どうにか事無きを得た。
 未だ鼻息荒い二人の女性を前にして彼は溜息をつくばかり。

「ええと、先輩。確かに、“空港”なんてものを個人で聖成できる腕前を持つのは、貴方だけです。
 ですが、道中どんな危険が潜んでいるか分からないでしょう?」 
 ランディ一行は、十四日に予定された教会と反教会機構が共同で主催するイベントに向けて動いている。
 イベントは、反教会機構のグループの内、教会と比較的友好な関係にあるものを集め、ラングフルクのコロッセオに招待して行う。
 ただ、それには問題があった。
 反教会機構は各所に散っており、彼らが四方八方からラングフルクの国境門をくぐろうとすれば、さすがに何らかのトラブルが生じるだろう。
 そこで教会は特別に、彼らの空からの来訪を許すことにした。
 教会が歴史基準の観点から禁じているだけで、飛空船くらいならどこも最低一隻は保有している。
 大きいものなら、城くらいの規模になろうか。
 そしてランディ達が引き受けたのは、反教会機構が離着陸するための“空港”を創るという任務だったのである。
「……正直言って、分からないわ。何が危険なの?あ、野生のエウレカなら平気よ。
 知能のある無しに関わらず、わたしは退ける術を知ってるから」
「違います。カッシュ先輩が言ってたでしょう、反教会機構には、仲間内からも嫌われるような破壊的な集団が居るんですよ」
 エリザも横から口を出す。
「そ、そ。特にアタシが追ってる“レラ”はラグナロクってグループに居るんだけど、コイツは酷いもんでさ……」

 “レラ”の名を聞いた途端、眼を見開くヒトミ。
 ランディとエリザが彼女の様子を不審がっている。
「先輩、どうかしました?」
「——————ねえ。レラって、レラ・バンデット?」
「あぁ、そうだぜ。今はティルミンって名乗ってるがな、ここ最近、頭角を現してきた奴で、
 直接の部下は少ないようだけど本当に厄介……って、あれ?」
 ヒトミの顔面が、蒼白になっている。
 まるで、白昼に幽霊を見たかのような。
「…………嘘だ…………嘘だ…………嘘だッ!」
 ヒトミは飛び退るようにして車内の隅に移動すると、しゃがみこんで頭を抱え、がたがたと震えている。
 エリザは呆気に取られた。
「いや、嘘じゃないし……なぁ、ランディ」
「うん………」
「——————嘘!だって、あいつは、確かにわたしが、殺したんだもの!」
 ころした?
 ヒトミがレラを、殺した? 
「………おまえ、恋人の妹を、殺したのか?」
「そうよ!わたしは、そういう女なの!あの馬鹿な娘がね、エウレカを認めない、死滅させるだの言うから……
 迷わず、くびり殺してやったのッ!」
 凄まじい形相で、恐ろしい告白がなされる。 
 二人とも言葉を失ってしまう。
 幾らかの間をおいて、ランディが言った。
「でも……先輩、彼女、現に生きてるんですよ。だから、その。良かった、じゃないですか」
「い、生きてたら!わたしが狙われるじゃない!あいつはとても怖い娘なのよ!」
「アタシも怖い、ってことに関しては、同意するけどね……これまで無事だったんでしょ。だったら、これからも大丈夫じゃない?
 まして今は、アタシ達と一緒に居るんだし……」 
「そんなの、アテにならないッ!」 
 ランディは正直悲しかった。エリザは肩をすくめてみせる。
「こりゃ、しばらく放っておくしか無さそうだぜ。何だかよく分かんねぇけど」
 ランディは、そうだねと答えようとした。
 しかしその言葉は発せられなかった。
 突如として、爆音が轟いたのだ。 

 つい先程まで馬車が走っていた地点で、爆発が起きていた。その衝撃波が既に前方を先走る馬車を襲う。
 後方から追突されたかのごとく、車体が派手に揺らされた。
 馬車が前のめりに倒れそうになったほどだ。
「ぐっ……どうなってるんだ、一体!」
「ランディ、見ろ!」
 エリザが後部座席の窓を指差した。
 高速で走る馬車を、単騎で追ってくる何者かがいた。
 こちらと同じく機械馬を用い、馬上からバズーカ砲と思しきものを抱え、こちらを狙っている。
 すぐに、二射目が来た。
「くっそ……!」
 エリザは運転席まで飛んでいくと手動に戻し、素早く馬車を林道の脇の木に当たる寸前まで寄せた。
 かろうじて避けることに成功するが、やはり爆風による衝撃があった。
「……ちぃ、ランディ。スピードを上げても振りきれそうに無い。アタシはこのまま運転するから、そっちで何とかしてくれ!」
「分かった!」
 よもや道中で、さっそく襲撃を受けるとは。
 相手は恐らく、教会と機構のどちらかに敵対しているグループの刺客だろう。
 この道を使うという情報が漏れぬよう、細心の注意を払ったのだが、気付かれていたのでは応じるしかない。
「ヒトミ先輩、敵です。戦えますか?」
 きゅっと唇を噛む彼女は、うつむいたまま答えない。
 ますます身を小さくかがめてしまった。
(ふぅ。オレとエリザで何とかするしかないみたいだな)

 ランディは溜息と同時に、ヴァーチャルタイピングを開始する。
 素早く巨大なガトリングガンを取り寄せていた。
 それで馬車の後方を撃ち抜き、そのまま襲撃者を狙い撃っている。だが敵は異常に素早く、左右への動きだけで全てを回避している。
 よほど機械馬の扱いが上手いと見える。弾丸はむなしく敵の残像と抱擁するばかり。
 ランディは不覚にも感嘆する。
「とんだ名ジョッキーに襲われたもんだ……!」
 ただ、相手の実力に感心してばかりはいられない。
 ランディは相当な重量があるはずのガトリングガンを右手のみで構え、空いた左手で再度、宙を叩いている。
 次いで馬車内に現れたのは、無数のバレット・ケースだ。予備の弾である。

 ランディが使用しているガトリングガンは、科学技術の粋を結集させた代物である。
 見た目こそ、長い砲身やローターを備えた本格的なものであるが、それはあくまで旧時代の兵装を模しているからに過ぎない。
 昆虫型エウレカを実弾化した“ウレカ”を使用し、そのウレカにより強力な加速と殺傷力を付加させる増強装置、というのが実のところだ。
 見た目は弾そのものでも、発射の際に薬莢が飛び散ることが無い。
 ただしウレカの飛行はあたかも機関銃のような騒音を伴うので、うるさい事には変わりないが。
 ランディは大音量に頭を痛めながらも、懸命に敵を狙っていた。
(くそ、かすりもしないぞ……!)
 弾を幾ら使っても、徒労に終わってしまう。
 今や馬車の後部は、もとからそうであったかのように巨穴を設け、風通しも良く、外の景色を用意している。
 そこから覗くパノラマはどうだろう、木々が高速で彼方へと流れていくのは壮観だ。
 無数のウレカが飛来する中、敵が悠々と馬を走らせるから、気鋭のミュージカルを観ているような気がしないでもない。
 敵との距離は、約百メートル。
 刺客は帽子をかぶり、清掃員の身なりをした人型、ということは分かる。
 帽子に収まりきらない後ろ髪は金色で長く、風になびかせている。ひょっとすると、女型かもしれない。 
 ランディの攻撃は未だ相手を捉えてはいないが、その激しさゆえ敵に反撃の機会を許していない。

「ふうん。最大の防御が、格言通りに生まれているようね……でもそれだけじゃ、勝てないわよ」
 急な背後からの台詞にランディが驚いて振り返ると、ヒトミが虚ろな目をして立っていた。
「さっきは……ごめんなさい。もう大丈夫よ。わたしに、代わって」
 正直、大丈夫そうには思えない。
 だがヒトミはランディに躊躇させる暇さえ与えずに、彼からガトリングガンを引ったくる。
 さらにヒトミは、ガトリングガンに“実体化途中”のウレカ入りケースを放り込み、それを撃ち出そうとする。
 モザイク処理された画面のように異様な配色のウレカが、装弾された。
 ランディは悲鳴をあげる。
「先輩、なにをやってるんですか!」

 ヴァーチャルタイピングとは、MSCにアクセスし、ワードに応じた物品のオリジナルデータを下ろしてくる作業を指す。
 決して、対象物が直接そのままやってくるわけではないのである。
 データは対象をロジック化したものであり、それを紐解き実体化させるには“読解学”という特殊なテクニックを学ばなくてはならない。
 自身にMSCからのデータを読み込ませた次は、読解学を駆使し、解凍する必要がある。
 しかしあろうことか、ヒトミが手に取ったものはケースこそ実体化しているものの、中のウレカは未調理の状態だ。ランディの読解学が及びきっていない。
 そんなものを発射したところで威力は、いや、発射できるかどうかさえ疑わしい。
 だがヒトミは、状況にはおよそ不釣合いな笑みでランディを射る。
「わたしを、信じなさい」
 ヒトミはガトリングガンを強く握り締め、中のウレカに信号を送った。
 今から実体化させようというのだろうか。
 だが、様子がおかしい。 
 様子がおかしくなったのは、ガトリングガンだ。まるで生き物のようにぶるぶると震えている。
「さあ。何が出るかな、何が出るかな……だ!」
 彼女は構わず、異常が起きているガトリングガンを撃った。
 反動でヒトミはランディを巻き込んで、後ろに吹き飛んだほどである。
 発射された“何か”は妙にスローモーな速度で飛来していく……。
 サイズはウレカ程度、刺客はあっさりと横に移動して避けた……
 刹那。奇妙な輝きを見せていたそいつがいきなり実体化し、新たな姿とサイズを得たのである。
 正体は、戦車だった。
(……ッ?)
 突如として信じられぬほど巨大な質量が真横に出現、時を同じくして戦車の主砲が轟音を吐いたのは全て計算し尽くされた魔法。
 ウレカになるはずだったもののデータを、ヒトミは直前で完全に書き換えるという離れ業をやってのけた。
 しかも現れた戦車にはオート射撃まで設定されていたのだ。
 それでも、高速で走る刺客と距離が合うのは千分の一秒にも満たない時間だったが、実現された奇跡は確実に相手を捉えていた。
「きゃああああっっ!」
 真横からの巨大な砲弾を避けきれず、刺客は悲鳴をあげて派手に吹き飛んだ。
 林道の木々よりもはるか高く、上空へ。一瞬でランディ達の視界から消えるのだった。
 置き土産として、刺客の使っていた武器の一部が馬車の内部に転がり込む。

(す、すごい……)
 なんという機転だろう。ランディは、ヒトミがニド戦役における名うての女戦士であることは知っていたが、
まさにその一端を目撃した気がした。
 戦士としてのヒトミを見たこと自体、これが初めてである。
 ランディは心から感激してしまった。
 当のヒトミはというと、まるで造作も無い事だったといわんばかりに、呑気に欠伸をしている。
「お見事でした、ヒトミ先輩」
 ランディは興奮を抑えられないようだ。顔にしっかりとそれが表れている。
 だがヒトミは、そんなランディを見もせずに喋り出す。
「くだらない—————」
「?」
 彼女は、刺客の武器を拾い上げて言う。
 それはバズーカの先端と思われるが、どういうわけか掃除機のノズルそのもののような形状をしていた。
「レラ、じゃない。レラの、部下だったな、あれは」
「あの刺客が、ですか!よくご存知ですね。レラが部下を使うこと自体がまず無いのに……」
 武器の破片を外へ投げ捨て、続くヒトミの言葉。
「—————殺り足らないな」
「え……?」
「要はさ、わたしを殺したいやつが、みんな死んでくれればいいんだよね」
 まるで悪魔が呟くかのようにヒトミは言った。
 さらに、ランディは見た。
 彼女の瞳が、あたかもエウレカの体皮のような、濁った紫色に染まっているのを。
 相変わらず彼女は、何を見つめているわけでもない。
 壊れた馬車の壁の先、虚空を眺めているだけ。
 ただし、氷のような微笑を浮かべて。
「…………」
 ランディは自分でも気付かぬうちに、後ずさっていた。
 もし狂気が目に見える物だとしたら、現在のヒトミは人間ではない、もっと恐ろしいモノに成り代わっているだろう。

「お〜い、カタはついたのか?」
 そのとき馬車が急停止し、何も知らぬエリザが後部座席のほうへとやってきた。
 瞬間、行き詰まるようなプレッシャーは消え去っている。
「うん。ばっちりよ」
 いつもの、ヒトミが居た。
 疑いようのない、満面の笑顔と、緑色の眼を伴わせて。
「おお、やるねえ!感心感心。ところでさ、馬車が揺れまくって本当に制御が大変だったんだけど、誰……?
 ヘタクソな射撃を延々続けてたのは」 
「あぁ、あれはランディ君が頑張ってたんですよ。ね!」
 お茶目で明るい先輩。
 ランディが瞬きをする頃には、彼のよく知るヒトミが居た。
 しかし、さっき居たモノは、いったい何だったのだ? 
 先ほどまでの彼女は、よもや幻だったのか。
「………おいランディ、そんなに落ち込むなよ」
「えっ?いやいや、そうじゃない………まぁ、そうかな」
「なんなんだ、いったい?」
 ランディをいぶかしむエリザに、構わずヒトミが喋りかける。
「ところでエリザさん、馬車を止めちゃって大丈夫なの?」
「あぁ、平気。だってさ、着いたんだもの。ラングフルクの大草原にな」
 エリザが指し示した先には、広大な草地が広がっていた。
 いつの間にか到着していたのだ。
「うわぁー!すごいすごーい!」
 大袈裟に驚いたヒトミは、馬車を飛び降り笑顔で駆け出していく。
 エリザもそれに続く。
 ランディは未だ何かが抜けきらない様子だったが、とりあえず馬車を降りて二人を追う。

 このあと、空港を創るという任務は三人で力を合わせた甲斐あって、道中にこしらえたデータが消えるというアクシデントがあったにも関わらず、
わりと早い段階で立派なものを完成させるに至った。
 ラングフルク大草原の実に三分の一もの面積を使い、十隻もの飛空船が降りられる場を整えたのである。
 そこの警護は、あらかじめ待機してもらっていた別の教会議員らに任せ、ランディ達は馬車で教会本部へと引き揚げていく。
 エリザとヒトミは空港を仕上げる作業を通じ、ぐっと仲良くなっていた。
 最初はエリザを小馬鹿にするようなところもあったヒトミだが、彼女なりにエリザの気を惹きたいだけだったようだ。
 運転は行きのようにランディに任せ、女二人の笑い声が終始聴こえている。
 しかしランディだけは、ときおり二人に相槌を打つだけで、想いは別のところにあった。
(“獣の姫”の異名をもつヒトミ先輩……先輩が、ニド戦役末期にエウレカ側についたという事実は知っている。
 そのときの先輩も、あんな紫色の眼をしていたのだろうか……)
 彼の心情とは裏腹に、空はどこまでも青く、綺麗だった。




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