小話01




魔物は、悪しきもの。

人食いの化物。

そう信じられていた時代がある。


人々は、魔物を排除しようとした。

”魔物狩り”の結成。

ひとりの少女が、喜んで志願した。


今宵も、少女は街で魔物を追い詰める。


その魔物は、人の姿に化けていた。

狼狽した男の声と顔で、必死に訴える。

 おれは、人なんて喰っていない!
 おれは人として生きてきた。
 これからも人として生きて行く!


少女は、耳を貸さない。

 魔物は人を喰う。
 この世の誰もがそう思っているわ。
 だから、わたしは人のためになることをしたいの。


構えられる太刀は、男の首筋を狙う。


男は懇願を続ける。

 おまえは正気か?
 おまえだって俺と同じだろう!
 俺と同じ存在なんだって、俺には分かる・・・


少女はにやりと微笑んで言う。

 だからこそ、でしょう?


振り下ろされる刃は、なおも喚き続ける男の顔を左右にわけた。

赤色の噴水を眺め、浴び、飲み干しながら、少女は充実を感じた。

それは殺戮に対してではなくて、自分の運命を。


魔物狩りの少女騎士、イシリア。

その名はやがて英雄の一人として連ねられ、彼女は死ぬまで人として生きた。


血塗られた裏切りは、彼女を誉め讃える、人々の声に消されていった。

彼女は、いつも笑っていた。



魔物は、悪しきもの。

人食いの化物。

今でも、そう信じられている。



最終更新:2007年10月02日 06:03