片田舎の街に、心を閉ざした少年が住んでいた。
彼は、何も信じられなくなっていた。
彼のことを煙たがる家族も、あくどい友人たちも・・・
そんな彼が唯一魅せられたのは、女神の誕生について綴った聖書だった。
彼は、徐々に幻想を深めてゆく。
女神は実在する。
この世のどこかに、誰よりも美しい姿で、彼女は居る。
僕を待っててくれている。
ある日、少年は一人旅立った。
伝承にある街や村をひとつずつ尋ね、女神の足取りを追う日々。
旅は5年、10年と続き、過酷を伴う。
いつしか少年は、身体を壊していった。
ついに身体が動かなくなった彼は、いずことも分からぬ路地で倒れ込む。
ああ、どこに居るのです。
私は貴女に出会うためだけに生きてきた。
けれど、私はついに貴女の姿を見かけることも叶わないのか。
薄れていく視界の中・・・おぼろげに映り込むひとりの女性の姿。
それは、間違いなく聖書で語られている女神の姿。
かつて少年であった青年の顔に、温かな笑顔が宿る。
貴女は酷いお方だ。どうしてこれほどまでに、私を放っておいておかれたのだ。
私の身はすっかり病んで、衰えてしまった。
今まさに、不様に息絶えようとしているところに・・・
笑顔を浮かべたまま、彼は逝った。
そのなきがらをそっと抱きしめ、静かに涙するのは、女神ではない。
ずっと彼のことを探していた、彼の姉であった。
後に、女神についての伝承に新説が加えられる。
それはひとりの女性を介して発表された一冊の日記がもととなっているが、
その日記が誰の手によって書かれたものなのかは、今日においても不明のままである。
最終更新:2007年09月30日 00:20