ある村に、周囲から天才と呼ばれている少女が居た。
彼女の名は、ウレン。
実際、ウレンはとても頭が良かった。
人当たりもよく、さらに外見が美しい。
そんな彼女が唯一苦手としていたのは、火炎の魔法だった。
火炎魔法の試験だけは、一度も平均の成績すらとることができていない。
それを不審に思った彼女の親友は、理由を聞いてみることにした。
ウレンは悲しい顔をして、静かに話し始めた。
実はね。わたしの友達が昔、火事で死んでしまったの・・・
親友は納得すると同時に、ウレンと同じ顔になった。
お気の毒に・・・ でもね、ウレン。
あたしは、あんたにこそ炎についてもっと学んで欲しいと思うんだ。
ほら、ちょっとついて来て。
ウレンの親友は、彼女を裏山へと案内した。
裏山を登り、しばらく歩いて行くと視界が開け、一本の朽ちた大樹があった。
いいかいウレン、よく見てて。
ウレンの親友が両手を掲げると、大樹はぼうっと赤い光に包まれた。
それを見て、ウレンは過去の悲劇を思い出したのだろうか?
悲鳴をあげると、さっと顔をおおってしまう。
そして恐る恐る顔を上げたウレンが、次に目にしたのは、
葉が無数に生い茂った、太い幹をもった大樹。
ほら、さっきの樹だよ、ウレン。
火炎の力で、死にかけた樹の魂を刺激してやれば、ご覧の通りさ。
親友の説明に、ウレンはすっかり驚いてしまった。
す、すごいわ。炎の再生魔方式ね、街の賢者様でもなかなか成功しないのに。
わたしより貴女のほうがずっと天才よ、サティ。
ウレンの親友は、歯を見せて笑った。
ウレン。あんたには、炎が優しいものだと知っておいて欲しい。
あんたならきっと、もっと炎を正しく使うことができるだろう。
誰かさんより、ね。
その表情はどこか哀しげで、ウレンはなおのこと戸惑った。
いったい今日はどうしてしまったのサティ?
なんだかとても大人らしいわ。
それに・・・ありがとう。わたし、もっと火炎について真剣に学んでみる。
ウレンは親友の両手を掴み、深く感謝した。
それを聞いた親友は笑い、ウレンもまた笑った。
しかし、大人らしいってのはなんだよ、サティ。これでも長生きしてるんだぜ?
あら、何を言い出すのよ。わたしたち、二人ともまだ十五歳でしょう。
ウレンがきょとんとしているので、彼女の親友は結局、それ以上は何も語らなかった。
豪炎の魔女サティ。その名をウレンが知るのは、まだ少し先のことである。
最終更新:2007年09月30日 20:23