小話07




ある村に、周囲から天才と呼ばれている少女が居た。

彼女の名は、ウレン。

実際、ウレンはとても頭が良かった。

人当たりもよく、さらに外見が美しい。

そんな彼女が唯一苦手としていたのは、火炎の魔法だった。

火炎魔法の試験だけは、一度も平均の成績すらとることができていない。



それを不審に思った彼女の親友は、理由を聞いてみることにした。

ウレンは悲しい顔をして、静かに話し始めた。


 実はね。わたしの友達が昔、火事で死んでしまったの・・・


親友は納得すると同時に、ウレンと同じ顔になった。


 お気の毒に・・・ でもね、ウレン。
 あたしは、あんたにこそ炎についてもっと学んで欲しいと思うんだ。
 ほら、ちょっとついて来て。


ウレンの親友は、彼女を裏山へと案内した。

裏山を登り、しばらく歩いて行くと視界が開け、一本の朽ちた大樹があった。


 いいかいウレン、よく見てて。


ウレンの親友が両手を掲げると、大樹はぼうっと赤い光に包まれた。

それを見て、ウレンは過去の悲劇を思い出したのだろうか?

悲鳴をあげると、さっと顔をおおってしまう。


そして恐る恐る顔を上げたウレンが、次に目にしたのは、
葉が無数に生い茂った、太い幹をもった大樹。


 ほら、さっきの樹だよ、ウレン。
 火炎の力で、死にかけた樹の魂を刺激してやれば、ご覧の通りさ。


親友の説明に、ウレンはすっかり驚いてしまった。


 す、すごいわ。炎の再生魔方式ね、街の賢者様でもなかなか成功しないのに。
 わたしより貴女のほうがずっと天才よ、サティ。


ウレンの親友は、歯を見せて笑った。

 ウレン。あんたには、炎が優しいものだと知っておいて欲しい。
 あんたならきっと、もっと炎を正しく使うことができるだろう。
 誰かさんより、ね。


その表情はどこか哀しげで、ウレンはなおのこと戸惑った。


 いったい今日はどうしてしまったのサティ?
 なんだかとても大人らしいわ。
 それに・・・ありがとう。わたし、もっと火炎について真剣に学んでみる。


ウレンは親友の両手を掴み、深く感謝した。

それを聞いた親友は笑い、ウレンもまた笑った。



 しかし、大人らしいってのはなんだよ、サティ。これでも長生きしてるんだぜ?

 あら、何を言い出すのよ。わたしたち、二人ともまだ十五歳でしょう。



ウレンがきょとんとしているので、彼女の親友は結局、それ以上は何も語らなかった。



豪炎の魔女サティ。その名をウレンが知るのは、まだ少し先のことである。 



最終更新:2007年09月30日 20:23