小話08


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著名人から街角の乞食まで、ありとありゆる人物をモデルに人形を作ってきた
大陸随一の人形師、ミチェル。



ある日、彼のもとへ人形制作の依頼に訪れたのは、ぼさぼさ頭の大柄な事業家だった。

その姿を見て、ミチェルは心当たりがあったが、努めて平静を装った。


事業家はミチェルにすすめられた椅子に腰掛けると、おもむろに一枚の写真を取り出して見せた。

写真には、白いドレスを身に纏ったひとりの少女が写っている。

少女は、泣き笑うピエロの人形を、ぎゅっと抱きしめている。



 これは、貴方の娘さんですか?


ミチェルの問いに、事業家は首を縦に振って答えた。


 十年前から行方が分からない。
 私はどうしても娘に会いたい。そのために手を尽くしてきたが、
 私の願いは未だに叶わない。



苦渋に満ちた事業家の告白を聞き、ミチェルは少しばかり冷ややかに言った。


 つまり、オレの作る人形で、寂しさを紛らそうと?


事業家は真顔になって立上がると、語気を強めて言う。



 私は、ミチェルさん、あなたの作る人形がとても好きなのだ。
 本物よりも本物らしく、あなたの人形には、モデルとなった人物の感情が宿っている。
 私の依頼はこうだ。


再び写真を手にとると、それをしっかりとミチェルに託し、続けた。


 いま、この写真の娘が、私のことをどう思っているのか。
 それを人形という形にして欲しい。


ミチェルはしばらく腕組みをして考え込んでいたが、やがて立ち上がり、
事業家と握手を交わした。


 いいでしょう。神の手をもつ、このオレにお任せ下さい。




それから一週間後。

事業家を尋ねる、ミチェルの姿があった。


事業家は、その日のミチェルを見て驚いた。


ミチェルは、結んでいた長髪をおろしていた。

美しい純白のドレスを身に纏っていた。

ミチェルは、笑顔で微笑むピエロの人形を、事業家に手渡した。


そのまま何も言わずに去ろうとするミチェルに、事業家は叫んだ。


 いつでも、帰って来て構わんのだぞ!


ミチェルは苦笑すると、振り返らずに手を振った。



後にミチェルは、十年ぶりに着たという白いドレスについてこう語っている。


 あんなの、女の着るもんじゃねえよ。