前夜祭


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<殺人容疑>女子高校生、恋人の男子高校生刺す 犯行後に事故死
××新聞 12月26日(水)13時37分配信

 容疑者は25日午後9時頃、被害者のマンションで男子高校生の右脇腹を包丁で刺し死亡させた疑い。
 その後逃走を図ったと見られる容疑者は同マンションの踊り場にて足を滑らせ頭部を負傷。そのまま死亡したと警察は発表した。
 同級生たちの証言から、二人はなんらかのトラブルを抱えていたと見られ、警察は慎重に捜査を進めている。
最終更新:12月26日(水)13時37分




――11月20日、桂言葉の場合



もうあの事件から、誠君がいなくなってから1年が過ぎようとしている。
誠君を誘惑した、憎い憎いあの人はもういない。私が手を下す前に、あの人は勝手に死んでしまった。
その後はいろいろなことがあった。
警察からの追求、マスコミの執拗な取材。
誠君がいなくなってしまったことで塞ぎ込んでいた私を心配して、両親は引越しを進めてくれた。
もうこの街には居づらくなっていたし、私の嫌いな人がたくさんいる学校には行きたくなかった。
―――だけど、誠君との思い出が残るこの街を出ていくのは、少しだけ悲しかった。

引越し先の街の名は冬木市と言う。
周囲を山と海に囲まれた自然豊かな地方都市で、「冬木」という地名は冬が長いことから来ているとされる。
だけど実際には温暖な気候でそう厳しい寒さに襲われることは無いらしい。

今日もまた、学校が終わったらお医者さんの所にいかなきゃ。
この街に来てから、お父さんの勧めで半年以上通ってるけど毎回お医者さんとお話しをして、お薬をもらうだけ。
……私はもう平気なのに。だけどちゃんとお医者さんのところに行かないと、またお父さんやお母さんに心配をかけてしまう。


『……ふうん、そんなことがあったの。それは災難だったわね。まあ、私としては薄幸な阿良々木くんのほうが魅力的に見えるけど。
 ねえ、なんならもっと災難な目にあって私にもっと阿良々木くんの魅力を感じさせてくれないかしら?』
『それはつまり、薄幸ではない僕にはあまり魅力を感じないということか?!』
『そうは言ってないわ、でもこういう言葉があるじゃない。「他人の不幸は蜜の味」って』
『自分の彼氏を他人って言ったよこの人!』


途中、同じ学校の人とすれ違う。
恋人との話に夢中だからなのか、下を向いて歩いていた私には気づきもしない―――。


「…………。」


少しだけ、嫉妬する。
別にあの男の人のことが気になるとか、そういう理由じゃない。私は今でも誠君だけを愛しているのだから。
でも、なぜあの二人だけが幸せで、私は大好きな人と引き裂かれなくてはならなかったのだろう。
私だけが一人ぼっちで、他の人たちは幸せそうに笑っている。
――私も、あの人達みたいに笑ってみたい。誠君とまた楽しくお喋りして、一緒に過ごしたい。
だけどどんなに抗っても、私のそんなささやかな願いすら神様は聞き入れてくれない。
だってもう誠君は、この世界にはいないんだから―――。


「―――生きてて、意味あるのかな……?」


誠君のいない灰色の世界。そんなものに、どれほどの価値があるというのだろう。




―――19:20


今日の私は珍しく饒舌だった。
先生と話こんでしまい、帰宅した時には日も落ちていた。
なんだかんだで、私はあの先生とのお話を楽しみにしているのかもしれない。
確かにあの先生はとてもお話が上手だし、私の話もきちんと聞いてくれる。
聞き上手というやつなのかもしれない。私が普段話せない悩みや、思ったことなんかも先生には自然と話してしまう。

玄関、リビングの明かりはついていない。まだ両親は帰っていないのだろうか?


『今日帰り、遅くなります。夕ごはんは冷蔵庫に閉まってあるので、食べてください。ママ』


テーブルに置かれた書き置きを一瞥すると階段を登り、私は二階の部屋へと移動する。
お父さんはまたいつも通り帰りは遅くなるのだろう。心は……妹はどうしたんだっけ?
確か今日は友達のところにお泊りするって、今朝言ってたかな……。

着替えて、ご飯を食べなきゃいけないのにそれがひどく億劫に感じる。
制服から着替えることもなく、私はベッドに身を投げ出すと携帯電話を確認する。
メールやブックマークしたページをチェックするわけじゃない。
携帯電話のおまじない…
『好きな人の写真を待ち受けにして3週間、誰にもバレなかったら恋が成就する』


待ち受け画面には、あの頃のままの誠君がいる。
――誠君はあの頃のままなのに、私はこれからも歳を重ねていく。
学校を卒業して、いつか大人になり、就職して、そして……。
――あの頃のままの誠君だけを置いて、自分だけが成長していく。
――そんなのはイヤ。誠君だけを置いていくなんて、可哀想。

その時携帯電話が震え、メールの着信を知らせる画面が表示される。
いったい誰だろう……そもそも私にメールを送ってくる人なんて……。
気味が悪いと思ったけど、私は携帯電話を操作し送られてきたメールを読む。





【Time】20XX/11/20 19:23
【From】Apocrypha運営チーム
【Sub】当選のお知らせ

おめでとうございます。あなたは当方の運営する全く新しいオンラインゲーム、
『Apocrypha(アポクリファ)』のテスターに選ばれました。
『Apocrypha』は英霊たちを自らの僕として従え、あらゆる願いをかなえられる
『聖杯』を巡り、戦うという設定になっております。
下記に添付させていただいたURLコードから当方のサイトにごアクセスいただき、
当アプリケーション『英霊召喚プログラム』をインストールしていただくことで
『Apocrypha』をいつでもどこでもお楽しみいただけます。

それでは、あなた様のごアクセスを心よりお待ち申しております

Apocrypha運営チーム





まったく身に覚えのない内容のメールだった。
私はあまりゲームには詳しくないし、たいして好きでもない。
だけどこの一文が私の興味を引いてならない

“あらゆる願いをかなえられる”

そんなこと、あるはずがない。あくまでこれはゲームの設定の話で、現実に願いが叶うわけじゃない。
だけどもし、もし願いが叶うなら……。

『英霊召喚プログラム』にカーソルを合わせ、私の手はなんの迷いもなく決定ボタンを押す。
ゆっくりと赤いバーが横に伸びていき、それが満ちたとき画面に表示される、『プログラムを起動しますか?』という文字と、その回答を求める『はい』と『いいえ』の文字。

また同じように、『はい』の文字を押した時、バチバチっ!というなにかが弾けるような音と強力な閃光が私の部屋を真っ白に照らす。
私の家に雷が落ちたのだろうか。携帯電話、壊れないといいな。
恐れることも、驚くこともない。これはきっと私に害をなすことじゃない。
閃光が収まり、私が目を開けたとき、そこにいたのは長刀を持った、白いマントの剣士。
骸骨のような、禍々しい異形の仮面をつけたそれは人であり、人を超えた英霊。

あぁ、そうか。本当だったんだ、あれ。
英雄たちを僕として従え、あらゆる願いをかなえられる『聖杯』を巡り、戦う――。
ならこの子は私の味方。私の願いを叶えてくれる天使様。


「待っててね、誠君。もうすぐ、また会えますから――。」


この日以降、冬木市に置いて変死、怪死、行方不明事件が続発することとなる。
愛に狂った少女は、同じく狂気に染まりし英霊を率い夜を往く。
愛しい人と再会するため、聖杯獲得のため―――。
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