(どうしたら良い…)
もう紅嵐には弾は残っておらず、
緑仙は撃たれた拍子に落としてしまった。
護衛の瑪瑙は脱臼と容赦ない銃撃のせいで、
動けないのか、蹲ったまま。

『本部と連絡を取りました。卿使殿とあと数名、お出でになるそうです』

先ほど瑪瑙が言った言葉を思い出す。
(どの"卿使"だか知らないが、来るなら早く…)


そう思ったときだった。

上空からヘリらしき音。
そして、何かが上から降ってくる音。
「な…っ」
相手が機関銃を向ける前に、人影が懐に入り込む。
そして…持っていた剣を振った。
次の瞬間には、機関銃を持った男は吹っ飛び、
身長の半分以上もある大きな剣を持った人が佇む。
その後姿に見覚えがあった。

「燐…」
絶剣の燐。卿使の一人だ。
歳は自分とそう変わらない。
卿使の面々とは何度か会った事があり、この燐も知己だ。
彼女が来るとは思っていなかったので、ただ吃驚した。
「お怪我の具合は?」
相手を睨んだまま、燐が問う。
「…僕は軽い。しかし瑪瑙の方が…」

問いに答えた時、遠くの方で声が上がった。
「ここは私が。所定の場所へお急ぎを」
燐は後ろ手で弾のパックを放った。
それを受け取り、瑪瑙に手を貸し立たせ、
緑仙を拾い、燐に礼を言って、その場を後にした。



森の出入り口付近には、もう息のない白使達と、
闇也と思われる人が2人。
それに対峙するように立つ奏摩。
「奏摩!」
「…」
返事はなかったが、ちらりと此方を見、状況が分かったようだ。
「あの女…」
闇也の一人が此方を見て声を上げる。
(さっきの奴か…)
瑪瑙が遠ざけてくれた者がここにいるとは…。
もう一人が言った。
「龍の兄さん、あっちの相手、よろしく」
あっち、とは当然僕達の事だろう。
「瑪瑙…」
「はい」
瑪瑙が下がった場所に移るのを見て、緑仙を構える。
ここさえ切り抜ければ…。

(僕はまだ死ぬ訳にはいかないんだ…)
蝶姫に会うまでは…

フラフラな体とクラクラする視界に
負けないその意思だけが、僕を支配した。
最終更新:2006年11月23日 00:34