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整形疾患memo
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*肩関節周囲炎
肩関節周囲炎
Ⅰ基礎知識
① 肩関節の構造
ア)肩複合体(図1、2)
* 臼蓋(肩甲)上腕関節
* 肩鎖関節
* 胸鎖関節
* 肩甲胸郭関節
* 第2肩関節(三角筋下関節)
* C―Cメカニズム(第2肩鎖関節)
イ)肩関節のそれぞれの動きにおける主動作筋
* 屈曲:三角筋前部線維、烏口腕筋
* 伸展:広背筋、大円筋、三角筋後部線維
* 外転:三角筋中部線維、棘上筋
* 水平外転:三角筋後部線維
* 水平内転:大胸筋
* 外旋:棘下筋、小円筋
* 内旋:肩甲下筋、大胸筋、広背筋、大円筋
ウ)臼蓋上腕関節:球関節(図3)
臼蓋は外側・上・前方を向く浅い不規則な陥凹である。関節窩表面積は骨頭面積の1/3~1/4に過ぎず、両者の曲率半径も異なり、不安定な構造になっている。骨頭は内側・上・後方を向いており、骨体軸と135°(頚体角)、前額面30°(後捻角)との角度をもつ。関節は、関節窩周囲炎の関節唇、上腕二頭筋長頭腱、腱板、関節上腕靭帯、烏口上腕靭帯、骨頭の2倍に達する関節包などにより補強されている。
エ)肩関節周囲の靭帯(図4,5,6,7)
<作用>
① 骨の結合を強める
② 運動の支点となり運動を一定の方向に導く
③ 骨の動揺や過度の運動を抑制
<種類>
・関節上腕靭帯
上:下垂位で緊張
中:外転とともに緊張は下方に
・烏口上腕靭帯
・烏口肩峰靭帯
・肩鎖靭帯
関節を保護し、鎖骨が肩峰上に乗り上げることを防ぐ
・烏口鎖骨靭帯(菱形靭帯、円錐靭帯)
円錐靭帯:上肢の前挙・肩甲骨の挙上上方回旋時緊張
菱形靭帯:上肢の後挙・肩甲骨の内転時緊張
<機能>
① 肩鎖関節の保持
② 肩甲骨の支持
③ 鎖骨と肩甲骨の動きを介達、緩衝する
・肩鎖靭帯
・胸鎖靭帯
・肋鎖靭帯
・肋骨間靭帯
オ)腱板の機能(図8,9,10)
* 安定作用
肩関節挙上の際、上腕骨等を関節窩に引きつけて固定し、三角筋の働きを助ける。
* 下降作用
肩関節挙上の際、関節窩に対し骨頭を下方へ滑らせ、骨頭が肩峰へ衝突するのを防ぐ。同時に三角筋の働く方向を上腕骨長軸と直角方向に近づけ、三角筋の効率を高める。
* 旋回作用
棘上筋を除いた回旋筋群として、肩甲下筋は内旋、棘下筋と小円筋は外旋筋として働く。約155°の挙上位で、この回旋筋群の走行は上腕骨長軸と一致し、回旋筋として機能しなくなる。この肢位をzero positionと呼び、腱板修復術後の固定肢位にも利用される。
* 靭帯作用
腱板は関節包に密着し、関節包を補強して骨頭の脱臼を防止するとともに、関節の大きな動きを許容している。
カ)第2肩関節
①肩峰、烏口肩峰靭帯、烏口突起②肩峰下滑液包③腱板(二頭筋腱を含む)
④上腕骨骨頭の4群からなり、作用としては、腕下垂時には、骨頭の上方移動を防止、腱板のpulley、活動時には、挙上に際して自働的に外旋し、大結節は肩峰の後下方に逃げる
② バイオメカニクス
ア)肩甲上腕リズム
肩関節屈曲では60°以上、外転では30°以上の運動について臼蓋上腕関節と肩甲骨の回旋は関連して動き、およそ2:1くらいである。屈曲60°、外転30°までは肩甲骨の動きが極めて小さく、肩甲骨が胸郭に固定される静止期(setting phase)である
イ) 外転時の筋活動(図11)
0°~90° :(主動)三角筋、棘上筋(安定)棘下筋、小円筋、僧帽筋横行線維
90°~150° :(主動)前鋸筋、僧帽筋(下行線維、上行線維)が加わる
(安定)棘下筋、小円筋、僧帽筋横行線維、菱形筋
150°~180° :対側脊柱起立筋の活動が加わる
ウ)屈曲時の筋活動(図12)
0°~50°~60°:三角筋前部線維、烏口腕筋、大胸筋鎖骨部線維
60°~120° :僧帽筋(下行線維、上行線維)、前鋸筋
120°~180° :腰部筋
エ)臼蓋上腕リズム
① Ship roll 腕下垂時に骨頭が上下に移動する運動
② Ball roll 臼蓋上を骨頭が転がる運動
③ Gliding 臼蓋上を骨頭がすべる運動
④ Rotation 臼蓋上での回旋運動
挙上時 0°~30° :転がり優位
30°~90°:転がりと滑り等しく安定
90°~ :転がりと滑り交互に優位になり不安定
*挙上80°~120°を移行帯として懸垂関節から要支持関節に変化する
?何故、屈曲、外転、外旋ができないのでしょう?
ストレスを受けやすい棘上筋や棘下筋や小円筋の腱が変性、不全断裂、血行障害、靭帯などによる圧迫などによりうまく働かず、大結節が肩甲骨にあたりうまく動かない
③ 概要
肩関節周囲炎は退行変性を基盤とし、肩関節周囲の疼痛と運動制限を主症状とする1つの症候群と考えられている
この症候群に含まれる疾患としては*腱板炎*腱板部分断裂による炎症*有痛性肩関節制動症(五十肩)*烏口突起炎*石灰沈着性腱板炎*肩峰下滑液包炎*上腕二頭筋長頭腱炎*腱板疎部損傷などがある
④ 病因
病因としては、筋腱や靭帯が骨に付着する部位での炎症、腱の滑動機構障害、筋や腱の間隙部位での炎症があげられる。夜間痛の原因は、就眠時には痛みをかばう防御反応がなくなることや就眠時の肩内転位姿勢で肩甲上神経の緊張が強まること、関節内圧が高まることなどが上げられる。
⑤ 病態
* 腱板炎
腱板に病変を推定できるような自発痛、運動痛、圧痛があるが、運動制限は痛みのためで局麻剤の注射で症状が軽減するもの
* 腱板部分断裂による炎症(図13)
肩関節挙上を中心に筋力低下が起こり、関節可動域が制限されることも多い
疼痛は外転時に強く、夜間痛も見られる
* 有痛性肩関節制動症(五十肩)
中年以後、50歳代に多く発症し痛みと運動制限とを主訴とするもので、急性時は疼痛が強く次第に肩の動きが悪くなり、慢性時には頑固な運動制限と痛みが併存して外旋、結髪、結帯動作が困難となるもの
* 烏口突起炎
運動制限が全くなく烏口突起に限局する痛みのあるもの
* 石灰沈着性腱板炎
急激に発症し、やり場のない夜間痛があり、痛みはどんな肢位を取っても楽にならず運動制限が強い。X線で石灰沈着像が認められるもの
* 肩峰下滑液包炎
肩峰下滑液包に液が貯留し腫脹が強く、時に熱感があり自発痛や各方向への運動痛があるもの
* 上腕二頭筋長頭腱炎
上肢を側挙した状態で肘関節を屈曲するときや下垂位で外旋するとき、あるいは物を持って上肢挙上するときの関節部痛で、結節間溝に圧痛があるもの
* 腱板疎部損傷
腱板疎部(肩甲下筋腱と棘上筋腱との間隙、図14)の損傷の影響が関節外に波及し、炎症・癒着という経過をとる拘縮群とその影響が同部にとどまり弛緩して不安定性を示す群の二つがある
+これらが一つ一つで現れることはあまりなく、痛みが現れたときには複数のものが一緒になっている。可動域は自動および他動運動制限があり、特に外転、回旋制限が著明である。日常生活では更衣や結髪、結帯動作が困難となる。肩の運動痛とともに睡眠障害を来す夜間痛も特徴で、肩だけでなく頚部や上肢にも放散する。
Ⅱ評価項目
1) カルテ・他部門からの情報
① 氏名
② 性別
③ 住所
④ 年齢
⑤ 診断名、障害名
⑥ 現病歴
発病時期
発病の誘因
発病からの経過
痛みの種類
症状を左右する因子(天候、気温、肢位など)
⑦ 既往歴
⑧ 合併症
⑨ 医学的処置
⑩ 術式(行った場合)
⑪ 服用薬
⑫ 生活環境(家族構成、職業、経済状況、住居環境等)
⑬ 利き手
⑭ X線検査・臨床検査(関節造影等)
2) 患者自身・家族からの情報
① 問診(ニーズ等)
② 視診・触診(変形、熱感、位置関係等)
③ 疼痛テスト(部位、程度、種類等)(表1)
④ 感覚テスト
⑤ ROM-T(上肢、体幹)
⑥ MMT(上肢、体幹)
⑦ GMT(握力等)
⑧ 形態的評価<周径(上腕、前腕、胸囲)><四肢長(上肢、上腕、前腕、)>
⑨ ADLテスト(FIM)
⑩ 肩関節疾患治療成績判定基準(表2)
⑪ 補助検査
* Yergason’s test(図15)
被検者に肘を屈曲、前腕を回内位に保持させ、検者が前腕を把持し被検者に回外をさせる。このとき、抵抗を加えることで疼痛を誘発させる。結節間溝部に疼痛が増強すれば二頭筋腱炎が疑われる
* Speed’s test(図16)
患者に前腕を回外、肘を伸展したまま上腕を前方挙上させ、検者が患者の前腕部に抵抗を加えることで疼痛を誘発させる。結節間溝部に疼痛が増強すれば二頭筋腱炎が疑われる
* Painful arc
肩甲骨面で挙上して60~120°の挙上域で疼痛が増強し、その前後で疼痛のない現象で、検査が陽性の場合は、腱板損傷、肩峰下でのimpingementが疑われる
* Drop arm sign
他動的に挙上した上肢を検者が支えながら下降させ、外転90°ぐらいで支えてを離すと上肢が落ちてしまう現象で、陽性の場合は、腱板断裂などが疑われる
* Impingement test(図17)
検者が肩甲骨を上から下方に押さえて上肢を他動的に前方挙上させると、疼痛が出現する。陽性の場合はsubacromial impingement syndromが疑われる
* Coracoid impingement test(図18)
肩を90°前方挙上位から水平内転・内旋させると疼痛が出現する。陽性の場合、烏口突起と小結節間でのimpingementが疑われる
* プロカインテスト
疼痛の責任病巣が関節包内か滑液胞内の原因によるものかを鑑別するのに有用である
* High arc test(図19)
他動的に上肢を前方挙上させる。160°~最大挙上位の範囲で肩鎖関節部に疼痛が出現するものが陽性で、その場合、肩鎖関節内の損傷が疑われる
* Horizontal arc test(図20)
検者は肩甲骨を固定し、他動的に肩関節を水平内転させ、肩鎖関節に前後方向への負荷を加える。このとき肩鎖関節部に限局する疼痛が誘発するものを陽性とし、肩鎖関節内の損傷が疑われる
* Distraction test(図21)
検者は肩甲骨を固定し、上肢を他動的に下方、内転方向に引くことで上下方向の負荷が加えられる。このとき肩鎖関節部に限局する疼痛が誘発するものを陽性とし、肩鎖関節内の損傷が疑われる
Ⅲ問題点
Impairmentレベル
#1疼痛
#2ROM制限
#3筋力低下
#4睡眠障害(疼痛の為)
Disabilityレベル
#5ADL能力低下
#6基本動作能力の低下
Handicapレベル
様々な因子によって異なる(生活環境等)
Ⅳプログラム・治療
①物理療法
* 寒冷療法
急性期の疼痛が激しい時に用いり、持続的にアイスパックを用いたり,クリッカーにてアイスマッサージを行う。凍傷に注意して1日に数回、3日ほど続けて使う
* 温熱療法
急性期の強い炎症期が過ぎた後に使い、ホットパック、極超短波、超短波、超音波などを用い、血流の改善、疼痛の軽減、軟部組織の柔軟性の効果がある
* その他
TENSやレーザー光線などを用いることで鎮痛を図りながら運動療法を行う
②運動療法
急性期の中でも特に疼痛が激しい時期以外は運動療法の適応となり、疼痛が増悪しない範囲でする
* 抵抗運動
肩関節内転、内旋、伸展内旋などの方向に抵抗を加える。等尺性収縮を5~10秒間行わせた後、リラックスさせる。これを数回繰り返す
* 他動運動
凹凸の法則に基づき、骨頭の滑走方向に注目し、関節包や靭帯の癒着、短縮による可動域制限に対して、筋・腱などの軟部組織の伸張を痛みのない範囲で行う
* コッドマン体操(アイロン体操)(振り子運動)(図22、23)
健側の手で椅子や机を持たせ、前かがみとなり、重錘を持った患側の上肢を下に垂らし、この姿勢で体幹の反動を利用して、上肢を前後、左右、回転方向へ揺り動かす。この姿勢では棘上筋に負担がかからず、上肢と重錘の重さにより関節周囲組織へ牽引を加え、関節包に伸張を加えることができる
* プーリー体操(滑車運動)(図24、25)
頭上に滑車(プーリー)を1個固定し、健側で患側を挙上する運動であるが、できれば仰臥位で2個以上の滑車による訓練が重力を避けた負担の軽い方法として患者に好まれ、かつ支点が安定するためにより効果がある
* 棒体操(図26)
1本の棒で腱板を介助させていろいろな肩関節の動きを導き出すことができるが、両手で棒を握らなくてはならない為自然な動き、特に回旋運動が妨げられる
* コノリーのストレッチング体操(図27)
① 挙上運動
ドア・タンスの縁などに挙上した手を乗せる。通常は健側上肢の介助が必要である。その位置で膝を屈伸させる
② 内旋・後挙運動
腰のところで患側の手首を健側の手でしっかりとつかみ、これを上方に繰り返し引き上げる
③ 外旋・外分回し運動
体の前で組んだ手をそのまま後頭部にまわし、上腕を開閉する
これら3つの運動を家庭内では風呂上りに行わせる
* 棘上筋訓練
① 外転運動(図28)
a) 運動方向
scapula plane上で運動
b) 運動範囲
上肢下垂位から45°挙上位まで
c) 運動強度
肩甲骨の代償運動が著しく増えたりする為、腱板訓練としての最大抵抗はまでとし、肩甲上腕リズムが維持されている範囲で実施させる。棘上筋と三角筋との活動バランスが保たれている範囲
d) 運動回数
好ましい運動は、開始から20回程度である為、1セット20~30回を勧めている
e) 注意点
体幹の側屈や肩甲骨の過剰な挙上や肩甲骨の下制などの代償
② 内転運動(図29)
a) 運動方向
腋窩に柔らかいボールまたはクッションを挟み、scapula plane上で運動
b) 運動範囲
45°挙上位から上肢下垂位まで
c) 運動強度
棘上筋と三角筋との活動バランスが保たれている範囲
d) 運動回数
外転運動と同様。1セット20~30回
e) 注意点
肩甲骨の下方回旋が伴うのに注意
* 棘下筋・小円筋訓練
① 外旋運動(図30)
a) 運動
肩甲骨が運動に参加しない範囲での外旋運動
b) 肢位
基本肢位は坐位机上での実施。そのほか、仰臥位や立位にて壁面に寄りかかり肩甲骨の運動を抑制しての実施、空間位での実施などから症例に最も適した訓練方法を選択する
c) 運動強度
活動バランスが保たれている範囲が好ましいが、負荷が強すぎると肩甲骨の運動が参加するので、参加しない範囲の強さを選択する
d) 運動回数
1セット20~30回
e) 注意点
時として上肢を体幹に固定する為、広背筋が過剰に活動することがあるので、訓練実施側と逆の手で活動のないことを確認しながら実施させることもある。また、訓練回数が進むと肩甲骨または手関節の運動となる症例があるため注意を要する
* 肩甲下筋訓練
① 内旋運動(図31)
a) 運動
肩甲骨が運動に参加しない範囲での内旋運動
b) 肢位
基本肢位は坐位机上での実施。そのほか、仰臥位や立位にて壁面に寄りかかり肩甲骨の運動を抑制しての実施、空間位での実施などから症例に最も適した訓練方法を選択する
c) 運動強度
活動バランスが保たれている範囲が好ましいが、負荷が強すぎると肩甲骨の運動が参加するので、参加しない範囲の強さを選択する。
また大胸筋、広背筋が過剰に活動することがあるため、訓練実施側と逆の手で活動のないことを確認させながら実施する
d) 運動回数
1セット20~30回
Ⅴゴール
個人のさまざまな因子によって異なる(生活環境、Handicapレベル等)
Ⅵ参考文献
(1)米本恭三他;JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION、
リハビリテーションにおける評価Ver.2、医歯薬出版、2000、pp122-124、pp329―334
(2)嶋田智明;理学療法評価-そのクリニカルアプローチ、メディカルプレス、1997、pp213-217
(3)山元総勝;理学療法学テキストⅣ-運動療法Ⅱ-、神陵文庫、1999、pp137―145
(4)山嵜勉;整形外科理学療法の理論と技術、メジカルビュー、2001、pp202―251
(5)室田景久他;整形外科体操療法実践マニュアル、全日本病院出版会、1996、pp11―32
図2
図1
図3
図4 図5
図6 図7
図9
図8
図10
図11 図12
図13
図14
c:滑液包面部分断裂 d:腱内断裂
e:関節包内部分断裂
図15 図16 図17
図18 図19 図20
図21 図23
図22
図24 図25
図26
図27
図28 図29 図31
a:前方から b:側方から a:無負荷で
b:輪ゴムで
図30
表1
表2
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