最終戦争

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最終戦争の原因をたどるなら、五つ国の形成された時期とまでは言わないまでも、ガリファー王国の歴史を遠くさかのぼらなければならないだろう。統一王国の成立後も、この地域が“五つ国”と呼ばれ続けたという事実は、ガリファー一世が軍事力でコーヴェア中原の統一に成功したあとも、各国の独立国としての誇りが失われなかったことを如実に示している。
 ガリファー王国最後の王ジャロットは、その治世において数々の偉業を成しとげた。ウォーフォージドやブレランドの浮遊要塞に代表される驚異が現出したのも、中央コーヴェア全土がライトニング・レイルで結ばれたのもこの時代である。ところが、ジャロット王は暗く不穏な夢にとりつかれ、王国成立以来最大の軍備増強を推し進めた。ごくごく近しい側近たちを除いて、ジャロット王の恐れの深刻さを理解する者はほとんどいなかった。王は毎朝日が昇るとともに愛する王国の破滅が近づいてくるのを目にし、暗い夜のとばりが降りるたびに災厄がひたひたと迫るのを見ていたのである。
 こうしたひそかな準備となかば公然たる準備の数々は、五つ国全土の緊張を否応なく高めていった。やがて、影という影にひそむ脅威と危険が誰の目にも明らかになってくると、いや増す恐怖にとりつかれた人々は国家意識に目覚め、やがてそれは五つ国を束ねて1つの王国にしている絆よりも強くなっていったのである。強大な軍隊を意のままに操ることができる各国の総督がその力に酔いしれているうちに、とうとう戦争の火種がくすぶり始めた。
 その火種とは、ジャロット王の予期せぬ崩御だった。しきたりを踏襲し、ジャロットの長子ミシャン王女が王位を継承しようとするのに、3人の弟妹たち──スレインのサリン、カルナスのカイウス、ブレランドのローン──が異を唱えたことから、最終戦争が正式に勃発する。サリンとカイウスの2人は、生まれた順番などという偶然の要素ではなく、王位を継ぐのにふさわしいのは誰かを決める正しい方法を探るべきだと主張したに過ぎなかったが、ローンだけは違い、自由を人一倍愛する自分こそが王冠を戴き、ガリファーをより進歩的で自由な国につくりかえるために王権をふるうべきだと考えた。いっぽうのミシャンも王位継承権を手放そうとせず、そうこうするうちに各総督は、この際自分が玉座に就くのが最上の方法だと決意するに至ったのである。
 こうして火蓋が切って落とされた最終戦争は、100年間の長きにおよんだ。もちろん、戦乱の1世紀には比較的穏やかな時期もあった。また、コーヴェアの一部では激しい戦いがおこなわれているのに、ほかの地方は(たとえ一時的とはいえ)嘘のように平和であるというような状態が続いたことも一度や二度ではない。戦況はと言えば、最初こそ3つの陣営──サイアリとアンデール、ブレランドとカルナスがそれぞれ手を結び、スレインだけは孤立していた──に分かれて争っていた五つ国だが、その同盟関係もたちまち雲散霧消し、戦いはおおむね混戦の様相を呈するようになる。以降、戦争の全過程を通じて同盟が結ばれては解消されるということが繰り返された。戦争が終結を見るまで、ガリファー王国とその構成国、また少なくとも1つのドラゴンマーク氏族、さらにはごく普通の庶民の家庭までもがばらばらに引き裂かれ、互いに争った。

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最終更新:2013年03月07日 22:51
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