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#center(){&color(blue){&size(20){&u(){&bold(){流血少女エピソード-時宮遅過-}}}}} ---- <プロローグSS> 妃芽薗学園に雪が降る。全て包み込むように学園が銀世界に染まる。 風紀委員会室では、外に降り積もる雪のような真っ白な髪の少女――時宮遅過(ときのみや ちか)が窓辺に立ち、それをみつめていた。 いま風紀委員室にいるのは彼女一人。他の風紀委員たちは誰もいない。 雪椿事件で大きく人員を失った風紀委員会は、お世辞にも活動に必要な人数を確保できているとは言い難い。 それに加えて、風紀委員会のメンバーたちは事件の解決に尽力を尽くしている。 特にかつての仲間たちの遺体を発見した黒姫音遠は、事件を食い止められなかった怒りと悔しさからか、無謀とも言うぐらい事件にのめり込んでいる。 故に事件に関わることにも風紀委員としての職務そのものにも消極的な彼女ぐらいしか残らなかったのだ。 「音遠…」 遅過は同じ風紀委員に所属する彼女のことが好きだった。 別の世界から来た転校生の力を持ち、真っ直ぐな意志を持つ少女。 同じ風紀委員として彼女を見つめているうちにいつしか好きになっていた。 もっとも、この期に及んで事件の究明に消極的な自分は彼女に嫌われているのだろうとも遅過は思っていたが。 「あなたが誰かに負けるなんて、思わないですけど……」 それでも、心の中から不安感をぬぐい去ることができない。 たしかに音遠は強い。それはなにも彼女が転校生の力を持っているから―――というだけではない。 もちろん転校生の力は強大だ。普通の魔人とは比較にもならない。 だが、契約により召喚され、依頼を果たせなかった転校生はそれほど珍しいというわけでもない。 音遠の強さは意志の強さ。姉譲りの正義感や責任感。 そのまっすぐな意志はあらゆる困難を突破できる。 少なくとも遅過はそう信じていた。 だから、彼女が負けるところなど遅過には想像もつかない。 そう。ここが普通の学校であれば――― だが、妃芽薗学園には高二力フィールドが存在する。 中二力を分解する高二力フィールドは魔人の天敵だ。 通常の魔人であっても力の行使は大きく制限される。曲がりなりにも転校生である音遠ならなおさらだ。 彼女は妃芽薗にいるには強すぎる。 転校生の力を持つ彼女には、高二力フィールドの中では存在するだけで大きな負担になる。 まして、その中で強引に能力を発動すれば彼女の心身にかかる負担は尋常なものでない。 もし消耗しきったところを狙われたら? 彼女の強さは彼女自身さえ傷つける諸刃の剣なのだ。 「私は…どうすれば…」 遅過は悩ましげな面持ちで立ち尽くす。窓の外で雪はまだ降り続けている。 どうすればいいか。決まっている。 時宮は傍観者の一族。ならばこのまま事態の進行をただ見つめていればいい。 風紀委員会の雑務ならまだしも、学園全体を揺るがす事件になど首を突っ込むべきではない。 時間を操る時宮の力は軽はずみに使うには強大すぎるのだ。 少なくとも一族の老人たちはそう言うだろう。 そしてほかならぬ遅過自身それを間違っているとは思っていない。 だが――― 本当にそれでいいのか。もしそれで音遠が死んでしまったら…… もしそうなったなら、その後自分はずっと後悔し続けるのではないか。 もちろん自分が関わったからといって、何かが変わるとは限らない。 だが、自分に出来ることがあるならそれをするべきなのではないか。 最悪の結末を迎えてしまう前に――― 「私は……」 ふと、同じ一族の時宮凍華のことを思い出す。 かつては姉のように慕っていた女性。 彼女はヒーローとして誰かを救うために半ば喧嘩と同じような状態で時宮家を去っていった。 当時幼かった遅過は何も不自由もないのに、なぜ彼女が時宮家を飛び出していったのかわからなかった。 今なら彼女の気持ちがわかる。 彼女は傍観者でいられなくなかったから、時宮家を去ったのだ。 なら、自分は――― 「―――そう…ですね…」 何かを決意した表情で遅過は、顔を上げ窓辺から空を見上げる。 外に舞い落ちる雪はますます激しさを増している。 まるでこの先待ち受ける苦難の道を示すかのように。 だが、彼女の瞳はその雪を溶かすように燃え、まっすぐ前を見据えていた。 そしていつしか、風紀委員室から彼女の姿は消えていた。 ----

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