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**ソーコアートオンライン
「もはやハルマゲドン後では無い」という言葉が魔人学園にはある。「もはや戦後では無い」と言われたのは終戦から10年程過ぎてからだが、年に数度ハルマゲドンが勃発することもある魔人学園ではそのスパンは短い。ハルマゲドン後2週間も何も無ければそう言われるには十分だ。
第二次ハルマゲドン後一時の平和が戻りその言葉が囁かれるか否かという時期の妃芽園で、新たな異変は起こっていた。その発端が、妃芽園ではハルマゲドン以前からありふれていたゲーム研究会部長の行方不明事件だったということに発生当時は誰も気づいていなかった。
✝✝✝✝✝
5つの遺影の前で、雨竜院血雨は手を合わせていた。白金七光、TEX-コ89、岡崎康子、神尾まほろ、そして (ピー)ちゃん、先のハルマゲドンを共に戦い、散っていった仲間たちだ。
ハルマゲドン後、勝者の番長グループも敗者の生徒会も、遺恨を残しつつ多くは穏やかな日常へと戻っていった。血雨もその1人である。結局、雛を殺した黒幕はわからずじまいであった。ただ、あのとき現れてゴクソツに思いを告げた少女、彼女は――。
「岡崎先輩……遺影なのに目線が隠れてる……」
まるで非行少女のような扱いの岡崎にホロリと涙しつつ、血雨はこれからのことを考えていた。まずは姉と雛の墓参りに行こう、と。
✝✝✝✝✝
「失礼します……内人先輩!」
「やあ、血雨くん」
内人王里に会おうと電算部部室を訪ねてみれば、ちょうどそこにいた彼女は大きなスクリーンでアニメ鑑賞をしていた。人生の大半を十束学園で過ごしてきた血雨は基本的に世間知らずで、アニメやゲームのようなメディアには酷く疎いのだが、そんな彼女でもその内容の異様さは一目で判った。
何しろ、どうやらファンタジーじみた世界観に見えるがそこら中触手だらけである。モンスターはもちろん、触手が木々のように立ち並び、街中に触手の像が建てられている。血雨が見入っているうちにストーリーは進み、ボス触手との戦闘が始まる。ボスは手強く、主人公もヒロインも精力をどんどん削られていく。
主人公はヒロインが時間を稼ぐといってアヘ顔ダブルピースを晒している間に、アイテムの「夕日屋の釜飯弁当」を食って体力を回復する。
『夕日屋の釜飯弁当を食べたら力が漲ってきたぜオカマッ!』
強引にねじ込まれたタイアップで世界観からすると明らかに浮いているが、先述の通りこの手のメディアに疎い血雨は「どこかで見たことあるな」と思いながらも特に違和感を抱かない。
最後は体力を回復した主人公が触手への関節技からレイプへと移行し、ヒロインとの合体技で見事触手に潮を噴かせる。ダンジョンを姦落させた2人が倫理コードを解除し、触手や他の攻略者と乱交パーティを始めるところで話は終わっていた。
「な、なんですかこのアニメ……」
「SAO(ショクシュ・アート・オンライン)、今放送中のアニメだ。作中だけじゃなく地上波の倫理コードも無視しているところが人気らしい」
呆然といった様子の血雨の問いに、王里は答える。ゲームの世界に飛び込んだかのような仮想現実を味わえるオンラインゲームで、プレイヤーが開発者の企みによりゲーム世界に閉じ込められてしまう。現実へ戻るにはゲームをクリアするしかない。主人公は、ショクシュ・スキルを会得し、レベルをあげ触手をアサルトファックしていく。そんなストーリーなのだと王里は言う。
「面白いのかはよくわかりませんでしたけど……意外ですね。内人先輩がこんな『肉』欲の塊みたいな作品を見るなんて」
「触手はともかく、設定が好きなんだ」
あんこラテを啜りながら言う。
血雨は知らないが電脳世界を舞台にした冒険劇というのはSFではよくある題材であり、そして王里はそういった世界に憧れていた。
「彼らは排泄もしなければ筋肉痛も無いという。肉欲に囚われているのはいただけないが、私も意識だけになって電子の海へダイブしたいな、と見ていると思うんだ」
23世紀の少年のように機械の体に憧れる王里だが、彼女が考える、「肉」の煩わしさから解放されるもう1つのルートが、電脳世界への移住であった。血雨がふと彼女の顔を見れば、眼鏡の奥のいつもは濁り気味な瞳が、夢見る少女のそれへと変わっている。
「でも……「でも現実じゃ糞尿垂れ流しですよ」
血雨の台詞は合成音声によって遮られた。声のした方を振り向けばドアを開けてガシュンガシュンと部室に足を踏み入れるゴクソツの姿が。
「ヒヤリ! ハット! な、何をしに来た浮気者ッ!」
現れたゴクソツに対し、王里は飛び上がって3回転すると着地してキッと睨む。以前はゴクソツにメロメロだった王里だが、白河一との一件以来やや険悪気味であった。
✝✝✝✝✝
「綺麗な子だったな……」
安楽椅子に揺られ、とんかつパフェを食べながら王里は遠い目になる。頭に浮かぶのは、ゴクソツに「大好き」と言った少女、白河一。
「転校生だから凄く強いんだろうし、それに……胸部にはけしからん『肉』が」
自分の無い胸を擦りながら、恨めしそうに言う。血雨は「まあまあ」と宥めてくれるが、そんな彼女も貧乳とはいえ王里よりは胸がある。
「バストアップマッサージをしましょうか」
「いらん!」
手をワキワキとさせるゴクソツの申し出を突っ撥ねる。
「君はあの転校生を追いかけて新潟まで『肉』を揉みにいけばいいじゃないか!」
「なんで新潟?」
頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く王里が可愛らしくて、傍で見ていた血雨は頬が緩むのを抑えられない。ハルマゲドンで仲間を失い、どこか荒んでいた気持ちも2人の定番のやり取りを見て癒される。
しかし王里の方は面白くなかった。自分は真剣にあのことに怒っているのに、ゴクソツのこれまで通りのおちゃらけムードはそれを誤魔化そうとしているように思われた。
「あなたにはマッサージが必要だと判断しました。私には感情はありません」
「感情が無い」「自我が無い」――そんな口癖が、今の王里には癪に障った。
「感情が無いなら……命令だ、私に絡んで来るな! 感情が無い癖に……コンピュータのくせに」
白河一への嫉妬から出た言葉だった。彼女とあんなに親しげにしておいて、感情が無いからなどと言うゴクソツが許せなかった。
「……!」
アームは動きを止め、ゴクソツは暫し沈黙する。王里は何か言い返すかと思っていたが、一言も発しないことに逆に呆気にとられたようになる。そして、踵を返しゴクソツは部屋を出ていった。去りゆく無機質な背中はいつもとは違う寂しさを漂わせていて、血雨も一旦止めようとしたものの口をつぐんでしまう。
「……内人先輩、言い過ぎですよ」
そう咎める血雨に、王里は何も言えなかった。
翌日から、毎日のように電算部部室を訪れていたゴクソツは全く来なくなった。
「ゴクソツ……君」
生徒会がその権限を失ったため、他の寮生と同じくなった自室。そのベッドの上で、王里は愛しい名を呟く。明るい曲調の鍵盤ハーモニカジャズが流れるも、部屋の主の表情は物憂げだ。あんなことがあっても、やはり好きだった。ゴクソツに腹が立っていたのは仕方ないが、それでも言ってはいけないことを言ってしまった。それに
「コンピュータのくせに」
なんて自分が言うことになるとは思っていなかった。あんなに憧れて、愛おしかったものを否定したのだ。
「ごめん、ゴクソツ君……」
涙で視界が滲む。自分の言葉を聞いたゴクソツの反応、自我が、感情が無ければありえないのに。
「ああ……ん」
胸に抱き締めているのは、ハルマゲドンの少し前に動作不良のため取り替えてやったゴクソツのロボットアーム。幾度と無く自分の胸や尻に伸ばされたその手を、今の王里は自ら胸に当てていた。傷つけてしまった想い人を心に描き、少女は自らを慰めようとする。
――ゴンッゴン――
「ヒヤリ! ハット!」
寝た状態から跳ね上がり、綺麗な月面宙返りを決める。ノックの音に「入り給え」と返せば、ドアが開きそこにいたのは見覚えのある少女の顔。ゲーム研究会の部員であった。コンピュータを扱う電算部とゲーム研究会は以前から交流があり、合同でイベントを催したりゲームを合作したりしている。
「こんばんは、ちょっと用事があって伺いました」
「何かね? 部長さんの件かな」
「いえ、それとは別です。ちょっとこちらのゲームをプレイしてもらえないかと思いまして」
そう言って、少女が差し出したのは1枚のCD。ゲーム研の新作をプレイさせてもらえることもしばしばあったので、王里はそのことには特に疑問を抱かない。CDには凝ったタイトルロゴが印刷されていた。「ソーコアートオンライン」と。
To Be Continued
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