流血少女エピソード-二科ぴあ-





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ぷぴー♪

陳腐で軽快な電子合成されたピアニカの音が鳴り響いた。
少女…、と呼ぶには大柄な女の子の背中には大きな金属製のジェネレータ発電機が内蔵されているリュックのような物が背負われている。
ジェネレータから蒸気が噴出した。

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二科ぴあ。
身長190cm、体重65kg。
ボリューム感があるがスタイルは良い、いろいろとデカいのだ。
グラビアアイドルとかやれば人気が出そうな感じがあるが、本人はいたって内気である。

大きな体と魔人の肺活量で吐き出される息は凄まじい勢いを誇る。
その息が、電子ピアニカジェネレータを高速回転させる。
バックパック型ブレス融合発電機が軽快な電力需給を行った。

バックパックには複数の電光掲示板が発電状況などを示しており、
『再稼働認可』『本日の消費量は発電量の80%』『電力の供給に問題なし』
『夏季計画運用OK』『安全基準は満たしています』『校則準拠ヤッター』
『反対デモの必要なし』『漏れません』
などの表示が目まぐるしく表示された。

がちゃこん!!がちゃこん!!がちゃこん!!

息によってブレス圧シャフトが伸びる。
二科ぴあの腰に装着されたエレクトリカルキーボードが展開される。

がががががががががッ!!

二科ぴあの指先が七色の鍵盤を縦横無尽に踊る。
早い!!

ぷぴー♪

「うおおーッ!!いいぞ!!成功だ!!やったー!!これで新入部員獲得だ!!部員数も右肩上がりだ!!うなぎのぼりだ!!」
電脳ピアニカ部部長は涙を流し拍手喝采した。

ぷーぴーぴー♪ぷぴぴぷっぴぴぴっぴぴー♪

単調な電子テクノ音が周囲に鳴り響くと電脳ピアニカ部の債権取り立てに来ていた、任侠華撃団の下っ端ヤクザ女子たちの瞳がトローンと眠たそうに閉じ始める。

「催眠ジャミングテクノによる攻撃性の低下は凄い!!いける!!文化祭単独ライブだ!!ピアニカヤッターッ!!」
コロコロと丸いシルエットの電脳ピアニカ部の部長は満面の笑みを浮かべる。
ここは女子高なので当然、部長も女の子だ。
部長のテンションは凄く上がった。

『音楽は世界を平和にします』『音楽で争いのない世界を』『意気軒昂』
『アッパー系サプリメント音楽』『依存性はありません』
『ハッキングではありません』『脳内アクセス権は正規IDです』

などの文字が目まぐるしく表示された。

「万歳!!ピアニカ万歳!!電脳万歳!!」
細長いシルエットで白衣の副部長は感動の涙を流した。
副部長も当然女子である。

「あ、あのー。これホントにピアニカなんですか?」

演奏していた二科ぴあは不安の声をあげる。

「もちろん、ピアニカだ」「何も問題はない、いいね?」

部長と副部長は声を揃える。

「え、え~?」

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二科の困惑とは裏腹にヤクザ女子は目をこすりながら大声を上げる。

「テメーら!!容赦しねえぞ!!」
「黙れ、オリャー!!」「五月蝿い、アチョー!!」
「あわわ、攻撃してこないでくださーい」ぷぴー♪

ヤクザ女子は気絶した。

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伝統あるピアニカ部に二科が入部したのは一年の春である。
二科ぴあは単純にピアニカという楽器が好きなのだ。
しかし、その時ピアニカ部は廃部の危機にあった。

二科ぴあにはピアニカ演奏の才能があった。
その才能は時間をかければ、ピアニカ部の再生に十分寄与できる才能であった。
しかし、二科ぴあにはハッカーとしての才能もあったのだ。
短絡的に部費を獲得できる才能が

既に廃部の危機であったピアニカ部の起死回生の策として行われたのが電脳電子化であった。
違法な手段で獲得された莫大な部費が投じられ電子ピアニカが開発された。
この手の開発にピアニカ部部長は素晴らしい才能を持っていたのだ。
天才的なピアニカ職人でありながら、電子に傾倒していたのだ。
明らかに間違った方向性である。電気のパワー。
なにも間違ってなどいない。彼女はピアニカが大好きなのだ。

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電子ピアニカは当然売れるわけが無かった。
エレキピアニカでありながら動力が息なのである。
電脳接続の意味もピアニカ演者にとっては不要の一言である。
テストパイロッ…、演奏テストの二科ぴあ以外には。

二科ぴあには類まれなる魔人肺活量と、類まれなる電脳操作能力と、ピアニカ演奏能力が、ある。
この楽器が天才ピアニカ奏者である二科ぴあにしか扱えないのだ。

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副部長はプログラミング音楽による脳への作用を研究する医学生であった。
なんで、ピアニカ部にいるのか意味が解らない。
意味ならある、彼女はピアニカが好きなのだ。

電子ピアニカを利用したハッキングツールの開発は早急に行われた。
開発された楽器型ハッキングツールはとても良く売れた。
数々の学内非合法サークルがこのツールと電子ピアニカ(の電脳接続機能)を用いて違法な利益を上げた。
莫大な売り上げが電脳ピアニカ部に転がり込んでいく。
しかし部員は3人。
規定では廃部寸前だ。
部員の獲得は急務であった。

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莫大な違法収益はピアニカロボの開発に投じられた。
二科にしか演奏できないのであれば、演奏に対応したロボを作るのだ。
しかし誤算があった。ロボは息をしない。
モーターとファンによる単なる風ではピアニカジェネレータは起動しなかった。
息が必要なのだ。

「どうかんがえても、間違ってますよぉ。部長。普通に演奏しましょうよ。」

二科ぴあの訴えは当然却下だ。

「ははは、二科は何を言ってるのかな?電脳ピアニカが完成すれば部員は百倍よ。」

ピアニカロボは兵器としてテロ組織に売り渡し借金を返済。
しかしまだ金は足りない。
部員も足りない。

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ハッキングツールの破壊プログラム音楽を作曲し、風紀委員に売りとばして当座の利益を確保しさらに開発は続けられる。
再びの借金の踏み倒しもあいまって学内暗黒組織の全てを敵に回した。
自業自得であるがピアニカ部には夢があるのだ。
文化祭単独ライブの夢が。

そして、学内を逃げ回り校庭裏の廃工場跡地でそれは完成した。

「完成だ!!工場内に廃棄されていたジェネレーターは出所不明だが、凄い出力だ!!」

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工場内には「学校革命」「魔人排除によるクリーンな社会を」「近日決行」などというプロパガンダ書道が貼られており、明らかに異様な雰囲気を醸し出している。
この工場を占拠していた怪しげな人々は護衛のニンジ…、魔人が二科のデストロイピアニカで排除されると蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったのだ。

後に残った爆発物らしい物体や数々の武器を見た部長と副部長はニンマリと笑みを浮かべた。

「新しいジェネレータ部品だ!!」「こちらは展開型キーボードやイマジナリスピーカに開発に有効です」「部長、副部長。泥棒はいけませんよぉ」「おお!!これは洗脳演説?くだらない、人に感動を与える楽譜と言うのはだな…」「部長、なんかソレ、政府の対魔人制圧プログラ…」「こんなところにミウジカリウム鉱石が、スゴイ!!」「副部長、なんかそれ明らかに危険なマークが…」

三日後。
工場に突入した、暗黒部活の実行部隊ヤクザ女子を3人で撃破した電脳ピアニカ部は。
学内2大勢力の一方に庇護を求めたのであった。

「ピアニカは無敵だ!!」「ピアニカで部員復活!!」『危険はありません』
「行け!!二科!!ピアニカ部の栄光を取り戻すのよ!!貴方の演奏で!!」

「わかりましたぁ。二科ぴあ、がんばりマス!!」
『音楽で感動を』『音楽は貴方の心に潤いを与えます』『ホント環境にやさしいウソジャナイ』

ぷぴー♪



最終更新:2012年08月25日 11:22