流血少女エピソード-十尻あびる-





むかしむかしあるところに、凶悪な力を持った怪物が、荒れ果てた古城に独りぼっちで棲んでいました。
怪物は美女の生血を啜ることを何よりも好み、夜な夜な街に繰り出して、眠っている女性の血を奪っていました。
しかし、いくら血を飲んでも、怪物の心は満たされませんでした。
怪物は孤独でした。
みんなに嫌われて、怖がられて、疎まれて、それでも怪物はどうしても死ぬことができませんでした。
怪物の姿を見ると森のけものたちも怯えて、ひっそりと静まりかえってしまいます。
血を吸って、城に帰って、棺に横たわって、崩れかけた天井の割れ目から月を眺めて、眠りに就いて――――それで怪物の一日はおしまいでした。

怪物に血を吸われたという人が百人を超えた頃に、怪物を殺したものに褒美を与える――――というお触れが国中に出されました。
それからというもの、怪物の城には毎日のように人間がやってきました。
そして、怪物は聖書で殴られたり、塩をかけられたりしました。
棲みかを何度変えても、人間はどこまでもどこまでも追いかけてきました。
怪物は森の中を逃げて、逃げて逃げて逃げて――――そして、力尽きて倒れてしまいました。

次に目を覚ました時、怪物は見知らぬ部屋のベッドに寝かされていました。
体中の痛みが少し軽くなったように思えたので、怪物はゆっくりと起き上がって辺りを見まわしました。
するといきなり扉が開いて、一人の少女が怪物のいる部屋に入ってきました。
怪物はびっくりして、窓から外に飛び出そうとしました。
少女は怪物の腕を掴んでそれを止めました。
もちろん怪物の力なら簡単に少女の手を引き剥がして逃げることもできたのですが、怪物はそれをしませんでした。
少女がとても悲しそうな顔をしていたからです。

怪物はひとまず逃げるのを止めて、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのか、と尋ねました。
少女は、あなたが何かに怯えているように見えたから、と答えました。
そして、今まで独りぼっちで淋しかったから、しばらく自分の話し相手になってもらえないか――――と少女は続けました。
怪物は、そんなことを言われるのは初めてだったので、とても嬉しくなって、少女の話を聞くことにしました。

少女と怪物は色々なことについて話しました。
王子様とお姫様が出てくるおとぎ話や好きな食べ物の話、夢の中での思い出などを語り合い、
――――そして最後に少女は、自分の身の上についての話を始めました。
それは、二年ほど前に自分の両親が怪物だと疑われて、村の人たちに殺されてから
ずっと森の奥で一人で過ごしてきた――――というものでした。

怪物は驚いて、それから自分を責めました。
怪物は、自分のせいで少女の両親が殺された――と告げ、自分の正体とこれまで行ってきた悪行について、全てを少女に打ち明けました。
そして、怪物は泣きました。捕まりそうになった時よりも、たくさんの人間に追い回された時よりも、声を枯らして泣きました。

怪物は自分の胸に杭をつきたてました。
そして、少女が怪物を殺したことにして褒美を貰って欲しい――――と言いい、そのまま地面に崩れ落ちました。
怪物は、ついに自分で自分の命を終わらせることができたのです。

少女は瀕死の怪物に取り縋ると、手をぎゅっと握ってこう言いました。
「私と――――――――――――」

怪物は少女の言葉を聞いて、ゆっくりと頷きました。
そして、少女の首筋を優しく噛みました。
少女は静かに目を瞑って怪物の傍に倒れました。

それから怪物と少女はいつまでも………………



最終更新:2012年08月25日 11:59