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番長GSS4

累積点数 点




ゆるふわ番長 ~温泉回~」



■1■


「み、みんなっ!」

ある冬の日の昼下がり、番長グループが拠点としている小屋というには豪勢なコンクリート製の平屋に、息を弾ませながら1人の少女が飛び込んできた。
何をしていたのか彼女の制服は泥にまみれており、その上、頭からバケツで水を被ったように左半身が全身びしょ濡れになっている。
苦しそうに肩で息をし、特徴的なクルクルと螺旋を描く二房の髪を大きく揺らしながら、少女こと怒璃瑠萌絵(どりる もえ)は続けた。

「穴を掘っていて、とんでもないものを見つけちゃった! どうしよう?」

ともすれば国際警察のお偉いさんが「わざとらしくやりおって…」と頭を抱えそうな台詞に、分厚い少女漫画を読んでいた番長グループの一員、三二一(みつい)が顔を上げ「なになにー? って、わぁ! もえさんベショベショだー!」と朗らかな反応を返す。
それに続き、思い思いの昼下がりを過ごしていた番長グループの面々が、なんだなんだと萌絵に関心を向けていく。
それを確認してから、彼女は一呼吸おき、興奮滲み出る声色で力強く発表した。

「私、温泉掘り当てちゃった!」

怒璃瑠萌絵は自慢の縦巻きロールを高速回転させ大地を掘削する魔人能力:ペルシダーを持つ魔人である。
彼女曰く、間近に迫るハルマゲドンの重圧から来るストレスを紛らわそうと番長拠点の裏手を能力でフラフラと地中散歩をしていたところ、突如地下の奥深くから熱湯が湧き出してきたのだと言う。

それを聞き、そこにいた一同が大なり小なり驚きの反応を返すなか、頭上に大きな豆電球がビコーン!という漫画的擬音を伴い激しく点灯したのが幻視出来るほど、極上の反応を示す者がいた。
目深に被っていた帽子をはね上げ、ワナワナと立ちあがった彼女の瞳は発光せんばかりに爛々(らんらん)と輝いている。

「温泉…だと…!?
温泉といえば湯けむり…湯けむりといえば殺人…そう、湯けむり殺人事件っ!
君達っ! 今すぐっ! 露天風呂を作るぞっ!!」

その者の名は
未来探偵紅蠍。蠍座の名探偵――。

■2■


異界から召喚されし、圧倒的な戦闘力を持つ魔人である転校生といえど、決して万能なわけではない。
確かに戦闘面においては無敵に限りなく近いかもしれないが、精密動作が苦手だったり、芸術センスに欠けたりと、いくつかのパラメーターにおいては意外や意外、並の魔人を通り越して一般人すら下回ることがある。
故に転校生・未来探偵紅蠍の露天風呂作りは多くの魔人の手を借りて成された。

紅蠍の「露天風呂を作る」という壮大だが無謀な提案に対し、番長グループの大半の構成員は意外にも悪い反応を示さなかった。
それには元来お祭り好きで派手好きという魔人の一般的性質も寄与していたが、皆間近に迫ったハルマゲドンの重圧から一時でも解放される為に、何かしらの作業に没頭していたいという想いが心のどこかにあったのだ。
そしてその没頭する為の作業として、露天風呂作りは丁度いい塩梅の課題だった。

露天風呂建設に向けての一手目は、石材の調達であった。

「鞘、頼むよ。」

石材の調達は紅蠍と同じ無限の膂力を持つ転校生である、意志乃鞘に託された。

「ふむ。 協力してやりたい気持ちは山々だが、知っての通り私はどちらかというと頭脳派でね。」

石材の切り出しと運搬という地味で辛そうな肉体労働に対してはじめはノリ気で無かった鞘であったが、周囲の「転校生のちょっといいとこ見てみたい」という希望の眼差しと声援を受け、渋々とこれを承諾する。
石材場までの間、何度かヒーロー的なアクシデント(ex.新幹線に小動物が轢かれそうになっている!)に見舞われ時間をとられるも、なんとか日の落ちない内に直径数十メートルの巨大な岩石を背中に背負い、持ち返って来た鞘であった。

鞘の帰りを待つ間、露天風呂建設に向け打たれた二手目は優れたデザイナーの確保だった。

「私、建築家じゃないんだけど…」

白羽の矢が立ったのは舞台監督の肩書を持ち大道具製作に深い造詣を持つ哀川ベラドンナ。
露天風呂の設計と大道具作成は全然違うからできっこないという尤もな主張でデザイナー就任を辞退しようとするベラドンナに対し、他にできそうな人材がいないんだという主張と転校生とは思えない低姿勢で食い下がる紅蠍。

「じゃあ、紅蠍さんが私の『役者』になってくれるなら…うん。
…やったことないから上手く出来るか保障できないけど、頑張ってみる」

数分の説得の末、終には折れたベラドンナ。
それ以降舞台監督から現場監督にジョブチェンジした彼女は、あれやこれやと精力的に指揮を行うようになる。

説得に苦労したのはこの二人くらいのもので、あとは概ね協力的だったといえる。
三手目の湯船や源泉を冷ます為の湯路の確保に伴う穴掘り作業は、紅蠍が少し頼んだだけで「嫌々だけどやってあげるわ!別にアンタ達の為にやるんじゃ無くて私が掘り当てた温泉なんだから私自身の力で形にしてみたいの。もちろん一番に入るのは私なんだからねっ、いい!?」と誰に向かって言うわけでもなく宣言した後、怒璃瑠萌絵が一手に引き受けてくれた。
次の工程に関しても、鞘の運んだ石材を砕き、萌絵が掘っただだっ広い穴に敷き詰める作業は手の空いていた皆がワイワイと進んで協力してくれたし、敷き詰めた石同士の隙間の溶接は、下記のようなやりとりの末、すんなりと完了することとなる。

「お嬢、力をお借りしたいのですが」

紅蠍の頼みに対し上品で控え目な笑みと、しとやかな頷きで答えた八七二三(はなつみ)を見て、言葉を交わさずとも速やかに能力を発動する従者。その結果、無数の金属の蛇が湯船の中を這いまわり、石の表面を研磨し、石と石の隙間をそれ自体に含まれる僅かな金属粒子を寄せて結合することで塞いでいった。

こうして、日が暮れる頃には入浴にまで漕ぎつけた番長グループ。
カルテル無しで人間主体の建設業者が仕事にありつけないのも頷ける、まさに魔人的建設スピードであった。

■3■


「いやしかし、これが若さですかね」

真っ暗な空からひらひらと無数に舞降りる柔らかな白を愛でながら、初老を感じさせる熟れた体の女性がぽつりと教え子たちの突貫工事にあらためて感嘆の言葉を口にした。
彼女の名は墨江翌桧(すみのえ あすなろ)。
保健委員会顧問を兼任する妃芽薗学園の教師である。
「せんせーお風呂作ったよ! 一緒に入ろー!」という可愛い教え子達からの誘いを受け、今こうして露天風呂に浸っている彼女。
そんな彼女と全く同じ理由で隣にいる妙齢の女性が口を開く。

「先生だってあの子達くらい若いと思いますがね。」

少し離れたところでキャッキャと戯れる学生達を視界に収めながら放たれた、単なるお世辞ともとれるその言葉に、不動を誇る墨江の心がほんの僅かに乱れる。

「からかわないで下さい。」

極々自然な風に努めて、少し照れたような笑みと共にそう言い返した墨江。
そんな何気ないようでいて、毒の刺が潜む会話に妙齢の女性の頬の肉が緩む。
彼女は裸繰埜病咲風花(らくりのやみさき ふうか)、墨江と同じく妃芽薗学園の保健室を任される職員である。

遠くで大きな水音がした後、暫くして減衰した波が彼女達の元へ伝わってくる。

「あれは神足さんですか。
自転車のまま湯船に入るとはいけませんね、しかも飛び込みとは。」

「ふふっ。」

「あぁ、あの子に至っては全裸に帽子一丁で湯船に入らず奇怪なポーズで水面に立って… せっかくの温泉を何だと思っているのか。」

「さぁ…、波紋の修練場か何かと勘違いしているのかもしれませんね。」

活き活きとはしゃぐ生徒達を話題にしたためか、再びゆったりとした雰囲気が二人の間に流れる。
ややあって、小さくクシャミをした風花を「大丈夫ですか」と気遣う墨江。
それに「いつものことですから」と答える風花。

「いつも風邪をひいていらっしゃるようで心配です…。
お医者様の不養生といいますし、一度大きな病院で見ていただくのはいかがでしょう。
もしかすると何か悪い病気かもしれませんし…。」

そう言った墨江の、心配という言葉からはかけ離れた挑発的な笑みと自分の表情の変化を観察するかのような粘着的な視線に、風花はつい堪え切れず破顔してしまった。
ふふふ、ふふふと何がおかしいのか二人の教師は揃って笑う。

「温泉は解放的な気持ちになっていけませんね。
これでは私も生徒達のことを悪く言えません。」

「同感です。」

「ところで先生、少し名残惜しいですがそろそろ我々は切り上げた方が賢明なようです。」

「はい、私も今同じことを言おうと思っていました。」

二人の視線はある一人の生徒に注がれていた。

■4■


「うおおおお!! すげぇラディカルなおっぱいだ! すげぇ!」

「うっせーな、声がでけぇよベリショにすっぞ!
気付かれたらどーすんだよ!」

見た目は女、心は男の二人組が男の夢ともいえる光景を満喫している。
彼女達の視線の先には一升瓶を片手に、番長グループナンバーワンの巨乳を惜しげもなく放りだして陽気に雪見酒を呷(あお)る二魁堂 白鹿(にかいどう しろか)の姿があった。
明らかに作為的な湯気のおかげでクリティカルな部分は隠れているが、DVD版では修正されることであろう。
肉つきの良い長身に実るその殺人的な巨乳は妃芽薗学園限定カップ焼きそばのパッケージに印刷された巨乳しか能が無いアイドルの数段上を行く殺人具合だ。

最早プロを超越したそのレジェンドおっぱいをネタに騒ぐ二人の会話に、聞き耳を立てていた怒璃瑠萌絵の髪が回転をはじめる。

「ばっかじゃないの!」

ギュルリギュルリと回転速度を増していくその髪は彼女の感情の昂りに呼応しているかのようだ。

「白鹿は体が大きいんだから胸も大きくて当然よっ! 私だって身長があればもっとこう…」

自らのささやかな膨らみをさすりながら、ブクブクとお湯の中で何かを呟く少女の耳に風呂回お約束の嬌声が飛び込んでくる。

「いやっ、ちょっと…あっ! そこは…ダメ!」

「わかったー!」

「んっ! ダメだって!」

「わかったー!」

なんたることか、中学1年生にも関わらず豊満な胸を持つ野生児・獅子口 チギリに、チンコ番長こと阿鼻 狂華(あび きょうか)が襲われている。
どちらも怒璃瑠よりも小柄であるが、胸は比較にならないほど女性的な様相を呈しており、その二人の組んず解(ほぐ)れつとなれば、それはもうPTAから苦情が殺到するレベルのお色気シーンである。

「んっ! やっ! …あ、粟島、なんとかして!」

「うおおおお! 私のせんぱいに何してんだこの犬っころ!
普段タチばっかりのせんぱいが慣れないネコにまわったせいで鼻血を吹くほどらぶりーになってしまったではないか!見ろこの鼻血を!
しかも、普段わたしを全く頼ってくれないせんぱいが私に縋(すが)るほどに乱れ、追いつめられている!!
これは一刻も早く助けださねば! でも一旦部室にカメラ取りに行ってきます!」

「わかったー!」

「ひゃんっ! あ、あわしま…はやく…!」

「こらー! 私のせんぱいから離れろー!
うわぁなんて怪力だこれは私の手には負えないこうなったら最後の奥義を使うしかないこれを使えば私の命は塵となり消えてしまうだろう、だがしかしせんぱいを救うために使わずしていつ使うというのだ甘えを捨てろ今がその時だ、うおおおおおおおここからモノローグこの不甲斐ない五十乃めをお許し下さいどうか生きてお幸せにモノローグおわりくらええええええバタリ五十乃は死んだ、はい、チーズ☆」

あまりにも雑な助ける演技をしながら、どこから取り出したのか防水性のあるデジタルカメラでパシャパシャと写真を撮りだしたこの少女が、後にこっぴどいお仕置きを受けることは誰の目に明白であるし、私はそういうえっちぃものが読みたいので、どうぞよろしくお願い致します。

そんな様子を目にしてしまった怒璃瑠の髪はさらに回転を早める。

「ばっ、ばっかみたい!!
む、むむむむ、胸なんてっ!女の魅力の一部にしか過ぎないんだからっ!
もっと、例えば…ホラ…」

例を挙げることもできず、情緒不安定な様子でワナワナと震える彼女の前を二人の女の子が通り過ぎた。

「頼むよ 一度見学に来てくれるだけでいいんだ
今のサッカー部には君のような真っ当な力が必要なんだ
もちろん兼部でも構わない!」

「んー でも今は恋で忙しいからナー♪」

サッカー部の棟城(とうじょう)センナと陸上部の三二一 零(みつい れい)だ。
二人は胸こそ平凡そのものであるが、カモシカを連想させる遅筋と速筋の絶妙なバランスから成るグンバツの脚の持ち主であり、それは女性である怒璃瑠ですら一時の間、怒りを忘れ見入ってしまうほど艶やかで官能的な逸品であった。

無意識のうちに自分のごくごく一般的な太ももをさすっていたことに気付き、我に返った怒璃瑠の感情は羞恥と惨めさからついに爆発してしまう。
涙目で湯船の中をズンズンと徘徊し、仲間達の体を吟味していく。
隣の芝は青く、誰も彼も自分より魅力的に見え、見れば見るほどもう既に砕け散ったプライドはオーバーキルされていく。
それでも彼女は歩みを止めず、ついに目的へと辿りついた。

見まごうこと無き平坦、俎板と称されるそれに達して、彼女の精神は一時の安息を得る。
そう、これこそが彼女の逃走経路。
彼女は自分より胸の小さい者を見ることで爆発四散したプライドをなんとか取り戻そうとしたのだ。
善悪や常識の観念は激情により既に焼き切れてしまっていた。
暫くジロジロと胸を凝視しては勝利を確信し、へらへらとうすら笑いを浮かべていた怒璃瑠であったが、ふとその視線を上げた時、バチリと俎板の持ち主と目が合った。

俎板の少女・佐々木“ツヴァイヘンダー”貫子は、

【屈託なく】

笑っていた。

「あっ……ああああああああああっ!!!」

切れた。
彼女の中の決定的な何かが切れた。
立場の弱い者を見下して何かを得た結果がこれである。
彼女の中を様々な思考が混線しながら駆け巡る「体が醜いだけならばまだ愛される余地はある。けど、心まで醜かったら…?」「一時の激情に任せてとんでもないことをしてしまった。」
彼女は悶え叫ぶ。
「自分が彼女の立場だったらどう思うだろう?もし、私が彼女の立場で胸のことで見下されたら殺してしまうかもしれない。」「それを何故彼女は笑っていられるの?」「決まっている、心が綺麗だからだ。」
彼女の目から涙が溢れる。
「なのに…」「それなのに」「それに比べて」
「私は汚い」「私は醜い」「私は下劣だ」「私は最低だ」「私はっ!」「心まで貧乳だっ!」

ドリルの回転が完全に止まった。

「ごべっ…ごべんなざい! ひっぐ …ごべんなざいっ!!」

とめどなく流れる涙を拭いながら、心からの謝罪の言葉を叫ぶ怒璃瑠がどうして泣いているのか、そして何故謝られているのか分からずにオロオロとする佐々木“ツヴァイヘンダー”貫子であったが、彼女の頭に刺さっている男前ソード・ツヴァイヘンダーが「そっとしといてやれ」とテレパシー的な何かでアドバイスを与えたため、怒璃瑠の様子を気にしながらも、「全然怒ってないですよ~ 大丈夫ですよ~」と一声かけ、彼女は去っていった。

1人残され、それでも泣き続けていた怒璃瑠の前に、いつの間にか金髪の少女が立っていた。
夜の露天風呂で全裸だというのに日傘をさしたその少女は、ジッと怒璃瑠の瞳を見つめている。

「………なに?」

やっとのことで絞り出した弱々しい怒璃瑠の声を聞いた金髪の少女・十尻 あびるは恐らく大切な物であろう日傘をするりと手放した。
そして自然な動きで怒璃瑠に近づき、力強くその頭を抱き抱えた。
突然の抱擁を振り払う元気すら残っていない怒璃瑠の背中を温かな液体が伝う。

「わかる、わかるよ。 辛いよね、悲しいよね…。」

それはあびるの瞳から零れ落ちる大粒の涙であった。

「はじめからずっと見ていたよ、大丈夫、もう、大丈夫だから。」

わざわざ視線を落として確認するまでもない。
胸を通して伝わる鼓動の鮮明さが何よりの証明。
貧乳同士に言葉はいらない。
怒璃瑠は再び声をあげて泣き出した。
先程までの涙とは一味違う涙。

くるりくるりとゆっくり、うねる様に、ドリルが再び回転をはじめる。
こうして番長グループに一組の新しいカップルが成立した。

■5■


「おやおや、君達は真面目だね。」

露天風呂からやや離れた茂みの中で、無防備な状態の番長グループを守護するべく暗躍していた二つの影を未来探偵紅蠍が労う。

「……風紀委員ですから。」

透けるような白い肌と、プラチナブロンドの長髪が特徴的な美少女が淡々と答える。
中等部3年、水泥 姿見(みどろ すがたみ)。
一方、もう一人のどことなく儚げな雰囲気の少女は紅蠍に脇目もふらず警戒に勤しんでいる。

「確かに今生徒会に襲われると厄介ですが、しかし折角皆さんの協力で完成した露天風呂。
どうでしょう、以降の見張りはボクが引き受けますので、お二人は皆さんと親睦を深めてきては?
ボクとしては皆さんに露天風呂の素晴らしさ、そして湯けむり殺人事件の高揚感を味わって欲しいのです!」

「……殺人事件はダメ。」

否定的な言葉を口にしながらも紅蠍の提案に水泥の表情がほんの少しだけ明るくなったのを感じた白髪の少女・時宮遅過は、風紀委員の後輩にあたる彼女に言った。

「いいよ、行っておいで。
私とこの人がいれば十分だから。」

「でも…。」

「フフフ、先輩の言うことは聞いておくものですよ。
さぁ、めくるめく湯けむりの世界へ!」

転校生・紅蠍と番長グループ最強の矛・時宮の二人にそう言われては、水泥も断り切れず、申し訳なさそうに、しかしそれでいて少し弾んだ足取りで露天風呂へと向かって行った。

「遅過君も行ってもいいんですよ。
転校生の膂力とこのバリツがあれば例え生徒会総出で奇襲してきたとしてもお釣りが来ます。」

軽口を叩きながら何やらほっほっと格闘技の型のようなものを行う紅蠍を視界に入れず、遅過は呟くように不愉快そうな表情で言った。

「………転校生だって、負ける時は負けるし、死ぬ時は死にます。」

「フフフ、ボクを並の転校生と一緒にしないでいただきたい。
なんなら転校生の力というものを実演してさしあげましょうか?
今から遅過君を力ずくで露天風呂へとご招待して、見張りはボク1人でも十分だということを証明します。」

遅過は答えなかったが、紅蠍が何か企んでいるような雰囲気は感じ取り、視線を合わせないまま警戒対象に紅蠍を加えた。
次の瞬間、紅蠍が転校生特有の超スピードで移動し、遅過を捕えんと彼女に迫ってきた。

「―――――証明完了。」

まるで冗談のような事象でその一瞬の攻防の決着はついた。
遅過に飛びかかったはずの紅蠍は、気付いた時には何故か飛びかかる前より遠くの位置で正座をさせられていたのである。

魔人能力「スロー・ザ・タイム」
遅過は遅くした周囲の時間の中を自分だけ通常の速度で動くことができる。

唇を突き出し「今のはナシだ。もう一回!」と不満そうな紅蠍に対しやれやれと首を振る遅過。
そのじゃれ合いを、一つの甲高い悲鳴が強制終了に導いた。

「水泥さん!?」

その悲鳴はつい先ほどまでここにいた、水泥 姿見の声に良く似ており、方角も露天風呂の方からであった。

「おおっとこれはいけません、まさか、皆さんに何か!?」

紅蠍がそれを言い終わる前に遅過は駆け出していた。
故に、舌を出して禍々しい笑みを浮かべた紅蠍に、遅過は気付けなかった。

―――――やがて、紅蠍も遅過の後を追い、露天風呂へと向かう。
しかして誰も居なくなったはずの茂みに浮かぶ二つの光。
それは、人の形をした真っ黒な「なにか」であった。

■6■


露天風呂に辿りついた遅過を待ち受けていたのは彼女の初期の想定とは違ったものの、惨状と言って差し支えの無い光景であった。
むせかえるようなアルコールの香りと、酒樽と化した露天風呂で行われるレズカップル同士による淫らな行為、猥褻な行為、淫猥な行為。
どちらも未成年である彼女達に許されるものではなく、ましてや露天風呂で行っていい行為であるハズがない。
風紀委員でありながら風紀の乱れにあまり興味のない遅過をしても、流石にこの事態は容認できず、諸悪の根源に然るべき処罰を加える為に歩き出す。

それでも犯人がよく知った身内であり、しかもここにいる全員が恐らく酔っぱらっているだけで無事であることに遅過は安堵していた。
ここへ向かう途中から香っていたアルコールの刺激臭で、ある程度は事態を推測できており、実際問題その推測は当たっていた。
「酔酎、それは楽しい」
二魁堂 白鹿が持つ、液体をお酒にする能力である。
雪見酒と露天風呂で気分がノッた二魁堂がついつい能力を発動してしまい、その結果徐々に酒気を帯びていった温泉に浸かっていた生徒達に酔いがまわり、彼女達の理性が鈍くなった結果、我も我もと人目を憚らずの淫行に及んでしまったのだろうという遅過の予想は、100点満点の解答であった。

特徴的なロシア帽をほとんど上下に揺らさず、スイスイと滑るように、未だ楽しげに酒を呷る二魁堂へと歩みを進める。
その途中、水泥の姿を湯船の中に見つけ立ち止まる。
水泥が極端にアルコールに耐性がなかったのか、能力によって変換されたお酒が驚くべき速攻性や浸透性を備えているのかは定かではないが、悲鳴から現在までの数十秒足らずのうちに、彼女はすっかり酔っ払いの一員となり果てていた。
彼女の着ていた服は露天風呂を漂っており、風呂の中で蠢いている淫獣と化した生徒達に引き込まれ、服を脱がされたであろうことは想像に難くなかった。
気持ち良さそうに湯船を泳ぐ平和的な彼女の姿を見ていると、なんだか力が抜けていくような感覚に陥り―――――

―――ドンッ!

その虚を見事に突かれてしまった。
瞬時に能力を発動させ周りの時間を遅くするも、中空に突きとばされた自身の体勢や勢いだけはどうにもできない。
ただ、自分を湯船へ突きとばした者、未来探偵紅蠍の満面の笑みと、恐らく「2回戦目はボクの勝ち」とでも言いたげな両手を使ったピースサインはじっくりと観察することができ、十分に腹を立たしい気持ちになった。

ややあって、湯船に落下した遅過であったが、的中しないでいい予想が的中してしまう。
二魁堂が能力によって変換したお酒が、酔いに関して恐るべき速攻性を有していたのだ。
一口飲めばもちろんのこと、肌に付着しただけで対象を酔わせてしまう。

故に、この後遅過が水泥と同じ運命を辿ることは明白であった。
ふにゃふにゃになった遅過はさぞかし可愛いであろう。

「君はとても強いがどこか硬い。
いい機会だからお友達に体も心も解(ほぐ)して貰うといい。」

ふにゃふにゃ遅過を見届けることなく、絶賛身ぐるみ剥がされ中の彼女に背中を向け、紅蠍はどこかへ向かい歩き出す。


さて、使い古されたありきたりな手法だが、探偵が犯人というのはやはり趣深い。
今宵のボクは愉快犯。
あと1人、この釜から逃げのびている「あの子」を叩き込めば、本日の騒動はめでたく鏖(みなごろし)という解決に辿りつける。
ここまで冗長な物語に付き合ってくれた物好きな君たちならば、それが誰なのか言わずとも分かってくれるだろう。

未来探偵紅蠍。蠍座の名探偵――。

■7■


翌日の番長小屋は地獄絵図のような有様だった。
察しのいい何人かは早めに切り上げて難を逃れたようだが、殆どの者ははじめてのアルコールの過剰摂取により、所謂二日酔い状態に陥っていたのである。
もっとも、朝まで飲み通して未だに不眠不休で飲み続けている例外も存在するのだが。

多くの生徒は途中で意識を失い、気付いた時には番長小屋で寝ていたそうだ。
誰かとても親切な人が介抱してくれたのか、はたまた意識のないまま自力で番長小屋まで這って来たのかは分からない。

ただ、小屋の中央には対二日酔い用栄養ドリンクがこれでもかと詰まった大きなクーラーボックスが置いてあり、その蓋には「アルコールの過剰摂取は死に至ることもあるので、これを教訓に気をつけましょう。」という覚え書きが貼ってあったそうだ。



無題2


――番長小屋、スタメン待機室

カップ焼きそば「時宮のダンナァ~。いよいよ今日が『本戦』っすねェ~~~!」

時宮「…」

カップ焼きそば「まったく、ダンナと俺が組んでたら最強だったのによォ~! 何しろ『絶対に当たる攻撃が四連続』なんですからァー」

時宮「…おい、カップ……」

カップ焼きそば「なんスかァ~? もしかして、『本戦を前に緊張してる』なんていうンじゃないでしょーね!」

時宮「あの男は誰だ? あんなヤツは番長Gにも生徒会にもいなかったはずだが…」

カップ焼きそば「さぁ? 知りませんね」

カップ焼きそば「ちょっと俺が聞いてきましょうかァ? ダンナはそこでストレッチでもしといてくださいよォ~」

時宮「…やれやれだぜ」

カップ焼きそば「オイッ! テメー! 一体ドコのドイツだッ!」

カップ麺「ここは関係者以外立ち入り禁止だぜェェ~ッ!」

謎の男「…」

謎の男「…貴様らは番長Gの『カップ麺』と『時宮 遅過』だな?」

謎の男「貴様らに恨みはないが、死んでもらおうか」

カップ焼きそば「テッ、テメー! なめやがって!!」

カップ焼きそば「質問を質問で返すんじゃねーぞッ!」

謎の男「…貴様らには、俺の『 糧 』になってもらう…」

謎の男「魔 人 殺 す べ し」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

カップ焼きそば「なに訳のわかんねーこと言ってんだよッ! このダボがッ!」

カップ焼きそば「そっちが『ヤル気』なら、こっちも行かせてもらうぜェ~ッ!」

カップ焼きそば「『トリプル・ユー』ッッ!!!!」

時宮「よせッ! カップッ! そいつに不用意に近づくんじゃねェー!」

カップ焼きそば「メラァッー!」

ドゴッ!

謎の男「…テメーのヘナチョコパンチなんか効かねェんだよォ~~! ボケがッ!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

謎の男「負けて死ねッ! 『コンクリート・ジャンゴ』ッ!」

ドォ――――――ン!!

カップ焼きそば「ボケはテメーだよッ! テメーはまさか俺が『何の算段もなく殴った』と思ってんのかァ~~!」

カップ焼きそば「今の俺のパンチが効かなかったところを見ると、テメーは『防御型』だなァ~~!」

カップ焼きそば「つーことはよォォオ」

カップ焼きそば「テメーは『攻撃力が低い』ッ!」

カップ焼きそば「もう一度だッ! 『トリプル・ユー』ッ!」

バァ――――――ン!!

謎の男「ゴラァァァッ!」


メキョッ!


カップ「ゴ、ゴフッ!」

時宮「カッ、カップッッ!!」


謎の男「キキキキ、やってやったぜェ~~! 『ブッ殺した』! これで『一人』ッ! あと『三人』で俺のッ、願いが叶うんだァ~~~~~~!!」

時宮「…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

時宮「…テメー、一体何者だ?」

謎の男「知りたいのか? 教えてやるよォ~、俺の正体をよォ―――――ッ!」

謎の男「…俺は『選考落ち魔人』だッ!」

バァ――――――ン!!

時宮「! 『キャラ作成』の段階でプレイヤーに『投稿をとりやめさせられたボツ魔人』のことかッッ!」

謎の男「俺の名前は『無敵城 縁助』っていうんだけどよォ~」

無敵城「俺は本来なら『流血少女2』に出るはずだったキャラなんだぜェ~」

無敵城「それがよォ~」

無敵城「あのクソッタレ『十尻あびる』のせいでッ! 『選考落ち魔人』に早変わりだッ! ナメやがって、クソッ!クソッ!」

無敵城「でもよぉ、そんな時代ももうすぐ終わるんだぜェ~! 『テメェ』と『カップ焼きそば』と『十尻』と、俺を作った『プレイヤー』ッ!」

無敵城「四人全員ブッ殺して、メインGKに『俺をスタメンに入れるように』直談判しに行ってやるよォ―――――――!」

時宮「…」

時宮「テメーみたいなゲスの言うことをpieraさんが認めるとは思えねぇ。それに……」

時宮「テメーはここで『カップを潰した罪』を償ってから、泣きながらおうちに帰ることになるんだからなッ!」

時宮「『スロー・ザ・タイム』ッッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

無敵城「『コンクリート・ジャ

時宮「……おせえよ」

時宮「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ」

時宮「ウラァッッ!!!」

ドォ――――――ン!!

時宮「…やれやれだぜ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

???「きかねぇ」

時宮「……!?」

無敵城「『きかねぇ』ッつってんだろーが! ダボがッ!!」

無敵城「俺の能力『コンクリート・ジャンゴ』はよォ~」

無敵城「ダメージを喰らいそうになった時に発動する『先手カウンター能力』でッ!」

無敵城「『ダメージを喰らう瞬間』にだけッ! 『自分の防御力』を『相手の攻撃力+1』にすることができるッッ!!」

無敵城「つまりテメーがいくら俺を殴ろうとも、俺がダメージを受けることは『絶対にない』んだよォ~~! ドゥー ユゥー アンダスタンンンンドゥ!」

無敵城「しかも俺はこの能力のおかげで防御力が必要ねーから、『攻撃力に20振る』ことが出来ているッッ!」

無敵城「地獄を! きさまに! HELL 2U!」

時宮「……なるほどな」

時宮「よーするに、テメーに『ダメージを与えずに』、『ダメージを与えればいい』ってわけだ…」

無敵城「なに言ってんだおめぇはよォ~! 人の話きいてんのかァこの田ゴ作がァ――――」

時宮「おまえの能力には『欠点』がある」

時宮「例えるならば『情景描写が稚拙すぎて何をやってるのか読み手に全く伝わってこないこのSSの展開』のような『致命的な欠点』がなァ―――――!」


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時宮「…カップ」

時宮「わたしに力を貸してくれ…」

無敵城(なんだあいつ、自分の手にカップ焼きそばのヤローを巻きつけやがった)

無敵城(例えるなら『タカマガハラの主人公の戦闘モード』みたいだぜ…)

時宮「ウラァッ!!」

ドゴッ!!

無敵城「ムグッ」

無敵城(こ、こいつッ! 俺の『口の中』に拳をブチ込んできやがった!!)

無敵城(なんだ…? この味は……ソースと……………血?)

時宮「やっぱりな。思った通りだぜ…」

時宮「テメーは『攻撃と認識できない攻撃』はダメージを受けるッ!!」

時宮「札束でほっぺを引っ叩かれたヤツが『自分は今、攻撃を受けた』と『認識』できないように―――――――」

時宮「人間は、『幸福の中に存在する苦痛』を『ダメージとして認識』することが出来ないんだぜッ!」

時宮「そして、カップ焼きそばの美味さは『魔人級』だッ!」

時宮「故に、カップ焼きそばで殴られても、その『美味さ』のせいでテメーは『認識』することが出来ねぇ」

無敵城「なんだよそのトンデモ理論はァ~~~~! テメェはゆでかァ!?」

時宮「無駄口を叩く前に歯を食いしばったほうがいいぜ」

時宮「今から美味くて痛いサイコーの『ランチ』を食わされるんだからよォ~~~~~!」

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無敵城「んなッ!!」

時宮「『スロー・ザ・タイム』&『トリプル・ユー』ッッッ!!」

時宮「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ」

時宮「ウラァッ!!!!!」


無敵城「プベッ!!」


時宮「…ふぅ」

時宮「今度こそ、やれやれだぜ……」

本体:無敵城 縁助
能力名:コンクリート・ジャンゴ
能力:殴られそうになると、相手の拳より自分の体を硬化させる

To Be Continued…?