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番長GSS5

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【粟島五十乃の一世一代】


「粟島。私たち、別れよう」

 私こと粟島五十乃が今日、恋人の阿鼻狂華せんぱいと最初に交わした言葉がこれでした。
 『和歌れよう』? 『輪枯れよう』? 『湧かれ用』? 『worker-ray-yoh』?

「ごめんなさい、仰る意味がよく……」

「寮部屋も、今日の夜から別にしてもらえるよう、頼んでおいたから」

 それだけ言うと、起きたばかりでパジャマ姿の私を残し、制服を纏った狂華せんぱいは
 ひとり、部屋を出て行きました。

 ……えっ?
 えっと…………えっ?


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「――――ってことがあったんだけど……」

 というわけで、放課後になりました。
 魂が抜けたように上の空な私でしたが、本日の授業は幸いにも当てられることは
 ありませんでした。
 もしかしたら当てられたけど気付かなかっただけかも知れませんが……。

 授業の合間に何度も狂華せんぱいにメールを送っていますが、返事はありません。
 食堂で買った夕日屋の釜飯弁当も、手をつけるのを忘れたまま鞄の中です。
 そんな抜け殻のような私を見かねた同じクラスの友達が話を聞いてくれると言って
 下さり、つらつらとお話ししましたでした。

「そっかー……リア充爆発する前に湿気っちゃったんだね……」

 三二一零(みつい れい)ちゃんは、リア充になった自分もろとも好きな人を爆殺して
 しまう魔人です。
 笑顔が可愛いお気楽な性格の子で、もしかすると私を元気づけるためにウマいことを
 言おうとしてくれたのかも知れませんが、普通に胸にグサっときました。

「『諦めるのはまだ早い!』って、ツヴァイヘンダー君も言ってますぅ!」

 こちらは佐々木“ツヴァイヘンダー”貫子(ささき ~ つらぬきこ)ちゃんです。
 頭には魔人化した両手剣が刺さっていて、貫子ちゃんとだけ意思疎通できるとのこと。
 ストレートな励ましに私の胸は熱くなりますが、でも、まだ早いと言われましても……。

 ――――!

 あのとき。別れ際のあの一瞬。
 目尻が赤く、瞳もかすかに腫れていたように思えるのは、私の気のせいでしょうか。
 最後の言葉が、心なしか震えた声音だったのは、本当に私の気のせいなのでしょうか。

 がたっ!
 私は椅子を倒しながら立ち上がります。

 諦めるのはまだ早い? 否、諦められるはずがありません!
 狂華せんぱいには、初めて会った中等部の頃から何度も何度も無視されたり邪険に
 扱われたりしてきました。この程度で私がへこたれるとでも!

「狂華せんぱいに、会いに行きます!」

「えっ……どこにいるか分かるの?」

 走り出しかけた私に、零ちゃんが尤もな意見をくれます。
 私は咄嗟に写真部の部室か卒アル委員の部屋に行こうとしましたが、考えてみれば、
 狂華せんぱいが私を避けようとしたらまず間違いなくそこには行かないはず……!

「『中庭の百合女神像』の前を通り掛かる頃合いだろう、ってツヴァイヘンダー君が
 言ってますぅ!」

 なんという朗報! さすがツヴァイヘンダー君です!
 ツヴァイヘンダー君がどのようにその情報を仕入れたかは分かりませんが、今は
 この情報に縋るしかありません。

「ありがとうね、零ちゃん! ツヴァイヘンダー君! あと貫子ちゃんも!」

「なんで私『ついで』なんですかぁ!」

 教室を出て、弾丸の如きスピードで駆ける私!
 突き進め五十乃! 狂華せんぱいの元へ!!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「さて、私たちもそろそろ行かなきゃだねー」

「ですぅ」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 数日前の尾行の時を思い出させるような、揺れる小さなお尻。
 果たして狂華せんぱいは女神像の前を通り、校舎とは逆の方向へ進みます。
 どちらへ向かわれるのでしょうか……。

「あっちには何があるんだっけ……うーん、うーん」

 妃芽薗での生活はもう何年にもなりますが、こちらへはあまり来たことがありません。
 えーっと、えーっと……そうだ、あれに見えるように、番長小屋があるんでしたね。

(――――番長小屋!?)

 もしや狂華せんぱい、番長グループの元へ向かっているのでしょうか!?
 夏の生徒会との全面戦争では、味方を味方とも思わず殺戮する悪鬼羅刹の如き生徒会と
 戦った勇猛果敢な方々と伺っていますが、今やその構成員もがらりと変わっています。

 特に、二度目のハルマゲドンの気運高まる近頃は、彼女たちもピリピリしているはず。
 ……せんぱいが、昂った彼女たちの慰み者にされてしまう!!

「せ……せんぱいは、私が守ります!」

 考え事をしているうちにせんぱいは番長小屋へと入って行ってしまいました。
 恐怖を押し殺し、私もこっそり続きます!

(お、おじゃっ、お邪魔します……!)

 へっぴり腰で扉を開けると、中はもぬけの殻でした。
 あれ、おかしいなあ。さっき狂華せんぱいも入ったはずなのに……。

「むっ」

 物陰に隠されるように、地下へと続く階段がありました。
 なるほど、どうやら、番長グループが地下へと潜ったという噂は本当だったようです。

「ううー……コワイ……」

 ここから先は、まさに彼女たちの城。
 鬼が出るかも蛇が出るかも分からない伏魔殿です。

 ですが、行かなければなりません。
 もう一度狂華せんぱいとお話しするために――――!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 中はあちらこちらに枝分かれする迷宮のような場所でした。
 まるでドリルのようなもので縦横無尽に掘り進んだような、そんな趣です。
 そして『迷宮』の名に違わず、様々な奇人変人とエンカウントします!



「お前もベリショにしてやろうかー!」

 最初に現れたのは、ハサミを持った変態さんでした!
 ベリーショートのヘアスタイルの女の子が大好きなことで悪名高い、
 神霧翔兎(かみきり しょうと)せんぱい! 聞きしに勝るリビドーが迸っています!

「いやあーっ! ベリショにされたらせんぱいにお手入れしてもらえないー!」

「ファハハ、アカチャン――――うおっ、まぶしっ!」

 カメラのフラッシュで目を眩ませ、全速力で走りなんとか逃げ果せました!



「ありぇええ~、はじめてみるこりゃあ~。えへへぇ、こっひにおいれぇ~~~♪」

 逃げた先には、一升瓶を携えた酔っ払いがいました!
 二魁堂白鹿(にかいどう しろか)せんぱいという、お酒が大好きで有名な人です!
 狂華せんぱい以上の立派なものをお持ちですが、今は見惚れている余裕はありません!

「お、お酒は二十歳になってからー!」

「こんまいことはいいちやー! おらの酒が呑めないがかー!」

 一升瓶が喋った! コワイ! 一目散に逃げます!



「あら貴女、なかなかの器量ね。この私が血を吸ってあげる。光栄に思いなさい」

 ものっそい上から目線で物騒なことを言われてしまいました!
 この方は高等部三年の十尻あびる(とじり-)せんぱいで、半吸血鬼だそうです!
 私の血と肉は狂華せんぱいのものです! 簡単に他人に渡してなるものかー!

「申し訳ありませんが売約済みです! 失礼します!」

「私を袖にするなんていい度きょ――――あっ、貧血……」

 今がチャンスです! すたこらさっさー!



「へーい、そこのカノジョー! 俺とデートしない!?」

 なんかナンパされてしまいました!
 彼女は確か、中等部の生徒で七種しちみ(ななくさ-)さんという方です!
 年上キラーのジゴロさんらしいですが、私には心に決めた方がいます! 純愛一直線!

「だから売約済みって言ってるじゃないですかー! 御達者でー!」

 逃げるのも、もう慣れたものです! 私はカメラを掴――――


 んでいませんでした。
 首から下げていたはずのカメラは、無く。

「他の方ならいざ知らず、その手は私には通用しません」

 誰もいなかったはずの背後から声がかかります。
 なん……だと……。

 振り返った先には、同じ学年の風紀委員・時宮遅過(ときのみや ちか)ちゃんが
 私のカメラを手に立っていました。周りの時間を遅くする能力の持ち主で、
 それにより私からカメラを奪うことが出来たのでしょう。

「七種さん。貴女も、侵入者をナンパしようとしないでください」

「てへぺろ!」

 悪びれた様子もなく舌を出す七種さんから視線を私に戻し、遅過ちゃんは口を開きます。

「さて、粟島五十乃さん。貴女を我々の番長の元へ連行します。処分については、そこで」

「はひ……」

 ああ、せんぱい、ごめんなさい。
 五十乃の冒険はここでゲーム・オーバーかもしれません……。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「――――せんぱいっ!!」

「あ、粟島……? どうして、ここに……」

 連れていかれた大広間で、私は念願の狂華せんぱいにお会いしました。
 せんぱいも侵入者として捕まってしまったのでしょうか。それにしては、大きな
 ソファに腰掛けてリラックスしていたようですが……。なんにせよ、やったー!

「しかし、肝心の番長さんが見あたりませんが……」

 キョロキョロと見回す私に、声がかかります。

「貴女の目の前にいますよ、粟島さん」

 声の主は、同じく大広間にいらっしゃった八七二三せんぱいです。お久しぶりです。
 て、目の前……? 私の目にはいつでも狂華せんぱいしか映っていませんが、今は
 ほんとに狂華せんぱいしかいませんよ……?

「えっ……? もしかして、せんぱいが……?」

「…………」

 驚いた顔をしていたせんぱいが、私の視線に気まずそうに顔を逸らします。
 これは図星のサインですね。狂華せんぱいを見続けてきた私には分かります。
 狂華せんぱいが、番長……。

「遅れてごめんなさーい!」

「ごめんなさいってツヴァイヘンダー君も言ってますぅ!」

 聞き覚えのある声に振り返ると、見知った顔が新たに現れます。

「れ、零ちゃん! ツヴァイヘンダー君! それに、貫子ちゃんも!」

「だからなんで私『ついで』なんですかぁ!」

 二人も番長グループに所属していたんですね……知らなかった……。
 やがて、先程エンカウントした皆さんも大広間へ続々と集結します。

 集会でしょうか。
 しかし、そう考えると、会の集合時間から逆算することでツヴァイヘンダー君は
 狂華せんぱいの居所を推測したのでしょう。こんなに賢い両手剣、初めて見ました。

「……とりあえず、帰って。夜、部屋に行くから」

「せんぱい……」

 狂華せんぱいはこちらを見ずに言いますが、私へのメッセージでしょう。
 私がコクリと頷くと、八七二三せんぱいが私に巻かれていた腰縄を外してくれます。
 そして地上までの直結通路に案内され、私は数十分ぶりに空のもとへ出てきました。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 夜です。
 せんぱいから「今から行く」とだけ書かれたメールが来たのが、五分ほど前です。
 何が起きてもいいように一応身を清めておきましたが……うう、怖くなってきた……。

 こんなときは深呼吸をして気を落ち着けましょう……すぅー、はぁー。すぅー、

「入るわよ」

 ゲホゲホーッ!
 身体を折って噎せる私に怪訝な視線を向けていることでしょう、狂華せんぱいが
 部屋に入ってきました。

「の、ノックしてください……! 心の準備が……!」

 びっくりして盛大に噎せてしまいました。うう、恥ずかしい……。
 ばくばくと音を立てる心臓に手を添えて私が言うと、狂華せんぱいはそっぽを向き、

「……ごめんなさい。これからは、きちんとしないと。……『他人』、なんだから」

 その言葉に、私の心はズキズキと軋みます。
 ですが、ここで怯んでは話は終わってしまいます。
 がんばれ、五十乃!

「せんぱい。私、せんぱいとお別れしたくないです」

「……聞き分けて」

「嫌です! 絶対に、嫌なんです!」

 頑なに譲らない私を、せんぱいはもしかしたら駄々をこねる子どものように感じて
 しまっているかも知れません。
 そして、そんなところがせんぱいの気に障ってしまったのかも知れないと考えると、
 流すまいと思っていた涙も、ぼろぼろと零れ落ちてしまいます。

「……っぐ……せんぱい、どうしてなんですか……? 私のこと、嫌いに、」

「そうじゃない」

 私の言葉を遮っての即答に、思わず顔をあげると、せんぱいも苦しそうに顔を歪めて
 いました。
 比較的ポーカーフェイスな狂華せんぱいのこんなお顔、初めて見ました。

「……分かった。話すわ。全部」

 言いながら、せんぱいはベッドへ――いつも二人で寄り添って寝たベッドへ向かい、
 腰掛け、隣をぽんと叩きます。
 それを受け、私も「失礼します」の一言と共に腰掛けます。

 そこで狂華せんぱいが語ったのは、次のようなお話でした。
 いつぞやの八七二三せんぱいからの頼みというのが、番長グループへの加入であったと。
 狂華せんぱいは考えた末に一時的な加入を承諾し、その戦力を見込まれて
 臨時の番長を務めることになったそうです。

「私が番長に就任したことは、まだ殆ど知られていないはずだけど、いずれは、バレる。
 そうなると、生徒会の過激派が、粟島に危害を加えるかもしれない」

 つまり、私のことを想ってのお別れだったということでしょうか。
 語り終えたせんぱいの瞳は、悲しみに濡れていました。

「せんぱい」

 呼びかけに振り向いたせんぱいを、私は、ぎゅっと抱き締めます。
 私も決して体格の良い方ではありませんが、小柄なせんぱいは、すっぽりと私の
 腕の中に収まります。

「私は、せんぱいを置いて先に死んじゃったりしません。絶対です。
 番長グループの皆さんに絡まれた時も、自慢の逃げ足で無事でしたからね!」

 せんぱいの肩が震えます。
 私は、より一層、力強く抱き締め、

「……せんぱいに『別れよう』って言われた時の方が、よっぽど死んじゃいそうでした。
 私には、せんぱいが必要なんです」

 万感の、思いの丈を、ぶつけます。
 腕の中からは、時折小さく鼻を啜る音が聞こえます。

「せんぱいは、私がいなくても……私なんか必要じゃない、ですか?」

 私の問いに、狂華せんぱいはがばっと顔をあげます。
 顔を真っ赤に染め、目尻から溢れ続ける涙の雫が頬を濡らし、伝い落ちます。

「そんなわけ、ないでしょう……! 私にも、五十乃が必要だよお……!!」

 言葉が終わるが早いか。
 どちらともなく、おそらくは同時に唇を寄せ合い、ベッドに倒れ込みました。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 どれだけの時間、そうしていたでしょうか。
 一瞬のようでも、永遠のようでもありました。
 狂華せんぱいは身体を起こし、腫れながらもいつもと変わらない力強い眼で
 正面を見据えます。もう涙はありません。

「今朝のは、取り消す。私も、粟島と一緒にいたい」

「じゃあ……!」

 跳ね起きた私は顔を綻ばせかけますが、せんぱいは掌を向け、留めます。

「今度は、粟島が選ぶ番」

 私が、選ぶ番……?
 頭上にクエスチョン・マークを浮かべていると、せんぱいはパソコンへと向かいます。
 パソコンが立ち上がるのを待つ間に、ポケットからUSBを取り出し、挿し込みます。

「これから、私の秘密を教える。知りたくなければ、今、」

「知りたいです」

 狂華せんぱいのお株を奪うように即答します。
 面食らうせんぱいにウィンクひとつ、

「せんぱいのことなら、何でも知りたいです。教えて下さい。せんぱいの、全てを」

 私の言葉にせんぱいは、またくしゃりと顔を歪め、でもすぐに口を引き結び、

「ありがとう。……後悔、しないでね」

「モチのロンです!」

 やがて起動したパソコンを操作し、せんぱいはUSBの中身を表示します。
 中には、『秘密』と銘打たれたフォルダひとつだけがありました。
 せんぱいらしい、実にストレートな秘密です。

「…………」

 あとはアイコンをクリックするだけ、という段階で、せんぱいは停止してしまいます。
 肩や腕が小刻みに震えています。

「……怖い…………!」

 せんぱいの弱音を聞くのも、思えば初めてかもしれません。
 私はせんぱいの肩を抱き、マウスを握る小さな手に、自分の掌を重ねます。
 私の勇気を、せんぱいに。

「大丈夫です。せんぱいには、私がついています!」

 震えが止まりました。
 せんぱいは一度大きく息を吸い、吐くと、決断的に指を押し込み、ファイルを開きます。
 表示されたのは、大量の画像ファイル。そのうちの一枚を、せんぱいはクリックします。

「……!」

 妙齢の女性が倒れている写真が画面いっぱいに映し出されました。
 顔のあたりだけ、アスファルトの灰色を塗り潰す様に、白色が広がっています。
 えーっと、これはなんなんでしょう……?

「こっちも」

 別の画像をクリックすると、今度は別の、同世代くらいと思しき女の子が現れます。
 可愛い子ですが、口から生えた、棒?のようなものが鼻に刺さっています。
 棒……うーん、これは棒というよりも、むしろ……。

「私がやったの。『トリカブト』で」

「――――っ!」

 九割九部まで至っていた推測は、せんぱいの言葉で完成しました。
 狂華せんぱいの『トリカブト』。おちんちんを生やす能力。
 そう考えれば、先程の写真に映っていた白色は、精液なのでしょう。

 そして、同時に合点がいきました。
 戦闘能力などないと、せいぜい重い機材を持ち運ぶ程度の腕力くらいしかないと
 思っていたせんぱいの、武力。番長就任の理由。

「私は……変態、なの。たぶん。
 こんなふうに能力で女の子を虐めるのが、その……気持ちよくて、仕方がない」

 せんぱいはこれまででも最大級に顔を真っ赤にして、途切れ途切れに語ります。

 これまでに多くの人に危害を加えてきたこと。
 直接手にかけた者はいないが、人生を壊された者はいるだろうこと。
 中には、のちに自殺した者もいるかもしれないこと。
 そのことに、少しの罪悪感も抱いていないこと。

「普通じゃない――――『オカシイ』っていう自覚は、ある。
 でも、それだけ。直そうとか、そういうのは思わない。……私のこと、気持ち悪い?」

「ううーん……」

 私は腕を組み、やや考えました。

「せんぱい。私にこういうこと、したいと思った事ありますか?」

「……ない、かな。
 私の『これ』は、なんというか……依頼とか、そういう『仕方のないこと』じゃないと
 沸き上がらないっていうか……誰でも、いつでも、っていうのとは、違う」

「なるほど。では、もう依頼を受けるのはやめましょう!」

 せんぱいがきょとんとした顔で私を見つめます。

「そうすれば、『普通』と一緒ですよね!」

 にっこりと言い放つ私に、せんぱいは尚も困惑した顔をしています。
 あれ、違うのかな……?

「こういう、なんというか……『衝動』っていうのは、誰にでもあると思うんです。
 とりわけ、それが高じることで覚醒する『魔人』の方には。
 条件が合わなければ全く無害なせんぱいは、却って大人しい方だとすら思いますよ」

 まあ、『人間』の私には推測でしかないのですが。
 それでも、再びせんぱいの瞳に滲んだ涙は、きっと清らかなもののはず。

「それに、私だって、なんと言いますか……秘密にしてきましたけど、ちょっとだけ
 おっぱい星人のケがありますし……」

「それは、知ってたけど」

 なんですって! 私のトップ・シークレットが!!

「『ちょっと』どころでもないね」

 せんぱいは、笑っていました。
 とても綺麗な笑顔です。
 折角の暴露がむしろ暴発してしまいましたが、これを見るためなら安い出費です。

「でも、被害者の方々に謝るというか、なんかする必要はありそうですね……。
 余裕が出来たら、一緒に行きましょうか」

「余裕?」

 問い返すせんぱいに、私はゴホンと咳ひとつ。
 ずっと言おうと思っていた、一世一代の言葉を、届けます。

 まず、数日後のとある日を伝えます。

「……なんの日か、覚えていますか?」

「粟島の誕生日」

 即答してくれるせんぱいは、やはり素敵です。
 そう。その日は私の十六歳の誕生日です。
 十六という年齢には、重大な意味があります。

「けっ……結婚、しましょう。それで、二人で暮らして、余裕が出来たら……はい」

 意を決し、言葉を紡いだ私の顔は、トマトよりも真っ赤になっていることでしょう。
 めいいっぱいのお辞儀の姿勢で申し込んだ私に、せんぱいからのお返事はありません。
 数分待って恐る恐る顔をあげると、せんぱいも私に負けず劣らず真っ赤になっていて、

「…………ふ、」

 せんぱいはぎこちない動きで、90度の角度でお辞儀を返し、

「ふつつか者ですが……よろしくお願いします……」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 二人で寮長さんに部屋を戻しくれるよう頼みに行くと、呆気なく受理されました。
 曰く、「そんなことだろうと思っていた」と。えへへ。

「せんぱい」

「なに」

 そんなわけで、昨日までのように二人で寄り添い合いながら、

「……約束ですよ?」

「……ん」

 伸ばした小指を絡め合い、約束します。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 来たる、私の誕生日の、ちょうど一日前に。
 ハルマゲドンが勃発してしまうことを、私たちはまだ知りません。
 ですが――――

「そういえば、せんぱい。私のこと一回、『五十乃』って呼んでくれましたよね?」

「っ!!」

「また呼んで欲しいナーー?」

「うるさい!」

「指が痛いっ! 千切れる! 千切れちゃいますーーー!!」

「千切れろ!!」

 とっても、幸せです。                        ちゃんちゃん



【遅過と写真】



妃芽薗学園の廊下にて。
風紀委員会室に向かっていた時宮遅過は、何か紙のようなものが落ちているのを見つけ、それを拾い上げた。
それは少し色あせた古ぼけた写真。そこに写っているのはどこかの部屋で仲睦まじい様子で並ぶ二人の少女。
その片方の少女のことは遅過はよく知っている。彼女の思い人であり、同じ風紀委員の黒姫音遠だ。
年格好は今よりも若く見えるし、妃芽薗の制服でもないが、間違いないだろう。
ただもうひとりの少女には見覚えがなかった。そもそも彼女が着ているのは妃芽薗ではなく希望崎の制服のように見える。
髪は黒髪のボブカット。その姿は音遠に少し似ている。
彼女がこちらに来る前の写真だろうか。なら彼女にとって大切なものかもしれない。
なら、彼女に届けるべきだろう。もともと風紀委員会室に向かう予定だったのだしちょうどいい。
そう考えた遅過の足取りは風紀委員会室に向かう。

しばらくしてから風紀委員会室の前に着くとそのまま扉を開く。
そこには音遠がいた。ほかの風紀委員はまだいないようだ。
音遠は狼狽した様子で、何かを探しているように見える。
きっと、さっきの写真だろう。そう判断した遅過は音遠に声をかける

「音遠、これあなたのですよね……さっき廊下で拾いました」
そう言うと音遠に拾った写真を差し出す。
「ええそうよ。ありがとう」
探しものが見つかってホッとしたのか安堵した様子をみせる音遠。
「一緒に写ってるのは誰ですか?」
ふと疑問に思ったことを口に出す。
「珍しいね。あなたが他人に関心を持つなんて」
本当におかしなものを見たといった表情で音遠が言う。
実際遅過がプライベートなことで他者に質問をするのは珍しい。
正確に言えば、他者に関心がないわけではない。
特に音遠のことをはよく知りたいと思っている。
ただ、関わろうとしなかっただけなのだ。一族の掟のために。

「答えたくないなら別にいいですけど。
 別に無理強いするようなことではありませんし」
「別に隠すことじゃないからいいけどね。これは私のお姉ちゃんだよ」
「お姉さんですか」
「そうだよ。私が尊敬する人。死んじゃったけどね」
そういえば、以前に聞いたことがある。音遠には風紀委員の姉がいたと。
たしかハルマゲドンに関わり死んでしまったという話だ。
なら音遠が狼狽していたのもよくわかる。
ただでさえ死んでしまった人間の写真
そして彼女はこの世界の人間ではない。代わりの写真を手に入れるのは難しいだろう。

「珍しいといえば―――」
音遠が遅過を見据えて言う。

「正直、あなたがハルマゲドンに参加するのは意外だったんだけどな」

そう思っていたのは音遠だけではない。遅過を知る者なら誰もがそう思っていただろう。
別に彼女にその能力がないと言ってるわけではない。むしろ、実力でいえば遅過は風紀委員会の中でも上位に位置する。
だからそれは問題ではない。
この場合問題なのは、彼女の消極性だ。遅過はあまり事件に首を突っ込もうとしない傾向にある。
雪椿事件の解決にさえ消極的だった彼女が、急にハルマゲドンに参加するといったとき、皆どういう風の吹き回しかと思ったものだ。

「だめ……でしょうか?」

少し不安そうな様子で遅過が言う。嫌われても仕方がないとは思っているが、嫌われたいわけではない
遅過がハルマゲドンに参加しようと思ったのは、最前線にいれば情報も得られるし、何より首謀者もそこに現れるだろうと考えたからだ。
全ては事件を追う音遠のため。もっとも遅過はそれをおくびにも出さないが。

「うーん」

少し考えた様子を見せた後音遠が言う。

「あなたがそうしたいと思ったのならそれでいいんじゃないかな」

音遠はそう言ったあと、「私は参加しないけど」と付け加える。
前回は生徒会の一員としてハルマゲドンに参加した音遠ではあったが、今回は直接関わろうとしていない。
双方の陣営に風紀委員のメンバーがいる以上、彼女たちと戦いたくはないというのが一番の理由だ。
そして、来るべきハルマゲドンを前に、曲がりなりにも転校生である彼女に手を出すことは得策ではないと判断した両陣営も現時点ではそれを容認している。

「そうですか」
遅過が言った。

それから暫しの間沈黙が続き、そして音遠が再び口を開いた。

「私は…お姉ちゃんみたいになれないのかな……」

寂しそうな表情で音遠が言う。

「雪椿事件の真相も未だに究明できない。結局ハルマゲドンも回避できなかった。
 治安維持が生徒会や番長G中心だったのはそのためだったのにね…」

(音遠……)

珍しく弱気な姿を見せる音遠に遅過は戸惑いを隠せなかった。

「お姉ちゃんならきっと…」
少し口澱んだあと、
「……きっとうまくやれたのにね」
音遠が自嘲するように言った。

遅過は黒姫音遠という少女のことをを強いと思っていた。そして実際それは必ずしも間違ってはいないだろう。
だが、音遠が弱さを持っていないということを意味するわけではない。
尊敬する姉へのコンプレックス。それは彼女の強さを形作るのと同時に彼女の弱さでもある。
そして今音遠は自分のやることがうまくいかなくて弱気になっている。そんな彼女は見ていて辛い。
だから、遅過は音遠を励まそうと思い彼女に言った

「私は音遠は頑張っていると思いますし、それにみんな音遠を頼りにしてますよ」
「…そうかな」
音遠が自信なさげに言う。
「そうですよ。だからもっと自信を持ってください。みんな心配しますから」
「ごめん。愚痴を言うつもりじゃなかったんだけど」
「いえ。私こそ差し出がましいことを言ってしまいました」
遅過が謝るように言った。
「ううん。ありがとう」
音遠が感謝の言葉を返す。また暫しの沈黙。
そしてずれかけたメガネをなおすと音遠が再び口を開いた。

「死んじゃダメだよ」
音遠が遅過に言った。
「生きて帰ってきてね。私はみんなに死んで欲しくないから」
それは彼女だけに向けられた言葉ではなかったのかもしれない。
でも、もしそうだとしても遅過には嬉しかったのだ。自分は音遠に嫌われていると思っていたから。
音遠が自分を心配してくれたその事実だけで十分だ。

「ええ、そうですね」
遅過は微笑みながら返答した。
そうだ生きて帰ってこなくてはいけない。自分が大好きな彼女を悲しませないために。
そしてまた彼女と一緒に――――



【はるかなるハルマゲドン 駆けろ!番長 第13話「弱点」】


( ※元ネタ:tp://kato-manga.sakura.ne.jp/oz.html )



 ――――冬のハルマゲドン、前半戦……。

佐々木「なんやら触手がぎょうさんいてまんな。ってツヴァイヘンダー君が言ってますぅ」

一升瓶「きみがわるいぜヨ」

七種「観客が触手だけなんて情けないっすね……。」

モヒカンザコA「番長グループ~~! 応援にきたぞ、このやろー。」
(↑カップ焼きそば食べて八日目)

モヒカンザコB「負けたら、ただじゃすまねぇぞ。わかってんのか!てめーら!」
(↑カップ焼きそば食べて六日目)

一升瓶「な…、なんぜよ、あれ……。」

七種「ガラわるいっスね……。」


十尻「ふつうの布陣にしか見えねぇがな。」

阿鼻「おれは、まちがいなく見たんだ。増援を拒否するとんでもねぇ提案をな……。」

十尻「………………。」

 パタパタ……

神霧「あっ、(ピー)ちゃん、どこいくのさ!!」

三二一「(ピー)!」

 パタパタ

神霧「生徒会のリザーバースペースへいっちゃった……。」

二魁堂「け! 浮気な鳥だぜ!!」



                |/||一|二|三|四|五|六|七|
                |栄||科|沙|_|■|_|貫|魁| 
                |美||内|愛|_|_|_|瓶|一| 
                |死||獄|蛭|_|■|_|三|七| 
                |泥||取|古|_|_|_|阿|十| 
                |異||加|夜|_|■|_|霧|時|

科:二科 ぴあ(ピアニカ)
                              佐:佐々木“ツヴァイヘンダー”貫子(ササキ)
沙:佐々木 沙々良(ササキ)
                              魁:二魁堂 白鹿(ノンベエ)
内:内人 王里(ヴィジランス)
                              瓶:一 升瓶(いっしょうびん)
愛:アイリス・スノーフィールド(スケッチ)
                              一:一 八七二三(オシッコ)
獄:ゴクソツ猟用機構・イの15号乙(ポンコツ)
                              三:三二一 零(バクハツ)
蛭:蛭神 瞳(ショクシュ)
                              七:七種 しちみ(ジゴロ)
取:取飲苦 さば子(ゲロ)
                              阿:阿鼻 狂華(チンコ)
古:古谷 銅(テッコ)
                              十:十尻 あびる(キューケツ)
加:加藤 佐藤(タンテー)
                              霧:神霧 翔兎(ベリショ)
夜:夜桜 心(カウンセラー)
                              時:時宮 遅過 (メガネ)
ペ:ペリー神崎(ペリカン)


GK「戦闘開始!!」

阿鼻「う」

佐々木「な、なんや、あの引きこもりは……。ってツヴァイヘンダー君が言ってますぅ」

神霧「ま、まじ?」


阿鼻「いくぜ! いっしょうびん。」

GK「ほんとにひどいキャラだな!」「中の人は誰なんでしょうね!」

モヒカンザコA「す、すげえ言われようだぜ、チンコ……。」

一升瓶「しゃあ! 絶好調ぜよ!」

一升瓶「あまりの言われっぷりに声も出ないようぜよ。」

さば子「うっぷ、おえええええええええ……ごっくん」

一升瓶「ふん! せいぜい吐いていればいいぜよ。」

 ・
 ・
 ・

二魁堂「どうってことねぇ相手だ。心配しすぎだぜ、チンコ。」

七種「ハハ! あいつら、完全引きこもりっすよ……。」

八七二三(かれらは攻めなかったんじゃない……。)

八七二三(チンコの裏筋を偵察することが目的だった……?)



阿鼻「気をつけろ、バクハツ! やつの無気力試合に……!!」

二魁堂「いけー! バクハツ。 遠慮はいらねぇぜー!」

三二一(無気力試合……。)

三二一(どうってことねぇ籠城じゃねぇか。チンコめ、おどろかせやがって……。)

二魁堂「楽勝だぜ、バクハツ! いけ、いけ!」

一升瓶「目をつぶっても進軍できるぜよ。」

十尻「おまえの錯覚じゃねぇのか。チンコ……。」

阿鼻「錯覚なんかじゃねぇ!!本当に増援を出さねぇ気なんだ!」

 三二一、移動のみ

二魁堂「バクハツ、てめ~!」

一升瓶「なにやってるぜよ!!」

神霧「どうしたのさ、バクハツ。」

三二一「すまねぇ。たのむぜ、ベリショ。」

 神霧、移動のみ

神霧「そ…、そんな……。」

神霧「ひどいよ。2ラインばかり集まるんだよぉ!」

三二一「おまえもか……、ベリショ。」

神霧「え バクハツも……。なの?」

佐々木「たのむで~ キューケツ~。ってツヴァイヘンダー君も言ってますぅ」

十尻(いやなDラインをつきやがる!!)

十尻「ちぃ!」

一升瓶「やったぜよ、キューケツ!!」

蛭神「ヴィジランス!!」

内人「イヤーッ!」カチャカチャッ

阿鼻「ム…、ムーンサルトタイピング!!」

内人「ヒヤリ! ハット!」

一升瓶「ガ…、ガンバルゾーと思ったぜよ。」

佐々木「ち、チートでっしゃろ。あんな広範囲……。逃げられるわけあれへん。
ってツヴァイヘンダー君も言ってますぅ」

十尻「くそ。」

三二一「まさか……。」

八七二三「キューケツもまた……。きらいなコースを攻められた。」

二魁堂「おれがDPの取り方を教えてやるぜ。」

十尻「ノンベエのやつ、自信満々だな。」

一升瓶「あのばか、夜もねないで酒飲んでたぜよ。」

神霧「相手はノンベエの酒の強さを知らない。」

七種「酔酎はいただきっすよ。」

二魁堂「もらった。」

阿鼻「う」

二魁堂「壁裏待機ってな!」

ゴクソツ「ピガーッ」(壁を壊す)

二魁堂「なにぃ!!」

アイリス「ぴたっ。」(攻撃を寸止め)

二魁堂「ば、ばかな。」

二魁堂「なぜ、こいつらにわかったんだ……。」

夜桜「ノンベエ、サケ、ツヨイダケ……。」

二魁堂「う」

二魁堂「まさか!?」

ピー「ノンベエ ノンベエ サケ ツヨイダケ…」

二魁堂「ピ、(ピー)か……。」

三二一「お…、おれたちのデータが、すべて……つつぬけ……。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


二魁堂「おれ、ノンベエ。」

神霧「酒、強いだけがとりえ!」


一升瓶「キューケツに日光はこうかばつぐんぜよ。」


三二一「へへ、おれは好きな相手に触れると即爆発四散しちゃうんだ。」


時宮「チンコの持続力がどれくらいもつかな?」


七種「ないしょっすよ、(ピー)ちゃん。じつはっすね……。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


蛭神「偵察完了――――投了だ。お疲れ様でした」ニヤッ

十尻「ふ… しゃれたまねしてくれるじゃねぇか。」

一升瓶「へっ、どうってことないぜよ!」

七種「そうっスよ! 転校生は二人もいるし、敵の残りキャラもたいしたことないっす!!」

八七二三「おまえら、本当にそう思っているのか……。」

八七二三「そうだとしたら、とんだまぬけ野郎だ。」

神霧「オシッコ……」

八七二三「あいつらはつめをかくしたおそろしい生徒会だぜ!!」

時宮「や…、やっぱりだ。」カチャカチャ

時宮「みんな! このデータを見てくれ!」

時宮「今ハルマゲドンの生徒会のキャラデータだ……。」

二魁堂「な、なんだ!この後半戦組の評価点数は!」

時宮「か…、かれらは後半戦以降の大量得点で……、後半の試合を圧勝するつもりなんだよ。」

「「…………」」

二魁堂「だいたいきたねえんだよ! あいつら。」

一升瓶「そうぜヨ!! 2ターン目後手提出前投了なんて、最低ぜよ。」

七種「勝てないす……。」

七種「お……、おれたち、もうだめっすよ!」

阿鼻(にょきっ)チンコ生やす

七種「ひっ」

阿鼻「びびってんじゃねぇ!! こんなところで立ち止ってるわけにはいかねぇんだよ!!」

三二一「…………。」



阿鼻「おれたちのゴールは甲子園なんだ!!」




つづく!?




ペ、ペリカン…?



罪と罰


【挿絵】(ネタバレ要素あり)
邂逅シーン



さすがにコレをそのまま掲載するのは無理だw
リンクを貼っておくので、閲覧する場合は自己責任でお願いします。



【そして彼女は再び動く】


「今なんて言ったんですか?」
ハルマゲドンの前半戦も終り、数日後。、
時宮遅過は信じられないことを聞いたといった表情で訪問者が言ったことを聞き返した。
「ふん、聞こえなかったのか。妃芽薗で今起きている事件について調べろといったんだ」
目の前の男―――本家から使者としてやってきた時宮颯は目の前の少女を馬鹿にするような口調で言う。
普段はブランドのスーツで固めたきざな男だが、今は妃芽薗に入った男性の例にもれず女装をしている。
彼の性格を考えればさぞ屈辱的なことだと思うが、表には出さない。
なお、妃芽薗はいまハルマゲドンで大変な時期だが、なんとか入ってきたらしい。

「本家はそういうことには反対だと思っていましたけど」
「まあ、基本的にはそうだな。だが、時間能力者が関わっているとなれば話は変わってくる」
「時間能力者…ですか?」
時宮の家は基本的にかかわりたがらないが何事も例外というものは存在する。
同族への興味なのか時間能力者が関わる事件には関わりたがる傾向にあるのだ。
「岬さんが能力で見たらしい。おそらくそうだろうという程度の断片的なものらしいがな」
時宮岬の能力『ヴィジョン・ザ・タイム』は映し出された未来の映像を見る能力である。
最も、未来を知る者の少しの行動の変化で、未来が変わるという確実性の低いものではあり、
そして、見たい未来が必ず見れるわけではないという欠点も存在するのだが。
「とはいえさすがにそれだけの不確かな情報で動くわけには行かん。そこで妃芽薗の生徒であるお前の出番というわけだ。
 お前がその学園にいる理由もこういう時のためだしな」
妃芽薗では魔人能力が封印される。ゆえに魔人能力を抜きでも高い戦闘能力を誇る遅過がこの学園に送られた。
「わかりました」
すでに遅過は今回の件に深く関わっている。関われというのはむしろ好都合というものだ。
「そうか、なら任せるぞ」
颯はメガネを治す仕草をするとそのまま背を向けて立ち去っていく。心なしかその歩みは早い。
おそらく早く帰って女装から解放されたいのだろう。なにか「なぜ俺が」とか「末代までの恥だ」ブツブツとつぶやく声も聞こえる。
遅過はその場で彼の姿を見送っている。

「時間能力者…」
時間に干渉する力を持った魔人。それが今回の事件の黒幕だろうか。
だとすれば強大な能力者に違いないだろう。
幸い、調査する時間はまだある。実のところ戦いの中消耗した精神はまだ回復しきっていないが、休んでなどいられない。
さすがにハルマゲドンに参加できないが戦闘には自分も動くべきだ。仲間の、そしてほかならぬ音遠のためにも。
彼女の時間が再び動き出す。