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14-725 - (2008/02/18 (月) 03:05:52) のソース

725 名前:1/5[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 03:58:41 ID:hJFdIha4
 この世界に来てから、目覚ましも無いのに自然に目が覚める。
 地球にいた頃からは考えられない。
 欠伸を噛み潰しながら目を開けると、珍しい事に二人ともまだ寝ていた。

 正確にはシエスタがまだ寝ているのが珍しい。
 いつもなら、俺が起きるよりも先に目を覚ましているのに。
 折角だから起き出そうかと思ったけど……

 無理。

 右手も左手も、ルイズとシエスタがそれぞれ抱きしめ……って……

(ふ、ふにふに…………)

 ……うん、起きられないんだから仕方ないよな。
 どうしても緩む頬を引き締めながら、もう一度目を閉じる。
 いい夢が見れそうだ。

 …………と、大きい方の胸の感触が遠ざかった。
 ちぇ

「…………んっ……うぅ……」

 冷たい風が入らないように注意しながら布団を出たシエスタが、大きく背中を伸ばす。
 ……強調される大きな胸に、呼吸が止まった。色っぽいですシエスタさん。
 ルイズが片手を押さえて居なかったら襲い掛かっていたかもしれない。
 
「……ひゃっ……お、起きてらしたんですか、サイトさん」

 伸びから復帰したシエスタが俺のほうを見た所為で、起きているのがばれた。
 穴が開きそうなほど見つめていたから、言い訳も出来ない。

「あ、ごめ……」
「わ、……だ、だめです、起きぬけなんか見ないでくださいっ」

 ……胸を見てたのは良いのか?
 ルイズを起こさないように注意しながら布団を出て、
 ぱたぱたと走り去るシエスタを追いかける。

「わあ、い、意地悪ですサイトさん」
「お、おはよう」

 何でそんなに慌てるんだろう?
 俺にはシエスタがいつもとどう違うのかよく分からないけど。

「い、いいから、せめて顔洗って着替えるまで待っててください……」

 まぁ……なんだか分からないけど待とう。
 暫くその場で立っていると、いつもどおりの……
 いや、いつもよりちょっとぽや〜んとした感じのシエスタが……
 ゆったりとした部屋着で現れた。
 
(こ、これはこれで……いい)

「ごめんなさいサイトさん、起きるの遅くて、……虚無の週間だからって油断しました」
 ……ん?

「虚無の週間?」

726 名前:2/5[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 03:59:12 ID:hJFdIha4
 聞きなれない言葉を聞き返すと、シエスタが笑いながら教えてくれた。

「そうですね、サイトさんはご存じ無いかもしれませんけど……
 虚無の曜日が一週間続く感じです。
 メイドも結構お休みいただいて……帰省しない者も、いつもよりのんびり……
 ごめんなさい」

 ゴールデンウィークみたいなものか?
 でもそういう事なら、

「あー、シエスタも休んでたらいいのに」

 貴重なシエスタの休日を俺が削っちゃったのかも。
 ちょっと罪悪感。

「いいんですよ、わたしはサイトさんのお世話そするのが一番楽しいんですから、
 いつもお休みいただいているようなものですもの」

 ……それは楽しいのか?

「いや……でもなー」

 渋る俺を見たシエスタが、俺を廊下に連れ出す。

「でしたら、少しお散歩しませんか?
 虚無の週間の間位は、寝巻きで出歩いても怒られませんよ?」

 寮の中だけですけど、そう言いながら手を引くシエスタに導かれ、
 ひんやりとした廊下を歩く。

「誰も居ない?」
「いいえ、……ほら、あそこ見てください」

 何時もなら生徒でごった返す時間なのに、誰もいない廊下。
 不安に成った俺にシエスタが示したのは正面玄関。

「……なんじゃありゃ」
「あはは」

 静まり返った寮内とは別世界がそこに有った。
 浮き立った表情で、二人若しくはそれ以上のグループを形成している。
 学院の生徒達なのだが、珍しい事に全員私服姿で、
 それを見慣れていないサイトの目には奇妙なものに見えた。

「……あれ、何?」
「あれはですね……」

 シエスタが答えようとした時、目の前のドアが勢い良く開いて、
 見慣れた顔が飛び出してきた。

「うあぁぁぁぁ、遅れてしまうぅぅぅ」

 ギーシュ・ド・グラモン
 サイトの悪友、いつも外見に気を使う筈の彼が、目に隈を作っていた。
 随分悩んだ末らしい私服姿で、開きっぱなしのドアの向こうには部屋一杯に洋服が広げられていた。

727 名前:3/5[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 03:59:45 ID:hJFdIha4
「ギーシュ」
「おぉサイト、おはよう」

 見るからに物が詰め込まれている鞄を重そうに抱えながら、ギーシュが返事をした。
 サイトの質問に答えかけていたシエスタは、ギーシュとの……貴族とシュヴァリエの会話の邪魔にならない様、
 一歩下がって様子を見ている。

「どこか行くのか?」
「あぁ、……その……虚無の週間だからね」

 そわそわと窓の外を眺め、何かを探していたギーシュの目が目的の人物を見つけ、
 見るからに安堵した。
 気になったサイトがギーシュの視線をたどると、そこには見知った影があった。

「モンモン?」
「……あ、ああ……その……皆には秘密にしておいてくれよ?」
「なんで?」
「……い、いいからっ……黙っててくれたまえ、親友」

 真剣な表情に押されて思わず頷くと、ギーシュは持ち前の切り替えの速さでサイトに問いかけた。

「サイト、どこか変なところはないかな?」
「目に隈」
「うあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ」

 部屋に飛び込んだギーシュが、数十秒後に出てくる。

「こ、これでどうかな?」
「……どうやったんだ?」

 隈が消えている。
 良く見ると白っぽい粉が服に散っていて、単なる化粧だと分かった。
 それからも幾つかの指摘を受けたギーシュは、サイトに頭を下げながら立ち去った。

「……あれは……なんだ?」
「その……長期休暇ですから……その……」

 シエスタかもじもじと説明しようとしていると、信じられないスピードで外に出たギーシュがモンモランシーに駆け寄った。
 暫く眺めていると、ひとしきり怒ったモンモランシーと、怒られたギーシュは、

「お、腕組んだ」
「……一緒に旅行とか……されるみたいですね」
「……じゃ、あの玄関に集まってる奴ら皆?」
「はい、虚無の週間は旅行者が多いですから、王都発のツアーが出てるんですよ。
 ドラゴンとかグリフォンが沢山の旅行者を乗せて次々と飛び立つのは圧巻です」

 ……まて……

「じゃ……あの二人……」
「こ、婚前旅行です……ね」

 帰ってきたら、ギーシュに何をたかろう。
 サイトは嫉妬の炎に包まれながら、人気の無い廊下をシエスタと共に歩いた。

728 名前:4/5[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 04:00:17 ID:hJFdIha4
「さ、そろそろ部屋に戻りませんか?」
「うん……あー、俺たちも三人でどこか行く?」

 ほとんどは同性のグループだったが、ちらほらと混ざるカップルが羨ましくなったサイトは、
 シエスタに切り出した。

「……学院の生徒さんは良く旅行にいかれますけど……
 メイドとか、仕事をしている者は皆のんびり過ごしてますよ。
 サイトさんも最近は騎士隊で忙しいんですから、たまにはのんびりしてください」

 隊長はついさっき旅行に行ったんだけどなぁ……
 サイトはそう思いながらも、シエスタの勧めに従って休む事にした。

「あ、でも、サイトさんとなら……と、泊りがけで旅行でも……」

 赤くなったサイトと、もっと赤いシエスタは、微妙な沈黙を守ったまま部屋に戻り、
 ルイズが起き出すのを待った。

「……おはよう……」
「おはようございます、ミス・ヴァリエール」
「よう、ルイズ」

 いつもと違ったのんびりした朝を楽しみながら、サイトはデルフリンガーを手に取り、
 鞘から抜き放つとそのまま壁に立てかけた。

「おや、相棒、どーしたい」
「今日は休みらしいからな、デルフ。お互いのんびりしようかなって」
「……う、うれしーぜ、絶対そういう時俺の事忘れてるって……
 そう思ってた俺を許してくれ、相棒」

 四人でゆっくりとした時間を贅沢に使う。
 ごろごろしたり、他愛ない話に興じたり、じゃれあったりしながら過ごす。

「しあわせだーね、相棒」
「そうだなー、デルフ」
「しあわせですねー」
「わ、悪くないわね」

 授業や訓練に使っている時間とはまったく違う時間。

 無駄な時間だと、
 有意義に使うべきだと、
 そう主張する者も居るだろうけれど。

「こーゆーのもいいよなぁ……」

 楽な姿勢をとっていたサイトの手が、それぞれルイズとシエスタに当たると、
 目で会話した二人が勢い良くサイトに抱きつく。

「うわっ……ちょっ……なに?」
「ほら、ベットに行くわよ」
「のーんびりしましょうね」

 両手を固定されたままベットに連れ込まれたサイトは、
 微笑み合う少女達の間で、甘い時間を過ごしていく。

729 名前:5/5[sage] 投稿日:2007/04/30(月) 04:00:53 ID:hJFdIha4
 二度寝……どころではなく、三度寝か、四度寝か……
 浅い寝息を立てているルイズとシエスタを寝かせたまま、
 サイトは食堂目掛けて移動していた。

「はら……へった……」
 すっかり日が暮れて、朝とは別の意味で静かな廊下を進み、食堂に入る。

「うをっ……」

 無人かと思われた食堂には1/3ほどの生徒が居た。
(な、なんでこんなに静かなんだ?)

 不気味な沈黙に耐え切れなくなったサイトが、手早く食べ物を集め部屋に持ち帰ろうとしていると、
 サイトに声を掛ける者が居た。

「サイト!? どうして君が? ルイズやメイドとどこかに出かけているものだとばかり」

 マリコルヌが、その体格に負けない位目を丸くしていた。

「いや……どこにも行ってないよ、のんびり寝てた」
「そ、そうだよなっ、虚無の週間はのんびり寝るのこそ正しい過ごし方だよな」

 サイトが居る事がよほど意外だったらしく、食堂に居るほぼ全員がサイトを見つめていた。
 かなり居心地が悪い。

「……いや……俺が学院に居ちゃ駄目なのか?」
「そんな筈無いじゃないか、心友よ!」

 さっきまでの静寂が嘘のように、明るい笑いが漏れ始めた食堂でサイトが部屋に持ち帰る食料を集めていると、
 眠そうな目を擦りながらルイズが現れた。

「もー、サイト……起きたら居ないんだもん、心配したじゃない」
「あー、ルイズ悪い、良く寝てたから……」
「もぅ、シエスタもベットで待ってるから早く戻ってきなさいよ」

 言いたい事を言ったルイズが引き返してから、
 十分な食料を集め終わったサイトが部屋に帰ろうとすると、思いのほか強い力でサイトの手が握られた。

「マリコルヌ? なんだよ」
「……サイト……君は……部屋でのんびりしてるんだったよな?」
「あ……あぁ……」
「ルイズとメイドは?」

 有無を言わせない迫力でサイトに詰め寄ったマリコルヌが、暗い光を放つ目でサイトを射る。

「え? 一緒だけど?」

 サイトの声が食堂に響いた瞬間、食堂中の生徒が一斉に立ち上がり、キリキリと音を立てそうな動きでサイトを見つめながる、
 異様な光景に戦くサイトの耳に、抑揚の無い声が響いた。

「「「「「「オマエモナカマダトオモッタノニ!!」」」」」」
「って、俺なんかしたかぁぁぁぁ」

 ……旅行も、デートも、予定の無い集団の真ん中で、空気の読めなかったサイトは……
 鉄拳の雨によって、残りの虚無の週間を医務室で過ごすか、
 逃げ延びるのか

 ……命がけの戦いが今……始まる……
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