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564 :1/10:2007/08/28(火) 00:41:01 ID:+ElMf6q6 『それにみんな、なかなか気持ち良さそうな……』  二度とサイトに杖を向けるつもりは無かったのに。  サイトの言葉を聞いた時、あっさりと自分に課した誓いを破ってしまう。  薬に操られただけなのに、サイトにはそう見えたんだ。  わたしが気持ち良さそうに見えたんだ。  気が付くと、タバサは部屋から逃げ出していた。  薬が聞いていた間の事を思い出させる場所に、少しでも居たくなかったから。  それに……これ以上サイトの側に居るのが辛かったから。  真っ直ぐに自分の部屋に逃げ込んだタバサは、鍵を掛けた部屋の中で一人で泣いていた。 565 :2/10:2007/08/28(火) 00:41:39 ID:+ElMf6q6 「お姉さま、どうしたの?」 「なんでもない」  わたしが泣いている事に気付いたシルフィードは、何もいわずに側に居てくれる。  誰かが側に居てくれるのは幸せ、この子やキュルケはそれを教えてくれたけど、 「……あれはちょっと近すぎる」 「ご、ごめんなのね、お姉さま」  ……シルフィードが何か勘違いして、わたしから離れる。    ちょっと寂しい。  シルフィードが側に居てくれる間に、気が付くと涙の止まっていた顔を上げ、  涙のお陰で、いつもより少し鮮やかな世界を眺める。 「ここに」 「はいなの、お姉さま」  シルフィードを抱きしめていると、少しづつ胸の中が整理されてくる。  サイトに悪気はなかったんだし、許して……あげなきゃ。  どんな時でも味方するつもりだったのに、ルイズやキュルケと一緒になって魔法を使ってしまったし。  そう思うと、消え去りたいような恥ずかしさが……あ! 「そう……だ」 「? どーしたの? お姉さま」  シルフィードを置いたまま、わたしは部屋の外に駆け出した。 566 :3/10:2007/08/28(火) 00:42:13 ID:+ElMf6q6 「記憶を?」 「お願い」  すっかり忘れていた。  今の学院には記憶を消すことの出来るメイジが居る事を。 「でも、どうして? 理由も無く記憶を消したりできないよ?」 「……っ」  説明……しないと、ダメみたい……  恥ずかしいけど、背に腹は変えられない。  ほんの少し前に有った事を、極力簡単に説明する。 「サイトの記憶を消せばいいの?」 「お願い」  何か問題があっただろうか?   ティファニアは不思議そうに、わたしを見つめていた。 「サイトだけ?」 「?」 「わたしは皆の記憶を全部消せるよ?」  あ! 「じゃ、じゃあ皆……」  良かった……これで、 「……一つ……聞いても良い? タバサさん」  ティファニアの質問は、鋭くわたしの胸に刺さった。 567 :4/10:2007/08/28(火) 00:42:50 ID:+ElMf6q6 『どうして、サイトの事を最初に気にしたの?』  たったそれだけの質問。  だって仕方ない。  気に成ってしまったから。  ―― 一人だけ居た男の子 『女の子なら覚えていても良い訳じゃないよね? どうしてサイトだけ?』  ―― ひ、一人だけ被害受けてなくて、部外者だからっ 『シエスタさんも飲んでないんだよね?』  ―― だって……でもっ…… 『明日、記憶を消す前に、理由を聞かせてね』  ティファニアは、そう言って微笑んでいた。  年上の相手なんて、学院では珍しくないのに……  『お姉さん』なティファニアに、どうしても勝てる気がしない。 (シルフィードも、こんな感じなんだろうか?)  でも…… 『ちゃんと理由教えてくれないと、サイトの記憶は消さないからね』  テファ姉さんはスパルタみたい。 568 :5/10:2007/08/28(火) 00:43:22 ID:+ElMf6q6  一睡も出来なかった。  一晩眠らずに考えたけれど、宿題の答えは出ない。 「お姉さま、寝ないの? 身体に悪いの。きゅいきゅい」 「まだ……考える」  空が薄明るくなっていた。  後数時間もしたら教室に行かないと……  ――――ルイズもキュルケもモンモランシーも居る教室に。  ちょっとお腹が痛くなる。  ベットの中で丸くなっていると、ドアがトントンと鳴り出した。 「だれ?」  こんな時間に誰だろう? 「おはようタバサさん、開けてもらえる?」  っ!  ティファニア! 「い、今開ける」  ど、どうしよう……どうしよう……答えは……まだ出てないのに。 569 :6/10:2007/08/28(火) 00:43:54 ID:+ElMf6q6 「うわぁ……本が沢山……」 「ど、どうして?」  声が震える。  どうしよう? サイトの記憶が消えなかったら。  あんな事されて悦ぶ娘だって、ずっとずーっと覚えられたら…… 「皆の記憶授業が始まる前に消したほうが良いかなって」  あ……そう……か……早く消したほうが良いんだ……  で、でも…… 「それでね、タバサさんにお願いがあるの」 「何?」  お願いを聞いたら、サイトの記憶を消してくれるのかな?  そしたら、答えが出て無くても…… 「サイトをここに連れてきて欲しいの」 「え?」 「あのね、サイトは多分記憶を消されたくないと思うから」  ……うん、そう思う。  すごーく、幸せそうに見てたもの。 「女の子の記憶を消して回っている間、サイトをここに引き止めておいてくれる?」 「分かった」  それくらいならと……部屋を出ようとするわたしの背中に、ぽそりとティファニアの声が聞こえた。 「質問の答えはわたしが部屋に帰ってからね?」  ……覚えてたんだ…… 570 :7/10:2007/08/28(火) 00:44:29 ID:+ElMf6q6  不思議な事にサイトは起きてた。  それにルイズとメイドも起きていて、微妙な空気が部屋に流れている。  なんで? 「サイト、こっちに」 「あ……あぁ」  この空気の中から逃げ出せるのならと、サイトが喜んで着いて来るのを見ると、  ルイズが慌ててサイトを引き止めようとした。 「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!」  手間の掛かる……  ルイズの手を引いて、部屋の隅まで連れて行く。  ――手を掴むだけで青ざめるのは、いくらなんでも失礼だと思う。  そこでサイトに聞こえないように、 「ティファニアが昨日の関係者の記憶を全部消してくれる」 「ほほほほほ、本当っ!!」  無言でわたしが頷くと、もの凄く喜んでいた。  無理も無いと思う。  サイトを連れて部屋を出るとき、ルイズはメイドと抱き合って喜んでいた。  ……メイドは薬飲んでないのに。変なの。 571 :8/10:2007/08/28(火) 00:45:02 ID:+ElMf6q6 「なー、何の用なんだよ」 「待って」  ルイズ以外の女の子の部屋に、サイトが落ち着かない様子で周りを見回している。  って、そっちみちゃだめっ。  ……ごめんなさいキュルケ。  今度からもうちょっと言う事聞いて、男の子を呼べる部屋にしておく。 「う、動かないで」 「はあ?」  サイトは優しい。  こんなに訳の分からない状況でも、女の子の言う事はとりあえず聞いてくれる。 「じっとしてれば良いのか?」 「そう」  小さく溜息を吐くと、サイトは目を閉じてじっとしていた。  寝ているのかもしれない、まだまだ朝早いし。  手を伸ばせば届く距離に、サイトの顔が有った。  胸が……ドキドキする。  ルイズは、毎日にこんなにドキドキしているの?  ……それとも、わたしがおかしいのかな?  静かに目を閉じているサイトを見ると、手が勝手に動いてサイトの頬に触れそうになる。 (お、起きちゃうっ)  慌てて手を引っ込めて、もう一度……サイトを見つめた。  ルイズは……毎日こんなサイトを見ているのかな?  ――少し、胸が痛くなった。 572 :9/10:2007/08/28(火) 00:45:43 ID:+ElMf6q6  トントンっと小さくドアが鳴ると同時に、ティファニアが部屋に滑り込んでくる。  ノックの意味があまり無い。 「サイト、タバサさん、居る?」 「居る」 「ぐー」  サイトはやっぱり寝ているみたい。  今からティファニアとする話を考えて、ちょっと安心する。 「答えは出たの?」 「出た」  サイトを見つめていたから自覚できた。  認めると、多分今よりずっと辛くなる答え。 「わたしがサイトの事を気にしたのは……」 「ちょっとまってね――サイト、起きて」  わわわっ、ちょっと待って。    ティファニアを止めようとしたけれど、優しく抱きとめられてしまった。 「忘れちゃうんだから、本人に聞かせてあげたほうが良いよ?」  ……そうか……な?  そうだね……ありがとう、ティファニア。 「ん……あ、ごめん、寝てたや、タバサ……あれ? テファまで?」  眠そうに目を擦るサイトを見ると、今から自分が何を言おうとしているのか、  凄く意識して、息が出来ない位緊張する。 「ほら、タバサさん……深呼吸……」 「う、うん」 「?」  テファニアに励ましてもらって、ゆっくりサイトのほうを向く。  ――そして…… 「わたし、サイトの事が好き」  ティファニアの呪文を聞きながら、サイトの驚く顔を見る。  ――嫌がっていないのが分かっただけで、わたしは…… 573 :10/10:2007/08/28(火) 00:46:22 ID:+ElMf6q6  ティファニアはまだ誰も来ていない教室で、一人座っていた。 「あら? 早いわね」  部屋に入った途端、一瞬息を呑んだ生徒が、ティファニアの姿を確認すると話しかけてきた。  ティファニアのお友達――相手はどう思っているのか分からないけれど。  ベアトリスが、いつもは人目を気にしてゆっくり来るティファニアが一番に教室に居るのを見て驚いた。 「ちょっと朝用事があったから」  ティファニアは嬉々としてベアトリスに話しかける。  本音でぶつかれた分だけ、他の生徒より話しやすいらしく、  事有るごとにベアトリスに話しかけた。  ベアトリスの方も先の一軒のお陰で友人が減ったため、ティファニアを邪険にする事も無かった。 「しっかし……嫌味な女」 「?」 「朝日に映えて、まるで妖精みたいに綺麗よ」  ベアトリスの例えを聞いて、ティファニアは笑いながら言った。 「あら、妖精ってイタズラが大好きだから、そっちで例えられるのかと思ったわ」  ――――その頃、サイトは困っていた。  タバサは混乱しながら泣いていた。  何で?  昨日一晩悩んだのは覚えてる、朝サイトを呼びに行ったのも……  しかも…… 『わたし、サイトの事が好き』  告白まで……した……  間違いなく全部自分の行動なのに、何を思ってそんな事したのか、さっぱり思い出せない。  赤くなったサイトが、困ったように頭をかいている。  返事が無いのは怖いけど、返事が返ってくるのはもっと怖い。  ――タバサは追い詰められて…… 「ふ、ふぇ……」 「わぁっ……ちょっ……」 「っ……く……ふぇぇぇぇぇっ……」  いつかの様に感情に歯止めの効かなくなったタバサは泣き出してしまう。  サイトが助けてくれた時のように。  今回の涙は、サイトが抱きしめてくれるまで止まらなかった。

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