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469 名前:比翼連理[sage] 投稿日:2008/01/18(金) 22:00:05 ID:0r9Vi4PN #BR 「ん、ふぅ、んん……」 #BR  灯を落とした暗い部屋の中に押し殺した喘ぎが漏れる。  毛布にもぐって響きを抑えているはずのそれは、その中で反響する。  その内に篭った彼女の耳には、どうにも大きく聞こえて仕方ない。 #BR  この居室の外には、距離はわからないが、誰かしらが控えているに違いなかった。  その誰かに聞かれてしまったら……このような、いやらしい声を聞かれてしまったら、 一体どうなってしまうだろう。  もし、その誰かが、騎士の自尊心もない、若い男だったら。  その若い情欲のままに、おもうさま嬲られてしまうかもしれない。 #BR  それでも、下着に当てた指は湿った部分を強く押さえたまま、離せずにいる。  彼女の熱っぽい瞳は、なにか浮かんででもいるかのように、虚空をじっと見据えていた。 #BR 「く、ぅ……ウェールズ、さま……」 #BR  その名は、この唇で呼んではいけない名前。  もう……呼ぶことの出来ない名前。 #BR  アンリエッタの心は未だ、彼と共に在れた短い短い時の中にあった。  例えば、初めて出会った日。湖畔で誓った言葉。  その先の回想も、幸せで甘酸っぱい……忘れ得る事のない、素敵な思い出が続く。  自然、目元や口元がゆるみ、柔らかな微笑みが浮かぶ。  欲に染まった頬と潤む瞳を合わせれば、少女のそれというより、妖艶な笑みに見えた。 #BR  ……しかし、共に過ごせた幸せな時間は、ほんの僅かな時間のこと。  思い返していると、しばし後には彼の最期の瞬間に辿り着いてしまうのだった。  優しいパステルカラーに彩られていた世界は、そこで一転、凄惨な深紅に染まる。  アンリエッタはぎゅっと目を閉じた。……だが、その色はいつまでも消えない。 #BR #BR  そもそも、アンリエッタという名の少女は、弱かった。  女王などという立場に立てるような気性ではなかったし、そのような立場になるなど、 考えたこともなかった。 #BR  その小さな掌には広すぎる街。この瞳に映すにはあまりに遠大な国土。  飢えと身分差に苦しむ平民。誇りを忘れた哀れな貴族。  真意の知れない外の国々。そして、今やどれほど憎んでも足りないレコン・キスタ。 #BR  王の冠という物は、まだ少女の色を残すアンリエッタには、あまりにも重かった。  あの日、重すぎる冠を振り捨てて、ウェールズと逃げると決めた時。  口でなんと言ったところで、やはり自分はどこかほっとしていたに違いなかった。  自ら、重責から逃げ出したわけではない。  自ら、この冠を投げ捨てたわけではない。  ……そう、愛しいウェールズの言動を、自他への言い訳にしなかっただろうか?  否とは、とてもいえない。 #BR  彼を思い返すと、終いにはそんな罪悪感と悲痛に苛まれた。  しかし、どんなに忙しく公務をこなそうと、彼を思わぬ日は一日とてなかった。 #BR  そんな日々はいつしか、心痛を手淫で慰めるという術を彼女に教えてしまったのである。 #BR #BR 「あぁ……あふ……ウェー、ルズ、さまぁ……」 #BR  ただ強く押さえていただけの手は、いつの間にか撫でるような動きをしていた。  下着はいつの間にか溢れた淫液にぐっしょりと濡れている。 #BR  ただの罪悪感ではすまない。  自分はこのような浅ましく卑猥な行為に、彼を思い浮かべている。  誇り高く逝った彼を、こんな時に思っているのはなんと愚劣な事だろう。 #BR  そう思えば思うほどに、下腹の甘い疼きは増していく。  それがまた罪悪感にかわり、浮かんだ罪悪感は更に腰を疼かせる。  この行為はすでに無限回廊と化していた。 #BR  ……眠れぬ夜の眠れぬ理由は、一体なんだっただろう。  その境はいつしか溶け合い、今ではもう、どちらともつかないのだ。 #BR  すっかり熱く充血した秘芯を、指の腹でぐりぐりと押し潰し、アンリエッタは呻く。  ……声を、出してしまいたい。  いやらしい声を出して、そして、それから?  わからない。どうなってしまうかなんて、わからない。  むしろ、どうなってしまうかわからないから、声を出したい? #BR 「ぁ……っ、は、あぁ…………あぁんっ」 #BR  あと少し。もう少し。ほんの、少しだけ、大きく。  心の中の悪魔の囁きが、僅かずつアンリエッタを煽っていく。  それからふと、扉に意識を向けた。そこに控えている騎士は誰だろう、と。 #BR  ……意識の中に浮かんだウェールズが、霧がかかったように揺らいだ。  その髪と瞳の色が、トリステイン人には少ない、黒に変わる。 #BR  脳裏に浮かんだのは、幼馴染が喚んだ使い魔。  彼女の代わりに七万もの大群と戦い、一時は生死不明になった彼。  先日近衛騎士に任命した……才人の姿であった。 #BR  ルイズ・フランソワーズの傍にいるはずの彼が、ここを守っているはずがない……。  そんな冷静な判断は、すぐさまどこかへ飛んでしまった。  今にも意識が飛んでしまいそうなその瞬間、浮かんだのは安宿で才人の傍にいた時間。  ……それこそが、彼女を最後の一線まで押し上げる刺激になった。 #BR 「くぁ、んふぅ……さ、サイト殿……っ! ……あっ! あぁぁっ!」 #BR  快楽の荒波にびくびくと身を震わせる。  しかし、彼女が浮かべた表情は、淫らなそれではなく、愕然としたものであった。  未だ激しい呼吸に、はだけた胸が大きく上下する。 #BR  …………わたくし、どうしてしまったというの?  ウェールズさまを忘れて、他の誰かを愛すると誓ったあの日から……まだ、どれほども たっていないというのに。  永遠に愛すると、そう誓っていたというのに。 #BR  このような時に思い浮かべるのは、手を許すという程度の事ではない。  真実このような関係になっても悪くない、と心のどこかで考えていなければありえない 事に違いなかった。  ……少なくとも、アンリエッタはそう思った。 #BR  本人も気づかぬ内の、大きな変化。困惑と恐怖に胸が苦しくなる。 #BR  今……今この時、わたくしが会いたいと望んでいるのは……誰?  ウェールズさま? ……それとも……。 #BR  見開いた瞳の奥からは澄んだ雫が次々に溢れ、淫らな行為に上気した頬を零れ落ちた。 #BR  無数の死と贖えぬ罪が渦巻いた戦乱と、その後の多忙な日々……。  脆弱な彼女の心は緩やかに、しかし確実に軋み、歪みつつあったのである。 #BR #BR #BR 「……ずいぶんとお疲れのご様子だな、女王陛下は」 #BR  苦渋の表情を浮かべ、陛下の居室の前を守っていたのはアニエスであった。  異変に気づいて早々に人払いをしたのは、はたして正解だったようだ。  しかし、このような嬌声を聞き続けるのは、同じ女性の身にしても辛い。  室内の声に共鳴するように、下肢にじわじわと忍び寄った痺れを、気力で抑える。  それでもしばらくすれば耐えかねて、アニエスはまだ静かにならない部屋の前を離れた。 #BR  手近な窓に歩みより、桟にそっと指をかける。  そして、月をすっかり覆い隠してしまった暗雲を見上げた。  その光景はまるで、今の陛下を表しているようにアニエスには思えた。 #BR  切っても切れぬ縁の象徴とされる、夜空に並ぶ比翼連理の双つ月。  ……ならば、その片割れを失った月は、どうなるのだ?  この空のように、残された月までも、暗雲に飛び込んでしまうのではないだろうか。 #BR  切っても切れぬというのは……逆に言えば、片割れのみでは存在できないという事だ。  片翼で飛ぶ鳥など、この世には存在し得ないのである。 #BR  ……貴殿はなぜ、生き延びてくださらなかったのだ。  このままでは何もかもが壊れてしまうかもしれませぬぞ。  陛下とて無垢な輝きを失い、冷徹な主君か、虚ろな操り人形と化してしまうやもしれぬ。 #BR  貴殿はそれでもよいとおっしゃるか?  貴殿はそれでも、王家の為、名誉の為に死んだ事は正しかったとおっしゃるか? #BR  ……答えを返そうにも、貴殿はもう、この世には在らぬのだな……。 #BR  会ったこともない、名と立場しか知らない彼に、心の中で問い続ける。  それから深くため息をついて、アニエスは頭を振った。 #BR  ……いや、私こそ、彼を理由として逃げようとしているのかも知れぬ。  今、女王陛下を守り支えるのは、我らのお役目ではないか。  ……そうだ。陛下は幾重にも重なるご心労にひどくお疲れなのだ。  この辺で一度、気分転換になる何かがあればよいが……。 #BR  窓の側をはなれ、再び部屋の前に戻ると、室内は静かになっていた。  これ以上彼女の痴態を耳にせずにすむと知り、アニエスはほっと息をついた。 #BR  ……アンリエッタがウェールズとは異なる名を呼んで果てたのは、ちょうどアニエスが 部屋の前を離れている間だったのである。  彼女の耳にそれが聞こえなかったのは、はたして幸いであったのかどうか……。 #BR #BR  それは、スレイプニィルの舞踏会の、少し前の出来事。 #BR #BR #BR #BR (レスで頂いたご指摘を受けて、掲載時に一部修正。ありがとうございます。)

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