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523 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/03(日) 13:18:34 ID:tj4aTytj 怒涛のような午前中の競技が終わり、昼の時間に入ろうとした頃。 嵐はやってきた。 結局勝負は三人が三人ともターゲットを同じくしたため、結果として全員棄権となり、うやむやになった。 そのせいもあって、誰が才人とお昼を食べるかで骨肉の争いを繰り広げていた時。 風の魔法でもって、会場に高々とアナウンスが響き渡った。 『ミス・ヴァリエールとヒラガサイト氏は、ただちに大会運営本部までいらしてください』 ようやく才人の右腕を取り戻したルイズが、振って沸いたアナウンスに勝ち誇った顔になる。 「と、いうわけだから。サイトは貰っていくわね?」 そう言ってルイズが無理矢理右腕をぐいっ、っと引っ張ると、左腕に捕まっていたシエスタは仕方なく手を離す。 「しょうがないですねー…。  でも、お弁当用意して待ってますからね♪サイトさん♪  終わったら迎えに行きますねー」 しかしあくまで才人との昼ごはんを譲る気はないらしく、弁当の入ったバケットを胸元に持ち上げてシエスタはにっこり笑った。 才人もなんとなく笑い返す。ひきつった笑顔のルイズのカカトが、才人のつま先を思い切り踏み潰した。 「…で、あんたもいい加減離したらどうなのよ」 言って、ルイズは才人の胸元に張り付いたタバサを見る。 タバサは才人の首に手を回して、抱きついていた。 タバサは一瞬ムっとした顔をしたが、手を離すと、今度は胸に抱きついた。 そして一言、 「…待ってるから」 そう言って、才人から離れた。 才人は泣きそうな顔のタバサの頭を軽く撫ぜてやった。 ルイズは満面の笑顔で、先刻タバサがしていたように、才人の首に抱きついた。 そしておもむろに首をロックし、膝をその鳩尾に叩き込む。才人は一撃で堕ちた。 最近のルイズの蹴り技は、殺人級に冴え渡っている。才人という優秀なサンドバックがいるおかげだろう。 「行くわよっ、犬っ!」 ルイズは才人の襟首をがっちり掴むと、遠慮なく引きずっていった。 その先に、何が待っているかも知らず。 524 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/03(日) 13:19:39 ID:tj4aTytj 運営本部は、大型の野外テントの中にあった。 その中には、運動会の提唱者であるオールド・オスマンと、何故か臙脂のブルマを履いた体操服のアニエスがいた。 そしてもう一人。 奥に控えるその人物は、マントのフードを目深にかぶり、顔を隠している。 ただ、その口元とマントの上から見て取れる曲線から、女性であると知れた。 その正体はようとして 「…何やってんですか姫様」 才人を引きずって天幕に入ったルイズが、呆れたような顔で言った。 この2人が揃っていて、一人が顔を隠しているとなればその正体の予想もつくというものだ。 三人は慌てて円陣を組み、『な、なんでバレるんですかっ』『だからあとから入ってくださいとアレほど!』『まあお約束じゃしなあ』などと小声で話し合う。 そして少しすると、話がまとまったのか、三人は改めてルイズに正対する。 …その頃には、真冬の風のような冷たい空気が辺りを覆っていた。 最初に口を開いたのはオールド・オスマンであった。 「えー、おほん。  キミを呼びつけたのは他でもない」 しかしルイズは半眼のまま、遠慮なくフードを目深にかぶったままのアンリエッタにガンを飛ばす。 …またサイト狙いで来たわね、このわたあめ姫は…。 すでにルイズの中でアンリエッタは敬愛するべき女王ではなく、『サイトを狙う女その一』に変わっていた。 ライバルである以上、手加減も遠慮もいらないわけで。 「…回りくどい事はなしにしませんか、姫様」 すでにルイズは戦闘状態だ。 暗闇でギーシュが見たら卒倒しそうな視線で、アンリエッタを睨みつける。 「無礼だぞ!ミス・ヴァリエール!」 アニエスがすごむが、ブルマに体操服では様にならない。 剣も持ってないし。 ぶっちゃけた話、この格好でサイトを誘惑しちゃおっかなー、などと邪念を抱いていたりしたのだが。 その肝心の才人が、ルイズにギタギタにされて目を回していては意味がないのである。 525 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/03(日) 13:20:20 ID:tj4aTytj そのアニエスの言葉に反応したのは、ルイズではなくアンリエッタだった。 「いいのですアニエス。  …これは、私と、ルイズの問題です」 言って、フードを跳ね上げる。 そこから現れたのは…見紛う事なき、アンリエッタ女王。 現トリステイン国王にして、ルイズの幼馴染。 そして才人を巡る、最大最強のライバルであった。 その瞳に炎を宿し、負けじとルイズを睨みつける。 あくまで、そのにこやかな笑みは崩さぬまま。 「…よく、私と分かりましたねルイズ・フランソワーズ」 ルイズも、マリコルヌくらいなら平伏して屈服のポーズをとりそうな視線でアンリエッタを睨み返す。 完璧な笑顔で。 「…毎度毎度、登場シーンがお約束すぎるんですよ姫様は」 「あら、これでも気を使っているのよ?そういう細やかな部分はルイズには難しかったかしら」 「そんな些細な事にまで気を使わなければならないなんて。女王という仕事は閑古鳥の鳴く食堂の給仕並みに忙しいのですね」 「それほどでもないわ。王家からのおこぼれを乞食のように貪るのに忙しい貴族ほどでもないもの」 「…その通りですわね姫様。おほほほほほほほほほほほ」 「…いやだわルイズったら。おほほほほほほほほほほほ」 視線が火花を散らし、天幕内を殺気の嵐が吹きすさぶ。 二人とも直立不動で笑顔を見せているが、形を成した龍と虎の気は牙をむき出して唸りあい、お互いの喉笛を引き裂こうと隙を伺っていた。 「こ、これが貴族の闘い…っっ!」 あまりの殺気に、アニエスは唾を飲み込み、あとずさる。 「…ええのう若いもんはー」 好々爺の笑みで、オールド・オスマンは知らん振りを決め込んだ。 「うわっ、なんだなんだぁっ!?」 凄まじい殺気に才人が目を覚ますと、そこでは鬼が二匹、睨みあっていた。 才人の声に、一瞬で鬼が消え、究極の笑顔のアンリエッタと、至高の笑みのルイズが、才人を振り返った。 「あ、お気づきになりましたか、サイトさん♪」 「おはよう、サイト♪」 笑顔の二人に、才人は何故か大量の脂汗をかきながら、 「お、おはよう」 と返すのが精一杯だった。 …ちぃ。 …よし一本先取っ! 二人の心の中だけで、先制ジャブの応酬が繰り広げられていた。 526 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/03(日) 13:21:54 ID:tj4aTytj そうだ、こんな些事には関わっていられない。 アンリエッタは口を開いた。 大事な事を、憎き親友に伝えるために。 「…アナタを呼び出した用件、話してもいいかしらルイズ・フランソワーズ?」 口火を切ったアンリエッタに、心の準備を整え、先制ジャブを決めたルイズは返答する。 …どっからでもかかってらっしゃい。 「…どうぞ」 アンリエッタは軽く息を吸って、言い放った。 「今から、私とアナタで勝負をします。  運動会の一競技として。  …サイトさんを賭けて!」 そして、身体を覆っていたマントを勢いよく放り出す。 翻って飛んだマントの下からは、紅いブルマと体操服に包まれた、アンリエッタの肢体が現れた。いつのまにか、王冠の代わりに真っ赤なハチマキを巻いていた。 …放り出されたマントに絡みつかれ、『おお、ひめさまのにほいいいいいいいい』などと狂っているオールド・オスマンをアニエスが踏みつけていたが、二人は気にしない事にした。 少しの間呆気にとられていたルイズだったが、やがて、凛とした態度でアンリエッタの言葉に応じた。 「…なるほど、そう言うことですか…」 ルイズは、『サイトは私のものだからそんな勝負意味ないわよっ!』とか言いそうになったが、改めて考え直した。 …この機会に、白黒はっきりさせたろうじゃないの…! 「ラ・ヴァリエールの名において。  受けて立ちますわ、姫様…!」 …かかった。これで、王室が運動会を後押しした甲斐もあるというもの…!! アンリエッタは心の中で勝利を確信した。 …ルイズは勘違いしている。 …私がルイズより運動音痴だと。 甘い。甘いわねルイズ・フランソワーズ。 王族が王族である所以。それは、国民の誰よりも、優れた『血』を引いているから…!! 私は運動に於いても、頂点に立つ女…!! 一週間のアニエスとの特訓は、伊達じゃなくってよ…!! そして、二人は再び睨み合う。 「うふふふふふふふふふふふ」 「おほほほほほほほほほほほ」 二人の視線が、再び火花を散らす。 運動会を揺るがす、究極のエキシビションマッチの開幕は、もうすぐそこであった。 「こえーよ、二人とも…」 賞品が呟いた。 622 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/06(水) 22:46:59 ID:ZH+Ptefn 昼を少し回ったころ。 学院の中庭に設えられた円形の競技場を、たくさんのブルマが取り囲んでいた。 トリステイン王国近衛騎士団、銃士隊である。 「ふむ。  女生徒の未成熟なぶるまぁ姿も良いが、完成した女性のぶるまぁ姿というのもなかなか」 と変態な発言をかましたオスマンがアニエスに踏み潰されている。 なんだなんだ、と、昼食を終えた生徒たちが競技場を取り囲む。 その円の中心には、二人の体操服姿の女性が。 「あれ?あそこにいるのラ・ヴァリエールじゃない」 コルベールの肘を胸の谷間でサンドイッチにしながら、キュルケが言う。 当のコルベールはいといえば、必死に猫背になって何かを隠している。 薄い布地ごしにヒットする柔らかいおにくと、ポッチの感覚に元気にならない息子なんていないからだ。 キュルケの指摘のとおり、競技場の中央で対峙する相手を睨みつけているのは、ルイズその人であった。 「じゃあ、あの人は?」 対峙している、紅いハチマキの女性を見る。 どことなく高貴な雰囲気。整った顔立ち。体操服に身を包んでいるものの、その顔は見まごうこともない。 「え、アンリエッタ女王!?」 驚くキュルケ。 それとほぼ同時に、気づいた生徒たちがざわめき始める。 そのざわめきを沈めるように、風の魔法で拡声された女生徒の声が響き渡る。 『えー、ただいまより、本運動会のエキシビジョンマッチを開始いたします。  それでは、出場選手のご紹介をさせていただきます』 その言葉と同時に、一陣の風が競技場を駆け抜け、二人の髪を揺らす。 『白組代表、魔法もゼロなら胸もゼロ!歩く暴言、ミス・ヴァリエール!』 その放送と同時に、会場がどっと笑いに包まれる。 あによこの解説、私にケンカ売ってんの、などとルイズが競技場の中央で放送に向けて真っ赤になって怒り狂う。 そして、何事もなかったかのように放送はもう一人の紹介に入る。 『赤組代表、美貌も魔法も超一流!我らが国王、アンリエッタ女王!』 その放送と同時に、会場に、やっぱり女王様だよ、すげーマジかよ、などとざわめきが広がり、次の瞬間喝采が鳴り響く。 「アンリエッタ女王万歳!」「トリステイン万歳!」 「姫殿下すてきー!」「女王さまあああああああ!」「ぶるまアンさま萌へえええええええええええ!」 一部アレな声援も混じっていたが、アンリエッタはその声援に手を振って応える。 …ふ。これが『人徳』というものよルイズ・フランソワーズ? …ま、まだ勝負は始まってないもん…! 視線だけで会話を交わし、二人は競技場中央で相対する。 624 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/06(水) 22:47:33 ID:ZH+Ptefn 『なお、勝負は3セット2本先取。  特別審査員として、シュヴァリエ・サイト様が審査を担当しまーす』 その放送に合わせ、競技場脇の、『審査員席』と書かれた天幕の下にいた才人が、手を振った。 なんでサイトがあんなところに、と生徒から疑問の声が上がったが、事情を知らない者達からすれば当然のことだろう。 実は審査員どころか賞品扱いなのだが、それは本部すらも知らない。 『公平を期するため、競技は運営本部によって選ばれた競技を、抽選によって選びます。  それではサイト様、第一競技を選んでください』 放送と共に、才人の前に上面に丸い穴の開いた小さな箱が持ってこられる。 どうやら、この中に競技を書いた紙か何かが入っているらしい。 才人は穴に手を突っ込み、小さく畳まれた一枚の紙を取り出した。 係りの生徒にそれを手渡すと、その生徒は小走りに運営本部にその紙を持っていった。 『えー。第一の競技は『料理』!』 …それって競技なのかよ!、と才人は心の中で突っ込んでいた。 勝てる、勝てるわ! 私は勝利を確信した。 最近私は、シエスタについて、料理の練習をしている。 姫様程度には負けない自信はあった。 …やっぱり、料理くらいできないと、その、ほら。 …お嫁さんになったとき困るじゃない? まままままままあ、まだ気が早い気もするけど!でも準備は早いに越したことないし! コックにまかせればいいかもだけど、やっぱほら、旦那様には手料理食べてほしいじゃない? んでもって、『それじゃあデザートにルイズを頂こうかな』なーんて!なーんて! やだもう!何考えてんのかしら私ってば! 「…あのー?ミス・ヴァリエール?」 厨房のお兄さんの声に現実に戻された。 あ、危ない危ない。危うくアッチの世界に行くところだった…。 私はエプロンを身に纏い、急ごしらえの釜戸と台の前にいる。その前には、厨房からかき集められた食材。 これらは全て、厨房の人たちが準備してくれたものだった。 「で?何を作ればいいわけ?」 料理のお題は、サイトが考える事になっていた。 …シチューとかだといいんだけど。 正直揚げ物はまだ怖くて苦手なのよねえ…。 「『ニクジャガ』、だそうです」 …聞いたことのない名前ね? またサイトの世界の料理なのかしら…。 「シュヴァリエ・サイトの田舎の料理だそうですよ?」 やっぱり。まーた、厄介なもの出してくるわねえ…。 でも、私はここのところの料理修行で一つ調理のコツを掴んでいた。 料理っていうのは名前から中身が想像できるモノ。 ニクジャガ…ニクジャガ…。 響きから考えてたぶん焼きもの。 うん、ピンときた。 これは魚料理ね! 早速私は調理にかかることにした。 625 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/06(水) 22:48:17 ID:ZH+Ptefn 俺は目の前に並んだ二品の料理を見て。 …勢いで『肉じゃが』って言ってしまったのを後悔した。 こっちにゃ肉じゃがないのかなあ…。 ルイズの出してきたものは、アンコウのような触手を二本生やした、赤黒い色の魚を焼いたもの。 …匂いがやけにスパイシーなのが気になる…。 姫様の出してきたソレは、棒に何かを練ったものを盛って、焼いたらしきもの。 …コゲてるわけでもないのにひたすら黒いのは何故だろう…。 『さあ、二人の料理が出揃いました!審査の結果やいかに!』 …喰うのか、これを…? 俺がそうやって審査員席で躊躇していると、競技場で不安げにしている二人が目に入った。 …一応、俺のために作ってくれたんだよなあ…。 ええい、どうとでもなれ、だ! 俺はまず、味の想像のつきそうなルイズの料理に手を着けた。 魚を一切れフォークで刺し、口に放り込む。 「ぶーーーーーーーーーーー!」 思わず吹いた。 辛い辛い辛い辛い辛い辛いからい!! 案の定ルイズの作った『肉じゃが』はとんでもなく辛かった。 俺は横に準備してあったコップの水を一気に飲み干した。 一口でこれか!キツすぎるぞコレ! …ルイズがなんかガン飛ばしてるけど。 ゴメンルイズ。コレは喰えない。 んじゃあ、今度は姫様の…。 これも、なんだかなあ…。 匂い…は、肉っぽい匂い。 ただ、色がなあ…。 ええい、どうとでもなれ、だ! 俺はその棒をつかみ、なぞの料理を口に含んだ。 「げほ!げほげほ!」 …思いっきり咽た。 苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い! ナンダコレ。焼いた正露丸の味がするぞ。 …いったいどうやったらこんな料理ができるんだろう…。 「して、結果はどうですかなサイト殿?」 隣に掛けたオールド・オスマンが面白そうにそう聞いてくる。 …いや、これは…。 『審査の結果、第一競技は『ひきわけ』となりましたー』 102 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/10(日) 00:56:45 ID:x8NPsJ2T 引き分けとなった第一試合に引き続き、第二試合が行われる事となった。 競技場中央に設えられたキッチンコロシアムもどきは撤去され、再び才人の手に抽選箱が委ねられる。 そして、次なる競技は…。 『えー、次の競技は『格闘技』!『格闘技』となりましたー』 のきなみざわつく観客たち。 当然といえば当然である。 仮にも一国の女王が、直接殴りあいをしようというのだ。 心配になるのも当然と言えよう。 「アン様とくんずほぐれつ…!」「羨ましいぞヴァリエール!」 「代わってくれぇぇぇぇぇぇ!」「むしろ踏んで下さい!」「いや、俺はヴァリエールたん萌えなのだが」 …一度この学院は教育というものを見直したほうがいいだろう。 しかし、その心配は杞憂に終わる。 『えー、運営本部より、陛下が直接闘うのはアレだということで、双方代行を立て、その方々に勝敗を決して頂きます』 その代行に指名されたのは。 アンリエッタ側に、アニエス。 そしてルイズ側が、才人であった。 …なんで審査員の俺が…。 競技場中央に作られた急ごしらえの四角いリングのコーナーで、才人はため息をついていた。 その対面側のコーナーには、体操服のアニエス。 正直、才人は闘う気がしなかった。 剣での勝負ならともかく、拳での殴りあいなど、したくない。 相手が女の子ならなおのこと、である。 しかし、リングサイドから、容赦のない声が飛ぶ。 「サイト!負けたら許さないんだからね!」 …このご主人様はー…。 しかし、逆らったら後が怖いので、とりあえず才人はリング中央に向かう。 同じように、アンリエッタから檄を受けたアニエスが、中央に向かってくる。 その間に、審判役のギトーが立つ。 「えー、双方、武器の使用は禁止。  地面に10カウント組み伏せられるか、場外に落ちたら負け。以上がルールだ」 ルールの確認後、アニエスが手を差し出してくる。 「正々堂々やろうじゃないか、サイト」 握り返す事を躊躇している才人に、アニエスは続ける。 「何を心配している?素手でもお前程度に後れは取らんぞ。  遠慮はいらん。私も本気でやるからな」 確かに、アニエスなら本気で闘っても問題はないだろう。 才人は腹を決めて、アニエスの手を握り返した。 「本気で行きますよ、俺も」 そして、試合開始を告げるギトーの声が、競技場に響いた。 103 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/10(日) 00:57:35 ID:x8NPsJ2T 先手を打ったのは才人だった。 地面を蹴り、鋭い左を真っ直ぐに打ち込む。 アニエスはそれを余裕の動きで避け、そのままその腕を取った。 そして巻き込むように体を回転させ、才人を地面に転がす。 「うわたっ!?」 背中を打ち付けて初めて、才人は自分が投げられた事に気づいた。 いかに戦闘経験があるとはいえ、格闘戦に関しては才人は素人だった。 そのまま、アニエスは才人に馬乗りになる。 そして何を思ったのか、傍目にはキスしそうな距離にまで顔を近づける。 「さて、負けを認めるならこの辺りでカンベンしてやるぞサイト?」 しかし才人とて男である。しかも愛しいご主人様の期待までその背に負っている。 負けるわけにはいかないのである。 才人は懸命に上半身を起こそうとしながら、反論した。 「この程度でっ、負けるわけには…!!」 しかし才人の抵抗は無駄だったのである。 アニエスは何の遠慮もなく、その胸に才人の頭を埋めた。 「わぷっ!?」 「じゃあ訂正しよう。  負けを認めないなら、公衆の面前で立たせちゃうぞ♪」 「すいません参りました」 これをもって、才人の負けが決定したのである。 「バカ犬ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 ルイズの怒号が競技場に鳴り響いた。 『えー、第二競技の結果は、アンリエッタ女王の勝ち、となりましたー』 ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 あと一歩。 あと一歩でサイト様は私のもの。 競技場の反対側では、慌てふためいているルイズが見えた。 悪いけどルイズ・フランソワーズ。今度ばかりは手を抜くわけにはまいりません。 私の『相応の覚悟』、見せて差し上げます。 そして、そしてそしてそして! 晴れてサイト様は、私の婿となって、トリステイン国王に! そうね、トリスタニアに帰ったらまずは式かしら。 各国の王に招待状を出して、貴族にも召集をかけて。 その日はトリステインの祝日にしてもいいかも♪ そうねー、新婚旅行はアルビオンなんかステキじゃないかしらー。 なんて私が未来設計を考えていると。 次の競技を告げる声が、会場に響き渡った。 104 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/10(日) 00:58:05 ID:x8NPsJ2T 『えー、次の競技は『仮装』です!』 『仮装』?それで、どうやって勝敗を決めるのかしら…? 『えー、競技内容を説明いたしますとー、お互いに仮装を披露して、審査員のサイト様をより興奮させた方が勝ち、ということになります』 …どういう競技なんですか…。 私が呆れていると、視界の隅にガッツポーズを取るオールド・オスマンの姿が。 …犯人はコイツか…。 この人に学院を任せておいて、本当に大丈夫なのかしら…? 隣を見ると、ルイズも呆れていた。 でも、私と目が合うと…。 何!?今の勝ち誇った笑みは!? 『私はサイトの全てを知り尽くしているわ!』みたいな!! …ま、負けるもんですか! 私だって、私だって! 本でいろいろ勉強したんですから! さて、才人の興奮をどうやって計測するのかと言えば。 コルベールが自信満々に説明する。 「えー、計測にはこの『愉快なヘビ君EX』を使います」 それは、貞操帯の股間に、いつかの実験で見せた「愉快なヘビ君」がくっついた、といったカンジのものだった。 「いやあの先生いくらなんでもダイレクト過ぎでは」 「これは男性に装着する事で興奮を数値にして計測するものです」 才人の反論は完全無欠に無視である。 でもって、疑問を差し挟む余地もなく才人は椅子に縛り付けられ、『愉快なヘビ君EX』を装着されてしまう。 「えーそれでは、一例を」 「ちょっとまてここで公開処刑かあああああああああああ!!」 才人の反論はまたしても無視される。 コルベールが指を鳴らすと、才人の目の前に体操服のキュルケが立つ。 そしておもむろに才人の頭を抱え込んだ。 『ちょっと待てなんだその役得!』『しねサイト!』『逝ってヨシ!』 『月のない夜は背中に気をつけろよ!』『べ、別にうらやましくなんかないんだからなっ』 男子生徒の非難の声が上がる。 と、同時にルイズのいる『控え室』からすさまじい殺気が。 …気にしないことにしよう。 「おお、興奮レベル75!ばっちり興奮しておりますな!」 実験結果に満足し、コルベールはキュルケを下がらせる。 『ダーリンのためだからしょうがないけど…』なんてぶつぶつ言いながら、キュルケはおとなしく引き下がる。 当の才人はといえば、羞恥のあまり白い灰と化していた。 …ていうか後がコワイっす…。 そんなこんなで『計測装置』の方の準備が一通り整うと。 『えー、それでは、お二方の準備が整ったようですので、競技に入ります。  なお、計測時と違い、競技ではおさわりは厳禁とします』 105 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/10(日) 00:58:39 ID:x8NPsJ2T その放送が終わると同時に、競技場脇の部屋を間借りして作った『控え室』から、マントとフードで完全に姿を隠した二人が現れた。 二人は中央に待つ才人の前まで歩いてくると、お互いに視線をぶつけ合い、そして両手を差し出す。 アンリエッタがパー。ルイズがチョキである。 『先攻、アンリエッタ女王!後攻、ミス・ヴァリエール!』 先攻後攻が決まったところで、ルイズは才人の前から下がる。 そして、アンリエッタがマントに手を掛け、放り投げる。 その下から現れたのは…。 「きょ、今日はあなたがご主人様にゃんっ♪」 物凄く短い丈のメイド服に身を包み、虎縞のねこみみのカチューシャを装着して、メガネをかけたアンリエッタだった。 ご丁寧に尻尾までついて、さらに手をネコのように丸めている。 やっぱり恥ずかしいのか、顔を耳まで真っ赤にしている。 いったいどんな本を読んだのだろう。 「えー、興奮度は…35でございます…」 ど、どうしてっ!?本には殿方はこういうのが好きだとっ!? 驚愕に歪むアンリエッタの顔。 そして。 『なぜだ、なぜこのアン様に萌えないのだサイト!』『この不能!』『お、俺はアン様なだけでハァハァ』 一部変な声も聞かれるが、男子生徒の怒号が辺りを覆う。 しかし才人の数値は増えない。 …ゴメン姫様、属性付加しすぎて逆効果です…。 才人は以外にマニアックであった。 106 名前:運動会@エキシビションマッチ! ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/12/10(日) 01:00:14 ID:x8NPsJ2T 『えーでは、後攻のミス・ヴァリエール、どうぞ!』 しかし放送は無情にもルイズの番を告げる。 アンリエッタはしぶしぶ下がり、そして才人の前にマントにフードのルイズが立つ。 ルイズはそっとフードに手を掛け、まず顔を晒す。 その顔はいつもと同じ。髪にも手は加えられていない。ただ、髪が水に塗れた様に湿っていた。 てことは、この下、なんだよな…。 ルイズは、少し赤くなりながら、才人に向かって、小声で言った。 「さ、サイトにだけ、見せてあげる…」 そして、才人の前に建ち、マントの前だけをはだけて見せた。 『興奮度100…120…バカな、まだ上昇している…!』 マントの下のルイズは、びしょ濡れの体操服だった。 遠目には見えないが、透けたルイズの肌が、才人にははっきり見えていた。 …どこでこんなテクニック覚えてくるんですかルイズさん。 才人は心の中だけで突っ込んだ。 『こらサイト、見えないぞそこどけ!』『お前だけおいしい思いしてんじゃねえぞー!』『お、俺はヴァリエールたんなだけで以下略』 男子生徒の怒号の中、放送が告げた。 『えー、競技の結果、1対1、1引き分けで、両者引き分け、となりました!  以上をもちまして、エキシビションマッチを終了いたしまーす』 そこは、学院の裏門だった。 表から影武者を帰らせ、アンリエッタは裏門で、ルイズと別れの挨拶を交わしていた。 「今度の勝負では結果はでませんでしたが…いい勝負でした」 「そうですね。姫様の健闘は、賞賛に値しますわ」 「…今度は、負けませんよ」 「いつでも、受けて立ちます」 そして、二人は手を差し出す。 それぞれの掌に光る、二本の画鋲。 二人は引きつった笑顔で、お互いの手を握り返した。 そして、力の限り握り締める。 「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」 「おほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ」 それを見ていた才人が、思いっきり引きの入った顔で言った。 「こえーよ、二人とも…」 そして、これを皮切りに、後世に『トリステイン史上最悪の痴話喧嘩』と呼ばれる、アンリエッタとルイズの血で血を洗う戦いの幕が切って落とされるのだが。 それはまた別の話。〜fin

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