ゼロの保管庫 別館

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だれでも歓迎! 編集

494 名前:1/5[sage] 投稿日:2007/02/13(火) 23:15:33 ID:O6uPAehE 「おーい、そっち夜食足りてるか?」  ギーシュがバタバタと駆け回り水精霊騎士隊の雑用係と化していた。 「あいつ、隊長じゃなかったっけ?」  ボソリと呟くサイトをレイナールが白い目で見つめた。 「副隊長が働かないからだろ」

 水精霊騎士隊の結成から数日、サイトが唐突に『合宿』をやろう。  そう言い出した。

『教室には居たけど、皆の事あんまり詳しくねーし』

 良い機会だからと、水精霊騎士隊の一同で学校側の宿を借りての一泊。  寮生活の生徒にとっては、何の感慨も無いかと思いきや、

 教師の目が無い。

 それだけで生き生きと団体行動を楽しんでいた。

「言い出したくせに、何で君は待ってるだけなんだ?」 「いや、説明書きとか読めないし」  実務能力皆無の副隊長に呆れたレイナールが重い腰を上げ、 「ギーシュ、手伝うよ」  率先して手伝いを始めると、ぽうぽつと手を貸すものが増え始める。

「うんうん、皆纏ってきたなぁ」 「って、サイト。お前も力仕事くらい手伝えっ」 「あ、わるい」

 水精霊騎士隊が、一つの隊としてゆっくりと纏り始めた。

495 名前:2/5[sage] 投稿日:2007/02/13(火) 23:16:09 ID:O6uPAehE 「で、なんで一部屋しか借りてないんだ?」 「いや、なんとなく」  サイトが宿屋と交渉して借りたのは、貸切とはいえ雑魚寝用の大部屋だった。 「ギーシュも、何でこんな部屋にしたんだ?」  育ちの良い貴族の集団である。  よほど納得いかないらしいレイナールが金銭感覚の無いサイトについて行ったはずの隊長を糾弾する。

「楽しいからね」  サラリと返されたレイナールは、 『つ、次から面倒でも実務は全部僕が仕切ろう……』  半泣きになりながら、固く心に誓っていた。

「ま、いいじゃないか、野郎だけで集まってわいわいするのも楽しいって」  最近何故か毎日眠りの浅いサイトが、晴れ晴れと笑う。  夜中に恐怖で目が覚めたり、自分の上でにらみ合いされるのは密かに辛いらしい。

 事情を知っているギーシュの視線は冷たくなるが、  他の隊員たちは『犬』『英雄』の両極端しか知らないため、フレンドリーなサイトに親近感を覚えた。

「ま、こういうのもたまには良いのかもね」 「そうだな……こんな機会、これからも滅多に無いだろうし」  学院を卒業したら田舎に帰るものや、城勤めを目指すもの、  進路は様々だが、確かに今後こんな機会がそうそう訪れる機会は無さそうだ。

「サイト、何か話せよ」  全員に一目置かれているサイトに、自然と注意が集まる。 「あー皆、俺の突発的な思いつきに付き合ってくれてありがとう」  緊張した顔で皆を見回すサイトと目が合った者が皆苦笑する。    戦争が終わり心地よかった退屈な日常も、一月過ぎで飽きてしまった少年達はこの機会を与えてくれたサイトに感謝しかしていなかった。

 この『合宿』具体的に何をするのか未だに誰も知らなかったが、  皆一様に『何か』が起きる予感に胸をときめかせていた。

「さて……今まで言っていなかったけど、『合宿』と言えば……」  次の一言を聞き逃すまい、息を潜めてサイトの一言を待つ。

「好きな娘の話と、怪談だろっ? Go! レイナール!」 「へ? ちょっ、待てっ!!」

496 名前:3/5[sage] 投稿日:2007/02/13(火) 23:16:41 ID:O6uPAehE 「ひ……ひど……い……」  全員でからかわれたレイナールが塩の柱と化している。  他の隊員はその様子笑い、楽しい時を過ごしていた。  外泊の興奮で、少々調子に乗っている貴族たちに怖いものは…… 「さ〜てと」  サイトの声が響き隊員を見回すと、数人が正気に返る。  楽しくレイナールを追い込んだ者も、次は自分の番かもしれない。

「つ、次はサイトの話が良いなっ」 「そ、そうだよな、副隊長の話が聞きたいよなっ」 「え? そうかな?」  空気の読めないマリコルヌは、周りから袋叩きにあった。

「さ、サイト、何でも好きに語ってくれ」  早めに潰さないと危険だ。  そう悟って、全員でサイトを喋らせようとしていた。

「……じゃ、怪談でもしようか?」  サイトの言葉に、大半の者は落胆を隠せなかった。  メイドや下級生やルイズの話に興味津々なお年頃。

「いや……俺が好きな娘の話しすると、後が面倒そうだからな」  ニヤニヤと一同がサイトを見つめる中、サイトが低い声で話し始めた。

「俺の故郷……地球に伝わる風習でな。  あ? ロバ・アル・カイリエ? 俺の地元じゃ地球って言うんだよ。  年が明けてから45日目に行われる風習が有る。

『バレンタインデー』

 そう……そんな名前だったな。  その日はな、女の子が好きな相手にプレゼントを贈るんだ……  なに? どこが怪談だって?  分かってない……分かってないぞギーシュ!」

 つ、とマリコルヌを指差さしたサイトが、

「目を閉じて考えてみろよ……マリコルヌ。  その日に下級生に呼び出されるんだ。

 そうそう……って嬉しそうだな、お前。

 呼び出された場所には、可愛い女の子が一人居るんだ。  頬を染めて、恥ずかしそうにお前に小さな箱を手渡す。  触れた指先は、いつから待っていたのか分からない位冷え切っているけど、  触れたこと無いくらいスベスベで、ふと気付くと切なげな瞳でお前を見つめているんだぞ?」

「が、我慢できなよっ、サイトぉぉぉ」  マリコルヌの絶叫に、全員が同調している。 『思ったとおりだ』  にやりと笑ったサイトが、これから起こる事を楽しみに先を続けた。

「もじもじと恥ずかしそうな女の子が、勇気を振り絞ってお前に何かを伝えようとしているんだ。  聞いてあげるか?  そうだよな?  聞かないと男じゃないよな?

『これっ、ギーシュ先輩に渡してくださいっ!!』 」

497 名前:4/5[sage] 投稿日:2007/02/13(火) 23:17:18 ID:O6uPAehE 「ギィィィィシュ!! きっさまぁぁっぁあ」  激昂したマリコルヌに、ギーシュがボコボコにされる。 「ちょっ、ま、まてぇぇぇぇ、もしもの話だろうがぁぁぁ」  ギーシュの釈明にマリコルヌが正気に戻りかけるが、 「でも、有りそうな話だよな」  誰かの呟きが聞こえたマリコルヌは、 「ぼ、僕はお前を許さないぃぃぃ」  ギーシュに突進する。

 役どころに満足なのか、ギーシュは特に抵抗もせず、マリコルヌをなだめていた。

「でも……な、『バレンタインデー』はお前にだって恐怖なんだぞ? ギーシュ」  再び語り始めるサイトに、一同はもう一度耳を傾ける。

「『バレンタインデー』に贈るのはお菓子がメジャーなんだ。  そう、チョコレートとかな。  甘くて美味しいよな? ギーシュお前はチョコ好きか?  そうか、当然モンモンもそれ知ってるよな?

 『バレンタインデー』の前日に、モンモンの部屋から甘い香りが漂ってきたら?  その前の日に材料買い込むモンモンを見かけていたら?

 お、嬉しそうだなギーシュ。  そうか、モンモンは薬だけじゃなくて、お菓子作るのもうまいのか。  幸せ者だなギーシュは」

 マリコルヌすらギーシュを殴るのをやめ、サイトの話に聞き入っていた。    モンモランシーが料理が上手いのは実習などで有名な話らしく、  羨ましそうな視線を集めているギーシュは、得意の絶頂だった。

「いよいよ『バレンタインデー』当日だ。  ギーシュ、お前はどうする?  そうか、モンモンの所に貰いに?  あ、くれるのは待つけど、自分から言い出さないのか。

 部屋にモンモンを迎えに行くとさ、恥ずかしそうに目を逸らされる訳だな。  目を合わそうとしないモンモンの前に立って、教室まで先導。    休み時間のたびにモンモンに話しかけていると、いっつも何か言いたそうにしている訳だ。 『ギーシュ、話が有るの』  とかって放課後に呼び出されて、花束抱えて言われた所でじっと待つよな?

 …………いつまで経ってもモンモンが現れなくて、  寒くなってとぼとぼと部屋に戻るよな?

 何が有ったのか気に成ったお前は次の日の朝早くモンモンの部屋に行くわけだ。  でも部屋はもぬけのから。

 胸騒ぎがして、教室に急ぐと……」

 真っ青になったギーシュに、サイトは止めを刺す。

「教室にはマリコルヌと腕を組んだモンモンが……」

498 名前:5/5[sage] 投稿日:2007/02/13(火) 23:17:59 ID:O6uPAehE 「きしゃまぁぁぁぁぁ」 「くっくっく、負け犬の遠吠えは見苦しいよ、ギーシュ」  さっきとは間逆の立ち位置で、ギーシュとマリコルヌが争い始める。

 邪悪に笑うサイトに、騎士隊の面々は慄いていた。 『こ、こいつっ、鬼かっ?』  この男に付いて行って良いのだろうか?

 血の涙を流しながら放たれるサイトの話は…… 「は……はははは、弾ならいくら……でもっ……  お、俺の……話を……聞けぇ……」  まるで体験談のようだった。

 どこか壊れ始めたサイトが、次の犠牲者を探す。

「やぁ、レイナール」  親愛の表情でにじり寄るサイトからレイナールは逃げ出そうとするが、

『次のいけにえはこいつだっ!!』  隊員全体での始めての共同作業!!  息はぴったり。  これからの作戦も安心だった。

「……好きな子……居るんだよな……レイナール」 「ひっ……や、やめっ……」

 好きな子が別の相手にチョコレートを渡す所を脳内で目撃したレイナールが灰に成った頃、

「に、逃げろぉぉぉぉ」

 隊員たちが逃げ出し……  後に、『血のバレンタイン』と呼ばれるサイトの追撃が、

「逃がすかぁぁぁ、み、みんな不幸になればいいんだぁぁぁ」

 今、始まった。

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