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117 名前:1/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:52:24 ID:3vzC0qwc  しまったな……サイトは困り果てていた。 「サイト……お話して?」  どこか印象が幼く感じるようになったタバサに、気まぐれで地球産の童話を話したのが間違いだった。

「始めて聞く」

 それはそうだろう。  聞いたことある方がびっくりだ。

 タバサの驚く顔が面白くて、サイトはついつい頑張った。  うろ覚えのシンデレラは姉の数が少なかったし、  一寸法師におじいさんは出ない。  メーテルリンクの青い鳥に至ってはオチしか覚えていなかった。  それでも…… 「すごい……すごい、もっと……もっとお話して」  いつも無表情だと思っていたタバサの、子供の様な笑顔にサイトは覚えている限りの話を語った。

 ……が、限界は結構直ぐに来た。 「ごめん……タバサ……ん〜、これ以上は思い出せないな」 「お話……おしまい?」  ね、捏造するか? 一瞬だけ悩むが、話を作るのに自信の無かったサイトは諦めた。 「ごめんな……」  タバサの残念そうな顔に、悪い事をしたかのような罪悪感がわく。  ペットのエサを買い忘れたまま帰宅したのに、  当のペットは『待ってました〜』と、玄関先で迎えてくれた時のような。

「……ご、ごめん……本当に、悪い」  サイトは一切悪くないのだが、怒られるのならルイズで慣れているサイトも、  しょんぼりする女の子には勝てなかった。

 岩よりも重い沈黙にサイトが逃げ出す寸前、  今にも泣き出しそうな顔でサイトの足元を見ていたタバサが、勢い良く顔を上げる。 「……じゃ、じゃあ……ね」 「お、おう」 「も、もう一度……一度聞いたお話でいいから……」

 ここで喜んで了解したのが間違いの元だった。

「あのね、今のお話……もう一度」 「じゃあ……前の前のお話……ダメ?」

 実は既に俺より覚えてないか?  サイトがそんな疑いを覚えても、話を止めようとする度に……

「……おしまい?」

 サイトの目には、へちゃりとつぶれた犬耳と、きゅーんとうなだれた尻尾が見える気がした。

「……あー、もうちょっとだけな?」 「うん♪」

 いつの間にかサイトの膝の上で『おはなし』を楽しむタバサ。  サイトは目じりを下げながら、タバサを楽しませることに集中していたため……

 ――――三日後、ルイズがグレた。

118 名前:2/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:52:57 ID:3vzC0qwc 「ろーなってんにょよー」 「ル、ルイズ、落ち着きなさいって、昼間っからお酒なんてっ」  仮にもガリア王からの逃避行の最中。  モンモランシーはルイズの豪胆さに驚きながらも、同級生の深酒を何とかして止めようとしていた。 「ほら、ね? タバサこの間まで大変だったんだから……ねぇ?」 「ら、らからぁ、みっかもがまんしたじゃにゃいっ」    キュルケから聞いたタバサの境遇に同情したルイズは、 『す、少しくらいなら……仕方ないわね』    渋々サイトを『貸し出す』事を黙認していた。

 が、 「にゃんで、あんにゃに、べたべたするかぁぁぁ」  我慢も限界に達しているようだった。  サイトがタバサに構っている間、ルイズはサイトの側にいることが出来ない。  一度一緒に話を聞こうとしたが……数分で見ているのが嫌に成った。

 そうなって来ると、ルイズがサイトといる時間が激減し、  その不満を素直に口に出来ないルイズは、着々とストレスを溜めていた。

「あー、ほら、もうちょっとの間だけ……ね?」 「わひゃってるわぉう」  ちっとも分かっていない様子のルイズを宥めながら、モンモランシーは溜息を吐いた。  ルイズもタバサも大切な友達。  モンモランシーの立場で出来ることは少ない。

 ここ最近のルイズの様子は知っているし、  タバサだって物語のように自分を助けてくれた男の子に懐くのは当然だろう。

 別人のように笑うタバサを守りたいし、  こんなに追い詰められたルイズは見たくない。

「わたしも人の事言えないわね……」  モンモランシーはギーシュの気分が少しだけ分かった気がした。  それぞれの理由があって、両方守ってあげたいのだろう。

 ……まぁ、ギーシュの浮気性と同一視するのは少し乱暴だけれども。

 ルイズの火照った顔を見ながら、モンモランシーは思索に耽る。  多分まったく気がついていないサイトに、警告くらいはしておくか。  おせっかいを自覚しながらも、三人に笑っていて欲しいと自分の我侭さに少し笑う。

「もんもん〜」 「なーに? ルイズ」 「はく」  ………… 「ちょっ、待ちなさいっ、こっち来なさいっ」

 一行の中で比較的常識人なため、  この旅の間中、貧乏くじを引き続けている少女は、  今日もまた、他人の世話に明け暮れる。

119 名前:3/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:53:38 ID:3vzC0qwc 「そーゆーわけだから、少しルイズに優しくしなさい」  珍しく部屋の外でサイトを見つけたモンモランシーが、この時とばかりに詰め寄る。  サイトに一言も喋らせず、一息に言いたい事を言い尽くして満足したモンモランシーに対して、  話を聞くサイトの背中には、冷や汗が大量に流れていた。 「え……と、モンモン……あの……さ……」 「言い訳無用!! いい? タバサの相手もいいけど、ルイズを泣かさないようにね」  二股幇助としか取れないような言葉を残して、モンモランシーが立ち去ると、    ガサリと言う音共に、近くの茂みからタバサが現れた。 「……ごめんなさい」 「い、いや、タバサは悪くないって……俺が鈍いんだ」

 久々に外に出たのは、タバサとの話の途中で話題になった『鬼ごっこ』や『隠れんぼ』の為だった。  地球に興味が無い様子のルイズと違い、サイトの話をうれしそうに聞くタバサに、  サイトは様々なことを話し始めていた。

「……どうするかなぁ」  サイトにとって昔の事を楽しく思い返す、思いのほか楽しい時間だったが、  ルイズを悲しませているのなら、サイトにとっては選択の余地はなかった。

「その……タバサ……あの……」  話を止めようとした時のタバサの様子を思い出し、サイトはぼそぼそとタバサに話しかける。 「ダメ」    やっぱりダメですか。  ルイズと、どうやって話すか悩み始めるサイトにとって、意外な言葉をタバサは続けた。 「ルイズと仲良くしなきゃ、ダメ」 「え?」 「ごめんなさい」

 責任を感じたらしいタバサが、ペコリと頭を下げると後ろもみずに走り出した。 「ちょっ……タバサ?」 「待ってて」

 色恋沙汰が苦手……そもそも上手く理解できないタバサは、頼りに成る親友に相談する。  殺そうとしても自分よりわたしを優先した人を、  自分を助けてくれたサイトを、  力の及ぶ限り助けたい。

 そして、適うならば、魔法を使えない彼の杖になりたい。

 そんなタバサにとって、自分がサイトの邪魔をしてしまった事は、  サイトやモンモランシーが思う以上にタバサを困らせていた。

「で、タバサはどうしたいの?」  そんなの胸の内を悟っている様子の親友は、タバサの単語を連ねた様な説明で容易く状況を把握する。  感謝しているとはいえ、心情的にはタバサの味方をしたいキュルケは、あえてタバサに意思を確認する。  言いよどむ様ならば、丸め込んでしまうつもりだった。

「二人に笑って欲しい」    サイトに惹かれている事を自覚し始めた少女の微笑みは、キュルケを黙らせるのには十分だった。

120 名前:4/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:54:10 ID:3vzC0qwc 「で、ヴァリエールの事をどれだけ知ってるの?」  酒場の片隅で顔に向かって灯りを向けられたサイトが目を細める。  ルイズのところに向かおうとするサイトを、キュルケが力づくでここまで引っ張って来たのだ。 「キュルケ、何の真似だよ?」 「いいから、きりきり喋りなさいっ!!」  右手がテーブルに叩きつけられる音に、酒場中の客がサイトに視線を集中させる。

「あなたがやったのよね?」 「って、何を?」  キュルケの射すくめる様な眼光に身を縮めるサイトを見て、キュルケはますます調子に乗った。 「あの子をあんなに女の子っぽくしたのは、だぁれ?」 「う……っ……いや……そのっ……」

 実はキュルケは憂さを晴らしたいだけだった。  せっかく自分の得意分野で親友の役に立てると思ったのに。  タバサの望みは、自分ではなくルイズとサイトの仲を取り持つこと。 「どーして、そうなるのよっ」 「な、何がだよっ?」  キュルケの脈絡の掴みにくい行動に、サイトは非常に居心地が悪かった。  店に入った時は、店中の男達の羨望の眼差しに得意に成っていたが……

 今向けられるのは好奇の視線だけだった。  店の片隅で美人に詰め寄られる少年。

 ――どう見ても浮気の釈明中です。

 苦笑と冷やかしの視線が痛い。もっとも半分は 『なんでこんなのが、こんな美人捕まえて、しかも浮気? 何か間違えてないか?』  そんな視線だったが。

 散々迷走した挙句に、少しだけ冷静さを取り戻したキュルケが、サイトに質問をぶつけ始めた。 「ヴァリエールの機嫌を取りたいのよね?」 「はい……」 「で、あの子の喜ぶこと何か知ってるの?」

 ……あれ?  サイトは少し悩んだ後、真っ白になった。  ルイズの為とか、ルイズが好きだから……  そんな事を言いながら、自分はさっぱりルイズを喜ばせることを知らない。  側に居るだけでルイズが喜んでくれる等と言い切る自信はサイトには無かった。

 ルイズに自分は何か返せているのだろうか? サイトはキュルケの問いに返事が出来ない自分を恥じた。 「ご、ごめんなしゃい」 「プレゼントの一つもしたことないわけ?」 「あ、それは有ります」  すっかり小さくなったサイトは、ついつい敬語で答えてしまう。

「で、あの子は何を喜ぶの?」 「……分かりません」 「なってないわね」 「申し訳ございません」

 タバサの事を一から仕込みたい!  キュルケが誘惑に耐えながら、サイトのダメなところを挙げていく。

 冷やかしていた周りの客が、あまりの落ち込みようにサイトに同情を始めた頃。 『ルイズの為に何でもさせていただきます』  サイトはキュルケに絶対服従を誓っていた。

121 名前:5/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:54:53 ID:3vzC0qwc 「お願い」  キュルケがサイトを躾ける間、タバサの方でルイズの足止めをするように。  そう指示されたタバサは、しばらく途方に暮れた後、

「はぁーい、おねえさま、シルフィにおまかせっ」  最悪の選択をしていた。  何を頼まれていたのか既に忘れていそうなテンションでサイトを探し始めるシルフィードをタバサは心配そうに見つめるが、 「わたしはルイズに会えない」

 言われるまで気付かなかったとはいえ、ルイズが自分を優先してくれたのがうれしかった。  サイトとの楽しい時間はとても大切だったから……  それを気遣い、守ってくれたルイズにどれほど感謝すればよいのか分からない。  そして、だからこそ……

「今……会えない」

 涙で視界が滲む。

 ルイズの優しさが痛かった。  妬いてしまうとはいえ、サイトの側に人が居ても許せる自信が悲しかった。

「あなたになりたい」

 サイトに想われる彼女に、今会うのは辛すぎる。  感情を押し殺した表情の下で、見えない何かが荒れ狂う。    ほんの少し前まで、何が有ろうと怯まなかった少女が、  自分の奥に芽生え始めているものに怯え、

「ごめんなさい」

 復讐に燃えていたときには決してとらなかった道を進む。    胸の疼きを押さえながら、タバサはルイズから逃げていく。

122 名前:6/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:55:30 ID:3vzC0qwc 「じっかん〜、じっかん〜、時間を稼ぐのー、きゅいきゅいっ」  シルフィードはご機嫌だった。  タバサと合流して気がかりの無くなった彼女は、純粋に話が出来るのが楽しかった。

 風韻竜はその長寿と引き換えに出生率が低い。  個体数が少なくとも生き延びることが出来る生命力と、生まれた子供が成竜になる割合が高いからだが、

「お話、おっはなっし、た〜のし〜の〜」

 長い時を一人で生きるのは寂しい。  同世代の同種すら希少な彼女にとって、タバサと知り合ってからの毎日は楽園だった。 「お姉さまも楽しそうだし、シルフィもうれしいのっ。  人の身体は窮屈だけど、こんな毎日なら別に少しくらいは我慢するのー」

 タバサの側に長く居たシルフィードは、タバサの心が癒えていくのを無意識に悟り、  それがまた彼女の喜びになった。  タバサの事をタバサ本人よりも気にかけている使い魔にとって、  この一年で始めて全てがうまく行っている……  そんな実感に溢れていた。

「あー、ギーシュさまだ、やほー」 「元気が良いな、シルフィード」  ギーシュはシルフィードのことを知っても、『面白いじゃないか』の一言で全てを済ませていたし、  他の者が辟易して逃げ出すシルフィードとの会話も、我慢強く付き合った。  実は女の子と話をするのが好きなだけだが、聞き上手と言うのは得がたい資質だ。

 同じく女の子が好きなマリコルヌは、シルフィードの話に付いていけないのを誤魔化そうと頑張って喋り……    早々に話し相手失格の烙印を押されていた。  シルフィは話を聞くより話すほうが好きなのだ。

「どうしたんだい?」 「内緒〜、内緒だよ、ギーシュさま」

 ついつい喋りそうになる自分の口を、両手で可愛らしく隠すシルフィードをギーシュは深追いしなかった。 「そうか、それじゃ仕方ないね。何か出来ることはないかな?」 「ん〜〜〜、んっ? あっ、ギーシュさま、ギーシュさまっ、しつもん、しつもん、しっつもーんっ」

 シルフィードはルイズとの会話にギーシュの知恵を借りて……

「きゅい?」

 『ルイズが動かなくなるようなお話』に、不思議そうに耳を傾ける。

123 名前:7/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:56:03 ID:3vzC0qwc 「うーっ、頭痛い……」  宿の自室で水を飲みながら、ルイズは頭痛に耐えていた。

 ひとまずタバサをゲルマニアに逃がすため、最も足が付きにくく、  最も効率が良い方法で、ガリア国内を移動していた。

 シルフィードがバテるまで、風韻竜に出せる限りのスピードで移動し、  手近な宿で休む。    この繰り返しだった。    通常の移動手段を想定している包囲網に、この方法だと掛からない上に、  騎竜を探す役人も、まさか人間に成っているとは思わない為、全員でのんびり出来る  役人が探しているのは、数人の少年少女と竜であって、  保護者(キュルケとシルフィード)付きの旅行者ではないからだ。

 高速移動と人化はそれなりに疲労するらしく、シルフィードがこの広めの宿で数日の休憩を要求したため、  彼女に負担をかけていることを自覚している一団が、しばらく休むことにしたのだが。 「のんびりしすぎたわ……」

 実際、見つかってもどうと言うことは無い。  今のこの一団を地方の官憲程度で抑えられる筈は無いのだ。  恐ろしいのは、虚無の使い手そのものとエルフ程度だが、  ビダーシャルが出てきても、今回は逃げの一手が打てる。

 虚無の使い手にしても、王族である公算が高いため、こんな辺境にほいほい出てくるとは思えない。

 それでも気を緩めすぎだ。  ルイズは気を引き締めることにする。

「よしっ」

 勢い良くベットから立ち上がり……暫し頭を抱える。  二日酔いは辛い。

「ま、負けない……」

 よろよろと立ち上がり、コクコクと水を飲む。  アルコールで少しだけ鬱憤を吐き出したルイズは、もうしばらくだけ我慢するか、  それとも外聞を捨ててでもサイトに甘えるか悩む。

「……いたたたた」

 二日酔いに考え事は向かない。   「サイトのバカ……なんでわたしばっかりこんなに苦しいのよぅ……」  考えるのを止めて、ぽつぽつと胸のうちを吐き出す。

「わたしにも甘えさせなさいよ……」 「タバサばっかりズルイ……」 「あんた大きい胸が好きなんじゃなかったの?」 「…………寂しい……ょぅ」

 段々小さくなる声と、段々大きく成る想い。  膝を抱えて丸くなるルイズが、サイトに会いに行く決心をする寸前、

「ルイズ〜、ルイズ〜元気かなっ? きゅいきゅいっ」  二日酔いには最悪の来客が訪れた。

124 名前:8/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:56:35 ID:3vzC0qwc  にゅぉぉぉぉ、頭がキンキンするぅぅぅぅ。  のたうつルイズを余所に、シルフィードは元気にご挨拶。

「あ、おっはようっ、ルイズ、元気かなぁ?」 「だ、黙りなさいよ……って、なんでタバサがお姉さまで、わたしはルイズなのよ」  余計なことを言ってしまったことを、ルイズは海よりも深く後悔した。

「えー、だってだって、ルイズはルイズって感じなんだもん。  ほらっ、ル・イ・ズって感じでしょ?」    弾むように大きくなる『ル・イ・ズ』が頭に響く。

「もう、ルイズで良いから、でてってー」 「え? 本当? わーい、ルイズでいいんだ、ルイズでいいんだー、きゅいきゅい」 「にゃぁぁぁ」  何を言ってもシルフィードの口は止まらない。

  「あ、ルイズ、ルイズ、質問があるのっ、答えて、答えてっ」 「もー、分かったわよっ、答えるから、答えたら出て行きなさいよっ」

 この言葉を、ほんの数秒後に後悔する事になる。

「ねぇ、ルイズ、『赤ちゃんてどこから来るの?』」 「え?」 「ねぇねぇ、ルイズっ、『赤ちゃんて……』」 「っっだ、黙んなさぁぁぁいっ!」

 あまりのバカな質問に、二日酔いのことを忘れてルイズはシルフィードにたたみ掛ける。

「お、女の子がそんなこと言えるはずないじゃないっ」 「そうなの?」 「そうよっ!!」

 釈然としない表情のシルフィードは、ギーシュに聞いた話と違う。  そう悩み始めるが、シルフィードも『赤ちゃんの作り方』に興味が出てきた。

「女の子には聞いちゃダメなの?」 「そうよっ、そんな事言える筈無いじゃない!」    フムフムと頷いたシルフィードは、おもむろに立ち上がると、 「ん、わかったー、サイトに聞いてくるね」

 ―――――――――――――――――――――――― 「サイトー、赤ちゃんの作り方教えてー」 「よしっ、OKだ、シルフィード!! さぁっ、おいでっ!!」  ……妙に爽やかなサイトがシルフィードを抱きしめる様子が、一瞬でルイズの脳内で構築される。  ――――――――――――――――――――――――

「だ、だめぇぇぇぇぇ」 「きゅい? 「そ、それくらいなら、わたしが教えるわよぉぉぉ」

125 名前:9/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:57:44 ID:3vzC0qwc 「えっと、だから……その……ね?」 「きゅい?」

 話はまったく進んでいなかったが、ルイズの様子を見たシルフィードはじっと話が始まるのを待っていた。

「あの……やっぱり無しってのは?」  耐え切れなくなったルイズが、シルフィードに降参してみた。

「ひっ、ひどいのっ、ひどいのっ。  シルフィ、楽しみにしてたのにっ。  騙されたっ。シルフィ、ルイズに騙されたっ!」     暴れるシルフィードの次の台詞は、ルイズの顔を真っ青にするのに十分だった。

「ルイズが赤ちゃんの作り方教えてくれるって、シルフィの事もてあそんだぁぁぁ」

 ひたすら人聞きの悪いことを絶叫しながら、部屋の外に駆け出そうとするシルフィードをルイズは命がけで取り押さえる。 「ま、待ちなさぁぁぁあああいっ、人に聞かれたら誤解されるでしょうがぁっ  言うからっ、説明するからっ」 「ならいいの、はやく、はやく〜、きゅいきゅい」

 こいつ分かってやってないか?  ルイズはそんな疑いを持つが、 「楽しみなの、楽しみなの、きゅいきゅい」

 シルフィードはまだ子供だった。

 世のお母さん、お父さんの苦悩をルイズはたっぷりと味わっていた。 (あぁ、ごめんなさい、ちぃねぇさま。ルイズは悪い子でした)  幼い頃、しつこく聞いてカトレアを困らせていた事を思い出す。

「あ、そうだっ」 「きゅい?」 「そうっ、コウノトリよっ、コウノトリが運んでくるのよ」

 ありがとう、ちぃねぇさま。  ルイズは姉に無上の感謝を……

「むー、嘘なの、ルイズはシルフィを騙そうとしているのっ」 「うっ」 「シルフィ、風韻竜ですもの、ルイズの産まれる前から空飛んでるもの。  でもでもっ、赤ちゃん運ぶ鳥なんていないの知ってるもの」

 ……なんて厄介な。ルイズが賢いのかバカなのかわからないシルフィードをどう騙すのか考える。

「……ルイズ……嘘吐いた。  ルイズ、シルフィの事騙そうとした」

 こ、この展開はっ、ルイズが嫌な予感に慄くと、

「ルイズが『赤ちゃんの作り方』で、シルフィを騙そうとしたっ。  シルフィ、ルイズにおもちゃにされたぁぁぁぁ」 「ちょっ、だからそんな事喚きながら、外に向かうなぁぁぁぁっ」

 ルイズが力づくでシルフィードを取り押さえる。

「……シルフィ、『赤ちゃんの作り方』聞いただけなのに、ルイズがシルフィに馬乗りになって荒い息上げてるのっ、きゅいきゅい」 「っっっ、わ、わざとじゃないでしょうねぇぇぇぇ」

126 名前:10/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:58:17 ID:3vzC0qwc 「ふむふむー、なの」 「うぅ……お、お嫁に行けない」  シルフィードの精神攻撃に負けたルイズは、知っている限りの知識をシルフィードに公開した。

「ん〜、でも、本当なの? きゅいきゅい」 「……本当よ」 「でも、ルイズのっ……赤ちゃんが出てくるようには見えなかったの」 「っ! わ、忘れなさいっ、忘れる約束でしょうがぁぁぁぁ」

 乱れた着衣を整えながら、ルイズはシルフィードに掴みかかる。  正確に話しても信じようとしないシルフィードに、オンナノコまで覗かせたルイズはシルフィードの記憶を消せるものなら消したかった。 (あぁぁぁぁ、ティファニアに呪文聞いとけば良かった)

 ここに始祖の魔道書が有れば、確実に読めるだろうに。  ビダーシャルと戦った時の百倍ほど、自分の不手際を呪っていた。

「んとんと、ルイズ」 「なによっ」  すっかりルイズに懐いたシルフィードが新たな質問を切り出した。

「赤ちゃんていいもの?」 「ま……まあ……ね」 「何人ほしいの?」 「へ?」 「サイトの赤ちゃん欲しいの?」 「ふえっ」 「サイトと赤ちゃん作りたいのっ?」 「い、いやぁぁぁぁぁぁ」

 シルフィードの質問は止まる事は無く……

「ルイズが教えてくれないのなら、サイトに聞くねっ。  あ、さっき見たの、サイトに教えてあげても良い? 良い?  サイトが知らなかったら困るしっ」 「だ、だめぇぇぇぇ、わ、わたしが説明するからぁぁぁぁ」

 シルフィードの質問から逃げることすら出来なくなったルイズは、

「……も、許して……」 「きゅいきゅい」

 ルイズは精神が崩壊するまでシルフィードの質問に付き合った。

127 名前:11/11[sage] 投稿日:2007/02/22(木) 01:59:03 ID:3vzC0qwc 「いいわね?」 「はっ、ルイズの望みの物を聞き出し、早急にプレゼントする所存であります」  サイトはキュルケに連れられて、ルイズの部屋の前に来ていた。

「手伝う」 「ありがと、タバサ」  感謝の印とばかりに髪をくしゃりと撫でるサイトを、眩しそうにタバサが見つめている。  サイトと一緒になら……ルイズの前に立って、まずお礼を言おう。  そう決心したタバサは今ここに居た。

「いくぜ」  小さくノックしてから、ルイズの部屋に踏み込む。  サイトとキュルケに隠れるようにタバサが続く。

「ルイズ……寝てるのか?」  サイトの問いかけに答えるように、ゆらりとルイズが起き上がった。

 ――シルフィードとの問答の途中に、いつの間にか意識を失ったルイズは、  鉛のように重く感じる体を起こした。

 ……これは……夢?  サイトが何か言ってる……  サイト……  サイト

 寝惚けているルイズはサイトの顔を見ているだけで、シルフィードとの問答がリピートされていた。

 ――ルイズの様子がおかしい気がしたが、サイトは予定通り行動を進めた。  アドリブで行動を変更できるほど、サイトは器用な少年ではない。 「い、今まで、俺ルイズの事……よく知ってるつもりだったけど……  良く考えたら、俺ルイズの欲しい物もわからないんだ……

 こ、これから頑張るからさ、  今日も、何かプレゼントするつもりなんだ……

 手に入るようにがんばるからっ……

 ルイズっ『欲しい物』教えてくれっ!!」

 ん――――と、空中を眺めていたルイズが、ふわりと笑って呟いた。

「赤ちゃん♪」 「「「は?」」」  ルイズの衝撃のおねだりに、三人そろって間抜けな声を上げる。

「赤ちゃん♪ かわいーの♪」

「が、頑張るんだっけ?」 「え……と……ルイズ?」  あまりの展開にキュルケとサイトが取り乱す。 「え……と……て、手伝う?」  タバサも変だ。

「赤ちゃん♪ 赤ちゃん♪ 赤ちゃん♪」 「「「…………ぅ……」」」

 正気に返ったルイズが窓から飛び降りようとするまで、三人の硬直は解けなかったとか……