ゼロの保管庫 別館

13-28

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湯けむり協奏曲(前編)

■1

 月が二つ輝く夜空に、湯気が立ち上って星をにじませる。  焼けた薪が小気味いい音を立てて割れる音を聞きながら、 才人は湯船につかって汗と疲労を流していた。   「あ゛ーー……極楽極楽……」  そう言って、頭の上に乗せていたタオルで顔にかいた汗を拭う。 何ともオヤジ臭い仕草である。    才人はタオルを畳んで頭の上に戻すと、体の向きを変えて湯から肩を出し、 風呂釜の縁に持たれかかって片手をだらんと外に垂らした。

 彼のご主人様が見たら文句のひとつもつけそうなだらけきった姿だが、 それだけリラックスしてしまうのも仕方ないのかもしれない。  この世界に来たばかりの時よりも何かと忙しくなってきた才人にとって、 入浴の時間は一人で心も体も休ませられる貴重な一時であったのだから。    そんな休息の時であったが、今夜はそれもままならない――それどころか、 心労も疲労も余計に増やすことになろうとは、この瞬間の才人は想像だにしていなかった。     「ん……何だ?」  聞き覚えのある風斬り音が耳に入ってきて、才人は顔を上げた。 音のした方を探すと、星空を舞うひとつの影。 才人はすぐに、それが自分も乗ったことのある風竜であると気付いた。   「ってことは、タバサかな。こんな時間まで大変だな…」  今日は虚無の曜日である。タバサが学校外へ遠出していてもおかしくはないが、 もう夜も更けている。    そのまま学生寮の部屋の窓に入るのかと思って見ていると、風竜の影は 才人の風呂が設置されているヴェストリ広場へと降り立った。    才人が怪訝そうな表情を浮かべていると、竜の背から飛び降りた小さな影が、 風呂に向かって真っ直ぐに歩いてくる。  薪の火に照らされて、その影がタバサであることがはっきりとわかった。   「ちょ……、タバサ! 俺だよ俺! 入浴中なんだけど…!?」  才人は慌てて湯の中に両肩まで体を沈める。   「知ってる。空からお風呂の火が見えたから」  タバサは相変わらずの無表情のまま、才人が入浴中であることなど意にも介さずそう言い放つ。   「知ってるなら何で…!?」 「入れて」  才人が言い返すと、タバサは簡潔に一言呟いた。   「……今、何と?」  才人は眉間に皺を寄せながら、風呂釜の傍に立ちつくす少女に問い直す。   「入れて欲しいの……。だめ?」  なぜかタバサは切なさを含んだ表情を浮かべ、才人に懇願する。 その頬が紅潮しているように見えるのは薪の照り返しのせいなのかどうなのか。  妙にエロっちいその台詞に一瞬くらっときたが、この言葉足らずな少女が 何を言いたいのか、才人はすぐに気付いた。   「あー、そっか。風呂だよな。確かにもう学園生用の浴場は閉まってる時間だし…」  才人の言葉に、タバサはこくんと頷く。外から見てもわからないが、 遠出をしていたので汗などの汚れが気になるのだろう。

■2   「お礼はするから…」 「いいよいいよ。じゃ、もうちょっとしたら俺は出るから少し待っててくれ」  才人がそう言うと、タバサは少しだけ目を細めた。ほんの僅かな変化だが、 タバサが何かに不満を感じたのだと才人は察する。

「え、何?」  何か不都合でも…?と才人が考えていると、タバサはぶかぶかのマントを ぱさりと落とし、ブラウスのボタンを外しはじめた。   「何で!? 待っててって言ったろ!?」 「一緒に入る」  風呂の中に入っている才人には止められないのをいいことに、 タバサはブラウスを脱ぎ去り、スカートを足から引き抜く。まこと遠慮のない脱ぎっぷりである。   「すとっぷ! すとーっぷ! まずいってそれは…!」 「どうして?」 「どうしてって、健全な男女が一緒にお風呂だなんてね、いけませんよ! 常識ですよ!」 「メイドとは一緒に入れるのに?」    タバサの目がさらに細くなる。才人はうっ…と言葉に詰まった。  てか、どうしてこの娘が知ってますか? まさか周知の事実になっちゃってますか?   「それとも…嫌? わたしと一緒に入るのは」  タバサはふっ…と表情を緩め、不安そうな色を含ませて問うてくる。  純白のシミーズにこれまた真っ白なタイツ。それに負けないくらい白い肌の、 雪の妖精みたいな少女にそんなことを聞かれて、嫌と言える人間などいるのだろうか。   「嫌なわけないだろ。でもそれとこれとは……」 「じゃあ、一緒に入りたい?」  そこでなぜそっちがそう聞く? 才人は混乱しかけたが、その問いによって 『タバサと一緒にお風呂』の光景をつい想像してしまう。

 小さくて綺麗なタバサ。精巧なお人形さんみたいなタバサ。 そんなタバサと一緒の湯船につかって、膝の間に座らせちゃったりして…。  やばい。やばいです。一見ほのぼのなのにその実この上なくインモラルです。    タバサが一瞬、にやりと笑ったような気がした。はっ、思わず頬が緩んだ?  才人が自己嫌悪に陥っている間に、タバサは残りの衣装を全て取り去ってしまう。  一糸纏わぬ姿になってしまったタバサにこれ以上文句を言う気もなくなってしまった才人は、 諦めて深いため息をついた。      外で体を洗ったタバサを、風呂桶の中に招き入れる。縁をまたいだ時に 脚の間の部分がばっちり目に入ってしまい、ぼっと頬が熱くなるのがわかった。  ふぅ…と深い息を吐いて湯につかり、目を閉じて全身から力を抜くタバサの姿は その子供のような体つきからは想像がつかないほど色っぽく、 つい凝視してしまうのを止められない。   「あー、うー、そうだな。風呂っていっても、こんな手製の小さいやつなんて、 いつも学校の大浴場に入ってるお前には全然もの足りないんじゃないか?」    気まずくなった才人は、無理矢理作った話題をふっかける。 このままタバサを見ていたら変な気分になってしまいそうだ。   「そんなことない」  タバサはふるふると首を横に振った。 「そ、そお? さすがにお世辞じゃない?」 「……あなたと一緒だから」   ■3    ずきゅーん。  普段は無愛想な少女にそんなことを言われて、才人はのぼせ上がりそうになった。  あぁもう、あぁもうちくしょう可愛いなぁこのちびっ娘め。  ぎゅって抱きしめてかいぐりかいぐりしてしまいたいなぁ。    才人が健全なのか不健全なのか微妙な衝動に身悶えしていると、 その思考を読み取ったかのように、タバサはゆっくりと湯の中を才人の方へ移動してきた。   「あ……」  何も言わないタバサ。けれども、そのどこまでも青い瞳は下手な言葉よりも雄弁に 気持ちを才人にぶつけてくる。  だめだ、俺は、この少女の誘惑から逃れられない――!   「ずるいのねー! 二人だけでイチャイチャしないで欲しいのねー!」  と、そんな甘い空気を引き裂くような甲高い声。  え? どこから? と思う間も無く、才人とタバサの間を割るようにして、 人影が湯船の中に飛び込んできた。   「わっぷ!」「けほっ…!」  跳ねた湯をかぶって、才人とタバサが顔をしかめる。  風呂桶の底に沈んだそれはぶくぶくとしばし泡を立ち上らせた後、 勢いよく水面に顔を出してぷはぁと息をついた。   「んー! お風呂なんて滅多に入らないけど気持ちいいのねー♪」  濡れて額に張り付いた長い髪を気にもとめず、その女性…… 人間の格好に化けた風韻竜シルフィードはにこにこと笑う。   「まさか空中で変身してそのまま飛び込んで来たのか? 無茶するなよ…」 「大丈夫、お湯は零れないように飛び込んだのね」 「いや、そういう問題じゃなくてだな」    予期せぬ闖入者にツッコミを入れる才人だったが、シルフィードは気にした風もない。  悪びれもない態度に、才人は毒気を抜かれてしまった。   「シルフィ……?」  穏やかなようで、確かな怒気を含んだ声。苦笑している才人とは裏腹に、 シルフィードのご主人様の方はどうやら虫の居所がおよろしくない様子であった。   「サイトと二人でお風呂に入りたいから、待っててって言ったわよね…?」 「きゅい! でもでもでも、お腹すいたし、シルフィのこと忘れてるみたいだったし…」 「言 っ た わ よ ね ?」  タバサはあくまで静かな口調なのに、ゴゴゴゴ…という効果音がどこからともなく聞こえてくる。 その異様な雰囲気に、シルフィードだけでなく才人まで戦慄した。   「きゃー! お姉さま怖いのー! 助けてほしいのね! きゅいー!」  シルフィードは大げさに恐れおののくと、才人の傍に寄ってぎゅっとしがみついた。  大きな乳房が才人の胸にあたってむにゅりと形を変える。    その感触に思わず才人の頬が緩んでしまった時……。  タバサの周囲で、”何か”が壊れる音がした。あ、やばい。才人は直感的に悟った。  自分のご主人様も、時折こうなる。ご主人様がこうなった時の対処法を才人はひとつしか知らない。  ……諦める、である。  今回は他人事であるとわかっているのに、才人の背筋に嫌な怖気が走った。

「……シルフィ、後で”アレ”ね」  タバサは一言、そう言い捨てる。シルフィードの顔からさーっと血の気が引くのが見て取れた。 「きゅきゅきゅいー! いやー! それだけは勘弁してなのねー!」  シルフィードは泣いてタバサにしがみつくが、タバサの表情に変化は無い。 「”アレ”ね」 「いやー! 後でっていつー! いつなのー!?」  ”アレ”って何なんだろう……。才人は知りたいような知りたくないような複雑な気持ちになった。

■4

 シルフィードは風呂の縁に手をついてさめざめと泣いている。  人は確実に来る恐怖に対してはそれを待つ時間にこそ恐怖するんだなぁと才人はしみじみ思った。   「その…何だ、シルフィだって悪気があって邪魔したわけじゃないんだし……」  才人がフォローしてやると、タバサはきっと才人の方を睨んで、それから自分の胸元に目を落とす。  その仕草を見て、才人はピンと来る。あー、この娘も自分のご主人様と一緒か。 胸の大きさなんて、どうしてそんなに気にするんだろうなぁ。  仕方ないな、と微笑ましい気分になる。彼自身が巨乳にデレデレする事実が原因なのだが、 自分のことは棚に上げて考えてしまうのが才人であった。   「ん……ちょっと待ってて」  タバサは不意に何かを思い出したような顔をすると、湯船を出て自分の荷物を置いた所へ行き、 鞄から小さな瓶を取り出して風呂の中へと戻ってきた。   「どうした? 何だ、それ?」  タバサが手に持った小瓶の中には、乳白色の液体が入っている。牛乳…ではないようだ。 「これ、入浴剤。街に寄ったときに見つけたから買ったの。珍しかったから」 「へー、このせか…いや、国にもあるんだ」    ハルケギニアではお湯を張る風呂が一般家庭に普及していないため、 当然入浴剤というものも稀少である。それなりに資産のある貴族しか必要としない。   「学校のお風呂で使うとすぐ無くなっちゃうから……ここで使う。いい?」  どうやら、才人の作った五右衛門風呂で使用するために買ってきてくれたらしい。 「ああ、構わないぜ」  才人はそれなら、とすぐに了承する。  タバサは小瓶の蓋を開けると、数滴ぽたぽたと湯船に落としてまた蓋を閉めた。  それっぽっちでいいのか?と才人が思っていると、あっというまに湯が乳白色に染まる。   「なるほど、入浴剤も魔法薬の類なのか…」 「わぁわぁ、真っ白ー! 面白いのねー」  さっきまでこの世の終わりみたいな顔をしていたシルフィードが、急に色が変わったお湯に感激して はしゃぎ始めた。お湯を両手で掬っては、手のひらの間から垂らしたりしている。  その様子を見て、才人は気付いた。お湯が白く染まったため、お湯の中のシルフィードの体が ほとんど見えない。  ちょっと残念ではあるが、タバサはこれを期待して急に入浴剤を持ってきたのだろう。  そう考えると、才人は何だか微笑ましくなった。   「なんだかちょっとぬるぬるするのね」 「言われてみればそうだな」  お湯にぬめり気が出る入浴剤のようだ。マッサージローションなどを体に塗ると こんな感じになるのだろうか。  風呂の縁に背中をもたれかけると、そのまま滑って湯の中に沈んでしまいそうになる。   「ひゃっ…!」  などと考えていたら、小柄なタバサが滑ってお湯の中に頭まで浸かってしまった。 「おい、大丈夫か?」  慌てて引き上げようとするが、手を掴んでもつるっと滑ってうまく持ち上がらない。   「おいおい、まずいぞこれ欠陥商品じゃないのか…!?」  仕方なしに、タバサの背中にまで手をまわして、ぐいっと引き上げる。 ようやくタバサの顔がお湯の外に出て一安心するも、今度は才人が滑って風呂の縁に もたれかかる格好になってしまった。   「いくらなんでも滑りすぎだな、この入浴剤。水飲んでないかタバサ?」 「え……あ、うん…大丈夫…」    と、そこで気付く。今現在才人とタバサがとっている格好。  湯船に座り込む形になった才人の上にタバサがのしかかって、その背中を才人は抱いて。 タバサの手は才人の胸に添えられて、二人の足は絡んで、すぐ前に顔を合わせた状態。  ……端から見たら、どうみても真っ最中です。本当にありがとうございました。   ■5   「あーっ! シルフィの見てる前でっ! はしたないの! けだものなのねっ!」  胸より下は濁り湯に隠れて見えないため、シルフィードは誤解して騒ぎ立てる。   「ば、ばかっ! してない! してないから!」 「やってるとこを見られた人はみんなそう言うのね」 「ちがーう!」  才人はすぐにタバサを離そうとするが、下手に動くとまた滑って転ぶことになるためままならない。   「だめ、サイト、動かないで」 「いやそういうわけにも…」  ぬるっ。タバサの背中に回した才人の手が滑って、落っこちそうになる。タバサの頬が才人の胸にぶつかる。 このままじゃまずい、と才人が手をさらに下に伸ばし――。タバサの体を捕まえた。    ……才人の両手が捕まえたのは、とてつもなく甘美な感触。ただでさえ柔らかく、暖かく、すべすべであるのに、 それが入浴剤の効果でつるつるのぬるぬるになっている。  さらに、滑るお湯のおかげで強く掴んでも傷つけたり痛がらせてしまうことはない。 さらにさらに、力一杯掴んでタバサの体を引き留めなければならないという大義名分が存在する。    まさに、今、このシチュエーションでしか味わえない、奇跡の果実。  才人は直感的に、それを白桜桃(ホワイトチェリー)と命名した。才人の手の中にしか存在しない幻想の果実である。    というか、ぶっちゃけた話タバサのお尻である。

「ふぁっ…!」 「ご、ごめん!!」  謝っても、どうしようもない。放したらタバサは水中へとドボンである。 いや、仮に放しても大丈夫だとしても、この禁断の果実を手放すことなどできるだろうか。  あまり成長していない小さなお尻。だからこそ張りが素晴らしい。だからこそ精一杯掴まないと滑り落ちてしまう。 日本人が桜を愛するのはそれが儚く散ってしまうからだというが、この白桜桃もそれに通じるところがある。    ……なんて、馬鹿なこと考えてる場合じゃないよな。   「悪い、じゃ、こうして…」  才人がタバサの体を引っかけるのではなく、タバサが才人の体に引っかかればよいのである。  才人は自分の足をタバサの足の間へ持って行くと、膝を折りたたんでその上にタバサを乗せる格好にした。   「よし、これにて一件落着!」  才人は名残惜しさを感じながらも白桜桃から手を離し、額に浮かんだ汗を拭った。 そして、己の太股に白桜桃を超える甘美な果実が乗っていることに気付き、固まった。    現在、タバサさんは、才人くんの太股の上に、跨っています。   「ん……だめ…」  身長差のあるタバサは、頬を才人の胸につけたまま、ぎゅっとしがみついてくる。 それでもその手と体はぬるりと滑り、湯の中に落ちまいと全身をもじもじ揺する。  そうすると、タバサの胸とは才人の体に擦りつけられ、腰は才人の太股の上で踊る。 さらに全身を震わせることになり、体が滑り落ちそうになるという悪循環。   「やぁ……ん、ふ……サイト、サイト……」  これは専門用語で泡踊りとかタワシ洗いというもの? いや、タバサは下の毛が無いからタワシではない? 自分の体の上で悶える少女の愛らしさといやらしさとその感触の良さに頭が沸騰し、妙な思考が浮かんでくる。  才人はごくりと唾を飲み込むと、膝を軽く揺すってみた。

■6

「ひぁっ…! あ、んぁっ…!!」  タバサが一際甘い悲鳴を上げ、その体を強ばらせる。 お湯の中でも、タバサのそこが熱くとろけかけているのがわかった。  こんな姿を見せられて、才人の衝動にも火がつかないはずがない。   「タバサ……気持ちいい? ひょっとして、こういう使い方できるのを知っててこの入浴剤買ってきたのか?」  才人の口から、自分でも驚くくらいの意地悪な台詞が零れる。   「ちがっ…! あ、は…ちがうの、こんなの、知らなかったのっ……!」 「ほんとに? 使うとどんなお湯になるのか、聞かないで買ったの?」  つつー、とタバサの背中に手を回し、背筋を撫で上げる。指先がつるつる滑るのを最大限に生かし、 首筋から頬、耳の裏までをくすぐるように愛撫する。

「やめ……あっ、あっ、や、ひゃうぅっ…!!」  背中を仰け反らせ、喉を震わせて嬌声を上げるタバサは、才人の質問に答えることができない。  「知ってたのね。お姉さま、この魔法薬の説明聞いて、ちょっと頬を赤らめてたのね」  弁明することもままならないタバサの代わりに、蚊帳の外にいたシルフィードが、ここぞとばかりに暴露する。   「シルフィ…!!」 「ぬるぬるするお湯になるー、ってことだけ聞いて、いやらしいことに使えそうだって想像できるなんて、 お姉さまこそいやらしい人なのねー。むっつりさんなのね。きゅい♪」  お仕置きされることが決定して開き直ったのか、シルフィードはタバサの後ろに回り込み、胸に手を回す。   「あはっ、面白いの。お姉さまのかたーくなったお胸の先っぽ、指で摘むとつるってすり抜けるの♪」 「やぁ……シルフィ、やめなさいっ、やめっ……んぅっ!」  タバサは唇を噛みしめ、全身に襲ってくる刺激に耐える。雪のようだった肌は既に赤く火照り、 人形のような顔立ちは官能の火にとけている。  普段のタバサを知るものなら目を疑うような、あまりにも淫靡な姿。   「サイト、いやらしい事を期待してたお姉さまに、お望み通りいやらしいことしてあげましょうなの。 こんなにちっちゃい体なのに、ほんとにいけないお姉さまなのねー」  ちゅ、とシルフィードはタバサの頬にキスする。   「おっけ、じゃタバサ。思いっきり気持ちよくしてやるからな」 「そんなっ、やだ……サイト、シルフィ、やめっ…!」 「やめませんなのー。きゅい♪」    シルフィはタバサの首筋に軽く歯を立て、左手を胸に回しながら、右手をタバサの腰に持って行った。  まさか――!とタバサが身をすくめた瞬間、シルフィの右手の指はタバサの尻たぶを割り、 後ろの門に滑り込んだ。   「あっ、あっあ……嘘、やぁ……!」 「んふふー♪ よく滑るから簡単に入っちゃったのね」 「じゃ、俺はこっちな」    才人はタバサの体を持ち上げると、その唇に唇を合わせる。 舌を差し入れ、その体から力が僅かに抜けた時を狙って、右手をタバサの股座に持って行く。   熱くほぐれたタバサの割れ目は、後ろよりもずっと楽に才人の指を迎え入れた。  ただでさえ狭いタバサの入り口が、才人をきゅうきゅうと締め付け、吸い付いてくる。   「あはっ、やっぱりサイトの指の方が美味しいみたいなのね。ちょっとジェラシーなの」 「俺だけじゃこんなにはならないぜ。シルフィと一緒にしてるからだろ」  タバサが強すぎる刺激に体を痙攣させ、かはっ、と喉奥から声にならない声を漏らす。  才人とシルフィードの目が合い、怪しいアイコンタクトが交わされた。即席コンビネーションである。   「ひっ……あ、ああぁぁぁーーっ!!!」    才人とシルフィードの同時責めに、タバサはあっという間に登り詰め、そのままかなりの時間 降りてくることを許されなかった。

■7

「そ、そんなに睨むなよ……」    気をやりすぎてぐったりとしてしまった状態からようやく持ち直した後、タバサは口まで湯船に沈めて 才人とシルフィードに恨みがましげな視線を送り続けていた。   「そうなのね。あんなに気持ちよさそうだったのにどうして怒るのかわからないのね。 ふふ、可愛かったぜ……なのね」  タバコをふかすジェスチャーをしながら、シルフィードは余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべる。  後でされるお仕置きのことをすっかり忘れているようだが、どんな内容になることやらと想像して 才人は少しせつなくなった。   「んー、それよりも、シルフィとサイトはまだ満足してないのね。二人でする?」  シルフィードは才人の方を見て、屈託無く笑う。   「だめ」  タバサはやっと浮かんできて、シルフィの提案にダメ出しをした。 「だめって、ひどいのね。お姉さまは自分だけ気持ちよければいい人なの?」  「わたしもいっしょにする」 「そんなにへろへろの状態で、無茶なのねー」  と、使い魔とその主人の間柄とは思えない言い争いをしていると。   「馬鹿犬ーっ! いつになったら帰ってくるのよー!」  才人にとってのご主人様。ルイズの怒気にまみれた声がヴェストリ広場に響き渡った。   「あ、ミス・ヴァリエールの声なのね。いつも怒ってばかりで可哀想なのね」 「やば、長湯しすぎちまった……?」  平然としているシルフィードの横で、才人がぎくっと身をすくませる。  そこで湯船の中の青髪の少女二人に目をやり、顔面蒼白になった。    風呂から帰ってこない→ご主人様を怒らせた →風呂から帰ってこない原因は別の女としっぽり入浴中だったから→\(^o^)/

 ガタガタと震えはじめた才人を見て、タバサはため息をつくのと同時に、 何かを思いついたようだった。   「……ルイズにばれないようにしたら、後で言うこと聞いてくれる?」  小声で、タバサは才人に囁く。 「そうしてくれるなら願ったりだけど……もう、無理だろ。 あと何秒かでルイズここに来るぜ……あはは……」    乾いた笑い声を上げる才人を尻目に、タバサは「任せて」と呟いた。 すぐにルイズが風呂釜の前に到着して、才人を見上げた。   「いつまでお風呂に入ってるのよ! いい加減にしなさいよね……くしゅん!」  見れば、カーディガンを羽織ったその肩は細かく震えている。どうしてだろう?  あぁ、でもそんなこと考えてる時間無い。 もう気付く。タバサとシルフィードに気付く。そんでお仕置きされる…!   「あ、ああああのルイズ、これはだな……」 「これはって何よ?」  …あれ? ルイズの反応が小さい。  才人が恐る恐る後ろを見ると、湯船の中にいるのは才人一人だった。   「あら、あらら?」 「何ヘンな顔してるの。もういいわ。わたし湯冷めしちゃったんだから、そのお風呂を使わせなさい」  才人が首を傾げていると、その場にもうひとつ足音が迫ってくる。   「サイトさんっ! ああ良かった、まだお風呂の最中だったんですね。 わたしも使わせてくださいな…あれ?」  寝間着やタオルが入ったカゴを下げてきたのは、シエスタ。 そこでルイズの姿をみつけて、怪訝そうな顔になった。

 ……どうやら、まだお風呂騒動は終わりそうにないらしかった。

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