※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

683 名前:1/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:42:02 ID:wovT7SyO  空を舞う優美な曲線。

「すげーなぁ……」

 うっとりと地球上には存在しない生物『竜』を見上げるサイトの目には、  畏敬の念が溢れていた。

「何が凄いの?」 「いや……こいつさ……飛ぶし喋るし……凄い生き物だなーって」

 耳まで良いらしいシルフィードは、

『もっと誉めて、もっと誉めて!! きゅいきゅい』

 逃避行の途中で、喋る事を再度禁じられたシルフィードが、態度でそう示した。

 喋る事が出来る。  皆にそれがばれていると知ったタバサは、小一時間ほどシルフィードの頭を無言で突付き続けた。

「誉めると調子に乗る」 「いや……でもさ……」 「禁止」

 シルフィードは空から、タバサとサイトは陸から。  偵察の帰途で、暫く危険は無さそうだと判断した二人はルイズ達の元に急いでいたが、  無言でいる事に堪えられなくなったサイトが空を見上げ、  今まで興味は有ったが聞けなかった事を、隣のタバサにぶつけていた。

「俺の地元じゃさ……『竜』って伝説の生き物なんだ」 「普通の飛竜も?」 「あぁ……いねーな」

 始めて聞くサイトの故郷の話に、興味を持ったらしいタバサが、  じっとサイトを見つめる。

「そうだな……例えば……さ……」 「はい」

 二人の話は何時までも帰ってこないことを心配した、ルイズの差し向けたギーシュとマリコルヌが迎えに来るまで、  いつまでも続いていた。

684 名前:2/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:42:51 ID:wovT7SyO 「む……むむむむむ……むぅ……」 「不気味だから止めてくれないか? マリコルヌ」

 周りを警戒しながら進む旅は遅々として進まず、日によっては野宿する事もあった。

「気にならないのか? ギーシュ」 「何が?」

 夜は交代で眠って、怪しい人物が近づいてこないか注意する。  キュルケの発案だったが、もちろん彼女は夢の中。

『夜更かしは乙女の敵よ?』

 以上の理由で、この仕事は自動的に男性陣の役目になった。  最初の当番だったマリコルヌに交代を告げに来たギーシュが目にしたのは、  回りも見ずにじっと地面を見つめながら唸るマリコルヌで……

「ちゃんと見張ってないと、後で怒られるぞ?」

 キュルケは怖い。

「いや、それ所じゃないだろ?」 「なにが?」 「サイトの話を聞いただろう! 竜の血だよ!!」

 タバサとサイトを迎えに行く途中、風の乗って聞こえてきた不思議な話。

『俺の故郷の伝説でさ、竜の血を浴びたものは不死身の英雄になるって……』

 他にも色々な話が聞こえてきたが、マリコルヌの印象に強く残ったのはそれだった。

「サイトも……きっと、サイトも竜の血を……」 「……いや……しかし……落ち着けよマリコルヌ、そんな筈は無いだろう」 「しかしっ! ギーシュ、現実を見たまえよ、サイトはモテモテで……」 「……確かに」

 見張りの間中マリコルヌの頭には、シルフィードの血を浴びて……

「英雄になれば……英雄になれば……」

 マリコルヌの脳内では、下級生に囲まれた自分がちやほやされていた。  それはまるで、平行世界で確かに有り得る様なリアリティだった。

「……英雄になれば……」

 ギーシュには、国を出てからずっと続く心配があった。  今のままの自分は、王家に対する反逆者で、きっと実家にも迷惑を掛けている。

 どちらとも無く立ち上がった二人は、何も言わずに眠るシルフィードを探し始める。

 ……起きているのは彼ら二人だけで……

 …………止めてくれるものは誰も居なかった。

685 名前:3/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:43:48 ID:wovT7SyO 「きゅーくつなの、きゅーくつなの、きゅいきゅい」

 竜の姿だと遠くからでも発見されやすいから。  そう言って、タバサは野営中は人の姿になる事を強要した。

「おねーさまはわがままなのっ、きゅいきゅい」

 でも、そこがいいのー  心配事が減って、前より笑うようになったタバサを思い浮かべるだけで、  シルフィードの顔は綻んだ。

「おねーさまがもっと頑張って、サイトに優しくしてあげたら、きっとイチコロなの」

 タバサが他の人と仲良くるのは、ほんの少し寂しいけれど。

「もっと、おねーさまの笑顔が見たいの……きゅい」

 いつもはタバサと並んで寝ていたけれど、今日はタバサをルイズとサイトに押し付けてきた。

「サイトは昼間誉めてくれたから、おれ〜なの〜」

 二人の邪魔にならないように……タバサなら一人で眠ろうとするだろうけれど、

「今日は無理なのー」

 サイトとルイズの所に向かう途中、たっぷりと怪談をタバサに聞かせた。  一人で寝るどころか、サイトとルイズの側を離れることも覚束ないだろう。

「おねーさまは、もうちょっと我侭になるべきなの、きゅいきゅい」

 桃色髪をもっと見習うべきなの。  そんな事を考えながら、シルフィードは一人夜の森を見つめていた。

 人間ならば真っ暗な森は恐怖の対象なのだろうが、

「静かで良い夜なの」

 彼女は竜だった。  彼女にとっての脅威などこの辺りには一切無く、その所為で知らず知らずのうちに森の奥に入り込みすぎていた。

「……あれ?」

 そんなシルフィードの目に、見覚えのある影がゆっくり近づいてくるのが写った。

686 名前:4/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:44:44 ID:wovT7SyO 「あー、ギーシュさま」

 隠れていた筈なのに、あっさりと見破られた二人が杖を握ったまま、  シルフィードの前に現れた。

「どーしたの? 何か有ったの? でも今日はおねーさまの邪魔しちゃだめ! きゅいきゅい」

 見張りの二人が来た事で、シルフィードは不安に成った。  折角サイトとおねーさまを仲良くしている途中なのに。  シルフィードにとって一番大切な事が邪魔されるのかと、  どきどきしながら質問した。

「……いや……なにもない」 「あ、丸いのだ。あれ? でもじゃあ何で来たの?」 「……マリコルヌ……だよ、シルフィード」

 暗い目で美しい女の姿をとっている『竜』を見つめながら、  マリコルヌは杖を握る手に力を込める。

「立派な墓を立ててやる……」 「きゅい?」

 まったく警戒しないシルフィードに、悪人に成り切れない二人はかえって手が下せない。

「……っち」

 舌打ちしたギーシュが地面に杖を向けると、いつかサイトに渡した剣が錬成された。

「……魔法は……詠唱が要るけど……これなら……」

 決心し、思い切って振り下ろすだけ。  魔法で怪我をさせるよりも、ずっと容易い事に思えた。

「この……先を……ほんの少しだけ……」 「きゅい?」

 シルフィードの細い首から、視線を外さずギーシュは呟いた。

「先を、ほんの少し埋め込むだけで……血……が……」 「……ギーシュ……さま?」

 どこか鈍いシルフィードも、二人の様子がおかしい事に気付き始めた。

687 名前:5/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:45:51 ID:wovT7SyO  ……んー、でもでも、ギーシュさまも丸いのも、おねーさまのお友達だし。  こんな夜中に自分を訪ねてきたことに何か理由が有るのよね?

 そう思ったシルフィードは、じっと二人の行動を待った。

「……ギ、ギーシュ早くしろよ」 「っ、き、君がやればいいだろうっ」 「そ、そんなっ……」

 帰る場所の無い緊張感や、現状に対する不満が、見張りによる睡眠不足で加速されていた二人だったが、  一切邪気の無いシルフィードの瞳で見つめられる事で、急速に自分を取り戻していった。

「……や、止める……か?」 「そ、そうだよなっ!」 「きゅい?」

 こうしてシルフィードは一切事態を把握しないまま、

「シ、シルフィード、野営地から離れすぎているから僕たちが送ろう」 「そ、そうだよ、女の子が一人でこんな所に居たら危ない」 「うんっ、ありがとーなのー、きゅいきゅい」

 暢気なシルフィードが、二人に連れられるまま野営地に戻ると、

「居たっ……」

 人目を忍んでいた筈なのに煌々と明かりが灯されて、眠っていた筈のタバサも、サイトも、ルイズも、  キュルケや、モンモランシーでさえ起き出していた。

「あれ? どーしたの? おねーさま」 「一人でどこに行ってたの?」

 駆け寄ったタバサは、シルフィードを睨みながら短い言葉をぶつけた。

「えと……森の奥の方に」 「心配……したっ」 「……ご、ごめんなさい」

 シルフィードの不在に気が付いたタバサが、サイトやルイズのみならず、全員を起こして辺りの捜索を始めていた。

「もうしない?」 「はい、おねーさまっ!」

 心配してくれた事を悟った、シルフィードはニコニコとタバサに抱きついた。  そんなシルフィードを何時もの様にどかしたりせずに甘えさせたまま、  タバサはギーシュとマリコルヌに頭を下げた。

「ありがとう」

 そんなタバサを、サイトもルイズもキュルケもモンモランシーも、  皆で暖かく見つめている。

688 名前:6/6[sage] 投稿日:2007/05/24(木) 01:47:04 ID:wovT7SyO 『『言えません 襲うつもりで 探したとっ』』      ――ギーシュとマリコルヌ、二人の心の川柳。

「いや、気にしないでくれたまえ、見張りとして当然さっ」 「いやいや、まったくだ」

 謙遜するギーシュを、モンモランシーは誇らしげに見つめていた。   『その目を……その目をヤメテェェェェ』

 ギーシュの心は結構重傷だ。

『……ぼ、僕は?』

 マリコルヌも傷ついた。

 ともあれ、全ては丸く……

「ねーねー、おねーさま、『ハカ』ってなに?」 「? どこで聞いたの?」

 ギーシュとマリコルヌは思わず首を竦めていた。  そんな二人に気付かず、皆はシルフィードの話に聞き入っている。

「んとね、森の奥でギーシュさま達が……『立派なハカ』って」 「「「???」」」 「あと、先っちょだけとか。 ギーシュさまと丸いので順番争ったりとか」 「えと……」 「あとあと、『血……』とか……言ってたの〜きゅいきゅい」

 静かな森の空気が凍りついた。

「まさか……『破瓜』?」 「? だからだからっ、ハカって言ってたの〜、あと血とか、早くしろとか、君がやれとか」

『『ちょっ、まぁぁぁ、その言い方はぁぁぁぁぁ』』

 ギーシュとマリコルヌは言葉に成らない絶叫を上げるが、本当の事は更に言えなかった。

「……とりあえず」

 風と水が静かに杖を構え、怯える土と風に向き直る。

「「しんぢゃえぇぇぇぇ」」

 お前ら、人目忍んでるんじゃなかったのか?  いつまでも続く少年二人の悲鳴は、後日この周辺の怪談になったらしいが……

 それはまた、別のお話。