ゼロの保管庫 別館

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だれでも歓迎! 編集

「サイトの、いっちばん大切にしてるものをちょうだい」  ルイズはサイトを正面から見つめて言った。  明日はサイトが地球に帰る日。別れの、最後の思い出にというわけだ。例のボロパーカーはとっくにルイズにあげてしまっている。デルフは小さく震えて言った。 「相棒、俺をお前に買ったのって嬢ちゃんだろが」  サイトはそっか、と言ってデルフに伸ばしかけた手を止める。改めて荷物を見回すと、こちらに来たときに持っていたノートパソコンが目に入った。初めて会った日、ルイズに異世界から来たと納得させた品。サイトは丁寧にパソコンを手にとると、黙ってルイズに手渡した。ルイズはパソコンを抱きしめ、小さな声で「大事にする」と呟いて顔を背けた。  なぜか、その日ルイズはサイトに手も触れなかった。

「やっぱ、来ないのか」  異世界への扉の前。この世界に来たときの荷物にデルフリンガーのみを加えた格好でサイトは周りを見回す。シエスタはぐずぐずと泣きながら毒つく。 「意地っ張りも限度ってものがあるはずです!ミス・ヴァリエールは馬鹿です大馬鹿です!」  サイトはシエスタの剣幕におののきながらもう一度全員を見回した。と、後ろからタバサが大きな荷物をシルフィードに背負わせて現れた。 「お土産」  サイトは、はあ、と呆けた返事を返す。タバサはがんじがらめに縛ったその荷物をサイトに預けて言った。 「ルイズが、別れのお返しって。ルイズは、包装できないから、私が荷造りした」 「あ……ありがとう」  タバサは普段より冷たい声でさらに言った。 「サイトが、一番喜ぶもの、これしかないから。悔しいけど」 「悔しい?」  聞き返すとタバサは少し頬を赤らめて毒つくように言う。 「着いたらすぐに開けて。腐ると危ないから」  何だかよくわからないが、サイトはうなずいて扉に向かった。虚無の力で作った門。そこを通れるのは異世界から来た者と、それに伴うもののみだ。ルイズのいない見送りの声を背にサイトは扉をくぐった。

 強烈な光から飛び出すと、そこは喧騒の中だった。店の装いや看板は変わったが、それでも見慣れた秋葉原の街並み。 「帰ってきたんだ……俺、地球に帰って来たんだ!」  思わず叫んでから慌てて首を引っ込める。幸いアキバだったおかげか、ちょっとイッたオタクと思われただけのようだ。 「よう相棒、荷物、ほどかなくていいのかい?」  言われてサイトは荷物を背負って店と店の小路に入り、どさりと荷物を落とした。何かごぎゅっ、と変な音がした気もするが、タバサのことだ壊れやすいものを入れるような不注意はないだろう。  隣りの店では「すももももももフェア」の旗がはためいていた。旗に描かれた桃色の髪の少女を見て、サイトは涙ぐみそうになる。 「あの馬鹿意地っ張り……」  気を取り直してサイトはデルフで荷物の縄を解いて袋の口を開けて中を覗き込んだ。中には桃色のふわふわしたものが入っている。お土産が動いた。涙を溜めた勝気な目が、黒いオーラを発しながら見上げて叫んだ。 「犬ーっ!早く開けなさいって言ったでしょーっ!お土産を投げ出すなんてどういう神経してんのよこの馬鹿犬!」 「ってか何でルイズお前っ!」 「サイトからいっちばん大切なものを貰ったんだから、私だってお返ししなきゃラ・ヴァリエールの名が泣くわ!だから私の、その」  ルイズは言いよどんで目を逸らし、改めてきっ、と顔を上げた。そしてルイズが口を開いたと同時に「すももももももフェア」の店員が店頭のラジカセのボリュームを最大にあげた。 「私をサイトにあげる!」「♪子っ作っりしっまっしょっ♪」  サイトは一瞬呆けて、そして呟く。 「ルイズが、俺に全部くれて、子作り……」 「子作り違う!先に結婚式!だって私もう……」  ルイズは袋から這い出してサイトに飛びつく。それはいつも見慣れた魔法学院の制服でも普通のドレスでもなく、純白のドレス。トリステイン式のウエディングドレス姿だった。 「サイトぉ、私この世界で一人ぼっちなんだから、早く……もらって」  サイトはルイズをぎゅっと抱きしめる。目を閉じたルイズにそっと口付ける。ルイズの舌がサイトの口内を侵す。 「でもやっぱり、サイトの赤ちゃん欲しいな」  ルイズは恥ずかしげにサイトの手を控えめな胸に導き、いつも蹴っていたサイトの股間をそっと優しく撫でた。

 後にルイズが住人を指して、アキバを「マリコルヌ・シティ」と呼ぶようになったのは別の話。

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