ゼロの保管庫 別館

22-601

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だれでも歓迎! 編集

(まだシエスタが才人のお付になる前の話。)

すぅー…すぅー…

眠りに入る前の不定期な呼吸から定期的な呼吸へと変わる。 ルイズはその事を確認し、うっすらと目を開ける。 寝る時は気恥ずかしさからか、隣の使い魔に背を向けて寝ているが… 先に向こうが違う世界へ旅立った時は自分のやりたい様にさせてもらっている。 既に何回か肌を重ねたはずなのに、未だに気恥ずかしさが消えないからだ。

ここ最近、ルイズはお隣が寝静まった後に同じような事をしている。 そこから学んだ事は、この犬はちょっとやそっとの衝撃では起きる事が無いという事。 しかし、今日は運が良い。普段なら両者ともに背を向けあっているために 一度身体をルイズの方へ倒さないといけないのだが、その日の犬はすでに寝返りを打っていた。

ご、ご主人様より先に眠るなんてぇ〜っ! と、頭で思っていても顔は全く逆の思考を考えているようで… とりあえず、使い魔の腕を伸ばし自分の枕にする。最近のお気に入りだ。

女の自分とは全く肉付きが違う腕、ゴツゴツしていて枕になんてとても向いた物ではない。 しかし…その腕に桃色がかった頭を乗せてしまうとこの世のどの枕よりも寝心地が良い。 こんな事で悦に入る自分を最初は嘆いた。それも大いに嘆いた。

あた、あたしがこいつの腕で寝る必要なんて、まま全くないのよ!そ、そうよ!こいつがそうしたがってそうだからなのよ!

自分で身体の向きと腕の方向を変えておいてどの口がその台詞をしゃべるのか その問題を解いた時、きっとその解答者と犬は消し炭になるだろう……

話はズレたが、桃色は数日前の自分の行いを全く忘れている。 いや、正確には忘れてはおらず今の行為に耽っているだけなのだが… ただ、「耽っている」とは言えそんな邪な事をしている訳ではない。 伸ばした使い魔の腕に煩悩を抱え込んだ頭を乗せ、深呼吸をする。

たったそれだけ。 それだけの行為が、どうしようもなく止められないのだ。 一度深呼吸をすれば、石鹸の匂いと才人自身の匂い。その混合物が肺を覆う。 その混合物がまるで麻薬の一種でもあるかの様に、ルイズの頭に桃色の霞を広げていく。

うぅー…さいとのにおいぃ…もっとぉ…

顔はすっかり緩みきって普段の彼女ならば見せないようなアホ面…もといニヤケ面であった。 今の匂いに慣れてしまったのか、彼女の頭は更なる強い匂いを求めていた。

地球にいれば決してお目にかかる事が無いハルケギニアの双月は昨日と変わる事の無い柔らかな光を 地上へと降り注ぎ、人はその恩恵に預かる。 それはここ、トリステイン魔法学院も例外ではなく学生が寝泊りする寮にも注がれている。

もちろん、桃色能天気とその下僕が寝泊りする部屋にも… その月明かりを頼りに、才人との距離を縮めていく。 二の腕あたりに居た桃色の髪の塊は徐々にその位置を肩の付け根と動いていった。

頭を動かす度に鼓動が早く大きくなった。 まるで、今この部屋に誰か居れば自分の鼓動が聞こえるんじゃないかと思うくらいの。 丁度、頭は肩の付け根より少し下あたりにやってきた。 目の前には胸板、前髪には才人の鼻息が少しかかっている。 自分と同じような構造の、それでいて作りが全く違う胸板にそっと触れてみる。 鼓動の速さ、硬さ、その他諸々正反対。 何回も触っているはずなのに、触る度に新しい発見がある気がする。

ピタピタと触っていると、急に使い魔が動き始めた。 ビクッと身体を強張らせて様子を伺ったが、なんて事は無い。少しの寝苦しさを感じただけだろう。 そう思ったのがルイズの間違いで、余った手がそのままルイズの背中へと回され自身は胸板へと押し込まれた。

普通の人なら苦しいと思うべきだろう。寝ているとはいえ、いや寝ているからこそ力加減は普段とは違う。 しかし、その中でルイズは一種の恍惚状態に陥っていた。

さいとが……ちかいぃぃ…んぅ……これ、いい……

にへらーと頭のネジが数本飛んでしまったような顔を浮かべ、嬉しいトラブルで悦に浸る桃色天然娘。 自分の手の居場所が無くなってしまったので、「仕方なく」才人の首に手を廻す。

あんたがねぇ…犬みたいにこうがっつくからなんだからね!まったくもう…

さながら不審者のようにニヤニヤしながら口ではブツブツと何か呟いている。 不意に、使い魔の口が動いた気がした。 口を噤み、犬の口に視線と注意を送る。

「ぅ…るいず……」

最初は何を言ってるか分からなかったが、分かった瞬間顔が噴火した。

な、ななな何を言ってるのかしらね!?この、っこの犬はっ!?

そんじょそこらのバカップルの様にくっつきながら悪態を付く桃色。 端から見たら滑稽以外の何者でもないが、ここでは双月以外見る輩なぞ無い。

比喩ではなく、真っ赤になった顔を鎮めるべく才人の胸板に顔を沈めた。 心臓が血液を送り出す音が心地良い。

…ね、寝ながらご主人様を呼ぶその心意気だけは…か、か感謝したげるわ! こ、これはその、嬉しいからとかそんなんじゃないのよ!ご主人様なんだから報わなくちゃね!

いつも通りの訳の分からない持論を繰り広げた後、意を決し自分の名を呼ぶ唇を閉ざさせた。 もちろん、使ったのは自分の唇だ。 空気を通して感じる匂いと、粘膜を通して感じる匂いとでは訳が違う。 その匂いを認識すると、桃色の霞は急速にその範囲を広めゆっくりとルイズの意識を奪っていった……

朝、才人は信じられない光景を目にする。 自分がルイズを抱いている。 しかも、ルイズの手は自分の首へと伸びている。

「これさ…バレたら俺死ぬんじゃね?」

そう呟き終えた瞬間に、ルイズの目がゆっくりと開かれた。

「あ、あああのな、ルイズ。これはな、違うんだ。な?な?」

気だるそうに、その言葉を無視しルイズは開けた時とは比べ物にならないくらい早く目を閉じた。

今日は…虚無の曜日なのよ…バカ犬…

それで分かりなさいよ、といった語気が感じられる。

この後、二人はお楽しみだったとか、そうでないとか。 〜オワリ〜

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