ゼロの保管庫 別館

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167 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】 [sage] 投稿日: 2007/11/25(日) 23:22:22 ID:jO72RQWq トリスティンの王宮内。 サイト、ルイズ、そしてタバサはラグドリアン湖での戦いのあと、 アンリエッタ女王の伝令フクロウにここに呼び出されたのだ。

「ルイズ。報告を感謝します。そして、お二方。今回のガリアの急襲をよく阻止してくれましたね。」 アンリエッタはルイズ、タバサ、サイトをそれぞれ視線を合わせて丁寧に感謝の気持ちを伝えた。 「今夜は、みなさんお疲れでしょうからごゆっくりお休みください。でも明日またこちらに来て頂きます。」 彼女は最後にそう付け加えたのだった。

部屋に戻る途中、ルイズは二人に問い質した。 「ねぇ、サイト。なんであんなとこにガリアの虚無の使い魔がいたの」 「俺に聞かれてもな。偵察かなんかだろ。でも彼女にかなりの深手を負わせちゃったから・・・生きて・・・ないかもな」 サイトの顔が苦悶にゆがんだ。 「大丈夫。あれは本体じゃない。おそらく、スキルニル。」 横からタバサが口を挟んだ。 「でもよ。どっちにしろ傷つけちまったんだ。」 ルイズはため息を一つ漏らして彼を言葉をかける。 「あのままだったら、きっとあんたたちのどっちかが、命を落としていたわ。 そっちよりか全然ましだわ――勝手なことしないでよ。また私をひとりにするつもりだったの? そんなのやなんだから」 そう言うと、ルイズは彼の背中にそっと手を添えるのだった。

「じゃ。また明日」 タバサが自分の部屋へと戻っていった。

二人も部屋へと入ると、そのまま崩れるようにベットへ倒れこんだ。 「着替えないのかよ」 「いいわよ。もう面倒、疲れたわ」 「そか」 「サイト――」 ルイズはそう一言零すとサイトの胸の中にもぐりこんできた。 彼は黙って彼女の肩と腰に手を添え、きゅっと抱きすくめてあげた。 「心配したんだからね」 彼女は胸に顔を埋めたままそう言った。彼女の耳は真っ赤になっている。 サイトは肩に添えていた手を離して、小さくしゃくりあげる彼女の頭をなでた。

「ごめん」 その言葉にルイズはこくりと頷き、小さな手を彼の背中に回してぎゅっと抱きしめた。 その晩、サイトは彼女のすすり泣きが寝息に変わるまで、頭をなで続けたのだった。 254 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23:30:16 ID:v/QMcuLR 翌朝。ルイズ、タバサ、サイトの三人は、アンリエッタのところへ向かった。

女王の執務室には、彼女のほかにマザリーニ枢機卿も居た。 三人が入るなり、枢機卿が口を開いた。 「先般のガリアの急襲においては、お二人のシュヴァリエが居合わせなければ、 ここも危うかったことだった。お見事でしたな。」 枢機卿の言葉を受け、アンリエッタが言葉を繋いだ。 「いささか、急な話かもしれませんが、お二方を新たな位に叙任したいのです。」

まず、彼女はタバサを見た。そして手にした書類を読み上げた。 「タバサ殿――あなたにはトリスティンのシュヴァリエを授与します。」

「え・・・」 意外なことにタバサが戸惑っている。隣に居たサイトを見て聞く。 「どうしたらいいの」 そんな困惑した彼女を前にサイトが言う。 「母親もここにいるんだし、もう向こうに義理立てすることもないんじゃないのか? こっちのシュヴァリエになっちまえば、いくらか動きやすいと思うぞ」

「そう」

そうつぶやくとサイトから視線をはなし、女王に向きなおって、跪いた。 アンリエッタの杖がタバサの肩にそっと添えられる。 「我、トリスティンの女王、アンリエッタ。このものに祝福と騎士たる資格を与えん。 ―――――始祖と我と祖国に、変わらぬ忠誠を誓うか?」

「誓う」

「――――――汝の魂の在り処、その魂が欲するところに忠誠を誓いますか?」

「誓う」

2回目の首肯を受け、アンリエッタは、一旦杖を彼女から離し、高々と掲げた。 「よろしい。始祖ブリミルの御名において、汝をシュヴァリエに叙する。」 女王の杖が彼女の左右の肩を二回ずつ叩いた。 そして、タバサに百合の紋と五芒星の付いたシュヴァリエのマントが渡された。

255 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) 投稿日: 2007/11/29(木) 23:30:52 ID:v/QMcuLR 次にサイトの方を向いて、同じく書類を読み上げる。 彼には女王の目が少しばかり潤んでいるような気がした。 「―――サイトどの。受け取ってください。あなたには男爵の爵位を与えます。」

「え・・・姫さま!?シュ、シュヴァリエどころか男爵って、そんなの――」 ルイズがいつのまにかサイトの隣に来て、彼の袖の端っこをつまんでいた。 「ルイズ。いいのです。彼にはそれだけの資格があるのです。 サイトさん。受けて戴けますね。」 女王の瞳はしっかりとサイトを見つめていた。 彼は彼女の言葉の裏に何かひっかかるものを感じたが、ここはあえて受けることにした。

「分かりました。でも、それだけじゃなさそうですね。俺に何をお望みなんですか?」 彼の確信を突く問いに一瞬、女王と枢機卿が目を合わせる。 「それは、これをお渡ししてからお話します。」 そうアンリエッタは答えると、サイトの胸にきらびやかな勲章を付けたのだった。

そして、今度はマザリーニがサイトとタバサに向かって言った。 「御両名には、明日にもガリアへ潜入して頂きたい。」

ルイズが何か言おうとしたのを遮るようにアンリエッタが彼女の近くに寄って、手をとりあげて言った。 「聞いて頂戴。ルイズ・フランソワーズ。今回の任からは虚無の担い手であるあなたをあえて外します。 もしもガリアにその身が捕らえられたら、今回の任務の意味がなくなってしまうのです。」 ルイズは黙って俯き、唇をかみ締めた。

女王は二人に目を移して、告げるのだった。 「今回の目的は、始祖のオルゴールの奪還です。始祖の御加護がありますように。」 256 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23:31:52 ID:v/QMcuLR サイトとタバサは明日の朝に学院を出立することになった。 ルイズは王宮から帰ってきてから、ずっと黙ってしまって彼と目も合わせようともしない。 サイトはどうしたもんかな。どう声をかけていいやら分からないまま、夜になってしまった。

「なぁルイズ」 沈黙に耐え切れなくなったサイトが口を開いた。 「・・・」 しかし、桃髪のご主人さまは、こちらをちらりと見ただけで、なにも返してくれない。 「なぁって」 彼がもういちど声をかけた。 「・・・」 彼女は、すーっとサイトのそばまでやってきて、彼のパーカーの袖口をキュッとつまんだ。 しかし、やっぱり黙ったままだ。 「明日からしばらく俺居なくなんだぞ。――しばらく会えないんだからよ、こ、声くらい聞かせてくれよ」 サイトはすこし照れながらも彼女にさらに言葉をかけた。 彼のしばらく会えなくなるという言葉に彼の袖口をつまんだ彼女の手に力が入った。 そしてようやく、ルイズの口から言葉がもれた。

「――だったら。だったらなんで行っちゃうのよ」 彼女の鳶色の瞳は上目遣いに彼へ向けられていた。 仕方ないじゃないか。サイトの言葉にかぶさるように彼女は言葉を続ける。 「しばらく離れ離れになっちゃうのが分かってんのに・・・なんで行っちゃうの・・・よ」 彼女のとても悲壮にくれた表情に、サイトは言葉を飲み込んでしまった。 かわりに、彼はそっと彼女の肩に手を伸ばした。

彼の手がルイズの肩に触れた瞬間、彼女の瞳から真珠の粒がこぼれだした。 「ガリアなんかに行っちゃったら。もしかしたら二度と・・・会えなくなっちゃう・・・かもなのに」 彼女は滂沱として流れる涙をぬぐいもせず、そのぬれ続ける瞳でサイトを責めるように見つめる。 「そんなのや。でも。でも。あの子と一緒なのもっとやなんだもん」 そこまでいうと、ルイズはサイトの胸に飛び込んだ。

「やだやだやだ。なんでタバサとなのよ。せめてなんでキュルケとかじゃないのよ」 「おおい。キュルケもまずいだろ。ふつうに」 彼は彼女にぽすぽすと胸を叩かれながら今の物言いにつっこんだ。

「きゅ、キュルケは大丈夫なんだもん。センセイがいるんだから」 コルベール先生って。日本だったら十分まずいぞ。それも。今度は心の中でつっこむ。 泣きじゃくるご主人さまにサイトは言った。 「俺もおまえの見えるものが見える。聞こえたものも聞こえる。湖の戦いでそうなっただろ。ルイズも」

彼はルイズの背中をさすって、言葉を繋ぐ。 「―――俺とおまえは見えない絆で繋がってるんだ。距離なんて関係ないよ」 そしてサイトは彼女の背中に両手を回していつもより少し強めに抱きしめた。 「いつも一緒だ。だから待ってろ」 まだしゃくり上げるルイズだったが、彼女の左右の手もサイトの腰に回してキュッと抱きつくのだった。

「タバサとなにかあったら許さないんだから」 「ないない。なんにもないから。指輪あげたろ?少しは信じてくれって」 その言葉に彼女は、自分の薬指にはめてもらった紺碧の石の指輪が温かく感じられた。 「わ、わかったわよ。今回だけは信じてあげることにするわ」 彼に見えないようにルイズは紅色に染まったほほを緩ませるのだった。 257 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23:32:43 ID:v/QMcuLR 次の日の朝早く、ルイズの部屋を訪れる者がいた。 ルイズ自らが扉を開けた。目の前には青髪の少女。タバサがいた。 ルイズは黙ったままタバサの碧眼を睨みつけた。

「タバサ、あんたほんとに行くんだ。」 こくり。彼女が首を縦に振る。 ギリッ。ルイズは歯を噛みしめ、次の言葉を放つ。 「わたしのサイトと一緒に行くんだ。」 「そう」 グッ。ルイズは両拳を握り締め、腰にあてた。 「――サイトにもしものことがあったら、あんたを絶対許さないんだから!!」 吐き捨てるように言うと、フンッとそっぽを向いてつかつかサイトのそばに行ってしまった。

タバサは眉を寄せて、彼女の背中に向かって答えた。 「サイトは必ず守る。絶対に死なせはしない」 そんな二人をサイトはきょろきょろと落ち着きなく見ていたのだった。

「それじゃ、ルイズ行ってくる」 そう言う彼の胸元にぽすんとルイズはおでこをぶつけて、両手でぎゅっとパーカを握り締めた。 一秒でも早く、戻って来てよ。命令なんだからね。彼女が小さな声で彼につぶやいた。

ルイズは外まで二人を見送りはしなかった。部屋のドアの前で二人の背中を見送ったのだ。 だんだん小さくなる二人の背中をずっと追い続けるなんて、彼女には我慢できないのだった。 ルイズは閉められたドアをしばらく見つめていた。唇をかみしめて・・・

そして、思いつめたようにベットに突っ伏して。涙したのだった。

学院の建屋から外に出たサイトとタバサは、彼女の使い魔を呼び寄せた。 「きゅいきゅい。どーこーに゛っ・・・」 ゴスン。タバサの杖が振り下ろされた。 ぃたいのね。シルフィードは膨れっ面で、自分の主人を睨んだ。

黙る。低い声でシルフィをタバサが一喝する。 乗って。サイトにそう言うと、彼女は先にシルフィの背に乗っかり彼に向かって手を差し伸べた。 彼の手を握ると細身からは想像つかない力で彼を引っ張り込んだのだった。

ガリアへ。 彼女はシルフィにそう伝えた。 大きな翼が広がって空気を包み込むように二、三度羽ばたくとふわりと空へと舞い上がった。 みるみるルイズを残した学院が小さくなっていく。 サイトは残した想いを振り切るかのようにこれから向かう先へと目を向けた。

サイトはわたしが必ず守る。タバサは杖をぎゅっと抱きしめてひとりつぶやくのだった。

学院の火の塔に、真っ赤な髪で左の手に真っ赤な石のついた指輪をはめた女の子が、そんな二人を眺めていた。 「ふぅん。タバサもやるじゃない。あのルイズからサイトをもってっちゃうなんて・・・ 今回ばかりはわたしの出番はなさそうねぇ。ちょっとつまんないけど。でもルイズはどうするのかしらね。」 ふふふ。キュルケはいたずらっぽい笑みを湛えるのだった。 258 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23:34:02 ID:v/QMcuLR その日のお昼ころ、シルフィに乗った二人は旧オルレアン公邸に着いた。

シャルロットお嬢さまではありませんか。屋敷から老執事がやってきた。 「ペルスラン。聞きたいことがあるの」 彼女はそう切り出した。

彼は彼女の問いに答えた。 「陛下はこの時期首都のリュティスにはおりません。 東のアーハンブラ城で休暇を楽しまれているはずでございます。」

アーハンブラ城。忘れもしない、かつて彼女が囚われの身となっていた場所なのだった。 彼女もサイトも身体に緊張が走る。 彼は、二人の雰囲気が変わったのに気がついた。 「これは大変失礼しました。あの城は・・・私も年ですな ・・・お嬢さまが連れ去られた城でございましたね。あぁ。なんてことを――」 老執事は汗を拭きながら平身低頭で二人に謝罪の言葉を並べていた。

「いい」 タバサは杖を握りなおし、シルフィに跨ろうとした。 そんな彼女をペルスランが慌てて引き止める。 「おおおお嬢さま。そんなに先を急がなくても・・・今夜はこちらで身体をお安めくださいませ」

そして、ようやく彼はサイトに声をかけたのだった。 「貴方様は・・・シュヴァリエ・サイト殿・・・おおお。男爵になられたのですね。まだお若いとお見受け致しますが・・・ いやいやめでたきことでございます」 サイトの胸の勲章を見て、深々と頭をさげた。 あまりに慇懃なその態度にサイトのほうが困ってしまった。

再び頭を上げたペルスランは、二人に熱心に屋敷に泊まるように勧めた。 彼の言葉になかば説き伏せられて、タバサとサイトは一泊することに決めたのだった。

・・・ ・・・・・・ 一方、ルイズはあれからずっとベットに突っ伏したままであった。 一頻り泣きはらした後、そのまま寝入っていたのだ。

コンコン。誰かが部屋に来たようである。 彼女はぶっきら棒に応対した。 「だれよ。こんなときに」

259 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23:34:53 ID:v/QMcuLR すると、ドアの外から意外な人の声がした。 「モンモランシー?どしたのよ」 ドアを開けるのはいつもサイトの役目だった。けれど今はいない。 そんなちょっとしたことにも、今のルイズの心はチクリと痛むのだった。

ドアを開けると、モンモランシーの代わりににゅっと薔薇の花が目の前に突き出された。 「えっ?!ギーシュもいるわけ?」 さらに意外な人物を前にして、ルイズは目を丸くした。 ギーシュは、前髪をふぁさっとかき上げると、開口一番こう言った。

「副隊長はいないのかい?」 その一言にルイズはカチンと来た。 「あによ。知ってんてしょ。あいつがいないことくらい!なにしにきたのよっ」 そんな彼女の言葉も気にすることもなく、ギーシュは続けた。 「キミをひとり残していったのかい?しかも恋敵(ライバル)と一緒とは・・・彼も隅に置けないなぁ」

パカンっ。ルイズの手が彼に届く前に、彼の後ろからモンモランシーが引っぱたいた。 「あんたばかね。ルイズは、カレが居なくなっちゃって凹んでるのに火に油注いでんじゃない!」 そんなつもりはなかったんだけどなぁ。後ろ頭をさすりながらギーシュがぶつぶつ言った。 「ねぇ、ルイズ。あんた彼がどこに行ったのか知ってるの?」 モンモランシーがルイズに聞いた。 「ガリアとしか姫様からは聞いてないわ」 ルイズは首を横に振って答える。 「サイトは一体誰に会いに行ったんだい」 今度はギーシュが割り込んだ。 「たぶん、ガリア王に会いに行ったんだと思うわ」 それを聞いたギーシュは首をひねって言った。 「たしか、この時期はガリア王は首都にはいないはずさ。東のアーハンブラ城に狩に出かけているよ」 アーハンブラ城。忘れがたい城の名前にルイズの表情が硬くなる。 そんな彼女にギーシュが言葉をかけた。 「恋人は常にそばにいるべきさ。彼の許に行こうじゃないか」 「わたしも一緒よ。みんなの怪我をなおしてあげなきゃね」 彼の背後からひょっこり顔を出してモンモランシーも言葉をかけたのだった。

「みんなって?」 ルイズは二人に問いかける。 ギーシュがなぜか胸を張って答えるのだった。 「ボクはオンディーヌの隊長だよ。ボクが声をかければ連中は付いて来てくれるのさ」 「は、ばっかじゃないの。そんな大勢で行っちゃったらバレバレもいーとこじゃない」 ルイズは目を見開いて声を荒げた。 「ルイズ。決まっているだろう。とびっきりの精鋭を選んであるんだ」 ギーシュはまた前髪をかき上げて、なぜかやっぱり得意そうに胸を張って、そう言い放ったのだった。 344 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20:39:39 ID:50uFwmAl ・・・ ・・・・・・ サイトがガリア王と会っている。だけど、彼は王に向かって剣を構えている。 そばに誰かが倒れていた。 突然、彼の足元の床が消え失せた。 彼は魔法で宙に浮いて、氷の槍を放っている。

彼に向かって王が何かを言った。 彼の目の色が一変する。そして、王に剣先を突き立てんとするようにまっすぐ突っ込んでいく。 王の表情が狡猾な笑みに歪んだ。 王は小さく杖を振るう。

ドスッ!

サイトの背後から土砂でできた槍が襲い、彼の胸を貫いた。 彼は床に崩れ落ち、突進の勢いのまま何メイルか滑ってしまう。 どくどくどく。あっという間に彼の周りに血溜まりが広がっていく。

倒れた彼を王は嘲り笑っていた。

・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・

サイトっ!!!!!

ルイズは自分の発した大きな叫び声で目が覚めた。 全身べっとり汗にまみれてしまっていた。 夢ーーにしては、妙な胸騒ぎがするのだった。

彼女は汗を濡らしたタオルでぬぐい、それから出かける支度を始めた。 一番鳥が鳴く前に本塔前に集合すること。 それがオンディーヌの隊長との約束だ。

まだ外は煌々と二つの月が輝いている。 その月明かりが薄っすらとルイズの部屋に差し込んでいた。

今夜、一人で彼女はそこに眠っていた。 いつもそばにいるはずの彼は居ないのだった。 ひさびさに一人きりで眠るベットの上は、かなり心細かった。 ひざを抱えたりもしたが落ち着かなかった。 結局、彼の匂いのする枕を抱きしめて眠りの世界へいったのだが、 彼が死んでしまう夢を見るなんて。

さっきの夢を思い出してしまい、彼女は震える自分を自分で抱きしめる。

サイト。サイト。サイト・・・ 窓からのぞく月たちを見上げ、ルイズは彼の名前をつぶやき続けた。 345 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20:41:20 ID:50uFwmAl 彼の居ない部屋にいるとますます気が滅入ってしまう。 夜明けまでには随分あったが、ギーシュたちと約束した場所に来た。

本塔前。

明かりといえば、双月の月明かりだけ。 その月影でもってさえも夜闇にはかなわない。 景色はすぐに闇に喰われてしまう。

入り口前の階段に腰掛けていたルイズは、ここが夢なのか、現実なのか 曖昧な気分になっていた。 闇が生みだす寂しげな雰囲気。 こんなとき、そばにサイトがいたら、絶対に蝕まれはしない感情。 恐怖。 膝に顔を埋め、身体の震えを押さえ込もうとした。 だめ。わたしってサイトがそばに居てくれないとだめだめなの。

そんな彼女の肩に誰かの手が触れた。 ・・・ ・・・・・・

モンモランシーは、自分を洪水と呼ばわる友人のことが気になっていた。

あの子、なんだかんだいったって、結局はあの彼のことが好きなのよ。 なぜか分からないけれど、その感情を無理やり押し込んでるんだわ。 昔のあの子は、プライドの塊だった。 だけど、彼がそのプライドの塊を壊してくれた。

使い魔と主人だからという理由にかこつけてほとんど一緒に行動している。 他の女の子にシッポを振ったら即おしおきなのは、たぶん自分のほうを見てくれていないと 不安で不安でたまらないからなんだ。 プライドの殻を取り去ったあの子は、脆く、か弱い普通の女の子。

だから、今の状況はかなり危険だわ。 あのバカギーシュに誘われたときには、乗り気じゃなかったけど、あの子の様子を見たら・・・ わたしがそばに居てあげないとだめなんだ。

どうせ今夜は彼が居ないベットで悶々として寝付けないだろうし、 きっと早めにあの場所にいるかもしれないし。

彼女はやおらベットから身を起こす。その姿はすでに旅支度が済んだ状態だった。 マントを羽織るとモンモランシーは目的の場所へと急いだ。

例の場所に着てみると、想像通り、あの子が膝を抱えて顔を埋めていたのだった。

346 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20:41:58 ID:50uFwmAl ・・・ ・・・・・・

人肌のぬくもりを肩に感じてルイズは涙に濡らした顔を上げた。 「モンモランシー」 「つらそうね。ずいぶんひどい顔」 「わ。悪かったわね」 「悪い夢でも見ちゃった?」 図星。ルイズの顔がふにゃっと歪む。 「ごめんごめん。当たっちゃったか」 モンモランシーはルイズの背中をやさしくさすった。 「わたしたちがついてる。大丈夫よ」

「それにしても、男の子って、勝手よね。わたしたちの気持ちなんか置いてきぼりで あっちいったりこっちいったり・・・やんなっちゃうわ」 モンモランシーは闇の向こうに目をやって言った。 そんな彼女をルイズは意外そうに見た。 「ギーシュのことやっぱり気になるのね」 頬を朱に染めたモンモランシーはルイズの顔をちら見して口を尖らせる。 「そっそりゃ・・・あれだけ言い寄られれば、女の子としてう、嬉しいわよ。 ――その言葉が本物かどうか不安になっちゃうときあるのよ」

わたしだけじゃないんだ。ルイズはぼそりと零すと、顎を膝に埋め夜闇の先を見た。 「「はぁ〜」」 彼女たちは同時にため息をついた。二人は顔を見合わせるとくすりと笑った。 それから、肩を寄せ合うようにぴったりとくっついて、 その悩みの種がやってくるのを待つのだった。 347 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20:42:49 ID:50uFwmAl 「二人とも、早いんだねぇ」 2時間後、モンモランシーの悩みの種が現れた。 うつらうつらしているルイズを身体で支えながら、彼女は彼を睨む。

「女の子より遅く来るなんて、非常識よ」 「これでも予定よりも半刻くらい早く来たつもりなんだけどなぁ ぼくのモンモランシー。一体君たちはいつからここにいるんだい」 「いっ、いつからって・・・ついさっきにきまってるじゃない!」 彼女はそういうと、ツンとそっぽを向いた。

んんん〜?!寝ぼけ顔のルイズが二人を見渡した。 「おはよ。」 モンモランシーが声をかける。 「んー」 「早速だけど、行こうかルイズ」

学院の正門には、レイナールとマリコルヌが馬を引いて待機していた。 「ごくろうだね。諸君」 ひらひらと手を振ってオンディーヌの隊長が声をかけた。 「モンモランシーも行くのか」 レイナールが彼女に聞く。 「そうよ。みんなが怪我したら治してあげるわ」 「隊長殿は、こんなときにもオンナ連れか、いいよなー」 マリコルヌが口を尖らせて言った。 「べ、べつにわたしはこいつと付き合ってるわけじゃないんだから! 関係ないのっ」 モンモランシーが大きな声で反論するのだった。 「ひどいじゃないか。ぼくのモンモン」 「モンモンじゃないっ!」 彼女は彼の尻をつねり上げた。 「・・・痴話げんかはちがうとこでやってくれ。早く行こう」 レイナールが二人をたしなめた。

ルイズとモンモランシー。そしてオンディーヌの精鋭3名は馬に乗り、ガリアへと駆け出すのだった。

・・・ ・・・・・・ そんな5人の様子をキュルケは自室で眺めていた。 「ギーシュ?!ルイズはどーしようもないとして、ギーシュたちは止めないとさすがにまずいわね」 そうつぶやくと、急いで部屋から出て行った。 431 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:41:56 ID:h9IVSfRF 朝がやってきた。 タバサとサイトは身支度を整えたあと、朝食をとった。 サイトは朝食をとりながら、朝の陽光差し込む窓から外をみた。

太陽が昇るその先には、目指す城が、そしてエルフたちが住む土地、サハラが広がっている。 そしてさらにその先には、東方の地、ロバ・アル・カリイエがあるという。 聖地はその真ん中あたりにあるのだろうか。

もし聖地の門が地球の世界とつながってたりしたら・・・彼は少し笑った。 マンガで読んだ、未来から来た猫型ロボットがポケットから出してきた なんとかドアのようなモノを想像してしまったのだ。

ありえねーって。自分の妄想を打ち消すかのように目の前の残りの料理を一気に 平らげたのだった。

・・・ ・・・・・・ 二人は主亡き屋敷を守る老執事に礼を述べ、目的地へと飛び立った。 2時間くらい飛んだところで、サイトは、視線の先に竜の姿を捉えた。 その竜は、以前どこかで見かけたような気がした。 そしてなぜかムカッとしたのだった。

「なぁ、シルフィ。あの竜。見たことあるか」 「きゅい?うーん。結構イケテルみたいだけど、あたしの好みじゃないのね〜」 「そんなの関係ない。サイトの質問に答える」 言葉と同時に彼女のご主人さまの杖が飛んだ。 「おねーさま、ひどーいのね。いたいのね。しらないのね」 タバサはサイトを見て、少し首をかしげてみせた。 「知らない、みたい」 そっか。サイトは再び竜のほうを見たが、もうどこにも見つけることはできなかった。 ・・・ ・・・・・・ そのころ、キュルケは馬を飛ばしていた。 「馬って苦手なのよね。どーせなら、ジャンに空とぶ鳥くんでも作ってもらっとくんだったわ。 しっかし、あの子達結構馬乗りなれてるのかしら、全然追いつけないじゃないのよ」 度々鞍にお尻を強打されながら、彼女は鞭を振るうのだった。 432 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:42:32 ID:h9IVSfRF 一方のルイズ御一行さまはというと、ラグドリアンの湖で一息入れていたのだった。 ルイズは湖をなんとなしに見やっていると、ふと、忌まわしい記憶が蘇ってきた。 惚れ薬でサイトにあんなことやこんなことをやったり、言ったりしてしまった、 あの時のことを思い出して、顔が真っ赤に染め上がった。

隣に座っていたモンモランシーが、そんな彼女の表情を見逃さなかった。 「ナニ真っ赤になっちゃってるのかしら」 「え、な、あああああによ。べべっべつになんでもないんだからっ」 ルイズは手元に生えていた草をぶちぶちぶちぶち抜きながら言った。

「隠そうったって顔に書いてるわよ」 うううそ。モンモランシーの言葉にルイズはぺちぺち自分の顔をはたく。 彼女は見事にカマかけに引っかかる友人を見て、笑いながら言った。 「薬なしでも言っちゃえばいいのに」 「言わないもん、あれは事故、そう事故なの」 モンモランシーがにやりとしながら、言ってみた。 「知ってた?あの薬、飲んだ人のホントの気持ちが出ちゃうのよ」 「えっ――ああんなのホントじゃないもん。もとはといえば、あんたが悪いんだからっ」 そういうと、ルイズは、プイッと口を尖らしてそっぽ向いた。 言っちゃったほうが、彼も喜んでくれると思うんだけどなぁ。 モンモランシーは空を見上げてつぶやいた。 お互い気がついてないだけで、ふたりとも好き同士なんじゃない・・・ ちょっと桃髪の友人をうらやましく思うのだった。 ・・・ ・・・・・・ 「――ですから、我らに陛下の秘宝をお貸し下さればよいのですよ」 「うむ。お前はどう思うのだ。エルフの代表として」 「好ましいことではないですね。神官殿。一ヶ所に秘宝が集まることは、 我々エルフが最も恐れることなのです」 神官は長髪のエルフを左右の色の違う瞳で見つめた。 「私どもは、エルフの地を一切汚すつもりはないのですよ。 我が地で扉を開く可能性を見つけたのですからね」 長髪のエルフは眉をひそめ、言葉を返す。 「扉が開けば、貴殿の地のみならず、我々の地、 いや、ハルケギニア全土に災いが起きるやもしれないのです」 「面白い。そろわなくとも扉は開くと。しかも聖地の外でか? もし本当なら、このガリアをくれてやってもいいぞ」 「陛下、少しお言葉が・・・」 「貴様はまじめすぎるのよ。戯言だ。それともヤツの言葉を真に受けるのか―――」

(どうかしたかい。アズーロ。 ―――そうか、やっぱり来たんだね。青と黒?桃色ではないんだね) ロマリアの神官は、ガリア王のそばにかしづく女性に目で合図を送ると、 アーハンブラ城の空を見やるのだった。 433 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:43:51 ID:h9IVSfRF アーハンブラ城が見えた。 シルフィは徐々に高度を下げていき、着陸態勢に入った。 「あ、あの竜だ。」 サイトがタバサにその方向を指で示そうとした。 ところが、彼女はこくりこくりと居眠りをしているのだった。 タバサ。おきてくれ。あの竜がいるんだよ。彼は彼女の肩を突っついて起こした。 「いやぁっ!!!」 突然の絶叫とともに彼女の目が開いた。 「うおわっ、ごごごめん。どこか痛くしたか」 「―――夢・・・?」 タバサは額に手を当てながらつぶやいた。 「な、なんだ。夢見てたのかよ・・・びっくりさせんなよ。 どんな夢見たらあんな絶叫するんだよ」 「わたしの叔父が、わたしの髪をつかんで・・・額に・・・裏切り者の焼印を押そうとした」 こわい。タバサはそういうと、震える身体をサイトに預けるように倒れ掛かった。 彼は、彼女の華奢な身体を抱きかかえて言った。 「俺がそんなことさせない。タバサを守る」 その一言には彼女の震えを止めさせるに充分な力強さがあった。

「竜ってどこ」 気を取り直した彼女は彼に尋ねた。 あっち。彼の指差す方に目を向けた。 かなり近くにいるので彼女にも竜の姿を捉えることができる。 あれは――。でもなぜ――。彼女は小声でひとりごちた。

ぶぉん。土煙を巻き上げて、シルフィが城内の中庭に降り立った。 ・・・ ・・・・・・ 「今度はそっちからきたのか」 片側の口角を吊り上げた笑みを浮かべて女が言い放つ。 「ミョズニトニルン!!!」 タバサは杖を、サイトは右手に杖状のグングニール。そして、左手にデフルリンガーを握った。 「本物?」 タバサはミョズに問うた。 「なんだ。この前のはお見通しってこと? さすがじゃない。北花壇騎士の7号。」

タバサがぶつぶつ言っている。攻撃魔法を編んでいるのだった。 しかし、サイトが自分の杖を彼女の目の前を遮った。 (まだだ。挑発に乗るな) 彼の目がいつになく真剣な光を放っていた。 (わかった) タバサは詠唱を止めた。

434 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:44:24 ID:h9IVSfRF 「降りてこっちに来なさいな」 ミョズの誘いに二人は黙って従った。

城の中の広いロビーに誘い込まれる。 そのロビーには、ごってりと飾られた扉が2箇所あった。 ミョズはその内の一枚を開け放つ。二人はとっさに身構えた。 ミョズはくすりと笑う。 「何も出てきやしないわ。今はね」 彼女の言葉とほぼ同時に、もう一枚の扉が誰かの手で開かれた。

そこには、金色の長髪の男が立っていた。 「誰だ」 サイトが誰何する。 「”ネフテス”のビターシャル」

サイトは、彼の長髪からのぞいた尖った耳を見た。 「エルフ・・・」 「なんだ。余り驚かないようだな」 「まあな。妖精(エルフ)の友だちがいるんでね」 「そうか」

二人の間に沈黙という重い空気が流れ込んだ。 お互いに相手の出方を伺う。 (先住の使い手。気をつけて) タバサが小声でサイトに話しかけた。 デルフを握る手に力がこもる。

ミョズが沈黙を破った。 「ここでにらみ合ってもしょうがないわ。使い魔どうし、仲良くしましょ」 ドォンっ。エルフの放った大きな空気の塊がサイトをミョズの方へ突き飛ばした。 しまった―――バランスを失って背中を下にして転がされてしまう。 い、ってー。ヤツは何をした?何も挙動が見えなかった。サイトに寒気が走る。

サイトが喰らった。タバサは、術の繰り手に一蹴りで鼻先に接近した。 ―――。聞こえないくらいの小さな声でスペルを唱え、自分の杖に土系統の硬質化の魔法をかけた。 そして杖の頭の部分をビターシャルの鳩尾狙いに突き上げた。 さらに彼女は自分自身にウィンドブレイクを当て、回避のすきをなくす。 む。彼は、回避不能と判断すると、彼女の当身を受け流そうと扉の外側へと身体を後ろへとび下がった。

サイトには彼の動きの意味が分かった。 「戻れ。タバサっ」

彼の言葉に反応したタバサは、ビターシャルへ向けてエアハンマーをわざとぶちかました。 反射の魔法によって跳ね返された空気の塊は、彼女自身を扉の内側へとはじいた。 ビターシャルは激しい勢いで閉じられた扉によってすぐに見えなくなった。 435 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:45:53 ID:h9IVSfRF アーハンブラ城の城門が見えた。 ルイズたちの手綱を握る手に汗がにじむ。 あれ・・・?ルイズは自分の右目を手で押さえた。

あの時と同じ。視界が霧がかかったように曇る。 その霧が晴れたとき。彼の視界と繋がるのだ。

彼女に見えたものは、青髪の少女が長髪の男性に弾き飛ばされる瞬間だった。

「ギーシュ。急いでっ。戦いが始まっちゃったわ」 ギーシュを乗せた馬が猛烈な速度で先頭を駆っていく。 ルイズの馬を追い抜きざまに彼女はギーシュの馬に飛び移った。 「しっかりつかまってるんだよ。ルイズ」 彼の腰に手を回し、ルイズはしがみついた。 ハイヤッ。掛け声とともに彼は馬に鞭を入れた。

サイトの視界は女を映し出していた。 ついこの前、湖で戦った、ミョズニトニルンだった。 サイト、倒れてる?見上げるような視界にルイズは不安になる。 と、そのとき乗っていた馬がいきなり止まったのだった。 彼女は鼻を思いっきりギーシュの腰にぶつけてしまう。

「いいいきなり、なにすんのよっ。鼻打っちゃったじゃない」 ギーシュの代わりに違う声が耳に入ってきたのだった。

「君たちはなぜ、ここに来てしまったんだい?」 ルイズはギーシュの横からひょいと顔だけだして声の主を見た。 「ジュリオ!? あ、あんたこそなんでこんなところに居るのよ。」 「君だけってことは、ガンダールヴのほうはこの中に居るってことになるんだね」 ジュリオは意味深な微笑みを見せ、ルイズを見た。 そして、視線を別の場所に移した。

「とにかく、ラヴァリエール嬢を残して、君たちは戻ったほうがいいとおもうよ。 君もそう思うだろう。ミス・ツェルプストー。」 彼の言葉にルイズたちは後ろを振り返った。

「そうね。今回ばかりはあなたと同意見だわ。ギーシュ隊長。帰還の命を下しなさい」 「でも、キュルケ・・・タバサがけがしたらどうするのよ」

「いいこと。モンモランシー――あなたたちがここに居ること自体、国際問題に発展しかねない位、 危ないことなの。ましてや、この城門をくぐろうもんなら、明らかに戦闘行為よ。 タバサは、自分の意志でサイトについて行った。あの子は命を省みず彼を助ける。 その行為に誰も割ってはいることはできない。私だって今回は遠慮するわ――――」 436 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:46:43 ID:h9IVSfRF キュルケは、そこで言葉を切ると、ルイズをまっすぐ見つめた。

「――だけど、ルイズ。あんたはどうせ戻りなさいってたって聞くような性質じゃないわよね。 いいえ。あなたは、残らなければならないわ。だって。彼のことが心配でこんな危険なところまでやってきたんじゃなくって?」 「そ、そうよ。あいつはあんなんだけど、心配なんだもん。それに・・・」 「『タバサがカレのそばにいる』からでしょ〜」 「ちっ、ちがうわ。そんな・・・そんなんじゃ・・・」 「いいわよ。ルイズ。皆まで言わなくたって。顔に書いてるし――でも、あの子をお願いね。ミス・ヴァリエール。」 いつもの言葉遣いとは違うキュルケに、ルイズは調子がくるってしまった。 「わ、わかってるわよ」

ギーシュはその様子を見て、みんなに言うのだった。 「ここまでってことだね。さ、みんな戻ろう。」 「でも・・・」 モンモランシーの言葉の続きは、ギーシュの目で止められた。 レイナールとマリコルヌも何か言いたげだったが、隊長の命に従うほかないのだった。

ジュリオは、キュルケの左手にはめられた赤い石のついた指輪に気がついた。 まさか・・・探していたルビー? 一瞬彼の表情が強張る。しかし、秘めた笑みをたたえたいつもの表情になった。

真偽を確かめるべく、彼はキュルケに尋ねてみた。 「ところで、ミス・ツェルプストー。その美しい赤い宝石(いし)は?」 彼女は石を愛でながら言葉を返す。 「綺麗でしょ。ジャンからもらったの」 「――ぼくもそれと似たような石をとある方の命でずっとさがし求めているんだ。 しかし、なかなか見つからなくってね」 「――そう。早く見つかるといいわね」 「炎のルビーというのだけれど、君は聞いたことはないかい?」 「・・・さぁ、聞いたことないわ」 「・・・」

少しの沈黙のあと、ジュリオがこの話題を切り上げた。 「さて、ぼくの用は済んだよ。ではまた・・・」 そういい残して、彼は城の中へと消えていった。

そして入れ替わりに別の人物が現れた。 「あんた・・・」 キュルケの目に殺気が宿った。 437 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(7/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:47:28 ID:h9IVSfRF 「トリスティンの虚無か。ここで会うとは思いも寄らなかった。」 長髪の男はキュルケではなく、ルイズに言葉を投げかけた。 キュルケは沸き立つ感情を抑えて、杖を構えるギーシュたちを落ち着かせるように言った。 「みんな。だめ。ここはルイズに任せましょ。」 そして、長髪の男を睨みつけ、言い放った。 彼女の赤い髪は抑えきれない殺気のオーラで逆立つように揺らめいている。 「でもあんた、三人にもしものことがあってみなさい。ここにいる私たちが絶対に許さない。 とくにあなたには前の借りがあるの。今度は何も残らないくらいに焼き尽くしてやるから ――よく覚えときなさい」

「覚えておこう。炎髪のメイジよ。」 「『微熱』よ。微熱のキュルケ」 「・・・」 彼はルイズに視線を移した。 「トリスティンの虚無よ。こちらへ来られよ」 「虚無(ゼロ)じゃないわ。ルイズよ。」

二人は城の中へ入っていった。

「・・・いくわよ」 キュルケたちは、馬に跨ってその腹を蹴り、もと来た道を駆け出した。

・・・ ・・・・・・ 「サイトはどこ?」 「サイト?先ほど来た、黒髪の少年のことか」 「そうよ。どこにいるの。会わせて」 「・・・」 長髪の男は黙ってロビーに入る。 そして、二枚ある扉のうち、一方を指し示した。 「詳しい話は、こちらで聞こう」 「いやよ。サイトと会わせて」

彼は少し眉を寄せ、何かをつぶやいた。 ルイズの身体が見えないひも状のもので拘束された。 「なにすんのよっ!!!」 「貴女を捕らえよとの命を受けてはいるが、彼に会わせよとの命は受けていない。 虚無のルイズよ。我が名はビターシャル。わたしがここでの世話をすることになる。」 ぎりり。ルイズは歯を食いしばった。 何でことだ。自分のせいで女王の恐れていたことがおきてしまったではないか。 悔しくて、情けなくて。だけど、こんなときにこそ言わなければならない言葉があった。

「サイト!!!助けて!!!!!」 438 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(8/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21:48:05 ID:h9IVSfRF ・・・ ・・・・・・ 城が見えなくなるところまでキュルケとギーシュたちは戻っていた。 誰も口を開かない。馬の駆ける足音だけがあたりに響く。

突然、一行の目の前に風竜が立ち塞がった。

「な、なんだよ。」 マリコルヌが杖を構える。 「ちょっと待て、攻撃の意志はないらしいぞ」 レイナールがマリコルヌを制した。 「ねぇギーシュ。あれなんだろう。」 モンモランシーがギーシュに指差して言った。 その風竜の口には何かが咥えられていた。 ギーシュは馬を降りて、風竜に近づく。 咥えていたものを取り出すとそれは一通の手紙であった。 表書きに何やら文字が書かれてあった。

「キュルケ。君あてらしい。」 ギーシュが彼女に手渡した。 彼女は、手紙を広げてさっと目を通す。 そしてその手紙を握りつぶすとこう言った。

「・・・あんたたちとは、ここでお別れみたい。 気をつけて戻るのよ」

「え?キュルケはどこいくのよ」 モンモランシーが聞く。 「また、あっちへ行く用事ができたの」 彼女は、自分たちが戻ってきた先を指したのだった。 618 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:35:22 ID:J2VtCLLP キュルケは、風竜の背に乗って城へと戻っていた。

”ぼくのアズーロが君の目前に立ちはだかった時、その赤い石を湛えた指輪は『本物』ということ。 君の選択肢は二つ。城に戻るか、それともアズーロと戦うか。賢明な君のことだから、後者は 選ばないとは思うけど。また会えることを願うよ。―ジュリオ・チェザーレ”

私は、ギーシュたちを安全に城から離そうと思っていた。戦闘は避ける。そこまであの神官は読んでいたのね。 軽く唇を噛んで彼女は風竜の目指す場所を見つめた。

・・・ ・・・・・・ ギーシュは、呆気にとられた。 私の馬は預けたわ。あとはよろしく。キュルケはそういい残して、風竜の背に乗って飛び立っていった。

「隊長。これからどうするつもりだい」 レイナールは眼鏡を人差し指で上げながら言った。 「ほんとにトリスティンに戻るのか」 マリコルヌも言葉を重ねる。 「・・・」 ギーシュはあごに手を当てたまま、考えている。 「キュルケの馬はどうするの?ほったらかしにはできないわ」 このモンモランシーの言葉に彼が反応した。

「そうか・・・キュルケ、わざと・・・」 みんなに見つめられる中、彼は号令をかけた。 「全員反転っ。仲間の後方支援といこうじゃないか!」

619 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:36:05 ID:J2VtCLLP ・・・ ・・・・・・ キュルケは、ジュリオと城内の一室にいた。 「ジュリオ、なんで私をここへ呼び戻したの?」 「それが目当てさ」 「この『炎のルビー』が?なに企んでんの、あんたたち(ロマリアの連中)は?」

「聞きたいかい?」 「どうせしゃべらないでしょ。あんた」 「・・・条件次第さ」 「食えないやつね」 キュルケはにやりと笑って、赤い髪をかき上げた。

「で、わたしにどうしてほしいの」 「ぼくとロマリアまで来て欲しい」 「どうしてかしら」 「4の4を一同に会するためさ」 「4の担い手、4の使い魔、4の秘宝、4の指輪?」 「その通り、ミス・ツェルプストーはその内2つを持っている」 ジュリオは白い歯を見せ笑う。

「は?何言ってんの?持ってるのは指輪だけよ」 眉をひそめて彼女はあきれたように言う。 「担い手なのさ。君は。匂がしたり音が聞こえたりしないかい?」 「あははは・・・に、担い手ですってぇ。ロマリアにいるんじゃないのよ。 匂い?そりゃあんたの香水の匂いだったらしてるわよ。趣味悪いわ、それ」

「・・・。残念ながら、ロマリアにはいないんだ。目覚めようにもきっかけとなる指輪がないからね」 「へぇ。それ本当かしら。タバサが言っていたけど、ジュリオ、あんたがヴィンダールヴじゃないの?」 「ヴィンダールヴの存在を知っている者がいるとはね―――」 彼は、右手にはめていた白い手袋をするっと外した。 右手の甲から二の腕あたりまで、焼け爛れた痛々しい傷があるだけだった。 「ぼくは使い魔じゃない。奇跡を扱えるのは、この指輪のおかげなのさ」 彼の右手の人差し指には、たくさんの文字が刻まれた指輪がはめられていた。 「人はこの指輪のことをソロモンの指輪というそうだよ」

「ふーん。便利な指輪じゃない。メイジじゃなくても使い魔がもてるわけ。 ・・・ちょっと待って。虚無の担い手って人間じゃないの? 私にはもうフレイムがいるわ」 「ロマリアに来れば、なんとでもなるよ」 ジュリオは不敵に笑うのだった。 (香水つけるなんていう趣味はぼくにはないんだよ・・・) 620 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:37:05 ID:J2VtCLLP ・・・ ・・・・・・ サイトとタバサは、ミョズニトニルンに王の間まで通されていた。

「ところで、あんたたちがここまで来たというのは、陛下に会いにきたということかい?」 「そう」 タバサが口を開いた。そして言葉を続ける。 「始祖のオルゴールを返してもらいに来た」

「はっはっはっ!!! オルゴール欲しさにわざわざ、こんなところまでノコノコ来たのか!? シャルロットよ。お前も焼きが回ったもんだな」 ガリア王が弟の忘れ形見に向かって言い放つ。 「わしが、このわしが、すんなりと渡すと思っているのか?お前は?? 浅薄すぎるぞ!」 王は血走った目で彼女を一瞥する。 「そんなに欲しければ、このわしから奪い取るがいい!!」

「シェフィールド」 「はいっ」 「遊んでやれ」 王はあごをしゃくってタバサとサイトを指すのだった。

ミョズがそばの一枚の扉を開け放つ。 沢山の鎧を纏った人形たちが部屋の中になだれ込んできた。 「さぁ、どうする。あの時のようにあんたのメイジはいないんだよ!」

迫り来る兵士人形を見据えた、その時。サイトの左目に金髪のエルフの姿が飛び込んできた。 「サイト!!!助けて!!!!!」 彼女の叫びが左の耳に響く。

「ルイズ!!」 サイトは叫び、自分たちが入ってきた扉へと駆け出す。 「逃げられないわ」 あざ笑うミョズが、人形たちで扉の前を塞いだ。

「じゃまだっ」 サイトは、デルフで横一閃に薙ぎ払う。剣圧だけで一瞬にして人形たちは吹き飛ばされた。 「待って」 彼の背後で人形たちと戦っていたタバサが彼を呼び止めた。 「ビターシャルは危険。わたしがいく」 トンっ。タバサは彼と背中合わせになると、グルッと180度彼ごと回転した。 「タバサ!!」 「・・・大丈夫。ここはあなたに任せる」 前後逆になったタバサは、目の前の扉に向けて、エアハンマーをぶちあてた。

激しい音を立てて扉と壁の一部が破壊され、大穴が開いた。 彼女は、穴の外へと飛び出していった。

・・・ ・・・・・・ 「虚無のルイズよ。叫んでも無駄だ。彼は、陛下の元にいる。一歩も動けはしまい」 金髪のエルフが表情を変えずに言い放つ。 「く、来るもん。あいつなら、きっと、絶対、来てくれるんだから!!!」

ドゴンッ。部屋の扉が破壊された。 「サイト!!」 ルイズの目が輝く。 しかし、煙の中から現れたのは、黒髪の少年ではなく、青髪の少女であった。 621 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:38:25 ID:J2VtCLLP くっそ、うじゃうじゃ出やがって! サイトは、鎧姿の人形たちに手こずっていた。 デルフもはじくヨルムンガントと同質の鎧のようなのだ。

「前と違って、人形たちのは隙間があるのよねぇ」 「ちっこいし、うじゃうじゃいるし、相棒でも隙を突くのは難しいやね」 槍と剣が交互に彼に向かってぶつぶつ言っている。

そんな時、彼の目に瓦礫の山が写った。 タバサがエアハンマーで・・・そうか! サイトは、その瓦礫の山に杖を振るった。

”レビテーション” ふわり、瓦礫の塊が浮揚する。

”エアハンマー” 浮かされた瓦礫が細かな石つぶてに砕け散る。

彼の周囲の空気が揺らめき、彼を中心にゆっくりと回転し始める。 杖を頭上に掲げ、くるりと杖の先で円を描いた。 ”エアストーム” どどぅどどどぅ。巨大な竜巻が瓦礫の石つぶてを巻き上げた。 サイトは、杖を人形の群れへと振り下ろした。 ・・・ ・・・・・・ 「タバサ」 ルイズは目を見開いてつぶやいた。

タバサは、ルイズと一瞬視線を交差させ、長髪のエルフを睨みすえた。 「貴女には私を倒せない」 表情を崩さずにビターシャルが言う。 「あなたを倒そうとは思わない。ルイズを返してもらうだけ」 タバサは言い終わると同時に口笛を吹いた。

ガシャァーン。窓が割れる大きな音が部屋に響いた。 「おねーさまっ。助けるのね」 シルフィードの足がルイズの背中をかすめた。 その瞬間、ぎりぎりと締めつけられていた感覚がルイズから消えた。

―――。小さくつぶやくと、彼女はビターシャルに牽制のために魔法を放つ。 彼のそばに小さな光の球が出現し、瞬時に爆砕した。

彼は部屋の端まで吹き飛ばされた。 反射の魔法に身を包んでいたはずだった。 しかし、ルイズがディスペルとエクスプロージョンの2連撃をやってのけたのだ。

ルイズは、タバサのそばに駆け寄った。 「あ、ありがと」 「ん。サイトに頼まれた」 嘘。ルイズはサイトの耳を通して、二人の会話の一部始終が聞こえていた。 そして、サイトは今も戦っている最中なのだ。 「わたし、サイトのところへ―」 ”だめだ。ルイズ。おまえはそっちでエルフを足止めしといてくれ。タバサもだ” ルイズの言葉を遮るように、サイトの声がルイズの耳に響いた。 622 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:39:57 ID:J2VtCLLP ズズン―― 「始まったようだね・・・」 オッドアイの神官がつぶやいた。 隣にいた燃えるような赤い色の髪のメイジが腰をあげようとする――が、 神官の右手によって制された。

「キミが行こうが行くまいが、結果はもう決まっているのさ――」 二人の視線が絡む。彼は、ゆっくりと言葉をつないだ。 「多少の犠牲はあるだろうけどね・・・」

・・・ ・・・・・・ 「サイト!どうしてよっ。なんでそっちに行っちゃダメなのよっ」 彼女は、虚空に向かって叫んだ。 姿は見えないが、声だけ耳に飛び込んでくる。 ”おまえはヤツとやりあうのは初めてで危ない。タバサは以前負けてる・・・どちらがだけだと危ない。 だから、二人で戦ったほうがいい”

「タバサと二人で・・・」 ガリッ。彼女は唇を噛みしめた。 ちら。二人のメイジの視線が交わった。 「やるしかないようね」 部屋の隅で、敵が起き上がろうとしていた。

・・・ ・・・・・・ 彼は、見えない彼女と言葉を交わした。 彼女はとりあえず無事のようだった。

無茶しやがって。なんでここに来ちまったんだよ・・・ 「相棒。そんなに気になるのかい。あの娘っこが」 「聞くな」 「あらぁ、聞こえるような独り言喋る方がどーかしてるのよぉ」 「うっせ」

人形たちを巻き上げていた巨大な竜巻が治まった。 人形たちは鎧に守られて傷一つついてはいなかったが、隙間という隙間から入り込んだ瓦礫の砂ぼこりにまみれている。 彼は、その様子を確認すると、土系統の魔法を唱えた。

「イル・アース・デル。纏いし砂を油となせ―――"錬金"!!」

一瞬で人形たちが油まみれとなった。 そこに火・火・風のトライアングルスペルを重ねて放つ。

旋風に煽られた劫火が人形たちを火の海へと沈める。 鎧は焼けない。しかし、火炎の分身がその間隙にするりと侵入する。 そして、鎧の中の人形に容赦なく食らいついた。

「く、なんてこと。わたしの人形が・・・」 ミョズが苦虫をつぶしたような表情に歪む。

「おまえは、もう俺には勝てねーよ」 彼の双眸に劫火の色が映りこむ。 人形と同じように油にまみれた剣に火の粉が飛んで、炎が剣を包み込んだ。 新着レス 2007/12/16(日) 00:42 623 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00:40:33 ID:J2VtCLLP 彼は炎を纏った剣を中段に構え、地面を蹴った。 悔しさを灯した双眸で見据える相手に向かって切りかかっていく。 ところが。 その相手の瞳から突然生気が失せた。 そして、膝から崩れるように床に倒れ伏せたのだった。 「おい、どうしたんだよ。おいっ!!」 サイトは彼女を抱きかかえた。背中に回した手に生ぬるい液体が触れた。 血?いつのまに・・・ 「・・・ご・・・ご主人さ・・・ま・・・」 朦朧とする意識の中、うわ言の様に彼女はつぶやいた。

「いいだろう。わしが直に相手をしてやるぞ」 声のするほうに彼は鋭い目を向けた。 「なんで斬った」 「使い魔に何をしようがおまえの知ったことか」 「あ゛?今何つった?」 「・・・貴様、その年で耳が遠いのか?わしの使い魔をわしがどうこうしようが、貴様には関係――」 ふざけるな・・・ふざけんな・・・。サイトの周囲の空気が歪んだ。 ゴフッ。彼女の口から血が飛び散った。 「・・・ジョ・・・ゼ・・・フ・・・さま。お慕いしておりました・・・だ・・・か・・・ら・・・い・・・い・・・の」 彼女が彼の剣を持つ手を握った。 彼女の額と彼の左手のルーンが同時に柔らかい光を放ち始めた。 「だめだ。そんな。弱気になんじゃねーよ。おいっ。目を開けろっ」 シェフィールドは弱弱しく笑みを湛え、サイトと視線を絡ませた。 あ、り、が、と、う。彼女の唇がかすかにそう動いた。 額のルーンの輝きが蛍の光のように弱弱しくなって・・・消えた。

サイトは彼女をゆっくりと床に下ろした。 そして、ゆらりと立ち上がった。 「てめぇは腐れ外道だ。俺は男としておまえを許さねぇ!」 「勝てると思うか?使い魔の分際でわしに楯突こうとは、身の程知らずもはなはだしいわ」 「・・・」 「使い魔などいらぬ。我はこの身ひとつでおまえたちを奈落の底へと突き落とせるのだ」 「おまえはあぁあああああっ」 サイトはジョゼフへと駆け出した。 ジョゼフの顔が狂気の笑みに歪む。

サイトっ。突然、ルイズの声が耳に響いた。 その瞬間。 ドスゥッ。サイトを背後から土の槍が串刺しにした。 かはぁっ。口から鮮血を吐き出して床へ倒れこんだ。 駆け出した勢いのまま、数メイル床に血の尾を引いて止まった。 彼の周りに血の海が広がる。

「あひゃ、あは、あははははははは!!!」 部屋に無能王の狂気の笑い声が響き渡った。 75 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:21:12 ID:9uE7riHN ミョズニトニルンが倒れている。 倒れている彼女をサイトが抱きかかえているようだ。 彼女の首から力が抜けた・・・

ガリア王を罵るサイトの声がルイズに届く。 そして、彼は王目掛け突撃した。 あれ?これは・・・夢と同じ光景?

王の表情が狂気に歪んだ笑みを浮かべた。 ルイズの不安が確信に変わる。

「サイトっ!!!」 ルイズは咄嗟に彼の名を叫ぶ。 それ以上行っちゃ・・・

ドスゥッ!鈍い音が響いた。

視界が床に落ちる。 サイトの荒い息。 目前に広がる赤い血の海。

彼女の目の前には既に起き上がり、こちらに向かってくる長髪のエルフがいる。 ルイズは横のタバサに視線を合わせず杖を振った。 ”ディスペル” タバサの杖にディスペルが絡みついた。ルイズの意志を理解した彼女は、その杖をエルフへと向けた。 「匂いのする方へ」 タバサはルイズの背中に声をかけた。

ルイズは部屋を飛び出した。

サイト・・・サイト・・・

痛いっ。

彼女は何度もけつまずいて、こけた。

ひざやひじはすりむけ、血が滲んでいた。

だけど彼女は立ち止まらない。

あるたけの力で地を蹴った。

サイト・・・サイト・・・サイト・・・

彼女の双眸からは大粒の涙が滂沱として流れていた。

死んじゃだめ。だめなんだから。わたしが死なせはしないんだ・・・

私はあんたに大切なこと伝えてない。それを聞く前に死んじゃうなんて・・・だめなんだから!!!

廊下に彼女の駆ける音とすすり泣く声が響く。

これは命令なんだからっ。サイト、死んじゃダメ!!!

彼女の悲痛の叫びがこだました。 76 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:22:38 ID:9uE7riHN 「相棒」「ダーリン」 剣と槍が使い手に声をかける、が返事はない。

「まずいな。このままだと前の二の舞だ」 「印が消えちゃうのね」 「この前は俺だけだったからなんともならなかったが・・・今度はお前さんがいるからな」 「なんとか繋ぎ止めれそうだわね・・・」 「いくぞ」 「いいわよ」

グングニールの穂先のルーンが黄金色に光り始めた。 同時に、デルフリンガーの刀身にルーンの文字が青白い光を放ちながら浮かび上がる。 ”フェフ・イェーラ・テイワズ・アルギズ” 護りの先住魔法がサイトを包み込んだ。 「娘っこ。早く来てくれよ・・・」 ぽつりとデルフがつぶやいた。 ・・・ ・・・・・・ もうすぐ行くから。サイト。もうすぐ・・・ 匂いを頼りに壁に空いた大穴に飛び込んだ。

サイトっ!!! ルイズは血の海に倒れ伏すサイトの姿に血の気を失いそうになった。 サイト!!サイト!! 彼のそばに座り込む。 彼女のマントが彼の血で染まった。 「娘っこ。待ってたぜ。」 デルフが彼女に声をかけた。 「相棒はぎりぎり生きてる。おまえさんの水のルビーでなんとか治せるかもしれねぇ」 「どうすればいいの」 「相棒を助けたいだろ?」 こくりとルイズは頷く。 「相棒にまだ伝えてないよな」 こくり。 「願うんだ。絶対助けると願うんだよ。娘っこ」

ルイズは血にまみれたサイトの左手を取って、両手で包み込んだ。 サイト。 ルイズはゆっくりと瞳を閉じた。 サイト。 ポウッ――水のルビーが青く輝きを放ち始める。 わたしの大切な人。 指輪の青い輝きは優しく二人を包み込んでいく。 わたしの一番――好きな人。 青い輝きがサイトの傷を徐々に塞いでいく。 お願い。生きて。 ルイズの目尻から一筋の涙が流れる。 ずっと。そばにいて。 ル・・・イ・・・ズ・・・? うわ言のような声が彼の口から零れた。 サイト・・・ ルイズはそっと彼の頭を抱きかかえ、自分の膝の上に乗せた。 愛おしく、彼女は彼の黒髪をなでる。 サイト・・・ 彼女の唇に微笑みが宿る。 サイトも安心したように口元を緩めた。 ルイズは、彼の唇にそっと自分の唇を合わせた。

青い光が消えた。 ルイズの指輪からはルビーが消え、台座だけが残された。 77 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:23:20 ID:9uE7riHN サイトは自分の足で血の海から立ち上がった。 そばにはルイズがいる。 ルイズが俺を助けてくれた。

冷ややかな視線が二人を突き刺す。 その視線を送る人物を睨み返した。

「しぶといな。生き返るとは」 ジョゼフが杖を振った。

二人の立っていた床が瞬く間に真っ暗闇に変わった。 その暗闇に吸い込まれる。

サイトはルイズを抱き上げ、浮遊のスペル(レビテーション)を唱える。 横抱きに抱えられたルイズはサイトの顔を見て――驚いた。 彼の額にルーンが浮かび上がっていたのであった。

「サイト・・・額にルーンが・・・」 「ああ。やっぱりそうか」 「やっぱり?」 「ミョズが夢に出てきたんだ。あいつも俺に力を貸してくれるのか・・・」 フライ。 彼は短くつぶやいて、床に倒れる人形たちに触れて言った。 「我が分身たち。我が命に従い、彼の者を攻めよ」 人形たちが一斉に動き出す。

「何っ?!」 ジョゼフの顔が一瞬歪んだ。 しかし、彼の杖の一振りにより人形たちは底なしの闇に食われてしまう。

「伝説を2つも身体に宿すとはな・・・楽しめそうだ」 ジョゼフは下品な舌なめずりをした。

「てめえ。絶対ゆるさねえ」 ”エア・ニードル” デルフの刀身に風の渦が纏わりつき、風の刃となした。 一瞬で数メイルまで風の刃は伸び、王の右の二の腕とわき腹を抉り取った。

う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ〜〜 激痛のあまりジョゼフは血を撒き散らしながら、床をのた打ち回る。 ききさまぁっ!!! 血走った目でサイトを睨みつける。 ゆるさん。ゆるさんぞ。ころす。コロス。コロス!!! 叫びながら、杖を振り回す。 床が蛇のように伸び、槍のような形に変形した。幾多の土の槍がサイトに襲いかかる。

”エクスプロージョン” 眩い光が土の槍を粉々に打ち砕いた。

る・イ・ず。きさま・・・おマえたチはユるサナイ・・・オおオオオおおオオおお!!! ”ライトニングクラウド” ジョゼフの頭上に雷が落ちた。 ブチッ。 何かが千切れる音とともにジョゼフが床に倒れこんだ。 「あひ、あひゃ。ひょ・・・」 意味不明な言葉を床に倒れてもつぶやき続けていた。

サイトとルイズは香炉とオルゴールを持って部屋から出て行った。 78 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:24:07 ID:9uE7riHN タバサはビターシャルに突進した。 そのとき。 ズン。部屋全体が揺れた。 ビターシャルは彼女の突進を紙一重に避ける。 「黒髪の少年の命が消えた。彼は死んだ。あなたには戦う意味がなくなった。」 一瞬タバサの顔が青くなる。しかし眼光鋭く言い放つ。 「うそ。かれはかならず生きている。あの人がいるかぎり。死なない」 「愚かな・・・」

ズン。部屋が再び揺れた。 ビターシャルの目が見開かれた。 「馬鹿な・・・ありえぬ・・・少年の鼓動が戻っただと・・・」 タバサはわずかに笑みを浮かべた。 彼女は杖を振る。周りの空気がどんどん冷やされていく。 冷気の渦は一本の大きな氷の槍と化した。 ”シャベリン” 槍がビターシャルに向け飛び出した。

ズン。部屋がもう一度揺れた。

彼の表情が歪んだ。 「陛下・・・」 わき腹から血を滴らせ、彼は言葉をつないだ。 「陛下が危ない。失礼する」 「・・・させない」 タバサがスペルを唱えようとしたその時、 壁の穴から二人が飛び込んできた。

「タバサ!!」 私の勇者の声がする。 タバサはちょっと心強く思えた。

ビターシャルは、剣を構えるサイトに向かって言った。 「イーヴァルディの勇者よ。わたしは陛下を助けに行きたいのだ。おまえとはいずれまた交えることになるだろう」 彼は手を広げ、攻撃する意志のないことを伝えた。 「わたしもすでに戦える状態ではない。あのような王でもわたしは護らねばならないのだ」 「ここは剣を収めていただきたい」 跪いてビターシャルは願いを請うのだった。

「サイト。行かせてあげなよ」 背後から声がした。 「キュルケ・・・」 振り返ったルイズがつぶやいた。 「あのままだったらガリア王は死んでしまうわ。あなた人を殺すの嫌でしょ。 ジャンにも言われたんじゃなくって。殺すことに慣れてはならないって・・・」 キュルケがサイトの背中に言葉をぶつける。

「わかったよ・・・」 サイトはそうつぶやくと剣を下ろすのだった。 79 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:25:03 ID:9uE7riHN サイトたちが城から出るとギーシュたちが待っていた。 彼らのまわりには近衛兵たちがうずくまっていた。

「うまくいったようだね」 髪をかき上げながらギーシュは言った。 「ちょっと死にかけたけどな・・・」 頭をかきながらサイトが話す。 「にしては元気そうじゃない」 モンモランシーが少しつまらなそうにつぶやいた。 きゅ。サイトのパーカのそでをルイズが引っ張った。 サイトはルイズを見ると少し膨れっ面で口を尖らしている。 「どした」 「・・・わたしのおかげでしょ」 「そだな」 ぽんぽんとルイズの頭を軽くなでた。 彼女の頬が薄く朱に染まり、なぜか彼から視線をはずした。 「・・・死んだら、許さないんだから」 「はいはい」 「ほんっとに許さないんだからねっ」 「へーへー」 「怒った。もーわたし怒ったんだもん。せっかく心配したのに・・・」 「ご、ごめん。ごめんよ、ルイズ」 「知らない。あんたなんか知らないんだもん。あっちいってよ」 「そ、そんなことゆーなよ。な。ルイズ。ごめん。ほらこんなに謝ってんじゃん」 「ふんっ。」 「ルイズぅ〜」

「またはじまったよ。痴話げんか」 レイナールがあきれた様に肩をすくめる。 「二人を見てると飽きないわ」 キュルケがにんまりと笑う。 「相思相愛なはずなのに・・・」 モンモランシーがギーシュのほうをちらりと見てつぶやく。

”サイト。いや、ガンダールヴ。聞こえるかい?” サイトは耳を疑った。ここにはいないやつの声が聞こえたのだ。 ”空耳ではないよ。ガンダールヴ。” ジュリオ。 ”久しぶりだね・・・今度ゆっくり君たちと話がしたいんだ。” 君たち? ”そう君の愛しのご主人さまとそのお友だちを我がロマリアにご招待するよ” なんで? ”ふふっ。我が主が逢いたがっているからさ・・・” 教皇が? ”そうだよ。” なんで姿が見えないのに声が聞こえる? ”それば僕が神の右手になる男だからさ・・・” 神の右手? ”ヴィンダールヴ。覚えておくといいよ。兄弟” そういうとジュリオの声はぷつりと聞こえなくなった。 80 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:26:31 ID:9uE7riHN サイトたちが無事トリスティンに帰還。 その足で女王に謁見した。

サイトは子爵の爵位を賜り、タバサはオンディーヌの副隊長補佐に任じられたのだった。 無断でガリアへ潜入したルイズたちは厳しい罰を覚悟していたが、オンディーヌ副隊長に免じて お咎めなしとなった。

しかし、謁見の終わりごろにサイトが倒れてしまう。

「サイト。サイトってば」 不安そうな面持ちでベットに寝るサイトを見つめるルイズ。 そのそばにはタバサもいた。 「おちびさんも一緒に来な」 デルフに呼びつけてられていたのだった。

しばらくして彼が目を覚ました。 「ルイズ・・・タバサもいるのか」 サイトは身を起こす。 「俺どーしたんだろ。急にくらっと来た」 「相棒。おめーの身体が悲鳴をあげてんのさ」 デルフが話し出した。 「なんで」 「相棒が伝説を二つもくっつけてるからさ」 「伝説?」 「左手のルーンと額のルーンよ。だーりん」 グングニールが横槍を入れる。 「額・・・そか」 「なんとかして、そいつを誰かに移さないといけねぇ」 「そのままだどだめなの」 ルイズが不安そうに尋ねた。 「そうね。ダーリンの命が危なくなるわ」 グングニールが答えた。 その答えにルイズが青ざめる。 「ど、どうすればいいのよ」 「移す相手に接触すればいいのさ」 「接触?」 いぶかしげにルイズが聞く。 「おちびさんとだーりんがキスすればいいってこと」 グングニールが茶化すように言った。 「き、ききすですって?!」 今度はルイズの顔が真っ赤になった。 「相棒の命と比べりゃ軽いもんだろ?」 「そーよ。そーよ。たいしたことないじゃない。あんたたちはそんなんじゃ別れないでしょ」

81 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(7/7) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00:27:06 ID:9uE7riHN

一瞬だけだからね。そう言うとルイズは背を向けた。 タバサはベットに座り、サイトと視線を絡ませた。 カチャ。タバサは眼鏡をはずして、サイトに顔を寄せる。 薄く頬を桃色に染め、碧眼の瞳を閉じた。 二人の唇が重なり合ったとき、サイトの額のルーンが輝いた。

痛いっ。 タバサは両手で額を押さえてベットに顔を埋めた。 「大丈夫だ。ルーンが刻まれてるだけだから・・・」 サイトはタバサの背中をなでた。 「夢とおなじ痛み・・・」 タバサは小声でつぶやいた。

タバサがようやく落ち着きを取り戻した。 サイトは二人に切り出した。 「ジュリオにロマリアに来いって言われたんだけど・・・」 「ロマリア?こっそりいけるところじゃないわよ」 「女王陛下は今度ロマリアに行く予定あると聞いた」 「え?」 「そういえば、謁見のとき、そんな話してたわね」 「うそ。何もおぼえてねーよ」 「あんた、ボーっとしすぎ」 「ひどっ」 「一緒に行く?」 ルイズはタバサに聞いてみた。 「行く」 タバサはいつのまにかベットに座りサイトにしなだれかかっている。 「きーっナンなのよ。タバサっ。油断も隙もあったもんじゃないわっ」 ルイズの蹴りがサイトの顔面に命中し彼は再び深い眠りにつくのだった。

ロマリア編につづく。

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