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「全くあんた、最低ね」  モンモランシーはルイズの頼みに顔をしかめた。それでもルイズは必死で頭を下げる。 「お願い!もうすぐサイトが帰ってきちゃうから!」  はあ、と溜息をついてモンモランシーは棚に並んだ香水瓶を何本か手にとってテーブルに並べ始める。モンモランシーは目を輝かせたルイズに指を立てて言い聞かせた。 「言っとくけど、臭いってのは普通消せないものなの。香水は嫌な臭いを誤魔化すために良い香りを撒くわけ。でも強い臭いに香水を使ったりしたらますますひどいことになるわ」  う、とルイズはうめき声を上げる。モンモランシーは煤で汚れたルイズの顔をハンカチで拭って訊いた。 「で、部屋にぶちまけた失敗料理って何なの」 「最近サイトのこと働かせ過ぎたなとか、牛乳女に出来て私に出来ないはずないなとか思って、ちょっと特製ビーフシチューを作ろうって思ったの!」  モンモランシーが眉をひそめてさらに中身を問い詰めると、ルイズは急に小声になってレシピを説明し始めた。 「ビーフシチューをアレンジしようと思ったのよ。牛のヒレ肉を赤ワインでことことゆっくり煮てちゃんとあく取りしてミルクを加えて」 「それで?」 「コリアンダーとミントとシナモンと紅茶とニンニクとブルーチーズと東方から来たっていうマツタケとを加えて煮てたらゴキブリが出て、それで慌てて魔法で退治しようと」  モンモランシーは調合を考えるメモ用紙を握りしめて言った。 「で、味も香りのバランスも考えないで手当たり次第ぶち込んだシチューもどきを部屋中にぶちまけたと」 「手当たり次第なんかじゃないわよ!」  怒るルイズにモンモランシーは冷静に返す。 「何なら今すぐ厨房のコック長の……マルトーだっけ?訊いてみる?」  う、と再びルイズは黙り込む。モンモランシーははあ、と溜息をついて手元の紙に何やら書いて計算を始めた。 「とにかくそんな変な部屋に普通に香水撒いたって全然駄目ね。トイレの消臭剤と水魔法と……どうせサイトだし。あれで誤魔化すか」  ぶつぶつとモンモランシーは呟いて何やら書きあげると、今度は部屋の小鍋に幾つかの香水瓶の中身を入れる。何やら木屑のようなものや花びらも入れてかき回し、ルイズの聞いたことのない水魔法の呪文を唱える。  小鍋の中身が青く発光し、うっすらと飴色の液体が鍋いっぱいに出来上がる。 「さ、撒きに行くわよ。これ持って」  手渡された円筒形の筒には、キュルケの流麗な文字で「ぴかぴか消臭クン3号 ばい・ダーリン作」と書いてある。コルベールの発明品を誕生日にプレゼントされたと言っていたが、これのことだろうか。  蓋を開けて鍋の中身をこぽこぽと入れ、最後にいきなりルイズの髪の毛を何本か引き抜いた。 「何すんの!」 「最後の仕上げよ」  淡々とした調子でモンモランシーはルイズの髪の毛を消臭クンに放り込むとしゃかしゃかと振り、消臭クンを担いでルイズの部屋に向かった。


 モンモランシーが室内に消臭クンで臭い消し薬を噴霧するたび、どぶのような臭いが薄まっていく。汚れの強い場所は水魔法の影響なのか、ほんのりと桃色に輝いて消えていく。何故か時折モンモランシーがメモを取っているが、さすがに頼んだ手前、ルイズもそのメモが何なのか訊く余裕はない。  くんくん、とルイズは部屋の真ん中に立って鼻をひくつかせる。たしかに変な臭いはしなくなった。かすかに薔薇の香りが漂っているようだが、消せない分を誤魔化しているのだろう。モンモランシーはルイズから材料費と手間賃を受け取ると、そそくさと部屋から出て行った。 「ただいまー」  部屋のドアを開けたサイトは鼻をひくひくさせる。ルイズは冷や汗をかきながらサイトの発言を待った。 「薔薇?」 「そそそそうなの。モンモランシーが新しい香水をくれてそれで」  ふうん、とサイトは言い、なんか安っぽいな、と呟く。ルイズはどうせ試作だしまだまだみたいねなどと出まかせを言う。 「でも何か、何だろ。ちょっと汗くさい?」  サイトはベッドに腰かけ、再び鼻をひくつかせると何故か顔を赤らめる。 「どどどどしたの?疲れた?」 「なんかこの部屋さ、その」 「ああああんたほんと、くんくんくんくんして犬みたいじゃない!」 「だってさあ」  言ってサイトはくんくんと鼻をひくつかせて次第にルイズへと近寄ってくる。くんくん、とサイトの顔がルイズの首筋に寄ってくる。 「ルイズの、匂い」  サイトの手がいきなりルイズの体に回った。え、と反発する間もなくルイズはそのまま押し倒される。サイトはさらにルイズの首筋に鼻を寄せてくんくん、と匂いを嗅ぐ。 「わりい。何だか、我慢できねえ」 「あああああんた!」  だがサイトの手はいやらしい場所に伸びるわけでもなく、単にぎゅっと抱きついてきた。何となくルイズはサイトの頭をそっと撫でてしまう。 「あー、何だか安心する」 「そ、そう?」  ルイズもぎゅっとしてやる。くんくん、というサイトの鼻息は本当に犬みたいで、でもそれが妙に愛おしく思えてしまって、ルイズはサイトの額にキスしてしまった。  ちゅっ、ちゅっ、と音を立ててキスをするとサイトの体から力が抜けていく。腕の中で安心しきったサイトの頬を、ルイズはゆっくりと撫でてついばんでみる。  サイトは、私のもの。  呟いて顔中にキスしてしまう。そうっと頭を撫でてやって。ベッドに転がしてやって布団を二人で被る。 「サイト……」  小さく寝息を立て始めたサイトをじっくりと眺めて、まだ夜にならないのにルイズはしっかりとサイトを抱きしめたまま眠りについてしまった。


「男はかなりの割合で好きな女の匂いフェチ、っと」  モンモランシーは使い魔の報告を聞い取りメモ帳に記入すると、メモ帳を開いて呟く。 「今夜はギーシュ、暇だったわね」  そして飴色の液体に自分の金髪を放り込むと、にんまりと笑みを浮かべた。



<投下時から一部修正(by かくてる, 2007-12-02T23:15+09:00) >