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261 名前: クリスマス・ソングは届かない [sage] 投稿日: 2007/12/25(火) 19:56:03 ID:XmWZq7tr 「ルイズ陛下の健康とトリステインの繁栄を祈って、乾杯!」  アニエス元帥の声に一同がグラスを掲げる。カチン、とグラスが鳴って談笑が始まった。  グラスを覗いていると、目の前にサンタクロースが立つ。首を傾げると彼は赤い薔薇を差し出した。 「陛下、お久しぶりです」  彼から何とも素敵な、でも妙に女性を興奮させない香りが漂った。 「ギーシュ、相変わらずね。モンモランシーも元気そうで何よりだわ」 「ありがとう……でもなぜ僕の愛しのモンモランシーのことも?」  私は笑って鼻を指差して答える。 「あなたの香り。とてもモンモランシーらしいわ」 「おおさすが陛下!妻の心遣いがわかるとは!」  心遣いじゃなく心労だろう、と言いたかったが言葉を飲み込む。今はもう、好き勝手を言える身分では ないのだ。これが、アン様が私を求めた理由だろう。そして王子との恋も。なのに私は。 「嬢ちゃん」  涙ぐみそうな寸前、デルフリンガーの声で我に返る。今日は楽しみの会。私がトリステイン全土に声を かけたクリスマスの日。  だから。いつにもまして私は明るく振る舞わなければならない。  向こうでコルベールが箱を用意した。オルゴールだ。コルベールはスイッチを入れる。澄んだ音色のジ ングルベルが会場を満たしていく。  オルゴールに合わせてジングルベルを口ずさむ。コルベールが初めて完成させたオルゴールは、今より ずっとずっと不恰好で音色も濁っていて。それでも私たちは幸せだった。私とサイトは並んで、肩を抱き 合って調子っ外れのハーモニーを歌っていた。  今はもうソロでしか歌えない。  私のジングルベル。

 自室に帰り、水晶玉に虚無の力を注ぐ。小さく中心に光が灯り、まずアン様の顔が映し出される。 微 笑みながら私を諭す。2度の戦禍は許されなかったと。独りで責任から逃げる強さがなくて本当にごめん なさいと謝る。  壁に目を向ける。封印された王剣。マザリーニが敢えて私室に飾ったのだ。先王の真似は許さぬと。 唇を噛んでいると画像が切り替わった。私はグラスにシャンパンを注ぐ。 「メリークリスマス!」  水晶玉の中で彼が杯を掲げる。私も一緒に掲げる。マリコルヌがろくでもない映像を撮っておくため に 作った水晶玉だけど、あの日にマリコルヌがお祝いにくれたのは最高のタイミングだった。  水晶玉の中で私が笑っている。二人並んで余興のジングルベルを歌って。みんなの前で初めて堂々と サイトにキスして見せている。近くこの使い魔と結婚してあげるの!と怒鳴っている私。幸せがいつま でも続くって思い込んでる、馬鹿な私。  アン様が来る。プレゼントに見せた剣を掲げて。ちょうど酔った学院長がサイトからデルフを預かり。  二筋の剣閃が走る。サイトの、血塗れの顔が映る。 「生きろ。ルイズなら、大丈夫」  言ってこと切れて。水晶玉は光を喪った。  サイトの今際の言葉を口の中で繰り返す。生きろ生きろ生きろ。ルイズなら大丈夫、大丈夫、大丈夫。  2つのグラスに残りのシャンパンを分けて注ぎ、片方を机に置いたサイトの遺影に置く。  かちり、とグラスを鳴らし、私は遺影に囁く。 「生きるよ。ルイズなら、大丈夫」  シャンパンを空けながら、私は独りジングルベルを口ずさむ。  メリー・クリスマス。