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225 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:17:07 ID:7ecvSydb 「そうか、我が姪はそのような事になっておるのか」 「はい、ジョゼフ様」

そこはガリア王宮の北側に存在する、小さな、花のない花壇。 まるで意味のない建造物のようなそこは、ある騎士団が非公式に存在する、という事を臣下に知らしめるためだけに存在した。 ガリア北花壇警護騎士団。闇の仕事を請け負う、闇の騎士たちによる、闇の軍隊。 いや、軍隊という呼称はこの場合相応しくないであろう。 彼らは個々に連携を取る事はない。個人が個人として、ガリア王より闇の命を賜り、その命を人知れず遂行するのだ。 従って彼らには規律も、命令系統もない。 あるのは、ただ王の命に従うという唯一つの理のみ。 そして。 現ガリア王ジョゼフの姪、シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、その北花壇警護騎士団の一員で『あった』。 母を取り戻し、トリステインに亡命した彼女には、最早ジョゼフの声が届く事はない。 しかし。 ジョゼフが、彼女に対する興味を失ったわけではなかった。 確かに、彼女はジョゼフの手駒ではなくなった。むしろ相手方の手に落ち、自陣に刃を向ける敵となって盤上に立っている。 しかし、そのすぐ脇には、ジョゼフが最も欲する、最大の駒がある。それさえ落とせば、トリステインの戦力は半減し、そして、自分の持つ鬼札で圧倒的優位に立てる。 それは『虚無』の力に他ならない。 ジョゼフの姪はそのトリステインの『虚無』に極めて近しい場所にいる。 しかも、ミョズニトニルンの報告によれば、シャルロットはその『虚無』の盾たるガンダールヴに、深く関わっているという。 面白い。実に面白い。 ここでシャルロットに揺さぶりをかければ、周囲に布陣された『虚無』と『盾』も動くだろう。 なれば、どうする。無能王。 我が手にある『頭脳』を以って、勝負を賭けるか? いや、今はその時期ではない。今『頭脳』を使うべき時ではない。 陣はまだ拮抗している。先の読めない布陣に、鬼札を使うわけにはいかない。今ここで鬼札を失えば、後半で自分の首を絞めることになる。 ジョゼフは考えた。 そして、花のない花壇を眺め、脇に控える神の頭脳に言う。

「…ミューズよ。奴は使えるか?」 「…は。まだ意思までは操作できませんが」 「よいよい。意のままに操るだけが手駒の使い方ではないぞ」

言ってジョゼフは懐から木製のサイコロを取り出し、石畳に放り投げる。 それは乾いた音を立てて転がり、停まる。 『1』の目を指していた。

「これは、運試しだよ。上手くいけば、トリステインの虚無を消せる。  上手くいかなくとも、『盾』を落とすだけでもよい」 「…は。では、仰せのままに」 「うむ。奴を起こせ。そして、『盾』の下へ送り込め。  路銀と身体はいいものを与えておけよ」 「御意」

頷いて、シェフィールドは花壇の北へ。 ジョゼフは花壇の南、王宮へと帰っていく。 残された木製のサイコロが、小さな音を立てて真っ二つに割れた。

226 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:17:47 ID:7ecvSydb その日。 晴れ渡った虚無の曜日。 才人は、使い魔の一人と街に買い物に来ていた。 黒髪の二人組は、厨房から頼まれた買い物リストを手に、人ごみの市場を回る。

サイトさーん、塩はもう買いましたか?

ん、こっちはあらかた終わったぜー。

二人は別々の場所で買い物をしながら、才人とシエスタは心の中で会話する。 こういう時、使い魔の心のつながりは便利である。 電源のいらない、携帯電話のようなものだ。 二人はあらかじめ決めておいた集合場所に戻る。 そこはこの街の外縁、入り口そばの衛視所脇にある馬小屋。 そこに才人の馬と荷馬車が預けてある。 この衛視所はトリステイン王国軍の管轄だったため、シュヴァリエの証を見せたら、簡単に使わせてくれた。 才人にとって、普段はめんどくさいだけであまり役に立たないと思っていたシュヴァリエの地位だったが、こういうときは確かに役に立つ。 二人は山と買い込んだ買い物を荷馬車に放り込むと、ちょうど時間もいいので昼食を採りに街中へ向かう事にした。

「お二人も、来れればよかったんですけどねー」 「…まあ二人とも試験だって言うし。しょうがないよな」

街中を歩きながら、二人は学院に置いてきたルイズとタバサの事を気にかけながら、適当な食堂を探す。 さすがに二人とも試験なので無理やり着いてくることもなかったが、二人とも、出掛けに心の声でシエスタに釘を刺していた。

…二人っきりだからって、抜け駆けしたら怒るわよ。

…帰ってきたら、チェックするから。

しかしシエスタとて遊びで街に行くわけではない。 厨房の買出しの手伝いで街に行くのだ。 まあでも、お食事をご一緒するくらいは、かまいませんよねー。 などと思いながら、普段着のシエスタは、隣を歩く才人の腕に自分の腕を絡ませる。もちろんそのふくよかな胸を押し当てながら。

「シエスタさん?」 「はい、あててますよ♪」

半分お決まりになった掛け合いをしながら、二人はまるで寄り添う恋人同士のように街中を行く。 そして、二人は一件の食堂に目をつけた。 古ぼけてはいるがそこそこ繁盛している大きな食堂で、昼時の喧騒と香ばしい香りが絶え間ない客足とともに入り口の扉を出入りしていた。

「あそこで食べようか」 「はい、そうしましょう」

そして、二人がその入り口を潜ろうとしたその瞬間。 その扉が物凄い勢いと音を立てて開き、中から人が転がり出てきた。 年のころは十代の、後半くらいだろうか。中途半端に伸びたくすんだ金髪。けっこういい絹製の服に身を包んでいる。泥に汚れたブーツを見るに、旅人だろうか。 その人物は通りに出た瞬間にくるん!と反転すると、埃塗れの整った顔を食堂の中に向けて、叫んだ。

「ファック!お前ら、ママの腹ん中に人の情けを忘れてきたんだろう!」

整った顔を思い切り歪ませて、右手の甲を食堂の中に向けて、左手で右ひじの内側を音を鳴らして叩き、右手の中指だけを天に向けて立てる。 果たしてそのジェスチャーは向けられた人間には何のことかさっぱりだったが、言葉の意味は通じたようだ。 まさか…!?少年の台詞を耳にした才人の中を、予感が駆け巡る。

227 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:19:15 ID:7ecvSydb 食堂の扉の内側から、ごついのだの、細いのだの、ふとっちょだのと、流れの傭兵らしきむさ苦しい男の団体が姿を現す。

「ガキぃ、人様にたかる時はもう少し言葉選べや」 「乞食風情が口の利き方に気をつけろよ?」

男達は既に怒りで出来上がっており、どうやら先ほど転がり出てきたのも、この男達に押し出されたのが原因のようだ。 才人トシエスタの見守る前で、金髪の少年は男達の迫力に屈することなく、今度は高々と挙げた右拳の親指を立て、それを地面に突き立てるように振り下ろす。

「誰が乞食だ!俺は財布をすられただけだっての!  てめえら、他人への施しを忘れると、サンタさんにプレゼントもらえないってパパに言われなかったのか!」

…間違いない。才人の予感が確信に変わる。 そして、今度のジェスチャーは流石に男達にも通じた。どこの世界でも、地獄は地面の下にあると信じられているものだからだ。

「オラガキ。いい加減にしとけ?あ?」 「今謝れば一人イッパツで済ませてやるよ」

傭兵達は拳でバキバキと物騒な音を立てて、少年に詰め寄る。 しかし少年は一歩も引かない。

「てめえらなんてまとめてマックの包み紙みたいに丸めて」 「悪ぃ、コイツに悪気はないんだ」

少年の台詞を止めたのは、シエスタの腕から抜け出した才人だった。 あっという間に男達と少年の間に入ると、いつでも抜けるようにデルフリンガーに右手を掛けて、立ち塞がる。

「お、おいお前何邪魔」

文句を言おうとする少年の言葉を手で遮り、今にも飛び掛ってきそうな傭兵達に、才人はマントに刺繍されたシュヴァリエの証をわざと見せつけるように翻す。 傭兵達の動きが、止まった。

「すまねえ、俺の顔に免じて、許してやってくれないか?この通り」

傭兵達に向けて、左手だけで謝る仕草を見せて、才人は言う。 傭兵達には、その仕草の意味が痛いほど伝わっていた。 シュヴァリエの頼みが聞けないなら、この場で抜くぞ。 さすがに場数を踏んでいる傭兵達らしく、若いながらも度胸と技量を見せる才人の立ち居振る舞いに、渋々折れる。

「…まあ、シュヴァリエ様にお願いされたとあっちゃあな…」

傭兵達が拳を引いたのを確認すると、才人はそこでようやく、デルフリンガーから手を放す。

「ありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、エールの一杯もおごらせて貰うよ」 「お、話がわかるじゃねえか」

才人の事後のフォローに、傭兵達は相好を崩した。 どやどやと食堂に戻っていく傭兵達に、才人はほっとする。

228 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:19:48 ID:7ecvSydb そして振り向くと。 不機嫌そうな顔の金髪の少年が、シエスタの止めるのも構わずに、噛み付いてきた。

「てめえ、何勝手に止めてんだよ!シット!」

映画やドラマの中で聞きなれた外国の言葉が、才人の郷愁を誘う。 汚い言葉で罵られていると分かってはいるが、それでも才人は嬉しかった。

「あはは。久しぶりに聞いたなあ…それ」 「なんだよソレ。わけわかんねえ」

才人の笑顔に気を殺がれ、少年はばつが悪そうに頭を掻いた。

「あの、サイトさん?」

シエスタはそんな二人のやり取りに、才人に疑問符をぶつけた。 才人はそんなシエスタには応えずに、少年に言った。

「よかったら奢るよ。…同郷のよしみでさ」

才人は確信していた。 この少年は、地球人。それもおそらく、米国人。 それをシエスタに心の声で伝えると、案の定声を出して驚いた。

少年はよほど腹をすかせていたのか、料理がテーブルに並ぶや否や、物凄い勢いで食べ始めた。

「すごい勢いですねえ」

シエスタは自分で食べるのも忘れて、少年の食欲に魅入っている。

「いやあ、前の宿場町でスられちまって。二日もなんも食ってなくてさ」

〆のお茶で料理を流し込んで、満足そうに腹をさすりながら少年は笑顔で言う。

「助かったぜ、日本人」

やっぱり。才人の確信は確実なものになった。 そして才人は少年に尋ねる。

「…で、一個聞きたいんだけど」 「何?何でも聞いてくれよブラザー」 「…あんたさ、アメリカ人?」

その質問に、少年はあっさりと応えた。

「その通り。名前は…そうだな、マキシマム。マキシマム・ロングバレル」 「『そうだな』?」

あからさまに偽名くさいその名乗りに、才人は疑念を露にする。 その疑念に、マキシマムと名乗った少年は笑顔で立ち上がり、そして言った。

「とりあえず、腹も膨れたし。  続きは外で話そうか、ヒラガ・サイト」

少年の言葉に、才人とシエスタの動きが止まる。 まだ、才人はマキシマムに自分の名前を名乗っていない。 マキシマムは笑顔のまますたすたと食堂の外へ歩いていく。

「じゃ、支払いは任せたぜサイト。  ここの裏通りで待ってるからな、早く来いよ」

229 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:20:32 ID:7ecvSydb マキシマムは、言ったとおり裏通りで待っていた。 才人は油断することなく、尋ねる。

「さっきの、偽名なのか?」

才人の言葉に、マキシマムは、建物の隙間から覗く青空を見上げながら、言った。

「偽名じゃないなあ。俺さ、自分の名前知らないんだわ」

言いながら、後頭部をぽりぽりと掻く。 そして続ける。

「この世界に呼ばれた時、俺は精神だけの状態でさ。  地球にいた時の事が、かなり抜けてんだよ」

基本的な知識や考え方などは残っていたが、自分の名前や出自をはじめ、いろいろな部分がまるで虫食いのように抜け落ちているのだという。 そして、才人はその言葉に更なる疑問を持つ。

「あんたをこの世界に召喚したのは誰なんだ?」

その質問に、待ってました、と言わんばかりの笑顔でマキシマムは応えた。

「俺をここに呼んだヤツはシェフィールドって言ったぜ」

その名前は。 ガリアの虚無、無能王ジョゼフの使い魔、神の頭脳ミョズニトニルンの名前。 才人はその名前を聞いた瞬間、デルフリンガーを抜いてシエスタを建物の陰に下がらせる。

「お前、まさか…!」 「察しがいいねえ。その通り。  俺はアンタを殺すように言われてここに来たんだ。ヒラガ・サイト。あんたをな」

言ってマキシマムは腰の後ろに両手を回す。 マキシマムがそこから取り出したのは。 才人には見慣れた、シエスタには見慣れない、鉄の塊。 回転式の弾倉を持つ、二丁の銃。俗にリボルバーと呼ばれる、拳銃。 ハルケギニアには存在しないはずの、地球の銃。 そして、満面の、狂喜を湛えた笑顔で、マキシマムは言った。

「『仲間』と戦りあえるなんて最高だぜ…!  Welcome to Garden Of Madness!  ようこそ、狂い咲きの園へ!」

その言葉と同時に、彼の両手に握られたリボルバーが、火を噴いた。

230 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:21:18 ID:7ecvSydb 才人は辛うじて初弾をデルフリンガーで弾くと、すぐ後ろの建物の陰に隠れる。

「なんだ、あの鉄砲は?見たことねえぞあんなの」

デルフリンガーの言葉に、シエスタからの心の声が重なる。

サイトさんっ?お怪我はありませんかっ?

シエスタはここより少しマキシマムに近い建物の陰に隠れている。 才人は無事をシエスタに伝えると、その場を動かないよう指示して、そして考える。 ハルケギニアの銃と違い、リボルバーは連発できる。 さらに、地面に穿たれた弾痕から、あの銃弾を体のどこかに当てられれば、どこに当たったとしてもまともに行動できなくなりそうだ。 しかし、その弾数には限りがある。 見たところ、あのリボルバーの弾倉は六発。 つまり、片手につき六発、合計十二発を打ち切れば、リロードせざるをえない。 先ほどマキシマムが放った銃弾は二発。あと十発の銃弾を避ければ、才人に勝ち目が出来る。

「あと十発かあ…」

避けきれるかどうか。 矢や魔法との戦闘経験はある才人だったが、さすがに亜音速で飛んでくる鉛の塊との戦闘経験はなかった。 そんな才人に、デルフリンガーは軽く言う。

「やってみろよ相棒。なんとかなるって」 「軽いなあお前は…」 「まあぶっちゃけ、俺っちにも対策がわかんねえからな。当たって砕けろってこった」

確かにデルフリンガーの言うとおりだった。 降り注ぐ銃弾に剣士が対抗する手段…それは、ただ『避ける』。それだけ。

「んじゃ行ってみるかぁ!」

そして、才人は裏通りに身を躍らせる。 その真正面の奥で、マキシマムが右手のリボルバーを構えていた。

「正面から来るとはいい度胸だぜ!  Come'n Let's DANCE!」

最初の銃弾が飛んでくる。 銃口からその軌道を予測した才人は、右斜め前へのステップでそれを避ける。 そしてそのステップが終わる前に、休むことなく次の銃弾が襲ってくる。 その銃弾は的確に才人の着地点を狙っていた。 才人は咄嗟の判断で地面に飛び出し、転がる。 二発目の銃弾が地面を穿ち、そして。 立ち上がった才人の左肩を、三発目の銃弾が貫く。 その衝撃に才人は、すぐ近くの壁に叩きつけられる。 血しぶきが木の壁に飛び散り、そしてそこへ容赦ない追い討ちの次の一発。 しかし、それは才人に当たることはない。

231 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:21:56 ID:7ecvSydb その壁の脇の路地から伸びた白い手が、あっという間に才人を路地に引き込んだからだ。

「大丈夫ですかっ?サイトさんっ!」

その手はシエスタの手だった。 才人の左肩からは夥しい血が流れ、その腕はだらんとして動きそうもなかった。

「ミスったよ…」

ガンダールヴの力のお陰か、痛みはそれほど感じていなかったが、この状況で片腕が使えないのは痛い。 さらに、片腕が使えないことで身体のバランスがおかしくなっていることも才人には分かっていた。 進退窮まるとはまさにこのこと。 困窮する才人。 しかし、希望を捨てない者が、そこにいた。

「サイトさん!私の『力』、使えませんか?」 「へ?」

シエスタの申し出に、才人の目が点になる。

「ミス・タバサにしたみたいに!きっと私にも何かできると思うんです!」

シエスタは胸元をはだけ、鎖骨の間にある、黒い五角形…シエスタの『使い魔の印』を出す。 否定しようとした才人を、デルフリンガーの言葉が止めた。

「試してみなよ、相棒」 「え?だってシエスタは…」 「…たぶんだけどな。そのガンダールヴの『使い魔の印』は、『武器』になれる人間の証なんだと思うぜ。  この嬢ちゃんにも、何か『力』があるはずだ。じゃなきゃお前さんの『ガンダールヴ』が契約しないと思うぜ」

デルフリンガーの説には、何か妙な説得力があった。 そして。 胸元をはだけるシエスタを見る才人の中に、かつて感じた感覚が蘇る。

武器を取れ。武器を取れ。 汝は神の盾、ガンダールヴなり。 あらゆる武器は、汝が意のままに。

その声に導かれるまま、才人はシエスタの黒い盾の刻印に、口付けた。

232 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:22:34 ID:7ecvSydb マキシマムが弾倉に銃弾を込め終わると、路地から、黒髪の少女が現れた。 ベージュのワンピースに身を包んだその黒髪の少女は、先ほど才人と食事を採った時に一緒にいた少女。

「おいおい…俺は女子供も容赦しないぜ?  とりあえず撃っちゃうぜ?答えは聞いてないけどな!」

言ってマキシマムは遠慮なく、四発の銃弾を、次々にシエスタに放つ。 その直後、シエスタの姿がゆらり、とゆらめいた。

「見えている直線の打撃が当たるとでも?」

次の瞬間、マキシマムの隣に彼女はいた。

「何っ!?」

そして、驚くマキシマムの横で一瞬屈むと、一気に伸び上がりつつ踏み込み、背中から肩にかけての、『靠』と呼ばれる部分による打撃を、マキシマムに浴びせる。 マキシマムは一撃で吹き飛ばされ、土と木でできたすぐ後ろの壁に派手な音を立ててめり込む。

「ぐはっ!」

衝撃にマキシマムの肺の中の空気が全て吐き出され、意識が一瞬遠のく。 その隙に、シエスタはマキシマムの前で、腰を軽く落とし、左手をマキシマムめがけて開けて、右拳を腰溜めに構えていた。 正拳の構えである。 そして、その手首には、黒い炎のようなものが纏われていた。

「我が拳に…穿てぬ物なし」

その言葉と同時に、空気を切り裂いてシエスタの右拳がマキシマムの腹部に、文字通り突き刺さる。 血を吐いて絶命するマキシマムから拳を引き抜き、シエスタはまるで人が変わったかのような冷酷な声で、言い放った。

「さようなら。サイトさんと同じ世界の人」

233 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:23:27 ID:7ecvSydb 才人達の立ち去ったその裏道には、なぜか野次馬が一人も来なかった。 あれほどの轟音を立て、銃が乱射されていたにも拘らず、である。 それは、周囲に張られた結界のせい。 あらかじめシェフィールドに渡されていた結界装置で、マキシマムは周囲に人払いの結界を築いていたのだ。 しかし、その結界は、術者の死亡と共に消えるはずだった。 つまり。マキシマムは、腹部を拳で貫かれ、なお生きているのだ。 しかし。壁にめり込み、口から腹から血を流す金髪の少年は、どう見ても死んでいた。 そこへ。 一人の女が現れる。 長い髪をなびかせ、その女は金髪の少年の握り締める、銀色のリボルバーを手に取る。

「情けないわね。身体を与えられておきながら」

全てのマジック・アイテムを操るミョズニトニルンの心に、そのリボルバーから声が流れ込む。

なぁに。次は上手くやるさ! あぁ、凄ェゾクゾクしてきた!またやりてえ!アイツとやりてえ!

そう、このリボルバーこそが、マキシマムの本体。 精神だけでハルケギニアにやってきた、マキシマムそのものであった。

「…次は油断せずにやりなさい。  我が主はともかく、私はそこまで寛容ではないわ」

ミョズニトニルンはそう言って、手にした皮袋にリボルバーを詰め込む。 その間も、マキシマムは心の声で喚いていた。

ヒリヒリしたぜ!あの感覚!最高だ!これが『充実感』ってヤツだな!

シェフィールドは、その声に応える代わりに、呆れたように呟いた。

「…どうしようもない中毒者ね、この男」

234 :漆黒の力 ◆mQKcT9WQPM :2008/01/09(水) 21:23:48 ID:7ecvSydb 二人が学院に帰ったのは、才人の応急処置を済ませ、一晩休んだ後。 もちろん学院に残してきた二人の使い魔にこれでもかと詰め寄られ。 正直に応えたシエスタのせいで、ルイズに左肩の傷以上の重症を負わされたが。 それを聞いたタバサの表情が、一変した。

「…許さない」

静かな、しかし確かな殺気を纏い、タバサは決意を口にする。

「…ガリアに行く」

才人は、そんなタバサに尋ねる。

「ど、どうして?」

母を取り戻し、縁者をゲルマニアにかくまって、もう縁のないはずのガリアに、何故今更戻るというのか。 タバサは才人の質問に応える。

「…ガリア王にもう恨みはない。  でも、彼は、サイトを狙った。そして今も狙っている。  虚無であるルイズも、たぶんその対象になっているはず。  私の一番大切な人を。大切な人達を。  それだけは、絶対に。許さない」

ふだんよりも饒舌にそう語った。 雪風の中で静かに燃える殺意の炎が、心を介して才人達にも伝わっていた。

そして、その一週間後。 長期の休みをオールド・オスマンに申請し、四人は学院を発つ。 ガリア王を倒すための旅路が、今始まったのである。〜fin