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645 名前: シルフィのサイトメロメロ計画 [sage] 投稿日: 2008/01/24(木) 00:03:47 ID:SVAvtocJ  きゅいきゅい。これで完璧なのね。  タバサの部屋でシルフィードは、鏡に映る自分の身体を見ながらご満悦の表情を浮かべていた。  鏡に映るのは、いつもの竜の姿ではなく、人に変化した姿。  ただし、いつものスタイル抜群な彼女ではなく、シルフィードの主、タバサの姿であった。ちなみにタバサは、そんなシルフィードを冷ややかな目で見ながら、本を読んでいる。  シルフィードから見て、サイトは素敵な男性である。そして、シルフィードの主はその男性に惚れている、好意を抱いている。実際、彼女の始めても彼に捧げたのである。これはもう疑いようもなく、好意丸出しである。  ならば、彼女の恋を叶えるのも使い魔の役目じゃあなかろうか。そして、タバサの恋を応援したとして、タバサからご褒美があるかもしれない。  おねーさま! シルフィ、頑張ります!   「サイト。ちょっといい? きゅい」 「ん?」  いつものように素振りをしているサイトを呼び止める。う〜、緊張してきたけど、負けないのね。シルフィ、頑張るのね! きゅい! 「ああ、いいけど。どうした?」 「えっと……」  応援するとは決めた。行動を起こすとも決めた。しかし、具体的にどんな行動を起こすのかまでは決めていなかった。  どどど、どうしようなのね。きゅい。シルフィ、何も決めてなかったのねー。  軽く混乱し始めるシルフィード。思わずぐるぐると回り始めてしまったシルフィードを、サイトが不審に思っても仕方ないだろう。 「おい、大丈夫か?」 「だ、大丈夫なのね!」  このタバサ、元気いっぱいである。そのことが、ますますサイトの不信感を募らせる。 「大丈夫ならいいけどさ」  訝しむサイト。いつの間にか先ほどまでの穏やかな雰囲気は一転、若干敵意を含む刺々しい雰囲気が周囲に漂う。  う、疑われてるのね。  内心冷や汗だらだら、背中にも嫌な汗がたっぷりのシルフィードは、思わず顔を引きつらせる。このタバサ、感情が豊かである。  おねーさま。助けてなのね! こんなときはおねーさまならどうするのね!  必死に今まで見てきたタバサの記憶を手繰り寄せるシルフィード。何か使えるものはないかと、必死で手繰り寄せる記憶の中に、使えそうなセリフがあった。すなわち、時間稼ぎの言葉である。  落ち着いて。今までおねーさまを見てきたシルフィなら、ちゃんと演じられるはずなのね。さっきまでの失態は犯さないのね。 「ちょっと来て」  言って、サイトの裾をくいくいと引っ張る。タバサがサイトを呼ぶときによくする仕草なので、不審には思われない、はず。 「ああ、いいけど。どこに?」  これは予想外の質問である。もう一度、シルフィードは記憶を手繰り寄せる。タバサが行きそうな場所で、色々と都合のいい場所。 646 名前: シルフィのサイトメロメロ計画 [sage] 投稿日: 2008/01/24(木) 00:06:04 ID:pr+VyRyP  ああ、あるではないか。一箇所、色々と都合のいい場所が。 「図書館」 「ああ、わかったよ」  いつもの様子のサイトに、安堵するシルフィード。これで疑われずに済みそうである。  時間稼ぎは出来そうである。後は、図書館に到着するまでに何をするかを決めれば完璧だ。  頭の中に、考え浮かんでは消えていく。街までのデートだったり、湖までのデートだったり、空中散歩だったり。でも、どれも没である。なぜなら、そのどれもがシルフィードに乗ることを前提とした案だからだ。  今のシルフィードはタバサである。どれかを実行しようとなると、正体を現さなければならない。  ならば、どうするか。必然的に、あまり遠くに行かずに出来るものとなる。出来ることならば、学院内が望ましい。  図書館で一緒に本を読む。  没だ。シルフィードが寝てしまいそうだし、おそらくサイトも暇になる。  学院内を一緒に散歩。  没だ。気まぐれに部屋から出てきたタバサに見られる危険がある。  食事を取る。  これも危険がある。が、場所が場所ならどうだろうか。  場所を厨房にする。タバサは厨房にほとんど訪れないので、見られる危険は皆無だ。そして、厨房の人たちに見られても、おそらくは大丈夫である。  どうせ厨房に行くのなら、一緒に何かを作りたくなってきた。本格的な料理は時間も手間もかかるので、軽く作れそうな何か。例えば、お菓子など……。  そうなのね! お菓子を作るのね!  先導するシルフィードの顔が、ぱぁっと輝く。サイトと一緒の作業で、サイトのタバサへの好感度はアップ。さらに一緒に作ったお菓子を一緒に食べて、シルフィードも美味しい思いが出来る。  だったら、図書館で作るものを決めるのね!  善は急げ。そして、膳は急げ。シルフィードは、図書館に向かう速度を少々速める。 「おいおい、そんなに急ぐのかよ?」 「急ぐ」  サイトの右手を掴んで、シルフィードは走り出した。その速度、もはや人間のそれではない。  シルフィードの速度がさらに速くなっていく。その速度、限界を突破しても収まらず、シルフィードの食欲に比例するように速度は増していく。 「は、速すぎるううぅぅぅぅぅ!!」  サイトの悲鳴はドップラー効果を残して去っていく。いまやシルフィードは風を切り、音を超え、あらたらる領域へと進化しようとしていた。 「私に追いつけるものは無いのねえぇぇぇぇ!!!」  新たなる領域へとたどり着いたシルフィードはそのまま図書館に突入。風を巻き起こし、図書館を蹂躙。そして、目的の本棚へとたどり着くと、機械の如き正確さでお菓子のレシピ集を掴み取り、タバサ所定の席へと移動する。 「サイト?」  上がったテンションを急激にクールダウン。そして、いつものタバサのように話しかけると、そこにはサイトだった物体しかなかった。進化したシルフィードの速度に、人間であるサイトは耐えられなかったのである。  し、しまったのね! 迂闊だったのね! 647 名前: シルフィのサイトメロメロ計画 [sage] 投稿日: 2008/01/24(木) 00:07:02 ID:SVAvtocJ  うろ覚えの知識をフル活用して介抱すると、何とかサイトが復活した。頭を振り、霞んでいる意識を無理矢理覚醒させる。  その様子にシルフィードは少し罪悪感を覚え、しょんぼりとうな垂れた。そして、二度とないように注意しようと誓う。 「大丈夫?」 「何とか……で、何がしたいんだ?」  極度の体力の消費のために、怒る気力すらないようだ。しかし、シルフィードは気づかない。呆れた様子のサイトを見ても、気づかない。この韻竜、鈍感すぎである。 「お菓子作り」 「お菓子?」 「そう」  シルフィードが手に持っているのは、気軽に作れるお菓子作りの本。平民向けに出版された本なので、簡単な材料で手軽に作れるお菓子でいっぱいなのだ。 「タバサはどれを作りたいんだ?」 「……」  ページを捲って逡巡するシルフィード。たっぷり三十秒悩んだ結果、指差したのはシュークリームのようなお菓子だった。 「これが作りたいのか?」  自然に、コクリと頷くシルフィード。だんだんとタバサの演技に慣れてきたようである。韻竜の知能は伊達ではない。 「そっか。じゃあ厨房に、だな」  ニッコリと笑うサイトの顔に、不覚にもクラリときてしまうシルフィード。  ず、ずるいのね、サイトは。  サイトの笑顔のそれは、可愛い妹に見せるような笑顔だったのだが、それにシルフィードは気づかない。ただ単純に、タバサへの好意の証として見てしまっていた。  そして、シルフィードの中に、本来の目的とは違う気持ちが生まれ始める。  シルフィにもこんな笑顔を向けて欲しいのね、きゅい。  モヤモヤとする感情が何なのか、今は理解できていない。しかし、いずれ理解するときも来るだろう。その時にシルフィードがどんな行動を起こすのかは、始祖のみが知るところである。  ともあれ、作るべきお菓子は決まった。美味く出来たらタバサにもおすそ分けしよう、そうシルフィードは決めていた。  二人だけでお菓子作り。楽しみなのね。  無表情ながら、内心では踊りかねない勢いで喜んでいるシルフィード。しかし、サイトが空気を読めるはずも無く。 「どうせだったらみんなで作ろうぜ。ルイズとかテファとか……」  そこまで言って、サイトは口を噤んだ。シルフィードの冷たい眼差しが、サイトを貫く。心臓を鷲掴みにする。哀れな犬は、その視線の前に何も出来ない。 「ナンデモナイデス」  きゅい、と一つ呟いて、シルフィードは歩き出した。まっすぐに、目指す場所は厨房である。   648 名前: シルフィのサイトメロメロ計画 [sage] 投稿日: 2008/01/24(木) 00:07:35 ID:SVAvtocJ  厨房に入ると、料理人たちの視線が二人に集中する。サイトならまだわかるが、何故にタバサまでいるのだろう。そんな疑問が、視線を通して伝わってくる。  しかし、その視線は不快なものが含まれているものではない。ただ単純に、普段現れない人物に対しての驚愕の視線である。現れた人物が鼻持ちならない人間ならば別だっただろうが、タバサはそうではないということだろう。  原因は言わずもがな。普段の食べっぷりである。しかも、ハシバミ草まで黙々と食べつくすという少女だ。料理人としては嬉しいものである。  さて、料理人に好感を持たれている二人である。そんな二人であるから、基本的に料理人がこの二人の頼みを断るということは無い。  だから、お菓子作りと言ったとき、すぐに機材を用意してくれたし、親切な何人かは手伝いを申し出てくれた。もちろん、丁重にお断りしたが。  今回のお菓子作りは、二人――一人と一匹だが――で共同作業をすることに意味があるのだ。料理人の手助けを借りてしまったら、その目的が果たせなくなってしまう。  二人で共同作業。その末に生まれる愛。そして育まれる愛。素敵なのねー。  無表情で妄想が展開していくシルフィード。その表情から彼女の考えを読み取ることはほぼ不可能なので、止めるものは誰もいない。そして、その妄想はエスカレートしていくばかりである。  二人で愛を語り合う夜。身も心も、全てが重なり合う夜を、シルフィードは妄想する。  そこにサイトが質問をする。 「なあ、タバサ。もう少しかき混ぜるか?」 「かき混ぜる。もっと強く、かき回して」 「掬うようにって、こんな感じか?」 「そう。出来ればもっと早く、奥まで」 「やべ、出る」 「溢れるくらいがちょうどいい」  無表情で妄想を展開しながらそれでもサイトに的確な指示を与えるシルフィード。食に関するならば、シルフィードの頭脳は通常の三倍の速度で物事を処理するのである。そして、その行動速度も三倍である。 「手際いいなぁ」 「当然」  黙々と作業を進めるシルフィードに、サイトは感嘆する。そうして手を動かしつつシルフィードを見ていると、普段とは違った表情をしていることに気がついた。  微笑んでいる。  主人と使い魔は一心同体。韻竜であるシルフィードが、誰よりも理解している主を模倣できぬはずがない。  既にシルフィードはタバサそのものといっても過言ではなく、故にその行動、振る舞いはタバサそのもの。  感情もまたタバサに近くなっており、シルフィードの今の表情も、それである。  滅多に見せないタバサの微笑み。すなわち、これ以上ないほどに嬉しいというほかにない。  その微笑に無意識に顔を赤くしてしまうサイト。雑念を頭から追い出し、目の前のお菓子に意識を集中させる。 「違う。ここはこう」  横からシルフィードの手が伸びてきて、サイトの手に重ね、修正を施す。タバサの小さな手の感触が妙に気恥ずかしく、サイトは視線を逸らしてしまう。 「聞いてる?」 「は、はいっ!」 649 名前: シルフィのサイトメロメロ計画 [sage] 投稿日: 2008/01/24(木) 00:08:09 ID:pr+VyRyP  そんなハプニングもありながら、どうにかお菓子を完成させる。  いびつな形の二人のお菓子。その味も少しアレだったけれど、シルフィードはそのお菓子を今まで食べたどんな食べ物よりも美味しく感じた。   「それでねそれでねおねーさま! サイトったらね!」  その日の夜、シルフィードはタバサに今日の出来事を話していた。  サイトと共に過ごした今日の全てを、である。もちろん、サイトに好意を抱いているタバサとしてはその話は面白くないが、タバサのためにやったことなので、我慢している。 「ほんとにサイトったら素敵な男性なのね! おねーさまは見る目があるのね!」  ため息をつきながら、タバサは想像する。もし、サイトの隣に立っているのが自分だったら。  羨ましくなって、嫉妬して、思わずシルフィードに言ってしまった。 「うるさい」 「ひどいのね!」  シルフィードは気づいていないが、タバサは気づいていた。  シルフィードの瞳。それは、恋をしているものの瞳である。  いかに自分の使い魔とはいえ、もしもサイトを狙うのならば、容赦はしない。サイトを、渡しはしない。  ぎゃあぎゃあと喚くシルフィードの言葉を流しつつ、タバサは決心した。  絶対に負けない。