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…よく考えたら、何も付き合う必要ないんじゃ…。 本の林の中で、才人はそう思っていた。 目の前には、棚から取り出した本を流し読みするタバサ。 読めているのか、と疑いたくなるようなスピードでぱらぱらとページを繰り、次の本に移る。 事の発端はこう。

『…2回も間違えた』

先週の虚無の曜日、『二人きりのときは本名(シャルロット)で呼んで』という約束を、才人が2回破った。 その罰として、才人は女子寮の屋根の上で朝から昼近くまで『抱っこ』させられていたのだが。 部屋に戻って、床に下りたタバサはみるみる不機嫌になり、その整った眉をへの字に曲げて、そう言った。

『…あんだけ抱っこしてやっただろ』 『…足りない』

むー、とふくれてタバサは言った。 才人は女の子ってのはめんどいなあ、と思いながら、まさかアッチ方面の要求してこないだろうな、と期待半分、不安半分で身構えていたのだが。 何かを思いついたように、タバサはぽん、と手を打った。

『…今度の虚無の曜日』 『…なに?』 『買い物、付き合って』

街の本屋に本を買いに行くので、付き合ってほしいというのだ。 それで済むなら安いもんだ、と才人は軽く請け負ったのだが。

『…どこ行くの?』 『どちらへ行かれるんですか?』

出かけようとするところを、部屋の主人とメイドに見つかってしまった。 休みになにしようが犬の自由だけど浮気だけは許さないんだからそこんとこ覚悟しときなさいよという視線と、 私はサイトさんのこと束縛したりしませんけどこれ以上女の子増やすつもりならそれ相応の覚悟をもって望みますよという視線を受けて、才人はほうほうのていで外へ出た。 …ほんとに、オレ最近流されやすいよな、なんか妙なものに憑かれてるんじゃなかろうか、とか考えながら、才人はタバサと一緒に街に出た。 そして、シルフィードのおかげで、街の本屋の開店直後に、本屋に着くことが出来たのだが。

…もう、昼前なんですけど…。 字の読めない才人にとって、この本の林はただの紙の束の塊に過ぎない。 しかも、その量たるや膨大なものだった。 ハルケギニアには『本の流通』というものがないらしく、本屋には本が溜め込めるだけ溜め込んであった。 しかも、索引などついていないので、目的のものを見つけるには片っ端から見ていくしかないのだ。 本屋の中にはタバサのように、端から本を手にとって読んでいる客がちらほら見える。 しかし、才人とタバサのように、連れで本を探している者はいない。

「…なあ、疲れないのか?」

才人はいいかげん疲れてきていた。ていうか退屈。

「…退屈?」

タバサは、本から目を離すことなく言う。 …正直に言っていいもんだろうか、とか少し悩んだ才人だったが、昼も近いし正直になってみることにした。

「まあ、退屈っちゃ退屈だな」

するとタバサは、手に持っていた本をぱたんと閉じると、棚に戻した。

「昼ごはんにする」

言って、すたすたと店の外に向かって歩き出した。

「あ、おい待てってばタ…」

バサ、と続けそうになる才人を、タバサが振り返って睨みつける。 才人は慌てて言葉を呑み込み、無理矢理言葉を続ける。

「…シャルロット!」 「…よろしい」

満足そうに微笑み、タバサは歩き出した。 …疲れる。

「…本はよかったのか?」

結局一冊も本を買うことなく店を出たタバサに、才人は疑問を投げかける。 人が3人も並べば肩がぶつかりそうになる通りを、タバサが先に、才人がその後ろに続き、歩いていく。

「…別にいい」

そう言って少し先を歩いていたタバサが、少しスピードを緩め、才人の右に並ぶ。 才人はタバサの態度に、何かあるのか?と周りを見渡したが、なにもない。 タバサは才人との距離を少し詰めると、不自然に左手をにぎにぎしはじめた。 …なるほど。

「こうしたいなら言えばいいんだよ」

きゅ、っと才人はタバサの手を握る。 すると、タバサの顔がみるみる赤くなった。

「…子供っぽくない?」

赤い顔のまま、才人の顔色を伺うように上目遣いでタバサは尋ねる。 …かわええ。 …い、いかん、違う道に目覚めそうだ…。 もうすでに道は踏み外しまくってるけどなー、という脳内デルフの突っ込みを無視し、才人は言った。

「そんなことないよ」

そう言って握った手に軽く力を込める。 タバサは嬉しそうに微笑んで、握り返してきた。

二人はしばらくそのまま歩き、適当な食堂に入った。 そこそこ賑わっている下品でない食堂で、席に着くと活発なウェイトレスが注文を取りにきた。

「はいいらっしゃーい!メニューこれねー。とりあえずなんか飲む?」

手渡されたメニューの最初のページにはびっしり何かが書き込んであるが、才人にはさっぱりだ。

「私は氷水。サイトは?」 「んー、あればミルクで」 「じゃあミルク」

二人のやり取りを見ていたウェイトレスが、当然の疑問をぶつけてきた。

「何?お兄さんが注文するんじゃないの?」 「あ、オレ字読めなくてさ」 「お兄さんなのに情けないわねー!妹に字ぃ読んでもらってるの?」

呆れたように言って、ウェイトレスは紙に注文を書き込むと、厨房の方へ行ってしまった。

「はは、兄妹だってさ」

才人は何の気なしにタバサにそう言う。 …返事がない。 見ると、タバサは物凄く不機嫌そうな顔をしていた。

「…妹…」

呟いてさらに不機嫌そうな顔になる。 あ、なるほど。 でもどう見ても、二人を恋人同士に見るほうに無理がある。 才人は、タバサの機嫌を取るようににこやかに話しかける。

「機嫌直せよ」

が、タバサの眉間の皺は納まらない。 はいおまたせー、と先ほどのウェイトレスが飲み物を運んでくる。 タバサはそれを受け取ると、一気に飲み干した。 …荒れてんなー。 飲み干すとタバサは、メニューを広げてウェイトレスに言った。

「ここからここまで全部」

ちょ、まてよ、と止める才人の声も届かず、タバサは続ける。

「…あと氷水大ジョッキで」

ちょっとした宴会くらいは開けるんじゃないか、という量の料理を、タバサはほとんど一人で平らげた。 才人もいくらかつまんだが、タバサの食べっぷりを見ているだけでなんだか胸がいっぱいだ。 タバサは最後のパスタをずぞぞぞぞっ、とすすり終えると、残っていた氷水のジョッキをぐびぐびぐびぷはー、と飲み込んで空にした。

「…完食おめでとう」

思わずそう呟く才人。 しかしタバサはまだ不満そうにしている。 タバサはどこからともなくメニューを取り出すと、呆れて見ているウェイトレスに向かってこう言った。

「あと、このプディング。ホールで」

その食堂の大食い記録をおそらく塗り替えたであろうタバサは、それでも不満そうな顔で、才人の横を歩いていた。 よっぽど兄妹呼ばわりされたのが気に入らないらしい。 …いい加減機嫌直してくんないかなー、と隣のタバサを見ると、その小さな唇の横に、プディングの食べかすがついていた。

「…こんなん残してるから妹呼ばわりされるんだよ」

そう言って才人はそのかけらを指でつまみ、自分の口に放り込む。 すると、タバサの眉間の皺がみるみるうちに解けていく。 …もう、妹でもいい。 タバサは才人の腕にぎゅー、っと抱きつくと、にっこり笑って言った。

「お兄ちゃん♪」 「頼むからソレだけはヤメて…」

その後、結局本屋には寄らず、そのまま学院に帰ることになった。 タバサはシルフィードの上でも嬉しそうに才人の横に寄り添い、始終にこにこしている。

「…いいのかよ、結局本買わなかったじゃないか」

それどころか、街で使ったお金といえば、タバサの食べた昼代のみ。 買い物、と言うわりには何も買っていない。

「…いい」

にこにこしながら、才人の横でタバサは続ける。

「サイトとお出かけしたかった」

く、この、かわいーこと言ってくれんじゃねえか、とか思いながら、しょうがねえ肩くらい抱いてやるか、と才人はタバサの肩を抱く。 タバサは一瞬ぴくん、と身体を強張らせたが、すぐに緊張を解くと、才人を見上げて目を閉じて唇を突き出して見せた。 …あの、これはそのアレですか、「キスして」って解釈でよろしんでしょうか。 才人はその小さな花びらのような唇に吸い寄せられるように自らの唇を寄せていく。 そして二人は、風竜の上で、口付けを交わした。

二人が帰ると、女子寮の入り口でルイズが待ち構えていた。

「いやあのだな!?オレはタバサに頼まれて買い物に付き合ってただけで!」 「へえ?その割にはなにも荷物持ってないじゃない。何を買ってきたのかしら?水色の髪の女の子?」

作り笑顔がものすごくコワイ。

「た、タバサからもなんとか言ってやってくれよ!」

慌ててタバサにフォローを頼む才人だが、タバサはとんでもない事を言ってのけた。

「…キスした」

びきぴっ。 空気が瞬時に凍りつき、その空気に亀裂が入るのが見えた。

「…い・ぬ?」 「ふぁ、ふぁい」

作り笑顔のまま、ルイズの顔がドス黒く染まっていく。 怒りのオーラが周囲を侵食し、まるで結界のように空間を閉じていく。 これが虚無の固有結界…っ!!

「浮気は許さないって言ったわよねえ…?」 「…ひ!」

そんな二人のやり取りを気にも留めてない様子で、タバサはルイズの横を通り抜けて女子寮に入ろうとする。

「ちょっと待ちなさい」

ルイズがそんなタバサを呼び止める。

「アンタも、人の使い魔に手出しといて、挨拶の一つもなし?」

しかしタバサは動じない。

「…サイトを不幸にするなら、私が貰う」

二人の視線の間に、火花が散る。 ぎぎぎぎぎ、とルイズの首がぎこちなく回り、作り笑いを才人に向ける。

「…サイト?私といると幸せよね?」

今は不幸ってーか怖いです。

「…幸せを強要しないで」

タバサはそんなルイズの言葉尻を捉える。

「今は私とこの犬が話ししてるの」 「犬なら話さない」

二人はんぎぎぎぎぎぎぎ、と視線をぶつけ合うと、一瞬で間合いを離し、お互いに杖を構えた。

「お、おいこら二人とも魔法はまずいって!」

結局、ハルケギニアの空を高々と舞ったのは、雪風と虚無の魔法でボロ切れ同然になった才人であった。 〜fin