ゼロの保管庫 別館

7-495

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495 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:35:17 ID:7w++2WTP 才人がもし、スレイプニィルの舞踏会の全容を知っていたら。 そこれはそういう「もしも」のお話です。

舞踏会の会場は、沢山の人でごったがえしていた。

「これ、全部誰かが化けてんのか…」

はー、と感心しながら、才人は会場の中に入ろうとする。

「これこれ」

すると、見知らぬ美女に呼び止められた。

「使い魔だとて例外はないぞ?君も鏡で変装したまえ」

…なんかずいぶんとじじむさい喋り方をする人だな?

「ほら、わしじゃよ。オスマンじゃ」

言って美女はうっふんと右手を頭の後ろに、左手を腰に、セクシーポーズを取る。 …中身知ってると激しくキモいんですけど…。 呆れた瞳で見つめる才人を、オスマンはぐいぐいと天幕の中に連れ込んだ。 その中には、『真実の鏡』があった。

「さあ、思い浮かべるがよい。己の理想の姿を…」

理想の姿…。 俺の、理想…。 色々思い浮かべてみるが、どうにも考えがまとまらない。 考えがまとまる間もなく、才人の体が光に包まれる。

「ん?どういうことじゃ?」

恐る恐る目を開けると…そこには自分がいた。

「あれ?どゆことっすか?」 「つまりアレじゃな、キミもギーシュと同じナルシストというわけじゃ」

オスマンの突っ込みに思わず反論する才人。

「んなわけないでしょ!ガンダールヴの力かなんかですよきっと」 「ふむ、ではそういうことにしておこうかの」

才人は結局才人のまま、舞踏会に参加することになった。 その背中を見守りながら、オールド・オスマンは呟く。

「最強の力、か。なるほどそう言うわけか。なかなか面白いもんじゃの」

ジジイ言葉の美女は余り様になっていなかったが。

496 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:36:01 ID:7w++2WTP 才人が会場を見渡すと…探している相手は、すぐに見つかった。 桃色の髪の、長身の貴婦人が、壁の花となって手持ち無沙汰にしている。 才人はその目の前まで行くと、その貴婦人に語りかけた。

「お前なあ、分かりやすすぎ」

才人が語りかけたのは、カトレア。 ルイズの敬愛する、ヴァリエール家の次女。 当のカトレア…ルイズは、目の前の才人に現れた才人に、一瞬、びくんと体を震わせて目をやったが、その姿が真実のものではないと思い込み、その仮定の下で話しかける。

「あら、どちらかと勘違いされていらっしゃるのでは?残念ですけど、私待ち人が」 「その待ち人だよ」

言って才人は、カトレアに化けたルイズを抱きしめる。

「え…?サイト、なの…?」

抱きしめられながら、半信半疑でルイズは問う。

「そうだよ。なんでか知らねえけど、鏡の魔法が効かなくてさ」

そう言ってルイズをいったん離し、その瞳をじっと見つめる。

「見つけたぞ、約束どおり」

その言葉に、ルイズの頬が赤く染まる。 そして…彼女の頬を、一筋の涙が伝った。

「え、なんでっ?」

泣くようなことしてないぞ俺、とか思いながら、慌てて才人はルイズの肩を抱く。

「ちょ、ちょっと外の空気吸ってこよう。な?」

そして、二人はバルコニーに出る。

497 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:37:20 ID:7w++2WTP バルコニーに出ると、才人は今一度ルイズに問うた。

「な、なんで泣くんだよ…」

ルイズは、未だ泣いていた。 声もあげず、ただただ涙を流す。

「う、嬉しくっ、って…」

サイトが私を見つけてくれた。私の姿じゃないのに、見つけてくれた。 それが嬉しくて、ただルイズは泣いた。

「…だって、カトレアさん知ってるの、俺とお前くらいじゃないのか…?」

才人の空気読んでない突っ込みが、ルイズのキモチを一気に冷めさせた。 たしかにちいねえさま知ってるの私とサイトぐらいだけど!

「アンタわー…」

でも、見つけてくれたことには変わりない。 ってことは、あの夜の続きをするってことで…。

「で、さ…」

才人が口を開く。

「あ、あの約束の事なんだけど…」

才人は照れたようにそっぽを向き、もじもじしている。 あ、なんかカワイイ。

「…うん、わかってる」

不思議と心は落ち着いていた。 …なんでだろう?あのウエストウッドの夜みたいな、不安と期待がごちゃまぜになった、そんな感じがしない。 今、ルイズの心の中は、ただただ温かいもので一杯だった。

「部屋で、待ってる。ずっと、待ってるからね」

そう言って、ルイズは、カトレアの姿のまま、才人とキスをした。

498 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:39:01 ID:7w++2WTP いそいそと部屋に向かう途中、突然ルイズは元の姿に戻った。 なんで?舞踏会はまだ…。 不思議に思っていると、ルイズの目の前に、巨大な影が舞い降りた。 ガーゴイルだ。

「ちょうどいいわ。アナタ一人ね」

そのガーゴイルの肩に、かつてウエストウッドの村で見た、もう一人の虚無の使い魔…ミョズニトニルンがいた。

「どうしてアンタがこんなとこにっ!?」

ルイズの問いかけに、ミョズニトニルンは酷薄な笑みを浮かべて、応える。

「私はね。私の主の望む場所にはどこでも赴くわ。それが例え、王宮でもね。  そして私の主はアナタの力を欲している…そういうこと」

ミョズニトニルンの言葉に反応するように、ガーゴイルが大きくその腕を振り上げた。

才人は、突然の奇襲に驚いていた。 襲撃者は目深にフードをかぶっており、その正体は分からない。 しかし、その目的だけははっきりしていた。 才人の抹殺。 容赦ない魔法の攻撃が、才人を否応なく戦闘態勢にさせる。

「一体、なんなんだよ!」

理不尽な攻撃に、才人は怒気とともにデルフリンガーを抜き放つ。 そして、ガンダールヴの印が…金色の光を放ち、その光が才人の全身を包んだ。

「な、なんだこれ!?いつもと違うぞっ!?」

驚きの声を上げる才人に、デルフリンガーが嬉しそうに語り掛けた。

「ついに、繋がったか!いよいよ『虚無の使い魔』のお目覚めだぜ!」

499 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:41:12 ID:7w++2WTP 二人の視界に、変化が訪れていた。 ルイズの左目には、才人に襲い掛かるフードの襲撃者の姿が。 才人の左目には、ルイズに襲い掛かるガーゴイルと、ミョズニトニルンの姿が。 そして。

サイトっ!大丈夫!? ルイズ!?なんで襲われてんだっ!?

心の声が、お互いの心に響いた。

「ついに『使い魔』として覚醒したってこったよ!お前らは今、完全に繋がった!  見せてやれ、本当の絆の力ってやつを!」

デルフリンガーの声が、お互いの心に響く。

そうか。これが。 本当の、使い魔と主の絆…。

二人はお互いの位置を即座に理解し、そして伝え合う。

ルイズ、そいつをひきつけながらこっちに来れるか?俺は目の前のをなんとかしてそっちに向かう! できるだけやってみる!サイトこそ、気をつけてね? 誰に向かって言ってやがる、俺は最強の盾、ガンダールヴだぜ? …うん。信じてる。

心の中で語り合い、二人は目の前の敵に対峙する。

「さて、さっさと決着つけさせてもらうぜ。  …ルイズが待ってんだ!」

才人はそう叫んで、大地を蹴った。 人間業とは思えない加速で大地を駆け、呪文を詠唱していた襲撃者の懐へ、一瞬で跳びこむ。 襲撃者はそのスピードに驚愕していた。 …速すぎる!詠唱が間に合わない…! 今までのガンダールヴの速度よりも、ずば抜けて速いスピードだった。

「…悪ぃ、急ぎなんでね!」

そして、デルフリンガーではなく、空いた左の拳で、襲撃者の鳩尾を容赦なく打ち抜いた。 襲撃者の身体はその一撃に軽く浮き上がり、その身体に不釣合いな大きな杖を取り落とした。 そして、そのフードがばさりとはだけ、その顔を露にする。

「タバサ!?」

気を失っているその襲撃者の正体は、タバサだった。

500 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:41:48 ID:7w++2WTP どうしてタバサが!? 気にしてる場合じゃねえ!前見ろ前っ!

「きゃぁっ!」

才人の助言に、自分を捕まえようと振り下ろされたガーゴイルの腕を、ルイズは避ける。

「おのれ、ちょこまかと…!」

シェフィールドは違和感を覚えていた。 今目の前にいる虚無の担い手の動きが、先ほどまでとあからさまに違う。 先ほどまでのルイズの動きは、どう見ても普通のメイジ以下の動きだった。 それが、ガーゴイルの最初の一撃を避けた辺りから、動きが変わっていた。 それは、才人の戦闘経験を吸収し、単純なガーゴイルの動き程度なら見切れる眼力を、ルイズが得ていたからだ。 お互いの知覚・思考を共有できる使い魔と主ならではの、戦闘手段であった。 そして、ルイズは巧みに、シェフィールドを才人の方へ誘導していく。

「くっ、何故だ、なぜ捉えられん!」

焦りを見せるシェフィールドに、ルイズは余裕を見せる。

「アンタが下手糞なんでしょう!ほら、私を捕まえるんじゃなかったの?」

その言葉はシェフィールドの逆鱗に触れた。

「おのれ!愚弄するかぁっ!」

ガーゴイルの拳が、先ほどに倍する速度で振り下ろされる。 生かしておくつもりでなければ、こんな小娘など! 確かにその速度の拳は、ルイズに避けられるものではない。 しかしルイズは、その拳を避ける動きすら見せない。

ドスっ!

鈍い打撃音をたて、ガーゴイルの拳が止まる。 ルイズの目の前の、才人の構えたデルフリンガーに受け止められて。 にっこり笑ってルイズは才人に語りかける。

「遅刻よサイト」

その言葉に、才人も笑顔で応えた。

「悪ぃ、遅くなった」

501 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:42:28 ID:7w++2WTP シェフィールドはガーゴイルの拳にさらに力を込めさせるが、才人はびくともしない。 それどころか、才人がデルフリンガーを振り払うと、巨大な拳は横に反れ、勢い余って大地にめり込んだ。

「くっ…ガンダールヴ!刺客はやられたか!」

拳を引き抜き、シェフィールドはガーゴイルの体勢を整えさせる。 その隙に二人は心の中で作戦を練っていた。

サイト。ディスペル・マジックを使うわ。 了解。範囲はどんなもんだ? そうね。この辺を飛び回ってるガーゴイルをまとめて落とせる程度…かしら? 広いな。大仕事だ…。 守ってね? 分かってる。

シェフィールドの目に、詠唱に入った虚無の担い手の姿が映る。

「させるかぁっ!」

シェフィールドの指示に、上空を舞っていた小型のガーゴイルが、ルイズめがけて文字通り雨のように降り注ぐ。

「やらせねえよ!」

才人はなんと、詠唱中のルイズを抱え、ガーゴイルの群れからルイズを守る。 そして、駆け抜けた方向には…シェフィールドの載る、ガーゴイルがいた。 才人はルイズを左腕に抱えたまま、思い切り地面を蹴ると、シェフィールドのガーゴイルの起伏を利用して、一瞬でシェフィールドの目の前まで駆け上がった。 あっという間に、シェフィールドの乗る肩の上へ、才人は並ぶ。

「なっ…!?」

予想外の才人のスピードに、シェフィールドは全く着いていけていなかった。 ここまで接近してしまえば、近接戦闘能力のないミョズニトニルンは、ただの人と化す。

「悪いな。伊達に最強の使い魔じゃないんでね」

言って才人は、デルフリンガーの柄で、シェフィールドの鳩尾を思い切り突いた。 シェフィールドは気を失い、ガーゴイルのコントロールが外れる。 そして、次の瞬間…ルイズの詠唱が、完成した。 ディスペル・マジックによって力を失ったガーゴイルは次々と、空から落ちていった。

502 名前:双月の舞踏会〜if[sage ] 投稿日:2006/11/17(金) 00:43:04 ID:7w++2WTP 「甘ぇなあ相棒は」

気絶させただけのシェフィールドを見下ろす才人の右腕の中で、デルフリンガーはそう呟く。

「言っただろ?俺はもう、誰も戦争の道具になんかさせやしない。  …こいつも、主に使われてるだけだ。なら、殺す意味なんかねえよ」

言ってデルフリンガーを鞘に戻す。 すぐ隣では、ルイズが自分を見上げていた。 ルイズの心の声が聞こえる。

…アンタの言葉、嘘じゃなかったんだ。

二人の心は今や、完全に繋がっていた。 お互いの考えが分かる。何を感じ、何を考えているかが、まるで自分のことのように分かる。 それが使い魔と主の、絆だった。

…そっか。ルイズは俺の幸せのことなんて、気にしてたんだな。

そして今、ルイズには才人の幸せが何なのか、はっきりと分かっていた。 そして今、才人にはルイズの幸せが何なのか、完全に理解できていた。 それは、結論として全く同じものだった。

…ずっと。 …一緒に、いよう。

二人を、死が別つまで。

二人の視線が絡み合い…二人は唇を重ねた。 それは、契約の証。二人が永遠に共にあることへの、誓いの証。 何よりも堅く、何よりも確かな、永遠の絆。

「…愛してる」

静かに輝く二つの月が、祝福するように二人の誓いの言葉を照らしていた。 〜fin

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