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565 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/18(土) 11:48:26 ID:ZknoTngp 「本日の公務は以上です。お疲れ様でした、陛下」

マザリーニは言って、開いていた帳簿をパタンと閉じた。 ここはトリステイン王国王室。執務机と必要最低限の家具だけがある、王室と呼ぶには余りに質素な部屋。 アンリエッタはその執務机の椅子の上で、大きく伸びをした。

「これこれ、はしたないですぞ女王陛下」 「よいではないですか。公務はもう終わりなのでしょう?」

言ってアンリエッタは席を立ち、マザリーニの背後に回りこむ。 そして、その肩を揉み、労をねぎらう。

「あなたもお疲れ様でした、枢機卿」 「な、なんともったいない…」

アンリエッタの指圧はぎこちなく、マザリーニの肩の凝りをほぐすには程遠かったが、それだけで彼の一日の疲れは飛んでいくようだった。

「それで、明日以降の予定はどうなっていますか?」

指圧を続けながら、アンリエッタは問う。言わなくても明日の予定は分かっていたが、念のため、だった。 マザリーニは手帳を出し、内容を確認する。 その背後で、アンリエッタがそわそわと落ち着きを無くしているのが分かる。 マザリーニは、これが年頃の娘を持った父親の心境か、とため息をついた。

「…あと二日は、特に大した公務もありませんな。溜まっている書類もすべて、こちらで処理できる範囲のものです」

アンリエッタの顔が歓喜の色に彩られる。

「で、では、少しお出かけしてもよろしいかしら…?」

そして、再度マザリーニの肩を揉む。それは、厳しい父親のご機嫌を取り、外出をねだる娘のようで。 …まったく、しようのない娘だな。 マザリーニには分かっていた。アンリエッタはばれていないと思っているのだろうが、彼女は想い人の下へ赴くつもりなのだ。 確かに、彼の下なら、彼女が危険に晒されることはありえない。 …別の危険はあるが、それは陛下の心持次第で防げるものだし…。

「…明後日の夕刻までには、お戻りくださいね?」 「…は、はいっ!」

アンリエッタの満面の笑みに、マザリーニも笑顔になる。 …まったく、この年で娘を持つと大変だな。

566 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/18(土) 11:49:42 ID:ZknoTngp まず、才人に起こった今朝からの出来事を、順を追って説明しよう。 朝、目が覚めるといきなりルイズに蹴飛ばされた。 「なにご主人様より遅く起きてんのよ、犬っ!」 朝食を持ってきたシエスタが何もない床に蹴躓いて、才人に覆いかぶさって、ルイズに蹴飛ばされた。 「朝からサカってんじゃないわよっ、犬っ!」 朝食を食べ終わって日課の素振りをしに行くと、タバサが不意打ちで抱きついてきて、ルイズに蹴飛ばされた。 「見境なく尻尾振ってんじゃないわよっ、犬っ!」 素振りが終わると突然アニエスがやってきて、さあデートに行くぞ、なんて言うから、ルイズに思い切り蹴飛ばされた。 「いいいいいいいいい、犬ぅーーーーーーーーーーーーー!!」 そして無理矢理馬上の人になった才人は、アニエスに先導されて、どこかに向かっていた。 …尻が腫れ上がっているかもしれない…。 まだ痛む臀部を気にしながら、才人は馬を走らせる。

「災難だったな、サイト」

明らかに笑みを含んだ声で、アニエスがそう語りかける。

「…アニエスさんが『デートだ』なんて言うからですよ…。  姫様からの呼び出しなら、最初からそう言ってくれればいいのに…」

アニエスが学院にやってきた理由は、アンリエッタ女王が才人を呼び出した、という書簡を届けるためだ。

567 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/18(土) 11:50:12 ID:ZknoTngp しかし才人にその書簡は読めないので、尻を蹴飛ばされて呻いている才人の前で、アニエスが読み上げたのだ。

『シュヴァリエ・ド・サイト。トリステイン女王アンリエッタの名において、汝を召還す。  行く先は追ってシュヴァリエ・ド・アニエスが伝えられるべし』

王命で呼び出されたとあっては、シュヴァリエの才人は断ることはできない。 ルイズが私も行く、と言い張ったが、アニエスに「王命にミス・ヴァリエールの名はない」と言われては、貴族のルイズは黙るしかないわけで。 ため息をつく才人に、アニエスは馬を横に並ばせ、笑みを浮かべて言った。

「少なくとも陛下は『デート』のつもりだと思ったんだがな?  …いつの間に陛下にまで手を出した?この節操なしめ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、アニエスは器用に馬を操りながら肘で才人の頭を小突く。 気分はすっかりやり手の弟を持った姉だ。 …普通の姉は弟に手は出さないが。

「え。あの。その」

全部話す訳にもいかず、才人はしどろもどろになる。

「ま、日頃の修行の成果を試す時だな?  ついていってやれないのが残念だが、ちゃんと陛下を満足させろよ?」 「あ、あのですねえっ!」 「そら、言っている間にもうついた」

そうしてもめていると、街道沿いに小さな旅籠が現れた。 その小さな煙突からは煙が立ち昇り、才人から見える馬小屋の中には、数頭の馬が繋がれて、その宿が営業中であることを知らせていた。 その宿の前には、エプロンを着けた黒髪をポニーテールに纏めた女性が、手を振っていた。 …あ、あれは…!

「ここから先は、お前の仕事だ。  あと、呼び名を間違うなよ?あそこは一応、普通の宿だ」

アニエスはそう言って、馬を反転させて才人と別れる。 才人は馬を走らせ、黒髪の女性の前で、馬を止める。

「ア……アン……?」

その黒髪の女性は、髪の色と髪形こそ違え…アンリエッタ女王、その人だった。 いつかトリステイン魔法学院で見せた、白い上着に黒い足にぴったりしたズボン、という『アン』の扮装である。 これなら、女王を間近で見たことのある人間しか、彼女が女王だとは露ほども思わないだろう。

「お待ちしておりました、シュヴァリエ・サイト」

最も天上に近い王たるアンリエッタが、ただのシュヴァリエの才人に、恭しく礼をした。 馬から下りた才人は、その態度に恐縮する。

「そ、そんな、丁寧にしなくても…」

しかしその唇を、『アン』はウインクしながら、人差し指で塞いだ。

「サイトさん、忘れてません?私は『アン』ですよ」

言って腰の後ろに手を回し、にっこりと微笑んだ。 そこに女王アンリエッタの壊れそうな儚さはなく…日向の花のような、明るい美しさが宿っていた。

568 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/18(土) 11:51:39 ID:ZknoTngp その宿は、一階が食堂、二階より上が宿として機能するものらしく、入って直ぐは、昼食を採る客でごったがえす食堂だった。 宿に入ると、才人は拍手でもって迎えられた。

「…え?」

驚く才人に、周りに居合わす客たちは、口々に才人を称える。

「シュヴァリエ・サイトのお出ましだ!」 「トリステインの英雄!万歳!」

なにこれ、と才人が隣で微笑むアンに視線で説明を求める。

「すいません、サイトさんの名前で宿をとったら、あっという間にお客さんたちの間に『あの英雄が泊まりに来るぞ!』って話題になっちゃって…。  あ、それと、今日は私、サイトさんのお付ですから。なんでも言ってくださいね」

言ってアンは食堂の真ん中のテーブルを勧める。 …こ、こんなとこに座ったら周りから注目されるじゃん…! しかし才人に断れようはずもなく、才人は覚悟を決めて席についた。 すると次の瞬間。 どすんっ、と木でできた大ジョッキが才人の目の前に置かれた。 その取っ手を握るのは、熊に見紛う髭の大男。顔もむき出しの二の腕も、向こう傷だらけで、彼が尋常でない生業の人間だと理解できた。

「おう、こいつは俺のおごりだ!俺は『赤熊』!アルビオンでお前さんに助けられた傭兵よ!  ここいいる連中の半分は、アルビオンでお前さんに命を救われたヤツばっかだ!  今日は、全員でお前さんをもてなすからな!なあお前ら!」

『赤熊』と名乗った男の怒声に、周りにいるどう見ても尋常ではない風体の男どもが、『おぉぉーっ!』と鴇の声を上げる。

「あ、ありがと…」

その勢いに押され、才人は思わず引く。 そんな才人の手を、アンはそっと握り、エールの入ったジョッキの取っ手を握らせる。 才人は思わずアンの方を見る。

「さ、皆サイトさんを待ってますわ。音頭をどうぞ」

そして両手を添え、才人にジョッキを持ち上げさせる。 才人は何を言っていいのか一瞬考え、そして言った。

「えっと…我らの未来に、乾杯」

その声に一瞬、食堂がしん、と静まり返る。 しまった!『トリステイン万歳』とかのがよかったか? 外しちゃったオレーーーーーー!? しかし次の瞬間、食堂は湧きに湧いた。

「おう!我らの未来に!」 「シュヴァリエ・サイトの未来に!」 「ハルケギニアの未来に!」 「シュヴァリエ・サイト万歳!」 「かんぱーーーーい!」

そして、宴の幕は切って落とされた。

654 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:05:20 ID:xUaI2Nz7 本人の予想通り、才人は真ん中のテーブルでもみくちゃにされていた。 次々に運ばれてくる料理と、空になるたび奢られる酒に、才人は辟易していた。

「大人気ですね、サイトさん。私も鼻が高いです」

言って、隣で肉を切り分けるアン。

「はは。正直そんな器じゃないと思いますけど」

苦笑いして、アンの取り分けた皿を受け取る才人。 そんな才人の肩を、『赤熊』が遠慮なくぶったたいた。

「なぁに謙遜してやがんだ!単騎で七万の軍を止めるなんざ、俺でもできねえよ!」

周りの傭兵仲間が、そうだそうだ、と合いの手を入れる。 その声にがははははと大声で笑い、さらに続ける。

「お前はそれをやってのけた。そして、それに倍する命を救ったんだ。  だから謙遜なんかするな!『俺がトリステインの盾だ!』くらい言ってもいいんだぜ!」

そして、アンの切り分けていた肉の塊を半分ばかり両手でむしり取ると、手にした塊にかぶりついた。

「こんな旨いもんが喰えるのも、旨い酒が飲めるのも、綺麗な姉ちゃんが抱けるのも、全部お前さんのお陰だ!  わかったら胸張って叫んでみろ!『俺がトリステインの盾だ!』ってな!」

そしてもう一度、ばしんばしんと才人の肩を叩いた。 才人は困ったように、アンを見つめる。 アンは静かに微笑み、首を傾げてみせる。 言っちゃいましょう♪ その視線は確かにそう語っていた。 …そこまで言うなら…やったろーやないかー! 才人は残っていたエールを一気に飲み干すと、テーブルにダン、と右足を上げ、赤ら顔でジョッキを天高く掲げ、叫んだ。

「俺がトリステインの盾だーーーーーーっ!  文句あるかーーーーーーーっ!」

その声に、食堂中が沸きあがる。 『おおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーっ!』 宴の興奮は、最高潮に達した。

656 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:06:21 ID:xUaI2Nz7 宴が一段落すると、客たちは三々五々、食堂から散っていた。 外に出て行くもの、二階の部屋に戻る者…。 そして、宴の主賓は、食堂中央のテーブルで酔い潰れていた。

「んー、おれがとりすていんのたてらー…」

幸せそうな寝顔で、そう呟く。 後片付けを手伝っているアンは、くすりと笑うと、才人の座っている椅子にかけられたシュヴァリエのマントを、才人の肩に掛けた。 そんなアンに、同じく後片付けを手伝っている赤熊が語りかける。 彼はこの宴の発案者で、散らかしたのは俺たちだし、と律儀に片づけを買って出ていた。

「お付さん、英雄を部屋に連れて行ってやんな」

箒で床を掃いていたアンに、赤熊はそう声を掛ける。 しかし、食堂はまだ宴によって蹂躙された跡が痛々しいほど残っている。

「でも、まだお片づけが」

そう言って箒を抱えて、惨状を呈するフロアを指差す。

「アンタじゃ明日の朝日が昇っても掃除は終わらねえよ」

言って口の端を豪快に歪め、続ける。

「アンタ、英雄のお付なんて言ってたが、相当いいとこの出だろ?  隠さなくてもいいさ。仕草で分かるんだ、そういうの」

そして、呆けるアンから箒を奪い取る。 あ、とアンは箒を取り返そうとするが、赤熊は箒を後ろ手に隠し、それをさせない。

「たまの休みにゃ嫁にいびられながら家の掃除するのが趣味なんだ、俺は。  少なくともアンタよか掃除の作法は知ってる。  さ、行きな。そして、そこの鈍感な英雄に一発食らわせてやれ」

言って不器用なウインクをする。 その言葉に、アンの頬に朱が走る。

「そういう鈍感な男はな、押しに弱いんだ。なあに、女がいようとかまやしねえ。  押して押して押しまくれ。そうすりゃ、いつかどっかにすっころぶ」

そして下品な声でがははははは、と笑う。

657 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:07:25 ID:xUaI2Nz7 「そ、それじゃあ…」

アンは才人に歩み寄ると、そっと耳元で囁く。

「あの、サイトさん。そろそろお部屋に行きません?」

すると才人はバネ仕掛けのようにびょんっ!と気をつけの姿勢になると、

「平賀才人、部屋に戻るでありますっ!」

と赤熊に敬礼をして、ぎっこぎっこと危うい足取りで歩き出した。

「ああ、危ないですっ!ほら、掴まって!」 「らいじょうぶでありますっ!」

千鳥足の才人をアンが支え、二階への階段を上がっていった。 そんな二人を、赤熊が懐かしいものを見るような目で、眺めていた。

「昔は俺もあんな感じだったのかねえ…」

気がつくと、ベッドの上で横になっていた。 そこは、先ほどの食堂ではなかった。 薄いランプの明かりに照らされたそこは、宿屋の一室らしかった。 絨毯こそ敷かれていなかったが、その部屋はしっかりした作りをしていて、一目でいい部屋だと分かった。 才人は体を起こすと、辺りを見渡す。 そこにいるはずの、アンの姿はなかった。 酒のせいで乾いた喉を潤そうと、才人はベッド脇の小卓に置いてあった水差しに手を伸ばす。 その水を飲んでいると、ドアが開いて、アンが入ってきた。

「あ、目が覚めたんですね」

手の上には、湯気を立てるシチュー皿の載った盆を持っている。 アンはそのままベッド脇の小卓の上にその盆を置くと、ベッドに腰掛けた。

「もう夜中ですよ。  …ひょっとして、朝まで起きないかと思いました」

そして、酔った才人を思い出し、くすりと笑う。 その笑いに妙なものを感じ、才人は一瞬ぎくりとする。 …俺、またなんか妙なことしてないだろうな…?

「あ、あの、俺…」

なにかしませんでしたか?という才人の台詞を遮って、アンは言った。

「なかなか可愛かったですよ、酔ったサイトさん」

…マジデ俺ナニシタンデスカーーーーーー!?

「赤ちゃんみたいで♪」

…死んだ。俺の心は今殺されました…。 才人がベッドの上で恥ずか死んでいると、アンは盆からシチュー皿を取り上げ、才人の前に差し出した。

「はいどうぞ。お腹が空いていると思って」

そして、スプーンでシチューを掬って、才人の前に差し出す。

658 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:08:25 ID:xUaI2Nz7 宴会でさんざん飲み食いしたはずだったが、お腹が不思議に空いていた。 実は才人の前に運ばれた料理は、ほとんど傭兵たちが平らげており、酔った才人は運ばれる料理を見るだけで、食べた気になっていたのだった。 才人はアンの差し出したスプーンを咥え、シチューを味わう。 そのシチューはあくまで柔らかく、才人の舌を刺激する。空腹の才人には、天上の味に思えた。

「おいしい!おいしいよコレ!」

言ってアンから皿を奪い取り、夢中でシチューを貪る。 実際その位空腹だったし、そしてシチューは旨かった。 あっと言う間に平らげると、空っぽになった皿を小卓に置いた。

「ご馳走様っ!」

そしてアンを見ると。 泣いていた。

「え?ええええええええええ??お、俺なんかした!?」

何が起こったのか理解できず、慌てる才人。 アンはそんな才人を見て、頭を振った。

「いいえ、違うんです。嬉しくって…」

アンが言うには、このシチューは彼女が宿の厨房に頼んで作らせて貰ったものだというのだ。 いつか、自分の宿で、疲れた旅人に温かいシチューを出す。そのための一歩らしい。

「ずっと、上手に出来るかどうか不安だったんです。  …サイトさんが食べてくれるまで、すごく不安でした」

そして、目尻に溜まった涙を拭き、笑顔になる。

「これで、自信がつきました。ありがとうございます、サイトさん」

言ってぺこりと頭を下げる。 そんなアンに、かえって才人のほうが謙遜してしまう。

「そ、そんな大したことしてないですよ俺…」

頭を掻く才人のお腹が、不意にぐうっ、っと鳴った。 どうやらまだお腹が空いているらしい。 才人は思わず赤くなる。 アンはくすりと笑うと、皿と盆を手にとって立ち上がる。

「ちょっと待っててくださいね。お代わりを入れてきます」

659 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:09:36 ID:xUaI2Nz7 アンは直ぐにシチューのお代わりを持って戻ってきた。 その盆の上には皿以外にも小さな瓶が載っていた。 …食後の酒かなにかかな? そしてベッドから起きて部屋のテーブルの椅子に掛けていた才人の前に、その皿を置く。 才人はスプーンが置かれるのを今か今かと待っていたが、スプーンはいつまで経ってもアンの手の中だ。

「あのー?」 「サイトさんだけの特別サービスですよ♪」

言ってアンは、才人の目の前に椅子を引っ張ってくると、そこに腰掛け、シチューの皿を手に取った。 そしてスプーンでシチューを掬うと、才人の前に突き出した。

「はい、あーん♪」

才人は思わず周囲を警戒するが、誰も見ているはずがないと思い直し、アンの言葉に従う。

「あーん」

才人の口の中に、再び天上の味が広がった。 そうして何度も「あーん」を繰り返すと、十分余りでシチューはなくなった。

「はー、もうお腹一杯だあ」

満足して、才人は椅子の背に身体を預ける。 そんな才人に、アンは残念そうに尋ねる。

「あら、もう入りません?」

言って、盆の上に載った小さな瓶を手にする。 そういや、まだなんか用意してくれてあるんだっけ? 才人は少し考え、まだ大丈夫だよな、と思い直す。

「大丈夫、まだ余裕ありますよ」

才人がそう言うと、アンは瓶を持ったまま、妙なことを言った。

「それじゃ、準備しますからアッチ向いててくださいね」

そして反対側の壁を指差す。 …またなんか、脅かす気なのか? 宿に来たときのアレを思い出し、才人は妙な不安と期待に胸を躍らせ、素直にアンの言葉に従う。 背を向けると、後ろで衣擦れの音と小さな水音が聞こえ、アンの「どうぞ」という声がした。 才人はなにかなー、と期待半分で振り向く。

「…な」

そして固まった。

660 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:10:12 ID:xUaI2Nz7 アンは上着を脱ぎ去り、下着一枚になっていた。 上半身は完全に裸で、その胸を強調するように両腕を胸の下で組んでいる。 その胸はまるで油を塗ったようにてらてらと光っていた。 その顔は上気しきり、才人から視線を外している。

「ななななななな、なにやってんですか!」 「これ…上等な蜂蜜なんですよ…」

言いながら、うろたえる才人に歩み寄り、蜂蜜を塗ったせいで光を反射する胸を突き出してみせる。 才人の喉が、ごくりと鳴る。 それは才人のちっぽけな理性の揺らぐ音だった。

「サイトさんだけの特別サービスです…。  す、好きなだけ、た、食べて…」

才人の理性はその一撃でノックダウンした。 才人は口を開けると、遠慮なくその豊満な右胸にむしゃぶりついた。 口いっぱいに胸の肉をほおばると、舌全部を使って蜂蜜を舐め取る。

「はぁ…ふぁん!」

アンの喉から、嬌声が漏れる。 口の中に広がる甘い蜂蜜の味と、耳に流れ込む甘い声に、才人の思考が溶け出す。 舐めまわし、吸い上げ、そして歯で削り取る。

「あっ…ふぁっ…!すわれ、るぅっ…」

右胸が蜂蜜と共に才人に吸い取られるんじゃないか、という錯覚が、アンを狂わせる。 やがて、右胸の蜂蜜を全て舐め取ると、まだてらてらと光る左側に、才人は目を付ける。 そして、先ほどと同じように、口全部でアンの左胸を犯す。

「あ、あ、あ、はぁっ…サイトさっ…」

右胸を犯されて蠢き始めたアンの獣が、喉の奥から艶かしい声を絞り出す。 その声に刺激され、才人はもっとその声が聞きたくて、手を動かす。 才人の涎でべとべとになったアンの右胸を、才人の左手が鷲掴みにした。

661 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:10:47 ID:xUaI2Nz7 「ひゃぁんっ!」

両胸を犯される快感に、アンの喉と背筋が踊る。膝かかくかくと震え、体重が後ろにかかる。 アンはそのまま、後ろにあった椅子に腰を落とす。 才人は吸い付いたアンの胸に引きずられるように立ち上がった。 しかしまだ口は離さず、左手もアンの胸の柔らかさを楽しむことをやめない。 そしてその左手は、胸を揉みながら、器用に中指と薬指の第二関節で、アンの胸の最も敏感な部分を磨り潰した。

「は、あ、あ、あ、あ、あーーーーーー!」

その胸虐だけで、アンの身体は仰け反り、視界が白く染まった。 左胸の蜂蜜を舐めきった才人は、アンの胸からようやく口を離した。 アンを見下ろすと、椅子の背もたれにぐったりと身体を預け、その豊満な胸を快感の余韻に上下させている。 その胸の隙間から、琥珀色の液体が、下半身まで伝わっているのが見えた。

「全部…食べないとな」

ケダモノに支配された才人は、そう言い放つと未だ快感の余波に浸っているアンの胸の隙間に、舌を這わせた。

「ひゃぁっ!?」

一度達したアンの身体は、才人の舌が胸の間を這うだけで、燃え上がった。 才人は、丹念に蜂蜜を舐め取りながら、下へ下へと進んでいく。 そして、緩いカーブを描く臍のあたりを、特に丹念に舐めまわす。

「ふぁ、ふぁ、やぁ、おなかっ、やだぁっ」

アンはその快感に堪えるしかない。必死にかぶりを振り、意識を繋ぎとめる。 才人はさらに先に見える、蜂蜜と溢れ出る雌の蜜でべとべとになった下着に目をつけた。

「ここにも…残さず食べなきゃな。アンがせっかく用意してくれたんだし」

才人はそう言って、右手でべとべとのショーツをずらし、アンの中身を外気に晒す。 左手でジッパーを下ろし、自らのモノも、外気に晒す。 その光景を、アンはじっと見つめていた。

「全部食べちゃうよ?」

才人の台詞に、アンは頷く。

「どうぞ…全部、サイトさんのですから…」

アンの言葉に、才人は遠慮なく、二つの蜜でどろどろになった彼女の蜜壺を貫いた。

662 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:12:32 ID:xUaI2Nz7 「ふぁぁっ!サイトさんっ…!」

そのまま密着してきた才人の上半身を、アンは抱きしめる。 柔肉が才人の胸板との間で潰れ、アンにさらに快感を与える。 才人は腰を打ちつけながら、目の前で快感に囀るアンの唇を塞ぐ。

「ん…んふっ…」

才人の頭に両腕を回し、その口付けに応えるアン。 その間にも、才人のストロークが、アンを無理矢理二度目の絶頂に押し上げていく。

「ん、ん、んんんんーーーー!」

唇と秘所を塞がれたまま、才人を抱きしめ、アンは達する。 しかし、その締め付けにも才人は止まらない。 脱力したアンのそこを容赦なく突き上げ、自らの快感のみを求め、動く。 その動きに、達したはずのアンの身体が、さらに高みに押し上げられる。 そして、才人も限界に達した。

「アン、だ、出すよっ!」

どくどくどくどくどくっ! 才人の迸りが、アンの中を容赦なく灼き尽くす。

「あ、だめ、だめ、だめ、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

視界が無数の色にフラッシュし、アンの意識は焼き切れた。

663 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:13:29 ID:xUaI2Nz7 次の朝。 二人は揃って、宿を出た。

「送りますよ、トリスタニアまで」

いつまでも自分の腕を離さないアンに、才人はそう優しく語り掛ける。 しかし、アンは首を振る。

「ダメですよ。そんなに優しくされたら…泣いちゃいます」

しかし、既にアンの目尻には、涙が浮かんでいた。 この逢瀬は、ここまで。 そんな一抹の寂しさが、アンを覆っていた。 でも…一つだけ。

「じゃあ、一つだけ。  お願い…していいですか?」

そう言うアンの瞳は深くて、吸い込まれそうで。 才人の思考を、完全に停止させた。

「いいですよ」 「優しく抱きしめて。  …キス、して…」

一つじゃなくて二つじゃん、なんて野暮な突っ込みは、停止した才人の思考にできるはずもなく。 才人は優しくアンを抱きしめ、その顎に手を

「い・ぬ?」

その数メートル向こうで、聞きなれた声とともに、地獄の扉が開いた。 そこには、朝靄を切り裂く黒いオーラを身に纏い、才人のご主人様が立っていた。

「あんまり遅いから迎えに来てみれば?  どういうことなのか説明してもらいましょうか?  っていうかその娘ダレ?  何してたの?」

一切崩れない完璧な作り笑顔がものすごく怖い。

「…あ、あの、どうやってここを?」 「質問してるのはこっち。  …そんなに聞きたい?アンタの馬をタバサの使い魔に探してもらっただけ」

後ろを見ると。 …竜の姿のシルフィードがいる。 …いままで竜の表情なんて分からなかったが、笑ってる。アイツ絶対笑ってやがる。

664 名前:夢への一歩 ◆mQKcT9WQPM [sage ] 投稿日:2006/11/19(日) 23:13:59 ID:xUaI2Nz7 「…ん?」

詰め寄ったルイズと、アンの目が合う。 アンは慌てて目を逸らす。

「あーーーーーー!姫様ーーーーーーーーーーーーーー!!」

…あ。バレた。

「…相応の覚悟ってこういう意味だったんですか姫様ぁーーーーー!」

ルイズはアンの襟元を掴み、がっくんがっくん揺する。

「な、ななななんの事ですか?私はアン、旅籠の女将を目指す、普通の女の子ですっ!」

あくまでとぼけるアンに、ルイズはふーーーん、と揺するのをやめる。

「なら、ここいいるのは、サイトを狙うアン、って子なわけですね」 「そうそう」 「なら余計に許せるかーーーーーーー!」

再び物凄い勢いでアンをがっくんがっくん揺する。 しばらくすると、アンは目を回して気絶してしまった。 …相変わらず温いのーみそしてるわねー。 倒れたライバルに冷たい視線を送ると、ルイズはこっそり馬小屋に向かおうとする才人のマントを掴み、そのままぐい、っと引っ張った。 思い切り引っ張られ、ぐえ、と声を上げて才人は地面に倒れる。

「さて。事情をたぁっぷりと聞かせてもらいましょうか?主にその身体で」 「あのぅ、言葉じゃダメっすか…?」 「不 許 可♪」

満面の笑顔で、ルイズはダメ出しをした。 そしてそのままずりずりと、才人はもといた宿屋に引きずられていった。 その日、その宿屋では、長く切ない悲鳴が止むことはなかった。 〜fin

その数日後、『トリステインの盾』を遥かに凌ぐ強さの女メイジの噂が、トリステイン中の傭兵の間で駆け巡ったというが、それはまた別の話。