ゼロの保管庫 別館

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だれでも歓迎! 編集

5 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:16:39 ID:J0Zz/K6a

 その日の朝はいつもとどこか違っていた。  平賀才人がそのことに気付いたのは、目が覚めてゆっくりと上半身を起こし、いつものように欠伸をしながら背を伸ばしたときである。  隣に、ルイズがいない。枕に桃色がかったブロンドが乗っていないのだ。  数瞬ほど瞬きしてから、苦笑する。よく見てみると、掛け布団の半ばほどの位置に小さな盛り上がりがある。 (寝相が悪くて布団に潜っちまった訳か)  ちょうどいい、このまま布団引っぺがしてからかってやれ、と囁く悪戯心に、才人は素直に従った。 「ほら、起きろこのねぼすけめ」  楽しく笑いながら布団を引っ張ったとき、才人の頭を一つの疑問が掠めた。 (ルイズって、ここまで小さかったっけ)  小柄なルイズではあるが、さすがに本物の幼児ほどではない。  しかし、布団の盛り上がりはせいぜい本物の幼児ほどのサイズしかない。  その事実に才人が気付いたとき、布団は既に完全に宙を舞っていた。  そして才人は硬直する。  布団の向こうで小さな体を丸めて眠りこけていたのは、ルイズとよく似た顔立ちをした幼子だった。 (え、なにこれどういうこと。なんなんですかこの子。ルイズの隠し子か)  そんな訳ねえだろと思いつつも、あり得ない憶測が凄い勢いで頭の中を飛び交う。  混乱する才人の前で、その幼児はむずがるように顔をしかめたあと、欠伸をしながらゆっくりと体を起こした。  子猫を連想させる仕草で目をこすったあと、その幼児は眠たげな目つきで周囲を見回し、才人を見つけるとぱっちりと目を開いた。  そして、嬉しそうに微笑みながらこう言った。 「おはよう、サイト」  底抜けに元気な甲高い声で挨拶され、才人はへなへなとベッドに膝を突いた。

(落ち着け、落ち着くんだ平賀才人。冷静にこの状況を整理するんだ)  後ろから聞こえてくるやかましい声を敢えて無視しつつ、才人はベッドの上に座り込んで思考に没頭する。 (昨日俺の隣ではルイズ・ド・ラ・ヴァリエールその人が寝ていた。これは間違いないな。  で、朝目覚めるとそこにルイズの姿はなくて、その代わりにルイズをもっと小さくやかましくしたこのお子様がいた。  俺はルイズに妹がいるって話は聞いたことがないし、隠し子なんてのも年齢その他から考えてあり得ない。  以上のことから導き出される結論は)  頭に浮かんだたった一つの答えを、才人は苦笑で無理矢理追い払った。 「ないない、そんなことあるはずないって」 「サイト、サイトってばー」  当のお子様はこちらが名乗ってもいないのに名前を連呼しながら、才人の肩に跨って遠慮なく髪の毛を引っ張ってくる。  才人は大きく息を吐き出すと黙って幼女をベッドに座らせ、正座して彼女と向き合った。

6 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:17:31 ID:J0Zz/K6a

「ちょっと、聞きたいんだけど」 「なあに」  大きく首を傾げて鳶色の円らな瞳でこちらを直視してくる幼女。こちらが反応したためか上機嫌である。  才人は躊躇した。一度唾を飲み込んだ後、思い切って問う。 「お嬢ちゃんのお名前は、なんていうのかな」 「どうしてそんなこと聞くの」  幼女は不思議そうに問い返してきたが、才人が「いいから大きな声で言ってみなさい、さんはい」と促すと、満面の笑みで答えた。 「ルイズ」  一瞬絶望的な気分になりかけるも、才人は「いやいや待て待て」と首を振って気を持ち直した。 (まだ分からんぞ。同じ名前の他人ってこともあるかもしれねえし)  地球でも外国の人ってやけに同じ名前多かったしな、と考えながら、才人は問い直した。 「名字も言えるかな」 「え、うんとね、うんとね」  ルイズと名乗った幼女は小さな腕を組んで一生懸命考え込んだあと、またも全開の笑顔で答えた。 「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール」  決定だ。確定だ。敗訴だ。  何故か敗北感に打ちひしがれながら、才人はベッドの上に膝を突く。 (なんてこった、要するに)  もう一度唾を飲み込み、才人は頭の中で再度その事実を確認する。 (ルイズの奴、縮んじまったのかよ)  信じがたい事実である。信じたくない事実である。  しかし目の前のちびっこはルイズとそっくりの顔でルイズと同じ名前と名字を名乗っている訳で、それはつまりこの結論が間違いなく正しいことを示している。 (誰かが俺を騙そうとして似たガキを連れてきたんじゃ)  一瞬そんな推測に希望を抱きかけた才人だったが、そんなことをして喜ぶ人物など才人の周囲には一人もいない。  大体にして、死体を自由に操るような魔法が存在する無茶な世界なのだ。  人間をちょっと行き過ぎなぐらいに若返らせる魔法が存在したとして、特に不思議ではないような気がする。  結局のところ、ルイズがちびっこくなったらしいという事実を否定することができず、才人はまたもや絶望に打ちひしがれる。  これでまたどんな災難が自分に降りかかってくるのかと思うと、晴れた空に厚い雲がかかってくるようにすら感じてしまう。 「ねーねーサイト、サイト」  そんなサイトの服を、ルイズがせがむように引っ張る。  疲労感を堪えて顔を上げると、ルイズが小さくはにかむような表情でこちらを見ていた。 「あたし、お名前言えたよ」 「ああ、そうだな」  一人称が微妙に幼くなってるなあと変なところに気付きつつ、才人はぼんやりと「それで」と言う。  するとルイズは何かを期待するような甘えた表情で言った。 「ほめてほめて」  何で名前言えたぐらいで褒めてやらなくちゃいけねえんだお前ホントは16歳だろうが。  という文句を口にすることなどもちろんなく、才人はため息を吐きながら適当にルイズの頭を撫で回した。 「ああ、よく言えたな、偉いぞルイズ」  我ながら投げやりな褒め言葉だったが、それでもルイズは万歳するように両手を上げて、 「わーいサイトにほめられたー」  と、また笑顔全開で喜んでいる。  そんな無邪気なルイズを見ていると、なんだか自分があれこれと悩んでいるのが馬鹿らしく思えてくる才人である。 (そうだな、まあこういうのもたまには悪くないかなあ)

7 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:18:27 ID:J0Zz/K6a

「なんて言うと思ったかコラァ!」  モンモランシーは悲鳴を上げた。唐突に怒鳴り声が響き、何者かが扉を蹴破りながら自分の部屋に侵入してきたのだ。 「なに、なんなの一体」  朝、そろそろ出かける支度しなくちゃなどと考えていた時分である。  部屋に飛び込んできたのは才人であった。目をギラギラと怒りに燃やし、こちらを睨みつけている。  両手を後ろに回して誰かを背負っているようだったが、その人影が小さいせいで誰を背負っているのかはよく見えなかった。  何よりも、そんな余裕がない。こちらがまともに反応するヒマもなく、才人が遠慮のない足取りで迫ってきたからである。  そして一言、 「吐け」  叫び声の凄まじさと訳の分からない迫力に押されて、さすがのモンモランシーも半泣きで後ずさってしまう。 「なんの話よ」 「しらばっくれるんじゃねえこのモンモンめ。あれだけ言ったのにまたルイズに変なもの飲ませやがったな」 「いやだからなんの」 「言い訳してる暇があったらさっさと解毒剤作りやがれこの変てこパーマのお蝶夫人が」  才人は足を踏み鳴らして怒鳴りつける。全く以って意味不明である。  よく見るとこの騒ぎを聞きつけて部屋のすぐ外に人垣が出来ており、モンモランシーは本気で泣きたい気分になった。 「こらこらサイト、君はまた何を騒いでいるのだね」  慌てた声で呼びかけながら、頼りにならない救いの主が部屋に飛び込んでくる。  余程急いで来たのだろう、いつもは念入りにセットしている髪を汗で乱しながら、ギーシュが息も荒く才人とモンモランシーの間に割って入った。 「今度はなんだ、モンモランシーは何もしてないぞ」  及び腰ながら両手を広げてこちらを庇うギーシュに、モンモランシーは遠慮なく部屋の隅に退避する。  それを厳しく目で追いながら、才人は体の向きを変えて自分の背に背負っていた人影を見せてくる。 「嘘吐け、これ見りゃそこのでこっぱちがやらかしたのは一目瞭然だろうが」  その人影を見て、モンモランシーは目を瞬かせる。  見覚えのある顔の幼女である。才人の背におぶさりながら「いけーサイト、やっつけろー」などと無責任に囃し立てている。 「なんだこの子は、ずいぶんと君のご主人様に似てるじゃないか」  驚きの声を上げるギーシュもまた、モンモランシーと同じ感想を抱いたようだ。  才人はイライラしたように地団太を踏み、片手で幼女を支えたまま、こちらに指を突きつけてくる。 「こんな阿呆なことやるのはそこの面白い髪型の女しかいねえんだよ。全く猿漫画の主人公みたいな名前しやがって」 「待って」  モンモランシーは才人の罵声を手で制止つつ問いかけた。 「あなたの口ぶり聞いてると、どうもその子がルイズ本人だって言ってるみたいに聞こえるんだけど」 「そうだよこれルイズ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールその人。お前が縮めた女」  相変わらず誤解している才人の言葉を無視しつつ、モンモランシーはその幼女の傍に行き、顔を覗き込む。 「こんにちは」  そう言うと、その幼女は目を瞬いて不思議そうに問いかけてきた。 「おばちゃん、だあれ」  モンモランシーは一瞬顔を引きつらせかけたが、「子供なんてこんなもんよ」と自分を宥めつつ、 「ちょっとごめんなさいね」  とその幼女の額に手を当てた。  目を閉じ、意識を集中する。  水魔法の使い手たるモンモランシーは、こうすることで相手の体内の情報をある程度把握することが出来る。  以前授業でも同じようにしたことがあり、そのとき組んだのがルイズだったので、彼女の体内の情報は少し覚えていた。  体内の情報というのは、要するに水の流れである。  ほとんど感覚的なものなので説明することは難しいが、だからこそ断言できる。  この幼女は、ほぼ間違いなくルイズ本人である、と。  モンモランシーはため息を吐き、きょとんとしているルイズから手を離した。

8 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:21:27 ID:J0Zz/K6a

「本当みたいね」 「ほれ見ろ、やっぱりお前が」  息巻く才人に、モンモランシーは首を振る。 「でもわたしじゃないわ」 「今更言い逃れ」 「そもそも、こんなことできっこないもの」  きっぱりそう言ってやると、才人は目を見張った。 「できないって」 「水魔法の秘薬って言ったって、若返りの秘薬なんかないってことよ。  そんなものがあったらこの国の女貴族は皆ずっと若いままでいるでしょうよ」  非常に分かりやすい例えのつもりで言ってやると、才人も彼なりに納得した様子でガックリ肩を落とした。 「じゃあ、これ元に戻すのも無理なのか」 「そういうこと。分かったらさっさと出て行ってくれない。今ならまだ許してあげるから」  朝っぱらから言いがかりでこんな騒ぎを起こされたのだから、怒る権利は当然こちらにある。  本来ならもっとネチネチいびっているところだが、許してやることにする。  確かに前回同じぐらい迷惑な騒ぎを起こしたことだし、何よりも今は少し上機嫌だからだ。  才人本人もさすがに気まずかったらしく、「ホントすまん、俺はまたてっきり」と謝罪しつつそそくさと部屋から出て行く。  ちなみに騒ぎの原因ともなったルイズは、そんなことなど知らぬ顔で「ねーサイトおなかすいたー」などと才人の背中で無邪気に喚いていた。  見物していた生徒たちも見世物が終了したことで散っていき、結局残されたのはモンモランシーとギーシュだけになった。 「なんだったんだ、一体」  首を傾げるギーシュに、モンモランシーは笑いかける。 「さあね。あの二人が騒いでるのなんていつものことだし、気にしなくてもいいんじゃない」 「それもそうか。やれやれ、全くあの二人といると気が休まらないなあ」  相変わらずあっさり納得するギーシュに苦笑しつつ、モンモランシーは部屋の外に向かって歩き出す。 「それよりほら、早く食堂行きましょうよ。朝食始まっちゃうわよ」  自覚するほど優しい物言いにギーシュも気がついたようで、すぐに目を輝かせてこちらに飛んでくる。 「おおモンモランシー、ついに僕の愛を受け入れてくれるぶぁ」 「調子に乗らない」  文字通り飛び掛ってきたギーシュの腹部に肘鉄を打ち込んで撃墜しつつ、モンモランシーは鼻歌混じりに歩き出す。  何となく上機嫌な理由は、騒ぎが起こってからギーシュが駆けつけるまでにほとんど間がなかったことと無関係ではなさそうだった。

9 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:22:59 ID:J0Zz/K6a

 時は過ぎてその日の夕方、才人はコルベールの研究室の中の椅子に座っていた。  満身創痍と言って差し支えないほど、心身ともにボロボロの状態である。  ルイズは、才人の予想どおり行く先々でヴァリエーション豊かな騒動を巻き起こしてくれた。 「あらルイズったらずいぶん可愛くなっちゃったわねえ」  と大爆笑してルイズを抱えあげたキュルケの指に思い切り噛みつき、 「きゃーミス・ヴァリエールとっても可愛いです、抱っこさせてください」  と言ったシエスタの胸を腫れ上がるまでビンタしまくり、 「……」  といつものように無言で無視を決め込んでいたタバサの本を素早く掻っ攫って「いちまーいにまーい」と破り捨ててみたり。  特にタバサが無言で氷柱を連発してきたときは本気で死ぬかと思ったものだ。何とか本を直して事なきを得たが。  他にも授業中に「ねーサイトおしっこー」と言っては猛ダッシュさせ、  食堂ではスープが熱いと言ってふーふー冷まさせたと思ったら今度は温いと喚き出す。  ようやく大人しくなったと思ったら物影で学院長のネズミをいじめていたし、  マリコルヌにデブを連発して言ってキレさせたりギトーを隠れハゲ呼ばわりして分身殺法喰らわせられたり。  落書きされたデルフリンガーがマジ切れしたときはさすがの才人も泣きそうになった。何とか落書きを消してなだめたが。  それでいてこちらが怒ると泣き喚いてエクスプロージョンを連発したりするのだ。  いやこの辺などまだ温いレベルと言ってもいい。  終いには火蜥蜴のフレイムの尻尾を踏んづけて遊んだりシルフィードの口に棒で突き刺した犬の糞を突っ込もうとしたり。  そんなこんなで一日中走り回った才人は、疲れ果ててコルベールの研究室の机に突っ伏すこととなったのである。  出てくる言葉は愚痴ばかりだ。 「なんで子供ってあんなにウンコ弄りたがるんですかね」 「それは女性の心理と同じく永遠の謎というものだよサイト君」  さすが先生こんなくだらねえ質問にも知的に答えてくれると才人は感激して顔を上げる。  そんな才人を微笑んで見つめ返すコルベールの頭が以前よりも光り輝いて見える。 「うわぁ、先生の頭とっても眩しいナリ」 「これは知性の輝きというものだよサイト君」  さすが死の淵から生還した先生、こんなに失礼なこと言われても全然怒らねえぜと才人は尊敬しながらコルベールを見つめる。  きっとこのパワーアップしたコッパゲ先生なら、この異常な事態も解明してくれるに違いない。  ちなみに騒ぎの原因であるルイズは研究室の片隅の簡易寝台ですやすやと眠り込んでいる。  走って叫んで逃げ回る才人の肩で無責任にはしゃぎまくった挙句、「ねむい」と呟いてさっさと寝てしまったのである。  ナメとんのかこのガキャア! とキレるつもりは毛頭にない。そんな元気はもうとっくにない。  今はただただこの悪夢が可及的速やかに解消されることを願うばかりである。 「で、どうなんですか先生」  期待して聞くと、コルベールは微笑んだままそっと明後日の方向を見て、 「分からん」 「もっぺんくたばれこのハゲェ!」  才人は叫んで立ち上がって立ちくらみを起こして床に倒れこむ。  疲れすぎたせいで堪忍袋の尾が短くなり体力の限界値も低くなっているのだ。  コルベールはあくまでも怒らずにそんな才人を椅子に座りなおさせ、淡々と説明する。 「落ち着きたまえサイト君。原因については大体察しがついている」 「本当ですか」 「というより、推測できる原因はただ一つだと思うがね」 「というと、つまり」 「虚無だよ」  人差し指を立ててコルベールが断言する。  ああやっぱりそれかと才人は肩を落とす。何となく、想像はついていたのだ。  虚無。伝説の系統。ルイズが必要としたときに必要な魔法が祈祷書に浮かび上がるという、よく考えれば都合良すぎな魔法。  ちなみにコルベールは才人が伝説の使い魔であることから大方の事情を察していたらしく、  ルイズが虚無の担い手であることは説明するまでもなく知っていたようだ。  とにもかくにも、虚無である。なるほど虚無ならどんな魔法が出てきても納得できる。  爆発させたり幻作ったり魔法解除したり。  よくよく考えたらあまり関連性がない魔法ばかりである。  いや本当はもっと細かいところでいろいろ共通しているものがあるのかもしれないが、才人には理解できないし興味もない。

10 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:24:16 ID:J0Zz/K6a

「つまり、虚無の魔法に人間の時間を巻き戻すといったものがあったということではないかな」 「今度は時間操作ですか」  本当に何でもありだなあと才人は感心するよりも早く呆れてしまう。  コルベールは重々しく頷いて解説する。 「私が思うに、虚無の魔法というのは空間や光など、他の四系統とは異なる概念に対して作用するものなのだろう。  他の四系統は物の素材を変えたり炎を起こしたりとあくまでも物質的なものにしか影響を及ぼさないが、虚無系統は」 「先生、俺に説明したって小難しい話は分かりませんよ」  本当なら聞いてあげたいところだったが、疲れ果てている才人にそんな余裕はない。  コルベールもそこのところは察してくれたようで、少し残念そうに頷きながらも結論を話してくれる。 「虚無の魔法は、ミス・ヴァリエールがそれを必要としたときに祈祷書に浮かび上がってくるのだったね」 「そうみたいですけど」  才人はちらりと部屋の隅に目をやる。ルイズは相変わらず健やかな寝息を立てているようである。  コルベールは一つ頷き、嬉しそうに言った。 「では解決方法は簡単だ。ミス・ヴァリエールが元に戻りたいと願えばいい」 「本当に単純ですね」  才人が呆れて言うとコルベールは苦笑して肩をすくめた。 「なに、どんなに難しく思える問題も、後で答えを知れば意外なほど簡単に思えてくるものだよ」 「そんなもんですかねえ」 「少なくとも、今回の件に関してはこれで間違いないはずだ。ミス・ヴァリエールが子供になりたいと願ったからこそ、  時間を巻き戻す魔法が祈祷書に浮かび上がったのだろうからね」 「なるほどねえ。でも、ルイズはなんでそんなこと」  才人が疑問を口にすると、コルベールは教師が宿題を出すときの口調でこう言った。 「それを考えるのは使い魔たる君の仕事だよ、サイト君」

「仕事ったってなあ」  ベッドに横たわったままルイズの部屋の天井を見上げ、才人はため息混じりに吐き出した。  ちなみにルイズは子供のままで、才人の隣で未だに眠っている。さすがお子様、眠りが深いらしい。 「なあルイズ、お前なんで子供になんかなりたがったんだ」  問いかけてみるも、返事はない。  眠っているから当たり前だが、起きたところでちゃんとした答えが返ってくるかは怪しいところだ。  才人は再度ため息を吐いて仰向けになる。  ぼんやりと天井を見上げながら、今日一日で分かったことやら疑問に思ったことなどを思い浮かべてみる。  まず一番に疑問に思ったことは、モンモランシーに対して「おばちゃん、だあれ」などと言ったことだ。  才人のことは覚えていたのにモンモランシーのことは忘れていた、ということなどあり得るだろうか。  他の女性陣に対する態度も気にかかる。  記憶ごと子供に戻っているなら、シエスタの胸に対する嫉妬の発露じみた行為はどう考えてもおかしい。 (ひょっとして、こいつ皆のこと忘れてる振りしてるだけなんじゃねえのか)  つまり、子供に戻るのは肉体だけということだ。  だが、もしそうだったとして一体何故忘れた振りなどしているのか。  そんなことを考えていたとき、不意にルイズが小さく呻いて体を起こした。

11 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:25:31 ID:J0Zz/K6a

「ここどこ」 「お前の部屋だよ」  短く答えてやると、ルイズは眠たげにしょぼしょぼさせていた目をぱっちりと開き、満面の笑顔で抱きついてきた。 「サイト」  そのまま、甘えるように才人の服に顔を擦りつける。 (普段のルイズならこんなことしないしなあ)  才人は首を傾げたあと、ふと下からの視線に気付いて顔を下げた。  見ると、ルイズがお子様らしい柔和な顔に似合わぬ不安げな表情でこちらを見上げている。 「どうした、ルイズ。怖い夢でも見たか」  才人は笑いかけながら、ルイズを持ち上げて自分の膝に乗せてやる。  ひょっとしたら中身は元のルイズかもしれないと疑いつつも、今日一日でお子様扱いがすっかり染み付いてしまったのだ。  そのままの体勢で、しばらく頭を撫でてやる。するとルイズは昼間の元気が嘘だったかのように遠慮深げな声で、恐る恐る訊いてきた。 「ねえサイト」 「なんだ」 「怒ってる?」 「どうして」 「いっぱいいたずらしたから」  まあ確かになあ、と苦笑しつつ、サイトはもう一度、ルイズの頭を少し乱暴に撫でてやった。 「怒ってねえよ」 「ほんとう」 「おう。お前も反省してるみたいだしな。その代わり明日はもう一回皆のところに謝りに行くからな」  才人がそう言うと、ルイズはもうすっかりお馴染みとなった全開の笑顔で「うん」と元気に頷き、 「あのねサイト」  「なんだ」 「だいすき」  不意打ちである。  ルイズは急に身を翻して才人の頬に唇を押し付けると、猫のような素早さでさっさと布団に潜り込んでしまった。

12 名前:素直になって、自分[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:27:37 ID:J0Zz/K6a

 しばらくの間頬を押さえて呆然としたあと、才人はぷっと吹き出した。 「ってなに焦ってんだ俺。子供にキスされたぐらいでよ」  とは言え、心臓が高鳴っているのも事実である。  子供に戻っているとは言え、あのルイズに「だいすき」などと言われては動揺するなという方が無理というものである。 「なんだかなあ」  誰もいないのに誤魔化すように笑いつつ、才人はそっと布団をめくる。  布団に潜り込んだルイズは、朝のように体を丸めてぐっすり寝入っているようだった。  その無垢な寝顔を見ていると、自然と口元に微笑が浮かんでくる。 (何がなんだかわかんねえけど、まあいいか)  才人は一つ欠伸をしてベッドに横たわった。

 夢うつつに、誰かが何事かを呟いているのが聞こえたような気がした。

 そして次の日目覚めてみると、全ては元通りになっていたのである。  ルイズは才人の横で相変わらず朝に弱い低血圧ぶりを発揮し、昨日のことを尋ねても「覚えてない」と唇を尖らせるばかり。  結局才人の疑問が解決されることはなかったものの、この騒動はこれで一旦幕を閉じたのであった。

 後日。もしもそのときルイズの部屋を覗き込む者がいたならば、剣に話しかける一人の少女を目にすることが出来ただろう。 「ほら見ろ、俺が言ったとおりだっただろう」 「まあ確かに、あの馬鹿犬あたしを放り出したりはしなかったけど」 「それどころか存分に甘えさせてくれたじゃねえの」 「まあ溜まりに溜まったストレスは十分発散できたわね」 「全く、単に『素直になりたい』って願ってただけだってのに、何だってあんなことになんのかね」 「知らないわよ。あたしだって子供に戻ってたときはビックリしたんだから」 「でも記憶はあったんだろ」 「あったけど、何か楽しくてどうでもよくなってた気がする」 「なるほど精神は子供のときに戻ってたって訳か。確かに子供は無邪気で素直だからね。いい意味でも悪い意味でも」 「そういうことなのかしら」 「そうだろうよ。で、お前さんはしたいことをしたわけだ。相棒にいつも以上に我侭言ってみたり素直にやきもち焼いてみたり」 「誰もやきもちなんて焼いてないわよ」 「へいへい。まあそういうことにしときましょうかねえ。ま、お休み前に素直になれてよかったじゃないの」 「なんの話よ」 「『あのねサイト』『なんだ』『だいすき』ぶちゅっ。いやああのときは相棒が犯罪者にってちょ、俺をどこへ連れて行くの」 「コルベール先生の研究室に溶鉱炉はあるかしら」 「いやさすがにそんなものはねえと思うけどってでも止めてあの先生に体弄られるのはイヤァァァァァ」  こうしてデルフリンガーの悲鳴は誰の耳にも届くことなく、魔法学院の片隅に消えていくのであった。

 蛇足ではあるが、平賀才人が今回の騒動以降しばらくの間顔を洗うのを拒んだことを追記しておく。

3 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:14:04 ID:J0Zz/K6a っつー訳で幼児化SS投下しますっつっても非エロですが。俺には濃厚エロは無理だよ。 で、誰が幼児化するかってーともちろん流れに乗っかって才人

13 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/21(火) 00:31:50 ID:J0Zz/K6a

3なんて言うと思ったかこのド低脳どもがぁ! この205の最も好きなことの一つは、 「幼児化した才人に感情移入してシエスタのおっぱい吸う妄想にひたりてえ」 とか思ってやがる貴様らの期待を見事に裏切ってやることだ!

……いやごめんなさいちょっと調子に乗ってました自分。 まあなんてーか昨日の書き込み見て勢いで書き出したんですが、 勢いで書き出したおかげで構成が無茶苦茶だったり安易だったりもう散々ですはい。

やっぱ幼児化して抵抗できないルイズをシエスタがヨシェナヴェの材料にしちまうSSとかの方がよかったかなあ と思いつつまた次回。

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