ゼロの保管庫 別館

8-546

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だれでも歓迎! 編集

546 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:19:12 ID:OehyylRk 春の陽気が穏やかに教室をつつんだある日授業が始まるとルイズはそわそわしながら外ばかり眺めていた。 「なぁルイズ」 「な、なによっ」 「なんか変だぞ、お前」 「なんでもないわよっバカ犬」 落ち着かないルイズは授業が終わるとすぐにどこかへいった。 「あんたたちケンカでもしたの?」 「いや、朝からあいつ変なんだよ」 キュルケもルイズの様子が変だと気づいているようだった。 「恋じゃないかしら、ルイズだし」 才人はキュルケの冗談を軽く流して教室を出た。 水精霊騎士隊の訓練に行くと広場でルイズがギーシュと何か話をしていた。 「・・・・どっちがスキなのかはっきりしなさいよね!」 2秒後、ギーシュはギッタンギッタンになった。 「相棒、貴族の娘ッ子 とられちまったなぁ」 背中のデルフリンガーも才人をからかう。 「ギーシュならモンモン選ぶだろ、後が怖いし」 デルフリンガーはふるふる震えている。笑っているらしい。 才人は訓練を終えて歩いているとルイズがマルトー親父と話していた。 「・・・・・・あいびき・・・」 会話はよく聞き取れなかったが、あいびきという言葉は何度も聞こえた。

547 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:20:02 ID:OehyylRk 「そうだった!!相棒、貴族の娘ッ子はヒゲが好きだったな?あいびきの相談じゃねぇのか?」 「・・・・何歳離れていると思ってるんだよ!それに男はヒゲじゃねえ、ハートだよ!心だよ!」 才人の脳裏にワルドのヒゲ面とヴァリエール公爵のヒゲ面とマルトー親父のヒゲ面が浮かぶ。 吐き気を抑えて部屋に戻り、ルイズと一言も会話せずに眠りについた。 翌朝、才人は窓から吹く春の朝風で起きた。 これからルイズの支度をしようと横を見るとルイズとシエスタはいなかった。 シエスタは仕込みや準備やらで才人より早く起きることはあるが、ルイズの早起きは初めてである。 才人はルイズの怒鳴り声どころか本人がいないことに首を傾げながらも顔を洗い、朝の訓練へ向かった。 「ミス・ヴァリエールならマルトーさんの所ですよ」 朝の準備をしているシエスタを見つけて聞くとルイズの居場所がわかった。 「相棒、ヒゲだよ。時代はヒゲなんだよ」 「サイトさんにはわたしがいるじゃないですか」 少し暗い顔になった才人に二人とも冗談を言う。

549 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:21:04 ID:OehyylRk ルイズはその日の授業も心ここにあらずな状態だった。たまに窓の遠くの方を見て はふぅなどとため息までついていた。才人から見ても恋する乙女に見えた。 「なぁデルフ」 「なんだね相棒」 「ルイズが・・・・結婚したら・・・俺、側にいられないよな・・・」 デルフリンガーはふるふると震えて笑った後、黙ってしまった。 「どうなんだよ!デルフ!」 「貴族の娘ッ子とマルトーの親父がくっつくわけねぇと思うがね、くっついちまったら・・・まぁ相棒は暇をもらうだろうね」 才人はだんだん不安になってきていた。 「相棒には俺がいるじゃねぇか!元気だしなよ。傭兵暮らしも楽しいぜ?」 「・・・・・・・」 「ま、あまり気にしてしょうがねぇだろ、なるようなるさ、相棒にはメイドの娘ッ子もついてるしな」 才人は泣きそうな顔でデルフリンガーを鞘に納めた。 部屋に帰り、ルイズにそれとなく聞いても、なんでもないとか、アンタには関係ないと言われるだけだった。 ルイズとマルトー親父のあいびきはそれから一週間ほど続いた。

550 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:21:50 ID:OehyylRk 「相棒、心が震えてないねぇ」 「デルフ、俺・・・ヒゲ生やすよ」 「似合わなねぇだろ、いくら何でも。それに男は心だろ?」 「ヒゲだよ」 「貴族の娘ッ子が好きなら直接聞いたらどうだね」 「それしか・・・ないのかな」 「ないね」 才人は部屋に戻ろうと広場を歩いてるとシエスタがなにやら荷物を抱えて歩いていた。 「シエスタ、仕事は終わったんじゃないのか?」 「はいっ仕事は終わってます。これはローラの部屋で飲むお酒です。サイトさんこそこんなところで何やってるんですか?」 「部屋に帰るところなんだけどな、シエスタは部屋に帰らないのか?」 シエスタは少し悲しい顔になって才人に背を向けてしまった。 「わたしはそこまで野暮じゃありません。サイトさんも早く部屋に帰らないとミス・ヴァリエールに怒られますよ」 シエスタの声が少し怒っていた。 「ああ、そうだな、ルイズのやつ なんだか様子が変だしな」 「サイトさんもしかして・・・いえ、なんでもないです」 シエスタは驚いて何か言いかけたが、背中のデルフリンガーが鞘から出てカタカタ震えるのを見てやめてしまった。

551 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:22:38 ID:OehyylRk 「サイトさん、早く部屋に帰らないとミス・ヴァリエールを誰かにとられちゃいますよ」 シエスタはいたずらっぽい笑顔に戻り才人をからかいながら去ってしまった。 広場で一人ぼっちになった才人は夕日を浴びながらとぼとぼ歩く。 「なぁデルフ」 「なんだね相棒」 「俺、伝説の使い魔だよな」 「ああ、そうだね。ガンダールヴだね」 「七万の大軍に向かっていった使い魔だよな」 「ああ、そうだね。七万を単騎で止めちまったね」 「俺、強い方だよな」 「最強だと思うがね」 「・・・・正直言ってさ、七万の大軍に向かってくよりもさ、ルイズに本当の事聞く方が怖いんだ」 「みっともねぇのね」 「みっともないよな」 才人は はぁとため息をつき立ち止まる。 「なんにしてもよ、部屋に帰ろうぜ?相棒」 「・・・うん」 才人が部屋についたのは夕方から夜になろうとしている頃だった。 ドアの前に立つと部屋の中から物音一つしない。 「相棒は貴族の娘ッ子が好きなんだろ?」 「うん」 「そうなら早くドアを開けなよ」 才人は返事をせずにドアを開ける。 「ただいま」 才人はそこで止まってしまった。

552 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:23:24 ID:OehyylRk ルイズが魅惑の妖精亭の白いビスチェを着て顔を朱に染めてちょこんと座っていた。「お帰りなさい」 いつもとちがう優しく柔らかい声。 「待ってたのよ」 潤んだ瞳。 「そんな所で立ってないで入ってきて」 やさしい仕草。 才人の胸は早鐘を打ち、体温が急上昇し、心の端から中心に向かって何かがきゅっと収縮した。 ルイズの座る椅子の横にはテーブルを埋め尽くさんばかりのご馳走が載っている。 「サイト、今日は何の日だか知ってる?」 才人は考えたが分からなかった。 「相棒、光のゲートをくぐったのはいつだい?」 デルフリンガーがヒントを出す。 「今日は・・・ルイズに召喚されて一年目の・・・記念日?」 才人は自分の言葉で納得した。 「そうよ、今日はサイトがあたしの使い魔になってちょうど一年になるの」 才人はルイズに見とれていた。もうドアを開ける前の疑問はすべて解決してしまったからである。 「そ、そんなにじろじろ見ないよ、バカ犬」 「犬ごめん」 「これ全部あたしが作ったのよ」 マルトー親父に才人のお気に入りを聞いたらあいびき肉を野菜で包んだ料理が好きということを知り、毎朝 厨房で練習してたとのことだった。

553 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:24:33 ID:OehyylRk ギーシュを張り倒したのは才人が肉料理と魚料理のどっちが好きなのかと聞いたらはっきりしない答えがきたからと言った。 全部才人の勘違いだったのだ。 ルイズの自信作のあいびき肉の野菜包みは才人にとってはロールキャベツを連想させる料理だった。家庭的で暖かく、誰でも作れても同じ味のものは一つもない。 異世界にいながら元の世界にもあるような料理。才人が無意識に郷愁を求め、無意識に暖かさを感じとった料理だった。 他の皿には鶏肉を甘めのソースで焼き上げた料理やパン生地にバターを折り込んで重ねながら発酵させたカリカリのパン、魚介類を牛乳で煮たスープ、ルイズの大好きなクックベリーパイが並べられていた。 才人とルイズは横に並んで食べる。胸は早鐘を打ち続けて顔も熱くなっている。もちろん料理は最高にうまい。緊張してなければもっとうまいと感じるだろう。 「どう?おいしい?」 赤い顔のルイズが上目づかいで聞かなくても答えのわかっている質問をする。 「うん、すごくおいしい」 才人も赤い顔で素直に答える。 「これもマルトー料理長に習ったんだけどね、簡単なようでけっこう難しいのよ」 ルイズは毎朝、一週間ずっとずっと料理の練習をしていた時の話をしてくれた。

555 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:25:38 ID:OehyylRk 「・・・・・・それでね、シエスタと生地を・・・・・あれ?なんで泣いてんのよ」 「・・・ごめん・・・」 才人は涙が出ていた。 「俺、ルイズを好きでいてよかった」 ルイズは一気に真っ赤になる。 「・・・・なによバカ犬・・・」 才人も真っ赤になっている。 「これ食べてたらさ、元の世界に帰れなくてもいいような気がしてさ、何だかすごく嬉しくて・・・」 ルイズも才人も照れてうつむく。 「な、な、なによこのくらい、毎日作ってあげるわよ」 茹だった頭はとんでもない言葉をさらりと紡ぐ。 「ありがとう、ルイズ・・・俺、ルイズと結婚したい。今はまだルイズは学生だから無理かもしれないけど、卒業したらルイズと一緒になりたい」 ルイズは真っ赤になりうつむく。しばらく黙ったままうつむいて こくんとうなずいた。 才人も真っ赤になってうつむく。 「な、なな、なによっ、い、い、犬のくせにご主人様に求婚なんて・・・犬・・・」 急に恥ずかしくなったのかルイズは嬉しそうな顔で足をもじもじさせて才人を犬呼ばわりする。 「ルイズじゃなきゃだめなんだ」 才人はルイズのかわいい仕草をさらに見ようとルイズをじっと見ながら言う。

556 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:27:44 ID:OehyylRk 「わたし・・・胸ちっちゃいよ?それに魔法だって使えないし、サイトにひどいことしてきちゃったし・・・」 ルイズは自分なりに思うところを才人の顔を見ながら言う。 「そんなの関係ない、俺はルイズが大好きだから結婚したいんだ」 才人は想いのすべてを言葉に変えてルイズの反応を待つ。才人にとって長い時間が流れる。 「もう・・・バカ犬」 唇が降ってきた。 「バカ犬」 また唇がきた。 「・・・・ダイスキ」 唇が少し深く重なった。 「離さないんだからっ」 唇は重なったまま細い腕は才人をぎゅっと包み込む。 才人も腕を伸ばしてルイズを包み、ルイズを膝の上にのせる。 「ルイズ」 「なぁに?」 「ルイズの唇、クックベリーパイの味がする」 「・・・残したら、し、し、承知しないんだからっ」 「・・・・・うん」 深く重なる唇から吐息が漏れ、やがて二人は強く抱きしめあう。

「おでれーた、虚無の娘ッ子が魔法も使わずガンダールヴを仕留めちまいやがった。おでれーた、おでれーた」 窓に立てかけてあるデルフリンガーと二つの月だけがルイズと才人を遥か昔の始祖とガンダールヴに重ねながら見ていた。

おしまい

557 名前:ルイズのあいびき ◆manko/yek. [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 00:28:49 ID:OehyylRk ルイズのあいびき

この物語はこれでおしまい。 次の物語は、またいづれ。

それではっ

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