ゼロの保管庫 別館

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だれでも歓迎! 編集

600 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:16:15 ID:ZaaVImFP

うららかな陽気に包まれたトリステイン魔法学院。

件のタバサ救出劇から一週間が経とうとしていたが、王都も学院も、これといった騒動は無く、平穏な日々を迎えていた。 あの日、タバサを救出したあと真っ直ぐに王宮に出頭した七人(タバサ含む)であったが、 しかしアンリエッタは涙ながらの抱擁で迎えてくれた。主にルイズと才人を。 七人は、(二人は貴族の称号と共に)再び魔法学院に復帰することを許され 身分返上の事実は公の事態とはならず、一応の収拾をつけられた形となった。

そういうわけで。

「ねえ、ねえ! サイト! 遊んで! 遊んで! きゅい」

そう言いながら、嬉しそうにシルフィードは才人の頭を咥えて、振り回す。 おげ! もげ、もげる! 首が! もげるって! そんな悲鳴が己の口内から聞こえたような気がしたが、シルフィは気にしなかった。 彼女は大らかなコなのである。

魔法学院に復帰して以来、彼女はいつもこんな調子であった。 ちなみに今現在、二人のご主人様は屋外で、魔法実技の受講中。 仕方ないので使い魔たちは、思い思いに時間をつぶしている最中であった。 魔法理論の講義には一緒になって参加する才人であるが、 流石に実技の授業は参加したところで無駄というものである。

まぁそんなわけで。

「遊んで〜〜! 遊んで〜〜! きゅいきゅいきゅい♪」 「(ピクピクピク)」

魔法学院のとある中庭では、ゴキゲンな使い魔Aと瀕死の使い魔Bが仲良く戯れていた。

601 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:18:03 ID:ZaaVImFP

「殺す気かこのバカ!」

所は変わって魔法学院のとある廊下。 あの後ぐったりして動かない才人に気付いた風韻竜は、慌てて彼を屋内へと運び込み どうしたものかと困っていたところで才人の意識が覚醒したらしい。 ちなみに屋内で竜の体は大きすぎるため、今は人間の姿に。 息を吹き返した才人の開口一番が、上の言葉であった。

「ご、ごめんなさいなのね」

うなだれてしょんぼりとするシルフィード。 その姿が何となく不憫で、才人はそれ以上怒れなくなった。

「あー、もういいよ。 大体なんで今になって突然遊びたがるんだよお前は。つーかとりあえず服着ろよ」 「だって、今まではシルフィしゃべっちゃダメだったから、ずっと我慢してたのね。 一緒に遊んじゃったら、シルフィ絶対ボロ出しちゃうもの。うっかりしゃべっちゃうもの」 「あぁ、なるほど。 今はお前の正体知ってるから、遠慮なく話しかけられるわけだな。 まぁとりあえず服着ろ」 「そうなの。きゅい。 シルフィ、他の皆がサイトと仲良くしてるの見てて、とっても羨ましかったのね。 きゅるきゅるとか、もぐもぐとか。」 「あくまで服の件はシカトし続けるつもりだなテメエは。 まぁともかくそういうことならお前に付き合ってやらんことも無いけどもな とにかく人のアタマくわえてブンブン振り回すのはヤメロ。分かったな?」

602 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:19:14 ID:ZaaVImFP

そういうと、シルフィードはおもむろに抱きついてきた。

「嬉しい〜〜! サイトならそういってくれると思ったのね! 噛んじゃったことは謝るのね! サイト、いっつもシルフィにも優しくしてくれるから シルフィ、つい嬉しくてサイトをくわえちゃうのね。きゅい♪」 「お、おい、抱きつくなって! わかったから、もう噛んだりすんじゃねーぞ?」

ぼとっ

音がした。 何かが落ちる音。 見ると、顔面蒼白になったケティがソコに立ち尽くしていた。 足元には可愛らしくラッピングされた包みが落ちている。 クッキーか何かだろうか。 あぁ、おいしそうだナァ。 いい匂いだナァ。 いやそれより何でケティちゃんってば、あんなに真っ青なんだろう?

少し状況を整理してみる。 人気の無い廊下。 シルフィ、今若い女性。 しかも全裸。 抱きつかれるオレ。 囁きあう二人。 『ついサイトをくわえちゃうの♪』←シルフィ 『おいおい噛むんじゃないぞ?』 ←オレ

……

………

か、回避だ! 回避しろ! やばい! やばいってソレ! のんびり状況整理してる場合じゃねえっつの! とにかく今は誤解を解け! 間違いを正すのだ! 今ケティのアタマの中では、俺とシルフィがエライことになってるに違いない!

「ち、違うからな! 誤解だからな! コイツは今は人間の姿してるけどホントは竜で使い魔で咥えるのは俺の頭のことで決して俺のアレを咥えるわけでh」

バチコーン!

ひっぱたかれた。 彼女には才人のヘタクソな言い訳など聞こえなかったらしい。 つーかコイツの言い訳も半分セクハラに近い。 残されたのは、ぱたぱたと走り去る足音。 地面に落ちた包み袋。 指をくわえる全裸のシルフィ。 もみじを貼り付けた鼻血の才人。 以上であった。

603 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:22:00 ID:ZaaVImFP

「どーしてくれんだよこのバカ!  オマエのせいで、明日から下級生の間じゃセクハラ変態露出狂の三冠王達成じゃねーか!」 「きゅい? よくわかんないけど、すごいことなのね。三冠達成おめでとなのね」 「うるせえ! そんな三冠いらねーっつの! 落合監督もびっくりだっつの!」 「? シルフィ、サイトが言ってること、よく分かんないのね。 ねぇ! ねぇ! それより何して遊ぶの? 何して遊ぶの? きゅいきゅい」 「もうそんな状況じゃねえんだよこのバカ! 俺は明日からの身の振り方と、俺の社会性と人間性の回復を図らにゃならんのだっての! お前のせいで!」 「もう! サイトさっきから何怒ってるの!?  シルフィ、ただサイトと遊びたいだけなのに!」 「んじゃもうちょっとマシな格好して出直して来いボケ! んで人のアタマ噛むな! 舐めるな! いい加減、服着ろ!」 「サイト! ひどいのね! 今まで散々服着ないわたしに乗ったくせに!」 「だから全裸でそういうことを言うなッつってんのに――」

がちゃんっ

音がした。 何かが割れる音。 振り向くと、お盆とカップを取り落としたシエスタが、無表情で佇んでいた。 再び才人の顔が青ざめる。

「ちちち違うぞシエスタ! そうじゃない! 乗るってのはそういうことじゃない! このコ実は竜で使い魔で人間じゃないからよく俺乗せて空飛んでんだ! 決してベッドの上で俺乗せてギシギシやってるとかじゃないの!」

彼女の顔は才人の弁明を聞くにつけ、無表情から満面の笑みにみるみる変化していく。 彼女はそのまま、まっすぐに廊下の備え付け掃除道具用ロッカーへと歩き出した。 シエスタの笑顔は崩れない。 その口元からは時折含み笑いさえこぼれている。 フフ…ウフフ……アハハ…… なおさら恐い。 才人は必死こいて弁明を続けた。

604 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:23:05 ID:ZaaVImFP

「だからねシエスタ、このコに乗ったら天にも昇る心持ちで、とってもキモチイイの! 二人でお空にトんじゃうの! 風を切ってるの! ある種のエクスタシーなの!」

才人。お前、バカだろ。 わざと言ってんのかどうかすら疑いたくなる弁解を聞きながら、 シエスタは笑顔でロッカーに歩み寄る。 鍵のかかったロッカーの扉を、シエスタは力ずくで引き剥がした。

メキャ! バキキン! ガターン! カラカラ……

まるで知恵の輪を引き千切るような調子で扉を捻り開けた彼女は ロッカーの中からモップを一つ取り出すと、まっすぐに才人のほうへ向かう。 どうやら割れたカップの掃除をするつもりではないらしい。 ニコニコ笑いながら、ぱしぱしと手中のモップをもてあそぶ。 その様子に、才人は青い顔を更に青くして弁解を続けた。

「あ、そうだ! 今度シエスタも一緒に乗る? マジでキモチイイよ! いやマジで! マジマジ! 三人でお空に昇ろ? ね、ね、ね!?」

平賀才人はどこまでもバカであった。 火に油どころかニトロを注ぐような彼の言い訳を聞きながら シエスタは、はじける笑顔でモップを振りかぶった。

バキドカメキャバキョンガキョン! ・ ・ ・ 残されたのは、地面の包みはそのままに。 割れたカップ。 折れたモップ。 壊れたロッカー。 軽く怯える使い魔A。 そして使い魔Bであったモノ。 それのみであった。

605 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:24:13 ID:ZaaVImFP

虫の息の才人を、シルフィードはつんつんつつきながら話しかける。

「サイト、無事なのね? きゅいきゅい」

がばりと才人は身を起こす コイツもいい加減、不死身であった。

「無事なわけねーだろこのボケ!」 「あ、無事だった。 きゅい♪」 「『きゅい♪』じゃねぇ!  何でお前はいっつもいっつもいっつもいっつも俺を窮地に追いやることばっか言うかなぁ!? しかも絶妙のタイミングで! もしかして狙ってやってんのか!?」 「そんなの知らないのね! シルフィ、何も悪いことしてないもん!」 「してんだよこの脳足らん! 世の中にはオマエには及びもつかんぐらいの絶妙な言い回しがあるってこと、よく覚えとけバカ!」 「バカバカ言わないで! バカって言ったヤツがバカなのね! サイトどうしてそんなこと言うの!?  シルフィいっつもサイトに優しくしてあげてるのに! きゅいきゅい!」 「俺はお前に優しくしてもらった覚えなど一度だって無い!」 「ひどい! こないだ砂漠の町ではベッドの中で抱いてあげたのに!」 「バカタレ! だからそういうことは言うなと何度言わせれば――」

めきゃっ

音がした。 今までで一番不吉な音。 振り返ると、授業を済ませた己のご主人様が、今出てきたであろうドアのそばで佇んでいる。 たった今、引き千切ったらしいドアノブを持って。

本命、ご登場。

才人の動転っぷりは、そりゃもうすごいものであった。

「ちちちち違うぞルイズ! そりゃ違う! ボボボボボクは何もしていない! 誤解なのね! 何も無かったのね! きゅいきゅい!」

余りに動転しすぎて口癖がうつったらしい。 使い魔同士、妙なシンクロでもしでかしたのだろうか。 ちなみに全くかわいくない。

「あらあら、こりゃまた新しい芸風ね? サイト。 で? 言いたいことはそれだけかしら?」

ひたひたと歩み寄りながら、爽やかな笑顔でルイズは話しかける。

「ち、違うって! 違うんだってルイズ! 実はコイツは竜で使い魔で人間じゃ――」 「知ってるわ、サイト? 一緒に正体見たじゃないの、ウフフ。 それともそんなことも失念するくらい、過激なアドベンチャーをベッドの中で繰り広げちゃったのかしら?」

606 :シルフィもサイトと遊びたい! :2006/12/26(火) 21:25:22 ID:ZaaVImFP

そうだった! コイツはすでにシルフィの正体を知っているのである。 ヤバイ。これ以上弁解のしようがない。 何もしてないのに弁解ができない。 だってさっき何もしてないって伝えたもの。誤解だって言ったもの。 でもご主人様信じてくれないのね。きゅいきゅい。 いや落ち着け才人! 脳内にまで口癖うつしてる場合じゃない!

「お、おい! シルフィ! オマエからも何とか言ってやれ!」

たまらず才人は援軍を要請する。 隣で微妙に怯えた様子のシルフィは、うろたえながら言葉を発した。

「え、えっと、シルフィよく分かんない。きゅい」

援軍要請は一言で拒否された。 散々致死量の爆弾を投下するだけ投下したシルフィードは そう言って近くの窓から飛び立っていく。

「ま、待て! 逃げるな! 戻って来い! 置いてかないで! 待ってえええ!!」

きゅいきゅい。 なんだかサイトが後ろで叫んでたみたいだけど、シルフィとっても怖かったから竜に戻って逃げちゃった。 あ、サイト、昔お姉さまに読んでもらったお話の、捕らわれのお姫様みたいな格好して手を伸ばしてるのね。 なんだかその顔は、お話の挿絵よりも百倍必死に見えるけど。 そのすぐ後ろで、サイトのご主人様が笑顔でサイトの肩をぽんぽん叩いてる。 新しい遊びなのね、きっと。シルフィ、怖いから加わんないけど。 きゅい。やっぱり使い魔はご主人様と一緒にいるべきなのね。 シルフィもお姉さま探そ。お姉さまーーー!

そうしてシルフィードは魔法学院の空をひらりと旋回した。 抜けるような青空。 トリステインは今日も平和でいい天気だった。一部の惨劇と血の雨を除いて。

「ア"ア"ーーー!!」(←断末魔)

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