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82 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:52:59 ID:O4lcsp97

新緑萌ゆる、この季節。 トリステイン魔法学院は今日も平和だった。 今日は虚無の曜日。 このハルケギアでの、いわゆる休日というわけだ。 今日ばかりは才人も近衛隊の官職から休暇をもらい、一日自分の好きなように時間を使える。 使えるのだけども。

「買い物に行く?」 「そ、その通りでございます。」 ボッコボコのツラをした使い魔の、眼前のご主人様はいたくご不満の様子。

つい先程まではそわそわと挙動不審に、ベッドの隙間からこちらを覗き込んでは潜り込むという わけの分からない一人遊びを続けていた己のご主人様は、 この暗愚な使い魔めが本日の予定をご報告申し上げたその内容が 著しくお気に召さなかったらしい。

83 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:53:49 ID:O4lcsp97

ちなみに現在、このトリステイン魔法学院という 貴族様のみが通うことを許される魔法学校の学生寮の一室には、 紆余曲折を経てご主人、使い魔、専属メイド(ただし使い魔の)の三人の居住者が暮らしている。

一部屋に三人と、一見狭苦しそうに聞こえるが 実際にはかなり広い一室であり、ベッドだって三人川になってさえまだ余裕のある広さなので 寝て起きるという『住』の役目を果たすには、十分に機能してくれている。

しかしながら、本日はいつもと事情が違う。 この休日を利用して、専属メイドが昨日から帰省しているのだ。 実家に仕送りをし、 年に何度も帰省しては父母の手伝い、妹弟の世話をする健気な少女は 今回もいつものように実家のお手伝いをしに帰るらしい。

ちなみに今日は、才人もトリスタニアの城下町に足を運ぶ予定である。 目的は服。 いい加減、着たきりスズメの一張羅にも限界が来ていた。 綻びだらけでぼろぼろのナイロンパーカーは、一年間よく自分の外見を装ってくれたが やはり度重なる戦闘行為の代償として、衣服としての限界を迎えていた。 もちろん、この服はこのハルケギアで数少ない地球の産物だから 別の服を買ったところで捨てたりするつもりはさらさらない。 しかし、一応一般市街を闊歩する上で最低限の体裁を繕う衣服は必要である。 騎士隊所属から公的な収入も得たことだし この虚無の曜日を利用して、一丁景気よく買い物でもしてやろうと思い至ったわけだ。

84 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:54:28 ID:O4lcsp97

まぁそんなこんなで今現在はこの部屋に、恐らく今日は予定のないだろうご主人様と そろそろ準備に取り掛かろうとする自分の二人だけしかいない。 いないのだが、何だか起きたときから、隣のご主人様のご様子がおかしいのだ。

何やらぶつぶつ一人で呟いては、時折真っ赤になってバンバンとベッドを叩いている。 とっても恐い。 なんか無駄に上機嫌なのが、余計に得体の知れない恐怖心を煽る。 断片的に聞こえる独り言も、全くもって要領を得ない。

「確か『そばにいて』で良かったのよね」 とか 「いや、でも今しか二人きりには」 とか 「ちゃ、ちゃんと言わなきゃ」 とか 「さ、さ、流石にだっこはないわよ、あたし」 とか 「でも一日中ぎゅって、エヘ、エヘヘ」 とか 「そそそそしたら、そ、そ、その後は?その先は?」 とか。

とにかく、だ。 今日は自分も予定があるので 不気味なことこの上ないご主人様のことは置いておいて そろそろ出かける準備をしようかと思ったそのとき。 何だか射殺すような決意を帯びた視線とともに 顔を真っ赤にしたご主人様が高らかに命令した。

「きょ、きょ、きょ、今日はアンタ、一日ご主人様の、そ、そばにいなさい! い、いいわね!!」 「あーゴメン、ムリ」

ばら撒くようにして、虚無の連打が炸裂した。

85 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:55:06 ID:O4lcsp97

乱打である。 爆発でボロゾーキンみたいになりながら壁際に追い込まれた使い魔に ご主人様は芸術的なラッシュを叩き込んだ。 見るものが見れば、それは往年のジャック・デンプシーを彷彿としたに違いない。 一体全体なぜ自分がこんな目にあわなければならないのか 皆目見当もつかず理不尽な暴力に身を捧げるしかない使い魔に 止めとばかりに ガゼルパンチをぶち込んで、ようやくご主人様は溜飲を下げた。

思う存分、己の使い魔を無間地獄の谷底に叩き込んだ末に ようやく使い魔とコミュニケーションをとる気になってくれたらしい。 激しく順番が間違っている気がするが。

「べ、弁解くらいは聞いてあげるわ。」

弁解もへったくれもない。 つーかむしろこっちが弁解を聞きたい。

一体ご主人様は何で突然激怒なさったのか?とか なぜ自分の必要なものを買いにいくだけなのに弁解しなきゃいけないの?とか そもそも何も悪いことしてないのに何で俺あんな目にあってんの?とか つーか大体その言葉が出るタイミングが、著しく狂ってね?とか。

言いたいことは山ほどあったが、これ以上事態をややこしくしたくなかったので 才人は正直に自分の本日の予定を告げた。

そして、ようやく冒頭のやり取りに至ったわけである。

86 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:55:53 ID:O4lcsp97

確かに才人の言い分はわからなくもない。 というよりも、至極真っ当な要求であり、 今日の彼の予定は必要且つ必然的なスケジュールであった。 しかも、金銭的にも時間の使い方にしても全て自己責任の範囲内。 非の打ち所のない弁解だった。 けれど。

「う〜、う〜」 「何唸ってんだよ」 「だ、だってわたしの今日の予定が…… メイドが帰省する何日も前から計画練ってたのに…」 「何だよ、お前も予定があるんならその通りにすればいいじゃねえか」

アタマの悪い使い魔には、ご主人様の意図がさっぱりつかめないらしい。 まぁご主人様もご主人様で、 自分の計画に手一杯で相手の都合が全く頭に入っていない辺り 流石に公爵家のご令嬢といったところか。

「違うわよ!今日は一日家でのんびりしてようと思ってたの!」

アンタと一緒に!とまでは流石にいえなかった。 けれど、主人と使い魔はいつだって以心伝心なのだ。 奥ゆかしいご主人様の今の言葉で、使い魔は全てを察して当り前。 しかも先程確かに『一緒にいろ』と伝えたのだ。 その直後の惨劇で、使い魔の記憶は軽く飛んだりしたのかも分からないが なんてったって遠く離れたご主人様の危機に、視覚の共有さえして駆けつけてくれた間柄である。 阿吽の呼吸。ツーといえばカー。もう一度言うが二人はいつも以心伝心。 ルイズには、そりゃもう絶対の自信があった。 一方の才人自身も、これ以上理不尽な虐待は受けたくなかったのだろう。 ご主人様を決して怒らせないよう、彼女の要求を高速回転で計算しつつ コンマ2秒でベストアンサーをはじき出し、晴れやかな笑顔で言い放つ。

「そうだよな、せっかくの休日なんだしな。」 さっすがサイト! 何があってもあなただけはご主人様の理解者ね!

「今日は一人にしてやるから一日ゆっくり過ごせよ。」

阿鼻叫喚。

自覚なしに、ご主人様の堪忍袋の尾っぽを二度にわたって引き千切った使い魔は 本日二度目の無呼吸連打を享受する。、 数分後、魔法学院学生寮の一室に佇む貴族の隣に、肉塊が転がっていた。

結局、ご主人様は目の前のタンパク質に妥協案を提示し、 二人で買い物に行くことで話は落ち着いた。

休日に城下町へ買い物に行く。 ただそれだけのことなのに、何でこんなに苦労しなければならないのか 瀕死の才人にはさっぱりわからなかった。

87 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:56:58 ID:O4lcsp97

「待ち合わせ?」 「そ、そ、そうよ!」

また質面倒くさいことを提案してくれる。 二人で買い物に行くと決まった瞬間に機嫌を直されたお嬢様は 出発地点が同じであるにも関わらす、現地での待ち合わせを提案した。 何だか前にもそんなことがあった気がする。 「何でだよ? 一緒に出て行けばいいじゃねえか。」 「そんなの気分台無しじゃない。こういうのは気分が大事なの!」

このやり取りも以前したような覚えがある。 まぁ確かにデートといえば、男女の待ち合わせから始まるものだ。 でもなぁ、などと才人が考えている一方で、 ルイズの脳内では才人と落ち合うステキな展開が着々と組み立てられていた。

『サイト、まだかしら』 『あぁ、僕のルイズ! 雪のなか寒かったよね、待ったかい?』 『ううん、平気よ。わたしのサイト』 『ごめんよ、僕のルイズ。ちょうど来る途中で、偶然見かけた病気のお婆さんを助けていたもので』 『まぁ素敵! 流石わたしのサイトね』 『ハハハそんなことは―――!! ルイズッ! 君、手がかじかんで真っ赤じゃないか!』 『ううん、平気なの。サイトのためなら、平気なの』 『あぁ、寒かっただろうに (ぎゅっ) 』 『あぁ、わたしのサイト、もっと抱きしめて』 『勿論だよ僕のルイズ、ついでにその悴んだ指も暖めてあげるよ (パクッ) 』 『ひゃんっ、サイト、なめないで……』 『フフフ、さぁ宿に行こう、僕が暖めてあげるよ』 『うん、わたしも暖めてあげるね』 『ハハハ、コイツめ』 『ウフフ』 以下略。

……ルイズの妄想は色々とトチ狂っていた。 口調がおかしい、態度が違う、一人称が僕、二人称が君、お前ら買い物はどうした、そもそも今は夏だ、つーか上のヤツ誰? 等といった怒涛のツッコミは、お花畑を彷徨う今のルイズにとって、異次元の彼方にぶっ飛んでいた。 とにもかくにも恋する乙女にとって、デートの待ち合わせは絶対の必須条件なのだ。

88 名前:ルイズの優雅なデート録[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 01:57:39 ID:O4lcsp97

しかし、ルイズをお花畑から現実に引きずり戻したのは、他ならぬ才人の言葉となる。

「別にお前がどうしてもって言うなら現地で待ち合わせても構わないけど、王都まで馬で二時間かかるんだぞ?」

え?

「ここから別々に出発して、別ルートたどってひたすら二時間、孤独に走り続けて ようやくたどり着いた王都のどっかの待ち合わせ場所で、へろへろになりながら 『待った?』『ううん、今来たとこ』とか白々しいやり取りかますのか? いや、どうしてもって言うならホント構わないけど どっちかって言うと普通にくつわ並べて行ったほうが建設的じゃないか?」

○| ̄|_

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 彼女の甘く酸っぱいデート劇は、なかなかに多難な様子であった。

89 名前:Coa[sage] 投稿日:2006/12/09(土) 02:00:04 ID:O4lcsp97 はじめてSSというものを書いてしまった…… 内容のない話だし、今後の展開も全く考えていないのですが、 楽しめていただけたのなら幸いです。 続き書いたら、また投下します。 388 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:24:31 ID:i3g3crs8

「平民の格好で?」 「あーうん、だって目立つし。」

相変わらず、学生寮の個室で押し問答を続ける主人と使い魔。 つーかお前らまだ出発してなかったのか?

「何でよ!? 任務でもないのに、何でわざわざ身分を隠さなきゃならないのよ?」 「いや、なんつーか、買いにくいんだよ。 貴族の格好なんかしてると無駄に注目集めるし、店の主人にもやたら恐縮されるし。 モノ買うくらいであんまり目立ちたくないんだ」

大体貴族の格好で買い物なんかしたら、無駄に足元を見られてしまう。 ルイズの普段着一つとってみても、ほとんどが絹仕立てで固められているのだ。 売る側としてみれば、ここぞとばかりに高級品を薦めたくなるだろう。 才人だって、ルイズほど世間知らずではないにしろ、その手の駆け引きに関してはズブの素人である。 どんな口八丁手八丁で言いくるめられて、バカ高い代物を買わされるか 分かったものじゃない。 才人としては、出来るだけ余計な注目を集めずに、一般客の一人として 空気のようにひっそりと物色しつつ、速やかに値札通りの購入を済ませたい気分だった。

389 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:25:19 ID:i3g3crs8

「だから俺もシュヴァリエのマントは置いていくよ。 まぁ何があるかわからないから、デルフだけは布で固めて持っていくけど。 悪いけど、お前も出来るだけ目立たない格好で頼むよ」 「う、うぅ」

一方のルイズはなかなか納得がいかない。 毎度のことながら、このクサレ使い魔は口だけは達者だ。 平民の格好で行くメリットと貴族の格好でいくデメリットを、 今の自分たちの状況に照らし合わせ、理路整然と並べ立てる。 なんで公爵家のご息女たる自分が、このバカ使い魔ごときに反論できないのだろう。 頭脳明晰、才色兼備、完全無欠のお嬢様であるこの私が なんでこんな虫けら以下の使い魔に! ひょっとしてコイツ前々から今のクソ論理展開、準備していたのではないだろうか? うむ。きっとそうだ、そうに決まってる。 きっとこのバカ犬、純真無垢なご主人様をやり込めるために一年ぐらい前から計画を練って この詭弁を用意していたに違いない。 まぁそうでもしないと、アッタマいいご主人様を説得するなんて不可能よね、ハハン。 念入りに熟慮熟考してずっと計画を実行するチャンスを窺っていたのだろう。 あ、なんかそう考えたらムカついてきた。  そうだ。そうなのだ。 そうでなきゃこんなに高貴で清楚なご令嬢が、下賎で愚鈍な犬畜生に説き伏せられるはずがない。 オノレ、なんとも卑怯千万な! 犬の癖に! 駄犬が! 雑種が! 家畜風情が! 私を! 嵌めるために! わざわざ! 一年も前から!……ん? アレ? つーか一年前っていつぐらいのときだっけ?  いや、待て! 一年前といえば、私がこのバカを召喚した辺りじゃない!? 畜生! あん時からご主人様を言いくるめるための計画を練ってたわけか! いや、それどころじゃない! むしろ、そのためにわざわざ召喚されてきたんじゃあるまいか!? この私をやり込めるこの瞬間のためだけに、わざわざ異世界まで! な、なんたること…  ガガーン!(←落雷)

390 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:30:55 ID:i3g3crs8

ご主人様のゴキゲンな脳みそはとどまるところを知らない。 彼女はキバヤシさんも真っ青なプロファイリングで着実に彼女だけの真相に近づいていた。 もはや彼女にとって、二人で買い物に行くことが決定したのが つい三分前だとかいう小癪な言い訳は通用しない。 自分が無理矢理、買い物の同行を強制した事実など、知ったこっちゃないのだ。 彼女にとってコレはもはや戦争、いや、聖戦なのである。

しかし、ここで彼女の頭に起死回生の妙手が閃く。 それは神の啓示だった。

ルイズ、アキラメナイデ。

確かに聞こえた。神のお告げが。 素晴らしい。これこそ奇跡の体現である。

ルイズ、アレヨ、アレ。ホラ、アレアレ。

何だか微妙にアタマの悪そーな神のお告げだが、ルイズには効果は十分であった。 そうだ。アレだ。アレがあるじゃないか! 更に神の声はルイズを後押しする。

アレナラ、アンナバカイヌ、イチコロナンダカンネッ

……おい、こいつホントに神か? ルイズ以外が耳にしたなら、きっとこの時点で疑わしく感じたのだろうが、 幸いにして彼女以外に神のお告げが聞こえることは無かったので、事態は丸く収まった。 まぁともかく。 神を味方につけたご主人様の表情は、みるみるうちに満面の笑みに変化していく。 彼女も色々と忙しいヒトである。

391 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:32:11 ID:i3g3crs8

「分かったわ。平民の格好をしていけばいいのね?」 「あぁ、悪いな。よろしく頼むわ。」

そういってルイズは、脱兎のごとく部屋の奥に引っ込んだ。

才人からしてみれば、プライドの高いご主人様が平民の格好をしていくのに どれだけ抵抗されるのか、正直その説得を思い遣ると頭を抱えたい気分であったが、 案外すんなり応じてくれたので、ほっと胸を撫で下ろしているところであった。 着替えを待ちながら、平和な面持ちでのんびりと思考する。

いつもあんだけ素直だと助かるんだけどなあ。 平民扱いされることをあんなに嫌うアイツがよく納得してくれたもんだ。 うん。少しはアイツも俺の立場に立って物を考えるようになってくれたわけだな。 色々苦労させられたことも多かったけど、それが報われた今となっちゃそれもいい思い出だよ。 これまでの苦労なんかよりも、ルイズの成長が今は何よりも嬉しいことだ、ホントに。

哀れな使い魔は、偽りの平穏に心底陶酔していた。

一方のご主人様は、有頂天外を登る心持ちである。 フフフこれ着ていきゃイチコロじゃねーの。 何せ神様じきじきのお墨付きである。 前回コレ着たときはお互い不幸な事件が重なったため、うやむやになってしまったが、 今回ばかりは邪魔者も不意打ちも存在しない。 クククさあ跪けムシケラ! 今こそ女神のごとくご主人様を崇拝するのだ!

ルイズにとって己の勝利はもはや目前であった。

392 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:33:28 ID:i3g3crs8

そんなわけで、意気揚々と使い魔の前に現れたご主人様は

「サイト、お待たせ!」

はち切れんばかりの笑顔で、メイドのセーラー服を着込んでいた。

時が、止まった。

ルイズの表情は得意満面。 才人の褒め言葉を今か今かと待ち続けている。

一方の才人はそれどころではない。 え、なに、コレ? 何かしら? 才人は知らんうちに脳内で女言葉になっていた。

目立たぬ服の 要望に セーラー服での ご登場。

自分の意図を汲み取ってくれたはずのご主人様じきじきのご凶行。 何だろう、禅問答かしら?  ルイズ一流の、悟りの境地からの問い掛けかしら? どうしよう。分からない。 修行の足りない自分には、この問い掛けは余りにも難しすぎる。

と、そんな風に才人がパニクっていると、何も言ってこない使い魔にご主人様は少々イラつき始めたらしい。

「なんか言うことあるんじゃないの?」

地の底から響くような声。氷のような視線。 神を味方につけたルイズは、いつの間にか地獄の使者に成り代わっていた。

393 :ルイズの優雅なデート録 :2006/12/19(火) 15:35:49 ID:i3g3crs8

普段から主人の虐待に身を晒される哀れな使い魔は、この言葉に脊髄反射のごとく戦慄する。 ぐびり、と己の唾を嚥下する音が、他人事のように響いた。 コレは、やばい。 ダメだ。間違ってはいけない。 この問題は、誤答コレ即ち死である。 何で着替えを待ってただけで死の局面に立たされているのかは、いつものごとく理解不能だが、 下手なことを言った瞬間、ひき肉にされることだけは間違いない。 汗だくになりながら脳内CPUをフル回転で機能させ、 彼はこの状況での、経験則による最適解を己の脳内からほじくり出した。 即ち、懐柔。 彼の決断は早かった。 自分の持ちうるあらゆるボキャブラリーを駆使して、才人の口先はマシンガンのごとく眼前の主人を賛美する。

「あぁボクの麗しいご主人様とってもとっても可愛らしいでございます その艶かしいおみ足も神々しいご尊顔も豊満なご肢体も全てが張り裂けんばかりの危険極まりない魅力に満ち溢れた今日この頃 その黄金率をも陵駕せん究極絶頂たる神の美貌にあらせられましたら全ハルケギアの草も木も花も蝶も鳥も月も星も天も全てが全て下の下の下の下の下に相違ございません 我らがご主人様はまさに眉目秀麗一騎当千完璧超人百獣の王でございますヒャッホー!」

とにかく褒めちぎれ! 畳み掛けろ! 言葉を絶やすな! 嘘でも捏造でも意味不明でも何でもいいからコイツを満足させるのだ!

「なんということでございましょうご主人様の美しさときたら――」

そんな風な、歯が浮くどころかアゴごと吹き飛びそうな大絶賛を並べ立てる才人に、 ご主人様は満更でもないご様子。

チャンス! 才人はこの機を逃さない。

「ところでその服装も重々素晴らしいものだと存じておりますがボクあの黒いワンピースなんかとってもご主人様の可憐さを引き立てると思うんでございますの。 うん、アレこそご主人様に最も似合うお洋服に違いない。 あぁ、アレ着たご主人様さぞかしお美しいでございまそうなあ。ボクもう辛抱たまんないかも」

卑屈、姑息、打算の三拍子そろった今の才人は、主人のご機嫌の回復を図りつつ 本来の目的でもある『真っ当な』平民の格好への着替えも同時に算段する。 彼の命懸けのヨイショは、中々に見事な手際であった。

「そ、そう? そこまであんたが言うならしょうがないわね。 ご主人様、仕方ないから着替えてきてあげるわ。うふふ、えへへ、ぐふふふふ」

ルイズがそう言って再び奥に引っ込んだ瞬間、才人は液体的な動きでその場に崩れ落ちた。 何とか。 何とか先程の絶命的な危機は逃れることが出来たらしい。 才人は心の底から安堵し、今の命あることを神に感謝した。 ご主人様に着替えてもらうだけで、死を覚悟しなければならない使い魔。 才人の日常はいつもこんな風に命懸けであった。

因みに五分後、再び使い魔は命懸けの褒め言葉を絞り出さねばならない死の局面に立たされるのだが 彼は完璧に失念している様子。 今はそっとしておいてあげるべきであろう。南無。