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人々は夢を見る。それは二つの月が空に浮かぶこの世界でも例外ではない。 夢は時として鮮明に記憶に残ることもあればまた、全くと言っていいほど残らないこともある。もちろんその夢がいい夢であろうと恐ろしい悪夢であろうとも。 時には夢の中での出来事を寝言として口にするものもいる。

ここ数日サイトは眠れない夜を過ごしていた。理由は本人もよく分かってなく、「まあすぐに寝付くだろう」と軽く考え、しばらく目を閉じ水聖霊騎士団のことや今後のことなどを考えたりしていた。 また最近はバタバタしており一人でじっくり考え事をできるいい機会だと解釈した。 ところが今日はいつもとは少し違うことが起きた。 それは自分の横で眠っている自分の可愛いご主人様――ルイズが何か寝言を呟いたからである。 「ダメ…行っちゃ……ダメ…サイトォ…」 お、俺ぇ!? はっきり言って自分が好きな相手に寝言でもそんなこと言われるとすごく嬉しく心踊る気分である。 「私を…置いていかないで……死んじゃ…ダメェ…」 その言葉を聞いた瞬間サイトは七万のアルビオン軍を止めるためにルイズを眠らせたことを思い出した。 サイトは当時ルイズを死なせないことで頭がいっぱいになり、ルイズがどんな気持ちでいるのかあまり考えれなかった。 もちろんその後のルイズの落ち込み様や自殺の一歩手前まで追い込むほどの絶望感なども考え付かなかったのだ。 そしてルイズはそのことを夢の中で思い出し苦しそうに眠っているのだ。 「わ、わ、私のせいで……サイトが…サイトがぁ…」 そう呟くと途端にルイズの閉じられた瞼から涙が零れ落ちた。 そんな姿を見ると後悔はしないと思っていたあの時の決意が脆くも揺らいだ。 「(ルイズがこんなに悲しむなんて……俺は…)」 ――なんて身勝手なんだ。そう思わずにはいられなかった。 止めどなく流れる落ちる涙を見て、ルイズへの愛おしさが込上げてきて、手がルイズへと近づいていく。 右手をそっと首もとから後頭部へ回し、左手をそっと背中に回しこみ、そしてぎゅっとルイズを抱きしめ、 「俺は、生きてるから…ずっと、側に居るから…だから安心して」 そっと耳元に呟きながら背中をトントンッっと子供を寝かしつける親のように優しくたたいてあげた。 すると、軽く身をよじって再び静かに寝息を立てて眠りについた。

なんだか嫌な夢を見ていた気がする。 それが何の夢だかは思い出せない。 いや、思い出したくないのだろう。思い出したら大切な何かをまた失っていそうで、その夢が現実に起きてしまいそうで…。 そう思わずにはいられなかった。 でもそんな意思とは関係なく勝手に頭には薄らと夢の記憶が再生される。

真っ暗な中で自分の手元には明るく、暖かな『何か』があった。 それは自分が悔しい時、苦しい時、悲しい時、どんな時でも側に居た気がする。 とても、とても大切なその『何か』はいつの間にか自分の中でとてつもなく大きなモノとなっていた。 どんなにひどい扱いを受けようとも、どんなに嫌われるようなことをされても、常に自分の近くにあった。 だが、そんな中でその『何か』は優しく、とても優しく微笑みながら――――消え去った。 その瞬間自分の中の心が半分崩れ落ちたように感じた。 その心の隙間に流れ込んでくるのはとてつもなく大きな後悔と喪失感だった。

嫌な夢。そう思っていると、閉じられた瞼の内側から涙があふれた。 泣いているのは夢の中? それとも現実? まだ覚醒しきってない頭ではどちらか判断はつかず、夢と現実の間を行き来しているとその暖かな『何か』が自分を優しく抱きしめてくれた。 頭の後ろと背中に感じる手の感触。 包み込まれるような暖かさ。 聞こえてくる胸の鼓動。 背中を優しくたたいてくれる心地よいリズム。 そして耳元で聞こえた言葉…。 嬉しかった。悲しみの涙とは違う、『喜びの涙』が流れ落ちる。 そっと薄らと目を開けてみると目の前に迫る服を着た人の胸板。そしていつも側に居る人の臭い……。 ――――サイトだ…。 それを感じると胸の中の喪失感が幸福感で埋められていく。 再び目を閉じて眠りにつく。

夢の中では未だに真っ暗だった。 恐怖や寂しさは感じない。期待いや、自信があった。 必ず来てくれる、帰って来てくれる。そんな不確かな思いがあった。 でも私はそれを信じて疑わない。 だって「もうだめだ」と思った時だって来てくれたもの。悲しい時も側に居てくれたもの。 だから私は信じている。信じていればきっと来てくれる。 ほら、優しい『何か』そう、サイトが、私のところへ…再び……戻って…来てくれたから―――。

夢が覚めた。辺りはすでに明るくなり始めていた。 私は夢を見ていたのだろうか? 内容は覚えていない。 だが、嫌な気持ちではなかった。むしろ嬉しかったのかもしれない。 言いようのない幸福感と暖かさ……。 いい朝だ。そう感じて目を開けるとサイトが私を抱きしめながら寝ていた。 「(い、い、犬ぅぅぅぅ!)」 と顔を真っ赤にして怒りかけたが、なんだか怒る気がしなかった。 「(ま、いっか。なんだか気分がいいし)」 顔はいまだ真っ赤で心臓はドキドキしていたが、逆にそれが心地よくも感じ、また瞼を閉じた。 今日は虚無の曜だしもうしばらくこのままでいよう。

ルイズは眠りについた。――――暖かな『サイト』に包まれながら。

続く…………かな?