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ゼロの飼い犬10 雨降りの後               Soft-M ■1    気がついたら、そこにサイトが後ろ姿で立っていた。  久しぶりの姿。もう何日も会っていないわたしの使い魔。 その背中に向かって走り出したくなる。大声で呼びたくなる。    なのに、できない。開きかけた口からは何も言葉が出てこないし、 踏み出しかけた足は金縛りにかかったみたいにその場に留まる。    どうして? なんで? 混乱した直後に気付く。 わたしは、サイトに何を言いたいのか自分でもわかってない。 どうしたいのか、どうして欲しいのかもわかってない。  胸の奥に泥のような重みが膨らんで、苦しくなる。涙が出そうになる。    滲んだ視界の中でただサイトの黒髪だけを見つめていたら…… 不意に、サイトは振り向いた。どきんと心臓が跳ねる。  サイトはこちらを向くと、嬉しそうに笑った。その顔をみただけで、 胸の奥の苦しさがすっと抜け落ちる。どうしてよ。何でアイツの笑顔なんかで。    よくわからない憤りが湧き上がってきて、わたしは今度こそサイトを呼ぼうと 息を大きく吸い込む。    そこで、わたしのすぐ横を後ろから誰かが走って通り過ぎた。  驚いてその姿を確認すると、それはサイトと同じ黒髪のメイドだった。  メイドはサイトの側まで行くと、その胸に飛び込んだ。サイトもそれを快く受け止める。    サイトはさっきの笑顔を腕の中のメイドに向けて、目を細める。  ……違う。さっきのわたしへ向けてくれたものだと思えたサイトの笑みは、 最初からこのメイドへのものだったんだ。    サイトはメイドに何か囁いた。それを聞いたメイドは頬を染めて、とろんと瞳を潤ませる。  なに? なにを言ったの? なにをしてるの? わたしがここにいるのに。わたしの前で。 抜け落ちたと思っていた苦しさが、何倍にもなって襲いかかってくる。    わたしは何か叫んで止めようとする。けれど声が出ない。サイトはわたしに気づきもしない。  涙が溢れた。こんなの見たくない。なのに目が逸らせない。  サイトはメイドの顎を指で少し持ち上げた。そして身を屈める。  メイドは目を閉じて、サイトはその顔に顔を寄せて――。    やだ、嘘。嘘でしょ。そんなの、そんなの……!!     「やめてよっ!!!」    自分の出した怒鳴り声に驚いて、わたしはベッドから跳ね起きた。 ばくんばくん鳴っている胸に手を当てて、辺りを見回す。  見慣れたわたしの部屋だった。あのメイドなんていない。もちろん……サイトもいない。    汗をびっしょりかいていて、髪が顔や首筋に張り付いている。 それを直す気にもなれず、わたしはベッドの上で膝を抱えた。    今の光景は夢だとわかったのに、胸の奥の気持ち悪さと目尻に溜まった涙は消えない。 汗が浮かんで不快な頬に、さらに涙がつたって落ちた。    今のは夢だった。けど、わたしの前で行われていないだけで、夢じゃないのかもしれない。  サイトとあのメイドは、あの夢の、その先もしているのかもしれない。 わたしの知らないところで。わたしをほっぽって、出て行ってしまった先で。   「やだ……やだよぉ……」  胸を締め付けられる……ううん、刃物でグサグサ突き刺されるような痛みに、 涙がぽろぽろ零れた。子供のころにどんな悪夢を見ても、多分こんなに泣いたことは無い。  わたしは膝の間に顔を埋めて震えていた。   ■2    どれだけの間ベッドの上で丸くなっていたのかわからないけど、昼休みの鐘が聞こえた。  また授業をさぼってしまった。けど、動く気にもなれなかったんだから仕方ない。    夢の余韻がいくらか消えて、ようやくまともに頭が動くようになると、 ひどくお腹がすいていることに気付いた。前にご飯を食べたのがいつだったかも思い出せない。  お腹に何か詰め込んだら、ずきずき痛む胸もいくらかマシになるかしら。  わたしはよろよろと体を起こすと、最低限の身支度をして部屋を出た。     「ひっどい顔ねぇ」  食堂まで重い体を引きずっていき、全然美味しく感じられない昼食を もそもそ口に運んでいると、呆れた声がわたしの耳に飛び込んだ。   「ちょっと、聞いてる? あなたに言ってるのよ、ルイズ」  顔を上げると、わたしの席の横にはそばかすの浮いた顔にブロンドの巻き毛。 香水のモンモランシーが立っていた。  わたしの食が進んでいないだけで、ほとんどの生徒は食べ終わってしまったみたい。 「……ほっといてよ」  食器を置いて立ち上がる。まだ残ってるけどもういらない。   「わたしもそうしたい所だけどね、ちょっと流石に目に余るわよ。 このままずっと授業にも出ないでいる気? 使い魔と喧嘩したくらいで?」 「関係ないでしょ、そんなこと」  モンモランシーにまでいくらか事情が伝わってるみたい。でもどうでもいい。 相手なんかしたくない。わたしはさっさと部屋に戻ろうとした。   「あのねぇルイズ。わかってる? あなたのしてることって最悪よ。 使い魔が逃げ出したのを探しに行くでもなく、戻ってくるのを信じて待つでもなく。 一体どうしたいわけ? 引き籠もってるだけで何か解決すると思ってるの?」  モンモランシーの言ってることがいちいち事実なのが癪に障る。何も言い返せない。  そのまま食堂の出口に向かうと、後ろから深い溜息が聞こえた。   「あなた……、戻ったわね。サモン・サーヴァントをする前のあなたに。 ううん、もっと酷いかも。この前まではあなたをゼロだゼロだって馬鹿にしてたけど、 今のあなたってそれ以下よ。マイナスのルイズだわ」    わたしは奥歯を噛みしめると、その言葉を無視して廊下に出た。  そこで、何やら中庭の方が騒がしいことに気付く。窓から覗いてみると、アウストリの広場に 竜が何匹も降り立ち、その真ん中によくわからない緑色の大きなものが鎮座している。    そして、その隣には――見間違えるわけがない、珍しい服装と黒髪をした、 わたしの使い魔。ヒラガサイトが立っていた。    わたしは考える間もなく、広場まで走った。けれど、声を上げればサイトに届く距離まで 近付いたところで足が止まる。何を言ったらいいのかわからない。今朝の夢の再現。  サイトには興奮した様子でコルベール先生が詰め寄っていて、何か話してるみたい。 そのうち話はまとまったようで、先生はサイトの元を離れてどこかへ走っていった。    今、サイトは一人。もし、ふとわたしの方を見たら気付く。 そうしたらどんな顔をするんだろう? わたしはどんな顔をしたらいいんだろう?  不安に胸が苦しくなって。でもサイトの所へ行って話したい、近くでその顔をみたい衝動も 膨らんで、思い切って駆け寄ろうとしたとき。  まるで本当に今朝の夢と同じように、黒髪のメイドが進み出てサイトに話しかけた。   「えっと、サイトさん。ミスタ・コルベールに、その……、がそりんでしたっけ? 今お話していたものを作っていただけたら、このひこうきは飛ぶんですか?」 「ああ、飛ぶ。シエスタのひいおじいさんが飛べなかったのは、 そのガソリン……まぁ、ランプでいうと油にあたるみたいな、燃料が無かったからなんだ」   ■3    何だかよくわからないことを話している。でも、サイトがメイドに向ける笑顔は この上なく嬉しそうで、宝物を見つけた子供みたいにきらきらしている。  あんな顔、わたしに向けてくれたことあったかしら。あったとしても、思い出せない。  そして、その笑顔は今、わたしではなくあのメイドに向けられている。   「凄いですね、本当に飛ぶんだぁ……」 「飛べるようになったら、必ずシエスタも乗せるよ。 シエスタのひいおじいさんが残した、『竜の羽衣』に」  サイトはそう言ってメイドの肩に手を置いた。メイドは頬を染めて頷く。    ぞくりと寒気が走る。そのまま、今朝見た夢みたいに抱き合うんじゃないかと思えたから。  けど、当たり前だけどそんなことはなかった。コルベール先生が息せき切って戻ってくると、 また何か話し始める。運び賃がどうこう言ってるけど、たぶんわたしには関係ない話。    わたしはくるりと踵を返すと、広場から立ち去った。 他の人がいるところでは、サイトと話せる気がしない。    校舎の上の階に上って窓からこっそりサイトを見ていたら、サイトはコルベール先生と一緒に 先生の研究室である掘っ立て小屋に引っ込んだ。  しばらくして出てくると、今度は例の緑色の大きい物の中に入り込んで 何やら真剣な顔でいじり回している。竜を使ってまであれを運んでもらったのかしら。    今ならサイトは一人。誰の邪魔も入らない。わたしはとくんとくん鳴り出した胸を押さえると、 深呼吸をひとつして階段を降りた。  ――とにかく、サイトと話をするために。    その前に、わたしは部屋に戻って顔と髪を確認した。 モンモランシーに言われた通り、酷い顔。顔を洗って、髪を梳かし直して、精一杯整える。  なんでこんなことしてるんだろう。でも、酷い顔のままでサイトと会いたくない。  どうにか見られるような顔になると、わけもなく笑顔を作る練習なんかしてから部屋を出る。    広場に出ると、わたしはなるべく不安が表に出ないように。精一杯胸を張りながら、 サイトが乗っているカヌーに平たい翼が貼り付けられたみたいなものの側まで歩いていった。  サイトはわたしに気付いてちらりとこちらを見たけど、ぷいっと視線を戻した。  怒りがこみ上げるのと同時に、不安が襲いかかる。もう、わたしなんてどうでもいいと 思ってるの? クビにされたんだから関係ないと思ってるの? 相手もしたくないの?    体を押し潰しそうに湧き上がってくる嫌な想像を振り払って、 「なにこれ?」  と聞く。聞きたいのはそんなことじゃないのに。   「ひこうき」  サイトはわたしの方をもう一度見た後、そっけなくそう言ってまた余所を向く。  メイドと話していた時もそう言ってた。名前がわかってもどんなものなのかわからない。   「じゃあそのひこうきとやらから、あんたは降りてきなさい」  努めて、”ご主人様”みたいに、ちょっと前までサイトに命令するときそうしていたみたいに 強気を装ってそう言う。そうしたら、サイトがまたわたしの使い魔でいてくれるとばかりに。    けど、サイトはわたしの言葉が聞こえてないみたいにひこうきをいじっている。 悲しくなった。サイトがわたしを見てくれない。他の物に夢中になってる……。    わたしはひこうきに八つ当たりするみたいに、翼にぶら下がって揺さぶった。 「降りてきなさいって言ってるでしょー!」 「あー、もう。わかったよ」  サイトはうんざりした声でそう言って、やっとわたしの前まで降りてきた。   ■4   「どこ行ってたのよ」  違う。そんなのどうでもいい。なのに、サイトを前にしたらそんな質問しか口から出てこない。 「宝探し」 「ご主人様に無断で行くなんて、どういうつもり?」 「クビじゃなかったのかよ」    目頭が熱くなる。わかってる。サイトが出て行ったのは、わたしがクビだって言ったから。  そんなことを言ったのは……サイトが、あのメイドの所に泊まったから。    キュルケは、サイトはわたしのことが好きだからわたしを助けてくれるんだって言った。  それを聞いて、わたしは信じられなかった。 わたしにサイトから好かれる所なんて無いと思っていたから。  でも、もし本当だったら……嬉しい、と思った。  そんな理由だけでわたしに尽くしてくれているのなら、少しくらいは報いるところがあるべき。 恩返しのつもりで、あいつが喜びそうなことしてあげようかななんて思った。    けど、そんなのやっぱり有り得なかった。サイトが部屋に帰ってこなくなる前の晩、 サイトが急にわたしを組み敷いてきたのは、たぶん寝ぼけてメイドと間違えたから。  どうしてそんな間違いをしたかっていったら……メイドとそんなことをしたことがあるから。  その証拠に、サイトは帰ってこなくなった次の晩、メイドの部屋に泊まった。    サイトは、あのメイドが好きなんだ。あのメイドがサイトにご飯を食べさせてたのは知ってる。  あのメイドはサイトに憧れてるみたいで、たまにサイトと楽しそうに話してるのも知ってる。  当たり前。好きになるなら、自分を好いてくれて、自分に優しくしてくれる相手に決まってる。  ずっと前から、サイトはあのメイドが好きだったんだ。きっとわたしの知らないところで 逢い引きなんかしてて、それで……。    夢の中でサイトとメイドがしようとしてたことを思い出す。  キス。わたしにだけしたんだと思ったのに、違った。サイトのわたしへのキスに 何か特別な意味なんてなかったんだ。 きっとあのメイドともキスして、それで、それよりもっと進んだことも。    痛い。胸が潰れそうなくらい。体の中に膨らんだ嫌な気持ちが爆発しそうになる。 あの時も、サイトを追い出した日にもこんなことを考えて何もかもイヤになって、 サイトにクビだって言った。だから、サイトはいなくなった。あのメイドと一緒に。    でも、サイトを追い出してもぜんぜん気分は晴れなかった。逆に、もっと嫌な気持ちになった。  サイトがわたしから離れたところであのメイドと何をしてるのか想像したら、 悪夢を見るほど気持ちが悪くなった。  ずっと思ってた。サイトが「あれはルイズの誤解だから」なんて言いながら帰ってこないかって。    ――ううん、違う。誤解じゃなくてもいい。そんなの本当は関係ないはず。  サイトが他の女の子を好きでも、わたしのことを好きじゃなくても、 サイトがわたしの使い魔であることには関係無い。サイトがわたしを助けてくれてるのは同じ。  好きでもないし、我が侭だし、酷いことばっかりするわたしを使い魔だからというだけで 助けてくれるサイトに、わたしは本当は……感謝しなくちゃいけなかった。    そんなことも理解できずに、いつもサイトに酷いことをしたり言ってたりした上に 一方的にクビだなんて言ったわたしは、帰ってきてくれたサイトに謝らなきゃいけない。    サイトがあのメイドの事を、好きなんだとしても。    頬を熱いものが伝って落ちた。泣いてる。わたし。なんで?  自分が間違ってたことに気付いて、サイトが帰ってきて、嬉しいんじゃないの?  どうしてこんなに胸が痛いの?   「え……お、おい。何だよ、泣くなよ」  サイトがわたしの側によってきた。涙で視界がぐじゅぐじゅで何も見えない。  肩に手を置かれた。おっきくて温かい手。その手は、さっきあのメイドの肩にも置かれてた。  その時のサイトの笑顔を思い出して……さらに涙が溢れた。   ■5   「泣くなってば。あぁもう、こんなとこで……ちょっと、こっち来い」  サイトは呆れつつもわたしを気遣ってくれる声で言いながら、涙が止まらなくて 何も言えず何も見えないわたしの手を引いて、部屋まで運んでくれた。    サイトがまたわたしの部屋に戻ってきた。それだけで、胸が苦しいのに少し温かくなる。  サイトはわたしをベッドに座らせたので、その袖を引っ張る。サイトは隣に座った。  服を掴んで、その胸に額をくっつける。 そうしてないと、サイトがまたとこかへ行ってしまいそうな気がした。    わたしがいつまでも泣きやまないでいたら、サイトはわたしの頭を撫でてきた。  赤ん坊じゃないわよと思ったけど、驚くくらい安らいだ気分になる。  しばらくそのままでいたら、ようやく涙が止まってくれた。   「く、ひっく…クビだって、言ったけど……嘘だから。使い魔をクビになんてできないんだから」  まだ喉が震えてまともにしゃべれないけど、わたしは必死になってそれだけ言った。   「ああ…わかってるよ」  サイトはわたしの頭をまだ撫でている。それ、もっと続けて欲しい。 「だから、だから……使い魔は、ご主人様の近くにいなきゃいけないの。 そう決まってるんだから。勝手にいなくなっちゃだめなの」 「うん、うん」  ちゃんとわかってるのかどうか怪しいけど、サイトは繰り返して頷いた。 それで気持ちが少し楽になる。   「……脱いで」 「え?」 「その上着、脱いで。貸してよ」 「いやでも、遠出して帰ってきたばっかで汚れてるぞ?」 「いいから脱いで!」  今度は、顔を押しつけていたサイトの上着が恋しくなった。ほとんど無理矢理脱がせる。   「あ、あっち向いてなさい」  何度か寝間着の代わりに使った時みたいに、服を脱いでサイトの上着を着る。  懐かしい温もりに安心できて……それから、これをわたしが着てるうちは サイトはいなくなったりしないはずよね、なんていう都合の良い妄想が浮かぶ。    着替え終わってサイトにこっちを向かせると、シャツ姿になった胸に また頭を乗せる。さっきより近くなった体温とわたしが着てる上着とを合わせて、 サイトに包み込まれてるみたいな気分になる。    そうして、ようやくまともに物が考えられるようになった。  わたしは確認しないといけない。サイトの気持ち。サイトとわたしの関係。  怖い。知りたくない。でも、はっきりわからないままでいるのはもっと怖い。  わたしはサイトの匂いに包まれながら勇気を振り絞ると、口を開いた。   「……サイトは、あのメイドが好きなの?」  ぎゅ、とサイトのシャツを掴んだ手に力を込める。 「え……?」 「答えて。それでどうこうするってわけじゃないから」  戸惑うサイトに、さらに質問する。  もの凄く長く感じられる時間が流れた。たぶん、何秒も経ってないんだと思うけど。   「……好きだよ、たぶん」  その答えにびくっと体が震えた後、語尾に付け加えられた言葉に疑問が生まれる。   「な、なによそれ、たぶんって! あんたの気持ちの事でしょ!」 「し、仕方ないだろ。俺はいつかは帰らなきゃいけない人間だし……」  顔を上げて怒鳴ると、サイトは気まずそうに視線を逸らした。   ■6   「じゃあ、もし帰る方法が絶対に無いんだとしたら、好きってこと?」 「わかんねえよ、そんな仮定の話なんて。それに……」  サイトは言葉に詰まってわたしの方をちらりと見る。   「な、何よ?」 「なんでもねーよ」 「言いなさいよ! 何でもないってことないでしょ!」  詰め寄ると、サイトはわたしの肩を掴んで制止した。  わかんない。こいつの気持ちが余計にわかんなくなった。 でも……あのメイドのことが好きだって断言されなくて、ホッとしてる自分がいた。   「そ、それじゃあ、好きかどうかもはっきりしない子の部屋に泊まったの? 最っ低! 酷い! 不潔!! 色魔犬!!!」 「それは……! その、シエスタには寝る場所が無かったから泊めてもらっただけで」 「じゃあ、その……い、いいいかがわしいことは、してないってわけ?」  じっと見つめる。サイトは誤魔化すように視線を逸らした。   「えーっと……し、してなきにしもあらずというか」 「わけわかんないわよ!」 「さっ、最後まではしてません!」 「最後って何よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???」    ついに溜まっていたものが爆発して、わたしはサイトをベッドから蹴り落とした。  変な体勢で床に落下して仰向けになったサイトを、仁王立ちで見下ろす。   「まさか、まさかあんた、ただスケベなだけで女の子なら何でもいいっていうんじゃ ないでしょうね!? もしそうなら絶対許さないわよ!? 始祖ブリミルの名の下にご主人様が制裁を加えてやるんだからっ!!」    荒くなった息を整えながら、びしっと眼下の使い魔を指して言う。  サイトは目を回していたが、正気に戻るとわたしの言葉にこくこく頷いた。   「も、もういいわ。とにかく! 一方的にクビだなんて言ったのはわたしにも 否があったって認めてあげる。それは謝るわ。 今でも、これからもあんたはわたしの使い魔だってこと、忘れないでよね!」 「ああ……わかった。……で、あの、それはいいんだけどさ……」 「あによ?」    床に寝っ転がってるサイトが、口元を引きつらせながらわたしの方を見上げつつ おずおずと言ってきた。   「その……このアングルだと、見えそう」  何が? 眉をひそめて状況を再確認する。 ベッドの下には、こちら側に頭があって仰向けのサイト。わたしはベッドの上に立ってる。  で、わたしはサイトの上着だけを、寝間着代わりにするときと同じように着てる。    ……………。  わたしはベッドの上から跳躍すると、サイトの顔を踏みつぶした。     「もう、なんでこうなっちゃうのかしら」  のびてしまったサイトをどうにかベッドの上に引き上げると、その腕を枕にして呟く。  ちゃんと謝ろうと思ったのに。今までの感謝の気持ちを示そうと思ったのに。 サイトが目の前に帰ってきたら、いつもと同じような物言いしかできない。  素直になれないどころか、自分がどうしたいのかもわからなくなる。   「きっと、わたしだけのせいじゃないんだから。あんたのせいでもあるんだから」  ただの八つ当たりだとわかってて、寝てるサイトにそう言うと、わたしは目を瞑る。  色んな物が胸の内にモヤモヤしてるのに、ただここにサイトがいるってだけで 安心できてしまってるわたしがいて……それがなんだか悔しかった。   ■7                        ∞ ∞ ∞    仕事が一段落ついて休憩をもらったわたしは、中庭から見える空を見上げて伸びをひとつ。  どうしようかなとちょっと考えた後、宝探しから帰ってきて以来、サイトさんが アウストリの広場で『竜の羽衣』……じゃなくて、ひこうきを点検していることを思い出します。    今もそうしているのなら、お茶を持って行ったら喜んで頂けるかしら。ひょっとしたら休憩を ご一緒できるかも。良い思いつきに鼻歌なんて歌いながら、広場の方へ足を向けると。  ちょうど校舎から出てきた桃髪の生徒の方が、わたしの姿を見て足を止めました。   「あっ」 「……ミス・ヴァリエール。ご機嫌麗しゅう」  一瞬ぎくっと身をすくませてしまってから、取り繕うように頭を下げて挨拶。  ミス・ヴァリエールの方も、わたしを前にして何かためらっているよう。    わたしやサイトさんがこの学院に戻ってきて、今日で三日目。 サイトさんとミス・ヴァリエールはどうやらまた主人と使い魔の関係に戻れた様子で、 それまでよりもちょっとぎこちない感じはするものの、仲直りできたみたい。  けれど、サイトさんがミス・ヴァリエールの元から一時的にせよ離れることになったのは、 わたしと無関係ではありません。ミスがわたしのことをどう思っているのか…… 少し不安だし、気になるところです。    ミスが何も仰らないので、もう一度礼をして立ち去ろうとすると、 「ちょっと待って」  遠慮がちにお声をかけられました。 「わたしに何かご用でしょうか?」 「聞きたいことがあるの」  決意の色を含んだミス・ヴァリエールの鳶色の瞳が、わたしを見つめます。   「あんた、サイトのことが好きなの?」  一呼吸置いてミス・ヴァリエールの口から出てきたのは、あまりにも真っ直ぐな言葉。  一瞬気圧されてしまった後、わたしも唇を引き結んでミスの目を見返しました。   「はい。わたしはサイトさんが好きです」  相手が貴族の方でも、公爵家でも関係ない。わたしは正直に答えます。   「……サイトは、あなたのことを好きと言ったの?」  次いでの質問。喉の奥から絞り出すような、震えた声。   「はい」  そう答えると、ミス・ヴァリエールはびくりと肩を震わせました。 「……と言ったら、どうするんですか?」  明らかに無礼な、メイドがしていい口の利き方ではない台詞。  それでもミスは文句も言わずに、わたしから目を逸らせます。    ミス・ヴァリエールに聞かれるまでもなく、わたしは気付いていました。 サイトさんは、わたしに一度も『好き』とは言ってくれていません。  そして、それが言えない理由のうち、大きい部分をこのミス・ヴァリエールが占めている。 そのことも薄々わかっていました。    わたしは、ミス・ヴァリエールが羨ましい。ただ羨ましいだけじゃなく、 もっと汚い感情で……、この方がサイトさんの主人であることを妬んでいます。    公爵家の家柄だから将来が約束されていて。この学院にいられて。 そして、サイトさんを使い魔として常に側に置けて、言うがままにできる。  ミスは平民と同様に魔法が使えないのに。  もしヴァリエール家に生まれていなければ、そしてサイトさんと別の形で会っていたら。 サイトさんはあなたに見向きもしなかったんじゃないですか。そうまで考えたことすらあります。   ■8    ミス・ヴァリエールの姿を見るたびに、自分の心の汚い部分を改めて感じてしまう。  今もそう。ここでわたしが上手く嘘をつけば、もしかしたらミスとサイトさんを 再び仲違いさせて、サイトさんの気持ちをわたしに向けることができるかもしれない。  そんなことまで考えてしまっている自分がいることに気付いています。    それが、わたしの本性。正直な気持ち。汚い、醜い心の底。   「……サイトさんは、わたしを好きだと言ってくれたことはありません」  でもわたしの口からは、正直な気持ちに逆らった、正直な言葉が出てきました。    ミス・ヴァリエールの顔色が、あからさまに安堵の色に染まります。  それを見て、わたしの中の汚い部分が悲鳴を上げる。  どうしてわざわざ馬鹿正直な事を言って目の前の相手を喜ばせるのか、と。   「そう」 「ミス・ヴァリエールはどうなんですか? サイトさんが好きなんですか?」  それどころか、聞かなくても良いことを。聞くべきじゃないことが口から飛び出します。  ミス・ヴァリエールは質問の内容にも、わたしがそんなことを聞いてきたこと自体にも 驚いたみたいに、はっと目を見開いて後じさりました。   「な、なんであんたにそんなこと答えなきゃいけないのよ!」 「好きなんですか?」  必死で動揺を隠そうと声を張り上げるミスに、もう一度聞く。  ミス・ヴァリエールは真っ赤になって、眉をつり上げて、でも何も答えません。   「……じゃあ、質問を変えます。ミス・ヴァリエールは、サイトさんのことが大事ですか?」 「……それは……、あいつは、使い魔だし……」  今度の質問には、ミスは歯切れ悪くそう答えました。   「大事なら、サイトさんにそう言ってあげていますか?」 「何よ、なんであんたからそんな」  じっとわたしを睨むミスには、いつもの迫力は微塵も感じられません。   「わたしは言ってもらえました」 「え……」  目を瞑ってそう続ける。ミスがその言葉にどんな反応をしたのかはわかりません。 ひょっとしたら見るのが怖かったのかも。   「サイトさんは、わたしのことが大事だって言ってくれました。 そう言って見つめてくれて、笑ってくれて……抱きしめてくれました。 それだけで、もう他に何もいらないほど満たされました。自分でも怖いくらい嬉しかった」    何を言っているんだろう、わたし。   「わたしもサイトさんが大事だって、何度も言いました。サイトさんは喜んでくれました。 けど、サイトさんには心残りがあるみたいでした。どこか寂しそうで、悩んでいて。 きっと、自分をクビにしたご主人様のことを考えていたんですね。ご主人様の気持ちが わからなくて不安だったんですね。だから、わたしが慰めてあげたくなりました」    言い切った後、ゆっくり目を開きます。 「……気持ちを伝える一言。簡単なことなのに、どうして言って貰えないんでしょうね?」    他人事のように言うと、つかつかとミス・ヴァリエールが迫ってくるのが目に入りました。 内心ではビクビクしていたわたしは反射的に身をすくませると、ミスは大きく息を飲んで。    ――そのまま、わたしの横を通り過ぎていきました。  わたしが呆気にとられて振り向くと、ミス・ヴァリエールは足を止めて、   「シエスタ」   そう、呟きました。わたしが呼ばれたんだということにとっさには気付けずにいると。   ■9   「……あ、ありがと」  ほとんど独り言みたいな、小さな声でそう続けて、ミス・ヴァリエールは走り去りました。  ミスが消えていった学生寮を見つめながら、思います。    わたしはサイトさんとのことをミスに自慢して、ミスに嫌味を言っただけなのに。  打ち首にされても仕方ないくらいの失礼なことを言ったのに。  サイトさんと、このままぎくしゃくしたままならいいのに、なんて思ってたはずなのに。  どうしてお礼なんて言われたんでしょう。    もう少ししたら休暇が貰えるから、タルブに戻ることになるのに。  サイトさんとミス・ヴァリエールがわたしの知らないところで仲直りしてしまうのが怖いから、 学院に戻ってきたはずなのに。どうしてミスに感謝されるようなことを言ったんでしょう。   「どうしてでしょうね」  小さく声に出てしまって、そこで気付きました。  わたしは、たった今ミス・ヴァリエールに初めて名前で呼ばれたんだってことに。                              ∞ ∞ ∞     「サ、サイト」 「んん?」  溜まっていた洗濯物が山のように入っているカゴを抱えた状態で寮の廊下を歩いていると、 後ろから呼びかけられた。ルイズの声だ。振り向くのは危ないので返事だけする。   「悪いけど話なら後にしてくれないか? これ部屋まで運んじゃうから」 「あ……うん」  ルイズは小走りで俺の横まで来て、半歩後ろを黙ってついてきた。  やけに聞き分けがいいことに戸惑いつつ、寮のルイズの部屋まで移動する。

 机の上にカゴを下ろして、室内を見回す。俺がいない間に散らかしっぱなしにしてあったらしい ルイズの部屋は、数日かけてどうにか追い出される前と同じくらいに片づいた。 「で、なんか用か?」  その部屋の持ち主であるルイズの顔を見て聞く。 「え? あ、別に用があるってわけじゃないんだけど……」  ルイズは俺と目を合わせると、気まずそうにその視線を逸らしながら歯切れの悪いことを言った。   「そう? なら俺、ゼロ戦を見て来たいんだけど」  そう声をかけると、 「ぜろせん……あのひこうき? 行っちゃうの?」  ルイズは飼い主とはぐれた子犬みたいな目を俺に向けてきた。 どきっとして無闇に罪悪感が湧き上がってくる。    宝探しから帰ってきて以来、ルイズはこんな調子だった。いつも通り高圧的な物言いで、 怒鳴ったり叩いたりしてくることはあるものの、ふとした調子でもの凄く不安そうな様子を見せる。  やっぱり派手な仲違いをした後で、俺にどんな態度をとったらいいのか計りかねてるんだろう。  俺だってそうだ。タバサやシエスタに色々言われたものの、やっぱりルイズの気持ちは よくわからない。そんな中でどう対応したらいいのかなんて、もっとわからない。    けど。今にも俺に駆け寄って飛びついてきそうな様子のルイズを見ていると、 俺が譲歩するべきなんじゃないかと思えてしまう。  学院に帰ってきた当日もそうだった。俺を一方的にクビにしたルイズには不満や文句が 色々あったはずなのに、急に目の前でボロボロ泣かれたら、何が何でもその涙を 止めてやらなきゃって気分になった。俺はルイズの保護者じゃないってのに。   「あー、やっぱやめた。部屋にいる」 「ほんと?」  ルイズはぱあっと顔を輝かせた。それを見て頬が熱くなる。可愛いってのは実に卑怯だ。  咳払いをひとつして洗濯物を畳み始めると、ルイズが隣まで寄ってきた。   ■10   「わ、わたしも手伝うわ」  どういう風の吹き回しだろ。ルイズは俺に習ってカゴから洗濯物を取り出し、畳み始めた。 例によって不器用で雑な畳み方だが、本人が着るものだし別にいいかと思って任せる。  洗濯物が片づくと、ルイズは俺の袖を引っ張った。   「……ちょっと、話したいことがあるから来なさい」  引っ張られるがままにベッドの所まで歩かされて、そこに座らされる。  隣にルイズも座ったので、三日前にここに帰ってきた時のことを思い出す。 今度は何を言われるんだろ。怒られるのも暴力振るわれるもの嫌だが、泣かれるのはもっと困る。    ヒヤヒヤしていると、ルイズはぎろりと俺を睨みつけてきた。 俺がたじろいで体を引くと、今度はルイズ、慌てたようにふにゃっと不安の顔になる。   「あの……聞いて。責めようとか、そういうんじゃないから」  ルイズはまた俺の服を掴むと、おずおずとそう言ってきた。鳶色の瞳が心細そうに揺れている。  いつになく真面目な雰囲気に、俺も気を引き締めた。その目をじっと見返す。   「そ、そんなにじっと見ないでよ。話しにくいじゃない、ばか」  と思ったら、顔を赤くしてぷいっと目を逸らされた。ホント扱いにくいご主人様だ。 「えっと、それでね……その」 「うん」  俺の服を握りしめる手の力がより強くなった。   「その、あの……、わ、わわわ、わたしは……あんたを……」  必死で言葉を紡ぎ出そうとするルイズ。俺は真剣な気持ちで続きを待つ。  ルイズはちらりと俺の顔色を伺うと、今度は俯いてしまった。   「あ、あんたは……」  あんた”は”? 今言おうとしてたことと違うんじゃないか? 「あんたは、わたしのこと……、どう思ってる、の……?」  途切れ途切れにルイズはそう言ってきた。声も、手も肩も震えている。  ルイズが言いたかったのってこの質問? ちょっと違う気がする。でも……。    今までわからなかったルイズの気持ちが、今ので少しわかった。  俺が『ルイズは俺のことを使い魔として人間以下、動物同然だと思ってるんじゃないか』 って考えて不安だったのと同じように、ルイズの方も、不安だったんじゃないだろうか。  例えば、『サイトは自分のことを勝手に召還して契約した迷惑な主人だと思っていて、 使い魔だから仕方なしに嫌々仕えてるんじゃないか』などと考えて。    タバサは、ルイズは本気で俺を犬同然だとは考えていないと言ってくれた。  シエスタは、ルイズは俺のことを必要としているはずだと言ってくれた。    鵜呑みにするつもりはない。けど……今のルイズを見てて、気付いたことがある。  ルイズは、子供なんだ。他人の気持ちも、きっと自分の気持ちもよく理解できていない子供。  貴族としての誇りはある。信念も持っている。けど、それらを強く持っているがゆえに、 自分本来の気持ちというか、本音の部分を制御できないんじゃないだろうか。  自分がそう教えられた通りに、深く考えずに俺を犬だ平民だって言ってるんじゃないか。    子供だから、すぐ癇癪を起こす。困ったら暴れたり泣いたりする。 理屈も何も無しに後先考えないでクビだとか言ってくる。  冷静になって自分の行動を後悔した後でも、俺がルイズのことを怒ったり軽蔑してるんじゃ ないかって不安で、素直に謝れない。子供みたいに意地っ張りだから。    大きな溜息が出た。そんなルイズをわかってやれなかった俺は、同じくらい子供だ。 「な、なによそれぇ……」  ルイズが今にも泣き出しそうな声を出す。 今の溜息が『わたしのことどう思ってるの?』の答えだと思われたのか。   「あのな、ルイズ。俺がルイズをどう思ってるかだけど」   ■11    言っている途中に、ルイズは親の叱りを待ち受ける娘みたいな顔になった。   「よくわかんねぇ」    ルイズは目が点になった。そのまま数秒が経過した後、一気に眉がつり上がる。 「わっ、わかんねぇって……こっちの台詞よ! なにそれ!?」   「仕方ないだろ、実際俺でもわかんないんだから。あー、マジでわかんねえよ。 なんでこんなご主人さまのとこに帰ってきちまったのか全っ然わかんないね。 人使い荒いしすぐ癇癪起こすしガキだし口だけ偉そうなくせに一人じゃなんもできねえし。 ほんとどーしようもないご主人さまだよ、お前」   「わ、わかってるじゃないの! よくもそんなっ!!」  俺が開き直って罵詈雑言を浴びせると、ルイズは怒りを通り越して蒼白になった。 「いーや、ぜんぜんわかんないね」 「何がよっ!?」   「それだけ救えないご主人さまのところに、なんで戻る気になったのかってことがだよ。 なんでお前の顔見てお前のキンキン声を聞いてると、悪くない気分になるのかってことがだよ」    見つめると、ルイズはぽかんとした顔つきになって大人しくなった。  前言撤回。俺はたぶんルイズより子供だ。本当は薄々わかってるのに、言えないんだから。  なんでルイズの側にいると。ルイズの顔を見て声を聞いてるとどきどきするのか。  わかってるくせに自分でも認めないんだから。こんな気持ちにされちまった俺の負け。   「わ、わけわかんないわよ……」 「奇遇だな、俺もわけわからん」  そのまま俺は誘われるようにルイズの肩に手を乗せると、引き寄せて胸の中に抱き留めた。   「な……にすんのよ……。はなしなさいよぉ……」  ルイズはそう言うが、俺の手から逃れようとする力など全く感じられない。 むしろ、俺の胸に体を預けてきた。  もし本気で抵抗したとしても、俺がちょっと強く捕まえれば逃げることなんかできなくなる。 それくらい小さくて細くて軽い体。俺がいなかったら本当に何もできないルイズ。    俺は、たぶん嬉しかったんだ。こんなルイズを守ってやれることが。助けてやれることが。 ルイズが俺に我が侭言ったりしてくるのも、本当は俺に甘えてるからできることなんだって、 なんとなく気付いてたから。   「ルイズ、お前俺がいないと駄目なんだろ? たかだか十日くらい離れてただけで 帰ってきたら泣きついてくるような奴、ほっとけるわけないだろ」 「な、なによ。同情のつもり!?」 「ちげーよ。お前のためじゃなくて、俺のためだよ。 俺がいないとこでめそめそしてんじゃないかって考えたら、寝覚め悪いじゃんか」  ぎゅっと抱きしめる。ルイズは小さく吐息を零した。   「めっ、めそめそなんかしてないもん……」 「してるだろ。今だってしてるし」  顔をのぞき込もうとしたら、そっぽを向かれてしまった。    この意地っ張りで素直じゃないところをどうにかしたら、友達だってできるだろうに。 けど、そんな厄介な性格も含めてルイズだ。だからほっとけないんだ。   「……俺は、ルイズの所に戻ってこれて嬉しいよ」  はっきり言ってやった。そんなルイズにこっちまで意地張るわけにはいかない。 「え……」 「ルイズにクビだって言われて、ショックだった。悲しかった」  言いながらルイズの髪を撫でると、ルイズの体から緊張が抜けていくのがわかる。   ■12   「だ、だったら、も、もっと早くかえってきなさいよね……」 「ごめん」 「ごご、ご主人さまを寂しがらせちゃいけないんだから……」 「ごめん」    悪いのは俺だけじゃないと思うんだが、素直に謝る。そして、俺は上半身を倒して ぱたりとベッドに横になった。  俺に抱かれたまま一緒に倒れたルイズは、文句を言う前に頭を俺の胸に預けてくる。  もう、どっちが良いとか悪いとかなんて、どうでもよくなっていた。  ルイズはここにいて、この女の子は俺のご主人さま。  使い魔の俺はそれを守らなきゃいけない立場にあって、俺はそのことを嫌がってない。 いや、むしろ嬉しいとも思ってる。ルイズに頼られて、甘えられて満更でもない。    それでいいや、と思えた。   「……わたしも……」  そのまましばらく胸の上でルイズの重みを感じていたら、ルイズが口を開いた。   「え?」 「わ、わたしも……サイトが戻ってきてくれて、う、嬉しい……」  儚い鈴の音みたいな、今にも消え入りそうな声。その言葉に、胸の奥が熱くなった。 俺が帰ってきてもう三日も経って、ようやくルイズが言ってくれた本音。  こんなことも素直に言えない困ったご主人さまが、ようやく紡ぎ出してくれた台詞。    それが聞けただけでどきどきしてしまって、この腕の中の女の子への愛しさが 膨れあがってしまってる俺自身が恨めしい。   「ルイズ」  たまらなくなって囁くと、背中に回していた手をそろそろと上に持って行き、 ふわふわの髪を掻き分けて首筋に触れた。                             ∞ ∞ ∞     「ふぁっ……」  サイトに抱きしめられて、首筋を撫でられて。喉の奥からヘンな声が漏れた。  散々馬鹿にされて、勝手に抱いてきたりして、腹を立てなきゃいけないはずなのに、 体に力が入らない。文句を言う気にもなれない。    だって、今さっきになってやっとサイトに言えた言葉の通り、嬉しいから。  サイトがわたしを嫌ってなくて、わたしの側にいることも嫌じゃないって言ってくれたから。    大事。あのメイド……シエスタはそう言った。  きっと、その言葉は合ってる。わたしはサイトのことが大事なんだ。  側にいて欲しい。わたしを見ていて欲しい。守って欲しい。尽くして欲しい。 それで、そうしてくれているから感謝する。それって、大事ってことよ。  そもそも主人は使い魔を大事にするものなの。それを態度に出して使い魔を 可愛がって、絆を強くするものなの。そう決まってるんだから、変でも何でもない。    サイトの体温と匂いをすぐ近くで感じていると、頭がとろんとしてくる。 こんなに安心できるのは、サイトと仲直りできたから。胸につっかえていたものがとれたから。    今度は、わたしの方からサイトに感謝を示さないとダメよね。 サイトを追い出す前はそうするつもりだったんだし。  えっと、セーターは……、あれから全然進んでない。今さらながら後悔。  だったら、マッサージ? 結局、わたしからサイトにマッサージしてあげたのは 剣を買いに行く前日の一回だけ。しかも、よくわかんない風に終わっちゃったし……。   ■13   「あ……、あのね、サイト」  ごくりと唾を飲み込んでから、切り出した。今度はちゃんとしてあげよう。 そう思ったら、サイトの指がわたしの首筋から背中の方までくすぐるように降りてきた。   「ひゃっ! ぁ……、な、なにすんのよ」  ぞくぞくって全身が震えた。ただ撫でられただけなのに。 「えっと……その、マッサージ。ご主人さまを寂しがらせちゃったから、そのお詫び、かな?」  サイトはそんなことを言ってきて、今度はもう片方の手で腰の上を撫でてくる。  体の中に電気がびりびり走る。そういえば、わたしだってサイトにマッサージされるの 久しぶりなんだ。アルビオンに行く前以来だわ。そのせいか、妙に新鮮で敏感になってる。   「まって、まっ……あ、ちょっと、ひぁ……」  サイトは構わずわたしの体を弄ってきて、サイトの上でわたしの体が魚みたいに跳ねる。 わたしがサイトにしてあげようと思ったのに、先回りされちゃうなんて。   「嫌か?」 「いや、じゃないけど……」  サイトは不安そうな声をかけてきて、ぴたりとその手を止めた。途端に寂しくなる。 だって、サイトのマッサージ気持ちいいし。以前はこっちから何度も頼んじゃったくらいだし。  どうしよう。して欲しい。恥ずかしいけど……なんだか、前にされたときよりもっと 気持ちいいような気がする。先にわたしがしてもらってから、後でサイトにしてあげようかな。   「じゃ、続けるぞ」  サイトはそう言うと、今まで撫でるような手つきだった指に力を入れて、わたしの背中を 刺激してきた。ぎゅっぎゅって押されるたびに、自分でもよくわからない吐息が漏れる。  すぐに胸の奥に火がついたみたいになって、久しぶりの気持ちいいモヤモヤが 膨らんでくる。けど……。   「ちょ、あん、や……、なによ、この格好……!」  サイトってば、わたしを体の上に乗せたまま、背中に回した手でマッサージしてる。 今までは俯せに寝かせてしてくれたのに。  サイトの指に力が入るたびに、わたしの体がサイトの体に押しつけられる。 サイトの体温とか匂いとか、心臓の鼓動とかがもっと近くなる。  頭がぼーっとしてきた。ヘンなことされてるはずなのに、何も考えられなくなってくる。   「あ、ひゃ、ふ……、あっ、あ、あぁ……」  ばかみたいな声が止められない。サイトの手が背中じゅうを余すところなく 触ったんじゃないかってくらい動き回ってから、腰の方に降りてくる。  どきんと心臓が跳ねる。お尻を触られるんじゃないかって思ったから。  けど、やっぱりそんなことはなくて……サイトの指はわたしの脇腹に触れてきた。 「ん……ルイズ、ちょっと痩せた?」 「な、何言うのよっ!」 「まさか、ちゃんとメシ食ってなかったのか? ただでさえ細いのに」  サイトは心配そうに言ってから、わたしの体を脇に下ろした。   「あ……」  また、寂しくなる。サイトの体が離れただけなのに。サイトはそんなわたしの気持ちが わかってるのか、小さく笑った後、上体を上げてわたしの足に触ってきた。    やっぱり、今までと違う格好。サイトはわたしを仰向けにしたまま足をマッサージする。  わたしのことをいたわってくれて、大事にしてくれてるのがわかる優しい手つきで、 サイトの指が足の先から段々上の方に登ってくる。  わたしの中の”気持ちいい”って感覚を、体の真ん中まで押しやってくるみたい。 モヤモヤがどんどん膨らんできて、マッサージどころかサイトの指が肌に触れるだけで 声が出そうになるほど気持ちよく感じられるようになってくる。    お腹のあたりがむずむずしてきた。ベッドに腰を押しつけるみたいにお尻を揺すって我慢する。 サイトにマッサージされた時、指が太股のあたりに触れてくると、いつもこんな風になる。 きゅうっと体の奥が縮み上がる。この感じ、切なくて苦しいのに、嫌じゃない。   ■14    でも、この感じになるたびに、最後には物足りなさが残ってしまうのも知ってる。  サイトのマッサージは、そのうち気持ちいいのが弾けて溢れたみたいになって それでお終いになるんだけど、ほんの少しだけ満たされない感じが残る。  なんていうか、して欲しいって思ってることを全部はしてくれてないみたいな。    ……ううん、その物足りなさが何なのか、本当はわかってる?    サイトの指が太股を上がって、ソックスの部分を通り過ぎて……そのまま離れた。 わたしの中に、確かな失望が湧き上がってくる。わたし今、残念だって思った。 離さないで続けて欲しいって思った。  今日はうつぶせじゃなくて、手が自由に動かせるからかしら。 反射的に、わたしはサイトの手首を掴んでしまった。   「ルイズ?」 「…………」  今までにマッサージされた時は、わたしはうつぶせの格好だったからサイトの表情は わからなかった。でも今は、頬を赤く染めたサイトが、わたしの顔をのぞき込むのが見える。   「……マ、マッサージだから……」  サイトの顔を見てたら頭が熱くなって、自分でも考える前に口が動いた。 「え?」 「こ、これはマッサージだから……、触りたいとこ、触ってもいい……わよ?」  わたしは掴んだサイトの手を、太股に下ろした。サイトは目を見開いてわたしを見ている。  たった今、サイトがわたしの太股から手を離す直前、わたしは気付いた。 サイトはわたしの太股に当てた手を、自然にもっと上まで持っていきかけた。 まるで、誰かにそれをした経験があるみたいに。   「ルイズ、それは……」 「……いいから」  じわっと嫌な感情が滲み出してくる。誰に? 誰にそんなことしたの?  夢で見た、サイトとシエスタが抱き合ってる姿が蘇る。キュルケの部屋でサイトとキュルケが キスしてた記憶も蘇る。  サイトは知らない所で、わたし以外の女の子には、わたしにしてるよりももっと色んな事を してるかもしれない。    やだ。そんなのやだ。許せない。耐えられない。  ――他の人にしたことなら、わたしにもして欲しい。    わたしはサイトの手首から手を離した。サイトの指はそのままわたしの太股に触れたまま。  どうされるのか想像してぎゅっと体を強ばらせていると、サイトの手が太股を掴むように 開かれた。次に何をされるのかと思って身構えると、そっちに意識が行っていたわたしに 不意打ちするみたいに、もう片方の手がわたしの胸に触れてきた。   「あっ……! え……!?」  びくんと体が跳ねる。制服越しとはいえ、胸を触られた。頭が混乱する。 「さ、触っていいんじゃないのか?」 「いいって言ったけど、なんでっ……」  何で胸なんて触るのよ。わたしが触っていいって言ったのは、言ったのは……。  あれ? どこのつもりだったの? もう自分でもよくわかんない。   「いいなら、じっとしてろ」 「ちょっと、まって、でも、そんなの……あっ」  サイトの手のひらがわたしの胸全体を包み込む。かぁーっと恥ずかしさがこみ上げてくる。  そんな風に触られたら、わたしの胸、ほとんど膨らんでないのがわかっちゃうじゃない。  いや、そのことは何度も馬鹿にされてるし、サイトには裸に近い格好も見せちゃったし、 服の上からだってわたしの胸が無いことくらいわかるだろうけど、でも……。   ■15   「んっ……!」  サイトの手がわたしの胸を恐る恐るといった風に撫でてきた。途端に甘い痺れが 襲いかかってくる。わたしの反応が”良さそう”なので安心したのか、サイトはマッサージの時と 同じように、指に少しずつ力を入れてきた。   「ふっ…、ぁ、んぅ……!!」  その刺激に、危うく息が詰まりそうになった。わたしの、てんでぺったんこな胸。 足とか背中とか、今までマッサージされてた所と大した違いなんて無いと思ってたのに、 体の芯までとろけさせる感覚がサイトの指から染み出してくる。  気持ちの良いモヤモヤが溜まっていくのは胸のあたりだから? そこに近いから? 頭の隅でそんな考えが浮かぶけど、それどころじゃない刺激に押し流される。    サイトはもう片方の手も太股から離して、胸に持ってきた。滲んでぼやけた視界の中に、 わたしを組み敷く格好になったサイトがわたしを見下ろしてるのが見えた。  その頬はやっぱり赤くて、とろんとしていて、何だか……嬉しそう。    なんで? サイトがわたしの体で触りたいとこって、胸なの? こんなにちっちゃいのに? いつも、キュルケとかシエスタとかの胸を見てデレデレしてたくせに? そんなあんたの態度を見せられて、わたしがどれだけ腹を立ててたか知ってるの?  今までさんざん惨めな思いをさせられた分、文句が湧いてくる。 でも、サイトがそんなわたしの胸をこんなに大事そうに触ってくれてることが、文句も不満も 全部ひっくり返してしまうくらい嬉しい。    その嬉しさと一緒に、体の中に溜まった気持ちよさがどんどん膨らんでくる。 今にも弾けてしまいそうなくらい。体がぶるぶる自分の意志とは関係無しに震え始める。  サイトはそれを察したのか、少し体勢を変えた。わたしを見下ろしていたサイトの顔が 近付いてくる。  あ……、キス? キス、してくるの? して欲しいとかそんなの駄目とか考える前に、 わたしの顎が勝手に持ち上がった。でも、サイトの顔はわたしの首筋に沈んだ。   「ひゃっ……、 あ、あぁ、ふぁっ!?」  サイトの唇がわたしの首筋に触れる。不意打ちで与えられた電流みたいな刺激に、 素っ頓狂な悲鳴が上がった。何よう、わたしが顎を上げたのを、そこに何かして欲しいって 意味だと思ったの? それともわかっててわざとやったの?  サイトの熱い唇が首筋を這い上がってこめかみの方に移動して、耳たぶに触れた。 サイトの吐息が耳元に吹きかかる。頭の中が沸騰したみたいにぐらぐらしてくる。  その上、サイトは大きく息を吸い込んで、わたしの髪の匂いを嗅ぐみたいなことまで してきた。恥ずかしさで何も考えられなくなる。ほんとに、こんなの、犬みたいじゃない。   「ルイズ」  何よ。話しかけるなら、おっぱい弄るのやめなさいよ。返事なんてできるわけないでしょ。 「……ルイズ」  だめ。それだめ。耳元で囁かれるのもぞくぞくする。あたまヘンになる。    サイトが小さく溜息をついたのが感じられた。わたしがまともに反応できなかったから? でも仕方ないじゃない、あんたのせいでこんなになっちゃってるんだから。  サイトはわたしの耳元から顔を離した。言い様もない喪失感が襲ってきた後、 サイトは片足の膝をわたしがだらしなくベッドに投げ出した両脚の間に置いてきた。    え、何? 反射的に足を閉じそうになったとき、サイトは胸を弄っていた指で、 わたしの胸の、先っぽのところを摘んだ。かはっ、と声にならない声が喉の奥から漏れる。  今までもちょっとずつはいじられてたけど、こんなに強く触られたのは初めて。 体を突き刺すような鋭い刺激に意識が飛びそうになる。    けど、サイトはそれだけじゃ許してくれなかった。さっきわたしの足の間に入れた膝を 持ち上げて、わたしのスカートと下着の上から”そこ”を太股で触れて――。    その次に何されたのか、よく覚えてない。とにかく、あっという間に限界まで膨らんでた 気持ちいいのが溢れて、それは今までのマッサージの時と決定的に何か違うくらい凄くて、 そのまま濁流の中に飲み込まれたみたいに、わたしは気を失ってしまった。   ■16      ベッドの隣では、サイトが気まずそうにわたしを見ている。  わたしも気まずい。何言ったらいいのかわからない。だけどサイトにどこかに 行かれちゃうのは嫌だったから、口元まで布団を被ってサイトの上着の裾を摘みながら、 サイトの顔を睨みつけてる。    あの後わたしは気を失ってしまって、しばらくしてサイトに頭を撫でられながら目を覚まして、 それから何も言えてない。わたしが寝てる横に座ってもらってるだけ。    まだ胸がどきどき高鳴ってる。体も火照ってる。たぶん、顔も真っ赤なまま。  思い出すだけで、頭がくらくらしてくる。それくらい凄かった。    あんなの……、あんな凄いことになっちゃうのに。サイトってば、今まで手加減してたの?  そう考えて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。  ううん、本当はわたしもわかってる。さっきサイトがわたしにしてくれたのは、 マッサージとかそういうんじゃない。もっと深いこと。簡単に許しちゃいけないこと……。  それを、わたしはサイトに望んで、サイトはそれをしてくれた。    胸の奥に、気持ちいいのか気持ち悪いのか自分でもわからないモヤモヤが膨らむ。  わたし、嫌じゃなかった。サイトに胸を触られるのも、首筋や耳にキスされるのも。  はしたない。いけない。そんなの、許されるはずないことなのに。    サイトの顔をじっと見つめる。サイトは頬を赤くして、ちらりと余所を向いた。  サイトは、わたし以外の子にもあんなことしたの? シエスタにしたの?  聞きたい。けど、怖くて聞けない。どうしたいのか自分でもわからない。    サイトに感謝の気持ちを伝えようとか思ってたのに、もっとややこしい気持ちに なってきちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。あんたのせいよ。  八つ当たり気味に心の中で悪態をついて、ぎゅっとサイトの上着を握りしめると。  サイトはそんなわたしの様子を見て、やれやれ、とでも言いたげに苦笑した。   「……あのな、ルイズ」  サイトはわたしの方に少し体を傾けた。わたしは目だけで『何よ』と聞く。   「さっきのルイズ、すげえ可愛かったぞ」    ボンッ、と頭が火を噴いたみたいに熱くなる。わたしは布団を引っ被った。 「ばっ、馬鹿じゃないの! バカ、ばかばかっ!!」  目を覚ましてからの第一声がこんなのになるなんて。最低。   「かもなぁ」  サイトの顔は見えないけど、照れ隠しみたいな笑い声が聞こえてきた。 何よそれ。さっきのわたし、あんな馬鹿みたいな声出して、たぶん顔とかも ふにゃふにゃになってて、そんなの可愛いと思ったの? 頭おかしいんじゃないの?    そのまましばらくしていると、サイトもベッドに横になったのがわかった。 一瞬どきっとしたけど、すぐに安心感に包まれて、また眠たくなる。  泣いたり怒ったりあんな凄いことされたりで疲れちゃったし、このまま夕飯まで 寝ちゃうのもいいかも。そう思って目を閉じる。    すぐに眠りの世界に落ちていきそうになって、頭の中に霧がかかったみたいになって、 今なら簡単には言えないことも口に出せるかも、という気分になった。  わたしは、半ば眠ってしまっている状態で、隣のサイトの温もりを感じながら、   「――今度は、あんたにもしてやるんだから」    そう、呟いた。      つづく

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