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ゼロの飼い犬14 お医者様でも草津の湯でも(前編)               Soft-M ■1    学院の夏期休暇も差し迫ってきた、とある日の朝。  そろそろ一時限目の予鈴が聞こえてくる時間だったけれど、 わたしは寮の自室で頭を悩ませていた。    悩みの原因は、わたしが手に持っている小瓶。その中にはこのわたし、 香水のモンモランシーが作り上げた魔法薬……、惚れ薬が入っている。  先日、ギーシュに飲ませるつもりでワインの中に垂らしたのだけれど、間違ってルイズに 飲まれてしまったもの。ルイズにかかった効果は解毒剤で消したけど、色々ドタバタしていて 惚れ薬そのものを捨てる機会を逃してしまい、ワインに入れた残りが未だに手元にある。   「……捨てなきゃ、いけないのよねぇ……」  小瓶を手の中で弄びながら、わかりきっていることを言葉にする。 この薬は、作ることも所有することも使用することも法に触れる、バリバリ禁制のもの。  ただ作ってしまっただけでもまずいのに、ルイズに飲ませてしまった前科があるため 当然すぐにでも処分しないといけない。    だけど、この薬はわたしが今まで香水製作で稼いだお金をつぎ込んで作ったものであり、 しかも効果がバッチリだということは実際に他人に使って証明されている完成品。  かかっている費用の面でもわたしの秘薬調合の技術の成果という意味でも 捨てることがためらわれて、ずるずると現在まで引っ張ってしまった。   「ま、わかってるんだけどね。こんなもの持っているべきじゃないって」  この薬をルイズが飲んで、使い魔であるサイトにメロメロになってしまった時のことを思い出す。  まるで別人みたいに恋する少女に変貌したルイズを、サイトは真剣になって治そうと努め、 解毒剤に必要な『水の精霊の涙』まで取りに行くこととなった。  薬のおかげでルイズに好かれ、それまでみたいに酷い仕打ちをされることも無くなったのに、 サイトは少しでも早くルイズを元に戻そうとして必死になっていた。   『あんな薬で好かれても嬉しかねえや。あれはルイズの本当の気持ちじゃねえ』  あの時、ルイズが好きだったんじゃないのかと言われたサイトは、すぐにそう返した。  少し胸が痛む。サイトの言ったことは、冷静に考えれば当たり前のこと。  作った薬の効果を試す、なんていう軽い気持ちでこれをギーシュに使おうとしたわたし自身が、 もの凄く浅はかに思えてしまう。    はぁ、とため息。  わたしの浅はかさも反省するべきだけど、あの時のギーシュの態度も思い出してしまった。  あの男、『惚れられて困るわけでもあるまいに』なんて言ってたわね。  あいつもわたしと同じくらい浅はかだわ。サイトみたいに、もっと真剣になってくれたら。  口先だけの「愛してる」なんて言葉じゃなく、大事な人にありのままの姿でいてくれることを 求めるような、それくらいの気持ちで想われたら……。    …………。    はっとして頬に手を当てると、少し熱くなっていた。  わたし、誰のことを考えてこんなになったのかしら。  ぶんぶんと頭を振ると、きっ、と窓の方を睨みつける。  と、とにかくこれは、一刻も早く捨てるべきなのよ。躊躇してる場合じゃないわ。  窓の側に駆け寄って開け放つ。小瓶の蓋を開けると、それを振りかざして――。    ピタッ、と体が硬直した。理屈ではわかってるのに体が捨てるのを嫌がってる。  ああもう、未練がましいわね! すっぱり諦めなさい!  わたしは目を瞑り、ままよと勢いをつけて小瓶の中身を窓から外に振りまいた。                           ∞ ∞ ∞     ■2   「サイト、わたし、もう教室に行くけど……」  朝食を終えて部屋に戻ってきた後。授業の準備を整えたルイズは、 側に立って待っていた俺に、いつもよりやや弱い調子で話しかけてきた。   「ああ、じゃあ行こうぜ」 「もう大丈夫なの?」  俺が軽く返すと、ルイズは心配そうな目を向けてきた。しおらしい様子にちょっと困惑する。 言われてみれば、ルイズと一緒に授業に出るのは久しぶりだ。    一週間ほど前、アンリエッタ女王さまがさらわれてしまうという事件が起こった。  思い出すだけでも悲しみと憤りが湧き上がってくる。  姫さまをさらったのは魔法で操られたアルビオン皇太子のウェールズ……、 いや、彼の死体だった。俺とルイズ、それにタバサとキュルケまで加えて、彼と戦った。  俺の中には、姫さまの恋心につけ込んだ”敵”にも、それに騙されてしまった姫さまにも、 そして亡くなった後にもその身体を利用されたウェールズ皇太子に対しても……、 いまだ消えない、やりきれない思いが残っている。    ルイズが心配しているのは、その事件の時に大怪我をしてしまった俺の体のこと。  水の魔法で治療してもらったとはいえ体力は酷く失われていて、しばらく寝込むことになった。 ここ数日はようやくいつも通りに回復してきたけど、大事をとって部屋で休んでいたのだった。 「ああ、もう元通り。いつまでも部屋にこもってるってのもどうかと思うし」 「そう、良かった」  ルイズは表情を柔らかくした。俺の事を気遣ってくれて、俺の体の無事を喜んでくれるルイズ。 滅多に見られない優しい顔に、思わずこちらの頬も緩んでしまった。   「な、なによ。ご主人さまが使い魔の体調を考えるのは当たり前なんだから。 それに、一応わたしを守って負った怪我だし」  ルイズはそんな俺の様子に気付いたのか、慌てて表情を強ばらせてそっぽを向くと いつもの調子に戻った。ちょっと残念だけど、やっぱりこっちの方がルイズらしいかな。   「でも、心配してくれて嬉しかった。ありがとな」 「う……、そ、そんなの当然だって言ったでしょ! いちいちお礼なんていらないわよ」  素直に気持ちを伝えると、ルイズは頬を染めて、今度は背中を背けてしまった。 俺の方までちょっと気まずくなって言葉に詰まり、部屋の中に妙な雰囲気が流れる。    前々から自覚があった。実は、ここ一週間ほど、ルイズとの距離感が少々ヘンになっている。  その原因は、姫さまの誘拐事件のこともあるだろうけど、もうひとつ。  その直前にあった、『惚れ薬』事件が大きいと思う。    姫さまの誘拐事件の数日前に、モンモランシーの作った惚れ薬をルイズが飲んでしまい、 俺のことを好きになってしまった。解毒剤で治して貰ったんだけど、治すまでの期間に 俺とルイズの間にあったことを……、いまだに、俺もルイズも引きずっている。    今思い出すだけでも、恥ずかしいやら気まずいやらで頭が沸騰してくる。顔を覆いたくなる。 今でもふとした調子に思い出してしまう。  あの時、『水の精霊の涙』をラグドリアン湖までとりにいく前日のこと。                            ロ 口 □     「どこにも行かないで。他の女の子みないで。わたしだけ見てて」    はっきり言おう。  俺は死にそうだった。    ここはルイズの部屋のベッドの上。昼下がりの、普段なら午後一の授業を受けている時間。  他の生徒が勉学に勤しんでいる時間に、我がご主人さまが何をしているかというと……、 男性、というか俺と一緒にベッドに横になって、しがみついてきている。  さらに言うと、その恰好は制服のワイシャツ一枚、下にはパンツだけという 何とも悩ましいものだった。   ■3    有り得ない状況と部屋の中に漂うお香の匂いが合わさって、何だか夢の中にいるような 非現実感。けど、何度自分の尻をつねってみても醒めないので、夢ではない。    夢じゃないなら、きちんと現実に則した対処をしないといけない。  深呼吸をして、吐息が当たるほど近くにいる女の子の顔を見つめた。  寝ころんで乱れた桃色の髪が、頬や首筋を彩っている。その髪の色よりも紅く、上気した頬。 濡れた宝石のように輝く潤んだ瞳は、じっと俺を見返している。  そんなルイズは、プレゼントに貰ったぬいぐるみを肌身離そうとしない少女のように、 俺の体を繋ぎ止めるがごとくぎゅっと掴んで、寄り添ってくる。    可愛いすぎる。やっぱり死にそう。   「どこにも行かないよ。ずっとここにいるから」  ただ体を離すだけで泣き出してしまいそうな表情のルイズに、そう言って安心させる。 「ほんと?」 「ああ、だから寝ろ。わかったか?」  首を傾げるルイズがまた反則級の破壊力で、慌ててそう付け足す。 眠ってもらいでもしないと、このまま頭か胸のどっちかがパンクしてマジで死ぬ。   「うん……。サイトが寝ろっていうんなら寝る。だって、嫌われたくないもん」  いや、嫌うとかそういう問題ではなくてですね。 「……でも、わたしが寝たら、サイト、またどこかへ行っちゃうんでしょ?」  う、と言葉に詰まる。さっき、眠ったルイズを放って食堂までモンモランシーを 探しに行ったときのことを言っているらしい。一応、ルイズの為を思っての事なんだけど。   「わたしの知らないうちに……、シエスタのところ」  次にルイズは、目尻に涙を浮かべてそう言った。どきんと心臓が跳ねる。 「な、なんでシエスタなんだよ。そうとは限らないだろ」 「だってサイト、昨日もシエスタに会ってたもん。だからサイトのこと追っかけたんだもん」 「う……、それはだな……」    ルイズの言葉に反論できない。そう、昨日の晩、俺はセーラー服を返してもらうつもりで シエスタを呼び出して、色々手違いがあった末、校舎の影で、ちょっとその……、 よろしくない行為に及んでしまった。  その直後にルイズに発見され、激昂したルイズから逃げた先のモンモンの部屋で、 ルイズは惚れ薬をあおってしまったのだ。この異常な事態は、そこから始まっている。    このルイズの態度は、全部惚れ薬の影響で俺のことが好きになってしまった故のもの。  しおらしい言葉も俺を掴んで放さない手も、ルイズ本来のものじゃない。  だから、どんなに今のルイズが可愛くても、どうにかしてしまうわけにはいかない。    かといって、このルイズを放って逃げ出すわけにもいかない。現在のルイズが 俺を何より求めていて、俺がいなくなるだけで泣くほど寂しがるのも事実。  あぁでも、その感情はルイズ本来のものでは無いはずで……、頭がこんがらがる。  天国なんだか地獄なんだか判別のつかない、生殺し状態であった。    俺が如何ともしがたい状況に身悶えていると、ルイズはさらに不安の色を強めた。そして、 「……きのう、シエスタと、何してたの?」  可愛らしい唇をふるふる揺らしながら、さらに心臓が飛び上がりそうなことを聞いてくる。 「え、あ、その、あのだな……」 「あの時のシエスタの声……、嫌だった。よくわかんないけど、すっごく胸が苦しくなった」  本当に痛そうに胸元を押さえて、泣きそうな声でそう言ってくるルイズ。   「ルイズ……」 「今も、苦しいの。あの時のシエスタの声とか、サイトの顔とかを思い出すと……、 すごく嫌な気持ちになる。気持ち悪いモヤモヤが溢れそうになるの」  溜まっていた涙が、頬をつたって落ちた。それを指先で拭ってやる。 ルイズは俺の体を掴む手に、いっそう力を込めた。    それは、嫉妬? 焼き餅?  惚れ薬のせいとはいえ、誰かの事を好きになってしまったのなら、 そんな感情に蝕まれるのもわかる。  あの時、俺とシエスタは他人に大っぴらには言えない事をしていたのもあって、 罪悪感がひしひしと湧き上がってくる。   ■4   「……気持ち悪いモヤモヤ、とって欲しい」 「ど、どうすればいいんだ?」  ルイズのお願いに対して質問すると、ルイズは俺の顔を眼前で見つめて……、 「っ!?」  キス、してきた。  唇同士を当てるだけの、ついばむようなキス。すぐにルイズは顔を離すと、小さく息をついた。   「キス……、すると、ちょっとだけとれる」  恥ずかしそうに瞳を伏せて、自分の唇を指先でなぞるルイズ。 「キスするとって……、そんな、俺とお前って二回しか」  あ、口が滑った。でも、アルビオンの帰りにシルフィードの上で寝ているルイズに こっそりキスしてしまったものを入れても、俺とルイズは二度しかキスしたことがないはず。 今のルイズの台詞は、キスによって”気持ち悪いモヤモヤ”を取り除いた経験がある風だった。   「知らなかったの? わたし、寝てるサイトに何度もキスしてたのに」 「はい?」  初耳だ。寝てる俺って、いつのことだ? 「一緒に寝るようになって、サイトのことを考えてモヤモヤした時は……、 いつも、サイトにキスしてた。そうすると、モヤモヤが気持ちいいモヤモヤになるの」 「そ、そうなの……」  衝撃の新事実に、頭が混乱してきた。  待て、ちょっと待て。これって本当か? ”いつも”って、惚れ薬を飲む前ってことだよな。  今のルイズだったらやりかねないけど、その前からっていうのは……、どういうことだ?  現在の感情に従って、過去まで捏造してしまうものなのか?   「あと、サイトにマッサージしてもらっても、気持ちいいモヤモヤになる。 気持ちいいのでいっぱいになって、幸せになるから……、サイトのマッサージ、大好き」  ふにゃっと顔を綻ばせるルイズ。『大好き』って言葉に、こっちも頬が緩む。  この台詞は……、惚れ薬とか関係無しに、本音だと思いたい。  ストレートに”気持ちいい”とか”幸せ”とか”大好き”とか言われるのが、 こんなに嬉しいものだとは。こっちまで幸せな気分になる。   「え、えーっと、それじゃ、俺はマッサージしたらいいのかな?」  ニヤけそうになった顔を引き結んで、話を『気持ち悪いモヤモヤ、とって欲しい』という 要求に戻す。ルイズはマッサージの後はたいてい力尽きて寝てしまうから、一石二鳥だ。  俺の言葉にルイズは目を輝かせて頷きかけたけど、ちょっと考えてから口を開いた。 「……それじゃ、だめ」 「え?」  なぜ? と問う前に、ルイズは俺の肩を押してベッドの上に仰向けに倒し、 俺のお腹を跨いで覆い被さる恰好になった。   「ルイズ!?」 「前に……、言ったでしょう。今度は……、わたしが、サイトにしてあげるの」  やや上擦ったルイズの声。けど、その口調には決意の色がある。  そういえば、以前にそんなこと言ってたような。あの後、祝辞の詩作りとか アルビオンとの戦争とかが立て続けにあって、何だかんだでうやむやになったと思ってたけど。   「してあげるって……」 「マッサージ」  ルイズは簡潔にそう言うと、再び唇を押しつけてきた。ルイズの言葉に従うなら”いつも” していたらしいキスはやっぱり唇を合わせただけで離され、今度は口元から顎、 首筋の方へちゅっちゅっとそれこそ小鳥のさえずりのような音を立てて下りてくる。   「ふっ、ぁ……、ちょ、ルイズっ……!」  くすぐったい。けどそれ以上に、ルイズの唇の柔らかさや俺の体の上に落ちて揺れる ふわふわの髪の感触や甘い香りに、ぞくぞくと体が痺れる。  肩を通り過ぎてベッドに入るにあたって上着を脱いでいたシャツの襟元まで、 ルイズはところ構わず唇を押し当ててくる。   「待って、ぁ、それ、マッサージじゃないんじゃ……!」 「ちゅ、んっ……、サイトにこうされたら、気持ちよかった」  鎖骨を唇で挟んでいたルイズが、上目遣いに俺を見つめる。   「あ……、あと、ここも」  ルイズはぐいっと上体を伸ばして、今度は俺の耳に唇で噛み付いてきた。 良い匂いがする髪が顔の上に降りかかって、視界も頭の中も桃色に染まる。  ぺろぺろと、子犬がじゃれつくみたいに耳の回りを舐めてくるルイズ。  やばい、マジで気持ちいい。頭がとろける。   ■5   「はぁ……、ふぁ、ぁ……、サイト、サイト」  譫言みたいに意味のない呼びかけをしながら、ルイズは俺の上に乗せた身体をすり寄せ、 キスとも舐めているとも吸い付いているともつかない行為を繰り返す。  ルイズの言うところの”気持ちいいモヤモヤ”ってのはこのことなんだろうなと思える、 甘く熱い昂ぶりが、俺の中にどんどん溜まっていく。    やばい。まずい。  ルイズの方が俺のマッサージである程度満足できていたのかもしれないけど、 俺はこれだけじゃ終われそうにない。  でも、今のルイズがこんなことしてるのは、惚れ薬を飲んだせい。 どんなにルイズが無防備だからって、俺を挑発するようなことしてるからって、 これはルイズの本意じゃない。俺の方が我慢しないといけない。    ギリギリと奥歯を噛みしめると、俺はルイズの肩を掴んでゆっくり引きはがした。 「サイト……?」  寂しそうな、不安そうな、見つめられるだけで罪悪感に潰れそうになる瞳で俺を見るルイズ。 「どうしたの? 良くなかったの?」  再び溜まる涙。色んな意味でこっちまで泣きそうになる。   「いや、それは、良いんだけど……、もう、満足したから。それくらいでいいよ」  誤魔化し笑いをしながらそう言うと、ルイズは頬を膨らませた。 「……前にしてあげた時も、サイト、もういいって言ってからの方が良さそうだった」  う……、良く覚えてるなそんなこと。デルフを買いに行く前の日の事だっけ?  というか、あの日はとても恥ずかしいことになったのでそれだけは避けたい。   「わたし、サイトにしてもらってばっかりで、お返しできてなかった。 サイトにも喜んでもらいたいっていつも思ってたのに、できなかったの。 だから、その分までぜんぶ……、良く、なってもらいたい」  また、”いつも”って言葉を使った。その”いつも”が何を指すのか、 今のルイズの様子からだと計り知れない。  どこまでがルイズの気持ちで、どこからが惚れ薬によるものなのか。その境界がわからない。   「サイトも、一番気持ちいい時のにしてあげる。幸せに、してあげたいの。 わたしが、するの。はぁ……ん……、ん、えっと……こう……?」  そう言って、ルイズは探るような手つきで俺の胸板の上に両手を這わせてきた。  何をするのかと思って身構えていると、ルイズは真剣な表情を作り、 シャツ越しに一心不乱に俺の胸を撫で回し始める。  背筋がむず痒く震えるが、もどかしいだけで気持ちいいとは言い難い。   「あの……、胸、そんな風にされてもあんまり」 「嘘! わたしがされたときは、すっごく良かったのに……」  ルイズは疑いの目で俺を睨んだ。そんなこと言われても。 気持ちいいフリして、ルイズに満足してもらった方が良かったかな、そう僅かに後悔すると。    ルイズは急に身体を引き、自棄になったように俺のシャツを捲り上げてきた。 「ちょっ、え? なに!?」 「やだ……、サイトが良くなってくれないと、絶対イヤ」  息を荒げてそう言って、ルイズは露わになった俺の上半身へと身体を倒した。  そして、ルイズの顔が俺の肌の上に沈んだかと思うと……。    ぬろん。   「うひゃあっ!?」  熱く、湿った感覚。一瞬、何をされたのか本気で迷った。  続けて、覚えのある柔らかい感触。ルイズの唇。  ル、ルイズのやつ、俺の胸……、というか乳首を舐めやがりましたよ。   「んっ……、ん、ちゅっ、ちゅるっ……、ちゅぅぅ……!」 「あっ! ひゃ……、やめっ、うぁ、やめろっ!」  顎が仰け反る。首筋が引きつる。ルイズは加減がわからないのか、 鬱血しそうなくらいの勢いで肌に吸い付き、胸の周辺をぺろぺろ舐めしゃぶる。  のたうち回りたくなるほどくすぐったい。やばい。俺だってまだ女の子の胸を舐めたり したことないのに、まさか先に舐められる体験をするとは思わなかった。  「キスが良かった」+「胸を触られると良かった」ということでそれを組み合わせて この行為ということなのか。正直すぎるというか、迷いが無いというか。   ■6   「ちゅぷっ……、ぁは、サイト、良さそう……♪」 「いや、あの、良いっていうか……、あっ!」  これ、気持ちいいっていうのか? どっちかというと気色悪いに近いんだけど……、 いや、でもその違和感が結構クセになる。まさか、これって開発されてるってことでは。  ルイズに? よりにもよってルイズに? 異常な事態に頭が混乱してくる。   「っは……、ちゅるぷっ……、じゅるっ、ちゅぐっ……!」 「ふっ、あ、ぁあ……」  調子に乗ったのか、ルイズは嬉しそうに俺の乳首を舌で転がし、唇で噛み、 赤ん坊みたいに吸い付く。腰の方まで刺激が伝わってきた。  まずい、本気で感じてる。我慢しないとみっともない声が漏れるくらい。   「はぁ、はぁ、ふぁ……、サイト、気持ちいい……?」  今度は恐る恐るではなく、期待を込めて聞いてくるルイズ。 「……あぁ、良いよ」  俺は、正直に答えるしかない。ルイズの顔がぱぁっと明るくなった。 「嬉し……♪」  そしてまた、喜び勇んで俺の胸をちゅうちゅう吸う作業に戻る。 それを満更でもないと思ってる俺。なんかとてもイケナイ方向に進んでるような。   「はぁ……、ん………、はぁ、サイト……」  そんな時間がしばらく続くうち、ルイズの吐息が段々と乱れていった。口を使っていて 疲れたから、という様子ではない。もっと切ない、切羽詰まった色を含んだ甘い息。 「ルイズ?」 「ひぁっ……!」  乱れた髪を直してやった拍子に指が耳に触れると、ルイズはびくびくと身を震わせた。   「ぁ……は、サイト、サイト……」  ルイズは熱にうかされたような顔を俺の胸板に落とし、頬や顎をその上に預けて、 それでも俺の肌を舐め続ける。熱を持った舌と唾液が、胸板から脇までを濡らしていく。  惚れ薬のせいで最初から様子がおかしいとはいえ、これは尋常じゃない。 少し休ませるべきだと思い、体を起こそうとすると。    太股に、じんわりと生温かい感触。ぎくっとして起こそうとした体を硬直させると、 その太股を捕まえるように何かが挟み込んできた。  ルイズの足だ。ルイズが俺の身体の上に寝そべったまま、両脚で俺の太股を 挟み込むように体勢をずらした。  ……てことは、この生温かい感触の部分って……。    ぼっと脳髄に火がつく。  それを処理しきる前に、太股に押し当てられた部分がゆっくりと動かされた。   「あっ……、はぁ、あぅっ……んぅ……!」  ルイズが俺の肌に浅く歯を立てた。自分が行ったことへの反応に、自分で驚いている。  俺の体の上の足が、腰が震える。小さな手が捲り上げた俺のシャツをぎゅっと掴む。    ぞくっ、と俺の体の奥で、今までにない情動が揺さぶられた。 「ルイズ」 「んぁっ……、あ、ひゃぅっ!」  ごくりと生唾を飲み込み、ゆっくりと、ルイズが跨った太股を左右に揺らしてみる。  直前まで俺を舐めていた口元から唾液を散らして、ルイズは仰け反った。  俺の太股を挟む力がさらに強くなる。それを離すまいと。それを逃すまいと。   「あっ……、あ、あ、ぁあ……、サイト……」  だらしなく口元を開いたルイズが、俺を見下ろす。もっと、と暗に要求する目。  それに応えて、今度は押しつけるように太股を振動させる。  ルイズは、髪を振り乱して嬌声を上げた。   ■7   「あんっ……、ふぁっ、んぁ……、これ、これっ……」  渾身の力で俺にしがみつきながら、叫ぶルイズ。 「これ、って?」 「これ……、サイトの、サイトの足っ……! 気持ちよかった、気持ちよかったから……、 また、またして欲しいって、ずっと思ってて……、でも、言えなくて……」  細長い両脚を完全に俺の足を絡めて、擦りつけながらそう言ってくる。  臆面もない、官能にとろけた言葉が甘い色の吐息と共に吐き出される。  前にルイズに”マッサージ”したとき、最後に膝上でそこを刺激したのを 覚えてたってことだろうか。別に、俺の足じゃなきゃいけないってわけじゃないと思うんだけど。   「して欲しいって……、その、一人でするとかは?」 「え……、一人で、って?」  素でそう聞き返してくるルイズ。そんなことも知らないのか。   「はぁ、ぁ……わたしが、しなきゃいけないのに……、サイトのマッサージ、気持ちいいよぅ……」  うっとりと目を瞑り、腰を揺するルイズ。あまりにも悪びれなく、気持ちいいことを貪る姿。  何だかその様子に、大きな違和感を覚えた。  肌にキスすることも、今ルイズがしていることも、既にマッサージとかいう呼び方で 誤魔化せるレベルの行為じゃない。  宝探しから帰ってきた後、俺から半ば強引にルイズを”マッサージ”した時から、 それはもうただの方便でしかなくなっていた。そのことを、ルイズも自覚してると思っていた。    けど……、今のルイズは、いくら惚れ薬のせいで子供っぽくなってしまっているとはいえ、 男女として簡単には越えられない一線を越えた行為をしているという様子が見られない。  ”マッサージ”で済まされる事との境界を、理解しているように見えない。   「っ……、と、ルイズ。ちょっとストップ!」 「え……やだ、やらぁ……」  その腰を掴んで止めると、ルイズは涙目で抗議してきた。子供から玩具を取り上げたみたいで 少し可哀想になるけど、それより先に確かめるべきことがある。   「あの、このままだとだな、俺のジーンズもお前の下着も汚れちゃうから……」  そう言って、ルイズの軽い身体を浮かす。俺の言葉に、ルイズははっとして目を見開いた。 「あ……! だめっ……!」  愕然とした様子で視線を降した先には、じっとりと濡れたシルクの下着が ブラウスの裾から見え隠れしている。そこから滲んだ物は、さんざ擦りつけていた 俺のジーンズの太股の部分を湿らせて変色させていた。    ルイズはそれに気付いて幼子のように身を縮こませると、顔をくしゃくしゃに歪ませた。 「あぁ……、ふぇ……、ごめんなさい……」  そして、ぽろぽろ涙を零して泣きじゃくる。 「あー、泣かなくていいから! 洗えば問題ないから、な?」  慌てて頭を撫でてやるが、ルイズは涙を止めない。   「だって、わたし、おもらし……」 「いや、それはお漏らしじゃないから」 「ふぇ……?」  何となく予想がついていた反応に、頭を抱えたくなった。   「おもらしじゃないの……?」 「あー、うん、そうなんだけど……。あの、その前に。ちょっといいか?」  ルイズの肩に手を乗せる。ルイズは親にすがりつく幼児みたいな視線を俺に向けた。

「あの、だな。……お前、子供の作り方って、ちゃんと知ってるか?」  意を決してそう聞くと、ルイズはきょとんとした顔になった。  次いで、みるみるうちに相貌を崩すと、潤んだ瞳をさらにとろんと濁らせた。   「……サイト、わたしとの赤ちゃん、欲しいの?」  ガツン。想定外の方向から飛んできた不意打ちに、本気で脳髄を揺さぶられる。  恥ずかしそうに……、でも、ほんの少し嬉しそうにそう返され、考えていたことが吹っ飛ぶ。 「まだ、早いと思うけど……、でも、サイトが欲しいっていうなら、いいよ?」  もじもじと両指を絡ませるルイズ。本気で鼻血を噴きそうになったけど、ぐっと堪える。   ■8   「えーと、それは置いておいてだな、真面目に教えてくれ。子供はどうやって作るものだ?」 「え……、うん」  ルイズはゆっくり瞬きをすると、おずおずと俺の目を方を見つめ、 「あ、愛し合っている殿方と……」  俺がその殿方だと言わんばかりの熱視線。頭がゆだりそうになる。 「床に入って、服を脱いで……」  今度は、今いる場所がベッドの上だということを確認しながら。 「その……」 「その?」  ルイズはそこで言葉に詰まると、俯いて消え入りそうな声で。 「そ、そしたら、後は殿方に任せなさいって」 「ま、任せたらどんなことされるのか、知ってるか?」 「……目を瞑ってれば、終わるからって」    …………。  だめだこいつ、早く何とかしないと。    ルイズのやつ、わかってなかった。男女でどこまでのことをいたしてしまったら じゃれ合いや冗談じゃ済まなくなるのか、まったく理解してない。  ちょっとしたことで過剰反応するわりに、変なことろで無防備だったりしたのは、 俺を男だと思ってないからではなく、守るべき線がわかってなかったからだ。  本気で頭が痛くなってきた。   「……違うの?」  不安に揺れる瞳が俺を見つめる。 「あー、うん、違ってはいない。それでいいと思うよ」 「嘘。サイト、何か隠してる。そういう顔してる」  俺の投げやりな返答を見破って、ルイズは身を乗り出した。 「か、隠してないってば。殿方に任せるっていうのは、うん、正しい」 「やだ、教えてよ……、あ」  俺がたじたじになっていると、ルイズは思い出したように太股をすり合わせた。   「きもちわるい」  そう言って膝立ちになると、じっとり湿った下着のサイドに指をかけ、 「わ、ちょ、待て!」  俺が慌てて目線を逸らした直後に、恐らく、パンツを下ろした。   「これ、本当におもらしじゃないの?」 「そ、そうそう。とりあえず拭いちゃおうな」  ルイズから逃げるようにベッドを降り、タンスを開けて真新しいタオルをとった矢先、 「サイトにマッサージされるとね、ときどきこんな風になっちゃうの。 でも、こんなにびしょびしょになったの、初めて」  後ろから俺に言っているとも独り言ともつかない台詞が飛んできて、頭を揺さぶられる。  ダウン寸前のボクサーみたいな覚束ない足取りで、それでもルイズの方を見ないようにして ベッドに戻ると、待ちかまえていたようにすがりつかれた。   「これ、なんなの?」  眼前に突き出されるルイズの手。一瞬、何のことかわからなくて顔を引くと、 その指先は透明な液体に濡れ光っている。 「……って、人に見せるもんじゃありませんっ!!」 「あっ」  動揺のあまり思わず保護者口調になりつつ、その手を持ってきたタオルで拭く。 「ほら、これで足の間も拭いて。そしたら寝んねしよう、な?」  だだっ子をあやす母親みたいな気分を味わいながら、ルイズの頭を撫でる。   「やだ、寝ない」 「どうして?」 「眠れないもん。からだ、熱くって……、モヤモヤがいっぱい膨らんでて、眠れるわけないもん」   ■9    そう言ったルイズは、再び俺の胸に身を預けてくる。言葉通りの熱を持った身体。  まともな知識もないのに気持ちと身体だけが火照って、それを解消する術を 俺に委ねることしか知らないご主人さま。  じわじわと罪悪感が染み出す。こんなアンバランスな心と身体にしてしまったのは 俺の責任だ。俺がマッサージと称して何度もルイズの身体に触れてきたせい。  その行為の意味も深くは知らないルイズに、”気持ちいい”ことだけ教えてしまったから。   「ルイズ……」  でも、他にどうしたらいいのかわからない。 胸に納まったルイズの髪を梳くように掻き分け、襟元から首筋に触れる。  ルイズはびくんと身体を震わせて、そのままいつもの”マッサージ”の時のように、 俺に身を任せるかと思ったが。   「……ほんとは、知ってる」 「え?」  胸元に吐息が当たる距離で、ルイズは呟いた。 「サイトがしてくれる”マッサージ”が、ただのマッサージじゃないってこと。 好きあった……、全部を任せてもいいって思える相手にじゃないと、 許しちゃいけないことだっていうの。本当は知ってた」 「ルイズ……」  頭を俺の肩に乗せ、その体温を確かめるように眼を瞑りながら続ける。 「知ってたけど、それでも止めて欲しいとは思わなかった。もっと、何度でも、 して欲しいって思ってた。だって、気持ちいいし、幸せになれるし、それに……」 「……それに?」 「サイトが、わたしを大事にしてくれてるって、すごく感じられるから」    息が詰まって、体の芯が痺れた。ルイズの言葉が、胸の奥を射抜く。   「嬉しかったの。心が満たされた。わたし、サイトに好かれるようなご主人さまじゃないから。 可愛い女の子じゃないから。だから、サイトがわたしを大事にしてくれるっていうことが わかるだけで……、涙が出そうなくらい、嬉しいの」    その言葉に、俺の方にも温かい充足感が膨らんでいく。  けど、それと同時に、致命的な禁忌を犯しているという不安も湧き出る。   「わたしの中にある、嫌なモヤモヤ……、不安とか、劣等感とか、嫉妬とか。 サイトは、そんなのを気持ちいいモヤモヤで押し潰して、流し去ってくれてた。 大事な人にしかしちゃいけない、サイトのマッサージが……大好きなの」    この言葉は、誰の物なんだ? ”惚れ薬を飲んだ事による、偽りのルイズ”のもの?   「でもね」  ルイズは目を開けて、俺を見上げた。そこにいるのは、俺のご主人さま。  普段からは想像できない、まるで別人のような柔らかい雰囲気だけれど……、 けど、間違いようがない。俺にとって大切な女の子。   「サイトにどんなに気持ちよくしてもらっても、幸せになっても……、足りないの。 ううん、足りないっていうのはちょっと違う。胸の奥の、一番深いところに、 気持ち悪いモヤモヤの名残が、淀みみたいに残るの。 その欠片がずっと残ってて、いつまでも消えずに、少しずつ溜まっていくの」 「…………」 「それが何なのか、今ならわかる。 それはね……。わたしだけが、サイトに大事にしてもらってるから残るもの。 サイトがわたしをどんなに満たしてくれても、それだけじゃだめなの。 わたしもサイトを大事にしてあげて、二人で幸せにならないと、消えないモヤモヤ」    いけない。それ以上は、”今のルイズ”に、言わせちゃいけない。   「サイトを大事にしてあげたい。サイトに、わたしがサイトを大事にしてるって、 わかって欲しい。サイトに大事にされるわたしと同じくらい、幸せになって欲しい」    ルイズはそこで深呼吸をして。   「わかるよ。それが、サイトのことを、す……」 「ルイズっ!!」  その先を叫び声でかき消して、俺はルイズの背中を抱きしめた。   ■10    突然のことに驚いて、言葉を失うルイズ。俺は構わずに、その背中に回した手に力を込める。 「……それ以上は、言わないでくれ。……頼む」  絞り出すようにそう言うと、ルイズは肩を震わせた。   「どうして?」 「今のお前からは、聞けない。聞くわけにはいかない」 「……どうして?」  ルイズの二度目の同じ質問には、涙声になっていた。   「わたし、ずっとサイトにお返ししたかった。マッサージのことだけじゃない。 サイトはいつもわたしを助けてくれて、尽くしてくれて……。 そんなサイトに報いなきゃって、お礼をしなきゃって、思ってた。 けど、わたし、何もできなかった。何をしたらいいのかもわからなかったし、 何かしてあげたいって気持ちを伝えることもできなかった。 そんなわたしがイヤだった。けど、今なら言えるの。サイトに伝えられるの。 わたしの、本当の気持ち……」    それは、確かに、本当の気持ちなのかもしれない。  ルイズが常日頃から俺に感謝の気持ちを伝えたいと思っているのは、恐らく事実だろう。  ”このルイズ”は、”いつものルイズ”の中に、存在しているのかもしれない。  けど、それが表に出せないくらい、”他のルイズ”もまたルイズの中にあるなら……、  それは、本当の気持ちじゃない。本当の気持ちの中のひとつに過ぎない。    ”本当の気持ち”なんて、人の心の中にいくつも存在する。  ルイズが飲んでしまった薬が、その中のひとつだけを取り上げて、極端にして、 それ以外の気持ちを抑え込んでしまうようなものなら……。  そんな状態のルイズから、”本当の気持ち”を聞くなんて、絶対に許されないことだ。  心の中を覗いて引きずり出すような、汚いこと。   「サイト……、いいよ? わたし、サイトみたいに、上手くできないから。 何をしたらいいかわかんないから……、サイトが好きなことして、いいよ?」    頭が沸騰してしまいそうな誘惑。いつだったかの夢の中みたいな言葉。  けど今は、目の前のルイズへの衝動を遥かに上回る感覚がある。  それは、目の前には居ない、”いつものルイズ”を取り戻したいという想い。  ここにいるのは確かにルイズだけど、ルイズじゃない。    俺は腕の中の少女をベッドにそっと横たえると、その上に覆い被さった。  ルイズは目を見開いて俺を見つめた後、そっとその瞳を閉じる。  その頬にかかった髪を直してやると、俺は右手をそろそろとルイズの お腹の方へ持って行き、下着を取り去った後の、未だじっとりと湿ったところを触れた。   「えっ……」  その声は、驚きだったのか困惑だったのか。目を見開いたルイズと目が合う。 足の間に触れたタオルの感触に、膝を揺らして身をすくませる。  ルイズのそこを見たりはしない。手探りだけで、ゆっくりと拭いていく。 太股の内側の水気を取り、そろそろと柔肌を登っていき、ルイズが俺の太股に 擦りつけていた部分にタオルの生地が当たる。  そこを、丁寧に拭う。厚く柔らかいタオルでつついてくすぐる。 俺のせいで汚してしまったルイズの部分を、責任持って始末してやる。   「あっ、ひゃぅ、んぁっ……! やぁ、なんで、サイトっ……!」  サイトがしたいのって、そんなのじゃないはず。はっきり言われなくてもその抗議が 伝わってくるけど、俺は知らないフリをして続ける。  手や指ではなく、あくまでもタオルでその部分を”拭き”ながら、ルイズの首筋に顔を埋める。 空いた左手で薄いお腹から胸まで、ルイズの気持ちいいところを撫でていく。    この前のマッサージとほとんど変わらない、そのことにルイズは気付いたはずだけど、 今さら止めることなんてできない。止める気も起こさせないくらいにルイズを大事にしてやる。  ごめん、と”今のルイズ”に心の中で謝った。今のルイズが望んでるのはこんなことじゃない。  騙したみたいな形になっちゃったけど、その分気持ちよくなって欲しい。    ルイズの両手が俺の頭と背中をかき抱いた。耳元に可愛い嬌声が響く。  いつもよりずっと早くその吐息に切羽詰まった色が混じっているのを感じると、 拭いているはずなのに最初よりも濡れてしまっているそこにタオル越しに指を当て、 最後の数段を一気に登らせてやった。    俺の思惑通り、気をやったルイズはそのまままどろみの中に沈んでしまったけれど、 最後に俺のことを見つめた瞳が寂しそうに濡れていたのが、ズキンと胸に響いた。   ■11                            ロ 口 □     「ちょっと! なんで赤くなってんのよ! 変な事でも思い出してたんじゃないでしょうね!」 「へ? ……あ」    ルイズの罵声に我に返って頬に手を当てると、熱くなってる上に緩んでいた。 どうやら回想に没頭しすぎて我を忘れていたらしい。  見れば、俺に文句を言ってる当のルイズもリンゴみたいに真っ赤になってるんですが。    とにもかくにも、あの後ギーシュやモンモランシーと一緒に国境近くまで遠出をして 惚れ薬の解毒剤の材料を手に入れ、ルイズを元に戻すことができた。  戻った直後にルイズからは思い出したくもない仕打ちを受けたけど、半殺しで済んで 殺されずに助かったのは、”あのルイズ”の誘惑に流されずに切り抜けたからでもあると思う。 その点では間違った選択はしていないと信じたい。   「もう、さっさといくわよ!」  ぷいっ、と背を向けて、ずかずかと廊下に踏み出すルイズ。そういえば、これでようやく ”いつも通り”に戻れたんだななんて思いながら、久しぶりにその後を追う。  この世界に来て以来、ルイズとはしょっちゅう喧嘩しているし やたらと騒動に巻き込まれたりしているけれど、”いつもの俺たち”というのは確かに存在する。  そのことを再確認できたことに嬉しくなりながら、俺はルイズに追いついて隣に並ぶ。   「あによ、何かわたしの顔についてる?」 「べつにー」  つい見つめてしまったことを咎めてくる鳶色のツリ目。うん、まさしくルイズだ。   「……お前の中に、”あのルイズ”、本当にいるのかな」 「はい?」  一安心してしまったからだろうか。つい、口が滑った。  俺の言葉にきょとんとするルイズだったが、少し考え込んだ後にその言葉の意味を おおよそ察したらしい。みるみる内にその目に殺気がこもる。   「……ちょっと、今の、どういう意味かしら?」 「あー、何だろね。大した意味はないぜ。忘れて」 「あんたが忘れなさいッ!!」  再び『思い出し恥ずかし』してしまったららしいルイズは、 今度は灼熱の溶岩を連想させる色に頬を紅潮させ、遠慮無い蹴りを俺に向かって繰り出す。  すんでの所でそれをかわすと、失言に激しく後悔しながら女子寮の廊下を走って逃げ、 玄関から広場へと飛び出した。   「ちょ、ちょ、遅刻しちゃうからまた後で、な?」 「あんたが大人しくしてれば遅刻しないで済むわ。……あれ?」    何が済むの? と薄ら寒い汗が背筋を流れ落ちた直後。  ルイズが何かに気付いたように俺の頭上に目をやった。反射的に視線を上に向けると、   「うわっぷ!」 「サイト!?」    ぱしゃりと何だかよくわからない液体が俺の顔に直撃した。目とか口にまで入ってしまい、 慌てて袖で擦って辺りを見渡すと、ルイズが心配そうに俺の眼前にまで駆け寄っていた。   「ちょっと誰よ、水なんて撒いたの!?」 「……やばっ!」  俺に特に別状が無いことを確認したルイズは、顔を上げて液体を降らした犯人を捜す。 その視線の先、恐らく階上の女子寮の窓のあたりから動揺の声が聞こえた。  香水のモンモランシーの声だということが頭の隅でわかったけど、 そんなことはどうでもよかったし確認するつもりもなかった。    だって、俺の視線は目の前のルイズに釘付けで、よそ見をする気も 他の女の子の事を考える気も、一切無くなってしまっていたのだから。      つづく  

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