ゼロの保管庫 別館

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だれでも歓迎! 編集

(家族…かぁ…) ベッドに腰掛け、なんとはなしに元居た世界の家族を思い出す。 あの後、『サイトちゃんのお部屋、用意したのよ』とルイズママに案内された部屋。 以前お邪魔した事のあるカトレアさんの部屋に比べると殺伐とした感は否めないが、 それは動物達が居ないせいだ。日本に居た頃はこんな大きな部屋に住むなんて想像すら出来なかった。 「すっご〜い、さすがはヴァリエール家。こんな素敵なお部屋、私初めて見ました」 はしゃぐシエスタ。 それもそのはず。 彼女はこのハルケギニアで平民として生まれたのだ。 今では俺たちと同じ寮で寝起きを共にしているとは言え、この部屋はソレとは比べ物にならない。 ちなみに、シエスタは俺付きのメイドなので同じ部屋になった。 ルイズは初め猛反対していたのだが、結局は押し切られる形で頷いたのだ。 その時の目が『シエスタに手出したら殺すわよ、犬』と語っていたのを思い出す。 それなのにそれなのにそれなのに……

「サ・イ・ト・さんっ」 呼ばれて顔を上げると同時に、シエスタが勢いをつけて抱きついてきた。 その反動でベッドに倒れこむと、押し倒される格好になる。 「…サイトさん、やっと二人きりですね…」 潤んだ瞳で見つめられ、顔が近づいてくる。 「ちょ、ちょっとシエスタ…」 首を捻って何とか攻撃をかわすと、頬を膨らませ、駄々をこねる子供のように見つめてきた。 「もぉ…どうして逃げるんですか」 (あ、あのねぇ。どうしてって言われても、ここはルイズの家なんだよ?他人ん家なんだよ?  例え2人きりだからって、ここでは不味いんじゃ…。) その時不意にドアが開かれた。 「な、ななななにしてんのかしらこの犬ってば…」 (あちゃ〜) そこに立っていたのは、ルイズとその姉達、エレオノール・カトレアの3人だった。 肩をわなわなと震わせながらこちらに近づくルイズの手には、いつもの乗馬鞭が握られており、 そこからは青い光が静電気のようにパチパチッと弾けている。 「ちょ、ちょっと待て、まだ何も…」 いつの間にか部屋の隅に移動していたシエスタのお陰で自由になった両手をかざすが、問答無用 でルイズは鞭を持った手を振り上げる。 (………) 覚悟を決め目を瞑る。 だが、想像していた痛みはなかなか襲ってこなかった。 (……?) 恐る恐る目を開けてみると、エレオノールが後ろからルイズの振り上げた手を掴んでいた。 「ちびルイズ、あなたいったい何をするつもり?」 (な、なんだか知んねぇけど…助かった?) 「…姉さまには関係ないじゃない!」 掴まれた手を振り解き声を荒げるルイズだったが、姉の視線に籠もる迫力に気圧されたかのように 黙ってしまう。 「母さまがおっしゃったでしょ?彼は今日から私達の家族同然なのよ。いくら使い魔だからって、  やっていい事と悪いことがあるわ。ましてやあなた、さっきの母さまに聞かれたわよね?何度も  窮地に陥りながらも支えてくれる彼をどう思ってるのかって。なのにその態度は一体なんなの?」 (さすがルイズの姉さんだな。あのルイズを言い負かすなんて…) 「だ…だって…」 小さくなりながら答えるルイズ。泣きそうなのを堪えているのか声が震えていた。 そんな2人にカトレアが助け船を出した。 「まあまあ、姉さま、違いますのよ。ルイズはね、サイト殿の事が好きで好きでたまらないから  ヤキモチを焼いているんですわ」 「な、なな、なにを言い出すんですか、ちいねえさま。わたしは別にこんなやつの事なんか…」 「あら…そう?」 「そ、そうよ。わたしがこんな平民で使い魔で…そりゃ今はシュヴァリエだけど、だけどこんな  節操無しで誰にでも尻尾を振るような犬、す、すす好きなわけないじゃない」 まくし立てるルイズ。彼女の頭の上の景色が歪んで見えるのは気のせいだろうか。良く見ると耳が赤 く染まっていた。 「……そうなの?」 冷静な声で尋ねるエレオノールに『当たり前じゃない、なんでわたしがこんなやつのこと好きになん なくちゃいけないのよ。そ、そりゃ何度も援けてもらってるし、まったく好きじゃないってわけじゃ 無いけど、それは主人が使い魔に対する好きだし…。だいたいサイトだって、わたしの事好き好き言 っておきながら使い魔のそれだーなんて言うし、ご主人様であるわたしを怒らせるような事ばっかり するし……』と俯いてぶつぶつと呟いている。 そんな様子を呆れたように見ていたカトレアだったが、思い出したように手に持っていた瓶を掲げ姉を促す。 「そうそう、ちびルイズの所為で忘れるところだったわ」 『なんでわたしの所為なのよ』と抗議の声をあげる妹を軽くあしらいこちらに近づいてくると、未だ 寝転がったままの俺の横に腰掛けニコリと微笑む。 「ちょっといいお酒が手に入ったのよ。折角だし今日はお祝いって事で、飲みましょ」 カトレアからワインを注いだグラスを受け取り、一つを俺に手渡すと自分のソレを傾ける。 一気にグラスの半分を飲み干したのを見て、俺もグラスを傾けた。

夜空に浮かぶ2つの月を見上げ、サイトはぼんやりと今日起こった出来事を思い出す。 部屋の中ではまだ宴が続いていた。そこにはアンリエッタの姿もあった。 あのあと部屋を訪れた彼女は酔ったシエスタに半強制的に参加させられていたのだ。 (なんかいいよな、こういうのも) 女3人寄ればなんとやらで、彼女たちは取り留めの無い会話で盛り上がっている。 (平和だよなぁ) そんな風に考えながらちびちびと飲んでいたサイトに後ろから声が掛かった。 「どうなさったの?」 振り返ると、カトレアが楽しそうな微笑を湛えて近づいてきた。 バルコニーに備え付けられたウッドチェアーに腰掛け、悩ましげな溜息を吐く。 飲みすぎたのだろうか頬に朱が差しており、目はとろんとしている。 「ごめんなさいね」 視線をサイトに合わせ、表情を少し曇らせる。 「え?何がですか?」 「あなたが異世界から来たって事、みんなにばれてしまって…」 その言葉でサイトの中に一つの疑問が浮かび上がる。 以前カトレアに、異世界から来たというのを告白はしたのだが、その時自分の世界がどんな世界 なのか詳しくは話していなかったはずだ。それなのにカリーヌは、サイトの世界が魔法はおろか 貴族といった身分制度の無い国だと云う事を知っているかのような話しぶりだったではないか。 そのことを口にすると、カトレアは少し考える素振りを見せてから切り出した。 「もしかしたら、母さまは知っていたのかも…  ううん、知っていたというよりは想像していたって言った方がいいのかしら…」 (想像していたって…どういうことだ?) 「ああ見えて母さま、けっこう乙女なのよ?」 悪戯っぽい笑顔で言うカトレアだったが、その言葉にますます混乱するサイト。 「わたしって体が弱いじゃない?小さいとき…そうね、まだルイズが生まれる前の事かしら。  邸からあまり外に出れないわたしを気遣ってお話してくれた事があるの」 遠くを見るようにして彼女は語りだした。 その内容は“烈風”の二つ名で恐れられた人物だとは到底思えない内容だった。 当時のマンティコア隊の面々が聞いたら、それこそ腰を抜かしてしまっただろう。 「……」 「もしかしたら母さま、憧れてたじゃないかしら。あなたの様に異世界から現れて、当時の自分  を救い出してくれる勇者を…」 (…そっか、そういえば日本でも女性の社会進出が認められたのってつい最近だってテレビでやってたもんな。 今でも地位を持つ女性って風当たりが強いらしいし…) なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、サイトはしんみりとしてしまう。 「でも、今日の母さまはおかしかったわ」 その重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかの様に、言って笑い出すカトレア。 サイトはまたしても訳が分からず混乱してしまう。 「だ…だって…あの母さまが『サイトちゃーん』ですもの」 そう云えば… 以前何度か会った時はもっと気高いオーラを放っていたような気がする。 それが今日は、そんな様子は微塵も無く、逆に親しみやすい雰囲気があったっけ。 まるで近所のおばさんに会った時のような感覚に陥ったものだった。 それにエレオノールさんの雰囲気も以前とは違ってたような… そんな風にサイトが思い出していると、心底可笑しかったのか、笑いすぎて目尻に貯まった涙をぬぐいながらカトレアが話し出した。 「母さまね、今日の為に色々な本を読んで、少しでもあなたが落ち着ける雰囲気を作ろうとしてたのよ。  お父さまとエレオノール姉さままで巻き込んでね」 サイトはその言葉にまた目頭が熱くなるのを感じていた。 そんな彼をそっと抱きしめ、まるで母親が子供にするように優しく髪を撫でる。サイトが落ち着くと、共に部屋に戻っていったのだった。

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