ゼロの保管庫 別館

X00-18

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だれでも歓迎! 編集

 トリステインの近くにある大山の真下に存在する巨大な地底湖の畔でサイトは眼を覚ました。  地面に横たわった身体には薄手の毛布が掛けられており、ルイズにつけられた傷も完治している。  しかし身体には大量の包帯が巻かれ、地下水の所為で気温が低い為、サイトは毛布を身体にしっかりと巻きつける。 「これはこれは騎士様……お目覚めはどうですか?」 「うわぁぁぁぁぁ!?」  寝起きのサイトに後ろから真っ黒なフードを被った人物から声を掛けられ、声を上げてしまう。  フードの男の顔は見えず、左手には蒼い灯りを放つランタン、右手には細く長い鉄の棒だが三日月状の鋭い刀身が輝いている。  おまけに肩には鋭い眼光を発している真っ黒な鳥が居座り、腰にはデルフが下げられている。  サイトの顔は彼の姿と自分の世界でよく聞く存在と一致した為、一気に蒼白となる。 「俺もとうとう死んだのか!? ここは血の池地獄か! しかも隣には死神がぁぁぁぁ……」 「おい相棒、何言ってんだ? ここは唯の地底湖だぜ? それにそのナンタラ地獄って何だ?」  変な喋り方をした喋る剣デルフの声が暴走しているサイトを止める。  フードの男も何を言っているのかさっぱりで、首を傾げる。 「デッデルフ! そうか俺は生きてんだな? 死んでないんだな!」 「まぁそこに居るフードの傭兵の兄ちゃんの看護がなかったら、譲ちゃんとのケンカで死んでたがな」 「寝起きでそれだけ喋れれば大丈夫だな、これ食ってもっと元気になれ」  フードの男はランタンを地面に置き、背負っていた袋を地面に丁寧に置くと中から様々な食材と枯れ枝を取り出す。  それらを手早く捌き、火を点け、鉄の鍋を用意し、傍の湖から水を集め、慣れた様子であっという間に飯の用意が済む。  鍋から立ち上る煙が寝起きのサイトの胃袋を刺激し、腹の虫が豪快な音を上げる。  「騎士様には貧相だろうが、これでも立派な飯だ……しかし何であんな大怪我を?」  サイトは器に注がれているスープを恐る恐る食べるが、それはとても美味しくサイトは凄まじい勢いで平らげてしまう。  男もゆっくりと料理を食べ始め、空になったサイトの器にスープをついでいく。  食う事に夢中のサイトに代わって、デルフが淡々と理由を述べていく。 「なぁに、ちょっと他の譲ちゃん達とイチャイチャしてた所を見られて御主人様が大激怒、それから逃げてた時にこの近くに転落しただけの事よ  しかし相棒も良く粘ったよなぁ! ”エクスプロージョン”に耐えてた上まさかここまで逃げてくるとはな!!」 「……ルイズ、シエスタ、姫様、タバサ……皆心配してるだろうけど、この身体じゃまだ無理だな」  サイトが一気に残ったスープを食べ、両手を合わせてから器を地面に置く。 「そりゃあ大変だったな……どうりでここら一帯が清貧女王直下の銃士隊や真似事騎士団がうろうろしてる訳だな  まぁ……変な木偶人形どもや石人形達もうろついてたが、それも騎士団が殺してくれたから良いがな」 「ギーシュやアニエスさんも来てるのか! あぁそういえば名乗ってませんでしたね、俺の名前はヒラガ・サイト、シュバリエのヒラガ・サイトです  本当に助けてくれてありがとうございました!」  フードの男が首を傾げ、ゆっくりと答えを出す。 「はっ? 何を言ってるんだい? シュバリエ・サイトはトリステインに居る筈だぞ……それに行方不明になってるのは女王の筈だ  だから女王直属の部隊が動いてるんだろ? 君も類を見ない彼に憧れるからと言ってそんな嘘はいけないぞ」 「ちょっと待ってください! 俺が城に居る!? 姫様が行方不明!? いったいどういう事ですか!?」  サイトが男に掴みかかるが、その腕は容易く外され、頬に一発ビンタを入れられる。  サイトは眼を白黒させながらも男からデルフを受け取り、ゆっくりと立ち上がる。 「まぁどっかの誰かがやっかいな事をしてるのは確かだな……どうする、相棒?」 「決まってる! 今すぐ城に戻って偽者をぶっ飛ばしてやる!!」  急に元気になったサイトは血気盛んとなり、視界に入っている洞窟へと走り出す。 「おいサイトくん! 走るのは良いが! そっちは出口じゃないぞ! 出口はこっちだ! 迷うと死ぬぞ!!」  男の声を聞いたサイトは急いで戻ってくる。  男は一足先に出口へと歩き始め、サイトは見失わないように追いかけていく。  

 しばらくして、サイトと男は洞窟から抜け出し、森へと出た。  大空はまだ青く、太陽もまだに夕日に近い頃であり、まだ夜や夕方ではない頃だった。 「名乗ってなかったな、俺の名前はゾラって言うしがない傭兵だ……”炎蛇”と呼ばれるメイジを探していてな、やっとそれらしい人が判ったんだ  それと城に行っても間に合わない、今日ここら辺で密輸の取引がある、もしかしたらそれに女王が居るかもしれない  それにデルフブリンガーに頼まれてね、王都や学園にそれらしい情報を流しておいたから、真似事騎士団も来る筈だ」 「何でそんな事を……」  ゾラの顔はフードで見えないが、その口が微笑み、子供ならそれだけで泣いてしまいそうな雰囲気を出す。  またその声はサイトと話していた際の穏やかさはなく、殺気に満ちた声に豹変している。 「傭兵は生きる為なら幾等でも裏切るさ……デルフ、あの約束を忘れるなよ? お前の主人やその周りの為にもな」 「わぁぁぁぁってるよ! 後でブリミルについて思い出した限り話してやるよ!」 「記憶は忘れたくなくても薄れていくからな……判ってるならそれで良いんだ、サイト君は隠れていろ、その姿は目立つ」  ゾラの命令に従い、サイトはあの洞窟の入り口へと隠れ、その偽者やアンリエッタ女王が乗せられたと思われる馬車を待つ。  ゾラはただそこに立ち尽くし、密輸相手の到着を待つ事にした。 (さて……奴らが何時来るかで、殺す数が大きく変わるな……)  蒼かった空も暗くなり、夜空には二つの大きな月が浮かび上がり、なんとも言えない雰囲気へと替わり始める。  ゾラは明り代わりにあの蒼い光を灯すランタンを取り出し、その火を点け、周囲の気配を探り続ける。  そして暗闇の先からフードを被った女が十体を超えるガーゴイルと一台の馬車を引き連れて現れる。 「今回も護衛なんだろうが、しかし今日は石人形どもを十体以上も使うとは……今回の品物はそんなにやばい物なのか?  それらに関する事を教えてくれんなら今回の依頼は降りさせて貰う、道中は敵だらけだが頑張ってくれよ?」  ゾラはランタンを腰のベルトへと下げ、両手でその長く大きな鎌を構える。  フードの女はガーゴイル達に攻撃の命令を与えようとしたが、それを意味する手は振り上げられず、ゆっくりと語り始めた。  その声はサイトには少し馴染みのある声であった。 「……何故ならトリステインの女王陛下を誘拐しているのだ、警備がこれだけでは心許無いのが実情だが、エルフである貴様が居るからこそ!  たったこれだけの警備で充分なのだ……しかし貴様は奇怪なエルフだな? 報酬が金と書物とは、本が恋人なのか?」 「そうか……護衛はこれだけなのか…………女、書物は良い物だ、知らない事、空想上にしかない物語、様々な事が心を躍らせてくれる良い物だ  特に、シャイターンの門に関する書物はエルフの一族にもなくてな……知っているのは”虚無”くらいだからな  それからもう一つ言っておきたい事がある……」

 女がゾラの横をゆっくりと横切り、ガーゴイルやそれらに守られた馬車も横切った瞬間、最後尾のガーゴイルの上半身がズレ落ちる。  それを合図としてサイトが洞窟から抜け出し、先頭のガーゴイルを縦に一刀両断し、剣をしっかりと構え行く手を塞ぐ。 「ゾラ……貴様裏切ったな!?」 「傭兵は生きる事に忠実なのさ、特に自分の欲望と呼ばれる部分にはな!」  エルフが用いる”先住魔法”による無詠唱の空気の槍が女を掠め、そのフードを破る。  あらわになった顔の額には微かにルーン文字が見え隠れしている女……シェフィールドの顔が現れる。 「だが、貴様の裏切りも予想済みなのだ! だからこそ”あれ”を用意したのだ!」  空に一騎の竜騎が現れ、それから一人の人が飛び降り、馬車へと着地する。  黒髪に黒眼というこの世界では珍しい存在である身体をし、この世界では見ない服を着込んだ少年。  その背には一振りの長物を背負い、ゆっくりとその剣を抜き、構える。 「あれが俺の偽者か!」 「偉そうに語るから何かと思えば……何だ、所詮は似せて作った偽者か?」 「唯の偽者ではない事を思い知るが良い!」  偽サイトが本物のサイトに切りかかるが、その斬撃は防がれる。  偽サイトは何度も何度も偽デルフを振り回すが、それは本物のデルフを操るガンダールブ・サイトには通じない。  何度も何度も火花が咲き、どちらが本物かはその腕が示したいた。 「ふふっ、人形や偽者と遊んでいろ!」  シェフィールドが馬車に飛び乗り、馬車を森の中へと走らせていく。 「あの女、女王を攫って人質にするつもりか!? これ以上”無能王”をのさばらせる訳にはいかないんだがな!」  ゾラは腰から左腕用の短剣マインゴーシュでガーゴイルの鋭い爪を受け流すと、右手に強く握った大鎌の振り上げがガーゴイルを両断する。  四方から更にガーゴイルの追撃が襲い掛かるが、マインゴーシュを捨て両腕で鎌を握り直しその場で素早く一回転する事で薙ぎ払う。  四つの石人形の首が地面に転げ落ち、地面に落としたマインゴーシュを拾いなおし逆手に持ち替え、眼前に迫った石人形の脳天に突き刺し、振り下ろす。  その際にフードがズレ落ちてしまい、銀色の髪と眼が綺麗な光沢を放っているが、その顔の左半分は火傷の傷跡が痛々しい。 「おい相棒やばいぞ! 闇夜の森で逃げ切られたらどうにもなんねぇぞ!?」 「でもこの偽者! 結構強いし……石から作ったのか固いぞ!」  デルフブリンガーの切れ味を持ってしても切れない人形は手強く、サイトの行く手を阻み続ける。  ゾラもガーゴイルを切り伏せるが、時間が掛かり過ぎてしまった。 「退けよ! 姫様をたすけなきぁいけないんだ!」 「本物の俺……お前を殺せば、俺は俺になれるんだ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」  焦る気持ちが剣を乱れを生み、執念が強さを際立たせる。  それらの要素が折り重なり、偽者が本物を追い詰め、互い崩れた体勢の立て直しに差が生まれ偽者の剣が本物の喉下へと迫る。 「相棒!」 「サイト君!」  どうやっても防ぐ事の出来ない凶刃が喉下に突き刺さろうとした瞬間、複数の小さな閃光が剣を使い手の手から剥ぎ取る。  偽者が閃光が放たれたと思われる方向に眼を逸らしたのを本物のサイトは見逃さず、偽者に渾身の一撃を振り下ろす。 「何で…何で俺は”英雄”に生まれたんだ? 何でお前は……俺なら…自分なら切り殺せ…………る?」  渾身の斬撃は偽者を一刀両断し、唯の土くれへと変えてしまう。 「……決まってんだろう、俺は俺だからだ」 「相棒は相棒、スケベな犬だからな、お前さんみたいにあっさりと”殺す”なんて出来ないのさ」  サイトは仮にも自分を演じていた土くれを悲しい瞳でほんの少しの間眺める。 「さて、本物のシュバリエ・サイトを助けたのは銃士隊の諸君かい? 真似事騎士団に追撃を任せて良いのか?」  ゾラの視線の先には幾つモノ影が見え隠れしていたが、その内の大半がシェフィールドが走り去った方向へと消え、二つの影が近づく。  一人は言ったら悪いが頭が薄い大きな杖を持った男のメイジ。  もう一人は女で騎士のマントと鎧を着込み、片手には銃を構え、腰には剣を下げている。 「サイト君……そのエルフから離れなさい」 「まさかあのサイトが偽者とは……貴様は本物だな!」  二人の敵意はゾラに向けられており、口では偽者と言いつつも心が本物と疑っていない。  唯の人から見ればエルフは畏怖にして長い歴史の中で大敗と屈辱の思いしか残っていない。 「コルベール先生! アニエスさんも待った待った!! この人は死に掛けた俺を助けてくれた人なんだ!」 「……サイト君、歴史に刻まれた概念や記憶は消えない敵意を作る、所詮俺は酷い火傷を負った醜いエルフなんだよ  まぁ昔に人間を虐殺した事もあったから、判る人には判るんだよ……取れない鉄臭い血の臭いがね」  不敵な笑みを浮かべながらゾラはマインゴーシュを鞘へと納め、その鎌の矛先をコルベールやアニエスへと向けるがその顔はすぐに崩れる。  アニエスも銃を構えゾラの頭部に照準を定めるが、コルベールは密かに詠唱していたにも関わらずその詠唱は途切れる。  ゾラとコルベールが互いを震えながらも指差し、ゆっくりとその口を動かす。 「…………”そよ風は吹き荒れて”」 「…………”カガリ火は業炎へと化す”」  コルベールとゾラは互いの武器を下げ、互いに力強く握手する。  サイトとアニエスは何が何だか理解できず、首を傾げている。 「まさか”そよ風”君とはな……顔の火傷はあえて消してないのか?」 「友の傷は消さんさ……さて急ごうぜ”炎蛇”女王を助ける騎士様はここに居るからな」 「そうだな、サイト君はゾラの背中に! シュバリエ・アニエスは私の背に! 急ぎなさい!!」  サイトは素直にゾラに背負われるが、アニエスの方はなにやら戸惑ってたがコルベールに無理矢理背負われる。  いや、お姫様抱っこと呼ばれる体勢になっている為、抱えるの方が正しいかも知れない。  二人が静かに詠唱を始め、二人の身体が地面からほんの少しだけ宙に浮く。  そしてコルベールの詠唱が完了した時、二人の身体は暴風に押し出され驚異的な速度で飛んでいく。  その速度は風竜顔負けの速度に到達しており、先行していた銃士隊を追い抜き、追撃していた筈の真似事騎士団に追いついてしまう。  その先頭は青い韻竜シルフィードであり、そのすぐ後ろにはギーシュ達の軍馬が連なっている。  その少し前にはシェフィールドが駆る、アンリエッタを乗せた馬車が走っている。 「サイト! 何でここに居んのよ!? あんた空から追ってたんじゃ……」 「あれは偽者だったんだよ! 本物の俺はここ数日間死に掛けてたんだ!」  シルフィードの背に居るルイズとサイトの口喧嘩が始まるが、それもエルフであるゾラの存在で途切れるかと思われたがそれはなかった。  ゾラの事など何も止めず普通に話し、ただ追撃している。 「サイト君……君は良い主を持っているようだね? ……飛んでみるかい?」 「冗談じゃない! 毎度毎度鞭打たれる俺の身にもなってくださいよ! ……えっ? 飛ぶ?」  その言葉の意味を聞く間もなくサイトはゾラに馬車まで思いっきりぶん投げられた。  サイトは言葉にもならない悲鳴をあげながらも馬車にデルフを突き立て、馬車へと取り付く事に成功する。 「銃士隊! 誰でも良い! 銃を一丁寄越せ! ”炎蛇”!」  ゾラは投げ渡される銃を受け取り、狙いを定め、弾丸に空気の槍を纏わせ共に撃ち出す。  それにコルベールが火を与える事でそれは強力な炎の槍と化し、馬車の厳重に掛けられた鍵ごと扉を撃ち砕く。  そして馬車の中へサイトが突入し、中からアンリエッタを見つけ出す。 「姫様! 無事ですか!?」 「サイトさん! 助けに来てくださったのですか!?」  サイトがアンリエッタを抱えて馬車から飛び降りると同時に何人ものメイジが”レビテーション”で二人を保護する。  シェフィールドは舌打ちすると、そのまま逃げ去っていった。 「隊長! 追撃しますか!」 「いや追うな! 我々の任務は女王陛下の救出だ! 皆ごくろうだった! 作戦は成功だ!」  コルベールに抱っこされた状態で言われても、どこか間抜けである為かその場に停止した全員が笑い始める。 「隊長……なんか説得力ありませんよ?」  アニエスは顔を真っ赤にしてコルベールから降り、再度指示を与え始める。  サイトは涙を必死に堪えているアンリエッタに抱きつかれて身動きが取れず、竜すら逃げ出すオーラを纏ったルイズに正面から対峙している。  タバサもその傍にいるが、あくまでサイトの味方である為彼女の前に立ち塞がる。 「……良い生徒達だな、今は何と名乗ってるんだ?」 「コルベールと名乗っている……あれから多くの戦いや殺しをしてしまった……そう……取り返しがつかないほどにな  それに君もその傷を残している、勘違いであったとは言えども私は君にそれ程の火傷を負わせてしまったんだ  そして王国の杖としての最後であるダングテールの虐殺……私達は人の死に慣れすぎてしまった」  コルベールの瞳は何処か遠くを見ており、ゾラは”英雄”であるサイトとその周りの人間を見渡す。  どれもまだ戦争などに”飲まれた”眼をしておらず、虐殺者である傭兵とメイジには輝かしく見えていた。 「平和か……サイト君は切り捨てられないと良いな、少なくとも俺達みたいに”虐殺者”で終わって欲しくないな  覚えてるか? 俺とお前の出会いは一つの村を滅ぼした時だったよな……あれがエルフとしての最後の仕事だったんだ  お偉いに反発して、シャイターンの門についた調べて、エルフの異端として追放させる口実に虐殺をさせたんだ  平和とかお偉いさんは真っ先に俺やお前……そして”英雄”を切り捨てたがる、いや、切り捨てねばならないんだきっと……」 「そうだろうな……内心私もサイト君を恐れている部分がある、七万の大軍勢を単騎で止めた事、伝説の使い魔である事、異世界の人間である事、情け無いものだな  ”英雄”の闘争心の矛先や”虚無”の行く末などに怯えてしまうとは……さて私達は学園に帰るとするよ  君はどうする気だ? その物言いだと里には戻れない、そしてあの雇い主に逆らってしまったんだ、ただではすまされないだろう?」  コルベールの問いにゾラは真剣に考え込んでしまう。  一方サイト達は帰還の支度を整えつつある……サイトはまるでボロ雑巾のようにボロボロになっている。  サイトがルイズとタバサにシルフィードに乗せられると、アンリエッタも同じくシルフィードの背に乗る。  ゾラは何か思いついたかのようにアンリエッタに近づくが、アニエスの剣の矛先や周囲にいるメイジ達の杖が一斉に魔力を帯びる。  しかしコルベールが傍に立った事でアニエスは剣を下げ、メイジ達も杖をしまい込む。 「エルフの民よ、私に何用でしょうか?」 「……アンリエッタ女王、貴女様に折入って頼みがございます、私をコルベールの傍……魔法学院の一教員として置いて頂きたい所存です  私は”虚無”についての知識やエルフとしての実力を持っています、学院の一警備員としての働きも見込めるでしょう  貴女様が望むなら”裏”の仕事も何なりとこなしましょう……願えないでしょうか?」  アンリエッタは考え込むが、周りのメイジ達は猛反発を始める。 「冗談じゃない! エルフなんて信じれるか! そう言って学園に潜り込むつもりだろ!?」 「サイトを隠し偽者を送り込んだのもお前の仕事じゃないのか!」 「女王陛下に直に頼み込むなんてうらやま……とにかく信じれない!」  メイジ達は反発しているが、実戦になればこの場に居る全員が殺されるのは容易に想像はしていた。  だがやはり、植えつけられた歴史の事実は簡単には拭い去れないのだ。 「陛下、一教員の身でありますが彼の実力や忠義は信頼に値する者です……お願いします」 「おい周りの兄ちゃん達よ、相棒の命を三日三晩不眠で救ったのはこの兄ちゃんだぜ? オマケに俺の言葉を信じてこの事を知らせたのもだ兄ちゃんだ  確かにあの野郎と組んでたのは真実だけどよ……頼むからよ、”英雄”の愛剣が語る事を信じてくれねぇか?」  コルベールが頭を下げ、デルフが真剣に語るだけで信じれる者は信じた。  ゾラも鎌を地面に突き刺し、マインゴーシュを地に置き、頭を下げ土下座で頼む。 「姫様……その人が命の恩人なのは本当です……だから…お願いします」  ボロ雑巾のようになっていたサイトも微かだがアンリエッタに頼み込む。  流石に当の本人がこう言っているのでは周りは信じるほかなく、間接でも命の恩人である人物を無碍にしたりしない。  それが女王であり、アンリエッタなのだから……無論サイトの頼みだからもあるのだが 「……判りました、後日学院への編入の手続きを行いましょう  しかし忘れないで下さい、これはシュバリエ・サイトやそのお方の弁論あってこそのものです  その事を決して忘れぬように……」 「陛下、その広きお心ありがとうございます……このご恩、決して忘れませぬ!」  周りの者も女王陛下の決定を覆すほどの権力も証拠も持ち合わせていない。  それにあのコルベールが信頼するエルフに興味を持つ者も少なくはなかった。 「では皆様、帰りましょう」  アンリエッタの号令で一同は一斉に城を目指して走り始める。 「……これで当面の生活は何とかなる、傷の礼も出来る、”虚無”についての情報も探れる、彼を助けといて正解だったな」  その場に残ったゾラはポツリとそう愚痴をこぼし、あの隠れ家へと帰っていく。  その数日後、学院に着任したゾラはコルベールの補助教員となり彼同様の実験室を貰った。 「おいコルベール! その薬をそれに混ぜたら!?」  それから学院ではその実験室からの爆発がルイズの爆発の様に定番化したとかしなかったとか……

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