予選その1 vs 右四間飛車

kureの24名人戦奮闘記 予選その1


予選その1


さて、いよいよ初名人戦の初戦だ。なお、こういった自戦記棋譜をネットで公開する場合、対局相手のプライベティーに配慮し、相手名は伏せていることも多いが、今回は名人戦で対局者名・結果ともに公表されているため、そのまま表記としていく。記念すべき初戦の相手はkoji3983氏(現R631、最高R913)。得意戦法は居飛車、四間飛車とどちらも指せるようだ。レーティング的にみればこちらがはるかに格上であり、初戦ということもあり、なんとしても勝ちたい所である。


【名人戦6級リーグb 予選01局目(2010/01/01)】
 先手▲ kure90 後手△ koji3983

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △8四歩 (第1図)

kureの初手は先手なら▲7六歩、後手なら△8四歩、その後は右銀を上げるとほぼ決まっている。序盤の自分の3手は長年の思考錯誤の結果、いろいろと蛇行したがこの3手に結局落ち着いた。純血居飛車党を自負し、相手のどんな戦型にも対応できるようにと指し続けた結果、この3手になった。これには「アナタがどんな手できても居飛車で受けて立ちますよ!」という純血居飛車党の覚悟とプライドが現れているのだ。
対して相手も△8四歩と居飛車を表明。相居飛車戦になりそうだ。自分的には相居飛車戦よりも居飛車対振り飛車の対抗型の方が得意な気分である。が、相手に戦型をお願いするわけにもいかないので、受けて立つしかあるまい。


第1図以下の指し手
▲6八銀 △6二銀 ▲6六歩 △5二金右 ▲7八金 △4二玉 ▲5六歩 △6四歩 ▲5八金 △6三銀(第2図)

しばらく居飛車戦の序盤が続く。どうやら相矢倉になりそうか? 後手の△5二金右で後手急戦矢倉はなくなったか。が、次の△4二玉に?だった。舟囲いだと? いや、これは・・・早囲いがねらいか!? となるとこちらも慎重にならなければならない。早囲いされたからといって急戦のようにいきなり殺るか殺られるかの激しい戦いになるわけでもないが、すんなり早囲いを許して一手得=先後入れ替わりになると不満だ。ということで、先手も急戦含みにしたい。早囲いには早繰り銀、右四間飛車等が有力だが、kureの十八番は雁木右四間飛車! 早囲いは早々に玉が2二に収まる必要があるため、右四間飛車急戦は極めて有力だ。加えて雁木なら自玉の囲いもまぁまぁだ。
が、後手の△6四歩、そして△6三銀でその考えは一転。後手の狙いはどうやら右四間飛車のようである。△4二玉の狙いは△3二銀~△3一玉と左美濃に囲おうという構想のようだ。ご存知のように右四間飛車は攻めの理想型ともいうべき極めて高い攻撃力(特に矢倉玉に対して)をほこる戦型である。狙い筋が単調という欠点があるもののその攻撃力はそれを補って余りあり、対居飛車・対振り飛車いずれにも使用可能という汎用性もあいまって24の低~中級でも頻繁に出くわす戦型である。24の低~中級を抜け出せるかどうかはこの右四間飛車に完璧に対応できるか否かが一つの鍵にもなっているといっても過言ではあるまい。

kureの右四間対策は雁木。雁木有段者があみだした対右四間理想型に組んで相手の攻めを迎え撃ち、カウンターで反撃というのがパターンだ。詳しくは「krueの雁木を指しこなす講座 対右四間編」を御覧いただきたい。
ちなみに下の第2図が雁木での対右四間理想型である(本譜の第2図ではない)。雁木の二枚銀で6筋をがっちり受け止め、反撃を狙うのだ。
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
しかし、最近のkureは雁木で受けない。講座では触れなかったが実はこの型には欠点があるのだ。
それは相手に「手待ち」されるということ。この雁木理想型は完全なカウンター用陣形であり、相手が攻めてくれないとこちらからは動きづらい。むしろこの形から不用意に動くとバランスがくずれて上手く受けれなくなる危険があるのだ。だがしかし、相手は自玉を居玉→左美濃→穴熊とか銀冠という風に手待ちしながら玉を固めることができる。雁木陣はこれ以上固くしようがない。実際には穴熊まで組んでから仕掛けてくる例はほとんどないが、左美濃にがっちり組まれてから仕掛けられると、こちらのカウンターも響きが弱い。そのまま、押しつぶされて負けることも増えてきた。特に低級の右四間はすぐに仕掛けてくるので怖くないのだが、中級以上になると玉を固めてドン!が増えて苦戦するようになった。

そこでkureが別に求めた右四間対策が「雁木右玉」である。従来から右四間飛車には雁木右玉が有力であるという話は聞いたことがあった。が、右玉は駒組に意外と時間がかかる。組みあがる前に仕掛けられてそのまま負けそう・・・という気がしてこれまでは使う気にならなかった。だがネットでぐぐって研究した結果、意外と大丈夫そう、いやむしろかなり確かに有力そうだということがわかった。この最近では右四間飛車には雁木右玉を採用するようになり、実際に勝率も高い。ということで、本局も雁木右玉で迎え撃つことに決定。
いざ、雁木右玉 VS 右四間飛車 だ!!

第2図以下の指し手
▲6七銀 △5四銀 ▲5七銀 △3三角 ▲4六歩 △9四歩 ▲9六歩 △3二銀 ▲1六歩
△3一玉 ▲3六歩 △4五歩 ▲4七金 △6二飛 ▲4五歩 △同 銀 ▲4六歩 △5四銀
▲3七桂 △6五歩 ▲4八玉(第3図)

手順が長いがほぼ一直線だ。先手後手ともに方針は決定したので指し手は早い。先手は▲6七銀~▲5七銀と雁木特有の二枚銀を完成させる。後手はやや戸惑っているかもしれない。後手はやはりこちらの目論見通り、左美濃に組み上げていく。途中、△4五歩とちょっかいを出してきて一歩得ようという魂胆のようだが、相手にせず右玉陣形を急ぐ。先手玉はギリギリまで動かない。右玉狙いであることを悟らせないのだ(もうバレてるかもしれないが)。先手の不穏な空気を感じてか先手居玉のままで△6五歩と仕掛けてきた。が、本格的な右四間飛車としてはまだ早い段階だろう。通常、△7四歩~△7三桂と右桂も参戦準備してから仕掛けるものだ。後手のあせりが伺える。
対右四間としてはこの局面はいつも悩み所である。素直に▲6五同歩ととれば角交換以下、一直線の流れになるだろう。すでに雁木右玉陣が完成していれば迷うことなく取るところで角交換は大歓迎だ。だが、まだいかんせん不十分な陣形である。▲同歩ととるかどうか迷った。後手が右桂の準備をしてくれば▲4八玉~▲2九飛と右玉が間に合って不満なしだったが。
さんざ迷ったが、ここは右玉完成を急いで手抜いて▲4八玉! 右玉は引き飛車がはいらなければ非常にバランスが悪く危険だからだ。この判断が吉とでるか凶とでるか・・・。

第3図以下の指し手
△6六歩 ▲同銀右 △6五歩 ▲5七銀 △8八角成 ▲同 金 △3三角
▲7七角 △9三桂 ▲3三角成 △同 銀 ▲2九飛 △4四角 ▲7七角(第4図)

後手は当然△6六歩と取り込んできた。仕掛けを開始したなら止まっていられない。▲同銀右△6五歩のお代わりに銀を右に引いて角をぶつける。右四間飛車対雁木では角交換は必然の流れとなる。ここで△8八角成▲同金と取った形が金が浮き駒となりイマイチ不安である。案の定、後手は△3三角とさっそくその金に狙いをつけてきた。ここを▲6五歩と弱気に受けては△同歩▲同銀直△同角▲同銀△同飛で6筋を突破されて先手陣は持たない。角には角!で▲7七角と受ける。が、ここは形悪いが▲7七金が最善だったよう。
すると後手はいよいよ右桂を活用しにきた。ここを△7七同角成では▲同桂で味消しだ。後手の桂がくる前にこちらから角交換をしかけて待望の▲2九飛と引き飛車で右玉陣の完成、これでなんとか一安心だ。
と思うヒマもなく、後手から再度△4四角が飛んできた。ここもやはり▲7七角と角で受ける。▲7七桂では△8五桂とされて厳しい。

第4図以下の指し手
△8五桂 ▲4四角 △同 銀 ▲7八金 △3三銀 ▲4五歩 △6六角(第5図)

後手は角交換に乗らず△8五桂と桂の活用を急いできた。これは緩手か。▲4四角から▲7八金と手順に陣形を立て直すことができた。後手の右桂も空振りし、これで先手十分だと思っていた。しかしここはすぐに▲8六歩と桂を取りにかかるべきだったようだ。
後手は△3三銀と引いてまたしつこく△4四角と打ってくるつもりか。今度は▲7七角の受けができない。▲8八角では△同角成▲同金にしつこく△4四角と打たれるとうるさい。そうはさせじと得意気に▲4五歩をつく。右玉では▲7七桂をいかして4五の位を取る筋がよくあるのだ。あとは▲8六歩から桂を取りにいったり、▲6九飛と寄って逆襲をねらったり、▲2八玉とさらに陣形を引き締めたりと先手は指す手に困らない場面だった。・・・が、△6六角! 
「驚いたね」 右四間党らしい強引な強行手だ。角を犠牲に是が非でも6筋をぶち破る腹だ。ここを破られてはすぐ側にいる先手玉はひとたまりもない。この手が意外に受けづらい、さぁ困った・・・。

第5図以下の指し手
▲同銀直 △同 歩 ▲6四歩 △6七銀 ▲7九金 △7六銀成 ▲2五桂 △2二銀
▲6三歩成(途中図) △同 飛 ▲7二角 △6二飛 ▲5四角成 △同 歩 ▲4四角(第6図)

△6六角をほうっておけば当然△9九角成。▲7七桂は△同桂成で受けにならない。5七の銀が動くと玉が取られるので論外なので、▲同銀直(▲同銀右は△同歩が銀当り)しかないか。先手苦戦と思われたこの△6六角も東大先生に言わせれば悪手で▲同銀直△同歩に▲4九角と手堅く受けておけば先手良しだったらしい。▲4九角はなかなか打てない。。。

角銀交換から苦肉の▲6四歩と飛車先を止めにかかる。△同飛なら▲7五角で6六歩を取ってしまう狙いだがいかにも苦しい。後手は手抜いて△6七銀とカチ込んできた! ヤバイヤバイ、自玉の近場で戦いが続き怖すぎる。▲同金は△同歩成で終わりなので▲7九金と苦しい。が、これも悪手と東大先生に怒られた! ▲6八金として局面を収めにかかるのがよかったようだ。
金を引かれては後手も攻めが続かないので△7六銀成とようやく一呼吸置くヒマができた。しかし今度は6四歩を取られても▲7五角と打てないし、△6七歩成が猛烈に厳しい。反撃したい所だが角2枚では有効な早い手がなさそう・・・。明らかに先手劣勢である。試しにこの局面を東大将棋先生に検討してもらうと、後手有利(-262)、あれ、思ったほど大差でもなかったな。でも先手苦しいには違いがない。ここは何か勝負手をひねり出さなくてはならない! 有利なときは簡単にわかりやすく、不利な時は局面を複雑に! 某有名なプロ棋士先生がおっしゃった言葉だ。何か、何か手はないか!? この時点で先手後手ともに持ち時間を半分ほど消費していた。先手kureはここから決死の手作りを模索する。残り時間ほぼ全てを使い切り、なんとかひねり出した勝負手・・・。
それは、▲2五桂△2二銀を効かせてから▲6三歩成! 取られる歩ならあえて取らせてしまえ!
後手は当然このと金は手抜けない。△同金はひどい利かされだし、△同銀も攻めに使えそうな銀を引かされて飛車先も止まるので△同飛は自然だろう。そこへ▲7二角が継続の手。単純な飛車取りに見えるが、飛車さえ取ってしまえば、角を渡しても先手玉は右側が広く一段飛車の守備もありしばらく持ちそう。後手は△6二飛と角取りに自然な手。▲8一角成や▲8三角成とそっぽに馬をつくられてもたいしたことないという読みだろう。だが、ここで後手の読みを破る▲5四角成の強手! △同歩に▲4四角が▲6三歩成からkureの読み通りの手順だ!

第6図以下の指し手
△6四飛 ▲5三銀 △6七歩成 ▲6四銀成 △5七と ▲同 金 △4七歩 ▲同 玉
△4六歩 ▲同 金 △7五角 ▲6五成銀 △5三角 ▲同角成 △同 金 ▲7一飛(第7図)

kureはこの手でなんとかやれそうと思えてきた。放っておけば飛車取りだし、▲5三銀や▲3三銀の狙いもある。後手玉頭に馬でも作れば相当な圧力だろう。kure渾身の勝負手のつもりだったが、東大先生の判定はこの手順を指せばさすほど後手優勢に傾いていき、第6図では後手勝勢(-1300)、オイ!
というのもここ△6三飛とすれば3三の地点にまで飛車がいきとどいて先手はもう手がない所だった。が、kureはそれは読んでなかった・・・。▲6三歩成以降、比較的ノータイムで指していったので後手もやや焦ったのかもしれない。△6四飛が絵に描いた悪手。続く▲5三銀打に自ら飛び込むココセ手だった。これで一変に先手明るくなった。東大先生の評価も一変、後手やや良いもののほぼ互角に。続く△6七歩成も強気な攻め合いの手だが悪手。飛車を取ってしまえば、先手玉は右に広く逃げて安泰だ。
△7五角と後手も決死の食らいつきを狙うが、これも悪手で▲6五成銀で先手優勢に、逆転だ! 以下、角交換から▲7一飛が入り、ようやく先手のターン開始だ。

第7図以下の指し手
△6七成銀 ▲9一飛成 △5八角 ▲3七玉 △5七成銀 ▲7五角 △4八銀
▲2七玉 △6四歩 ▲同成銀 △同 金 ▲同 角 (第8図)

後手も△6七成銀とにじりよってくるが、先手玉は右が広い(しつこい)。香車を取って攻め駒を補充し、△5八角にも軽く身をかわす。この広さが右玉の真骨頂だ。4六金も地味に受けに効いてくる。▲7五角が攻防っぽい決め手。これで先手勝ちを確信した。後手も△4八銀と追う手をかけてくるがこれまた軽くかわし後続の攻めがない。△6四歩と苦し紛れの受けももう手遅れな場面である。

第8図以下の指し手
△4二銀 ▲4四香 △3三銀左 ▲同桂成 △同 桂 ▲4二香成
まで107手で先手の勝ち (結果図)

第8図となっては先手の飛車角が綺麗に後手玉をにらんでいる。2四桂の上部からの押さえも厳しい。後手△4二銀の苦しい受けにも▲4四香がとどめの一手。なんとか逆転勝ちをおさめ、初戦を飾ることができた。苦心の勝負手がうまくはまった展開。kureの将棋はこういうのが多い。24では勝率6割あるが、序盤から優勢になって勝ちきったという将棋は半分もない。序盤下手なkureは中盤までに作戦負けで苦戦している場合が多く、苦肉の勝負手がはまって逆転勝ちというパターンが多いのだ。いつまでもそうではなかなか初段に手が届かないのも納得な所か・・・。


開始日時:2010/01/01 21:39:40
棋戦:名人戦6級リーグb 予選01
戦型:雁木右玉・右四間飛車
先手:kure90
後手:koji3983

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △8四歩
▲6八銀 △6二銀 ▲6六歩 △5二金右 ▲7八金 △4二玉
▲5六歩 △6四歩 ▲5八金 △6三銀 ▲6七銀 △5四銀
▲5七銀 △3三角 ▲4六歩 △9四歩 ▲9六歩 △3二銀
▲1六歩 △3一玉 ▲3六歩 △4五歩 ▲4七金 △6二飛
▲4五歩 △同 銀 ▲4六歩 △5四銀 ▲3七桂 △6五歩
▲4八玉 △6六歩 ▲同銀右 △6五歩 ▲5七銀 △8八角成
▲同 金 △3三角 ▲7七角 △9三桂 ▲3三角成 △同 銀
▲2九飛 △4四角 ▲7七角 △8五桂 ▲4四角 △同 銀
▲7八金 △3三銀 ▲4五歩 △6六角 ▲同銀直 △同 歩
▲6四歩 △6七銀 ▲7九金 △7六銀成 ▲2五桂 △2二銀
▲6三歩成 △同 飛 ▲7二角 △6二飛 ▲5四角成 △同 歩
▲4四角 △6四飛 ▲5三銀 △6七歩成 ▲6四銀成 △5七と
▲同 金 △4七歩 ▲同 玉 △4六歩 ▲同 金 △7五角
▲6五成銀 △5三角 ▲同角成 △同 金 ▲7一飛 △6七成銀
▲9一飛成 △5八角 ▲3七玉 △5七成銀 ▲7五角 △4八銀
▲2七玉 △6四歩 ▲同成銀 △同 金 ▲同 角 △4二銀
▲4四香 △3三銀左 ▲同桂成 △同 桂 ▲4二香成
まで107手で先手の勝ち


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月07日 08:28