予選その12 vs 相矢倉

kureの24名人戦奮闘記 予選その12


予選その12

名人戦予選も終盤の12戦目。本日の相手はnobuarase氏(現R820、最高R940)、居飛車と向かい飛車を使い分けるタイプの模様。真逆の戦法、はたしてどういう戦いになるか。本局もまた先手。これで9/12の先手率。ある意味すごい。


【名人戦6級リーグb 予選12局目(2010/01/24)】
 先手▲ kure90 後手△nobuarase
初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右
△3三銀 ▲6八銀 △8四歩 ▲7八金 △8五歩 ▲7七銀 (第1図)

△4二銀▲5八金右ときて、まだ後手は居飛車、振り飛車どちらで来るのかは分からない。ただ先手が▲2五歩と付いていないことからも向かい飛車に来る可能性は低いか。しかし、後手の△3三銀で振り飛車はまずなくなった。相居飛車戦だ。
また、これにより角筋を使った右四間飛車などの急戦もなくなったので、相矢倉戦になるかもしれない。久々にゆっくりした相居飛車の戦いができそうだ。kureは相居飛車戦よりも対抗型の方が好きなのだが、ゆっくりした相矢倉なら歓迎である。何故ならこのkureは森内俊之著の「矢倉の急所」を『持っている』からだ!(内容を読んで理解しているかは別)

第1図以下の指し手
△9四歩 ▲6六歩 △5二金右 ▲5六歩
△5四歩 ▲7九角 △4二玉(第2図)

後手の早めの△8五歩に▲7七銀と受けるのは仕方ない。ゆっくりした将棋かと思ったが後手は棒銀を狙ってくるつもりだろうか。そして後手は様子見の△9四歩。相居飛車戦、特に矢倉戦になりそうな場合は端歩を突き返すかどうかは難しい判断である。ちょっと前のkureなら何も考えずに突き返していただろう。しかしこの数ヶ月、森内俊之著の「矢倉の急所1」を読んだ(つもり)だ。矢倉を深く学ぶほどに端歩の意味の重要さがよくわかってくるものだ。実際、kureがその重要さをどこまで理解しているかは微妙だが、とりあえず相手が棒銀の可能性がある場合は突き返さない方がよいということくらいはわかったつもりである。後手の右銀はまだ動いていないので、端歩を突き返すと棒銀を誘発する恐れがあるのだ。なのでここでは▲9六歩はまだ不急の一手。他の陣形整備の手のほうが優先事項だ。

着々と矢倉を目指すが、後手の△4二玉は意表の手である。これは通常の矢倉の組み方ではない。後手の狙いはどうやら早囲いのようである。これで名人戦3度目の矢倉模様だがいずれも相手は早囲い。うーん。やはりじっくり後手矢倉を受けるというのは誰しも嫌なものなのだろうか。確かにkureも後手矢倉を定跡どおり指していくのはあまり好きではないので急戦模様が多い。相矢倉戦では基本的に先手が攻め、後手が受けというハッキリした形になることが多いのだ。


第2図以下の指し手
▲3六歩 △3二玉 ▲6九玉 △4三金 ▲6七金右
△3一角 ▲6八角 △6四角(第3図)

早囲いに対しては雁木や右四間飛車が有力である。しかし、△8五歩▲7七銀を決めさせられたのでその狙いは無理だ。後手の早い△8五歩の真の狙いはこれだったようである。通常、このまますんなりと早囲いを許しては、後手が一手早く矢倉に囲うことができる。すなわち、先後が入れ替わってしまうのだ。普通なら後手のむしのいい狙いは咎めるべきで、右四間飛車を封じられたとなると先手の対策は▲3五歩急戦策がある。しかしこれは飛車の小ビンが開くため、後に△6四角と出られて△3六歩とのコンビネーションが手ごわい。
なのでkureはあまりその仕掛けはやらないため定跡も詳しくない。最も定跡を知っていてもせいぜい互角程度なのでどうも不満である。後手の狙いは阻止できるが、先手も形が悪くなるのだ。一応、▲3六歩とついてその筋も牽制してみるが、kureはそのまま通常の矢倉の戦いでいくことにした。

第3図以下の指し手
▲3七銀 △2二玉 ▲7九玉 △7二銀 ▲1六歩
△7四歩 ▲4六銀 △4五歩 ▲6五歩 △7三角
▲3七銀 △8三銀 ▲4六歩 △同 歩 ▲同 銀(第4図)

この△6四角はどうだろうか。kureとしてはやや疑問手なのではないかと思った。というのも、通常の相矢倉戦では先手が攻勢、後手が守勢というのが主であるというのは述べた。すなわち、早囲いをして一手得=先後入れ替わるのだから、後手としては攻めの姿勢を見せるのが自然な流れではないだろうか。kureなら絶対そうする。△6四角という一手は通常の矢倉後手における守勢の手なのである。もっとも先手の▲3五歩早仕掛けをけん制する意味でもあったのかもしれないが、kureにはそのつもりがないので、後手が守勢で迎え撃ってくれるならありがたいところである。

先手は▲3七銀として、▲4六銀・3七型戦法を狙う。これは先手矢倉の攻めの理想型だ。そういえば後手は△8五歩をついてしまっているのでこの型からの攻めがやりづらそう。だから△6四角か。果たして、一手得を許して先後入れ替わる形の相手に矢倉▲4六銀・3七桂戦法が通じるのか? 否! 通じる!! 何故ならこのkure、「矢倉の急所1・2」を『持っている』のだからなっ! ぶっちゃけ持っているだけではなくて、少なくとも1は結構読んだつもりである。なので同レベルクラス相手なら矢倉で負ける気はしないという過剰な自信もあった。実戦ではあまり相矢倉になることが意外と少ないが、勝率は悪くないと思う。そもそも実戦では後手矢倉が多かった気もするが。

ともかく、自分と同レベル相手なら矢倉で負けない! なんだ、この自信は!? とりあえず森内先生、サンキュー! 何故これほどまでに自信があるかというと、「矢倉の急所」はまぎれもない名棋書である。この本をしっかり読んで理解できたものならとっくに上級~初段以上になっているハズである。kureレベルの中級あたりでウロウロしているはずがないのだ!!! 絶対矢倉、だから負けない!

さて、いよいよ後手の右銀も動いてきた。しかしこの△7二銀もやや疑問か。棒銀を含みにした手のようだが、△6四角との一貫性がやや薄い気がする。守勢でくるなら△6二銀~△5三銀とすべき処だろう。後手は攻めか受けかハッキリしない。将棋においてこのような両方に含みを持たせた手は時に好手であるが、緩手となることも多い。こちらとしては、何とかこれを緩手にさせてリードをとりたい処だ。先手としてはハッキリ攻めの姿勢なので、迷いはない。▲1六歩では▲6五歩として先に角を追い返す方がよかったかもしれない。△7三歩型のままなので▲6五歩に△7三角とかわせないのだ。普通に角を中央に引っ込めては△6四角の一手が無駄になる。せっかく早囲いをしていてもこれでは何がやりたいのかわからない。こういう処がマダマダだね。ふぅ。。。

▲4六銀にはすぐに△4五歩。後手もそう簡単には▲4六銀・3七桂型には組ませてくれない。△8三銀といよいよ棒銀を見せてきた。先手もゆくりはできない。再度▲4六歩△同歩としてなんとか4筋の制空権をとりたい処。次は▲同銀ではなく▲同角と角をぶつける手もあったか。しかし角交換すると先手は角の打場所がないが、後手からは△3九角があるので、角交換はまずそうだ。

第4図以下の指し手
△4五歩 ▲3七銀 △4四銀 ▲8八玉 △3二金
▲1五歩 △9五歩 ▲4八飛 △3三桂(第5図)

それでも後手は△4五歩。どうあっても▲4六銀型には組ませない腹づもりだ。さらには△4四銀とその位まで確保してくる。が、これはやや差しすぎか。玉頭が途端に薄くなっている。これ以上4筋にこだわるのは無理そうなので、一旦玉を矢倉におさめて手を渡す。後手も矢倉におさまるので端歩をつきあって▲4八飛。とはいえ、後手の角の睨みが厳しいのでうかつに銀が動けない。どうあっても4筋から動くしか手がなかったのだ。そこへ後手は△3三桂と上部への厚みを増して来る。4筋は鉄壁にするつもりだ。
しかし、これは悪手だろう。

第5図以下の指し手
▲1七香 △8四角 ▲3八飛 △7三桂 ▲6六銀
△5二飛 ▲1八飛 △5五歩 ▲1四歩(第6図)

第5図をみてもらいたい。後手矢倉にはハッキリと大きな弱点が顕になってしまっている。矢倉はただでさえ端が薄く弱点とされる。後手矢倉は銀が4四へ、桂は3三へ跳ねており、1筋を守る駒は香車と玉しかないのだ。しかもこれ以上1筋に守り駒をひきつけることもできない。△3三桂は明らかに指し過ぎ。このスキを逃すわけにはいかない! ▲1七香! スズメ刺しだ! 次に▲1八飛から端の猛攻がわかっていても後手は受けがない。そこで△8四角と飛車を牽制してくる。1筋に振れば角をなるぞと脅しだ。これは一旦▲3八飛とかわしておくしかない。すぐに▲6六銀と受けておいてもよかったか。
後手は△7三桂と4手角の理想型に組み上げる。しかしこれも疑問手。結局、後手の8三銀が何の働きももっていないのだ。受けが攻めかハッキリしない指し回しのツケがここに来てでてきた。先手は▲6六銀と角道を止めて攻めの準備にかかる。この▲6六銀は角道を止めて飛車の転回を狙うと同時に、△6五桂を防ぐ意味もある。放っておいて△6五桂▲6六銀に△6六角! と強襲される筋があるからだ。以下、▲同金△5七銀という筋がちょっとイヤミだった。後手は△5二飛として飛車角のニラミを5筋にきかせてくる。しかしこの攻めは遅い。ハッキリ手抜きが効く処だ。先手も▲1八飛とようやく端攻め開始。これらの攻め合いはハッキリ先手が早いだろう。5筋と1筋、お互いの玉からの距離が違いすぎる。攻めている場所が天地の大差なのだ。

第6図以下の指し手
△同 歩 ▲同 香 △同 香 ▲同 飛 △3一玉
▲1一飛成 △2一香 ▲1三角成(第7図)

△1四歩からはずっと先手のターン。玉のすぐそばの戦いなので後手は手抜けない処だ。▲1三角成まで一直線。
こうなると攻めの構想を貫いた先手と、様々工夫をこらしたが方針が一貫していなかった後手の差が如実に戦局にあらわれてしまった。もうこれで勝負ありと言ってもよい場面だろう。

第7図以下の指し手
△2二金 ▲同 馬 △同 飛 ▲1二金
△同 飛 ▲同 龍 △2二金(結果図)
まで76手で先手の勝ち

△2二金にちょっとあせった。▲同馬に△同飛と飛車が受けにきいていたからだ。しかし、▲1二金と露骨に攻めて問題なかった。△同飛▲同竜△2二金と苦しい受けだが、金を打った直後に先手番で後手投了。もはやねばりようがないと察したようだ。
時間も23時50分をまわっていたこともあるだろう。名人戦は24時までに対局を開始したものが反映される。急いで次の対局へ移る方が得策だ。
途中、攻めあぐねる部分があったが、後手の緩手をとがめながら終始優勢に立つことができた一局だと思う。矢倉はむずかしいのう。


開始日時:2010/01/24
棋戦:名人戦6級リーグb 予選12
戦型:相矢倉
先手:kure90
後手:nobuarase

▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二銀
▲5八金右 △3三銀 ▲6八銀 △8四歩 ▲7八金 △8五歩
▲7七銀 △9四歩 ▲6六歩 △5二金右 ▲5六歩 △5四歩
▲7九角 △4二玉 ▲3六歩 △3二玉 ▲6九玉 △4三金
▲6七金右 △3一角 ▲6八角 △6四角 ▲3七銀 △2二玉
▲7九玉 △7二銀 ▲1六歩 △7四歩 ▲4六銀 △4五歩
▲6五歩 △7三角 ▲3七銀 △8三銀 ▲4六歩 △同 歩
▲同 銀 △4五歩 ▲3七銀 △4四銀 ▲8八玉 △3二金
▲1五歩 △9五歩 ▲4八飛 △3三桂 ▲1七香 △8四角
▲3八飛 △7三桂 ▲6六銀 △5二飛 ▲1八飛 △5五歩
▲1四歩 △同 歩 ▲同 香 △同 香 ▲同 飛 △3一玉
▲1一飛成 △2一香 ▲1三角成 △2二金 ▲同 馬 △同 飛
▲1二金 △同 飛 ▲同 龍 △2二金
まで76手で先手の勝ち






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最終更新:2010年01月29日 08:00